2020年新春記念 二十片の断章

「サツキ君のお腹…。暖かいね…」

「別に良いけどよ、お前この時期ひとのダウンジャケットに入って来んの好きだよな…」

「だって寒いでしょ!?初詣って毎年寒いでしょ!?何故なの!?理不尽じゃない!?」

「キレんなよ…。寒ぃのは俺のせいじゃねぇだろ?何で寒ぃときとプールに浸かってる時はやたらと「キシャー!」すんだよ」

「したいからに決まってるでしょ!?」

(あ。ダメだ。寒くて頭動いてねぇパターンだこりゃあ)

「いいなぁ…。ダイスケ、あれオレもやりた…」

「キイチ兄ぃにアレして欲しい…」

「何ですって?」

「どんと来いジュンペー!」

「おいサツキ。お賽銭っていくら入れるんだ?」

「ん?おふくろが持たしてなかったか?」

「ああ。お袋さんに五千円握らされ…」

「おい!それ入れんなよ!?」

「?お賽銭じゃねぇのか?」

「学生に五千円のお賽銭要求するヤクザなカミサマが居るか!それお袋からのお年玉みてぇなモンだよ!俺の五円分けてやる

からソレ入れろ。で、祈れよ、願い事とかいろいろ」

「シンジョウの写真が入賞しますように…」

「今じゃねぇって…。あと口に出すなって…」

「寒いよ!?」

「だからソイツを口に出されても俺に言われても困るって…」











「あっ!やばい!」

「どうしたの?急に大きな声出して」

「ゲン!急げ急げ!この券の福引き午前中で終了だって!」

「え?ええと、いま十一時五十七分で…。流石に間に合わないよ?」

「あっちゃ~…!昼飯後回しにしとけば良かった!」

「あはは。でもどうせそういうのって当たらない物だから…」

「でも、この商店街だったんじゃないかな…?」

「何が?」

「中学の時、イヌイ先輩が温泉宿泊券当てたの」

「当てたの!?…でもイヌイ先輩、そういう運が凄く強いひとだから…」

「特別かぁ。…なぁゲン」

「うん。なに?」

「温泉とか行ってみたい?」

「うん。イヌヒコとなら」

「…お前そういうの反則!何なんだよそのフツーに素直にそういう事言えるトコ!反則!指導級の反則!」

「えええええ…?」

「…まぁ、温泉はな…。行ってみたいよな…。ふたりで温泉旅館とか、温泉街歩きとか…」

「そうだね…。あ。卒業旅行とかでどうかな?ナルゴとかだったら行き易いし…」

「…お前そういうの反則!何なんだよそのスマートな発案力!ああもう!ああもう!ホントもう!お前が居ないとダメだーっ!」

「ちょっ!イヌヒコ声おっきい!」











「む…。刷っていない年賀葉書は、まだ残っていたか?」

「ん?ちょっと待って。10枚ぐらいあったはずだから…。珍しいねユウヤ。出しそびれた分があったのかい?」

「いや、想定外の相手から年賀状が届いていた」

「へえ。誰?」

「ハヤシ」

「…年賀状書くんだあのひと…」

「来たのは初めてだな。案外、誰かから書くように促されたのかもしれない」

「その点、ユウヤは意外に筆マメだもんね」

「マメでもない。年賀状を不要、邪魔、と感じそうな相手には、迷惑になりかねないので出さないからな」

「そういう所を考える点も含めてやっぱりマメだと思うよ。はい年賀葉書」

「む」

「ところで、どんな年賀状だったの?」

「これだ」

「…!ははは!醒山の写真だ、懐かしい!綺麗な雪化粧だね」

「選んだ被写体が実にあの男らしいな」

「そうだね!」

「ヤマト先輩が涙ぐみそうな写真だが…」

「ユウヤに送って来るなら、きっと先輩にも送っているんじゃないかな?」

「気になるな。電話をかけてみるか。届いたかどうかは鼻声か否かで判断できる」

「…悪趣味じゃないかなそれは…」











「ノゾム。何かちょっと変わった?夏と雰囲気が変わったっていうか…」

「え?そう?…逞しくなった、とか!?」

「逞しくっていうか、太ましくっていうか…」

「…ふ、冬毛のせいかな?太く見えるのは…」

「冬毛はぼくだって同じだ。って言うか何で震え声なんだよ?」

「だって去年は動いてたもんちゃんと!最近は特に!」

(…ああそれで、逞しくなったか?って気にしたわけか…)

