ケージブレイカー(もう一つのエピローグ)

キンジとキヌタが再会した、その日の晩。

「今期調査の進展でやすが…、結論から言うと、特に目新しい情報はございやせんでした」

特率して背筋を伸ばしたシオンは、手元の資料を覗きながら総帥に告げた。

風呂上がりのニシキはバスローブに身を包み、木製のどっしりとしたデスクについて、ブランデーグラスを片手にシオンの

淀みない報告に耳を傾けている。

豪奢な調度が取りそろえられ、キヌタの部屋の物よりも桁が一つ多い高級な絨毯が敷かれたその部屋は、ニシキが所有する

マンションの一室…別宅の一つである。

やがてシオンは報告を終えてデスクに歩み寄り、ニシキに向け直して資料を置いた。

それは、キヌタの母の事故死に関する独自調査の報告資料である。

ニシキは今でも、あの事件の首謀者を追っている。

その事はSPの中でもシオンなど一部の者しか知らず、息子達も、妻も知らない。

例外中の例外としてキンジにだけは教えられたが、彼がキヌタに言わないだろうと見越しての事であった。

しかし、シオンにはニシキの真意が判らない。

何故、あの当時部外者の中学生に過ぎなかったキンジに、この件についてさわりだけ伝えるよう自分に告げたのか?未だに

その理由が解らなかった。

しかしそれも無理の無い事で、ニシキは細心の注意を払って、この情報をキンジに与えたのである。

ニシキはその特異な才能によって、キンジがキヌタの敵には決して回らない事を確信していた。

それ故にニシキは、キヌタにとって無二の親友になるのだろう彼に、キヌタの身を案じ、守ってくれるかもしれないという

期待を込めて情報を流したのである。

そして、キンジがあの事件について知っているという事実は、ニシキとシオン以外は誰も知らない。

キンジが上手く立ち回る事ができれば、もしもその犯人が極々近い位置に居たとしても、先手を取られずに危難を避けられ

るかもしれないのだ。

そうしなければならないほど、ニシキは疑っている。

キヌタの母親を殺害するよう指示を出したのは、自分の身内なのではないのか?と…。

だからこそ、自分の手が及ばなかった場合に、キンジにはキヌタを助けてやって欲しかった。それ故に訓練中から目をかけ、

機密中の機密である試作品「インドラ」まで託したのである。

ニシキはしばし資料を手にとって捲っていたが、やがて小さくため息をついて机に戻す。

愛人の死についてほじくり返せば、今は落ち着いている家庭環境が乱れる事になる。

それでもニシキは、膨大な金と時間、そして労力を注ぎ込み、あの件について調べ続けている。

キヌタの身の安全を気にするのは当然なのだが、その母親の死に執着するその理由を、シオンは以前、ニシキ自身の口から

聞かされた事があった。



「わしは見合い結婚だった。家柄を見て定められた、鼓谷を大きくする為の結婚…。まぁ、政略結婚と言えるね」

その時のニシキは、今と同じくシオンと二人きりの状況で、この部屋でこのデスクにつき、やはりブランデーを飲みながら、

自嘲するようにそう言っていた。

シオンが前の職を辞して、以前から交流があった鼓谷財閥に、正式に雇われた直後の事である。

「言ってはなんだが妻に愛情を感じた事は無い。一緒に暮らす内にそれなりの情は持ったが、それでもね。だがアレの母は…、

わしが初めて見初めた相手だった…」

少し寂しそうに語ったニシキの顔には、普段の威厳は無く、思い人を亡くした沈痛の念が浮いていた事を、シオンは今でも

覚えている。

「初めて夢中になった相手だった。…だから、な…。許せんのだよ」

その時ニシキは表情を一変させ、シオンですらその顔つきに寒気を覚えた。

