BellyBeater(前編)

息を切らして走りながら、オイラはゴミバケツをひっくり返しつつ、路地裏に駆け込みやした。

いやもう突然こんなトコから話し始めても、何が何だか分からねぇとは思いやすが…、正直オイラ自身、何が何だかサッパ

リなんでやすからご容赦をっ…!

首から提げた逆さ十字を揺らし、背負った唐傘をがたがた鳴らし、腰回りに巻いたポーチ類をバタバタぶつけ合い、太鼓腹

をゆさゆさ揺らし…、オイラは薄暗ぇ、据えた匂いが漂う狭い路地をドタドタと走りながら、時々後ろを振り返りやす。

…ついて来てねぇみてぇでやすね…?…と、とりあえずは振り切れやしたか…。

そのまま曲がり角までダッシュして、より細くて暗ぇ路地に飛び込みやす。

壁に寄りかかり、乱れた息を整えながら、シャツの首元をバタバタして風を入れたオイラは、

「あ、あづぅっ…!これが噂のヒートアイランド現象ってぇヤツでやすかぁ!?」

ぜぇはぁ言いながら、都会の熱帯夜にただただ度肝を抜かれてやした…。

北国育ちな上、おせじにもスリムたぁ言えないオイラにとっちゃあ、この湿気の濃い熱気は結構キッツいもんでやす…。

とりあえず、追っ手?は振り切れたようなんで、そこらの自販機で、冷てぇコーラでも…。

「居たぞ!こっちだ!」

突然の足音と声に、驚いて路地の入り口を振り返りゃあ、半袖ティーシャツにハーフパンツ、バッシュ姿の少年の姿…。

あぁっ!?早くも見つかっちまいやした!

この子、十八か十九ぐれぇに見えやすが、子供と大人の中間にあるその顔にゃあ、えらく鋭ぇもんが潜んでやす。

…どことなく、アイツに似た雰囲気がありやすね…。

少年はその鋭ぇ光を放つ目でオイラを睨みながら、ジャリッと足を踏み出しやした。

こりゃあ…、親父狩りとか、そういうんじゃねぇんでさぁ…。

だいたいにしてオイラぁまだ31でやす。親父狩りの標的になるほど老けてやせんからっ。

…本当でやすよっ!?…確かに中年太りっぽい体型なのは否定できやせんが…。

とにかく、不本意にもただ親父狩りの対象になったってぇだけなら、オイラもここまで慌てたりはしやせん。相手が相手な

もんであわくってるんでさぁ。

この少年と、今は姿が見えねぇもう一人の大柄な少年に追われてるんでやすが…、二人とも、人間さんじゃあありやせん。

後ろ向きに後退していたオイラは、少年が膝を屈めてダッシュの姿勢に移る直前に、身を翻しやした。

このナリのまんまで、いつまで逃げ切れるか…。この子、とにかく足が速ぇ上に、スタミナがハンパねぇんでやす…!

…あっと、こりゃ失礼…!

申し遅れやしたが、オイラぁ七篠鼓助(ななしのこすけ)と申しやす。

齢三十一、生まれは定かじゃあありやせんが、北海道は札幌育ちでやす。

十三年程前に故郷を離れやして、今はとある御仁に用心棒としてお仕えし、諸国をさすらう身…。

まっとうな人間の皆さん方…、特に堅気の方々にゃあ馴染みはねぇかと思いやすが、ライカンスロープってぇ夜の一族の端

くれでさぁ。



「ぜっ!ぜへぇっ!こ、こりゃあ…ま、まずり…やし…たねぇ…!」

路地のどん詰まり、ビルの隙間になってる細っこいその空間で、あっしは息を切らせながら、足音に気付いて振り返りやす。

退路を断つように路地の真ん中に立つのは、さっきの精悍な顔をした少年…。

「追い詰めたぞ…。観念しろ!」

「お、オイラぁ…、ふひぃ…!あやしいもんじゃ、ふぅ…!ありやせん…よぅ…!」

行き止まりの壁に背中を預けたオイラは、息も絶え絶えになりながら弁明しやしたが、

「格好から行動から、何から何までどう見ても怪しいだろうが!大体、やましい事が無いならなんで逃げる!?」

「そ、それはでやすねぇ…」

そいつぁ、オイラ達が今、とあるホテルでお世話になってる身で、そこのお美しいオーナーの迷惑になるような騒ぎを起こ

すのはまずいから…、なんでやすよぅ…!

