D A N G E R ! ! ! 


この作品を読む事で、各作品本編内の様々なキャラクター像が著しく損なわれる恐れがあります。

今なら手遅れになる前に引き返せます。
















































2011新春特別企画

みちのく秘湯失踪事件〜湯煙の向こうに消えた熊〜


綿のような雪が積もった山奥の、湯煙漂う露天風呂。

人もそうは通わぬ深い木々の懐、巨木や下生えの隙間を縫う、獣道のような細く曲りくねった山道を数時間歩き通し、やっ

と至る事ができる。

ごつごつとした岩が周囲を固めるその湯の傍に、脱衣場でもある掘っ立て小屋。

その少し離れた位置には、元は炭焼き小屋なのか、それとも猟師の作業場なのか、丸太を組んで板を張った、簡素な小屋が

建てられている。

それらの建物と、湯船の周囲を部分的に覆う、木の葉と風除けの板を除けば、人工物は見当たらない。

知る人ぞ知るその秘湯に、今は数頭の獣がしっぽりと浸かっていた。

「お〜…、生き返るぅ〜…」

濃い茶色の毛を纏った大柄な、そして肥満体の熊が、湯を掬ってばしゃっと顔にかける。

その分厚く、しかし贅肉でむっちりと垂れた胸には、鮮やかに白い横に寝た三日月マーク。

新春早々温泉に浸かれて、サツキはご機嫌であった。

「雪と坂道で大変だったっスけど、頑張って登った甲斐があったっス」

その傍で湯に巨体を沈め、肩を揉んでほぐしながら、純白の被毛が眩しい北極熊は周囲を真っ白に埋めている積もった雪を

眺め回した。

こちらもサツキ同様に、筋肉の上にもたっぷり贅肉が乗った太り肉の大男。

都会育ち故にここまでの深雪は珍しいので、アルは自分の背丈以上に雪が積もった、自分の体と同じ色の景色をしきりに眺

め回す。

「人に知れぬ斯様な山奥まで、年明け早々のんびりと湯浴みに来るのも、また贅沢なものだ」

湯に浮かせた盆の上から燗をつけた酒で満たされた素焼きの急須を取ったのは、サツキやアルよりもさらに巨大な熊。神代

家の当主である。

空になったお猪口に手酌しようとしたユウヒに、「あ、俺が…」と声をかけ、サツキは急須をユウヒから取り上げると、お

猪口に注いでやる。

「こんなちっこいのじゃ、飲んだ気しねぇんじゃねぇのかオジキ?」

「そうでもない。この酒はなかなかにキく」

嬉しそうに破顔しながら酒を注いでもらったユウヒは、アルに視線を向けた。

「美味い酒だ。ダウド殿の手配なのかな?」

「へ?いやどうなんスかね?ここまで来て何でリーダーっス?」

首を傾げたアルは、「それにしても…」と、サツキに目を向けて耳を倒した。

「こんな凄いトコにある温泉とか知ってるんスねサツキ?もしかして温泉マニアっス?」

「へ?いや好きだけどマニアまではいかねぇよ。俺も知らなかったぜ、こんなトコあるなんてよ。今回が初めてだ」

「んんっ?初めてっス?」

再び首を傾げるアル。

「だって、「良い温泉があるから招待する」って、手紙に書いてたじゃないっスか?」

「あん?」

胡乱げに眉根を寄せたサツキは、傍らの巨熊を見遣る。

「いや、俺の招待とかじゃねぇぞ?オジキのお誘いだって。な?」

「む?」

話を振られたユウヒも、サツキと同じく困惑顔であった。



そんな熊三頭の様子を、雪中迷彩で完璧にカモフラージュされた仮設テントの中で、モニター越しに観察する者達が居た。

「しかしアレだなー、こんだけでけぇデブが三人も集まると、あの湯船も狭く見えるなー」

呟いたゴールデンレトリーバーは、ホットコーヒーをズズッと啜る。

キンジの傍らで、同じくモニターを注視している筋肉質で大柄な鉄色の虎は、丈夫そうながっしりした顎を手の平で下から

撫で擦りながら頷いた。

「旦那並の巨漢共だからな。しかも俺好みの包茎揃いと来たもんだ」

「意外ですわ。ムンカルはん包茎好きですのん?」

そう訊ねたのは、二人の背後で何やら器材を弄くっていた、ぽってり太った丸い三毛猫。

「ワイ包茎やけど、どないでっしゃろ?」

「お?んじゃ後で抱いてやろうか?」

誘うモチャとまんざらでもなさそうなムンカルには目も向けず、キンジは一人渋い顔をする。

「しかし…、全部で手紙何通出したっけ?何でたった三人だ?」

「えぇと…、ビャクヤはんやろ?それにユウはんと、あとヤマギシはんに…、そうそうハティはんや」

「ヤマトにも出したんだけどなー…」

「ウチの同僚はまぁ、ミカールにバレるとおっかねぇから最初から含めてねぇが…」

三人は口々に言うと、

「…見事にデブオンリーだな…」

ぽつりと漏らしたキンジの言葉に深く頷いた。

「ワイ的にはほっそりした美人お招きしても良かったんですけど?」

「でもおれゲイでデブ専だから」

「同じく俺も太いのが良い。…しっかし、忙しい中ミカールの目ぇ盗んでせっかく配達したってのによぉ…」

職権乱用で差出人擬装案内状を配達して回ったムンカルは、切なくため息を付く。

逃がした魚は大きく感じるらしいが、宛先はただでさえ重量級の大物揃い。集まらなかったのが残念でならないようである。

「何であの三人しか引っかからなかったんだろうな?あ、嵐の字には出したのか?」

「出したんですわ。けど…」

モチャは口惜しそうに口を真一文字に引き結んだ。

その頃、偽りの誘いに乗らなかった面々は何をしているのかというと…。



「はい、パンダ完成」

「パンダというより…、色合い的には狸さんのようでもございますね。そこはかとなく、隠神様にも似ているような…」

「ああ、言われて見れば確かにギョウブおじい様に似ているかも…。体のサイズが違うけれど、体型はこんな感じよねぇ」

烏丸邸の庭で、トモエに羽子板でこてんぱんにされたランゾウは、両目の回りに墨を入れられていた。

「………」

サキが差し出した手鏡で自分の顔を確認し、ムスッとむくれるランゾウ。

眼帯まで捲って丸い模様で目を囲まれた赤銅色の巨熊は、サキの言うとおり、パンだというよりは目つきの悪い強面狸のよ

うでもある。おまけに、どういう訳か頬に墨で縫い傷が描かれており、すこぶる人相が悪い。

言ってはなんだが、常日頃から頻繁にモチャが何か企んでいるために疑り深くなっているランゾウは、差出人が故郷の古馴

染みになっている手紙の内容をハナっから全く信じず、破いて囲炉裏にくべている。

「さて、軽く汗も流した事だし、そろそろ入って食事にしようかしら?」

「それではお餅をお焼きしましょうか?」

頬の傷ペイントを指で触り、状況を悪化させているランゾウの背中をぐいぐい押して歩かせつつ、トモエは応じる。

「そうね、あんこ餅が良いわ。あ、アパアパも餅食べられるかしら?」

「おそらくは。何でも食べますから、アパアパさん」

「ちょっとランゾウ歩きなさいよ。何よ?インドア派のくせに珍しく外に居たいの?あ、それとも勝負に納得行かないの?」

あまり屋敷に入りたがっていない様子の巨熊の背中から手を離し、トモエはその後頭部を見上げる。

「…あれ?…もしかして、ヘコんでる…?」

「お嬢様が容赦なく打ち込むからですよ…」

剣術の達人であるトモエは、どういう訳か羽子板もまた達人であった。



「何お願いしたの?」

恋人に尋ねられ、賽銭箱に背を向けたユウは「え?」と、一瞬言いよどんだ。

「あ。もしかして言えないような事?」

「そ、そういう訳じゃ…!」

露骨に動揺を見せたユウに、ショウコはからかい混じりに問いを重ねた。

「…エッチな事とか?」

「ち、違いますよっ!」

即座に否定するユウだが、他の参拝客の邪魔にならない位置まで歩いて恋人が足を止めると、つられて立ち止まる。

「ふふ…!白状しちゃいなさ〜い?」

腰に手を当ててやや前傾し、悪戯っぽく笑いながら出っ腹をぷにぷにと指でつついて来たショウコの前で、

(…今年もショウコさんと仲良く一年過ごせますようになんて…、そんな事改めてお願いしたなんて言ったら、間違いなく呆

れられて、からかわれるよなぁ…)

純粋なユウは、とことん困り顔であった。

そんな二人を、人混みを壁にした向こう側で、狛犬の陰からそっと窺う一人の男…。

(何だ!?何を願ったって!?エッチな事だとショウコちゃん!?なんて破廉恥なっ!初詣でそんな事を願うとはっ!どこま

で…、一体どこまで進んでいるんだ二人ともっ!?)

