BellyBeater(後編)

コウモリの死体をマンホールの中に吊るし、お手製の薬を嗅がしてぐっすり眠り直して貰ったブルドッグと雑種を、目立た

ねぇように物陰に隠したオイラは、後の処理を頼む旨、お嬢さん達に連絡してから、連中の追跡に移りやした。

先の三人はそれほどでもありやせんでしたが、あいつらは格が違いやす。

並の腕じゃあ手もなく捻られんのがオチでやしょうから、オイラがなんとかしねぇと…。

…が、追いかけるまでもなく、お目当ての面々と再会する事ができやした。

連中、路地を少し出た所、さっきより広めの場所で、立ち止まってやす。

驚きやした…。

三人がシマウマさんを追っかけずに、そこに留まってたってぇ事より、三人の前に二頭の若い獣が立ち塞がってるってぇ事

の方に…。

「ヨルヒコ君!ユウ君!何でこんなトコに!?」

声を上げたオイラに、黒服の三人と対峙した銀の人狼が、精悍な顔に猛々しい笑みを浮かべて応じやす。

「俺もユウも、鼻には自信があるんで」

「ごめんなさい…。別れ際のナナシノさんの態度に不自然な物を感じたので…。悪いとは思ったんですけれど、こっそり後を

追わせて貰いました。これを使って…」

その隣に並び立つ白い熊は、ヨルヒコ君の後を引き取って申し訳無さそうに続けると、ズボンのポケットから小瓶を取り出

して、揺らして見せやした。

…あ!?オイラが渡した消気水!うかつでやした…!

「二人とも、悪ぃ事は言いやせん…。立ち去りなせぇ、すぐに!」

少し強めに発したオイラの警告に、狼と熊は一瞬視線を交わしやした。

「えぇいっ!そいつらぁ、今日相手にしてきた他の傭兵とは…」

「格が違う。って言うんだろう?」

オイラの言葉を遮って、ヨルヒコ君が「フン」と鼻を鳴らしやした。

「判るさ、その位は…。受けるプレッシャーがこれまでの連中とは段違いだ…」

「判ってんなら…!」

「でも、退きません」

今度はユウ君がオイラの言葉を遮りやした。

「手柄だったらさっきまでので十分でさぁ!この上危険を冒す必要なんぞありやせん!」

腕を信用してねぇ訳じゃあありやせんが、今回は相手が相手、おまけに、さっきまで連戦してた二人の消耗は、傍目に見て

も明らかでやす。

思わず声を荒げちまったオイラに、しかしユウ君は首を横に振って応じやした。

「手柄なんかの問題じゃあ、ないんです。これは信念の問題でして…」

ヨルヒコ君が真剣な表情で、その後を継ぎやす。

「ああ…。信念の為に、退けない…!」

…信念…?

一瞬聞き返そうとしたオイラは、三人の黒ずくめに注意を戻しやした。

「子供と…、それに闘争向きでもない獣一匹…」

中央の男が口を開きやす。

「さっさと刻んで、女を追うぞ」

一人だけオイラに向き直ってた、右隣の男が続いて呟きやした。

「………」

左側の男が、無言で両手を広げやす。

その黒い袖に覆われた腕が、一瞬で伸びて広がりやした。

裂けたスーツの下から現れたのは、艶やかな黒い羽毛。闇を形にしたような、漆黒の翼。

黒いスーツを破り、その下から同色の正体を現したのは、カラスでやす。

朱羽根の三羽鴉。この三兄弟は、そんな名前で知られてる、腕利きの始末屋なんでさぁ…。

黒い翼を広げる三人を前に、ヨルヒコ君は面食らった様子で呟きやす。

「…何だよこいつら…?この殺気…、さっきまでのヤツらと段違いじゃないか…」

一瞬ポカンとした顔に、信じられねぇ事に、ニィッと、不敵な笑みが浮かびやした。

獰猛で、恐れを知らねぇ、若く無謀な狼の笑み…。

危うさと頼もしさが同居する、見てるだけで高揚感を覚える、そんな、原石の印象…。

「なるほど。僕らに相手をさせるのは危険だと判断するのも、無理はないですね…」

ユウ君は目つきを鋭くしながら呟きやす。

人の良さそうな言動と物腰に反し、闘争を前にしてどっしりと腰を落とし、覚悟を決めた雄の表情…。

白熊は、ちらりとヨルヒコ君を見遣りやした。

「一回だけですが、少し分けられます。どうですか?」

「当たるかどうか、五分五分かな…。俺、飛ぶヤツとやりあった経験が無いんだ。連中がどの程度の速さかだけど…」

…二人とも、すっかりやる気でさぁ…。

「ええい!退きなせぇって二人とも!こいつらぁやべぇんでやすよぅ!?」

「どのみち、退かせはしない…」

オイラの言葉に応じたのは、ヨルヒコ君でもユウ君でもなく、こっちを向いてた一羽でやした。

「三人仲良く、刻んでやるよ…!」

刺すような、鋭ぇ、そして冷てぇ殺気…!

