蕎麦かうどんか
うどんが上だ、いや蕎麦が上だ、そんな主張でタバルとシップクが衝突するのはいつもの事。タバルが神社に来た際にこの手
の勝負が勃発しない事の方が珍しい。その度に関係者は上手い飯にありつけるので、騒々しい事を除いて歓迎されている節すら
ある。
が、今回は少し流れが違っていた。
「コン回は必勝の確信があったのに…」
「勝てる算段がありやしたが…」
流し場に響く水音に、不満げな二頭の声が混じる。
勝負が引き分けに終わったのもいつも通り。今回も決着はつかず、納得が行かない顔のタバルとシップクは、並んで食器を綺
麗にしている。水洗いする大狸と、水気を拭って片付ける玄狐が、妙に息が合った流れ作業を見せているのがいとおかし。
「「しっぷく」、お八つは?」
流し台を完全に覆い隠してしまうふたりの大男の後ろから、子供の声がかかる。
いつの間にか通路に立って、開けっ放しの戸から中を覗いていた小狸に、肩越しに視線を投げたシップクが「申し訳ごぜぇや
せん!」と慌てて詫びる。
「もうじき片付きやすんで、いましばしご辛抱くだせぇ」
小狸は表情こそ変えなかったが、つまらなそうに尾を揺らした。シップクがタバルとの勝負に応じてしまったせいで、午後の
オヤツが遅れている。
「もう優劣無し、上下無し、という事で、引き分けをもって決着にしたら良いんじゃないかな」
スナヅメにしてみればどちらも優良品で、同じ麺類でもうどんと蕎麦は別の物という認識。無理に甲乙つける意味もないと考
えている。だが…。
「そいつぁできやせん!」
「ちゃんと白黒つけなきゃいけないんですよ!」
大狸と玄狐にとってはそうではないらしい。
シップクもタバルも、何処のうどんが美味かろうが、何処の蕎麦が最良であろうが、そこに何も文句はない。美味い蕎麦に美
味いうどん、世に溢れて結構な事だと考える。
だが、お互いの作る物については別…。「シップクの蕎麦」と「タバルのうどん」、互いのどちらが上かという腕とプライド
をかけた意地の張り合いである。持ち込むのが「蕎麦」「うどん」という大カテゴリーになっているせいで、やれ蕎麦はどうの、
うどんはどうのと遣り合っているだけ。
「うどんはおいし~ぃだけじゃなく、チュルルンッと苦労しないで食べられるし」
「蕎麦だってツルツル啜れやすぜ。歳取って歯が抜けちまっても楽しめやす」
「それにうどんは具もツユも種類豊富だし~」
「楽しみ方の豊富さは蕎麦も負けやせん」
やり取りの間に、またふたりの声が熱を帯びてゆく。
歴史がどうの、地域がどうの、もはや味とは関係ない豆知識合戦にまで発展し、皿洗いの手が止まってしまう。
「うどんは無限に食べられるから!」
「蕎麦だっていくらでも食えやす!」
「だったら、多く食べられる方が美味しいって事で良いんじゃないの?」
据わった目の小狸は、すぐにはオヤツが出て来そうに無いと悟り、投げやりに言って立ち去る。
禰宜のシキがいつも茶菓子を置いている部屋で勝手にオヤツを食べようと、小狸が向かったその後で…。
「多く食べられた方が…」
「美味ぇって話にごぜぇやすか…」
タバルとシップクは何か思いついた様子で、言い合いを中断していた。
その夜、シップク宅…タバルも滞在している古民家は、遅くまで灯りが消えなかった。
そして翌日の朝…。
「「しっぷく」は今日、急な用事で休みを取ってるよ」
早い時間帯に神社を訪ねた、糸のように細い目の柴犬少年は、鳥居を潜った所で出迎えた小狸の言葉を聞き、いつも困惑して
いるような顔をさらなる困惑で染めた。
「えっと…。お休み…ですか?シップクさんが…」
「珍しい事だよ。明日休む、なんて急に言い出す事は滅多にない」
キシバタが意外なのも無理はない、とスナヅメは頷きかける。
「「しっぷく」はいつも、一ヶ月くらい前から皆の予定を見て、神社の予定を確認して、問題無いと確認してから休みを入れる
くらい几帳面だからね。もっと気楽に休んで良いのに」
(几帳面って言うか、真面目で責任感があるって言うか…)
糸のように細い目を、いつも大狸が綺麗にしている境内に向けて柴犬は思う。居るのが当たり前の大狸の姿が無いだけで、景
色が変わったように感じられた。
「あの、タバルさんも、もう帰っちゃったんですか?」
「「ぬばたま」は今日のお昼には帰る予定だよ。まだ「しっぷく」の家に居るかも。ところで…」
小狸は少年が手にしている風呂敷包みに目を向ける。
「届け物だった?」
「あ、はい、あの…。シップクさんからお蕎麦を頂いて…。家族みんなでご馳走になって…。ザルを返しに来たのと…」
風呂敷の中には借りた器類と、お礼のカステラが入っていた。モジモジと答えた少年の様子を見ながら、「へぇ」とスナヅメ
が声を漏らす。
シップクが「来客」に対して蕎麦を振舞う事は多いが、「持たせてやる」のは珍しい。所詮は素人の手作りと言って、他所で