「わしは執着心が強い。だから自分が大切にしていた物を奪った輩の存在は、どうしても許せんのだよ…」

執念と怨念と憤怒と喪失感。それらがごちゃ混ぜになった総帥の瞳に、その時シオンは、寒気を覚えながらも魅せられた。



あの夜の事を思い返していたシオンは、我に返ってデスクの上に視線を落とし、デジャヴを覚える。

あの時と同じように、目の前には自分用にグラスが置いてあった。

あの時と同じように、ニシキが自らの手でそこへブランデーを注ぎ入れる。

あの時と同じように、手に取るよう自分に勧めて来る。

礼を言ってグラスを手にしたシオンは、ニシキとグラスを軽く合わせ、チンッ…と、澄んだ音を部屋に響かせた。

一息にぐっと飲み干したシオンに、ニシキは普段あまり見せないような笑みを浮かべ、少し嬉しそうに感嘆の視線を送る。

「相変わらず良い飲みっぷりだね。君が好きそうだと思って取り寄せさせたが、口に合うかな?」

「有り難うございやす。あっしにゃあ勿体ねぇ上物でさぁ」

シオンが気に入ったようだと察すると、笑みを零したニシキは空になったグラスにもう一度酒を注いでやった。

自分で言う通り、ニシキは執着心が強い。

気に入った相手にはとことん入れ込み、骨身も金も惜しまずに歓待する。

だが、逆に気に入らない相手には容赦が無い。

シオンも何度か経験したが、ニシキは自分の逆鱗に触れた者を徹底的に追いつめ、完膚無きまで踏み潰す。

気に入った者に見せる、懐の深さと度量の大きさ、そして情の厚さ。

気に入らない者に発揮される、シオンですら薄ら寒く感じる程の冷酷さと、徹底した容赦のなさ。

ニシキのそんな多面性は、分割されて息子達へと受け継がれているようだと、シオンは考えている。

見た目の威厳は長男に…。ただしこちらは度量が広いとは言えず、才能に乏しい。

冷徹さと合理性は二男に…。ただしこちらは情に欠けており、才覚はあるがニシキですら危険視している。

末っ子はまだ小さく、溌剌とした人なつっこさばかりが目に付いているが、おそらくあの誰からも好かれる子には、ニシキ

の理屈を抜きにした魅力が受け継がれているのだろう。

そして、ニシキが普段は潜めている情の厚さと懐の深さ、外見的特徴は、兄弟の中でたった一人だけ狸獣人として生まれた

キヌタに引き継がれていると、シオンは考えている。

今度はゆっくり味わってブランデーを楽しむシオンに、ニシキは訊ねる。

「マリバネ君の明日の予定は、どうなっていたかね?」

「午前が非番でさぁ」

即答したシオンに、「ふむ」と頷いたニシキは意味ありげの目の光を変えて、少し身を乗り出した。

「では、今夜はゆっくりできるのかな?」

シオンは微苦笑する。ニシキが予定を訊いて来たのはポーズだと知っていたので。

ニシキは常にSP達の予定や配置まで把握している。わざわざ訊ねる必要など無い。

明日のシオンの予定を知っているからこそ、先に入浴を済ませて待っていたのだ。彼が気に入りそうな酒まで用意し、雰囲

気作りまで心掛けて。

「お望みならお付き合い致しやすぜぃ?「旦那」」

「それは嬉しいね、「シオン君」」

お互いの呼び方を雇い主と雇われのソレではなく、親密な友人同士の物に変えた二人は、ソファーに移って並んで座り、グ

ラスを傾ける。

シオンとニシキが初めて出会ったのは、シオンがまだ前の職に就いていた頃だった。

当時のシオンはまだ20代になったばかりで、たまたま外部の依頼でニシキを護衛したのだが、その際、襲撃者を蹴散らし

た彼の働きぶりに惚れ込んだニシキは、是非ともSPになって欲しいと持ちかけた。

しかし当時のシオンは、自分はまだまだ半人前で、今の仕事で学ぶべき事も多いのだと述べ、丁重に辞退した。