落ち着け。そして自重しろ兄。



「どうしたのアサヒちゃん?」

食事中に急に立ち上がり、厳しい視線を北へ向けた恋人に、ビャクヤは前髪に隠れた目を向けた。

「今…、このあたしを差し置いて何か企んでかつ実行しているケシカラン奴らが居るような気がしたのよ」

「漠然としているような具体的なような…」

差出人が弟になっている手紙を貰ったビャクヤは、しかし山から出るつもりがないので、丁寧にお断りの手紙をしたためた。

が、現在初詣中の義弟をストーキングしているブラコン狼は、兄から届いた覚えの無い話がしたためられた手紙をまだ読ん

でいないため、手紙に込められた異常が発覚していない。

「ところでビャクヤ」

「ん?」

はふはふと雑煮を掻き込んでいるオールドイングリッシュに、アサヒは座り直しながら言う。真剣な顔で。

「お正月といえば、決まってるわよね。ヤるわよ。ヒメハジメ」

ビャクヤの喉が「ひゅごぎゅっ」と、変な音を立てた。

「んむっ!んむおむおっ!」

「ちょ、ちょっとどうしたのビャクヤ!?餅!?餅が喉に!?大丈夫!?」

むしろお前の方が大丈夫かと問いたい。自重しろブラックアサヒ。



「ウノです」

肌色の鼻をした華奢で小柄な犬獣人が、手元からカードを出す。

「うわまたかっ!?」

小山のような体を揺すり、大兵肥満の羆が目を剥いた。

「ナカイ君強過ぎだよぉ」

そう言って苦笑いしたのは…、狐?

ぱっと見てもそうと気づき難いほど丸々肥えた狐である。

「お前さん、何か憑いてんじゃねぇ?」

一人だけ連敗街道爆進中の、丸みを帯びた大柄でゴツイ猪は、そう言って渋い顔をする。

「俺まだ勝ち点1」

「ぼくもです」

呟くヤマトに頷きつつ、ノゾムは手元のカードを出し、

「…畜生…」

それに続く追い詰められた猪は、パスして項垂れた。

丸い三人と細い一人の組み合わせで新春ウノに興じているヤマトは、ポストに投函された手紙を確認していない。

仕事柄年末年始がそれなりに多忙なノゾムに至っては、年の瀬から実家はおろか部屋にも帰っていないため、こちらも手紙

に気付いていなかった。

「けどまぁ、こりゃ何とかピザは奢って貰えそうだ」

最下位が夕飯を奢るというバツゲームで、四人のウノは少々熱が入っている。

現在単独ビリの猪は、厳つい顔を険しくして「今に見てろ…」と呟くが、旗色はすこぶる悪い。

まぁ、賭け事をしてはいるが、ある意味健全な正月である。



空も地面も大気も、見渡す限りの全てが白い北原で、凍土からこんもりと盛り上がったドーム上の雪の中、

「変わった雪濠ですね?」

小柄で童顔のアメリカンショートヘアは、一度溶けて凍りつき、しっかりと内壁を為した雪を見上げながら呟いた。

「カマクラと言うそうだ。東洋の島国のある地域で作られるらしい」

自称日本通のハスキーから刷り込まれた知識を披露し、真っ白なグレートピレニーズは小型七輪の上で膨れている餅を、餡

が盛られた椀へと取る。

「コレは何です?」

「モチと言う。練り固めたか何かした米らしい」

椀を受け取りながら訊ねるミオに淡々と応じつつ、ハティもまた餅を取り、餡子をまぶす。

かまくらの中、こたつについて餅を食い、蜜柑を剥き、くつろぐ二人だが、一歩外に出れば猛吹雪である。

「どこから調達したんですか大尉?この異国情緒が漂うテーブルとかの器材一式…」

「まぁ、番外編だからな」

びろーんと餅を伸ばして口に運びつつ、大尉殿は訳の輪からない事をおっしゃった。

それに倣って餅を口に運んだミオは、しかし猫舌ゆえにすぐさま口から離し、ふぅふぅと息を吹きかけ始める。

「…む?そろそろ燃料を少し足さなければ…」

七輪の様子を確認して呟くと、出来た部下評価を貰いたいミオはしゅぱっと手を上げた。

「はい!燃える物ここにあります!」

そう言ってミオが身を捻り、背中側から持ち上げたのは、携帯用固形燃料と謎の手紙。

「何だこの紙は?」

「さっきで入り口から天候を確認した時、外に落ちてました」

「そうか」

ハティは手紙のようなその紙が気になったが、しかしミオはとっとと七輪に投入してしまう。

ムンカルが極寒の北原まではるばる届けに行った擬装案内状は、こうして墨になった…。



「怪しまれたんでしょか?」

「怪しまれたんだろうなー、たぶん」

呟くモチャと頷くキンジ。

「最近はホレ、オレオレ詐欺とかもあって、皆警戒心強くなってるからなぁ。差出人を知り合いに擬装しても、結構疑ってか

かるのか?」

「そいつはどうかなー…」

ムンカルの洞察に首を傾げたキンジは、モニターを見遣って「怪しまれると言えば…」と顎をしゃくる。

「連中も、何かおかしいと思い始めてるっぽいぜ?」



「アル。お前誰から案内貰ったんだ?」

「え?だから、サツキからっスよ?…え?え?違うんスか?」

眉根を寄せているサツキに、アルは困惑顔で応じる。

「出してねぇよ俺ぁ。オジキから案内貰ったんだけどよ…」

「む?案内など出しておらぬが?むしろアル君から招待状を頂戴した立場であって…」

そう言ってユウヒが首を傾げると、アルは驚いたように目を丸くした。

「へ?招待状?そんなの出してないっス。そもそもここ知らなかったっス。オレ知らないっスよ?」

三人の間に、束の間の沈黙が落ちる。

「誰も…、案内など出してはおらぬ、と…?」

巨熊の胡乱げな声に、アルとサツキは揃って頷く。三人とも表情がやや硬い。

今まで信じて疑わなかったが、全員が全員、誘った覚えが無いと言うこの状況…。薄気味悪くなり始め、ユウヒはお猪口を

じっと見つめた後、盆に戻した。

「…何やら妙な事になっておる…。長居すべきではないような気もしてきた」

「同感っス」

「同じく。…まさかアレ…、雪女なんかからの招待状とか言わねぇよな…?」

温泉に浸かっているのに肌寒さを覚え、サツキは太い両腕で自分の体を抱き、身震いする。

顔は厳つくナリはデカいが、サツキは幽霊やら怪談やらが大の苦手。自分の想像で少し怖くなって来た。

「まぁ、本物の雪女からの招待状であれば、北原に呼び出される所であろうが…」

ユウヒが口の中でもごもごと呟くと、「北原に温泉無いっスけどね」とアルがどうでも良い事を口にする。

「兎に角、一旦出よう。何かあるにせよ、素っ裸では身動きも取れん」

「そうっスね。何か嫌な予感して来たっス」

「出よう出よう!気味悪くなってきちまった!」

率先して立ち上がり、丸々肥えた体を胴震いさせて湯を跳ねるサツキ。普段からこぢんまりしている股間のモノが、気味悪

さのためか一層縮んでいる。

頭に乗せていたタオルで股間を隠し、慌しく脱衣場に向かうサツキの後を、湯を滴らせながら岩に足をかけて上がったアル

が追う、

その後に続こうとした一際大きな巨熊は、一旦湯から出た後、盆に載せた酒を浮べたままである事に気付き、脱衣場前で一

度引き返した。



「気付かれた」

「おっけぇですわ。抜かりありまへんでぇ!」

鋭い声を発したキンジの横で、モチャはぽってりした手をノートパソコンのキーボードで躍らせた。

その、モニターやその他の器材に繋がれたパソコンが、獲物を絡め取る罠へと信号を送る…。



「どわぁっ!」

そんなサツキの声を聞いたアルは、少し遅れて脱衣場を覗き、

「どうしたっスか?…アレ?」

そこに親友の姿が無い事に気付き、目を丸くした。

「サツキ?何処っス?」

着替えて出て行った訳では無い。がらんとした薄暗い脱衣場には、木造りの棚に乗ったままの自分達の衣類が揃っている。

サツキが着ていた服もそのままに。

もっとも、アルがサツキに遅れていたのは僅か十歩ほどで、その僅かな時間で着替えられる訳も無いのだが。

ふざけて身を隠しているのかとも一瞬思ったが、自分と同じほど大きくて幅も厚みもある親友が隠れられそうな場所などこ

こにはない。浴場とは別方向に開いた戸から外を覗くが、そちらに出て行った訳でもない事は、来た時の足跡すら消して積もっ

た雪の、乱れの無いまっさらな状態を見れば判る。

「…何かおかしいっス…!」

サツキほど怪談が苦手な訳ではないアルも、ここに来て薄気味悪さで被毛を逆立てた。

送り主が知り合いになっていた、自分達が受け取った手紙…。あれは一体、誰が何のために寄越した物なのか?