食うなら店の方が良いからと、土産にやるような真似はあまりしないのである。
(この子が欲しがってアサノスケが折れたのか、それともアサノスケ自身がトミヤ君の家族にも食べさせたいと思ったのか…)
何にせよ珍しい事もあるものだと、小狸が感じ入っていると…。
「参拝が済んだら、お家に寄って返してきます。…あ、お出かけとかは…」
拝殿を見遣って口を開いたキシバタが、留守だったらどうしようかと心配した。自身の厄の事は把握できていなくとも、間が
悪い事が多いという経験則はある。丁度居ないという可能性をまず案じた柴犬に、「たぶん家に居るよ」とスナヅメが応じた。
色々な物に「あたる」キシバタが、今や一番「あたり」易いのが何になのか、小狸は理解していた。
「わざわざ有り難うごぜぇやす。たまたま休みを頂いておりやして…、御足労をおかけしやした。それに菓子まで…!」
訪ねて来た少年を玄関で迎え、ザルなどの器類を返された大狸は耳を倒して恐縮した。
「い、いえ…!あの、美味しかったです。両親も喜んでいました…!ありがとうございました…」
「御礼を言うのはアッシの方でごぜぇやす!御母堂さんのクリームシチュー、いくらでも食える美味さでごぜぇやした!お返し
として蕎麦じゃあ心苦しいぐらいでさぁ!」
太い尻尾をワサワサ揺らして笑うシップク。一方キシバタは糸のように細い目を落ち着きなく彷徨わせている。
(お休みだから、今日は部屋着なんだ…)
玄関先に出たシップクはランニングシャツにトランクス姿。薄布が部分的に覆うだけの巨体は、いつもの浴衣よりも肉感が増
して見える。薄布越しの胸のラインや太鼓腹の存在感にドギマギするキシバタは、
「えー!?クリームシチューご馳走になったの!?」
奥からドスドスと足音高くやって来た玄弧の声に耳を震わせた。
「トミちゃんおはよっ!」
「お、おはようございます、タバルさん…!」
少年はまたも目のやり場に困る。タバルはちょっとお洒落な赤地に白いラインのボクサーブリーフ一枚に、エプロンを着用し
ただけの格好。部屋着どころではない、実質下着だけの際どい装いである。
「…で、何?シチュー食べに行ったの?トミちゃんちに?おしかけて?」
「押しかけたりはしてやせんぜ?鍋で頂いたんでさぁ」
「ぐぬぬ!それでも許されざる行ない!」
「何ででさぁ?」
「でもまぁとにかく丁度良かった!コンなタイミングで会ったのも運命だね、トミちゃん。…運命…、キャッ!」
自分が口にした単語に反応して、両頬を押さえて身を捩じるタバル。
「え?えぇと…、丁度良い…です?」
何に丁度良いのか判らない少年の前で、玄狐は大狸に言う。
「トミちゃんに、今日の勝負の立会人になって貰おうじゃない!」
「…え?勝負?」
いつも困惑しているような顔をあからさまな困惑の色に染めた少年に、タバルは「実はねぇ」と、事の仔細を説明し始めた。
美味な物はいくらでも食べられる。
ならば逆説的に、より多く食べられる物の方が美味であるという事。
「…という訳で、ボクとコイツ、それぞれうどんと蕎麦をどっちが多く食べられるかで勝負するのさ!」
丸い座卓を三方向から囲む格好で座り、タバルから説明を受けたキシバタは、「は、はぁ…」と曖昧に頷いた。
何でそこで逆説的な発想に?というのが正直な感想である。
「昨夜遅くまで…っていうか今朝方まで作って、もう勝負を始めるだけになっていたのさ!」
得意げに鼻をツンと上げるタバル。道理で良い匂いがする訳だと、キシバタは部屋に漂う香りの原因を理解する。居間の空気
は、台所から流れ込んだそばつゆとうどんの汁の匂いで、すっかり香ばしくなっていた。
「そこで、トミちゃんにはこの勝負を見届けて欲しいのさ!不正が無いようにね!」
「量も決めて計って拵えてやすから、不正のしようもありやせんがね。まぁ、立会人をつける予定はありやせんでした。トミヤ
さんもお忙しいなら、お付き合いさせやせんから…」
せっかくの休日に、個人的な事に長々と付き合わせてしまうのは申し訳ないと耳を倒したシップクが、断っても良いのだとや
んわり伝えるが…。
「はんっ。何?トミちゃんの前で無様に敗北するのが嫌って訳?」
ここぞとばかりに挑発するタバル。
「…蕎麦は負けやせんぜ?」
簡単に乗ってしまうシップク。
「え、えぇと…」
火花を散らす二人の顔を、はわはわと交互に見る柴犬。
かくして、当人達は完全に本気で、傍から見れば何だかなぁ…な、大食い勝負の火蓋が切って落とされた。
丸い座卓を挟み、シップクとタバルが向き合う。
卓上には湯気立つ丼。その脇には汁が入った寸胴鍋。そして両者の隣には、畳の上に広げた新聞紙の上に、組み木漆塗りの四
角い器…それぞれ一晩かけて用意したうどんと蕎麦が入ったザルの容器が、うず高く積み上げられている。
(えっと…、あれ…?目の錯覚かな…。あのお蕎麦とうどんって、何食分…?)