半身に構えつつ畳んだ傘を構えたオイラは、先手を取って飛び込みやした。

踏み込みながら袈裟懸けに振り下ろした傘が、素早く身を退いた鴉の目の前で空を切りやす。

続けざまにもう一歩踏み出し、先端を地面に当てた傘を跳ね上げやすが、こいつも横への回避でスカされやす。

もういっちょうっ!オイラは傘を振り上げた姿勢から、踏み出した足を支点に、体を時計回りに回転させやす。

180度回って背中を向けた時点で傘を降ろし、振り向きざまに遠心力と加速を加えた横に薙ぎ払う一撃。

が、胸の高さで半月を描いて振るった傘が、羽ばたいて飛び上がったやっこさんの足の下を薙ぎやした。

…かなり速ぇ!こいつぁ、「マナーモード」じゃあ手に余りやすね…。

オイラが一羽に突っかかってる間にも、あっちでは他の二羽が軽く飛び上がって、狼と熊に向かって羽根を羽ばたかせやす。

…ありゃあもしかして…?やべぇっ!

「二人ともお逃げなせぇ!そいつらの羽ばたきは…!」

オイラの言葉が終わるより早く、二羽の羽根が起こした黒い突風が、二人めがけて押し寄せやした。

「な!?」

物凄ぇ速度で殺到する風を、黒く染めてるソレがなんなのか、気付いたヨルヒコ君が声を上げやす。

銀の狼の前に白い巨体が立ちはだかったのは、黒い風が二人を飲み込む寸前の事でやした。

突風に紛れる無数の、硬質化した黒い羽毛。

交差させた両腕で顔を覆ったユウ君は、カミソリみてぇなソレらを、風に逆らうように腰を落として前傾になった姿勢で、

真っ正面から食らっちまいやした。

「っつう…!」

小さく呻いたユウ君の体には、黒い羽毛が無数に突き刺さって、サボテンみてぇな有様でやす。

「ありがとよ、ユウ!」

ユウ君が黒い風を遮ったおかげで無傷だったヨルヒコ君が、脇に飛び出しやした。

「行けますか?」

「なけなしの一発、お見舞いしてやる…!」

手負いの白熊が身を捻り、その場で後ろ回し蹴りを繰り出しやした。

まともに蹴られる脇の位置に居たヨルヒコ君が、それに合わせて軽く跳びやす。

一瞬、回し蹴りを放ったユウ君の足の裏に、跳んだヨルヒコ君の両足が合わされる格好で、二人の動きが止まりやした。

足が接触した点からは、ぼんやりとした光が滲んでやす。

…おったまげやした…。ユウ君の能力は、バイタルコンバートでやすか!?

驚きに目を見張ったオイラの視線の先で、ユウ君から力を与えられた銀狼の体が、僅かながら生気を取り戻しやす。

次いでメキッと音がして、二人の足が反発しやす。

白熊の蹴りに乗っかる感じで、銀狼の体が、バネが弾けるような勢いで跳ね飛びやした。

銀色の狼が、おそらくは自分でも制御できてねぇ衝撃波を撒き散らしながら、二羽の鴉の間を通り抜けやす。

白熊の砲台から撃ち出された銀狼の砲弾は、音速を突破して、今のオイラの目じゃあ軌跡しか見えやせん。

反応が遅れた片方の鴉が、右の羽根を砲弾の軌道上に捉えられて、根本から抉られてやした。

鴉が「ゲェェッ!」って悲鳴を上げた時にゃあ、ヨルヒコ君は遙か向こうでやす。

ビルの壁面をへこませ、ヒビだらけにして、ズドォン!と四つん這いで着地したヨルヒコ君は、力を使い果たしちまったか、

そのままべたんと地面に落っこちやす。

巻き起こされた衝撃の余波と突風が、路地内を荒れ狂う中、オイラは腕で目を庇いながら舌を巻いてやした。

…二人がかりの合わせ技とはいえ、あんな消耗した状態で、「無音の領域」に踏み込みやすか…。

まったく…、二人ともまだ子供だってぇのに、とんでもねぇ力を持ってやす…!

オイラが感心してる間にも、二羽の鴉は手負いのユウ君を狙って動き出してやした。

気丈にも身構えて迎撃体勢を取ってやすが、手負いな上にあの消耗…。

生命力をヨルヒコ君に譲渡した反動は、かなりキッツいもんのはずでやす。

ありゃあ二人の、最後の力を振り絞っての大技だったんでやしょう。

フットワークが利かねぇ状態。おまけに相手は近付かなくとも攻撃できやす。今のユウ君じゃあ、なぶり殺しにされちまう…!

