あたしの白夜(後編)
ビャクヤは寝室のランプに手をかけると、可動式のフードで隙間を調節して、光量を抑えた。
その背中を見ながら、あたしはパジャマのボタンに手をかける。
…ドキドキと…胸が鳴ってる…。嬉しさと緊張、不安と期待が混じり合う…。
微熱でもあるように少し火照ったあたしの肌は、うっすらと汗で湿っていた。
一番上のボタンを外そうとしたその時、振り返ったビャクヤは、
「あ!ちょ、ちょっと待って!」
と、なんだか少し焦っているように声を上げて、あたしに歩み寄った。
「その…、ぼ、僕が…、脱がせてあげたいんだけど…」
ビャクヤは胸の前で指を組ませ、モジモジと動かしながら、伏目がちにチラチラとあたしの顔を伺って来た。
まるで「ダメ?」と、懇願しているようなその目は、実に可愛らしかった。
あたしは恥ずかしいながらも微笑み、コクリと頷く。
そっと持ち上がるビャクヤの手、その太い指が、あたしのパジャマのボタンにかかる。
夏用パジャマの薄い生地越しにビャクヤの指が触れて、ピクンと体が震える…。
「あ、あれ…?向きが逆だからかな…?け、結構難しいね、相手の服を脱がせるのって…」
緊張しているのか、なかなかボタンを外せなくて、ビャクヤは恥かしそうに小声で言う。
手馴れていないその様子が、なんだかとっても可愛くて…、あたしは思わず顔を綻ばせていた。
世間と関係の無い生活を送っているせいか、もうじき36になるけれど、ビャクヤは若々しい。
口調がそう感じさせるのか、それとも犬の顔だから歳が実感できないのか、あたしには、ビャクヤはせいぜい二十代前半の
若者っぽく感じられる。
でも、今日は特別若く見える。若くっていうか、なんだかちょっと幼く見える。
あたしの倍近く生きているはずなのに、緊張して硬くなっているビャクヤは、まるで同じ年頃の少年のようで…。
「ご、ごめんね?手際悪くて…」
あたしの笑みを、手際の悪さを笑われていると勘違いしたのか、ビャクヤは決まり悪そうに謝った。
「ううん…。気にしないで、あたしだって初めてなんだから…」
そう。あたし達はお互いに「初めてのひと」なんだ。そう改めて考えたら、ちょっと気が楽になった。
上手くないだろうし、失敗だらけだろうけれど、それがなんだって言うの?
お互いの初めて。たった一回しかないそれが重なった事は、きっと、とても幸運な事なんだと思う…。
もたもたとぎこちない動きで、やっと一番上のボタンを外したビャクヤの手に、あたしはそっと手を重ねた。
ビックリしたようにあたしの顔を見たビャクヤに微笑みかけ、あたしはその白くて大きな手を、次のボタンの所へ導く。
指をパジャマの合わせ目の中にそっと入れさせると、ビャクヤは慎重な手付きでボタンを引っ張り込み、外した。
すんなり外れたら、ちょっと驚いたような顔をして、ビャクヤはあたしに笑みを返した。
少し緊張が解けたのか、ビャクヤはそこから順番に、あまり手間取らずにボタンを外していった。
やがて、パジャマのボタンが全部外れると、ビャクヤは開けたばかりの前を、まじまじと見つめて来た。
ボタンが外れて開いたパジャマの前、その隙間からは、ブラジャーをした胸と、うっすらと朱がさし初めている肌が覗いて
いる。
ビャクヤはあたしのパジャマの両肩をつまんで、おっかなびっくりといった様子で、そろそろと脱がせ始めた。
あの…、むしろバッとやってよバッと…。そんな風にされると、なんだか焦らされてるみたいで、かえって恥かしいわよ…。
上を脱がせた後、ブラジャーだけになったあたしの上半身を見たら、ビャクヤは小さく息を吸い込んだきり、目を大きくし
て動きを止めた。
呼吸をするのも忘れてしまったように、じっとあたしの体を見つめてくる、長い前髪の奥の瞳…。
「…綺麗だね…、アサヒちゃん…。すご…く…」
やがてビャクヤは、目を細くしてふぅっと息を吐き、そう、小声で呟いた。
…嬉しくて、恥ずかしくて…、あたしの顔は…、カーッと熱くなった…。
屈んだビャクヤがズボンに手をかけると、あたしはその広い肩に手を置いて、交互に脚を上げてズボンから抜いた。
なんだか不思議な気分…。初めての事で、ビャクヤからも何も言われていないのに、考える前に体が動く。
でも、そうした動作にぎこちなさは無くて、とてもスムーズで、自分でもなんとも自然な感じがした。
身を起こしたビャクヤは、下着だけになったあたしを前にして、ゴクッと、大きな音を立てて唾を飲み込んだ。