でも、そいつを上手く説明する事ができやせん。

第一に、この子達がオーナーの敵か味方かが判りやせん。

もし敵だったとしたら、オーナーの事を話すのはまずいんでやす。大っぴらにゃあできねぇ事なんでやすから…。

ついでに言うと、もし敵だったとしても、こんな若ぇ子らに手荒な真似はしたかぁありやせんし…。

「そっちこそ、何だってオイラを追い回すんでやすか?」

返答に詰まったオイラは、反対に少年に問い返しやす。

「何で、だと…?」

何が気に障ったのか、少年は目を吊り上げて、憎らしげにオイラを睨んできやした。

少年の細身の身体から、濃厚な敵意が漂い出てやす。つつけば弾けそうな、そんな物騒な殺気…。

若ぇけど、可愛らしい仔犬ってぇ訳じゃあありやせんね…。仔は仔でも、まるで狼の仔でさぁ…。

オイラは背にした壁にそっと右手を当て、リズムをとって軽く叩き始めやした。

少年はオイラを睨んだまま、じりっと足を前に進めて来やす。

「とぼけるつもりか?あれだけ…、っく…!?」

グラッと体を揺らした少年は、言葉を切って額を押さえやした。…どうやら、効いたみてぇでやすね?

オイラの力は、人間の姿のままでもある程度使えやす。

…もっとも、このナリじゃあこの程度の芸当が関の山でやすが…。

なるべく酷ぇ真似はしたくなかったもんで、今回は、この子の三半規管をちょいと狂わせて貰いやした。

心配ご無用でやすよ。その目眩は数分で消えやすからね?…そんじゃ、今の内に失礼して…。

オイラは壁を叩くのを止めて、ふらついてる少年の脇目掛けて走りやす。

「っく!ま、待て…!」

横を駆け抜けるオイラの肩を、ふらつきながらも伸ばして来た少年の手が掠めやした。

が、平衡感覚を狂わされた状態じゃあ、そこまでが限界のようでさぁ。オイラは難なく突破に成功しやす。

この街が何やら騒がしくなってるってぇ話は、オーナーから聞いてやしたが…、軽い気持ちで出てきたのは失敗でやした…。

 数年ぶりに祖国の土を踏んだってぇのに、すぐこれでやす…。オイラもお師匠も、つくづくトラブルに巻き込まれやすい体

質でやすねぇ…。

CDショップで音楽の試聴を楽しむつもりだったんでやすが、今夜のとこはもう、ホテルに帰って大人しくしてやしょう…。

今度こそ逃げられそうで、ほっとしたのも束の間。

すっと角から現れ、袋小路の入り口に立った少年の姿を前にして、オイラは目を見開きやした。

ん、んなぁっ!?気配も音もありやせんでしたよぅ!?

黒いメッシュの半袖ティーシャツに、同じく黒のジャージのズボンを身に付けてる、色白で大柄な、ちょいと太目の少年は、

黒目がちの目を細めてオイラを見つめやす。

この少年が、もう一人の追っ手でやす…!

やや左側方向へと走っていたオイラは、少年の足が迎え撃つように位置をずらしたのを確認して、勢いをほとんど殺さねぇ

まま、逆方向へと角度を変えやした。

が、フェイントは見抜かれてやした。っていうか、たぶん「逆」でやす。

少年が足をずらした動作、あれでオイラの方がフェイントをかけられちまったんでさぁ。

反対側を駆け抜けようとしたオイラのどてっ腹に、少年のぶっとい右足が、唸りを上げて蹴り込まれやした。

人間の格好のまんまじゃあ、反応し切れねぇような蹴り…!

…油断しやした。この子、かなり戦い慣れてやす…!

水平にすっとんで来た回し蹴りが腹にめり込んで、オイラはくの字になって浮き上がりやす。

そして、そのまんま真後ろにふっ飛ばされて、地面に転がる前に、完璧に意識が飛んでやした…。



気が付いたら、縛られてやした。

両手は背中側で布テープでグルグル巻きにされて、両脚も足首から膝までがっちりでやす。

オイラ愛用の傘は、少し離れた所に、腰から外されたポーチと一緒に転がってやした。

…情けねぇ…。オイラとした事が、不覚でやす…。

「目が覚めたか」

どん詰まりの路地の壁際に転がされたオイラは、すぐ傍に立って見下ろしてる、鋭ぇ目をした少年の顔を見上げやした。

大柄な少年の方はってぇと、少し離れた所で同じくオイラを見つめながら、携帯を耳に当ててやす。

「…にしても、何だこの重い傘…?鉄でも入ってるのか?」

鋭ぇ目の少年は屈み込んで、オイラの唐傘を掴みながら胡乱げに顔を顰めやす。

「それに、何だこのポーチ…?筒やら瓶やら球やらが詰まって…」

「あああぁ…!触っちゃあダメでやすよぅ!」

オイラが抗議の声を上げると、少年はポーチをガシャガシャ揺するのを止めて、こっちを睨んできやす。

「とにかく、年貢の納め時だな、相麻の傭兵…!」

「へ?」

何を言われてるんだかサッパリのオイラを睨みながら、少年は目を吊り上げて続けやした。

「同志だけじゃなく、無関係の一般人まで殺した罪…、きちんと償って貰うぞ!」

同志?一般人?って…、殺しぃっ!?な、何の事でやすか!?