「おかしいな…。太るような事してないのに…」

「気にするなよ今更。そんなの誤差みたいな物だろ?」

「グサッ!」

「そんなにショックなのか!?」

「鍛えてる…のに…!背も…伸びない…!逞しくも…なれない…!上手くなるのはゲームだけだなんて…」

「いやゲームだけなんて事は…。ああほら、コーヒーは美味しく淹れられるようになったじゃないか?…お互いに」

「…かな…?」

「さ、行こうか初詣」

「うん…」











「ヤマトさんの実家」

「うん」

「遠いですね」

「うん」

「寒いですね」

「うん」

「毎年こんな感じなんですか?」

「いやいやいや違うからね!?こんな大寒波、実家に住んでた頃も経験してないからね!?バスの待合室に四時間立て篭もる

とか人生初だからね!?」

「それを聞いてちょっと安心しました…。毎年こうだったら厳しいなって…」

「まぁ毎年帰って来るつもりもないけどなぁ…」

「でも、できるだけ帰ってあげるべきじゃないでしょうか?おじさんもおばさんも許してくれたんですし、何も隠さないで会

いに行けるんですから…」

「ユキ?」

「はい?」

「おじさんおばさんじゃなく、もうお父さんとお母さん、だぞ?」

「あ!そ、そうですよね!えへへ…!何だか、嬉しいけど照れ臭いですね…!」

「それはまぁ…、俺も同じ…。はぁ…。まさか「旦那さんだか奥さんだか呼び方判らないけどとにかくめでたい」とか、無茶

苦茶ナチュラルに喜ばれるなんて思ってもなかったな…。って言うか、同性愛のこと本当に判ってんのかなウチの親?単にユ

キの事友達の延長ぐらいにしか認識してないんじゃ…」

「それは大丈夫だと思います」

「え?何で?」

(訊かれましたから…。男同士だとどういう風にするのかって…)











「ヒロー、御餅何個焼くー?」

「六個。…ああいや、やっぱり七個にするか」

「お?ラッキーナンバー?元旦だもんねー」

「それもあるが、近頃の餅はどんどん小さく薄くなっていないか?」

「そうかも。昔はもうちょっと大振りな御餅が多かった気がするね。製造機械の仕様なのかな?小型化が進んでるかも」

「それは少し寂しいな」

「ヒロのお腹は卒業してから随分大型化が進んだけどね。ニシシッ!」

「むっ…!最近は変わっていないぞ!お前の大きなお世話こそ大型化が甚だしいな」

「それじゃあどっちが大きいか勝負しよっか?ジャッジは私ね!」

「それは単にお前が腹を揉みたいだけだろう!」

「バレたか!でも気にしない!私も気にしないからヒロも気にしなくていい!」

「…どういう理屈だ?」

「まぁそれはそれ。お腹は後で揉むとして、御餅何で食べる?」

「海苔餅と砂糖醤油」

「オッケー。私はキナコにしようっと」

「カズ」

「はーい?」

「今年もよろしく」

「………うん!よろしく!」











「ヨシノリさんヨシノリさんヨシノリさぁ~んっ!」

「どうしたんだすっぽんぽんでドタバタと!?まさか…石か!?ポンポン痛いか!?」

「違いますぅ~っ!違いますから違いますってば違うの本当に違うんですだから電話しないでイヤーッ!」

「それなら何だ?…皿割った…とか…?詫びの全裸…?」

「今日はまだ悪い事してないっす!でもイベント発生!」

「うん?イベント?どんな?」

「風呂洗ってて気付いたけど、外見たら今年初の雪!」

「…ああそれで全裸…。いや何でそれで全裸?本当だ。いつ降って来たんだろう…」

「雪見風呂できるっすよ!柚子湯で雪見風呂!」

(あ~…。柚子湯に入りたくてこんなに早くから風呂掃除していたのか…。一刻も早く入りたくて全裸…。判り易い…)