…興奮してくれてるんだ…。あたしの体を見て…。
ブラジャーのフロントホックに両手の指をかけたビャクヤは、慎重な、そして不慣れな手つきでそれをゆっくりと外す。
ビャクヤの手の甲が胸の先端に当たって、あたしは少し身を固くする。
ブラジャーの拘束を解かれ、ぷるんっと揺れた胸を、ビャクヤはまじまじと見つめた。
…ビャクヤの息…、少し、荒くなってる…。
無理矢理といった様子で胸から視線を外したビャクヤは、次いで再び屈み込んで、あたしのパンティーに手をかけた。
ズボンの時と同じように、あたしはビャクヤの肩に手を置いて、するすると降ろされたパンティーから脚を抜く。
衣類を全て脱がされたあたしが身に付けているのは、胸の谷間に下がったフクロウのペンダントだけ…。
立ち上がって、またゴクンと喉を鳴らしたビャクヤは、自分のトランクスに手をかけた。
「待って」
今度はあたしがビャクヤに声をかけ、動きを止めさせる。
「あたしに、脱がさせて」
ビックリしたような顔をしたビャクヤの前で、あたしは腰を折ってトランクスに手をかけた。
抵抗するかとも思ったけれど、ビャクヤは意外にも、すんなり受け入れてくれた。
柔らかな、出っ張ったお腹の下、ビャクヤ手作りのトランクスの紐を解いて、中に指を入れたあたしは、ぐっと引っ張り降
ろした。
が、トランクスが何かに引っかかって、ビャクヤが「うっ…!」と、ちょっと苦しそうな声を漏らす。
…何に引っかかったのか、解った…。解ったら、顔がカーっと熱くなった…。
「ご、ごめんビャクヤ…!慣れてないから、その…!」
「だ、大丈夫…。平気…!」
言い訳しつつ、不器用に、ぎこちなく、前に引っ張りながらずりずりとトランクスを引き降ろすと、ビャクヤのソレが姿を
見せた。
ぽこんと突き出た丸いお腹。その下でむちっと張り出し、段になっている三角の下っ腹。
さらにその下で、フサフサ長い毛の中から、立派な物が顔を出している。
さっきとは違って、大きくなって上向きになっているそれは、ビャクヤの鼓動に合わせてか、リズムを取ってピクン、ピク
ンと動いていた。
「あ、アサヒちゃん…、そんな至近距離でまじまじ見られると、そのぉ…」
声をかけられて気付いたけど、あたしはトランクスを半分降ろしたその格好のまま、覗き込むようにしてビャクヤのソコを
凝視していた…。
ちょっと焦りながら手の動きを再開して、あたしはビャクヤのトランクスをずりずり、ずりずりと降ろし、片足ずつ上げさ
せて脱がせた。
…裸になるまでに…、こ、ここまで興奮するなんて…。大丈夫かしら、あたし…?
やっとお互いに裸になった後、あたし達は近距離で向き合い、その姿を眺めあった。
やがて、ビャクヤはそっと手を伸ばし、あたしの首から下がるペンダントをするりと外す。
あたしから離れたフクロウを、ベッド脇の小さな机の上にあっちを向かせて置くと、ビャクヤはあたしの目を見つめて口を
開いた。
「…本当に、良いんだね…?アサヒちゃん…」
期待、不安、緊張、嬉しさ…。入り交じる感情で鼓動を高鳴らせながら、あたしはゆっくり、大きく頷いた。
突然だった。ビャクヤが動いたのは。
がばっとあたしの背中に腕を回すと、抱き寄せながら唇を重ねて来る。
唇を割って侵入した舌が、あたしの口の中を掻き回し、舌にからみつく。
荒々しい。そう言って良い、熱くて深い抱擁と口付けの中、あたしはビャクヤの荒い鼻息を顔に浴びながら、脳の芯が痺れ
るような快感に酔いしれた。
強く、きつく抱き締めて来るビャクヤの腕が、「もう放さない」と言ってくれているようで、とても嬉しかった…。
長い、激しいキスの後、ビャクヤは唇を離し、間近であたしの顔を見つめる。
潤んだ瞳でその顔を見上げながら、あたしはその瞳に、吸い込まれそうなほどに惹き付けられた。
初めて見る、せっぱ詰まったような、余裕のない瞳…。
「先に謝っておくよ…。は、初めてだから…、僕、間違いなく下手だから…。おまけに、その…、も、もうあんまり、余裕も
なかったり…」
「ビャクヤ?」
「うん?」
「目がちょっとコワいんだけど?」
「う!?ご、ご、ごめん!」
ビクッと身を引いて後ずさったビャクヤは、ベッドに膝裏をぶつけて、シーツの上にドスンと尻餅をついた。
気まずそうに頭を掻いた後、ビャクヤは眉根を寄せて困り顔になる。
「…もう余裕無くて…、いっぱいいっぱい…。魅力的過ぎるよ、アサヒちゃんは…」