「ちょ、ちょいと待っておくんなせぇやし!何が何だかサッパリでやすよぅ!?いぐふっ!?」

慌てて声を上げたら、さっき蹴られた腹が鈍く痛みやした。

「往生際が悪いぞ!まだシラを切る気か!?」

「いやもぉホントに知らないんでやすっ!」

オイラと少年が言い合ってる内に、大柄な方の少年が、携帯で話し始めやした。

「…あ、ショウコさん?ユウです。相麻の傭兵らしいライカンスロープを捕縛しました」

大柄な少年は、一旦言葉を切ると、訝しげな顔でオイラを見やした。

「えぇ、はい。ヨルヒコさんと…、そうです。…でも、なんだか…」

鋭ぇ目をした少年は、オイラから視線を外すと、大柄な少年に歩み寄りやした。そして、彼から携帯を受け取りやす。

「かわりました、ヨルヒコです。勝手に出て済みませんでした。けど、ホテルの周りをうろついてたから怪しいと…、はい。

え?特徴?」

少年はちらっとオイラを見ると、

「身長は160ちょっとぐらい。半袖ティーシャツに、膝まで捲ったカーゴパンツ。色はどっちもネイビーブルー。赤い和傘

を持ってて、首には十字架のペンダント。赤ら顔で、目の周りにクマ。でっぷりしたおっさんです」

「オイラぁまだ31でやす!おっさんじゃあありやせん!」

思わず声を上げると、少年は少し黙った後、「はい?」と、首を傾げやした。

オイラの言葉に反応した訳じゃあなさそうでやす。ぽかんと口を開け、電話を手にしたまま、時々頷いてやした。

「…え?違う…?へ?」

大柄な少年は、鋭ぇ目の少年の顔を見て、それからオイラに視線を向けやした。

良く判りやせんが、なんだか戸惑ってるみてぇでやす。

「…あんた、名前は…?」

目つきの鋭ぇ少年は、恐る恐るといった様子で、オイラに尋ねやした。



『申し訳ありませんでしたっ!』

二人の少年は、拘束が解かれたオイラの前で、地面に手をついて土下座しやした。

「タマモさんの客だったなんて知らなくて…!勘違いとはいえ、本当に済まない!」

目つきの鋭ぇ少年…、ヨルヒコ君が、平身低頭で謝りやす。

「追いかけ回したあげく、足蹴にした上に縛り上げ…。無礼のほど、お詫びの言葉もありません…」

大柄な少年…、ユウ君が、すっかりしょぼくれて謝りやす。

「い、いやぁ…。判って貰えたんなら…、それで結構でやすよ…。うん…」

最初はまぁ腹も立ちやしたが、誤解が解けて、可哀相なぐれぇ縮こまって、ひたすらに詫びを入れられたら、なんだか怒る

気も失せちまいやした…。

電話をかわって貰ったら、オーナーの娘さんにもえらく謝られやしたし…。

「…で、何だってオイラを追いかけ回したんでやすか?さっきの話じゃあ、何だか物騒な事になってるみてぇでやすが…」

気を取り直して、オイラは二人に顔を上げさせて、ひとまず事情を聞いてみる事にしやす。

お世話になってるホテルのオーナーの話じゃあ、なんだか立て込んでるご様子でやした。

が、客であるオイラ達に気を遣ってか、詳しい話はして貰えなかったんでやすよ。

「そ、それは…」

「えぇと…」

オイラが説明を求めると、二人は困ったように顔を見合わせやした。



「なるほど…。そりゃあ大変でやすねぇ…」

歩いて五分程のトコにあったファーストフード店で、オイラは咥えたストローをピコピコさせながら頷きやした。

かいつまんで事情を話してくれた、オイラの向かいの席に並んで座ってる二人は、困り顔で項垂れてやす。

何でも、オイラ達が宿を世話して貰ってるホテルのオーナー、この街の元締めでもある玉藻御前様は、ここ最近、でけぇ組

織から脱走したライカンスロープ達をかくまってやってるらしいんでさぁ。

で、その組織は、てめぇらんトコから逃げおおせたライカンスロープが、この街に逃げ込んでる事を察したみてぇで、始末

をつけるために人員を送り込んで来てるらしいんでやす。

つまりは派兵を受けてる状態なんでやすが、今、御前様が纏めてらっしゃるこの街のトライブにゃあ、戦いの要、「狩人」

が不足してるそうなんでさぁ。

その相麻って組織を潰す為に、出向いちまってるそうで。

「…なるほど、それで留守だったんでやすか…。お師匠もお師匠で、アポ無しでいきなり来るから…」

噛み千切ったホットドッグを飲み込み、呟いたオイラを見ながら、二人は首を傾げやす。

「あぁ、こっちの話でやす」

オイラはパタパタと手を振りやした。

…おっと、話を戻しやしょうか…。

で、二人はそんな状況で、ホテルからコソコソ抜け出したオイラが、周辺をウロウロしてたのを見つけたそうでやす。

そいでもって、道に不慣れで、しばらくホテル周辺を迷いながらほっつき歩いてたオイラを、本拠地を突き止めて探りを入

れてる、その相麻の間者か何かと勘違いしちまったみてぇなんでさぁ。

「で、君らは狩人じゃあねぇんでやすね?」

「はい。なりたいとは思っていますが…、兄にも反対されていて…」

ユウ君がそう言うと、ヨルヒコ君が悔しげに後を引き取りやす。

「今回の件も、手出ししないで大人しくしておけって、大人達が…。俺達はまるっきり蚊帳の外でさ…。でも、犠牲者まで出

てるのに、黙ってなんかいられないし…。俺達だって役に立てる事を見せてやりたくて…」

「ふむふむ…」

オイラが思ってたより、ずぅっと物騒な状況になってたんでやすねぇ…。

溶け始めた氷と混じって薄くなったコーラをずじゅごぉ〜っと啜り、オイラは二人の顔を交互に見やした。

「なら、そいつらを撃退して回りゃあ良いんでやすね?」

オイラの言葉に、二人は一瞬呆けたような表情を浮かべた後、驚いたように顔を見合わせやした。

「なんなら力になりやすぜぃ?こっちも、御前にゃあお世話んなってる身でやすから」

二人はまじまじとオイラの顔を見た後、困ったように口を開きやした。

「でも…、貴方はタマモさんのお客人です。危険な目に遭わせる訳には…」

「そ、そうです!これは俺達の問題で…」

「オイラ達にも宿と飯の恩がありやす。大変な時期にタダ飯ご馳走になって知らん顔じゃあ、男がすたるってもんでさぁ」

御前に迷惑をかけるような騒ぎを起こすのはまずいんで、大人しくしてるつもりでやしたが、事情が事情でやす。

オイラでも助けになれるとあっちゃあ、話は別でさぁ。

「それにオイラが見た所、二人とも闘争の方はともかく、狩りの経験はそう多くなさそうでやすが?…オイラを誤認捕縛しや

したしね…」

二人は少し恥ずかしげに身じろぎして、頷きやした。

「そ、それは…。見るからに怪しいカッコしてたから…あ!す、すいません!」

オイラがふくれっ面になると、ヨルヒコ君は慌てて謝りやした。…失礼なっ…!

