夕立 SideB
照り付ける太陽の下。マウンドから矢のように放たれた白球が、フルスイングされたバットの下をかい潜ってキャッチャー
ミットに飛び込んだ。
「ストライィッ!バッターアウッ!」
審判の声と同時に、我が校の二年生エース、気迫のトルネード投法で三者凡退に押さえ込んだ赤毛の猿さんが、胸の前で拳
を握ってガッツポーズを見せた。
スタンドの僕もつられて、思わず拳を握り締める。
相手校側のスタンドからはため息が、こちら側のスタンドから歓声があがる。
六回裏まで無失点。お互い無得点だけれど、こっちはここまでノーヒットに抑えている!そろそろ得点を入れて、踏ん張る
ピッチャーを楽にしてあげて欲しいところだけど…。
相手校の選手が守備について、こっちの攻撃に切り替わると、眼光鋭い応援団長…シベリアンハスキーが、我等が吹奏楽部
長に目配せした。
牡鹿の部長は小さく頷くと、僕らに向き直って、自分のように細くて美しい指揮棒をスッと持ち上げる。
僕らはそれぞれの相棒をしっかり構えて、号令に備えて…。
「コンバットマーチィーッ!!!」
応援団長が発した大音量の号令と同時に、部長の指揮棒が鋭く振られて、僕らは演奏を開始した。
タイミングを外さないように注意して、気温のせいで音が高くなりがちなトランペットを吹き鳴らす。
グラウンドで戦う野球部員達に、僕らは練習を重ねてきたマーチを贈る。鳴り響くマーチはスタンドを駆け下り、グラウン
ドを満たし、球場を飲み込む。
マーチにあわせて選手達にエールを贈るのは、生徒達の最前列に立ち、グラウンドを見据える応援団員達。
炎天下にもかかわらず、真っ黒い学ランに白手袋、白鉢巻きでビシッと完全武装した彼らは、一糸乱れない見事なエールで
こっちの士気を鼓舞して、相手スタンドを萎縮させる。
その、統率の取れた団員達の中に、やたらと大きな団員の姿があった。
円を描くように腕を回し、腰を捻って拳を引き出し、時折合いの手に「おう!」とかけ声を入れている彼は、動作の力強さ
と見事な体格が相まって一際目立つ。
彼は、灰色の被毛に覆われた肥満体型の巨漢だ。丸太のように逞しい手足に、ドラム缶みたいなドッシリした体。体中のど
こもかしこも太くて、そして大きい。
モサモサした灰色の巨体を、普通の制服とは少しデザインが違う応援団仕様の学ランで包んだ彼の名は、灰島岳(かいじま
がく)。僕のクラスメートで応援団員の灰色熊。
ガクは汗だくになりながらも力強いキビキビした動作と、眼光鋭く凛々しい顔つきで、選手達にエールを贈っている。
ふふっ!惚れ惚れしちゃうほど男前だよ、ガク!
僕もガクに負けないよう、一層気を張ってトランペットを吹き鳴らした。
…また申し遅れました…。僕、小木明仁(こぎあきひと)。高校二年生。
犬獣人で、犬種はウェルシュコーギーカーディガン純血種。茶色と白の暖色フワフワ柔らか毛並みが自慢で、ピンと立った
大きめの耳、フサフサの尻尾がトレードマーク。
童顔と小柄さ(手足が短くてちょっとずんぐりしている)がチャームポイント。…らしい。
吹奏楽部でトランペット担当。前に熱中症で倒れて以来、暑い日の屋外演奏では外されがちだったけれど、最近はちゃんと
出して貰えるようになった。
そして、応援団員のガクとは…、実は男同士の恋人同士っ!
…もちろん周りにはヒミツの、ね!
試合は、結局ウチの学校の大勝だった。
七回表でクリーンナップトリオが相手ピッチャーを捕まえ、勢いに乗った下位打線まで猛打に次ぐ猛打っ!一気に五点入れ
て、八回でさらに二点追加、そのままエースが相手打線を押さえ込んで完全勝利!
うん!今年の硬式野球部は強い!県大会準々決勝も難なく突破しちゃった!