困り顔で言われたそのセリフは、あたしをノックアウトするに十分過ぎる破壊力を持っていた…。
あたしはビャクヤに歩み寄って、
「んぐっ!?」
今度は自分から、彼の唇を奪った。
不意を打たれたビャクヤは、目を丸くしてビクンと体を震わせる。
ビャクヤの口の中に入れた舌で、人間とはだいぶ違う鋭い歯を、上顎や舌の裏を、ぐりぐりと舐め回す。
初めてで、上手くできているか自信はなかった。けど…。
「んっ、ふぅっ…、うっ…!」
唇を塞がれたビャクヤは、感じてくれているのか、荒い息と呻き声を漏らす。
唇を重ねたまま、ビャクヤはあたしの背中に腕を回し、抱き締めてくれた。
乳房がビャクヤの胸に密着して潰れる。強引に引き付けられ、足が床から離れる。
抱き締めたあたしを、ビャクヤはそのまま横に倒れこむようにして、ベッドの上に下ろした。
押し倒すように…、のし掛かるようにして…。
顔を離したビャクヤは、仰向けになったあたしの首筋に鼻を寄せ、舌で舐めた。
ゾクっとした物が背筋を駆け上り、その気持ち良さに、あたしは思わず、「あっ!」と、高い声を漏らしてしまった。
ビャクヤの熱い吐息と舌が、首、肩、乳房の上を刺激してゆく。
ベッドに両手と膝をつき、あたしの上に覆い被さったビャクヤは、まるで仕留めた獲物を貪る獣のように、ピチャピチャと
音を立てて、あたしの体を舐め回してゆく。
熱い息と舌がもたらすこそばゆさと快感に責められながら、我ながらあながち間違った比喩でもないなぁと、頭の片隅で思う。
あたしはもうとっくの昔に、ビャクヤに仕留められてしまっていたのだから…。
「あんっ!」
「ご、ごめん!痛かった!?」
鎖骨を甘噛みされたあたしが声を上げると、ビャクヤはビックリしたように口を止めた。
「だ、大丈夫よ…。うん…、気持ち、いい…」
恥じらいながら答えたあたしを、キョトンとした顔で見つめた後、ビャクヤはボソッと囁いた。
「…可愛い…、アサヒちゃん…」
いつもの声とは違う、熱っぽさを伴った甘い囁き…。
たった一言の言葉だけでもあたしの脳をとろかしたビャクヤは、間髪入れずにあたしの右の乳房に口を当てた。
「ひっ…!あぁんっ!」
硬くなった乳首に、唇が強く吸い付く。舌が乳首を転がす。尖った歯が甘く噛む。乳輪をほじくるように舌先が動く。
間断なく与えられる、頭がおかしくなりそうな快感に、あたしは必死になって耐える。
ビャクヤは右の乳房から口を離すと、間を置かずに左の乳房に吸い付いて来た。
食べられてしまうんじゃないか?と思ってしまうほどに強く乳首を吸われながら、あたしは両手をビャクヤの首に回し、き
つく抱き締めた。
存分に味わって欲しいと思う反面、自分が限界ぎりぎりである事を悟ったあたしは、息も絶え絶えにビャクヤに懇願した。
「ま、待っ…あんっ!…待ってビャクヤ…!んっ!…ちょっと、ちょっとだけ…!」
喘ぎ声混じりに必死にあげた声に、ビャクヤは動きを止めてくれた。
「ご、ごめん…!つい夢中になって…。やっぱり、痛かった?」
苦痛に感じて中断を要求したと勘違いしたのか、ビャクヤは少し慌てたような声を漏らす。
「違うのよビャクヤ。あの…、あのね?」
身を離したビャクヤを、あたしは後ろに手をついて身を起こし、ちょっと恥じらいながら、上目遣いに見つめた。
「あ、あたしにも…、ビャクヤの体…、触らせて…」
目を丸くしたビャクヤに、あたしは続ける。
「あたしも…、ビャクヤを気持ち良く、させてあげたいから…」
そう。このまま一方的に弄られるのはまずい。
今日というこの日のために、これまでも色々と勉強してきたんだから…。
このままじゃあたし、その学んだ中の単語でいうところの「マグロ」だ。
「…い、良い…の?その…、初めてなんでしょ?男の体とか…抵抗とかあるんじゃ…?まして僕は人間でもないし…」
「初めてなのはお互い様じゃない」
「うっ!?」
「前にも言ったけれど、あたしはビャクヤが好きなの。人間とか、ライカンスロープとか、小さな違いよ」
これだけは、どんな時でもどんな状況でも、はっきりと、胸を張って言える。
きっぱりと言い切ったあたしの前で、ビャクヤは何故か体を小さくして、俯き加減になる。そして、
「そ、それじゃあ…、よ、よろしくお願いします…」
と、上目遣いにあたしを見ながら頷いた。…何故かいやに低姿勢で…。
仰向けに寝て貰ったビャクヤの胸に、あたしは顔を埋めた。