「雪やむ前に入りましょう!雪を見ながら柚子湯でイチャイチャ…!ムッフー!幸先良い正月ドリームじゃないっすか!」

「判った判った。判ったからそうくっつかない。押し当てない。当たってる当たってる。…ところで…」

「はいはいムフフフ…!」

「湯はもう溜まってるのかい?」

「…まだ洗ってる途中だった…」











「なーダイ。アパート帰ったら何する?どっか行く?」

「御節も残ってっからな。つまみにして酒飲んでゴロゴロすっぺ」

「うわー!つまんねー正月ー!ネショーガツってヤツじゃん?ヘイロクと同じかよー!オセチもう飽きたってー!」

「元朝参りど挨拶回り終わったら、気持ぢど体休めで一年稼ぐ分の英気養うのが正月だべ」

「初売りは?」

「おう。欲しいモンあんなら行ってござい。栗キントンは残しとぐがら」

「はぁ~…。判ってねーの…」

「何がだ?」

「せっかく長い休みが被ってんのにさー、何処か一緒に出かけようって考えが浮かばねートコがマジデェゴロウだよな…」

「!?お、おう!一緒に行ぐモンだったが!んで行ぐべ!何買いさ行ぐ!?」

(チョロ熊…)

「買い物ついでに何か食いさ行ぐが!御節ばっかだど飽ぎっからな!」

(超チョロ熊…)

「あど何か休みのうぢにやりてーごどあっか!?」

「あー、それなら…」

「おう!」

「帰ったら、まずキス」

「………!お、おうふ…!」











「「一年の計は元旦にあり」」

「…ど、どう…したんだし…?」

「あ?」

「リンリン、風邪でも引いたし?」

「引いてねぇ」

「熱でもあるんだし?」

「熱もねぇ」

「お腹減っとるんだし?」

「減ってねぇ」

「じゃあどうしたんだし!?一体何があったんだし!?らしからぬ言葉が飛び出しとるし!」

「クロガネ先輩から聞いた。実現させてぇ事があるなら予定は元旦に立てろ、ってな」

「ああ、それなら納得だし…」

「だから、予定立てなきゃならねぇ」

「それは感心だし!何事も、目標を見据えて計画を立てるところから始めるべきだし!で、何から始めるかなー?」

「稽古だ。稽古の予定を立てる」

(ブレんなーこのジャイアントは…)

「まず海鳴に出稽古だ」

「立ち上がんなし。ジャンバー羽織んなし。何で予定立てる話をしとるのにもう行動に移しとるのかなー?」

「おう。じゃあ寝川だ」

「何が「じゃあ」だし!?どこに突っ込まれたのかビックリするほど理解できとらんし!」

「おう。竹馬ならどうだ?」

「○#△%×□&※~っ!!!」

「何で頭抱えてんだオメェ?」

「誰のせいだと思っとるんだし!?」

「着替えねぇのか?」

「ん、んん~?」

「行くだろ?一緒によ」

「………はぁ~…。ま、良いし…」











「じゃんけん!」

「ぽん!」

「あいこで!」

「しょ!」

(ふふふ!勝てる!勝てる気がするぞ今回は!大いに勝てる予感が!あいこがここまで続くのはなかなか無い!やっと!やっ

と念願の一勝目!正月から幸先が良いと言わざるを得ない!思えば長かった!長い長い雌伏の時だった!だが俺は!今日!未

知の体験にようやく手を届かせる!喰らうがいいシュウイチ!いま!この!俺の!勝負を決める…、う~ん、何を出そう?)