開いているのかどうかも傍目には判り難いほど細い目を、ゴシゴシ擦る柴犬。ザル入りの箱が、それぞれの脇に少なくとも五
段以上、四列は重ねられている。
ルールについて説明されたキシバタは、勝負の立会人として、座卓から少し離れた位置で三段重ねの座布団の上に座らせられ
た。公平に両者が良く見える距離である。
うどんも蕎麦も、重量を計って小分けにされている。これを丼によそい、器の模様を既定の線として汁を入れて一杯とする。
麺を残さず汁を飲み干して一杯とカウントし、より多くお代わりした方が勝ちというルールであった。
夏の最中なので、タバルとシップクが勝負に選んだのは冷やしうどんと蕎麦。量を拵える必要があったので夜更かししており、
コンディションは万全とは言えないが、お互い闘志満々。大量生産しても手は抜いていないので、どちらもコシ、歯応え、香り、
全て二重丸の麺と汁。朝飯を食べて来たキシバタが空腹を感じるほど良い香りである。
「じゃあ…」
「いざ…」
卓袱台を挟んだ大男二匹が、おもむろに、そして同時に箸を取った。
相撲で立ち会う時と同様、真剣勝負の面持ちで睨み合い…。
『いただきます!』
宣言するが早いか、両者は持ち上げた丼に突っ込むような勢いで顔を寄せ、勢いよく啜り始めた。
ヂュルヂュルッ!ゾスススッ!と豪快に音を立て、掻き込むようにしてうどんを啜り上げるタバル。噛むのも最低限で、もは
や飲み込んでゆくような速度でうどんが口の中に消えてゆく。
一方シップクは、ズゾッ、ゾゾッ、ズッズッ、とリズミカルに蕎麦を啜り込む。こちらも口内に消えるなり数度噛んで飲み下
しており、あれよあれよという間に丼の中身が消えてゆく。
『一杯目!』
両者同時に丼を卓に下ろし、トミヤが預けられていたノートに正の字の一角目を記してカウント。すぐさま二杯目の麺と汁が
丼に入れられ、タバルとシップクが同時に箸をつける。
部屋に漂うのはうどんと蕎麦、そして汁の匂い。無言なので、それぞれが麺を啜り込む音だけが響く。
「二杯目!」
「アッシも!」
またも同時に器をあけて、互角のペースのまま両者三杯目へ突入。
(はわ…!すごい勢い…!)
カウントを取りながらキシバタがドキドキする。大男二人が意地を張り合ってかっ食らう様は、啜る音の騒々しさもあって迫
力満点。箸は休まず口も止まらず、うどんと蕎麦が口の中へ次から次へと消えてゆく。
「三杯目!」
「こっちだって!」
目の前で消えてゆくうどんと蕎麦を眺めながらカウントするキシバタは、軽く空腹を覚えた。何せ調理した台所と居間には良
い香りが充満しているので、嗅覚からも食欲中枢が刺激されてしまう。
四杯五杯と五分のペースで丼を空けてゆく二頭。柴犬が正の字を書き終わると、またすぐに六画目が記される。
七杯八杯と同時に片付き、しかしここでシップクが卓上に手を伸ばし、コップを掴んで水を一口。これを見てペースが崩れた
かとほくそ笑むタバル。
タバルが数秒早く九杯目を平らげ、やや遅れてシップクが空ける。しかし十杯目はおいついてほぼ同時。今度は額に浮いた汗
をタバルが腕でグイッと拭う。
正の字を二つずつ完成させたキシバタは、ここでふたりの変化に気が付いた。
(ふたりとも、すごい汗…)
タバルの黒い体は噴き出た汗で湿り、黒い艶がいつにも増して反射して見える。シップクの方はというと、豊満な胸の下の段
差や肩甲骨の間などを中心に、ランニングシャツに汗染みが広がっている。冷房をきかせてはいても、夏の室温の大食い勝負で
は発汗が促進されるのも無理が無い。
そして、さらに器が空く事三度…。
(お腹に溜まってきた…!)