片羽根を失った鴉が、憎悪で目をギラつかせながら、残る翼を広げやした。

…やらせや…しやせんぜぃ…!

オイラはぐっと身を屈めながら、マナーモードを解除しやした。

瞬間的に脳の処理速度が上がって、筋肉がメキメキと膨張し、心臓が早鐘のように鳴って血液を高速巡回させやす。

足の爪でアスファルトを抉り、一瞬で距離を縮めて肉薄したオイラを、驚愕でまん丸に見開かれたカラスの瞳が映しやした。

亜音速で飛び込んだオイラは、対応できなかったやっこさんを、水平に大きく払った傘で殴り飛ばしやした。

障害を排除して、そのままの勢いで鴉共とユウ君の間に割って入り、踏ん張った足でアスファルトを抉りながら急制動をか

けたオイラは、バッと傘を広げやす。

放たれた黒い風を、広げた傘で受け流しつつ、オイラは背後のユウ君を半面で振り返り、尋ねやした。

「さっき、手柄の為じゃあなく、信念の為に退かねぇってぇ言ってやしたね?ありゃあどういう意味なんで?」

ユウ君は突然動きが変わったオイラに少々驚いてるようでやしたが、それでも答えてくれやした。

「「己が命を犠牲にしても、信念に背くな。信念を貫け」。僕の師が、そう言いました。師は、信念のために誇りを捨て、命

も顧みず、たった一人で何年も戦い続けたんです」

「ふむ…。で、君の信念ってなぁ、どういったもんでやすか?」

重ねて尋ねたオイラの目を真っ直ぐに見つめながら、ユウ君は口を開き、はっきりと言いやした。

「仲間を護る事。その為に仕方がないなら、殺す事も、殺される事も、受け入れます」

オイラはしばらく黙った後、口の端をつり上げやした。

「へへへっ!気に入りやしたぜぃ…!」

殺す覚悟だけなら、あるいは死ぬ覚悟だけなら、決めてるヤツぁ大勢居やす。

さらに言うなら、覚悟も無しに悪戯に命を奪うゲス共だって大勢居やす。

でも、この若熊は違いやす。

止むを得ねぇ状況なら殺す。そして、殺った相手の死を背負ってく。

そうしていずれ、背負い切れなくなった死の重みで、自分が沈んだとしても後悔しねぇ。

そんな覚悟がしっかりできた、良い目ぇしてやす。

…あんたぁ良い男でやすねぇ、ユウ君…。あと十歳も上だったら、オイラぁ惚れちまってたかもしれやせんぜぃ?

「そんじゃあ、張り切って働きやしょうかぁっ!」

傘を構えたまま、オイラは太い脚でアスファルトを抉り、弾かれたように急発進しやした。

降り注ぐ羽根を傘で弾き、一気に間合いを詰めたオイラから、二羽の鴉が羽ばたいて逃げやす。

が、片羽根をもがれた方の鴉は、マナーモードを解除したオイラのスピードに対応できず、間合いに踏み込ませてくれやした。

オイラは詰め寄りながらも、傘の柄をカシャンと捻り、中に収めた得物を引き抜いてやす。

そして傘を手放し、得物をしっかり握り、右腕を上から下へ、垂直に振り下ろしやした。

鋭ぇ刃で左の翼を斬り落とされた鴉は、見開いた目でオイラの手元を凝視してやした。

鴉の目に映ってるそいつぁ、常は傘の中に収まってる、オイラ愛用の仕込み刀でさぁ。

超高密度、超硬度の片刃直刀は、重さはかなりありやすが、ライカンスロープを斬っても、その爪を受け止めても、曲がら

ず、折れず、欠ける事すらありやせん。

一刀で翼を斬り落としたオイラは、下から返す刃で鴉の喉を狙いやす。

鴉は後ろへ倒れるように体を逸らして、反射的に足を上げ、錐みてぇに鋭ぇ爪で刀を掴み止めようとしやしたが、その足は、

重てぇ刃であっさり切断されやす。

鴉が苦鳴を上げる暇も与えず、振り抜いた刀の切っ先が、その嘴を下から斜めに断ち割りやした。

あんたらぁここで、お果てなせぇ…!