それでも諦めきれなかったニシキは、シオンとその仕事仲間達に便宜を図ったりサポートを行ったりするようになり、次第

に親密さは増して行った。

しかしその後、シオンはある事件で仲間の多くを喪った。

その失意の底から這い上がろうともがいていた彼に手を差し伸べたのが、ずっと彼らを案じていたニシキであった。

そしてシオンは恩義に報いるべく、長らく続いた援助と誘いに応える形でニシキに雇われ、今に至る。

もっとも、雇われたのにはそういった恩義や援助への礼などだけでなく、他にも理由があったのだが…。



バターレーズンを肴に酒も進んだ頃、ニシキはシオンの逞しい肩に腕を回した。

来たか。と微苦笑したシオンは、もたれかかるニシキの重くて弛んだ体をしっかり支えつつ、手を伸ばしてバスローブの中

に突っ込んだ。

弛んだ乳房の間にごつい指を這わせながら、シオンはニシキの顔を間近で覗き込む。

やや照れたような色と、これからの行為に期待する光が、五十にもなった狸の目に若々しい輝きを灯らせていた。

「今日はどっちになさいやすか?」

「どちらでも構わんよ。君の希望に添うようにしよう。尻も中まで洗っておいた」

「…相変わらず、薄ら寒くなるほど準備がよろしいこって…」

「はっはっはっはっ!好いた相手を持て成す時は、誰でもそうだろう!」

丸い腹を揺すって豪快に笑ったニシキは、「で、どうするね?」と、重ねて問う。

「あっしが掘らねぇと旦那の準備が水の泡でさぁ。今夜はタチで行かせて頂きやしょう」

「結構。では…」

ニシキは一度言葉を切ると、鼻先がつきそうな程シオンに顔を寄せ、

「優しくしてくれたまえよ?」

「合点でさぁ」

唇を合わせ、舌を絡ませあう濃厚なキスをした。

両刀な上にタチもウケもこなす。ニシキの旺盛な性欲と、性格や商才同様多面的な性癖もまた、部分的にキヌタに受け継が

れているのだが…、さすがにこればかりは、やり手の総帥もシオンも気付いてはいなかった。

そしてシオンは、ニシキと最初に体を重ねた十年近く前のあの夜と同じく、強い酒の味がする熱烈なキスを交わしてから、

バスローブの胸元を大きく開けさせた。

顕わになったニシキの胸は、元々の体型と加齢による弛みでぶよぶよしている。

その弛みきった乳房をやや強く掴みながら、シオンはその唇を吸った。

口付けを交わしたまま、ニシキの手はシオンの逞しい胸に触れ、ボタンを外してワイシャツを脱がせにかかる。

湿った音が響く口付けと愛撫を行いながら、シオンは徐々に服を脱がされ、ニシキはバスローブをはだけさせられ、やがて

一糸まとわぬ姿になる。

シオンはきちんと服を着込んでいたが、ニシキはバスローブの下に何も身に付けていなかった。

シオンの舌が、ニシキの顎を伝って肉に埋もれた首へ、そして胸へと降り、程なく乳首を口に含む。

軽く眉を顰めて身悶えしたニシキは、シオンの分厚い筋肉に覆われた脇腹から脇の下までのラインを撫で、その頼もしい感

触を満喫する。

日夜鍛錬で鍛えられているシオンの体は、三十を越えてもなお衰えを全く見せていない。

本番に向けた丹念な愛撫で、互いを焦らし合いながら、シオンは考える。

おそらく自分は、キヌタの母を失った当時のニシキにとって、埋め合わせ程度の存在でしかなかったのだろう、と。

未経験ではなかったので体を売る事に抵抗は無かったシオンも、当時は仕事の為に顔も売っておきたかったので、求めに応

じて体を重ねた。

そこには確かに、情愛のような物は一切無かった。打算と肉欲だけの関係だった。

(それが、どうしてこうまで、お互いにのめり込む事になっちまったのか…)