「ユウヒさん、まだっスかね?」

ただ事ではない何かが起きている。そう察したアルは、頼りになる巨熊がなかなか来ない事にも嫌な予感を覚えた。

「ユウヒさ…、あ!?」

駆け戻ろうとしたアルの目前で、脱衣場の戸がスターン!と、高い音を立てて勢い良く閉まる。

「なんスかコレ!?あっ!?」

浴場方面の戸に取り付いた直後、今度は出入り口側の戸が同じくパターン!と音高く閉まり、アルは愕然としながら振り向

いた。

「あ、開かないっス!?何で…、ん?」

出入り口方面の戸に取り付き、ガタガタと揺さぶったアルは、その開かない戸の異常に気が付いた。

入る際にはユウヒが軽く開けていたが、建て付けが悪いどころか、戸そのものが異常に重い。

それもそのはず、一見ただの木戸に見えるそれは…。



「合金仕込まして貰いましたからっ!」

ムフーッ!と、得意げに胸を張って鼻息を荒くしたモチャに、『おぉ〜!』と声を揃えて拍手を送るキンジ&ムンカル。

「抜かりねぇなぁデブネコ!やるもんだ!見た目はとんでもなく使えねぇヤツっぽいのによ!」

「見直したぜモチャ!嵐の字に悪さしておしおきされるために存在してるキャラだとばかり思ってたけど、本当に見直した!」

「いやいやぁ!それほどでもありますけどなぁ!でへへへへっ!」

照れ笑いするモチャ。誉められ方は極めて微妙なのだが気付いていない。

何処からどう見ても完全に掘っ立て小屋な脱衣場は、薄い木材パネルで擬装されてはいるが、実は全面に合金の壁が仕込ん

である。

アルやサツキが馬鹿力なのは勿論の事、ユウヒに至ってはワゴン車を腕で軽々とリフトアップする上に、それを素手でスク

ラップに変えてしまう。閉じ込めたところで木の家屋では無意味。そこまで考えての合金擬装措置であった。

「アレは弾性もありますさかい、ちょっとやそっとどついても壊れまへんで!いかなアル坊でも脱出不可能!手元にマサカリ

やヴァリスタがあったかて無駄無駄ですわ!」

罠が上手く炸裂した事で気を良くしたモチャは、

「ほな、そろそろビックゲスト登場と行きましょかぁ!」

赤黄青の信号機トリコロールカラーなボタンが付いた四角い小箱を取り出す。

「何それ?」

「ミ・ケ・ネ・コ・スイッチ♪」

節をつけて歌うムンカル。

「あるいは「ミケネ〜コ・スイッチッ♪」か?」

「ソレ知っとるムンカルはん、本当は一体何人ですのん…?けどこれはもうモチャボタンて名前つけてありますさかい」

「いやミケネコスイッチにしろよ」

ムンカルの意見を無視したモチャは、「まずはアル坊からや〜」と嬉しそうに声を上げつつ、ポチッと青ボタンを押した。



距離を取って加速をつけ、思い切り肩から木戸にタックルしたアルは、メキッと音を立てて割れた木戸が、しかし依然とし

て閉まったままである事を見て取り、肩を擦りながら呻く。

「何で壊れないんスか!?脆そうなのに…」

鉄製の扉も蹴破ったり体当たりしたりで難なく突破するアルだが、何故か引き戸一枚が壊せない。妙に感じて割れた部分に

顔を寄せた白熊は、裂けた木の隙間から覗く鈍い光沢に気付くと、

「鉄板入りっス!」

金属仕込である事を確認して仰け反った。

「なんスかコレ!?どうなってるんス!?何かこう…密かに隠された陰謀の匂いがプンプンするっス!」

陰謀は普通隠されている。

「オレを閉じ込めてどうするつもりっス!?…はっ!?まさか年明け早々ラグナロクの罠っスか!?」

いやそこまでじゃない。まぁある意味黄昏より性質が悪い連中の謀ではあるが。

「何とか脱出して、ユウヒさんに…」

再び戸に手をかけ、ガタガタと揺さぶって外せないか試し始めたアルは、

「!?」

戦士としての勘で何者かの気配を察知し、股間の小さい物をプルンと振りたくりつつ素早く振り向いた。

が、相変わらず脱衣場兼簡易牢内に他者の姿は無い。しかしそれでも白熊は鋭い視線を周囲に走らせながら警戒を強める。

「居るっス…。何か居る…!」

危険回避のため、壁を背にするようにじりじりと足を移動させたアルは、ヌルッと、何かを踏んで足を滑らせ、バランスを

崩す。

背中から壁に当たったアルは、そこに手を付いて体を支えつつ下を向き、

「…うぇっ!何スかコレ!?油?」

足裏にねっとりと付着した何かを、突き出た丸い腹越しに見つめた。

壁と床の僅かな隙間から滲み出てきているらしいソレは、総量で4リットル程。

ぬめる感触に顔を顰めつつ足を上げて逃れようとしたアルは、しかしまたもヌルッと足を滑らせた。今度はソレが、自発的

に流動したせいで。

「いでっ!」

盛大に尻餅をついたアルは、しかし痛みに呻いたのも一瞬の事で、すぐさまハッと床を見回す。

自分の周囲に広がったゲル状のソレは、瞬く間に壁の隙間から湧いて出て、体積を増やしつつ盛り上がってゆく。

「い、生き物っスかコレ!?」

声を上げたアルの前で、子供の頭大にこんもりと、ドーム状に盛り上がったソレは、「はいそうですよ」と言わんばかりに、

あるいは「どうもお初に御目にかかります」とでも言うように、ヌロリッと会釈(?)した。



「今宵のニューカマー!ゲル状ボディがコケティッシュなジモジモちゃんですわ」

『ジモジモ?』

モチャの説明を聞き、声をハモらせる虎とレトリーバー。

「なんや地元地元してんなぁて、そないな意味ですわ」

いかにもスパッと説明し切ったような表情のモチャ。だが意味不明である。

キンジもムンカルも彼の説明ではネーミングの由来が判らなかったが、突っ込んでも埒があかないと考え、もう尋ねない。

「ようするにスライムか?」

「マニアックだなー…」

口々に呟きつつモニターに向かってずいっと身を乗り出したムンカルとキンジは、尻餅をついたままゲル状生物と向き合っ

ている白熊を観察し始めた。



「何かこう…、意思疎通できる辺りが知り合いを思い出させるんスけど…。ひょっとしてアレっス?一応危険生物っス?」

恐る恐る発したアルの問いに、トロリと頷くジモジモちゃん。

「さらにひょっとしてっスけど…、「特殊な用途」に特化した機能を持ってたりするんス?」

嫌な予感を覚えながら問いを重ねたアルに、またしてもテロリと頷くジモジモちゃん。

しばし無言で見つめ合った(?)後、ジモジモちゃんはこんもりと盛り上がらせた部分を、ずいっとアルに向けて進めた。

「だだだダメっス!オレにはアケミという恋人がいるんスからっ!」

尻餅をついた格好のまま慌てて後退しようとしたアルは、しかしジモジモちゃんの頭部とおぼしき盛り上がった部位に意識

を向けているあまり、すっかり失念していた。

自分が足を滑らせた、そして今も尻を据えている、床に溜まったゲル状物質…。それが、ジモジモちゃんの体の一部である

という事を。

「ひっ!?」

妙な声を発してビクンと震え、アルは弾かれたように股間を見下ろした。

ゲル状物質はいつの間にやら床についた尻を這い登り、太腿の付け根や睾丸の下にまで至っている。

「だ、ダメダメダメダメっスダメぇっ!こういう事はリーダーとかなら喜ぶっスから、何かの企画の時にそっち行くっスよぅ!