お代わりを支度する合間にクプゥッと小さく喉から空気を漏らしたタバルの頬を、汗がツツッと伝う。パンツのゴムがキツく
感じられ、腹の曲面に沿って少し下にずらし、腹肉の段差の下へ落ち着ける。
(腹が膨れて来やした…!)
一方シップクも、こみあげてきたおくびを音を立てないよう噛み砕く。胃の辺りが張ってせり出し、それでランニングシャツ
が前へ押され、心なし普段に増して裾が浮き上がっている。
どんぶり一杯が一人前の大盛り相当の量。加えて汁も飲み干すので、既にふたりの胃はタプンタプンである。
十四杯目からは目に見えて双方のペースが落ちた。キシバタがそれぞれ三組目の正の字を記し終えるその前で、大狸と玄狐は
鼻息を荒くさせながらおかわりを支度する。
二人がかいている汗はもう夏の暑さで出る汗ではない。満腹を通り越した苦しさから出る脂汗が、双方の被毛をジットリと湿
らせている。
(ま、まだ食べられるの!?何の…!コンなモンで負けてられない…!)
(思ったより頑張りやすぜゲンクロウ…!だがアッシもまだまだ…!)
ガツガツ、ズルズル、だいぶペースダウンしたふたりが、重くなった腹を抱えて意地を張り合う。もうどちらも自信作の味わ
いを楽しむ余裕もなく、胃袋に詰め込むだけの勝負と化している。
(ふ、ふたりとも辛そう…)
はわはわと心配そうに、双方を交互に見遣るキシバタ。
タバルは時折喉を「ン"ン"ッ…!」と鳴らし、張りが出た腹に手を遣って、膨満感に耐えながらうどんを飲み込んでいる。
シップクは鼻から「クフーッ…!ンクフーッ…!」と苦し気な息を漏らし、呼吸を整えながら蕎麦を飲み下している。
(お、おなが…、ぐるじぃ…!コンなに食べたの…、初めて…!)
腹部の膨張が引っ張られる皮膚の感覚で判り、タバルは目を白黒させる。
(腹が張って、パンパンでさぁ…!ゴムがきつくなってきやした…!)
トランクスのゴムを太鼓腹の下まで下げるシップクだが、もはやその程度では楽にならない。
(お腹が張って…息が苦しい…!呼吸を整えて…!漏れないように…!)
(蕎麦が…!内側から腹を押し出してきやす…!)
どちらもそろそろ限界。深く息を吸う事もできないほど胃が膨れ、浅い呼吸を繰り返し、ダラダラと汗を流しながら、それで
も負けじと箸を進め…。
「…!」
「…っ!」
ゴトンと同時に丼を置く二人。もはや声に出して数える余裕もないタバルとシップクに代わり、「さ、三十杯目…です…」と
キシバタがカウントを述べる。
「んぷっ…!んん…!ふひ…!ふひーっ…!」
片手で腹を押さえたまま、のろのろとお代わりの支度をするタバル。元々出っ張っていた腹がデフォルメを強めたように張り
出しているのが、横から見る格好のキシバタには判る。
「うっぷ…!ぶふー…、ぶふー…!」
そして、息を整えながら蕎麦をよそっているシップクについては、いつもよく見ているだけにキシバタにとってはタバルより
変化が判り易い。太鼓腹がシャツの生地を押し上げて、最も出た部分から垂直に下がった位置に裾が浮いており、普段よりも体
の厚みが出ている。
(はわ…!どっちも苦しそう!お腹大丈夫かな?…でも…)
明らかに体型が変わってきている両者を見守りながら、キシバタはゴクリと唾を飲み込んだ。やがて…。
(うどんが…!お腹を内側から押して…!うぷ!げ、限界…!パンクしちゃう!お腹がパンクしちゃうぅっ!)
(の、喉の手前まで蕎麦が来てやす…!腹がはち切れそうでさぁ…!もう一口も食えやせん…!)