「とにかく協力しやすよ?狩人になりてぇってんなら、まずは経験を積む事でやす。…今後、オイラみたいな犠牲者を出さねぇ

為にも…」

しつこくつついてやると、ヨルヒコ君はしょぼんと項垂れやした。

…ま、このくれぇにしときやすか…。

ちっと若ぇけど、印象がなんとなくアイツに似てるし、おまけに好みのタイプなもんで、少々からかっちまいやした…。

「オイラは是非やらせて貰いてぇんでやすが、それでもダメでやすかね?」

そう言いながらオイラが笑いかけると、

「いいえ。そこまで言って頂けるなら、僕らからもお願いしたいです」

ユウ君は悪戯っぽく片目を瞑りやした。

「僕らも元々、怒られるのを覚悟で出ています。ナナシノさんにご迷惑をかけてしまう事は心苦しいですが…」

「その分、俺達がしっかり守れば良い。そうだよな?」

「そういう事ですね」

ヨルヒコ君とユウ君は、目配せし合って、悪戯っ子みてぇな笑みを浮かべやした。

そんなに似てるってぇ訳でもありやせんが、どうにもこの二人からは兄弟みてぇな、仲良さげな雰囲気を感じやすねぇ…。



一般人と同志の犠牲者が出たってぇ界隈の路地裏で、オイラ達は簡単に打ち合わせをしやした。

いよいよ、作戦開始でさぁ。

「それじゃあ二人とも、この水を体に振りかけておくんなせぇやし」

オイラが二人に手渡した小瓶には、透明な液体が入ってやす。

一見普通の水に見えるコレ、何を隠そう…、

「これ…、もしかして消気水?」

って、ありゃ?ヨルヒコ君は瓶を顔の前で揺らし、中身を見つめながら呟きやした。

「こいつぁ驚きやした…。ご存じでやしたか?」

こいつを作る技術は一般的じゃねぇんで、結構珍しい品なんでやすが、この子はなかなか博識でやすねぇ。

「何なんですか?」

ユウ君の方は知らねぇようで、ヨルヒコ君に首を傾げて尋ねてやす。

「ライカンスロープの匂いっていうか、気配なんかを消してくれる水なんだよ」

「その通りでさぁ。まだ若ぇのに、物知りでやすねぇヨルヒコ君?」

素直に感心して褒めると、ヨルヒコ君は照れたように笑いやす。

…顔つきは精悍でやすが、こういう時はまだまだ子供っぽい、結構可愛い顔を見せてくれやすねぇ…。

「オイラは囮になって、狼藉者共を引き付けやす。二人はそいつを使って、つかず離れずの距離で監視しておくんなせぇ」

「いえ、囮なら僕が…。僕なら人間の姿のままでも、ある程度は戦えますし…」

囮を買って出ようとしたユウ君を、オイラは手を上げて制しやす。

「いやいや、こいつはオイラの方が向いてやす。オイラぁつけ回す相手を見つけるのにゃ慣れてんでやすよ。そういう手合い

が近付けば、すぐに判りやすから」

「でも…」

ユウ君は心配顔でオイラを見つめやす。そして何か言いかけやしたが、言い辛そうに口を閉じやした。

さっきあっさりのされちまったオイラを、心配してくれてるんでやすね。

言い訳にしかなりやせんが、あん時は油断と迷いがありやした。

おまけにユウ君と来たら、足音を殆ど立てねぇ独特の歩法を身につけてる上に、人間の格好のままで、とんでもねぇ馬力と

スピードをしてやしたから…。

「言いてぇこたぁ判りやすよ。確かに、オイラぁ荒事は嫌いでやす。でもまぁ、生き延びる事に関しちゃあ、そこそこ自信が

ありやすから」

安心させるにゃあ至らねぇでやしょうが、オイラは二人に笑いかけやす。

「オイラは無理しねぇで囮役に徹しやすからね。頼りにしてやすぜぃ?お二人とも!」

頼りにしてる事を告げられて嬉しかったのか、ヨルヒコ君とユウ君は、微かに笑いながら頷きやした。

いやぁ〜、可愛いモンでやすねぇ。俄然やる気が湧いて来やしたぜぃ!

さぁて、一肌脱ぐとしやすかぁっ!