切っ先を上から引き戻し、右の肩からみぞおちまでかっさばいた後、刀を両手に握り直して、左の肩へと斬り上げやす。

Vの字に胸を裂かれた鴉の喉を、横一閃にかっさばき、勢いそのままに体を捻ったオイラは、その顔面に思いっきり回し蹴り

を叩き込みやした。

切断された首がすっ飛んで行ったその先にゃあ、飛び退ったもう片方の鴉。

慌てて首を傾けたその頬を、同胞の嘴で抉られたやっこさんは、驚きに目を見開いてオイラを凝視しやす。

「じ、二郎丸が…!?馬鹿な…、き、貴様一体…!?」

「…むかぁしむかしの事でやす…。熊野三山、ヤタの御頭の膝元に集った、侠客揃いの鴉の中に、腕利きの三兄弟がおりやし

た…」

オイラが話し始めると、鴉はハッと息を飲みやした。

「ヤタの御頭もお目をおかけんなる、そりゃあ大した腕の三兄弟でやしたが、腕っ節の方はともかく、礼節はわきまえねぇ、

素行は悪ぃ、おまけに自分らの立場を良くする為に、目の上のたんこぶだった兄貴分を謀殺…」

話しながら、オイラは鼓動を整え、ガタが来た関節や筋肉を修復しやす。

カラスの方はってぇと、自分の素性をオイラが知ってた事に驚いたか、じっとこっちを見てやがりやす。

「結局、その謀りごとは露見しちまって、兄弟は群れを追われ、命からがら逃げ出しやした。…が、腐ってもヤタガラス配下

のライカンスロープ…、その腕前の方は、ひん曲がった性根とは別に確かなもんでやす。その後は、各地を転々と渡り歩き、

殺し屋稼業で飯を食うようになった…。で、ついた名前が「朱羽根の三羽鴉」、でやしたっけねぇ…」

何も、オイラぁ好き好んでこんな話をしてる訳じゃあありやせん。こいつぁ時間稼ぎでもあるんでさぁ。

「貴様…、一体何者だ…?」

瞳に映る警戒の色の中にも、微かに戸惑いを浮かべた鴉の問いに、オイラは口元を歪めて笑いかけやした。

「七篠鼓助…」

問われた礼儀として名乗った途端、鴉の目の色が変わりやした。

「なな、しの…?まさか…?用心棒、七篠!?」

どうやらオイラの事を知ってたようでやすが、詳しく話す義理も必要もありやせん。

オイラは大きく息を吸い込んで、腹を丸く膨らませやした。同時に鴉が地面を蹴って跳躍しやす。

丸く張った太鼓腹を、左の手の平でボムっと叩き鳴らした直後、刀を斜め後ろに引きながら、オイラは地面を蹴りやした。

翼を広げ、飛び上がって逃げようとした鴉が、音に捕まってグラッと体勢を崩しやす。

オイラの腹鼓は、アスファルトやポーチを叩くのなんかより、遙かに力を乗せやすい音を出せやす。

何より確かな自分の身体…、標的にしか聞こえねぇ程に、強い指向性を持たせて放つ事だってできるんでさぁ。

実際、さほど離れてねぇ位置に居るユウ君にも、力の影響は出てやせん。

さっきのコウモリみてぇな、相手を選ばねぇ音の使い方しかできねぇ輩は、オイラから見りゃあ三流以下でさぁ。

狸囃子で平衡感覚を狂わされ、逃げをうつのに失敗した鴉。その驚愕に歪んだ顔の上半分を、一気に迫ったオイラは、左手

で鷲掴みにしやす。

そして、逃がさねぇように捕らえた鴉の鳩尾に、右手に握った刀を突き込みやした。

刃を寝かした切っ先が、何の抵抗も無く滑り込み、背中に突き抜けると、目隠しされた鴉は、串刺しになったまま絶叫を上

げやす。

鴉の顔から左手を離して、両手で柄を握り直したオイラは、突き刺した刀をグリッと捻り、刃を上向きにしやした。

「あんたぁここで、お果てなせぇ…!」

そしてそのまま、鴉の胸に左足を当てて蹴っぱりながら、刀を真上に跳ね上げやす。

鳩尾から脳天までをスパッと斬られ、絶命した鴉は、翼と体を開いて、仰向けにぶっ倒れやした。

「す…、凄い…!」

刀を一振りして血を払い飛ばすオイラを見ながら、ユウ君が呆然としながら呟きやした。

さっきすっ飛んでったヨルヒコ君も、身を起こしかけた途中の格好で、口をポカンと開け、目を丸くしてオイラを見つめて

やす。

さぁて、ひとまず一丁上がりでさぁ。…と、気が弛んだ次の瞬間、カクンと、オイラの膝から力が抜けやした。

…あ、ありゃりゃ?こりゃやべぇ…!そろそろ限界みてぇでさぁ…!