山積みの蕎麦とうどん、そして寸胴鍋の汁が、最後の一杯分をよそわれて片付く。どちらも目の前の一杯がラストだが、箸を
握る手が動かない。
ぐぅ~…。
『?』
横から聞こえた音で、シップクとタバルの目がキシバタに向く。
「は、はわっ…!ごめんなさい…!」
蕎麦とうどんの香りをかぎ続けていた上に、食いっぷりを見せつけられていた柴犬は、鳴った腹を慌てて押さえた。
「そ…、そういやぁ…。うぷっ!トミヤさんに、ただ見て貰ってるだけでごぜぇやした…!」
訪ねて来てくれたキシバタに、何も振舞わずに見届けさせていた事に気付いたシップクは、こみあげて来たゲップを堪えて口
元を押さえる。
「ちょ、ちょっと礼儀知らずだったね…!もうコンな時間なのに…。げぷ!?」
壁の時計を見遣る為に体を少し捻っただけで、喉から空気が漏れたタバルは、慌てて両手で口を抑えた。気を抜いたら逆流し
て来そうなほど腹がパンパンである。
「丁度最後の一杯分でさぁ。トミヤさんにも振舞わなけりゃあバチが当たりやす」
「そ、そうだね!トミちゃんにも食べて貰おうか!」
もう一口も入らないので丁度良いと、タバルはシップクの提案に乗る。
かくして、蕎麦とうどんのどちらが上かを決める大食い勝負は引き分け中断という結果になり、重たくなった腹をあまり揺ら
さないよう、しんどそうに卓上を片付けた大狸と玄狐は、改めてキシバタに振舞うために器を替えてよそい直す。
「はわ…。済みません…、邪魔になっちゃった…」
丼二つを前に申し訳なさそうな顔をするキシバタに、タバルとシップクは笑いかける。
「良いんでさぁ」
「考えてみたら、ぼく達が食べ比べした所で、どっちの味が上かは決まらないしね」
「ゲンクロウも気付きやしたか?実はアッシも蕎麦をこさえてる最中に、ちょいと疑問が…」
「冷静になると、単に大食い勝負なだけで味の裁定になってないんだよね…」
押し寄せる徒労感と満腹感。少し体を揺らしただけで腹の中でタポタポ音がして、喉からガスが漏れそうになるふたりは、座
り込んで後ろ手をつき、上体を反らして、少しでも腹が楽になる格好に落ち着く。
揃ってフゥフゥと苦しそうに息をしている二人だが…。
(食い過ぎたせいか、眠気が来てやすぜ…。腹ぁパンパンでごぜぇやすが、苦しくも心地良いモンで…)
ぼんやりと頭に霞がかかったシップクは、膨れた腹をさすりながらも、睡魔の誘いが心地良い。一方で…。
(はぁ~…。お腹がギュウギュウでミチミチ…。うどんが…、うどんがぼくを中からミチミチに押してるぅ…!こ、これってぼ
く、うどんに孕まされて…!?)
また新たな何かに目覚めそうな業深きタバル。
「い、いただきます…」
ペコンとお辞儀してから、蕎麦とうどんに取り掛かったキシバタは、
「トミちゃんうどん美味しい!?」
「蕎麦が美味でごぜぇやしょう」
同時に両側から問われ、「え、えっと…」迷うように糸目を左右に向けてから…。
「どっちも、美味しいです…」
「引き分けかぁ~」
「仕方ありやせん…」
少年の感想を聞き、狐と狸は今日も引き分けという事で諦める。が、ずっと匂いを嗅いでいた蕎麦とうどんにありつけたキシ
バタが、脇目も振らずにひたむきに味わう姿を見て、まんざらでもない心地を味わった。
作った一杯を美味そうに食べて貰える…。そこに自分達の本懐がある事には、目先の勝負に拘り過ぎているふたりはなかなか
気付けない。
「…そういやぁゲンクロウっぷ!」
「人の名前に汚いゲップくっつけないでくれる!?…えぷ…!」
狸と狐は一度口を抑え、落ち着いてから改めてシップクが口を開いた。
「電車はまだ大丈夫なんで?」
「え?…あー!そう言えばもうお昼だったしコンな時間!?」
玄狐は慌てて立ち上がろうとして、重くなった腹のせいで重心が変わっていたせいでヨロつき、四つん這いを経てノタノタと
立ち上がって隣室へ向かうと、込み上げて来るガスと戦いながら着替え始めた。
「帯…!帯締めるとお腹苦しっ…!これでよしっと!」
バタバタと荷物を纏めて着流し姿になり、腹が苦しいので帯を緩めに締めて着こなすと、
「ゴメンねトミちゃん!もう行かなきゃ!また来るからねー!」
「え?あ、は、はい!お気をつけて…」
タマカイ宛に預かった神社の土産や着替えなどを詰め込んだ風呂敷包みを手に、タバルはキシバタへにこやかに手を振って玄
関から出てゆく。歩き格好がどうにもおかしいが、大股に歩くと膨れた腹が弾んで中身が攪拌されてしまうので、慎重にならざ
るを得ない。
戸が閉められてふたりになると、シップクはシャツを押し上げて膨れた腹を撫でながら、「済みやせんねトミヤさん…」と耳
を寝せた。
「お返しに来て頂いた所を、変な事に巻き込んじまいやして…」
「はわ…、い、いえ…!お蕎麦ご馳走になれて、ラッキーでしたから…!」
いつも立てている耳を震わせ、柴犬は丼に向けていた視線をソロッとシップクに向けた。後ろ手をついて股を開き、膨れた腹
を苦し気にさすっている巨漢の肌着姿は、キシバタには刺激が強い。
「そいつも、ついでみてぇな振舞い方になっちまいやして…」
「いえ、でも、あの、ちゃんと美味しいですから…」
声のトーンが低くて囁くような調子になり、気にして落ち込んでしまったかなと、心配してフォローするキシバタ。
「お返しに来たのに…、また頂いちゃって…」
「………」
「お邪魔するのも、迷惑なタイミングに当たっちゃったかもって、ちょっと思って…」
「………」
食べる合間に言葉を紡いでいたキシバタは、やがて、ズルズルッという音を聞いて顔を上げた。
目を遣った先では、背中側に手をついて体を起こしていた大狸が、畳に大の字になっていた。膨れた腹が上下する一定間隔の
呼吸は、寝息のそれ。やや苦しそうにプフー、プフー、と浅く息をしながら、シップクは睡魔に負けて眠ってしまっていた。
(はわ…!シップクさん、ね、寝ちゃった…!)