雑踏の中を歩きながら、オイラは耳に意識を集中しやした。

部分的に覚醒させた獣の感覚で捉えた足音を、頭の中に浮かべた五線譜に、音階とリズム、さらに色分けして書き込んでい

きやす。

この感覚置換術は、自然に身についた物でさぁ。オイラの能力は音と深く関係がありやすからね。

目で物を見るより、鼻で匂いを嗅ぐより、オイラにとっちゃあ音の方がよっぽど正確に捉えられやす。

音を視る。アイツはオイラのこの技術の事を、そう表現してやしたっけ…。

まずは拾い上げた何百ってぇ足音の中から、オイラと同じ方向へ歩く足音以外は除外しやす。

次に、オイラから離れていく、あるいは追い越していく足音を削って行きやす。

これだけで五線譜上のオタマジャクシはだいぶ減りやしたが、問題はこっからでさぁ。

そこからオイラは、時々足を止めて路地を覗き込んだり、看板をみやったりして、リズムを変え始めやした。

殆どの足音がオイラとは無関係に過ぎてく中、いくつかの足音は、オイラの動きに合わせるように、止まったり、ゆっくり

になったりしやす。

この内のさらにいくつかは偶然、そしていくつかは…。

そんな手順を繰り返してく内に、オイラの頭の中の五線譜に、七つの音符が残りやした。

内二つは、先に覚えたヨルヒコ君とユウ君のオタマジャクシでやす。

そして残る五つは、オイラをつけてるヤツらでさぁ。

…結構簡単に食いつきやしたねぇ?こいつら、オイラが思ってたより…。

オイラは頃合いを見て、路地を曲がりやした。

そして人気の無ぇ方、無ぇ方へと、寂しい路地を辿って行きやす。

…ユウ君から聞いてた話じゃあ、たしかそろそろ…、お?見えてきやした。

路地を抜けたオイラが歩いて行く先に、灯りもまばらな、木々が生い茂る広い公園が姿を現しやした。

音を探りやしたが、幸いにも薄暗ぇ夜の公園からは、人の気配は感じやせん。

遠巻きになった足音が、それでもきちんとついて来てる事を確認しつつ、オイラはいきなり駆け出しやす。

数歩、慌てるように地面を踏んでから、速度を上げる5つのリズム…。

…まったく、チョロいもんでやすねぇ…。

公園の入り口を駆け抜けたオイラは、迷う事無く雑木林に突っ込みやす。

って言っても、オイラぁ鈍足でやすからねぇ…、そろそろ足音に距離を詰められ始めてやす。

木立に駆け込んで30メートル程、手前から数えて九本目の木の脇を駆け抜けつつ、オイラは声を上げやした。

「任しやすぜぃ!ヨルヒコ君!」

「よっし!任された!」

樹上から返って来た威勢の良い声に、追っ手の足音が僅かに乱れやす。

そしてオイラは、そのまま10メートル程走ってから振り向きやした。

スーツ、ジーンズ、ティーシャツ、ワイシャツ、アロハシャツ…、アジア系に欧米系、若者から中年まで、共通性の見当た

らねぇ五人の追っ手達。

その五人と、足を止めて向き直ったオイラの間に、真上から、銀色の獣が降り立ちやした。

下生えの背の低い草を踏む、微かで軽やかな音と共に…。

「…こいつぁ…、驚きやしたぁ…!」

「ナナシノさんから見ても、やっぱり珍しいかい?」

追っ手を睨み、振り向かねぇまま、オイラの呟きに応じる銀の獣。

その声は、紛れもなくヨルヒコ君のもんでさぁ。

薄い雲を貫いて、木々の隙間から投げ落とされる、か弱い月明かり。

その中に佇む、精悍で、美しく、そして猛々しい気配を纏う獣は、綺麗な銀色の毛に覆われた人狼でやす。

…なるほど、雰囲気がアイツと似てるのにも納得でさぁ…。同族だったんでやすねぇ…。

「わ…、ワーウルフ…!?」

追っ手の一人、ティーシャツにジーンズの欧米系青年が、たじろいだように後ずさりやす。

人狼の戦闘能力の高さは、ライカンスロープの中でも群を抜いてやす。

対ライカンスロープ能力を持つ、ライカンスロープを狩る事に長けたライカンスロープ…。