(うん。念には念をで様子を見たが、やっぱり癖は変わっていないか)

「あいこで!」

「しょ!」

「………」

「悪いな」

「…ぬぅあああああああああああああっ!またしても!何故ジャンケンの神は俺に微笑んで下さらない!?俺は一体何をやっ

てジャンケンの神の機嫌を損ねてしまったんだ!?そしてお前は何故そこまでジャンケンの神に愛されている!?」

「じゃあ、「今年もよろしく」」

「くっそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」











「よーし!帰って談話室で皆と特番観~ようっと!」

「コラ猫饅頭!」

「何だよ!何もしてないぞ!?ちゃんと道の脇歩いてるし手水もきちんとやったしお賽銭だって持って来たし拝む時の作法も

間違えなかったし…」

「そこじゃねぇ!今お前階段とばしたろ!」

「みぎゃー!?それもNGかー!?神社作法きびしー!」

「ちょっと考えりゃ判んだろうが!普通に行儀悪ぃだろ!」

「カクスケ君、本当にこういうの詳しいししっかりしてるよね」

「コイツが雑なだけだよ。いいか猫毒饅頭!」

「「毒」って増えた!でも強そうだ!」

「山ほど参拝客来てる中、カミサマは願い事、誓い事、いろいろ聞き届けてくれてんだよ!だがこっち側は自分の参拝一回分

だけだ!出来る限り礼儀正しく、敬って参拝すんのが筋ってモンだろうが!ああん!?アサガを見習え!完璧だろうがコラ!」

(カクスケ君、ヤンキーみたいな口調と表情だけど、言ってる事は良い事だなぁ…)











「おや、ミヤケさん!あけましておめでとうございます!」

「おう。あけましておめでとう」

「いつお戻りになられたんです!?」

「今しがたな」

「連絡を頂ければ迎えを行かせたんですが…」

「はは!そこまで気ぃ使って貰うモンじゃねぇよ。それにしても、今年も盛況じゃねぇか。結構結構!………………」

「どうなさいました?」

「………………………」

「何かお探しで…」

「…居ねぇな」

「!?」

「鳥居にも居ねぇ。屋根にも。来る途中で見た神輿にもくっついてなかった。どっかの社にでも逃げやがったのか…おい!大

丈夫か!?しっかりしろ!」

「いえ。何となく気配が薄いというかもしかして居ないんじゃないかとかそんな事もちょっとは考えましたがまさか本当に居

ないなんて元日ですよ元日に居ないなんてまさかそんなこと宮司たる私が疑えるはずもなく…」

(あ~あ…)

「昔ひとごみが好きじゃないとか言ってたけどよくよく考えてみたらお祭り大好きなのにひとが多いの嫌いってそんなはずな

いじゃないですかあのひとはもう本当に!」

「ちょいと塩と注連縄貸してくれや」

「はい?」

「四方で四股踏んで来る。一日二日も締め出してやりゃあ少しは反省すんだろ」

「何だかそれは…、存在意義というか概念的に色々とキツいですね…」











「明けましておめっとさーん!だぜぃ!」

「明けましておめでとう。今年も宜しくね!」

「アケオメ。コトヨロ」

「…何かあったのかー?メカみてーな声になってんじゃんコウノ?」

「ソーネ」

「あ。今朝まで徹夜で新春ゾンビメドレーしてたから、そろそろ眠いのかも…」

(新年早々地獄みてーなキーワードだぜぃ!?)

「早めに休んで、今夜のサメメドレーに備えた方がいいかもね?」

「ソーネ」

(新年早々鬼みてーなセリフ聞いたぜぃ!?)