オレはダメっス遠慮するっス勘弁してっス!はぎゃっ!?」

必死に拒否しようとするアルは、しかし声を高くして身震いした。

睾丸にまで登って来ているジモジモちゃんの手(?)は、当然、既に追い抜いていた肛門も占拠している。

案の定抵抗するアルのソコへ体の一部を潜り込ませたジモジモちゃんは、予め精製しておいたそれを放出した。

ヒンヤリヌメッとした何かを直腸に注ぎ込まれ、尻を浮かせたアルが肛門を押さえる。

「な、何したんスか今っ!?」

ヒヤリと冷たく感じたのも一瞬の事。次いで腹中が熱くなり、それが全身に広がる。

体が内側からかっかと火照り始めてむず痒くなり、鼓動が早まり、下っ腹が疼くその感覚は、アルには経験があった。

「こ、コレってまさか…!?メケメケちゃんと同じ…」

驚愕するアル。ご名答である。

直腸、あるいは経口摂取させる事で、疲れた相手とアソコもビッキビキ元気になる禁断の分泌液…「まだまだ寝かせない

ぜ覚悟しなリキッド」は、嫌がるアルのアソコをたちまち臨戦態勢に仕立て上げた。

「やっぱりお前その手の生き物っスか!?誰っス!?こんな事企んだのっ!」

大声を上げたアルは、しかし次いで鼻から息を吸い込むと、

「ぅあ…!?」

軽い眩暈を覚え、額に手を当てて上体を揺らし、背後に手を付いて体を支える。

「こ、コレも…、あるんスか…!?」

呻くアルの前でヌロッと頷くジモジモちゃん。

嫌がる相手も強制的にリラックスさせ、ついでにその気にさせる…。鎮静作用も併せ持つその霧は、薄暗い室内に、そうと

気取られないよう薄めて散布されていた。

薄くしてあったが為に遅効性となったが、「良いから身を任せて楽にしてなフォッグ」により、アルは目をトロンとさ

せ、硬くしていた体を弛緩させる。

抵抗心が薄れたアルの腰回りは、あっと言う間にジモジモちゃんに覆いつくされた。

ゲル状ボディから絶えず「こことか感じるんじゃないのかジェル」を分泌させ、徐々に腰の上部まで上がり、腹の上でこん

もりと盛り上がったジモジモちゃんは、息を荒らげているアルの上でフルフル揺れる。

「ま、待ってっス…!止め…、うっ!?」

制止の声を途切れさせ、アルは呻いた。

股間でいきり立つ、控え目なサイズの短小包茎を覆ったゲル状ボディが、唐突に蠕動し始めた事で。

「いひゃぁああああああああああああっ!?」

包皮口から中に入り込み、ヌメヌメグチュグチュと亀頭を刺激する。

加えて先端から尿道に入り込み、内側でも痙攣を誘発させる。

おまけに、陰茎を覆ったその一塊の部位自体が、強い吸引力でアル自身を吸いつつ蠕動しているのだから堪らない。

体のタフさとは裏腹に股間の耐久力が極めて低いアルは、メケメケちゃんをしてトップクラスの早漏とのレッテルを貼られ

ている。

ジモジモちゃんに覆われた陰茎から先走りはとうとうと流れ続け、それは程なくドプッと、白く濁った液体の噴出に変わる。

「ひぐ…!んぐぅうぅうぅうぅうぅっ!」

歯を食いしばって呻くアルの反応に気をよくしたのか、ジモジモちゃんは責め手を少し変えた。

「あっ…!」

小さく、切なげな声を漏らしたアルは、肛門の異物感が増した事で身震いした。

「あっ!あっ!は、入って…!入って来るっスぅ…!」

喘ぐアルの肛門から直腸内へ、ジモジモちゃんのゲル状ボディがウヂュウヂュと侵入する。

甲高い声を発して身を揺すり、気張るアルは、しかしその侵入を食い止める事はできなかった。

「いひっ!いぎひぃっ!」

いかに肛門を締めようと、液状のジモジモちゃんの手(?)はお構い無しにニュブニュブと入り込む。

直腸が満たされたアルは、下っ腹を押さえて身悶えした。

腹の奥底で、微かな振動が生まれている。ジモジモちゃんがゲル状ボディを小刻みに振動させ、バイブと化しているせいで。

「く、くすぐったいっス…!くすぐ…、い、いや違うっス!くすぐったいんじゃなく、何か変な…、はひっ!?」

振動が強まり、ダイレクトに腸壁と前立腺を刺激され、アルは一度息を飲んだ。

「いひゃああああああああああああああああっ!ややややめっ!やめてぇっ!ぎゃあああああああああス!」

強烈な刺激に激しく身悶えし、床を転げ回る白熊。

その陰茎からは先の射精で封を切ったように白濁した液体が溢れ続けており、覆ったジモジモちゃんの内側を染めてゆく。

精液を好物とするジモジモちゃんは、アルの味がお気に召したらしく、一層熱を込めて振動する。

「ぎゃああああああああああああス!たすけてぇえええええええええっ!」

強過ぎる快感に耐えかねて転げ回りながら、アルは悲鳴を上げ続けた。

延々と、精液を搾り取られながら…。



一方その頃、アルが悶えている脱衣場の下では…。

「痛っ…ててて…!」

顔を顰めながら尻をさすって腰を上げたサツキは、周囲を見回して「ぉ…!?」と、喉の奥で押し殺したような呻きを漏ら

した。

脱衣場に飛び込んだ直後、床がシュパッ!と開き、スポッ!とそこにはまり、ドスン!と落下したサツキが居るここは、脱

衣場地下に設けられた、モチャ仕様おもてなし空間である。

無機質に整ったつるつるの壁や天井は、コンクリートで固められた明らかな人工物。

部屋は5平方メートル程の広さで、床から3メートル以上ある天井には継ぎ目のような物はパッと見ても見つからず、すぐ

さま閉じてしまった四角い穴がどこにあるのかはもう全く判らなくなっている。

「何だってんだよ、こいつぁ…」

硬い床にしこたま打った尻をさするサツキには、もう先ほどまでのやや怖がっている様子は無い。

予期せぬアクシデントではあったが、それらを構成する要素が落とし穴にコンクリートの壁と人工物満載であるため、超常

現象などではないと察しがつき、途端に憤りを覚えている。

やがてサツキは天井の隅にあるカメラに気付き、「あ!」と声を上げた後、牙を剥いてカメラに凄んだ。

「おい!何処のどいつか知らねぇけど、新年早々一体どういうつもりだ!?とっととここから出しやがれっ!でねぇと前歯全

部引っこ抜くぞ!」



「おお、おっかねぇおっかねぇ」

モニターに大きく映し出されたサツキの顔を見つめ、ニヤニヤするキンジ。

「こいつ顔とか体型とかヤマトと似てんだよなー。弄りたくなる。色々な意味で…」

「良いねぇ、その反抗的な面と態度がよ。そういう活きの良いヤツほど無理矢理屈服させて滅茶苦茶にしたくなるぜ」

悪人面と悪そうなセリフが似合う主人公、ムンカル。

「まぁ反抗的な態度もそう保たへんと思いますわ」

三毛猫はそう言いながら、涼しい顔で黄色いモチャボタンをポチっとな。

「今度は何?」

訊ねるキンジに、モチャは得意げかつ自信ありげな顔で大きく頷いた。

「今日という日の為にブルーティッシュ本部からお借りして来たゲストですわ!」



天井の隅にぶら下がっているカメラを睨むサツキは、モチャボタンの操作により床の一部が円形に、音も無く開いた事には

気付かなかった。

その穴の下から、凝った作りの円形エレベーターよろしくせり上がった丸い舞台には、モチャ曰くゲストの姿。

直径30センチ程の円が上がり終えて床と同じ高さで止まると、サタデーナイトフィーバーを意識してか少し体を反らして

腰(?)に触手を当てていたソレは、カメラ目線(?)になり、クニャリと腰(?)を折って丁寧にお辞儀した。



「何だありゃ?イソギンチャクか?」

モニターに大きく映ったサツキの顔の向こう側、触手をゆらゆらと揺すっているゲストを見つめ、ムンカルは胡乱げに眉根

を寄せる。

「名前はメケメケちゃんですわ。「こんな企画準備しとるんですけど〜」て声かけたら、ノリノリで賛同してくれはりまして

ん。好きモンやからあの子も」

話が聞こえているのか、モチャの説明を肯定するように、メケメケちゃんはモニターの向こうで触手を左右で数本ずつ束ね

て腕と拳を模す。そしてシュシュシュッと素早くシャドーし、やる気をアピール。メケメケにしてやんよ。

「大丈夫か?このヤマト似の熊、でけーし豪快そうだし、イソギンチャクなんて手掴みで、かつ生で、グバーッて捕食しちま

うんじゃねーの?」

「「ヤマト似」て言われると何や鯨の缶詰連想してまいますなぁ。…ところでイソギンはんて食えるんでしょか?」

「さーな。でも食うんじゃねーか、こいつとかは」

「否定できねぇなぁ」

断定するキンジと頷くムンカル。

「バット!し・か・し!メケメケちゃんはそこらのイソギンはん達とは違いまっせ!黙って食われるような甘いイソギンはん

やおまへんで!」

「甘いのか?イソギンチャクって」

「何か苦そうに思えるぜ」

どうでも良い方向へ思考が流れて行くキンジとムンカル。

「頼んまっせメケメケちゃん!」

モチャの期待の声が聞こえた訳では無いだろうが、サツキににじり寄るメケメケちゃんは触手を絡めて腕を作り、親指(?)