狸のオイラに、人狼と互角にやりあえる程の身体能力を与えてくれる切り札、ドライブモード。

種を明かせば、人狼やら虎人なんかの、闘争に特化したライカンスロープが得意とする、高速戦闘対応能力の一種なんでやす。

脳の処理能力を上げて、心肺機能を限界までアップ。加えて全身のリミッターを解除するこいつぁ、通常の身体強化の限度

を超えるパワーとスピードを、一時的にオイラに与えてくれやす。

ただ、筋力は上がっても、体そのものが頑丈になるわけじゃあありやせん。

こいつを使えば、狸本来の身体耐久限度を遥かに超えた負荷を受ける事になりやす。

言ってみりゃあ、ツルツルのタイヤを履いた軽トラに、F1カーの中身を積んで走らせるようなもんなんでさぁ。

オイラの体がドライブモードに耐えられる限界は、せいぜい連続五秒程度…。

合間にクールダウンを入れねぇと、負荷で千切れちまった筋組織や、擦り潰れた関節の修復が間に合いやせん。

さっき鴉相手に無駄話なんかをしてたのも、実は休憩を入れる為だったんでさぁ…。

ついでに言うと、こいつぁ体だけじゃなく脳まで酷使しやすんで、あんまり使うと眠くなっちまうってぇ欠点もありやす…。

慌ててマナーモードに戻したオイラは、視界の隅で動いたモノに、注意を向けやした。

「っく…!くそっ…!」

さっきオイラが傘で殴り飛ばした鴉!?…不覚!もう意識が戻りやしたか!?

膝をついてたユウ君が、足を踏み出そうとして苦鳴を漏らし、膝を着きやす。

白い体は、食い込んだ無数の羽根のせいで、動くだけで傷が広がって、血が吹き出すような状態でさぁ。

なんとか立ち上がったヨルヒコ君も、さっきの衝撃で体が痺れてるのか、足を踏み出したとこでバランスを崩してふらつき

やす。

なんとか動けるのはオイラだけ…。正直なトコ、立ってるだけでキツいんでやすが、何とか仕留めねぇと…!

勝ち目はねぇと踏んだのか、鴉は翼を煽って、宙に浮き上がりやす。

二体仕留めたとはいえ、ここで逃げられちまったら厄介でやす!

憎々しげな表情を顔に張り付かせ、オイラ達を見下ろしながら高度を上げてく鴉。

オイラはやっこさんを見上げたまま、刀を手の中でクルリと返し、地面に突き立てやした。

そして、ポーチに手を突っ込んで…、って…?や、やべぇ!ドライブモードの反動で、手がプルプル言ってやす!

物をまともに握るのも難しいこの有様じゃあ、二寸玉を放ったトコで当たるかどうか!?

オイラが一か八か投げる決心をしたその時でやした。体を貫くような強烈な殺気が、不意に路地を覆ったのは…。

舞い上がり始めてた鴉は、オイラの後方、ユウ君よりもさらに後ろに、視線を向けやす。

そこに見た何かが、鴉がこの世で最期に見た物になりやした。

ギィンッ!ってぇ、大気を震わせる、ほとんど衝撃波になりかけた甲高ぇ音。

オイラは直後に起きた、その冗談みてぇな光景に、目を奪われやした。

鴉の後ろで、夜空を背景に、ビルの屋上の角が一辺2メートル程、バターみてぇにスカッと切り取られ、三角の塊になって

落下しやした。

地面に当たって粉々に砕けるビルの欠片。

その上に、スパンと、頭の天辺から股下まで、綺麗に真っ二つにされた鴉が、バサッと落ちて来やした。

「今のは…、断空(だんくう)…?まさか…?」

ユウ君が驚いたように呟きやした。

…こいつぁ、大気干渉型能力…?真空刃でやすか?

目に見えねぇ真空の刃を生み出すのは、大気に干渉する力の一種でやすが、それにしたってせいぜいが射程数メートル。

威力だって、太目の鉄パイプを切断する程度のもんでやす。

強靭なライカンスロープの体をあっさりと真っ二つにして、ビルの角をバターみてぇに切り落としちまう…。

こんな破壊力を持った刃を撃てるライカンスロープなんぞ、オイラの知ってる中にゃあ一頭も居やせん…!