ふさふさの毛の中に埋まった乳首を探り当て、口に含む。
「んっ…!」
小さく声を漏らしたビャクヤの乳首は硬くなっている。
良い匂い…。それと、これがビャクヤの味なんだ…。
柔らかい出っ張ったお腹をさすって、そこで窪んでいるお臍に指を入れてみると、大きな体がピクンと震えた。
指先で反対側の乳首を摘み、優しく揉むと、
「あ、アサヒちゃん…。僕と違って、上手だね…。初めてなのに…」
ビャクヤはなんだか少し可笑しそうに言った。
「気持ちいい?」
乳首から口を離し、顔を覗き込みながら尋ねると、ビャクヤはトロ〜ンと表情を緩ませて頷いた。
…良かった。本当に気持ち良さそう…。
自信をつけたあたしは、ビャクヤの大きなフカフカの体を撫で回し、そろそろと移動してゆく。
世間一般で言うなら、ビャクヤは肥満だろう。最近何処でも叩かれるメタボ体型というヤツだ。
実際には、たぶん中に詰まっているのは筋肉の方が多いだろうけど…。
常識的に言えばスタイルが良いとは言えないはずのビャクヤ。
でもあたしには、ビャクヤのどこもかしこも、愛おしくて仕方ない…。
そして…、あたしはビャクヤが放りだしている両脚の間、ソコへと視線を向けた。
屹立したビャクヤのソレは、文字通りの立派な逸物だ。
硬くそそり立ったままのおちんちんの先は、漏れ出た液体で漏れている。
あたしは熱っぽくなっている息を吐き出しながら、ビャクヤのそこにそろそろと顔を近付けた。
気配を悟ったのか、ビャクヤは首を上げる。
そして、自分のソレを見ているあたしを見つめ、苦笑いしながら口を開いた。
「…そんなに何度もじっくり見ないでよ…。…さっきから、ずっと興奮しっ放しなんだ…」
あたしは少し躊躇ってから、おずおずと口を開いた。
「…さ、触ってみても…、良い…?」
ビャクヤはちょっとの間黙って、それから恥かしげに頷いてくれた。
ゆっくりと手を伸ばして、太いソレのさきっぽに、そっと指先で触れてみる。
「んっ!」
濃いピンク色の亀頭にあたしの指先が触れた途端、ビャクヤは呻くような声を漏らして、目を閉じて口元を引き結んだ。
同時にひくんっと、ビャクヤのソレが震える。…ヌルっとした液で湿ってるここ…もしかして凄く敏感…?
あたしはそこに触れるのをやめて、棒の方に触れてみた。太いそれは脈打っていて熱い…。
そっと握ってみると、脈動が強く感じられる。とても熱くって、時々ヒクヒクと動いてる。
まじまじと見ているあたしを、首を起こしたビャクヤは恥かしげな表情で見つめている。
なんだか、かわいい…。ビャクヤも、コレも…。
丸々とした濃いピンクのそれをあたしが指でなぞったり、サワっと撫でたりする度に、仰向けになっているビャクヤは体を
ピクっと震わせて、そのはずみで、呼吸で上下してるまん丸お腹が揺れる。
ビャクヤ、感じてるんだ…。引く結んだ口から、時々「んっ…!」とか声を漏らすのが可愛い…。
何て言うんだろう?初々しくて可愛い?…ま、あたしも初めてなんだけど…。
しかし、あたしはすぐに、興奮がいっぺんに吹き飛ぶようなその事に気付いた。
この…、太くて大きいビャクヤのこれ…。
…これから…、あたしの…中に…、…その…入る…のよね…?
ゴクリと唾を飲み込み、あたしは改めてソレを見る。…言うなれば…超特大ナスビ…?
今更アレなんだけど、不安になってきた…。
ちゃんとあたしのアソコに入るんだろうか、コレ?…っていうか入っても大丈夫だろうか?
「ねぇ、アサヒちゃん?」
「ん、ん!?何っ!?」
あ…、声が裏返った…。
慌てて返事をしたあたしを、ビャクヤは腕を背中側について身を起こしながら見つめた。
「無理しなくて良いんだよ?怖かったり、不安なようなら、無理する事なんて無いんだからね?」
あたしが不安になっている事を見抜いたのか、彼はそんな事を言い出した。
「でも…」
「気にしちゃダメだよ。僕はほら、筋金入りの童貞…だか…ら…、…その、気長に待てるから…」
自分で発してしまった自虐的なセリフに、若干ヘコみつつ、それでもやや引き攣った笑みを浮かべて見せるビャクヤ。
でもその言葉はウソだってすぐに判った。だって、本当にしなくて平気なら、自慰なんかしてないはずだ。
それに、ビャクヤのアソコは今も、ヌメヌメしたよだれを流して興奮してるし…。
性欲よりも優先して、あたしを気遣ってくれるのは正直嬉しかった。
…でも、ここで甘えたら女がすたるわ…!