それが、同族にも恐れられる、「人狼」ってぇ存在なんでさぁ。

「び、ビビるな!相手は二匹、数ではこっちが…」

ワイシャツにスラックスのアジア系中年が、ヨルヒコ君の姿を前にして怖じ気づく味方を奮い立たせようと、でけぇ声を上

げやす。が…、

「三人ですよ。…まぁ、実質僕とヨルヒコさんの二人でお相手をしますが…」

後ろから聞こえた声に、五人は驚き、揃って振り返りやす。

見事なもんでさぁ…。上手く殺された足音は、オイラでも殆ど聞き取れやせんでした。

でけぇ上に太ってるってぇのに、まるで猫科の獣みてぇでやすねぇ、ユウ君。

五人の後方から、木立の間を縫って音もなく接近していたユウ君は、背を丸め、全身に力を込めやした。

その身体全体が膨張して、メッシュのシャツがグイグイと引き延ばされ、ハーフパンツの縫い目が裂けやす。

一気に体積を増した、周囲の闇とは対照的に真っ白な身体が、ゆっくりと上体を起こしやした。

ユウ君のライカンスロープとしての本来の姿は、真っ白な熊でやした。

ボリュームたっぷりの立派な身体は、綺麗なフサフサの毛に覆われてやす。

その白い顔の中で、瞳だけが鮮やかな赤に煌めいてるのが印象的でやした。

予想外の伏兵に取り乱しかけた五人は、ユウ君の変身が始まったあたりで、ようやく変身を始めやした。

内訳は…、黒犬、水牛、虎猫に牡鹿、そしてピューマでさぁ。

「一応断っておきますけれど、こちらには話し合いの準備が…」

白熊が口を開いて、そう言葉を発し始めた直後、追っ手達はそれぞれ、ヨルヒコ君とユウ君に向き直り、身構えやした。

空気が張り詰めた中で、まず動いたのは水牛でやした。

頭を下げ、猛然と角で突きかかった水牛を、ユウ君は腰をどっしりと落とし、半身になった体勢で迎え撃ちやす。

無茶でやすよぅ!と、叫びそうになったオイラは、目を丸くしやした。

突進して行った水牛の頭、二本の角の間に、白熊のでけぇ拳骨が飛び込みやす。

それだけで突進が止まったかと思やぁ、間髪入れずに下から跳ね上げられた、丸太みてぇな左足が、前傾姿勢の牛の顎を蹴

り上げやした。

左の正拳突きから前蹴りのコンビネーションは、踏み出す足が地面をへこませ、束ねたロープを振り回すような風切り音を

立てる程の、力強く、素早いもんでやした。

打撃音が、ガゴッと、二つ重なって聞こえる程の電光石火の連携で、そこそこでけぇ牛が、あっさりと宙に打ち上げられや

した。

残心を決めて、「しっ!」と呼気を漏らしたユウ君の前で、宙で縦に三回転した水牛が、俯せに地面に叩き付けられやす。

…あんなの食らっちゃあ、堪ったもんじゃあありやせん…。水牛は地面に突っ伏したまま、ビクッビクッて痙攣してやす…。

度肝を抜かれてる一同のこっち側で、銀の人狼がヒュウと口笛を鳴らしやした。

「やるなぁ、ユウ!」

「どうも。…それで、話し合いの準備が…」

お人好しなのか天然なのか、再度降伏勧告をしようってぇユウ君の前で、黒犬がじりっと動きやした。

逆効果でやすよぅユウ君…。

こいつらぁオイラの見立てじゃあ、そんなに上等な輩じゃあありやせん。

こういった手合いは、勘違いしやすいんでさぁ。「相手にゃあこっちの命を獲るつもりがねぇ」「なら、勝ちの目があるん

じゃねぇか?」ってな具合に…。

強敵と見たか、それとも甘ちゃんと見たか、黒犬がユウ君に向かいやした。

ユウ君はというと、残心の姿勢から、素早く迎撃態勢に移ってやす。

しっかし落ち着いたもんでやすねぇ…。若ぇってのに、てぇした度胸でさぁ。

考えてみりゃあ、格闘の腕前といい、オイラをのした時の人間の姿のままでの動きといい、狩りはともかく闘争そのものに

関しちゃあかなりの腕でやす。

場数を踏んでるんでやしょうか?それとも仕込んだお師匠が良いんでやしょうか?