を立ててサムアップ。

「アブクマー、後ろ後ろー」

そんな声を上げるキンジは、茶の間でコント番組でも見ているように無責任に楽しげであった。



カメラを睨むサツキは、すぐ真後ろまでヌノノノッと寄ってきたメケメケちゃんの存在には気付いていなかった。

秘密の七大能力の一つ、「いつだって傍から見ているぜステルス」により全身を床の色と同色に変え、首尾良く接近したメ

ケメケちゃんは、触手の一本をニュモーッと延ばし、背の高いサツキの肩の高さまで上げる。

その触手の先端から、フシュッとどギツいショッキングピンクの霧が噴射された。

「ん…?」

うなじに吹きかけられた霧の甘い香りを嗅ぎ取り、桃色の霧を目にし、サツキは素早く振り向く。が、そこに居るメケメケ

ちゃんは触手を引っ込めつつ床にカモフラージュして移動しており、大熊は危険なイソギンチャクの存在には気付けなかった。

フンフンと鼻を鳴らしつつ首を傾げたサツキの背後で、股下を潜って回り込んだメケメケちゃんがまたもや触手を伸ばす。

再び後ろから噴霧されるどギツいショッキングピンクの霧。今度はさらに素早く振り向いたサツキだが、メケメケちゃんの

触手はシュンッとスピーディーに縮み、その存在を悟らせない。

カメラとモニターを経由した向こうで、キンジとムンカルは、あのイソギンチャクは一体何をしているのか?と訝るが、モ

チャはこの時点で成功を確信していた。

メケメケちゃん秘密の七大能力の中でも極めて強力な部類に入る力「何もかも忘れな、今は…ミスト」。それが、ピンク

の霧の正体である。

慎重に焦らすように、繰り返し少量ずつ噴霧されてゆくそのミストを嗅がされてゆく内に、サツキの目がトロンとし始めた。

「…あれぇ…?」

間延びした、そして少しばかり幼さを感じさせる舌足らずな声を漏らしたサツキは、ようやく足下のメケメケちゃんに気付いた。

「いつだって傍から見ているぜステルス」を解除したイソギンチャクの前で、厳つい顔を弛緩させた大熊はゆっくりと屈み、

ペタンと、正座を崩した格好で尻餅をつく。

「えっとぉ…。久しぶり?…だよねぇ?」

さっちゃんモードになっているサツキが語りかけると、メケメケちゃんはクニャリと頷いた。

「小学校以来だっけぇ?懐かしいねぇ」

トロンとした目を笑みの形に細め、サツキはその大きな手でメケメケちゃんを掬い取り、顔の前に持ち上げる。

元気だったぁ?随分変わったねぇ?などと話しかけるサツキの態度は、旧友…しかも相当親しい相手と再会したかのような

ソレであった。

相手を忘我の彼方に突き落とし、警戒心も状況も忘れさせ、さらには自分をさも旧知の親しい相手であるかのように思い込

ませるという、何とも使い勝手の良い…もとい危険極まりない能力、それが「何もかも忘れな、今は…ミスト」である。

術中にはまったサツキは、もはや全てを忘れてメケメケちゃんのなすがままになる他無い。…はずなのだが…。

「…あれぇ?昔からイソギンチャクだったっけぇ…?」

サツキが首を傾げ、ミストの効きが甘かったと感じたメケメケちゃんは、追加でシュッと鼻先へ一吹き。

くらっと頭を揺らしたサツキは、「ああ、前からそうだったっけぇ…」と、イソギンチャクの旧友という謎の存在が居たと

いう事で納得してしまう。

「あれ?そう言えばさぁ、きっちゃんとけんちゃん見なかったぁ?」

まだ効きが甘いのか?そう判断したメケメケちゃんは、さらに追加でミスト噴霧。

「…あれ?今誰かの事思い出しかけたんだけど…」

両手の上に乗せたメケメケちゃんを不思議そうに見つめ、哀れにもサツキは恋人の存在を一時忘却させられてしまった。

このミストは嗅がせ過ぎれば本当に何もかも忘れ、眠ったようになってしまう。

そうなっては面白くないと企画者から言い含められていたメケメケちゃんは、細心の注意を払い、サツキを適度な骨抜きに

変えてしまったのである。

本当に危険度が低いのか?ここまで来るといささか以上に怪しい危険生物は、触手を伸ばしてサツキの頬や首を撫で始めた。

その感触を心地よく感じるのか、こそばゆさで体を揺らしつつ、サツキはホニャ〜ッと顔を緩め、口を半開きにした。

「え?やりたいのぉ?…久しぶりに会ったばかりなのに、せっかちだなぁ…」

頭の中ではいつの間にやらメケメケちゃんを「数年間ご無沙汰していたが、今日たまたま再会した肉体関係を持った事のあ

る幼馴染み」という萌える立場のキャラクターにしてしまったサツキは、肥えた体を恥じらうようにモジモジさせ、捧げ持っ

たメケメケちゃんを上目遣いで見つめ、横を向いて催促するように頬を突き出す。

「で、でも…まず…、ちゅ、ちゅーしてくれる?ほっぺに…」



「痛々しいっ!」

キンジ、大喜び。

「あんなガタイとナリで「ほっぺにちゅーして?」…とか、痛々し過ぎるっ!くぅーっ!滅茶苦茶にしてやりてー!」

そっと寄せた頬にイソギンヴェーゼでキスして貰い、恥じらいながらもモジモジ喜ぶサツキには、もはや柔道の実力者であ

るとか頼られる大男であるとかそういった雰囲気は皆無。

と言うよりも、メケメケちゃんを床に下ろしつつ率先して仰向けに寝転がり、股を開いているその格好は、何処からどう見

ても立派な雌である。

延ばした触手で睾丸やら肛門やら陰茎やら臍やら乳首やら、焦らすように散々いじくり回されたサツキが淫らに喘ぐ様子を

仔細に眺めながら、キンジはニタニタ笑う。

「これ、もしヤマトでもこんな感じになんのかねー?」

「どうでっしゃろ?けどまぁメケメケちゃんは巨漢デブがお好きやそうですから、でかくて太っとるなら全力で歓待してくれ

はるはずでっせ?」



「あ…!はひ…!はひぃ…!」

鼻にかかった喘ぎ声を漏らしつつ、サツキは両手で顔を覆って、子供がイヤイヤをするように頭を振った。

股間の小振りな逸物に吸い付いたメケメケちゃんは、体全体をピストン運動させてサツキをおもてなし中。

リキッドにフォッグといった媚薬系能力もフル動員し、今宵のメケメケちゃんは本気で事に当たっている。

偶然出会ったその日の内に、恋の華咲く事もある…。

たった一夜の床しか共にできぬ我が身を呪うべきなのか、一度だけ身を寄せ合えた幸運を天に感謝すべきなのか…。

ただ一つ言える事は…、嗚呼君よ。初々しく愛しく可愛らしき君よ…。

たった一夜で乾く夜露ではあれども…、せめて今は恋人として、我はゆこう、君とゆこう、共にゆこう…。

今だけは君だけの恋人として…。今だけは…。今だけは…。

恋する危険生物メケメケちゃんは、そんな情緒的な思考でひとり盛り上がっており、ご奉仕は鬼気迫る物となっている。

実を言えば、アルに負けず劣らず大柄でモップリ太っているサツキに、あれよあれよと一目惚れ。今回の企画での役回りを

役得だと感じる事は確かなのだが、それ以上に、この仕組まれた出会いが少々哀しい。

所詮自分は危険生物。陽の当たる世界に生きる君とは、新春企画というこの形でなければ出会い、身を重ねる事もありえな

かった…。

涙は流せないメケメケちゃんは、代わりに全身を震わせリキッドを分泌させている。…当然その作用で、分泌液に犯された

サツキの体はその部位が性感帯に変わっているが。

「あっ…!あぁっ…!凄…い…!凄いよぉ…!気持ち…良いぃ…!」

目尻に涙すら浮かべて喘ぐサツキは、肛門を割って侵入した触手の窮屈さも苦痛には感じていない。各種メケメケ液の効果

により、もはや全ての刺激が快楽に変わっている。

深い位置まで入り込んだ触手がウネウネとのたくり、直腸内を的確に刺激され、前立腺が反応したサツキは、「んんっ…!」

と呻いて目を固く閉じ、下唇を噛む。

その股間で、メケメケちゃんにニュチニュチと嫌らしい音を立ててしゃぶられている小さな包茎逸物から、とぷっと白濁し

た液体が零れ始める。

「ひんっ…!ひ…!ご、ごめ…!ごめんなさ…い…!ひぐっ…!うぅ…、ぼ、ぼく我慢できなくて…!お口…よごし…ちゃっ