驚きのあまり呆然としちまってたオイラは、いつのまにか、さっきの濃密な殺気が、ウソのように消えちまってる事に気付

きやした。

慌てて振り返ったオイラは、首を巡らしてるユウ君の姿をまず捉え、それから、その先の路地の闇に目を懲らしやす。

暗がりで、爛々と輝く一対の光…。

足音も無く、ゆっくりと月明かりの下に進み出たのは、筋肉の塊みてぇな、そりゃあ立派な体格の、巨漢の虎でやした。

熊のユウ君と比べても見劣りしねぇ巨躯の虎は、鋭ぇ眼光で路地を見回した後、オイラに視線を止めやす。

「…フータイさん…!?受け入れ希望者の迎えに行っていたんじゃ…!?」

ユウ君が口を開くと、虎はじろりと白熊を見遣り、その傷だらけの体を見据えて、「…ふん…」と、不機嫌そうに鼻を鳴ら

しやした。その直後、

「未熟者!」

腹の底に響く、肌がビリビリする程の怒声が、路地に響き渡りやした。

一喝されて、耳を伏せて目を瞑り、ぶたれたみてぇにビクッと身を竦ませたユウ君に、

「黙って見ておれば、あの程度の相手にその体たらく…!そこの男が居なければ、勝ちを拾うどころか返り討ちにあっていた

所だ…!お前は俺から何を学んでいるのだ?ユウ!」

虎はさらに厳しい言葉を投げつけやした。

「ご、ごめんなさい…」

ユウ君は可哀相な程に身を縮こめて、すっかりしょげ返った様子で項垂れやす。

白熊その様子を見た虎は、「…ゴホン…!」と咳払いすると、

「…とはいえ…、飛行能力を持つ輩との戦闘経験は、殆ど無かっただろうからな…。勝手が違うのもまた事実…」

と、ボソボソっと声をかけやした。

「まぁ…、逃げられそうになった事は褒められた物ではないが…、突き止め、追い詰めるまでは、良くやった…」

そっぽを向きながら虎がそう続けると、ユウ君は顔を上げて、短ぇ尻尾をフリフリしやした。

体の痺れがちっとは抜けたのか、少しふらつきながらも歩み寄って来たヨルヒコ君に、オイラは小声で尋ねやす。

「…何者でやすか?」

「ユウの先生の、黄虎太(ホァンフータイ)さん…」

あ〜…!オイラも名前だけは知ってやす。

確か、人間の組織に飼われてた、凄腕って評判だった殺し屋でさぁ。

もっとも、随分と前に名前を聞かなくなったんで、足を洗ったか、死んだもんだとばっかり思ってやしたが…。

そうでやすか、今は御前のトコに身を寄せてるんでやすね。

「い、いたっ!いたい!いたたたたっ!いたいですフータイさん!」

「我慢しろ」

フータイの旦那は、ユウ君の前に屈み込んで、体中至る所に刺さったままの、鴉の羽根を抜いてあげてやす。

血も涙もねぇ冷酷非情な殺し屋って聞いてやしたが、噂ってぇのは当てにならねぇもんでやすねぇ…。

涙目になってる白熊の体から、仏頂面ながらも、労るような光を目に宿して羽根を抜いてやってる虎を眺めながら、オイラぁ

つくづくそう思いやした。

あ、そうでやした。

「ヨルヒコ君。さっき言ってやしたけど、君の信念って、何でやすか?ユウ君と同じなんで?」

「ん〜…。ちょっと違うかなぁ…」

空を仰いだヨルヒコ君は、鼻の頭を爪の先で軽く擦りながら言いやした。

「俺、尊敬してるヤツが居るんだ。…ううん…、尊敬とか、憧れとか、色々混じってて、とても一口には説明できないんだけ

ど…。いつか、俺もああいう男になりたいって、そう思ってるヤツ…。俺にとっては、恩人で、兄貴分で、そして目標だ」

夜空を見上げる瞳に月を映して、銀色の若々しい人狼は続けやす。

「ソイツはさ…、自分の事をかなぐり捨てて、ヒトのために動けるんだ。バカがつくぐらいにお人好しで、気が良くて…、自

分の事なんか二の次にして、仲間を大切にする…。利口な生き方じゃないって、頭じゃ思う」

そこまで話した後、ヨルヒコ君はふっと、穏やかな笑みを浮かべやした。

「…けど…、アイツや、他の色んなヒトに支えられてここまで繋いだこの命。どうせ使うなら、アイツみたいな生き方をして

みようって、そう思うんだ。いつか追いつきたいアイツに、恥かしくない行動をする。それが俺の信念だ」

…なるほど…。憧れた相手に恥じるような生き方はしたくねぇ、と…。そういう事でやしたか…。

…なんだか、他人とは思えやせんねぇ…。

納得と共感。二人をより身近に感じて頷いたオイラは、ヨルヒコ君に笑いかけて…、

「っと…、ととっ…?んぐっ!」

気の利いた言葉の一つか二つ、かけようと思ったんでやすが、気が抜けたせいか、いよいよ限界に来てた膝がカクンと折れ

て、その場で尻餅をつきやした。

「わ!?大丈夫かナナシノさん?」

慌てた様子で屈み込んだヨルヒコ君に、オイラは頭を掻きながら応じやした。

「たははぁ〜…!いやぁ、心配はいりやせんよ…。ちぃっと気張った副作用でやして…、気ぃ抜けちまって足腰に来ただけで

さぁ…」

心配そうな顔をしてるヨルヒコ君に笑いかけてやると、おもむろに路地の先から足音が聞こえて来やした。

お嬢さん達でやす。シマウマさん、どうやら無事に逃げ延びて、助けを呼んでくれたみてぇでやすねぇ。

「ご無事ですか?ナナシノさん」

「オイラは何ともありやせんよぅ。それよりユウ君が…」

「平気です…!」

ユウ君はそう言って立ち上がりやしたが、傷が痛んだか、顔を顰めてふらつきやした。

傍らに立ったフータイの旦那が肩を貸すと、白熊君は情けなさそうに眉尻を下げやす。

さて、オイラも今日の所は引き上げて休んで…、って、足に力が入りやせん…!