「実家どうだったの?」

「んー。まぁ、のんびりできたかもなー」

「でも、神社のお手伝いとかあるんだし、忙しくなかった訳じゃないよね?」

「その辺はなー、忙しくても別に大変じゃねーって言うか…。ほれー、必要な忙しさってあるじゃん?年末の掃除とか。そん

な感じ」

「そうなんだ?」

「うん。家の事と変わんねーからなー」

「ところで今夜一緒にサメメドレーどう?」

「オレ今夜用事あんだー!だはー!ゴメンなー!」

「ソーネ」

「うぇ!?やめれコウノ!放せぇー!」











「あけましておめでとうだよ!」

「おめでとう御座います。今年もよろしくお願いします」

「………」

「………」

「な、何だか、改まって挨拶したら照れちゃうよ…!」

「…っすね…」

「とりあえず中に入るんだよ。寒かったよネ?」

「まぁ、それなりに…」

「あ。手袋してくれてるんだネ…」

「そりゃあ…、まぁ…」

「………」

「………」

「ちょ、ちょっと暑くなってきたネ!?」

「…っすね…」

「これならストーブちょっと弱くしても良いよ!」

「…っすね…」

「………」

「………」

「…あ、あのネ…」

「はい」

「…ギュって、して貰っても…、良い…よ…?」

「………はい」











「次!おひとり様3パックまでのインスタントラーメンです!」

「ふむ。3Pの…」

「突っ込みませんよ!急いでくださいホラー!」

「む…。こう、ムギュッと押し込まれるのも胸やら腹やら揉まれているようでそう悪くな…」

「その次は玉子1パックの方もお願いしますね!」(ガン無視)

「トオル!ラーメンと牛乳と玉子と特売エリンギゲットだ!」

「速いな!?でかした白黒い稲妻!」

「まあそれほどですけど何か!?一向にライトニングですけど何か!?」

「うややややややややっ!」

「待って裂くのは待ってまだ裂いちゃダメ今はまだ裂いちゃダメだから!」

「うはははははは!トオルあったぞ!国産黒毛和牛ステーキ用400グラム!」

「何ですかその桐箱絶対お高いお肉じゃないですかヤダー!?高いのはNGです!特価品に絞って下さい!っていうか肉はお

願いしてません!お高い肉は特にです!」

「会計終わったぞぉー」

「エレガントに購入できたよ」

「新年早々こんな事お願いして本当に済みません有り難うございます先輩方!」

「そんなに苦しいならウチでバイトするか?花の名前とレジ打ちさえ覚えれば、店番ぐらいはできるだろ」

「本当ですか!?有り難うございます!」

「じゃあステーキOKだなうはははは!食おうぜ帰ったら!」

「それとこれとは話が別です!」

「新春の、特価売り出し、これ戦場。死地に赴き初売りを見る…」

「オレにとっては今月の命綱なんですよ!一月だけはど真ん中市が無いですから、実際戦場買えなきゃ死地!炊事洗濯掃除何

でもしますから今日だけは!どうか今日だけは強力に協力して下さい!」

「トオル。儂は炊事洗濯掃除以外の事を頼みたいのだが」

「先輩は絶対そう言うって判ってましたけどしませんからね!」











「…けふっ…。お見舞い有り難う。ケンゴ君。トラジ君」

「正月から風邪とかついてねぇなムク。おみくじ引いたら凶だったんじゃねぇか?」

「それは、いい…。凶は引いたことが、ない…」

「具合なじょだすぺ?」

「だいぶ、いい…。ツチノコ達もお見舞いに来てくれたからね…」

(重症じゃねぇか…)

(重症だっちゃ…)

「ほら、そこにも縞々の子が…」(きゅふぉーん…)

「そいづトラちゃんの尻尾だがら…」

「おや…。じゃあ皆帰ってしまったかな…。けふっ…。それはそうと、来てくれて有り難いけれど、そろそろ帰った方が、い

い…。うつったら大変だからね…」

「そりゃそうだけどよぉ…」

「おんちゃんも寝込んでっから看病してけるひとも居ねぇっちゃ?ご飯の支度も大変だすぺ?オラいは正月何もねくて暇だが

らふたり分の飯炊ぎぐれぇ苦でねがすと?」

(何か急に早口になったなケンゴ…)