た…!」

いつにも増して幼年期退行が酷いサツキの股間では、包皮口の先からこぷこぷ、こぷこぷと、止めどなく精液が漏れている。

優しく、しかし激しく、乳首や肛門、脇腹や臍などを触手で弄り回しながら、メケメケちゃんは濃い精液を嚥下してゆく。

精液をエネルギー源として摂取するメケメケちゃんだが、今だけは、特別な思いでそれを飲みこんでいた…。



「何か地の文の解説がうぜー…。イソギンチャクの心情とかどーでも良いっての」

食い入るようにモニターを見つめつつ呟くキンジ。大きなお世話である。これはこれで必要なんス。たぶん。

「ところで、一際でけぇ赤銅色の熊はどうした?いまだに浴場か?」

もうもうと立ち込める湯煙で良く見えない浴場監視モニターを眺めながらムンカルが訊ねると、モチャは「ふふん…!」と

得意げに鼻を鳴らす。

「抜かりありまへんでぇ!んっふっふ〜!きっちり準備さして貰いました!」

「スライム、イソギンチャクと来て…、今度は何だよ?」

顔を押さえて喘ぎながら精液を搾り取られているサツキから眼を離し、浴場のモニターを見遣ったキンジは、「ん?」と目

を細めた。

ムンカルも同時にソレに気付き、ずいっと身を乗り出して首を伸ばす。

「…おい鉄色の…、今、湯煙の向こうに…」

「ああ。人影が…、二つあったぜ…?」

「実は、ちょこっと前に押しとりましたー!モチャボタン赤っ!」

『何ぃっ!?』

驚く…、というより、何故見逃してしまうタイミングでスタートさせているのか?と責めるような声を上げた二人に、モチャ

はにやつきながらパタパタと手を振った。

「大丈夫ですわ!ほな湯煙が邪魔にならへん別視点のカメラで撮ったモンを、ちょこーっと巻き戻して再生しましょかーっ!」



「む…?」

しばし前、サツキに続いてアルが脱衣場に駆け込んで行った後、太鼓腹が窮屈そうな姿勢で体を折って屈み、湯船に浮かべ

ていた盆を掬い上げたユウヒは、立ち上がるなり目眩を覚えて顔に手を当て、眉間を指で押さえた。

湯で温まっていた体が冷たい風に当てられ、急に冷やされたが故の立ちくらみ…。一瞬そう考えたユウヒは、しかしその目

眩が立ちくらみの類では無い事をすぐさま悟る。

軽い目眩はしばし経っても収まらず、しかも体の方は、腹の底からかっかと熱くなるような妙な火照り方をしている。

これに近い感覚を味わった経験が、確かにどこかであった。

そう思い至って記憶を手繰った巨熊はブルルッと身震いし、邪魔な出っ腹を出切る限り引っ込めて股間を見下ろす。

ユウヒの予想通り、短くも太く、分厚い皮を先端まで被った陰茎が、次第に強まる目眩に同調するように、むくむくと頭を

もたげ始めている。

首周りの被毛をぶわっと逆立て、「ま、まさか…!?」と掠れ声で呻いたユウヒは、気配無く背後に立った者の存在を勘で

察し、体ごと素早く振り向いた。

この巨熊を相手取り、気配を悟らせずにここまで接近できる者は限られている。

そして、見開かれたユウヒの目は、予想通りの相手の顔を映していた。



「良く見えねーぞ?ご当主のケツがでか過ぎて」

やや低い位置から撮影しているカメラには、並の範疇のタオルでは丈が足りずに巻けない程どーんと太い、極めて肉付きの

良い腰と尻。

不満げに呟くキンジの脇にずいっと出たムンカルもまた、鉄色の目を細めて凝視するが、こちらに背を向けて立つユウヒの

向こうに誰が居るのかは巨体の陰になって見えない。

「誰だ?ってか「何」だ?クラゲとかか今度は?」

ムンカルの呟きに、モチャは含み笑いを漏らす。

「もっと、もっとも〜っと、大変危険なビッグゲストですわ…!」

その言葉が終わるや否や、モニターに映ったユウヒがたじろぐように後ずさり、一陣の風で薄まった湯煙の向こうに人影が

現れると、キンジとムンカルは『あ〜…』と、心底納得したような声を漏らした。



じりっと足を後退させたユウヒの顔は、明らかに強張っていた。

恐れすら浮かべるその瞳に映るのは、若い小柄な柴犬の姿…。

「恐れながら、酒に混ぜ物をさせて頂きました」

慇懃に頭を下げるその若者を凝視するユウヒの目は、しかし常の彼を見つめる眼差しをしていなかった。

警戒心を隠そうともせず、一時も視線を離さずに、明らかに異質な物を見るような目でソレを見つめている。

そう、己の従者であるシバユキを。

「きょ、今日は四月馬鹿ではない!ユウトの誕生日ではないぞ!なのに何故…、何故黒いっ!?」

常の落ち着き払った振る舞いからは考えられないほどに狼狽しておられる奥羽の闘神は、何かよくわかんない事をおっしゃっ

ておられる。

「何故にこどしははえぐ出で来んだ…!?そいもまるっと三ヶ月ばっかす…!こだえろクロユギぃっ!」

普段の堂々たる振る舞いからは想像もできないほど取り乱してお郷訛りを丸出しにしておられる神代家のご当主は、またわ

けわかんない事をおっしゃられる。

腰にタオルを一枚巻いただけのクロユキ…もといシバユキは、何処かで一っ風呂浴びて来たのか、既に被毛を湿らせて軽く

拭ったようにほこほこしており、片手には瓶入りのコーヒー牛乳。

主の問いには答えずに、これ見よがしに蓋を開け、腰に手を当てて正しい作法でコーヒー牛乳をゴキュッ…ゴキュッ…とや

り、大きく息をついたシバユキは、ようやくユウヒに視線を戻した。

「お忘れでございますか?ユウヒ様…」

「な、何を…?」

静かな声音に宿る異様な迫力に気圧され、ユウヒは耳をぺったりと寝せて後ずさる。

「正月と言えば、無礼講でございましょう」

「ブレイカーだと!?」

珍しくカタカナトークな神代家当主。どうやら相当狼狽しておられるご様子。

一旦屈んで空になったコーヒー牛乳の瓶を足下にコトリと置き、シバユキはゆっくり身を起こしながら、主君の顔を睨め上

げた。

その手が、腰に巻いていたタオルをしゅるりと解く。

あらわになったシバユキの股間で、その逸物が臨戦態勢に入っている事を見て取ると、ユウヒはゴクリと唾を飲み込み、怯

えた様子で後ずさる。

「ま、待てシバユキ…!」

「待ちませぬ」

「いやそこを何とか…」

「何ともなりませぬ」

とりつく島もないシバユキに、ユウヒは目尻を吊り上げて鼻穴を広げ、声を荒らげた。

「ええい!年明けから破廉恥な真似をしでかす事など許さぬ!此度ははっきり申しておくぞ、新年早々馬鹿は許さぬ!良いな

シバユキ!」

「…ユウヒ様…」

シバユキは眉尻を下げ、哀しげな表情を作る。

「矮小で欲深きシバユキは、エイプリルフールの秘密の逢瀬だけでは満足できませぬ…」

シバユキが急にしおらしくなると、少々きつい声を出しすぎたか?などと思ったユウヒは、咳払いして歩み寄り、優しい言

葉の一つでもかけてやろうかと思案し始める。が、

「…隙ありっ!」

「むおっ!?」

素早く振られたシバユキのタオルが手元を離れて宙を舞い、近付いて来ていたユウヒの両足首に絡みつく。

「は、謀ったなシバユキ!?」

足を封じられたユウヒが、やはり僅かにも気を許してはいけなかったのだと後悔している間に、一瞬の足止めを仕掛けた柴

犬はするりと間合いに入り込む。

こうなれば是非もない。張り手の一発でも入れて湯煙の向こうへ弾き飛ばすか、それとも首筋に空手チョップでも叩き込ん

で昏倒させるか…、物騒な抑止力の行使を即座に検討するユウヒ。

既に手の届く範囲に入ったシバユキは、しかしユウヒが懸念したようないかがわしい行動には移らず、そこでピタリと止ま

り、上目遣いに、熱っぽく潤んだ瞳で、巨熊の顔を見上げる。

「ユウヒ様…。シバユキめは、また身と心を寄せ合える時を、一日千秋の想いで心待ちにしておりました…」

平手で胸を突いて雪の向こうまで吹き飛ばすつもりになっていたユウヒは、その前に言葉と表情で胸を突かれ、ぐっと動き

を止める。