ドキドキするキシバタ。起こしてしまわないようにと、立てる音に気を付けながら蕎麦を啜り、うどんを噛み締め、柴犬は絶
品の二杯を堪能する。
(…勝負かぁ…)
考えるのはうどんと蕎麦の味比べ、そして同級生などが打ち込む部活、競技など。
(先輩も、セッツ君も、相撲で誰かと競う…。シップクさんとタバルさんも、お料理で勝負する…。みんな何かで競ったり戦っ
たりするけど…)
自分には経験がないなと、柴犬は振り返った。競い合い研鑽する事も、勝負して切磋琢磨する事も、ずっと無かった。本を介
して底の無い無限の知識と文字、記録と画像に触れるだけで、誰かと何かを比較し合う経験は皆無だった。
(試合とかは、性格的にちょっと無理かもだけど…)
タバルとシップクがどう感じているかはともかくとして、キシバタにはふたりの料理勝負が、比べ合い磨き合う素晴らしい物
と見えている。
(…ごちそうさまでした)
静かに丼を卓に置き、手を合わせたキシバタは、うどんと蕎麦で満足した腹を軽く撫でた。どちらも一人前の大盛りという量
なので、汁までは飲み干せなかった。これをあれだけ食せるのは、やはり運動して体が鍛えられているからなのだろうなぁと、
妙な所に感心してしまう。
(食器を洗ったら、起こさないようにそっと帰ろう…)
ちらりと大狸を見遣ったキシバタは、
(…あれ?)
シップクの様子をまじまじと注視した。
「ぷふ…!うぷふ~…!」
大狸は寝苦しそうに、ランニングシャルを胸の所まで捲り上げて、山のように盛り上がった腹を両手で押さえている。
キシバタはシップクの苦し気な息遣いと、眉間に皺を寄せた汗だくの寝顔が気になった。
「シップクさん…?あの…、だ、大丈夫ですか…?」
「う~…、うう~ん…!」
血糖値の急上昇で、気絶に近い寝入り方をしたシップクは、控え目にかけられたキシバタの問いに反応しない。ただただ辛そ
うな顔を見て、柴犬は腰を上げてシップクの傍らに移動した。
(はわ…!ど、どうしよう…!苦しいのかな?どうしたら…)
脇から大狸の汗ばんだ顔を見下ろし、思案する柴犬は、太鼓腹に当てられている両手を見遣った。分厚い手は膨れた腹に、ま
るで押さえるように添えられているが…。
(お腹…。痛い時は、押さえたり撫でたりするけど…)
キシバタはおずおずと伸ばした手を、こんもりと盛り上がっているシップクの腹に当てた。驚くほど張り詰めて余裕がない腹
に、そっと触れた少年の手に、汗ばんで少し湿った被毛の感触と体温が伝わる。
柴犬は大狸が両手を当てている中間地点…丁度胃の辺りに軽く手を乗せて、ゆっくりとさすり始める。それは、痛いの痛いの
飛んでいけ、とあやすのにも似た優しい手つきで…。
(楽になりますように…。楽になりますように…)
祈る気持ちでいたわりを込めて、キシバタが腹をさすっていると、次第にシップクの顔から強張りが抜けてゆき、やがて唸っ
ていた喉の音がおさまった。
「ふ~…。ふ~…」
呼吸も幾分和らいで、程無く腹を押さえていた手は体の脇に滑り落ちる。
(良かった…。お腹、楽になってきたみたい…)
キシバタはホッとして…。
「はわっ!?」
思わず声を上げた。
(し、シップクさんのお腹を撫でて…!僕、し、失礼な事しちゃってるんじゃ…!)