立ち上がろうと四苦八苦してる、ドライブモードの反動でヘロヘロんなっちまったオイラの背に、銀色の腕が回りやした。

傍に屈み込んだヨルヒコ君は、視線を向けたオイラに笑いかけると、膝裏と背中に腕を当てて、オイラの体をグイッと抱き

上げやした。

「あ、ちょ、ちょいと、ヨルヒコ君!?」

「遠慮しない遠慮しない!車まで運ぶよ」

細身の身体ながら、やっぱり人狼でやす。上背はともかく、ボリュームで上回るオイラを軽々と抱き上げたヨルヒコ君は、

最初に会った時とはまるっきり違う、子供みてぇな人なつっこい笑みを浮かべてやした。

「いっぱい世話になったからな、これぐらいはさせてくれって!」

「い、いやそのぉ…、そ、そんな事までして貰う訳にゃあ…」

密着したヨルヒコ君の体は、細身ながらも筋肉がしっかりついてて、ギュッと引き締まってて…。

あ…、や、やべぇ…!なんか興奮しちまって、お、オイラ…!オイラぁ…!

「ん?」

オイラをお姫様抱っこした状態で歩き出して間もなく、ヨルヒコ君は足を止めて、視線を下に向けやした。

ベルトに乗っかる形の、ポッコリせり出したオイラの腹…。

その下には、柔っこいズボンの生地を押し上げる、こんもりした山…。

んぎゃーっ!気付かれちまいやしたぁああああああっ!!!

好みのタイプのヨルヒコ君に、お姫様抱っこなんぞされたもんでやすから…!お、おおおオイラぁ興奮して興奮してぇ…、

ついついおっきしちまったんでさぁっ!

「き、気にしねぇでおくんなせぇ!こ、こいつも副作用なんでやすよぅ!だ、だから、恥ずかしいでやすから、そそそ、そん

なマジマジ見ねぇでおくんなせぇ…!」

「あ、ご、ごめん…!そうなんだ…?」

オイラが慌てて言い繕うと、ヨルヒコ君は気まずそうな顔をしながらも、顔と視線を上げてくれやす。

…な、何とか誤魔化せやしたか…?

ヨルヒコ君に運んで貰って、バンの荷台に乗り込んだ後も、ヘロヘロに脱力しちまってる体とは裏腹に、オイラの愚息は、

しばらくの間ビンビンに元気でやした…。



「タマモ御前から、昨夜の事情を聞いた。本当に助かったと、礼を言われたよ」

明け方近く、ようやっと体力が戻ったオイラが、運んで貰った飯をかっ込んでるとこにやって来たお師匠は、口髭に覆われ

た口元を綻ばせながら、そうおっしゃいやした。

「礼なんて…。それよっか、面目ありやせんお師匠…。ちょいと気張り過ぎて、このザマでさぁ…」

オイラは耳を伏せながら、深々と頭を下げてお師匠に詫びやす…。

元はと言やぁ、オイラがこっそりCDショップに行こうとしたのが事の発端でやした。

結果的にはヨルヒコ君とユウ君を助けて、相麻の狼藉者共に泡ぁ吹かせてやれやしたが…、そいつぁあくまで結果論、オイ

ラが軽率な行動を取った事にゃあ変わりありやせん…。

「そう落ち込むな。それはそうと、もうしばらく滞在して行く事になった。クランケも次々到着している事だしな。腰を落ち

着けて治療に専念するにも、良い環境である事は確かだ」

オイラは顔を上げて、お師匠の顔を見やした。

「容態はどうなんでやしょう?オイラが行っても手伝えやすかね?」

「そちらは大丈夫だ。そなたには…、悪いが一時、ここの狩人の代役を担ってやって貰いたい」

「代役、でやすか?オイラはもちろん構いやせんが、そう長い事滞在なさるんで?お師匠にも、会いに行きてぇ御仁が居なさ

るんでやしょう?」

オイラは首を傾げながら訊ねやす。

当初の予定じゃあ、ここには二泊だけご厄介になるはずでやした。

ってぇのも、お師匠のお弟子さん…。オイラから見りゃあ兄弟子に当たる訳でやすが、その御仁に会いに行くってぇ予定が

あったからなんで…。

「いや、大丈夫だ。そうは手こずるまいよ。そろそろ遠征の方の決着がつき、狩人達も帰ってくるらしい。それまでだな」

お師匠の言葉に、オイラは目を丸くしやした。

「ヤチの野郎も、もうじき帰ってくるんでやすか?」

「そうらしいな。会いたいかね?」

「べ、別に会いたくなんかありやせんよ…」

そりゃあまぁタイプでやすが…、嫁さん貰った以上、ちょっかいかけるのも気が引けやす。…それに…。

オイラは胸元のハングドクロスを摘み上げて、鼻先で揺らしながら眺めやした。

…別に、寂しがってなんかいやせんぜ?