その眼前で、媚びるような顔を一変させ、真っ黒な輪郭に三日月型の赤い口と真っ赤に輝く丸い目だけを残した悪どい表情

となったシバユキが、素早く右手を動かした。

「ふがっ!?」

鼻孔を膨らませて目を見開いたユウヒは、喉を詰まらせたような声を発して背筋を伸ばし、硬直する。

シバユキの手はユウヒの股間にあてがわれ、その陰嚢を鷲掴みにしていた。

「王手でございます」

くふぁーっ!と悪そうな吐息を漏らし、黒い輪郭の中で目を爛々と輝かせる柴犬。

本日のシバユキ、やはり黒い。

急所を鷲掴みにされたユウヒは、陰嚢をたふたふむにむにとやや強めに弄ばれる恐怖感と苦しさ、そして背筋をゾクゾクさ

せる快感に、ぶるるっと身を震わせた。

「腹を括って下さいませユウヒ様…。こうなればもはや、シバユキめは事が済むまで貴方を放したりしませぬ故…」

観念した…、というよりは諦めた様子で、ユウヒは両腕をだらんと体の脇に垂らす。

混ぜ物がされた酒の効果によるものか、それとも散々調教された結果か、ここまで踏み込まれてしまうと、もはや抵抗する

気も弱まっていた。

「…こ、ここで…、するのか…?…んっ…!」

新たに添えられたシバユキの左手で陰茎の先端に被った皮を剥かれ、ユウヒは呻く。

「当然この場で」

僅かに顔を覗かせた亀頭に舌を這わせ、鈴口をねと〜っと舐めながら目を細める柴犬。

ぼてっとついてせり出した腹肉の柔らかな感触が、股間に顔を埋めたシバユキには額で感じられている。息が上がれば腹が

上下しタプタプと揺れるようになるのだが、今はまだそこまで至っていない。

「あ、アル君達に…、見られるやもしれぬ…!」

「見せつけてやりましょう」

股間から顔を離し、太鼓腹越しに見上げたシバユキは、主君にニヤリと笑いかける。

「むしろ、誰かに見られるならば好都合。恥じらうユウヒ様のお顔は、特に愛くるしいですから」

「…っ!」

絶句したユウヒは、顔をかっかと熱くさせ、頭頂部や肩、うなじから湯気を上げている。

酒に仕込んだ薬に加え、恥ずかしさと興奮で体を火照らせている事を確認すると、シバユキは太い両脚の間に手を入れ、少

し開かせた。

「このまま、ほぐします」

「こ、このまま!?」

シバユキの行動と言葉が何を意味するか悟ったユウヒは、即座に敬遠したそうな顔になった。

「何でございますか?」

「…………」

ユウヒはぼそぼそと小声で応じるが、掠れすぎたそれはシバユキの耳に届かない。

「はっきりおっしゃって下さい」

「…その…な…。…た、たまには…、おらさ掘らして貰えねぇべが?」

恥ずかしさを堪えてぼそぼそ述べたユウヒに、シバユキはニンマリと嫌らしい笑みを浮かべた。

「私めの尻を掘りたいと?その粗チンで、でございますか?」

ぐっと言葉に詰まったユウヒの顔を見上げたまま、シバユキは巨熊の体にぴたりと密着し、その腹肉をぐにーっと強く掴む。

「冗談はデブり具合と陰茎の短さだけにして下さいませ。端的に申し上げるならば…、「十センチ早い」で、ございます」

ひでぇ。

もはやぐぅの音も出ないユウヒは、黙って項垂れる。

その目尻に光る大粒の滴には、大人の対応で気付かないふりをして差し上げるべきであろう。

「では、納得して頂いたところでほぐし方を…」

「い、いや…」

俯いたまま、ユウヒは恥を忍んで呟く。

「どうせだら、寝転がったらぐな姿勢の方が…ええんだげどな…」

まぁ、その程度の事なら聞いてやっても良いか。そう判断したシバユキは、「特別ですよ?」と恩着せがましく言って、一

旦ユウヒを解放した。



「おーおー、意外に従順じゃんご当主?」

四つん這いになり、でかい尻をシバユキに向けるユウヒを眺めつつ、感心したように呟くキンジ。そこへモチャが「えぇ人

選でっしゃろ?」と、自慢げな顔で頷く。

「ご当主弄りに関してはプロフェッショナルやさかい、シバユキはんは」

「しっかし、アイツいわば身内だろうが?よくもまぁ協力を取り付けられたもんだなぁ」

ムンカルが首を捻ると、モチャは「ソレなんですけどな…」と声を潜めた。

「ちょーっと打診したら、やたら乗り気んなってくれはりまして…、酒に薬混ぜるのも、この秘湯に誘い出すのも、実はシバ

ユキはん発案ですわ」

呻きながら尻をほぐされ、広げられてゆき、歯を食いしばって呻き声を押し殺すユウヒと、喜々として肛門をいじくりなが

ら何やら囁きかけるシバユキ。ユウヒの表情を見るに、どうやらチクチクと詰るような言葉でも投げつけているようである。



「入ります」

博打のかけ声のようなセリフを発したシバユキを、「え?はえぐね?」と振り返ったユウヒは、

「んがぁああああああああっ!いででででっ!」

直後、肛門を割って深々と侵入してきたモノの感触に堪えかねて声を上げた。

愛撫もそこそこにいきなり奥まで突き込まれたおかげで、一気に広げられた肛門に引き攣れるような痛みと窮屈さを覚える。

四つん這いのまま顔を下に向け、キツさに堪えて「うっ…、うっ…!」と声を漏らすユウヒの背を、繋がったシバユキの手

がそっと撫でた。

「参ります」

「し、しばゆぎぃ…!ち、ちっと待…で…!し、尻が…!」

まだほぐれていない。そう主張しようとしたユウヒは、しかし肛門から潜り込んだモノを一気に動かされ、「おぅっ!」と

呻き声を上げた。

急な動きで引き抜かれる寸前までバックしたシバユキの男根が、今度は急激に突き込まれる。肛門が捲れ返って腸が出て行っ

てしまうのではないかという激痛に、さすがに我慢できなくなったユウヒが抗議した。

「いでぇっ!も、もちっと優しぐしてけろ!」

「優しくしたのでは萌えないでしょう?ユウヒ様はドMでらっしゃいます故」

「勝手に決めんでね…はふっ…!」

深く突き込まれた男根をぐりっと、根本を支点に回すように動かされ、直腸内をぐりぐり刺激されたユウヒは言葉を途切れ

させた。

「苦痛も最初だけでございます。言葉責めすら快楽に変わります。繰り返しますがユウヒ様はドMでらっしゃいます故。しば

しご辛抱を…」

にたぁ〜っと笑ったシバユキは、ユウヒの巨大な尻を抱え込むようにして、激しく腰を動かし始めた。

その手が、むっちりと肉の付いた腰回りや尻を撫で、時に揉み、たまに伸びては脇腹を軽く叩くなどする。

ボリュームで言えば五分の一程度の小柄な柴犬に良いように弄ばれながら、ユウヒは次第にその喘ぎの質を変えてゆく。

四つん這いになっているせいもあって自重でぼよんと垂れている巨腹や緩んだ乳を、シバユキの腰の動きに連動して絶え間

なくゆさゆさたぷたぷ揺すられながら、もはや常の面影が見あたらない神代家現当主は、いつからか喉の奥から、切なげな、

しかし明らかに快楽に酔いしれている呻きを漏らしていた。

半勃ちの逸物からはとろとろと床に先走りを垂らし、口からは一層熱を帯びた吐息を吐き出しながら、ユウヒは肩越しに振

り返る。

「し、しばゆぎぃ…!おら…、おらもぉ…、出る…!」

「相変わらずお早いですねユウヒ様。太さは及第点とはいえ、包茎で短くて早漏と来れば、股間に関しては救いようがこれっ

っっっっっっっっ…ぽっちもございませぬ」

シバユキ今回もノリノリである。

「…ふぐ…うっ…!」

対するご当主、涙目であらせられる。

「もっとも、駄目と申しましても我慢しろと申し上げても結局お漏らししてしまわれるのでしょうし…。どうぞ、種汁と言わ

ずよだれと言わず汗と言わず、思う存分垂れ流して下さいませ」

言われるまでもなく、目から口から亀頭から全身から、涙やらヨダレやら先走りやら汗やらをだらだらと垂れ流しているユ

ウヒは、前立腺を執拗に刺激してくるシバユキの男根を、肛門でギュッと締め付ける。

「そろそろ…、参ります、ユウヒ様…!」

言葉と男根で心と尻を責めながら興奮を高めていたシバユキもまたそろそろ臨界が近付き、腰を動かして繰り返し深く突き

入れつつ、ひぃひぃと声を漏らすユウヒに声をかける。