何よりも、後日、お堅いビャクヤの気が変わってしまったら、またこういった状況に漕ぎ付けるまでが大変になる。
あたしは心の中で自分を叱咤して、ビャクヤの顔を真っ直ぐに見つめた。
「ビャクヤ」
「ん?」
「入れて」
ぶふぅっ!と、ビャクヤは盛大に吹き出した。
「ちょっ…、アサヒちゃん…?何ていうかこう…、ストレートな…!」
驚いたような呆れているような顔で呟いたビャクヤに、
「う、うん…!あ、あたしも…自分で言ってから、もっと他に言い様は無かったのか、って思った…!」
顔から火が出そうになって俯きながら、あたしは頷いた。
「でもね、こうでも言わないと、いつまでもビャクヤ、本番に移ってくれないでしょ?」
ビャクヤは困り顔で、それでも微笑みながら、鼻の頭を掻いた。
「…解った。でも一つ言っておくよ?無理はなし。嫌になったらすぐに言ってね?」
頷いたあたしの前で、ビャクヤはベッドの上に座り直した。
そして、あたしを優しく抱きかかえ、ベッドの上にそっと押し倒す。
大きな体であたしを押し潰さないように、左手をベッドについたビャクヤの口が、あたしの口を塞いだ。
あたしは両腕をビャクヤの首に回して、そのキスを受け入れる。
今度はそれほど激しくない、優しいキスを交わしながら、ビャクヤの右手が、あたしのソコに伸びた。
随分前から湿りっ放しのソコを、ビャクヤの太い指がまさぐる。そして、探り当てた指が中に入り込んでくる。
「ひぅっ!」
声を漏らして身を震わせたあたしの口を、ビャクヤは強く吸った。
上の口と下の口に、それぞれ舌と指が侵入する。
あたしのソコが、ビャクヤの指でゆっくりとまさぐられる。かき回される。拡げられる。
下腹部…、さらにその下から突き上げる快感と圧迫感に、口を塞がれたあたしは呻き声を漏らす。
その時だった。初めて体験する感覚が、あたしの体を貫いたのは。
「んうぅっ!」
指の腹を上に向けて挿入されていたビャクヤの指が、あたしの内側のとある部分を、そっと擦っていった。
口を塞がれたあたしは、くぐもった声を上げる。
ビャクヤは熱い鼻息をあたしの顔に浴びせながら、少し嬉しそうに目を細めた。
そして、何度も何度も、ソコを指の腹で刺激する。
…後から知ったのだけれど、その部位があたしのGスポットらしい。
ビャクヤはその位置を確かめて、的確にあたしを責めた。
太い指で弄り回されたあたしのアソコは、もうグチョグチョになっている…。
しかも長い、長いキスで口を塞がれたままなので、息も絶え絶え…。
どれほど弄られただろう。ビャクヤはやっと唇を離すと、あたしの頬に自分の頬を擦り付けた。
それからあたしの腕を優しく解くと、膝立ちになってあたしの体を見下ろす体勢になった。
そして、少し後ずさってあたしの両腿を持ち上げて股間に顔を埋め、不意に…。
「んっ!あっ…!あんっ…!」
さっきまであたしの口の中をまさぐっていた舌は、ソコを割って中に侵入して来た。
ピチャピチャと音を立てて、ビャクヤはあたしの濡れた股間を舐め続ける。
こそばゆく、痺れを伴う感触に、あたしは甲高い、悲鳴に近い声を上げた。
「あっ!ひっ…!あ…!あぁぁぁああっ!」
舌先であたしのなかをまさぐり、十分に味わったあと、ビャクヤは身を起こした。
そして、目尻に涙を浮かべながら息を弾ませているあたしの顔を見下ろす。
「…そろそろ良い?それとも、止めておく?」
気遣ってくれているんだろうけれど…、それ、ちょっと意地悪な質問よ?ビャクヤ…。
「来て、ビャクヤ…」
あたしは緊張しながらも、微かに笑みを浮かべて頷く。ちょっと可笑しくて、そして嬉しくて…。
何でって?…だって、ビャクヤったら凄く物欲しそうな目をしてて、興奮した顔もしてて、それでもあたしに断りを入れる
んだもん…!
ビャクヤはあたしの脚を大きく広げさせて、上に覆いかぶさって来た。
アソコに、硬くて熱い何かが当てられた。そして、それがあたしの秘所をグっと押してくる。
そう感じたのはほんの短い間だった。
秘所を押されていた圧迫感が唐突に弛み、ズッという音と、擦れるような何かを感じた。
「いっ!?あぁぁあああああああああっ!」
次の瞬間、あたしは凄まじい痛みに悲鳴を上げていた。
ソコを押し拡げながら、ビャクヤの太くて硬い逸物が、中に入って来る…!
体が、お腹が、アソコが引き裂かれたかと思うような、初めて経験する激痛…!
痛いという事は知識では知っていた。初体験ではなおさらそうだという事も。
…でも、まさかここまでとは思ってもみなかった…!