応援の後はいつもだけれど、応援団も吹奏楽部も、一度学校に戻ってから解散。…なんだけれど、応援団はいつもそうして
いるように、今日も反省会をしている。ただ待っているのも暇だったし、僕は一人で部室に残って、ちょっと練習しながら待
つ事にした。
今日も頑張ってくれた愛用のトランペットにマウスピースをはめ、椅子に座って窓の方を向き、口を押し当てる。
応援のレパートリーに入っている数曲の、注意しなきゃいけないフレーズを何回か繰り返し、それから大好きなコンバット
マーチを、僕なりのアドリブを利かせて最初から通す。
トランペットソロのマーチは、たった一人の部室で、それなりに勇ましく鳴り響いた。うん、調子はバッチリ!
吹き終えてトランペットを下ろすと、パンッパンッパンッ、と拍手が響いた。
ちょっとビックリして振り返ると、いつからそこに居たのか、部室の入り口のドアの脇で、壁により掛かった灰色熊が大き
な手をゆっくり叩いていた。
ガクの拍手は応援団の作法に則った、手の平で空気をギュッと挟み込むような叩き方だから、独特な、良い響きの音がする。
「ガク!終わったの?」
「悪い、待たせた」
灰色熊は壁から背中を離して、椅子に座ったままの僕にノッシノッシと歩み寄ってきた。僕のフサフサ尻尾は、それだけで
勝手にパタパタ左右に動く…。
僕の傍に立ったガクは、少し身を屈めてフンフンと頭を嗅いできた。
「ちょ、ちょっとやめてよぉ!なんか凄く臭っているみたいじゃない!」
「あ。ごめん…」
鼻息がこそばゆくて、耳をパタタッと動かした僕の抗議に、ガクは苦笑いした。彼はどうしてなのか僕の匂いをよく嗅ぐ。
…匂いフェチ?
「…っていうか、もしかして本当に臭い…?」
腕を上げてフンフンと匂いを嗅いでみると、…汗臭い…。ちょっと臭う…。
「いや。いつもどおりの良い匂いだ」
ガクはそう言った後、ゴホンと咳払いした。
「…臭いのは俺の方だ…。団服、思いっきり汗吸ったからな…」
…確かに、さっきガクが身を屈めたとき、一瞬ムワッと汗臭い空気が押し寄せてきた。不思議と不快じゃない匂いに感じる
けれど。
「確かに、ガクの匂い、相当だよ?」
「なに!?ごごごごめん!そんなに臭うか!?」
大慌てで後ずさって離れようとしたガクに、僕は笑いかける。
「あはは~!冗談冗談!ガクの匂いなら平気だよ!」
後ずさっていたガクは、ほっとしたように足を止めた。それから僕の手に握られたトランペットに視線を向ける。
「毎回ながら、上手いもんだよなぁソレ。…あ、そうだ。アレも吹けるか?」
「アレって?」
「ラーメン屋台の…、ラッパのアレは何て言うんだ?」
意図を汲み取った僕は、トランペットを持ち上げ…。
ポプペ~プポ~…
と、吹き鳴らして見せた。
「おっ、それだ!やるもんだなぁ」
リクエストが叶って嬉しいのか、ガクはまた拍手して喜ぶ。
「ふふっ!これはあまり難しくないよ。そういえば、僕も部の皆も、始めた頃はまずこれが吹きたくて練習したっけ…」
「やっぱり吹きたくなるのか?」
「うん。トランペットだけじゃなく、他の管楽器やっている友達は殆ど」
「何でだろうな?」
「DNAに刻み込まれているんじゃない?ほら、噴水とか見ると硬貨を投げ込みたくなるみたいに」
「判るような判らないような…」
ガクは首を傾げた後、僕の手からトランペットを取り、しげしげと眺めた。
「ちょっと吹かせてくれよ?」
「うん。どうぞ」
僕が手の平を向けて促すと、ガクはトランペットを持ち上げて…、
「…これって、間接キス…だよな…?」
不意に顔から離して、耳を伏せながら、上目遣いに僕の顔を見つめた。えええええ…?
「キスどころか、あんな事までする間柄で、今更どうして間接キスを恥じらうの?」
「い、いや…、確かにそうなんだが…」
ガクはいやにドギマギしながらトランペットを口元に持っていく。…なんだか可愛いしっ!