「あっ…!」

「んぐぅっ!」

シバユキの口からやや高くなった声が漏れるのと、ユウヒが唸り声を漏らしたのは同時であった。

限界まで突き入れた男根から精を放ち、ぶるるっと身を震わせるシバユキの指が、あてがっていたユウヒの腰の被毛と肉に

浅く食い込む。

放たれた精液で腹の内側を叩かれ、深い位置でシバユキの種の熱さを感じたユウヒは、首を垂らして背を丸め、歯を食いし

ばっている。

種付けされたという意識で後押しされたのか、その股間からは堰を切ったように白濁した体液が滴り始めた。

とろとろ、とろとろ、絶え間なく精を絞り出しながら、ユウヒは呼吸すら止めて強烈な刺激に堪える。

が、そのままじっとしている事は相方が許さない。精を放ってもなお飢えているように、シバユキは一度止めた腰の動きを

再開させ、種汁で満たされたユウヒの中をかき回し、呻き声を上げさせた。

「し、しばゆぎぃ…!ぐ…!ま、待で…!休まして…」

「駄目でございます。このまま延長戦突入と参りましょう」

「延長戦!?」

「ここからは、精根尽き果てるまで時間無制限一本勝負にございます」

「ままま待でぇっ!イったばっかでおら…、おらぁもぉっ!」

脂汗を全身からどっと吹き出させながら振り返ったユウヒに、

「では、次は体勢を変え、ユウヒ様の好きな正常位で…。口付けから参りましょうか」

それまでとは表情を一変させ、優しく微笑むシバユキ。

一瞬きょとんとしたユウヒは、恥じらいつつ顔を前に戻し、小さく、ほんの小さく頷いた。

そして、前を向いたが故に気付かない。

シバユキが再び、黒い輪郭に目と口を浮かび上がらせた悪党面の笑みに戻った事には。

ユウヒの内面まで知り尽くし、飴と鞭を巧みに使い分けて手綱を握る男、シバユキ…。

ある意味、世界最強の男より強い男ではある。



「おーおー、まだヤるみてーだなー、こっちの二人」

「おい。白熊、目ぇ虚ろになってんぞ?」

「メケメケちゃんも奮闘中ですわ」

それぞれ食い入るようにモニターを見つめ、満足げな三人。

「これ、録画はバッチリか?」

「ですわ。後でノーカット無修正で配布しますさかい、楽しみに待っといてくださいましっ!」

キンジの確認に頷くモチャ。とてもとても良い笑顔である。

が、その顔が次の瞬間には不思議そうな物に変わり、肥えた三毛猫は携帯を取り出す。

携帯の小窓を確認するなり「…あ!」と弾んだ声を上げたモチャは、そわそわもじもじせかせか耳に当て、

「もしもしっ!?ワイです、モチャです!」

と、背筋を伸ばし、上ずった声で電話に出る。

「え?初売り最終日セール?もちもち!もち行きますわ!お供致しますぅ〜!でへへへっ!え?予定?あらへんあらへん!なぁ

〜んもあらしまへんで!すぐ戻りますけど、午後からで?了解了解!荷物持ちでもアッシー君でも何でもしますよって、こき

使っておくんなはれ!」

でれっでれに緩んだ顔で受け答えしたモチャが通話を終えると、ムンカルは「どうした?」と声をかけた。

「サキはんから、お買い物のお誘いですわ。って訳で…」

モチャは腰を浮かせるとスチャッと左手を上げつつ、右手で置いてあった鞄のジッパーを摘んだ。

「ワイ、一足早く撤収さして貰いますよって、後はよろしゅうに。あ、画像は自動で録画されとりますさかい、後でお送りし

ますわ」

そう一方的に宣言し、引っ張り出したスキーウェアを身に付け始めるモチャ。

止める間もなく着込み終え、立てかけていたスキー板を手に取ると、三毛猫は仮設テント内の色々な意味で淀んだ空気を後

にし、もっさり積もった雪の中へと飛び出して行った。

「慌ただしいなぁ。…って何だよお前の方は」

仏頂面で携帯を眺めているキンジに目を遣ったムンカルは、彼がポチポチとボタンを操作しているのを眺めながら、「恋人

から…」という、半ば予想していた返事を聞く。

「メール来てたの気付かなかったぜ…。六つ来てやがった…。意図的に無視されてたと思い込んで、途中から泣き言混じりに

なってっし…」

そういえばこいつの恋人も可愛く美味そうに太っていたよなぁ…。などと考えたムンカルは、

「わぁったわぁった、帰ってやれって。恋人泣かすもんじゃねぇ」

年下への寛容さを見せ、一人で居残る事にする。

「いーのかよ?」

「録画は自動なんだ。ぼーっと眺めてるだけで良いんだしよ」

やや気まずそうだったキンジは、ムンカルの言葉で背を押され、雪中迷彩の防寒着を身につけ始めた。

「可愛いデリヘル知ってるから、今度紹介してやるよ」

「気ぃ遣うなって。ほれ、さっさと行った行った!」

手でしっしっと追い払う仕草をし、キンジを送り出すと、スピーカー越しの喘ぎや嬌声しか聞こえなくなったテントの中で、

ムンカルはため息をついた。

「…優位な立場からあられもねぇ姿監視するって企画だったが…」

鉄色の虎はぽつりと呟くと、耳を倒した。

「…こうなっちまうと、現時点で一人ぼっちの俺が若干寂しいじゃねぇか…」

根は単純なくせに変なところで複雑な男である。

虚しさと寂しさを胸に、相方の顔を思い浮かべたムンカルは、

「俺も帰るかな。この企画の為にしばらくほったらかしにしちまってたもんなぁ、そろそろミカール可愛がってやんねぇと…」

そんな事をしみじみ呟いた。

少し考えた末、「よし!」と力強く頷いたムンカルは、腰を上げてガッツポーズを取る。

「今回は道具責めで行こうじゃねぇか!帰りにバイブ買ってこう。ひーひー良い声で鳴かしてやるぜっ!」

「ほぉ。誰をや?」

「そりゃ勿論ミカールに決まっ…」

唐突に言葉を切ったムンカルは、首周りの毛を逆立てた。

視界の脇で踊るノイズの残滓。

静かに怒りを湛える聞き慣れた声。

そして、冷や汗が滲み出る強烈な怒気。

おそるおそる振り返ったムンカルは、怯えたように耳を倒しながらも、取り繕うような笑みを浮かべている。

「よ、よう…!どうした?こんなトコまで…」

「散歩や」

すぱっと言い放ったレモンイエローの丸いソレは、鬣ばかりが立派な幼顔の獅子。

高さがない割にぽってり肥えたおかげでボリュームがあるその体は、今は発散させている怒気により、ムンカルの目には一

回り大きく見えている。

「そ、そうか散歩か。こんなトコまで…」

「せや。こんなトコまでわざわざな。…で、オドレはこんなトコで何しくさっとんねやムンカル?」

静かなミカールの声と吊り上がった目で、ムンカルは悟る。

この可愛いが怖い相方に、今回の事が全部バレてしまったらしいという事を。

「誰を可愛い声で鳴かすて?えぇ?」

「い、いやそりゃあその…。ち、違うからなっ!」

ごもごもと口ごもったムンカルは、急に声を大きくした。

「う、浮気とかそういうんじゃねぇぞ!?こいつはちょっとこう、特別企画だから仕方な〜くだな!決して俺は進んでやって

た訳じゃなくてだな!」

「言い訳やったら部屋で聞こか。ゆ〜…っくり、た〜…っぷり」

ミカール、目が据わっている。

もはや言い逃れは無理だと観念したのか、ムンカルは肩を落として項垂れ、「ぉぅ…」と、消え入りそうな声で応じた。

「ほな、片付けからやな。全く…、めたくそになっとるやないか!ほれ手伝わんかい!記憶の消去から行くで!」

「え?俺記憶改竄とかできね…」

「できるできへんは聞いとらんわ。やれ。やれへんかったら記憶の代わりにオドレが消えたらえぇ」

これは本気で怒っている。そう感じたムンカルは、首を縮めてしおらしく「努力します…」と応じた。

恋人は泣かせるものではない。が、怒らせるものでもない。

年の初めから好き勝手絶頂に楽しんだムンカルは、そんな事を心に刻む。

プンスカしているミカールに従って後始末に向かいながら、バチが当たったのか?などと少し考えたムンカルだったが、急

に納得の行かない顔付きになった。

「…え?モチャとキンジは?オチでバチ当てられんの俺だけか!?」