他者の肌に触れるという行為に不慣れな柴犬は、パンパンに膨れた腹を丸出しにして眠っている大狸の、上下肌着のみという
格好を改めて確認、顔の温度を急激に上昇させる。そうして体が強張ったら、腹に乗せていた手にも少し力が入って…。
「んっ…!はふ…!」
さすっていた手が少し指を曲げ、腹肉に少しだけ食い込むと、シップクが軽く呻いた。
「はわ!ご、ごめんなさい!」
慌てて謝ったキシバタだったが、シップクは目を覚ましていない。それどころか…。
「ん…、もっと…ぉ…。ふす~…」
寝言を漏らしていた。心地良さそうな声で。
(…え?「もっと」?…あ。もしかして…、撫でるだけじゃなく…)
自分の手がどう動いたのか思い返し、キシバタは考えた。腹の中の物がこなれやすいように、揉んで欲しいのではないか?と。
半信半疑のまま、柴犬は大狸の腹の曲面に這わせた手を、表面を撫でるだけでなく、軽くゆする事を心掛けて動かした。張っ
た腹に圧がかからないように、皮下脂肪と毛皮が軽く動く程度の、赤子の頭を撫でるように気を使った力加減である。
「はふ…、ふぅ…」
シップクが息を漏らす。先程とは打って変わって呼吸は落ち着き、苦しそうなリズムでもなく、むしろリラックスしているよ
うに見える。
(せ、正解…?軽く揺する感じで良い…のかな?)
圧迫しないように気を付けながら、キシバタはもう片方の手もシップクの腹に乗せて、太鼓腹全体が軽く、ゆっくりと揺れる
ように揃えて動かす。
(ドキドキしてきちゃった…。それに、何だか…。はわ!?)
キシバタは気付いた。いつの間にか股間が苦しくなって、下着の中でモノが硬くなっている事に。
(僕、やっぱり…)
違和感から疑問を経て、自覚したばかりの感情に対する仮説は、確信に変わってゆく。
自分はシップクが好きなのだと。それも、友人や家族などに向ける者とは違う、性的な興奮すら覚える方向性の好意なのだと。
「あ…、んんっ…。ふぅ…」
腹を揺すられ、揉まれ、胃の中の物がこなれて、張っていた腹部が次第に楽になってきたシップクの表情が弛緩し、トロンと
心地良さそうに緩み切る。その顔を見ているだけでキシバタは幸福感を覚え、胸を高鳴らせる。
「はふ…。あん…」
撫でる手がポッコリしたデベソに軽く触れると、大狸の声が少し鼻にかかった。
手を動かす度に呼吸が変わり、気持ちよさそうに吐息を漏らす。それが嬉しくて、幸せで、キシバタは狸の大きな腹を丁寧に
撫で、揺すり、軽く揉む。
重みを掛けられないので腕は次第に疲れてきて、それでも休み休み、優しく撫でさすり続ける。
寝ている巨漢にいけない事をしているような、落ち着かない気持ちもあるにはあるが、それ以上に自分が触れる手で気持ち良
さそうな呼吸が聞こえるのが嬉しかった。
(シップクさん…。僕…)
好きです。
きっと言えないだろう言葉を、キシバタは胸中で呟いていた。
夢うつつのフワフワした中で、シップクは心地良い振動と刺激を味わう。
(腹が…、撫でられてやす…。柔しい手つきでさぁ…。こそばゆく、心地良く、揺すられて…。ああ…。軽く揉む手付きが、何
とも良い塩梅で…)
意識が浮上と沈降を繰り返しながら、徐々に覚醒の水面に近付いてゆき…、
「ふぁ…。うぷ!」
大欠伸をした瞬間に込み上げる物があって、大狸は口を閉じて頬を膨らませる。
「あ」
小さく声が聞こえて、開くなり視界に飛び込んで来た天井からそちらへ視線を動かせば、傍らに座っている柴犬の顔が見えた。
「トミヤさん…。アッシは…」
いつの間にか眠っていた事に気付いて、慌てて身を起こそうとしたシップクは、
「んぷっ!?ゲェ~~~~~~ップ!」
いつもの調子で体を曲げた瞬間、張っている胃に圧がかかって盛大にゲップを漏らした。そして、大食い勝負の事を思い出し、
腹が張っている感覚を自覚する。
「だ、大丈夫ですか!?」
「へ、へい、失礼を…!って…」
沈黙が、動きを止めたふたりの間に落ちる。
「はわっ!?こ、これはですね!」
慌てて手を引っ込めた柴犬を、目を丸くしてキョトンと見つめた大狸は、何とも決まり悪そうな苦笑いを浮かべて耳を伏せた。
「腹をさすってて下さったんで?いや…、こいつはとんだ失礼を…。情けねぇったらありゃしやせん…。気遣い有り難うごぜぇ
やす。おかげでだいぶ楽になりやした…」
「え…?あの…」
眠っている間に勝手に腹を触っていた事を咎められるどころか、礼を言われて戸惑うキシバタ。
(満腹になってひっくり返ったアッシを、トミヤさんが腹を撫でて介抱して下すって…。キャッ!)