「おいおい!俺も居るんだぞ?」

むくれたように声を上げたヨルヒコ君に、鹿とピューマが鋭ぇ視線を向けやす。

その視線の先で、銀の人狼の姿が霞みやした。そして、一瞬後には二頭の背後に現れやす。

人間の格好をしてるオイラの目じゃあ、あまりに速くて追い切れやせんでした。

一瞬の事でやしたが、身を捌いたらしいピューマの隣で、首を深々と切り裂かれた牡鹿が、グラッと揺れやした。

土くれと細長ぇ草の葉が舞い上がってる向こうで、両手の爪を硬化させて伸ばした狼が、口の端をつり上げ、牙を剥き出し、

獰猛な笑みを見せやす。

「ふん…!トロいトロいっ!」

首筋から鮮血を噴き上げた牡鹿が、棒きれみてぇに倒れたのを皮切りに、乱戦が始まりやした。

まっただ中に躍り込んだヨルヒコ君は、銀の被毛をたなびかせ、向き直った虎猫とピューマの爪を、蹴りを、牙をかわしつ

つ、長く鋭く変形、硬化させた爪で、二頭に浅い傷を負わせて行きやす。

…もっとも、人間の格好のオイラの目じゃあ、もう何が起こってるか良く見えねぇんでやすけどね…。

浅い傷とはいえ、人狼に負わされた傷ってぇのは厄介なもんなんでさぁ。

オイラ達ライカンスロープは、体力さえ十分なら、普通の傷をあっというまに治す事ができやす。

が、人狼に負わされた傷は、そうは行きやせん。人狼が持つ呪いの力で、修復能力が阻害されちまうんでさぁ。

細けぇ傷を負わせながらも、ヨルヒコ君は着実にポイントを稼いで行きやす。

片やユウ君の方は、頭を狙った黒犬の蹴りを、右腕一本で防ぎ止めてやした。

さらに、続けざまに体を反対側に捻って繰り出された裏拳を、素早く上げた左手で掴み止め、グイッと引きやす。

体勢を崩された黒犬の懐に、身を低くした白熊の体が潜り込みやした。

地面が震える程の力強ぇ踏み込みと同時に、肩口での体当たりを食らわしたユウ君の前で、腕を掴まれたままの黒犬が崩れ

落ちやす。

ありゃあ大陸の拳法の一種でやすかね?あっちはどうやら勝負あったみてぇでやす。

くでぇようでやすが、この二人、まだ子供って言える程に若ぇ割に、腕の方はかなりのもんでやす。

ヒットアンドアウェイに加え、素早い動きで相手の攻撃を捌きまくるヨルヒコ君。

人狼特有の強力な脚力が、細身の身体にとんでもねぇ機動力を与えてやす。

一方ユウ君の方は、体格と馬力を活かした、何とも力強い戦い方…。

格闘技術そのものがずば抜けてて、闘争を生業としてる傭兵ですら子供扱いされてやす。

おっと…、黒犬が捕らえられたと同時に、ヨルヒコ君の方でも戦況が変わりやした。

「…っくそっ!」

劣勢を悟ったか、ピューマは舌打ちしながら踵を返しやした。

「あっ!待て…って、えぇい邪魔するなっ!」

背後から急襲しようとしたヨルヒコ君は、虎猫にかかられて、追うに追えない状況でやす。

反射的にポンと腹を叩いたオイラは、もう一方を素早く確認しやした。

ユウ君の方もピューマの逃走に気づいてやすが、黒犬を押さえつけてて手が出せやせん。

…今取り逃がすと、後々厄介になるかもしれやせんね…。

ギリギリまで手は出さねぇつもりでやしたが、こいつぁ仕方ありやせん…。

鮮やかに逃走に転じ、木々の間に消えたピューマを追って、オイラは腹から放した手をポーチに当てながら、ドタドタと走

り出しやした。

…え?オイラの足で追いつけるのかって?