逃げ出したくなる程の激痛の中、しかしあたしは歯を食い縛って悲鳴を押し殺した。
でないと、あたしを心配したビャクヤが、途中で止めてしまいそうな気がして…。
「あ…!す、凄く…うっ!…や、柔らか…い…!」
ビャクヤは震える声で囁き、フルルっと体を震わせた。
「くっ…、ひっ…!んぅうっ…!」
声を押し殺すあたしの上に、のしかかったビャクヤが軽く体重をかける。
柔らかなお腹が、胸が、長い体毛が、あたしの体を包み込むように軽く圧迫した。
ビャクヤの顔が、あたしのすぐ上にある。…ビャクヤも興奮してるんだ…、息が荒い…。
「ごめんね…、アサヒちゃん…。凄く…、気持ち良くて…、ぼ、僕…、我慢が…!」
そっと囁いたビャクヤは、軽く口付けした後、ググッと、ゆっくり腰を引き付けた。
「んぐぅっ…!いっ…!んんんっ…!」
あたしは必死になって、頭がどうにかなりそうな痛みに耐える。
熱くて太いソレは、あたしをゆっくりと押し開き、どんどん中に入って来る。
奥へ、奥へとゆっくり入り込んできたビャクヤのおちんちんは、やがて、根本まで全て入り、あたしを完全に貫いた。
「ひっ…!いあぁぁぁあああああああああああああああああああああああああっ!」
我慢は限界だった。あたしはビャクヤの体にしがみ付き、喉が裂けるかと思うほどの悲鳴を上げた。
痛みから、そして嬉しさから。
快楽はまだ無い。今はただただ痛いだけ…。でも、脈打っているビャクヤ自身の感触が、お腹の中にはっきりと感じられる
事が、あたしにはとても嬉しかった。
今、あたしとビャクヤは繋がっている。ビャクヤのおちんちんは、完全にあたしの中に埋まっている。
待ち焦がれた。想い望んだ。夢にまで見たビャクヤとの初夜…。
あたしを気遣ってるんだろう。深く突き入れた後、ビャクヤは動きを止めた。
あたしは泣き叫びながら、フカフカ柔らかいビャクヤの胸に顔を埋め、太い胴に腕を回して、必死になってしがみ付いた。
不思議だけど、しがみ付いた事で、いくらかは楽になったような気がする…。
長い悲鳴を吐き終えたあたしは、お腹の中でトクン、トクンと脈打っているビャクヤを感じながら、息を整える。
「アサヒちゃん…、大丈夫…?」
「う…ん…。も…、へい、き…」
何とか答えたあたしの上で、ビャクヤは「はぁ〜…」と長く息を吐いた。
「アサヒちゃんの中…、凄く、柔らかくて…、気持ち良い…。こんな風になってるなんて、思ってもみなかった…」
ビャクヤのおちんちんの熱なのか、それともあたしの中が熱をもってるのかは解らない。
お腹の中がカッカしてて、中に入り込んだビャクヤ自身が脈打ってるのが、はっきりと解る。
「続け…て…、ビャクヤ…」
「ん…。じゃあ、い、いくよ…?」
ビャクヤは短く頷いた後、ゆっくりと腰を引き、またゆっくりとあたしの中に突き入れた。
「あっ!ひあ!あ、あっ!ビャクヤ…、ビャクヤぁっ!」
激痛、圧迫感、脈動の感触、そして熱…。
あたしはビャクヤのソレから様々な物を与えられながら、悲鳴交じりの声を上げた。
「いっ!んぅっ!あ、熱っ…!ビャクヤ!好き…!愛して…るぅっ…!ビャクヤ、ビャクヤぁぁあああっ!」
喜びから、苦痛から、そして僅かに覚え始めた快感から、あたしは高い声を上げ続ける。
「はっ!はっ!あ、アサヒちゃん…!気持ち良い…!こ、こんなの、初めて…!ぼ、僕、どうにかなっちゃい…そう…!」
ビャクヤのおちんちんが抜き差しされるあたしの秘所が、じゅぷっ、じゅぷっと、湿ったいやらしい音を立てているのが、
こんな有様になっていても恥かしく感じられた。
ビャクヤは腰の動きを少しずつ速めていった。
…いや、もしかしたら我慢できなくなってきたのかも…。
「はぁ、あ、アサヒ…ちゃん…!はぁ、僕…、ふぅ…!僕も…君が好き…!愛してるよ、アサヒちゃん…!」
息を乱したビャクヤの囁きが、あたしの脳を溶かす…。
…嬉しい…!ビャクヤが…、あのビャクヤが…、やっと、やっとあたしを女にしてくれたんだ…!
あたしの体で興奮してくれるんだ…!好きって言ってくれるんだ…!愛してるって言ってくれるんだ…!
ビャクヤの動きはどんどん激しくなり、あたしの胸は大きく揺さぶられて震える。
ビャクヤのポッコリしたお腹が、垂れ気味の胸が、ゆさゆさと揺れている。
「ふぅ…!ふぅ…!…ちょっと…、体勢変えるよ…?」
囁いたビャクヤは、首に腕を回して喘ぐあたしの下に、太くて逞しい右腕を入れて、グッと抱き起こした。
「えっ!?ひっ!いにゃぁぁあああああああああああああああああああああああっ!?」
あたしは、体を少し後ろに傾けて、胡坐をかいたビャクヤに抱きかかえられる格好になった。もちろん繋がったままだ。
なのでビャクヤのおちんちんは、体重がかかったあたしのさらに深くへと侵入する。
…これって、確か駅弁とか言うんじゃなかったかしら…?