「この丸いのを咥えるのか?」
「ううん。咥えるんじゃなく、閉じたまま唇を押し当てる感じ」
ガクは僕が言った通りに、トランペットのピースに閉じた口を当てて、大きく息を吹き込んだ。
ふぉふゅ~…
「…ん?あれ…?」
「あ、唇はずっと開けないでね?閉じたままブーって震わせて吹く感じ。唇の振動が重要なの」
息が漏れていく音しか出せなくて、首を傾げたガクに、僕は再度レクチャー。彼は頷いて、再び口を当てると…、
ぶぃ~~~~っ
「あ!鳴ったね!」
びぶぅ~~~~~っ
「上手い上手い!」
べ~~~~~~~~~~っ
音が出せたことで楽しくなってきたのか、ガクは目を笑みの形に細めながら、ピストンを操作して色々な音を試し始める。
やがて…、
「う…!なんか、顎の両脇が…!」
灰色熊はマウスピースから口を離して、顎間接の少し後ろの上側を指で押さえた。
「あ。痛くなってきた?じゃあもう止めた方が良いね」
「唇が痺れてる…」
「平気?すぐ治るとは思うけど…」
ガクは僕にトランペットを返しながら、優しく微笑んだ。
「凄いなアキは。こんなのを何時間も吹いてるんだもんな」
その、お世辞でも何でもなく、純粋に感心してくれているガクの笑顔にキュンっと来る…!
ガクは、大して取り柄もない僕を評価してくれる。認めてくれる。大事にしてくれる。僕にはその事がとても嬉しくて、け
れど時々かなりくすぐったい。…だって、ガクってばちょっと過大評価気味なんだもん…!
「そ、そんな大した事じゃないよ!慣れだから、慣れ!僕から見れば、ガクの方こそ凄いんだから!」
これは本音。あの炎天下、詰め襟の長ランにドカン、革靴に鉢巻きと手袋なんて格好で、ずっとビシッと立ちっぱなしで応
援なんて、ちょっと真似する気にはなれない。
「っと、ごめん!そろそろ帰ろう?」
頷いたガクに背中を向けた僕は、トランペットを手早く綺麗にして、ケースにしまった。
結局、待っていたつもりが待たせちゃったよ…。
「今日は良い試合だったね!」
「ああ。応援し甲斐があった」
僕とガクは普段のように、一緒に帰りながら、今日の試合について話をした。
「今年の野球部は強いね!お隣さんにも勝てるかな?」
「「川向こう」に、か…」
僕の問いかけで、ガクは難しい顔になる。
定期戦なんかで交流がある川を挟んだ隣町の高校は、県下一、二を争う強豪で、甲子園の常連校だ。決勝までは当たらない
けれど、あそこに勝たないと上には進めない。…定期戦じゃ負けちゃったけれど…。
「厳しいだろうな」
「そう…」
「でも、勝ち目が無い訳じゃあない」
ガクは顎を引いて頷く。
「ピッチャーが良い。アイツは県内最高の強肩だ。…聞いた話だと」
「最後の一言がちょっと微妙だよ…」
「技術的な事は詳しくない。ただ、俺が知ってる赤木は強い。繊細なようで、いざとなったら気持ちが強い」
ガクは野球部のメンバーに詳しい。僕はあのエースの人柄まではよく知らないんだけれど、彼が断言するなら、きっとそう
いう強いひとなんだろうと思う。
「どっちにしても、俺達は選手が全力を出せるように、しっかり応援するだけだ」
「…そうだね…」
野球部には、是非とも頑張って貰いたい。
寮生の僕は、夏休みになったらよっぽどの理由が無い限り自宅に帰る事になる。そうしたらガクとは、今ほど頻繁には会え
なくなっちゃう。
でも、野球部や他の運動部が勝ち進んで、その応援が必要になれば…、僕は吹奏楽部として、夏休み中も寮に居残る口実が
できる訳で…。
…って、ダメダメ!もっと純粋に応援してあげなきゃ!