「喉渇いでねがすか?柚子蜂蜜生姜葛湯こさえっから、ちょっと待ってでけらいね?」

(噛みそうな名前のモン出てきたな…。ってか材料だったのかよその荷物…)

「ふはははははは!具合はどうだ?見舞いに来たぞ円谷槿!」

「ああ!?悪化しそうなの来やがったぞ!」

「…それは…、どんなUMAだい…?」(きゅふぉーん…)

「しっかりしろ!奥州王だよ!」











「で、おおばばぎみは何だって?」

「いつもと同じよ。「そろそろ籍入れなさい」って」

「がっはっはっはっ!」

「笑ってるだけで良いから貴方は楽よね。今年はあの子からも言われたわよ?「姉様、結婚式は和式でしょうか西洋式でしょ

うか?西洋式だと嬉しゅうございます。先日流れていた洋画で、賑やかなぶらいだるふぇあの場面がございまして…」ってね。

ちょっと。ベッドの上でタバコはやめて」

「あの娘は洋物好きだからな。見えなくてもそっちが良いんだろう」

「音と会話で想像しているだけのはずなのに、どうして和より洋なのかしら?」

「「触れてない」モンだからだろう。普段から手が届く、触って確かめられる品は、神崎家じゃあ和物ばかりだ。だからまぁ、

旦那はどっちでも良いだろうな。何にしても触った事も握った事もねぇ訳だ」

「そういう風にひとの妹の事話しながら下品な表現をサラッと混ぜて来るのやめてくれる?」

「判った悪かった反省してるから電気スタンドおろせ」

「あ、そうそう…」

「ん?」

「貴方にって、御婆様から正月の贈り物を預かっているわ。辛口の生酒と、それに良く合うキチジの煮付けよ」

「そいつはいい。おおばばぎみが作ってくれる煮付けは、どんな料亭の品より美味い」

「心して味わいなさいよ?神崎家の歴代当主は、「身内」に食べさせるためにしか料理しないんだから」

「がははははっ!肝に銘じておくぜ!」











「エイルちょっとその極彩色の危険生物よそにやって」

「タゴサクさんは冷たいでありますね、メケメケちゃん」

「だから近づけんなっつーの。あと下の名前で呼ぶなっつーの」

「正月だというのに何故チエコさんの実家にご挨拶へ伺わないのでありますか?」

「…何だよ。怒ってると思ったらそんな事か?」

「「そんな事」とは何でありますか。さあメケメケちゃん。怒りのレインボーサイクロンアシュラパンチを雪崩のように繰り

出すであります」

 シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ

「やめろ触らせんな!」

「理由をお聞かせ頂くまでやめないでありますシュッシュ」

「判った判っただから引っ込めろ!」

「では、何故でありますか?」

「…は…」

「「は」?」

「恥かしいんだっつーの…!正月に飛んでったら、いかにも会うの我慢してるトコから急いで飛んでったみてーだろ…!それ

に…。その…」

「…続けてどうぞであります」

「アイツは喜ぶだろうけど親父さんは気にするからな…。ブルーティッシュで干されたから、正月から時間があるんじゃねぇ

かって…。馬鹿馬鹿しい見得でも、張らなきゃならねーんだっつーの」

「…ふむふむ。理解できたであります。そういった理由でありましたら無理強いはできないでありますね」

「判ったなら資料返せ。二週目に帰るためにも、今週片付ける案件がまだあんだっつーの」

「了解であります」

「ああ。もう邪魔すんなよ」

「では退散するであります。…………チエコさん。音声は明瞭に聞こえたでありましょうか?理由は聞いての通りでありまし

た。来週お帰りになるようでありますから…………」











「あれ?ヒメさん居らんですね?」

「ああ、他所も担当してんだとよ。山を越えて一っ飛びだ」

「一っ飛び?山越え?」

「気にすんな、神社ってなぁ色々あんだよ。それより…、今日は一段と冷えやがる、参拝終わったらラーメンでも啜ってくか?