まぁ、そいつは問題ありやせん。なんせ、相手が待っててくれやすからねぇ…。



木々の間を駆け抜けていたピューマは、足を緩めて立ち止まり、周囲を見回しやした。

そこそこ広いと言っても、所詮は市街地の中の公園。ライカンスロープの足なら、普通に走りゃあ、あっというまに抜けら

れやす。

なのに、いくら走っても外が見えて来ねぇ…。やっこさん、その事にようやっと気付いたみてぇでさぁ。

「逃がす訳にゃあ、いかねぇんでやすよぅ」

声をかけられたピューマは、驚いたように振り返りやした。

ゆっくりと、歩いて追いついたオイラを目にして、その目が大きく見開かれやす。

オイラはポーチを軽く叩いてた手を止めて、ピューマとの距離を保って立ち止まりやした。

「「何で追いつかれた?」ってぇ顔してやすねぇ。実はあんたぁ、さっきから同じ所をグルグル回ってたんでさぁ」

ピューマが逃げを打ったあの時、オイラは腹を叩いて、やっこさんの耳にその音を放り込んでおきやした。

で、真っ直ぐ歩こうとすると、右に曲がって行っちまうように、幻惑してやったんでさぁ。

もっとも、こいつの効果はそれほど持続しねぇんでやす。

なもんで、音を聞かせ続けなきゃあいけねぇんでやすが、追っ手を気にする余り周りの気配に気を配ってたやっこさんは、

オイラの見立て通りに音を拾い続けてくれやした。

背負った傘を下ろして、半身に構えたオイラを前に、ピューマは四つん這いの突撃姿勢を取りやす。

「大人しく捕まってくれるつもりはありやせんかねぇ?オイラぁ荒事は嫌いなんでさぁ」

ま、ここは御前のシマでやすからねぇ。郷に入りては郷に従え…、ユウ君の作法に則って、一応降伏勧告させて貰いやす。

が、ピューマは全身をたわめて、攻撃準備に入りやした。

やっぱりってぇかなんてぇか…、聞く耳持たず、でやすか…。

ピューマが動くその前に、オイラは傘を突きだし、開きやした。

傘なんかで姿を隠す…、ぱっと見は意味不明の行動を取ったオイラを前にして、ピューマは一瞬迷ったようでやす。が、結

局は地面を蹴りやした。

オイラの姿を覆い隠すように広がった唐傘を引き裂こうと、間合いを詰めて来たピューマの腕が振るわれて、爪が傘に当た

りやした。

特別製の傘は、そんじょそこらのライカンスロープの力じゃあ破れやしやせんが、衝撃で横に跳ねられて、ピューマの顔が

間近に現れやす。

その縦長の瞳孔が、傘の陰から現れたオイラの姿を捉えて、大きく膨らみやした。

目の周りから頬にかけて、黒い隈取りがある、灰褐色の毛に覆われた顔。

体型はそのまんまながらも、筋肉で盛り上がった肩や腕。

短ぇながらも太く、そこそこ頑丈な手足。

丸っこい体付きに、もっさりと太い尻尾。

一瞬で正体を現したタヌキに驚いたか、ピューマの動きが、ほんの短ぇ間だけ止まりやす。

その隙に、オイラは跳ね除けられた傘を畳んで引き戻し、ピューマの横っ面に叩き付けやした。

この傘は、柄からハジキ、親骨小骨、石突きや頭に至るまでが特殊合金製でやす。

おまけに、油紙代わりに特殊な金属糸で編まれた鉄布を張ってありやして、盾としても鈍器としても、立派に役目を果たし

てくれるんでさぁ。

首を支点に、側転するみてぇに横に一回転したピューマは、地面に倒れるやいなや、即座に跳ね起きやした。

が、起きたその時にゃあ、その目の前に、厚紙に覆われた直径三センチ程の球が浮いてやす。

広げた傘を盾にしつつ、指をパチンと鳴らすと、オイラがポーチから取り出して放った小型爆弾が炸裂して、ピューマの顔

は煙と炎に晒されやした。

錬金術の秘伝で生み出された、対ライカンスロープ用、昇散型アンチモンダスト。

こいつをたっぷり詰め込んで、オイラの合図で爆発するように調節したお手製爆弾…、その名も「昇散型アンチモンダスト

内蔵爆弾「一寸玉」」でさぁ。

…「まんまだろ?」とか、そういった突っ込みはナシの方向で…。

頭部と、胸当たりまでを焼かれて仰け反ったピューマめがけ、オイラは大きく跳躍して、傘を頭上に振りかぶりやした。

ゴッ!ってぇ重い音と同時に感じた手応えは、十分満足バッチリでさぁ。

全体重と落下の勢いを加えてドタマにお見舞いした鉄傘は、ピューマの体を俯せに地面に叩き付け、大きくバウンドさせやす。

「一丁上がりでさぁ」

地面に突っ伏してピクピクしてるピューマを見下ろし、オイラは傘を背負い直しやした。

…しっかし拍子抜けでさぁ。この国じゃあこの程度の腕の傭兵でも、仕事があるんでやすか…。

それとも、相麻とやらも人手不足なんでやすかねぇ…?