縁とは不思議な物だと、シオンは微苦笑する。

「何を考えていたのかな?」

息が少し荒くなったニシキに問われ、シオンは笑みを深くした。

「待ちこがれてるんでさぁ、もう少しかなー…と」

シオンの手がニシキの股間に伸びた。

愛撫で硬くなり、先走りでぬるぬるになったソレは、太いが短い特徴的な逸物だった。

キヌタ同様玉は大きいが、陰茎自体の長さは根本が贅肉に埋没しているだけでなく、太いせいもあって、かなりずんぐり短

い印象を受ける。

反り返って腹肉の下部に先端を触れさせているソレを、シオンは愛情を込めてさわさわと弄る。

鼻息を荒くしたニシキが甘美な快楽を享受し、股間のぬめりを激しくさせると、先走りに濡れた指をそこから離したシオン

は、ニシキとキスを交わしながら、その重くて丸い体をソファーの上へ、ゆっくりと仰向けに押し倒す。

そして足を開かせて尻をさらけ出させると、肉の割れ目に指を這わせた。

「はぁ…!」

大きく息をついたニシキの肛門に、愛液を潤滑剤代わりにしたシオンの指が入り込む。

くちゅっ、くちゅっ、と音を立てて尻を弄り、肛門をほぐして行くシオンは、片時も休まずニシキの体に舌を這わせ、空い

た手で愛撫を繰り返している。

受け入れに備えて体をリラックスさせ、愛撫されるがままになっているニシキの目には、享楽を甘受する熱っぽい光。

尻を弄られながら胸を揉まれ、唇を吸われ、ニシキはシオンのソレが入って来る瞬間を待つ。

やがて、尻に入る指の本数が増え、ニシキの肛門が充分にほぐれた頃、シオンは太く弛んだ狸の足を持ち上げ、怒張した陰

茎の先端をひたりと当てた。

シオン自慢の、自称「並の三割り増し」という逸物は、既に限界まで膨張し、脈打っている。

「いきやすぜ?」

「うむ。突いてくれ」

断りを入れたシオンに頷いたニシキは、ずぶぶっと、勢い良く侵入されて「む…!」と呻いた。

苦痛と快楽が同時に訪れる挿入の瞬間が過ぎると、今度はシオンが腰をしゃくり、早くも敏感な部分を責めに入る。

ニシキの足を肩に担ぎ、逞しい腕を使って尻を浮かせ、角度を付けて突き込んだ肉棒は、ニシキの腸壁を擦り上げつつ前立

腺を的確に刺激する。

「おっ…!おおお…!」

快感に呻くニシキの顔が歪む様を、シオンは悦びを持って見つめた。そして、気をよくした彼は一層激しく腰を振り立てる。

「むぅっ!ん…!おお…!す、凄いなぁ…!はぁ…!は、激しい…!」

ニシキが全身に汗を滲ませながら喜ぶと、シオンもまた嬉しくなる。

歳をとっても感度が良いニシキの、培われた老獪さが宿る性交は、シオンに飽きを感じさせない。

ひとしきり前立腺を責めたシオンは、ニシキがそのまま果ててしまわないように一度動きを止め、ぐっと覆い被さって口付

けをする。

繋がったままのキスは、互いの体を密着させなければならない。

ブヨブヨに弛んだニシキの腹と胸に密着する形で、シオンの逞しい筋肉質な体がのし掛かっている。

マラミュートの下腹部には、挿入を皮切りに半勃ちの状態に移行し、透明な体液を滴らせている狸の陰茎が当たっていた。

口付けを交わしながらもシオンが軽く腰を揺すると、その動きでニシキの肥えた体はたぷたぷと波打った。

シオンの逞しい背中に腕を回し、きつく抱き締めるニシキ。

ぶよぶよの贅肉に埋もれるような感覚があるが、シオンにはそれが不快ではない。安心感すら覚える。

尻を掘られながらもなお発揮される包容力は、ニシキならではの物だった。