その日の夜の事でやした。

オイラが意外な相手から、ホテルの地下、事情を知ってる同志しか入れねぇ区画のバーに呼び出されたのは…。

「…飲め…」

カウンターにドンと置かれた一升瓶を前にしたら、オイラのモサっと太い尻尾が、勝手に振り子運動を開始しやした。

「おおおおおお…!秋津じゃあありやせんか!ホントに頂いちまって良いんで!?」

驚きながらラベルを見つめるオイラに、カウンターの向こうの虎は、漆塗りの枡をあてがってくれながら頷きやす。

「遠慮は要らん。少ない客もビールやカクテルばかり好む。四本確保はしたが、あの雌狐と俺以外は誰も飲まんから、あまり

減らんのだ」

瓶を掴み、枡にトトトっと注いでオイラに勧めると、フータイの旦那はカウンターの下から、小振りな素焼きのお猪口を取

り出しやす。

カウンター席に着き、酒瓶を掴んで、今度はオイラが注いでやると、フータイの旦那は小さく咳払いしやした。

「ユウが、随分と世話になった…。礼を言う…」

「んん?あぁ、気にしねぇでおくんなせぇ。オイラはオイラで、御前にご厄介になってるんでやすからねぇ。ちょいとした恩

返しでさぁ」

なるほど。オイラを呼び出したのは、礼の為でやしたか…。

フータイの旦那は、時々ここでバーテンをやってるらしいんでさぁ。ま、来る客は皆同志な訳でやすが…。

オイラ達は言葉も無く乾杯して、チビっと酒を啜りやした。…くぁ〜っ!やっぱり違いやすねぇ!

生ハムとチーズを肴にあてがってくれたフータイの旦那は、カウンターの向こうからオイラを見据えて、ぼそっと尋ねて来

やした。

「お主から見て、ユウはどうだった?」

「どうって…、どういう意味でやすか?」

訊き返したオイラから視線を背け、フータイの旦那は難しい顔で酒を煽りやした。

「…戦い方等、意見を聞きたい」

「なんでオイラからなんでやす?ってぇか、旦那がユウ君を仕込んでるんじゃあないんでやすか?」

愚問でやす。闘争そのものの腕前で言うなら、ユウ君とヨルヒコ君は、他んトコの狩人達にも引けを取りやせん。

「音に聞こえた用心棒、七篠鼓助の意見を聞きたい。ユウの腕がどう見えたか…」

オイラに視線を戻して言った旦那の目には、興味深そうな光が灯ってやす。

「かなりのモンでさぁ。恥ずかしながら、オイラ一回のされちまいやしたよぅ…」

ユウ君が人間の格好で、一発でオイラを昏倒させてのけた時の状況を話してやると、フータイの旦那はまんざらでもなさそ

うに口の端を吊り上げやした。

「無駄に殺さず。無駄に傷付けず。それがモットーらしいが、果たしてそんな甘い事で、狩人など務まるものか…」

不満げな言葉とは裏腹に、旦那の口調は穏やかなもんでやす。

ちょうど、問題のある自分の子供の事を、それでも可愛いと思いながら他人に話してるような…、そんな柔らけぇ感じでや

した。

「たぶん大丈夫でやしょう。あの若ぇお二人、ただ甘いわけじゃねぇ…。必要なら奪う事も、失う事も躊躇わねぇ…、そんな

覚悟をキッチリ決めてるみてぇでさぁ…」

オイラはその夜遅くまで、客が居ねぇバーのカウンターで、口数の少ねぇ虎人と、楽しい酒を酌み交わしやした。



それからの日々、オイラはヨルヒコ君とユウ君を伴って、指導がてら、相麻の傭兵共を迎え撃って回ったり、フータイの旦

那と一緒に相麻からの脱出組を迎えに行って護衛したりと、それなりに多忙な日々を送りやした。

一所に腰を据えるってぇのが久々なもんで、慣れるまで少々かかりやしたが、住んでさえみりゃあこの東京ってぇ街も、な

かなかに楽しい街でさぁ。

喧嘩腰の怒鳴り声に、必死に客を引き止める呼び声。

信号機に従って、右に左に雪崩打つ、活気に満ちた人の波。

赤と黄色と青色の、ストップサインとゴーサインで動く車の列。

息に足音、エンジン音に信号の音、どこかから流れてくる流行の歌に、車のクラクション…。

規則正しく、でもちょいと混沌としたこの街が奏でる曲を楽しみながら、不肖、七篠鼓助、この街で、狩人の代役を務めさ

して貰ってやす。