奢るぜ」

「んふふふふ!ご馳走になります!」

「ここらで飯食えんのも盆と正月ぐれぇだからな。どっか希望あるか?」

「あ。なら福来飯店どうです?あそこの麻婆豆腐、辛味と挽肉の配分が絶妙なんですけど、参考にできんかなぁって…」

「相変わらず熱心じゃねぇか?」

「あ…、いや…、拘っとる訳じゃないから主将の行きたい店で…」

「わっはっはっ!褒めてんだよ!じゃあソコにするか。話聞いてたら麻婆ラーメン食いたくなってきたぜ」

「はい!ありがとうございます!」

「ああ、あとな」

「?」

「麻婆豆腐作ったら食わせろ。試食役なら十人分は仕事するぜ?」

「は、はいっ!頼りにしとります!」











「え?もう正月終わってんのかい?」

「終わってるっスよ」

「スター新春隠し芸大会とかも?」

「終わったっスよ」

「えぇ?やだよ?」

「やだとかどうとかじゃないっスよ…」

「お歳暮に貰った酒とかまだ飲み終わってねぇんだけども…。コレとか」

「…見た事あるっス…。リーダーもユウヒさんから貰ってる河祖下村のお酒っスねコレ…」

「はふぅ~…。仕方ねぇかぁ…。じゃ、飲もう。片付けよう。まぁ付き合いなよ」

「忘れてるかもしれないっスけど未成年っスからねオレ?アンタの二つ下っスからね?」

「餅焼こうかい。で、きなこ餅とバター餡餅と磯辺焼きと…」

「そっちは食うっス!」

「カズノコとローストビーフも残ってるけど食うかい?」

「食うっス!」

「あ。初詣とか初売りとか行かなかったなぁ…」

「何してたんスか正月!?」

「仕事と稽古」

「突っ込み辛い回答来たっス…」

「あとヤマギシとゲーム。おかげさんで高難度チャレンジ最深層クリア」

「ソレ何でオレ誘わなかったんスかね!?半分も踏破できてないんスけど!?」

「だってその日、お前さん初売りでアーケード行ってたから」

「え?その日っス?ってか何で知ってるんスか?」

「アケミから聞いた」

「筒抜けっス!?っていうか!だから!何でアンタそんなにアケミと、その…!」

「うははははっ!妬くな妬くな」

「妬いてないっス!ふんス!…実家に帰んなかったんスか?正月は何か決まり事とか行事とか色々あるっスよね?ネネさんち

とか毎年お客さんいっぱい来てるの見てたっス」

「そりゃあそうさねぇ。筆頭家とか鳴神の上方とかはお偉いさんの訪問とかわんさかだし。神座の家だってそうだ。けれど、

ウチはそう忙しい感じでもねぇなぁ五番だし。もう侍とか兵隊の時代じゃねぇって事、俺っちが帰ったって仕方ねぇさねぇ。

それに、実家帰ったら兄貴にとっ捕まって数ヶ月は帰って来れなくなっちまうよぅ。…これが一番困んだよなぁ…」

「…何かそういう理由で実家帰れないひと他にも居たような気がするっスけど…。何スかこれ?ケチャップだか何だかって言

うあの初めてじゃない感じの…」

「デジャヴ?」

「それっス」

「そういえばさぁ」

「何スか?」

「今日は何で来た?用事は仕事の話?俺っち今日ぐれぇゴロゴロしてぇんだけど…」

「そういう用事じゃないっス。アケミが心配してたんス。放っといたらキノコとか生えんじゃないかって…」

「え?お前さん部屋の掃除しに来たのかい?自分の部屋もあんななのに?」

「アケミにアンタのパンツとか片付けさせたくないんスよ!言っとくけどオレの片付けとか掃除とか雑っスからね?っていう

か!だから!何でアケミはそんなにアンタの、その…!」

「うはははははっ!妬くな妬くな」

「妬いてないっス!ふんス!」