中休みで絶頂までの時間を引き延ばした後、シオンは再びニシキの足を肩に担ぎ、腰を振る。

「おっ、おっ、おっ…、おおお…!っく…!」

抜き挿しされる陰茎に腸壁を擦られ続け、前立腺を巧みに刺激され続け、ニシキは眉間に皺を寄せながら急速に昇り詰める。

シオンもまた息を荒らげ、射精が近い事を感じ取っている。

「んぐぁっ!」

声を上げたのはニシキだった。

「んおっ!おっ!おおおおっ!ぐぅ…!んおおおおおおっ!」

目をきつく閉じて口を開き、絶頂を味わいながら雄の鳴き声を上げる。

次いでシオンも「うっ…!」と低く呻き、背を震わせた。

怒張した陰茎が、ニシキの腹の中に精液をぶちまける。

繰り返す射精がもたらす一瞬の快楽を、身を震わせて噛み締めるシオン。

腹の中をかき回されて、下腹部に籠もった熱と疼きによって頂きまで押し上げられたニシキは、ブルルッ…、ブルルッ…、

と断続的に身震いしつつ、快楽に酔いしれる。

やがて、繋がったままニシキの上に身を被せたシオンは、また口付けを交わし、弛んだ胸に顔を埋めた。

「はぁ…、はぁ…、どうでやしたか?」

「うむ…、良かった…。良かったなぁ…」

弛緩し切ったニシキの顔には、抜け目のない狸親父としての表情は無い。

自分にだけ見せて貰える、無防備に弛んだその顔を、シオンはじっと見つめた。口元をニヤつかせながら。

「…どうしたのかね?」

「いやぁ、相変わらず、掘られた後の顔は可愛いと思いやして…」

「年寄りをからかう物じゃないよ、シオン君」

「何をおっしゃいやす。まだまだお若いですぜぃ?旦那は…」

シオンは腰を少し動かし、ニシキに軽い呻き声を上げさせた。

下腹部に当たっている、絶頂を迎えて萎えたニシキの逸物が腰の一振りでムクッと反応すると、シオンは嬉しそうに笑った。

「ほーら、こっちの息子さんもまだまだ元気でらっしゃる」

「ははは!こいつは参ったね!」

ニシキが笑うと腹が弾み、上のシオンも揺すられた。

その拍子に挿入されたままの逸物が腸壁を擦り、「んむっ!?」と目を白黒させた狸は、マラミュートの笑いを誘う。

これで終わらせるつもりなど無い。

力尽きて眠り込んでしまうまで繰り返す予定の二人は、ソファーの上で身を重ねたまま余韻にひたり、体力を回復させる。

夜はまだまだ長く残っている。焦る事など無いのだから。

身を重ねたまま、触れ合った胸と腹がじっとりと汗ばんでいるのを感じつつ、シオンはニシキの胸を揉み、乳首を愛撫して

いたが、程なくふと思いついたように顔を上げ、訊ねて見た。

「もしも…でやすが…。あっしが誰かに殺されたら、坊ちゃんの母君と同じように、仇討ちをしてくれやすか?」

「何を馬鹿な事を言っとるのかね…」

ニシキは顔を顰めながらシオンの頭に手を乗せ、乱暴に被毛をかき乱した。

「わしより先に死んだら許さんよ。わしの身を守りながら、自分の命もしっかり守って貰わんとな」

「なかなかに難しい事をおっしゃりやすねぇ…」

「だからわしも高給を払っとるじゃないか」

苦笑いしたシオンは、頭を両腕で抱き締められ、贅肉が分厚い狸の胸に顔を押しつけられた。

「良いかね?絶対にわしより先に死んではいかんよ…」

「ご命令とあらば、なるべく守らせて頂きやす」

「いいや、これは頼みだ」

「…なら、絶対守らせて頂きやす」

耳を倒して笑ったシオンの吐息に胸をくすぐられ、ニシキもまた小さく笑った。

国内有数の大財閥総帥と、そのSP。

その関係から逸脱した時間を共有しながら、二人は夜の快楽を、いつまでもいつまでも貪り続けた。