なんて事を考えている間に、ビャクヤが体を揺すり始めた。
「あっ!いっ!ひんっ!ひっ!んぅうあぁぁああああああっ!」
激しい!ちょっと!?激し過ぎるわよビャクヤ!と声を出そうにも、出るのは喘ぎだけで言葉までは出ない。
考えてもみれば、ビャクヤは立派な大人の男。それも十数年間あたし以外の女性と殆ど接触していない。
おまけに今夜が初体験。しかも数ヶ月間全国を駆け回って忙しかった。それで溜っていない訳が無い…!
ビャクヤは硬く目を閉じて、歯を食い縛って、「んっ!んんっ!」と声を漏らしながら、もはや必死そのものの形相で体を
揺すっている。
何ていうかもう、あたしとは違う意味で余裕が無いっぽい…!
かく言うあたしも、秘所を散々突かれて、下半身が痺れて訳が分からなくなっているような状態。
痛い事はまだ痛いんだけれど、麻痺してきたのか、慣れてきたのか、気が遠くなるような激痛はもう感じない。
アソコがジンジンしてる。鈍い疼きと熱が、お腹の中で激しく動いているような感覚。
「はっ…!はっ…!あ、アサヒ、ちゃん…!僕、もう、そろそろ…!余裕、無い…!」
しっかりと両腕を回してしがみ付いているあたしに、ビャクヤが乱れた息の間からそう言った。…やっぱり…。
脈動と圧迫感、強い熱、突き刺さるような刺激、混然とした感覚の中で、あたしはやっと快感を覚え始めた。
あたしは今、ビャクヤとエッチしてるんだ…!
「んぅっ!?あ、アサヒちゃん!待っ…!そ、そんな締めたら、ぼ、僕っ…!」
強烈な興奮と快楽、喜び。あたしはビャクヤにしがみついて声を上げる。
「きて!きてっ!ビャクヤぁっ!」
あたしの声に応じるように、体の奥、深いところまで入り込んだビャクヤのおちんちんが、ググッと膨れた。
その体がブルルっと震えて、抱き締める力が強くなる。
ビャクヤの柔らかな毛とお肉に埋もれたまま、あたしは駆け上る刺激…、いや、衝撃に背を反らした。
「んぐぅううっ!」
「あぁぁあああっ!」
あたしの中で熱を持った何かが弾けて、お腹の中がカーッと熱くなる。
ビャクヤの体が震える。あたしの体も震える。
痙攣するように身を震わせるあたしの中に、ビャクヤは存分に精液を放った。
刺激される事で感度が臨界を迎えたのか、大きく吸ったのを最後に、あたしの呼吸が止まる。
焦点が合わなくなって、目の前で紫色の火花が散る。
たぶんこれが…、イったって事なのかな…。
数秒間呼吸を止めていたあたしの中に、ビャクヤは身を震わせながら、何度も、何度も精を注ぎ込んだ。
尽きる事がないんじゃないかと思うほど大量に注ぎ込まれた精は、あたしの秘所と、埋没したビャクヤのおちんちんの隙間
から、コポコポと零れてゆく。
あたしが大きく息を吐き出すと同時に、ビャクヤはブルルッと震えてから「はぁ…」と息をついた。
耳元をくすぐったその吐息は、熱っぽくてくすぐったくて、あたしは「んっ…!」と声を漏らしてしまった。
脱力したように、ビャクヤはしばらく動かなかった。あたしをきつく抱き締めてくれたまま…。
あたしも、ビャクヤの体に手を回したまま、じっと熱の余韻に酔いしれていた。
「…痛かった…?」
しばらくそのままでいたビャクヤは、あたしの耳元でぼそっと囁く。
「すんごくっ、痛かった!」
あたしがそう言ったら、ビャクヤはちょっと間を空けてから、「ごめん…」と囁いた。
それがあんまりにも情けなさそうな声だったから、あたしは小さく笑って付け加える。
「でも、すんっ…ごく、嬉しかったわ」
ビャクヤは少し身を離して、顔がくっつきそうな程近くから、あたしの顔を見つめた。
照れているような、嬉しそうな、そして幸せそうな顔…。
ビャクヤはいつもそう。いくつもの感情をいっぺんに顔に浮かべる。
混じり合ったそれらが、いつでも彼の顔に、穏やかで優しい表情を作る。
「大好きだよ。アサヒちゃん」
ビャクヤは微笑み、あたしの鼻をペロンッと舐め上げた。
あまりにも唐突で、ストレートな言葉。そして実に彼らしいソフトな愛撫に、あたしは顔を真っ赤にした。
…ディープキスよりも、こっちの方がビャクヤらしい…かな…。
思っていたよりも血が出た。…まぁ初めてだったし…。
しばらく余韻に浸って、ひっついたままお互いの体を撫で回し、舐め回した後、あたし達は血とか精液とか愛液とか汗とか