意識が無かった事が残念ではあるものの、想像して悶えるシップク。
見れば、窓の外では太陽の角度がだいぶ変わっていた。時計の針はもう午後三時近くを示しており、眠りこけていた時間の長
さを知ったシップクは羞恥で顔を赤らめる。
「あ、あの…。もう大丈夫ですか?お腹…苦しくないです…?」
おずおずと問う少年に、「へい、お陰様で」と応じたシップクだったが、
「と言いてぇ所でごぜぇやすが…」
鼻先に手を持って行き、照れくさそうにポリッと掻いた。
「まだ腹がパンパンに張ってやして、いささか苦しいのが本音でさぁ…。よろしけりゃあその…。もう少し腹を撫でたり揉んだ
り、してて頂けると…」
目覚めの間際まで味わっていた感触を思い出しながら、大狸は柴犬に笑いかけた。
「は、はい…!じゃあ、失礼して…、さ、触ります…!」
妙に緊張した顔で手を伸ばしたキシバタが腹に再び触れると、シップクは「はぁ~…」と深く息を吐いた。
(不思議でさぁ…。トミヤさんにはついつい、普通なら遠慮するような事まで言っちまいやす…)
こうして他人に甘えを見せる事など無かったなと、大狸は思い返す。むしろ意地を張り、意固地になり、手を跳ねのけてばか
りいた、と…。
護るべき対象で近しく思えているからなのか、それとも内心で子供扱いしているからなのか、本来なら抱くはずの抵抗感や遠
慮が脇に置かれる理由がシップク自身も分からない。ただ、こんな状況で脇に誰が居たとしても、同じ事は頼まないだろうとは
思う。
「はぁ~…。良い具合でさぁ…。トミヤさんの手が触れてると、張ってるトコが楽になってきやす…。もしかして親御さんに肩
揉みやらマッサージやら、日頃からなさっておられるんで?」
「い、いえ、してないです…」
「ほ。となるとこの気持ち良い加減は、天性の才能でごぜぇやすか」
才能と言われてもピンと来ないキシバタは「え?」と戸惑い顔。しかし手は止まらずに大狸の腹を気遣う手付きで撫でている。
「腹の張りが楽になるってのもごぜぇやすが、どうにもこう、肩なんかを揉まれるような、じんわり染みる心地良さもありやし
て…。ほぐされる感じがしやす」
胃が膨れ上がっているせいで、腹筋も押し上げられて伸び切っている。そこを遠慮がちな手で揉まれるのは、膨満感の解消と
はまた別に心地良い。腕やら肩やら越しやらはストレッチでほぐすが、腹筋はそうそうほぐさなかったなと、シップクは改めて
考える。やった所で上体を左右に捻って伸ばす程度で、腹筋を揉み解すというのは人生初であった。
(それに加えて、トミヤさんに見苦しい出っ腹を揉ませちまってるって「イケナイ」感じが…!癖になっちまいそうでさぁ…!)
タバルとはまた違う方向性の何かに目覚めそうになるシップク。
「あ、もうちょいと強めに揉んで頂けやすか?…あ、そう、そんな具合でさぁ…!はふぅ…。腹がこなれて行きやす…!」
顔をカッカと熱くさせながら、キシバタは複雑な気分だった。
シップクに頼まれてしている事だが、自分で望んでいる事でもある。喜ばれるのが申し訳なく、何より…。
(お、おちんちんが…、こんなに固くなってて…)
興奮と幸福感、うしろめたさと罪悪感、板挟みの少年は、胸を締め付ける切ない感触を、本で読んだ「恋煩い」という物なの
だと自覚した。
一方その頃…。
「おかあさん、あのひとなんでねてるの?」
「しっ!」
小さな女の子の素朴な疑問を遮り、母親が手を引いて足早に遠ざかりつつ一瞥したのは、駅のホームにあるベンチ…の上で騒
音を撒き散らしている何か。
「ふご~…、すか~…、ぷひ~…」
電車に乗るはずがシップクと同様に血糖値急上昇の波に飲まれ、待っている間に力尽きて横倒しになったタバルは、荷物を枕
に熟睡モードに入っていた。
「うぇふひひひ…。もう入らないよぉ…。あんっ、いっぱいだってばぁ…。そんな奥まで…、はぁ…、入らないってばぁ…。う
ふふふ…、ひゅふひゅふふっ…」
謎の寝言を漏らして怪しく笑うタバルから、ささっと周囲の利用客が距離を取る。
着流しが半分はだけて胸や腹が覗き、挙句に大股開きで股座までチラ見えしている大柄な真ん丸玄狐に、進んで関わろうとす
る利用客も無い。
満腹のあまり半分気絶状態のタバルは夕暮れまで眠りこけて、帰りが大幅に遅れた挙句に道中で一泊する羽目になる。
そして、うどんと蕎麦の格付け判定を放棄した小狸は、大鳥居の上に腰掛けて、参道を見下ろしながら足と尻尾をプラプラさ
せていた。
(どっちも嫌いじゃない。けど、たまには「みーと・そーす」とかが良い)
まさかのパスタ派であった。