その他諸々で汚れたシーツを取り替えて、ベッドに横になった。
大きなビャクヤにくっついて、あたしは満ち足りた気分でその左肩に頭を乗せ、仰向けになった彼の胸に手を這わせる。
ビャクヤはあたしの背に左腕を回して抱き寄せたまま、頭に頬ずりしてくれた。
…やっと、結ばれたんだ…、あたし達…。
股間に残る痺れと疼きが、その事を実感させてくれた。
ビャクヤが旅立って以来、一人きりのこの小屋で重ねて来た寂しい夜とは打って変わって、今日のあたしは、とてもとても
穏やかで、幸せな気分を味わいながら、太くて逞しい腕に抱かれたまま、眠りに落ちてゆく。
あたしは今、世界で一番幸せだって、胸を張って言える。
何年も、何年も抱き締め続けてきた夢が、やっと実を結んだんだから…。
幼いあの日に約束したとおり、あたしは、ビャクヤのお嫁さんになった…。
「おはようビャクヤ!」
「いらっしゃいアサヒ。今日はまたずいぶん早いねぇ?」
小屋のドアを開けたあたしを振り返り、竈の所でフライパンを振るっていたビャクヤが微笑んだ。
「もしかしてまた、講義がある日と勘違いして、早くに起きちゃったのかな?」
「きょ、今日は違うわよぉ!やだなぁ、もう忘れてくれない?」
最近やっと呼び捨てで呼んでくれるようになったビャクヤは、あたしの先々週の失敗を軽いジャブにしてからかって来た。
通っている大学へは朝早くの電車で行かなくちゃいけない。先々週は寝ぼけて支度してから、休みの日だと気付いた。
二度寝が得意じゃないあたしは、朝から手持ち無沙汰になっちゃってね…。
「ふふっ!今日はね!見せたいものがあったから、大急ぎで来たのっ!」
あたしはザックをテーブルの上に置き、携帯を取り出してビャクヤに歩み寄った。
開いた画面に映し出された画像を覗き込んだビャクヤは、目を丸くし、それから細めて微笑んだ。
表示された画像の中央には、イミナとそのお母さん、そしてフォウが映っている。
その左側には精悍な顔立ちのなかなかハンサムな男性と、分厚い眼鏡をかけた女性。そして着物を着た品の良い感じの女性。
右隣にはあたし達と同年代らしい、大柄で太めな色白の男の子と、細面で細身の女の子。それから写真の中で唯一不機嫌そ
うな表情をしている、厳つい顔でごっつい体付きの大男。
彼らの後ろには、さらにたくさんの男女が並んでいる。
イミナ達は笑顔で、携帯の中からこっちに笑いかけていた。
「はははっ!皆元気そうだね?安心したよ」
仲間達の顔を見たビャクヤは、嬉しそうに垂れ耳をパタっと動かし、目を糸のように細めて笑った。
「今度プリントアウトして来るわね?」
「携帯って、そんな事もできるんだ?でも、そこまでしなくとも…」
ビャクヤは笑みを浮かべたまま、あたしのおでこに軽くキスをくれた。
「見たくなったら、アサヒに頼むから」
「え?でも、手元に置いておきたくない?」
「手元に無いからこそ、鮮明に覚えておけるっていう物もね、中にはあるんだよ」
…ビャクヤがそう言うなら、それでも良いか…。
「ねぇビャクヤ?」
「うん?」
かまどに視線を戻しかけていたビャクヤは、あたしの顔を見下ろす。
「もう一回。今度は唇にっ!」
あたしの催促に優しげな微苦笑で応じると、ビャクヤは腰を屈めて唇を重ねてくれた。
もう、あたし達が離れる事はない。
これからもずっと、あたしはこの山に通い続けるし、ビャクヤもずっと、この山に居てくれる。
あたし達はずっと一緒に居られる…。ずっと、ずぅ〜っと!いつまでも一緒に居られるんだからっ!
…それはそうと、ビャクヤの事、お父さんには何て紹介しようかしら?
いつまでも隠して交際するのも厳しいし…。今後はそれが問題ね…。
唇を離し、笑みを交わした私達は、コココンっという、ドアが立てた音で、同時に振り向いた。
「…え?…お客さん?」
私が知っている限り、この小屋にノックをするお客さんが来た事なんてない。
イミナもフォウも、他の仲間達も都会に移り住んだ今、誰がここを訪ねて来るだろう?
ビャクヤも怪訝そうな顔をしたけれど、スンスンと鼻を鳴らした後に、顔を綻ばせた。
「どうぞ、開いてるから!」
笑みを浮かべたビャクヤが嬉しそうに声をかけると、小屋のドアは微かに軋んで開き、お客さんを迎え入れた。