頭をブンブン振り、不純な考えを追い払おうとしている僕の横で、ペースをあわせてゆっくり歩いてくれていたガクが、頭
をガリガリ掻き出した。
「…俺、応援団失格だな…」
歩きながら横目で見上げた灰色熊の顔は、何でか困り顔になっていた。
「野球部が勝ち進んでくれたら…、夏休みに入っても、アキがしばらくこっちに残るのにって…、そんな事考えちまった…」
…あ…。ちょっと嬉しい一言…。
「えへ…、実は僕も同じような事考えちゃった…!」
僕を見下ろしたガクは、ビックリしたように目と口を丸くして、それから苦笑いする。
押し殺した笑い声を漏らしながら、僕らは立ち止まった。話をしながら歩いて来たら、もう僕が寝泊りしている寮の前。
「じゃあ、また後で!なるべく早く行くから」
小さく手を振った僕に、手を上げ返したガクは、
「…やっぱり、待ってても良いかな?」
と、ちょっと寂しそうに眉尻を下げた。
その、いかにも寂しげな顔つきと、「離れたくないよぅ」的な視線でキュンと来る!おっきなグリズリーのくせに、厳つい
応援団のくせに、ガクはこんなにも可愛い面を持っている…。
「ふふ!判った。すぐ来るから日陰で待っていて」
「ああ」
ガクはちょっと嬉しそうに微笑み、のそのそと、寮の門柱脇の木陰に移動していく。
僕はガクの背中に軽く手を上げて、駆け足で部屋に向かった。
…実は今日、ガクの親は泊まりでお出かけ中。そして、僕は外泊許可を取得済み。えへへ!今日は、ガクの家に泊まりに行
くんだっ!
ウチの学校、寮生の外泊にはそこそこうるさいんだけれど、そこはガクの家って事で割とすんなりクリアーできる。なにせ、
身元確かな「応援団員」の家だもん。
応援団員達は、他の生徒達に一目置かれているのは勿論、先生方にも信頼されている。ガクの立場を悪用しているみたいで
ちょっと気が引けるけど…、僕にとってはとてもありがたい事だ。
尻尾をブンブン振りながら大急ぎで階段を駆け上がる僕を、すれ違う寮生達は一様に不思議そうな表情を浮かべて見送って
いた。…もしかして僕、舞い上がって妙な顔になっていた?
荷物をリュックに押し込んで庭に戻ってくると、さっきまで晴れていた空がいつの間にか曇っていた。
「お待たせっ!」
「ああ」
「じゃあ行こ…あれ?」
木陰で待っていたガクに駆け寄った僕は、耳にポツッと何かが当たったのを感じた。
プルプルッと耳を震わせながら上を見上げると…、急に曇った空が、ゴロゴロ言っている…。
最初こそポツッ、ポツッと落ちてきていた雨粒は、急に土砂降りになった。慌てて木陰に飛び込み、ガクと一緒に葉の茂っ
た木陰で雨を凌ぎながら、リュックから折り畳みの傘を取り出す。今年二回もびしょ濡れにされた夕立対策で、最近じゃ傘を
常備するようにしているんだ。
傘を広げると、ガクは僕の手からそれを取り上げて、僕らの間で頭上に翳す。
あ。相合傘だ、これ…。
でも折り畳みの小さな傘だから、僕とガクだとちょっと窮屈…。戻ってもう一つ取ってこようかな?…あ、でもそれだと相
合傘できなくなる…。
僕の意図を読み取ったのか、ガクは僕の肩に太い腕を回して、キュッと抱き寄せた。
「良い。このまま行こう」
僕は笑いながら頷き、ガクはちょっと照れ臭そうに微笑み返してくる。
ガクは身長差のある僕のために、自分の頭に傘を押し付けるようにして、なるべく低く持ってくれた。ちょっと窮屈で、で
もとても嬉しい相合傘で、大きな彼と小さな僕は、少し濡れながらゆっくり歩き出す。
夕立で冷やされたアスファルトの香りと、密着したガクの汗の匂いを、僕は胸一杯に吸い込んだ。
前は嫌いだった夕立だけど、今は割と好き。
暑い空気を冷してくれて、こうしてちょっとしたプレゼントをくれる。気紛れだけど時々結構気さくな夕立が。
「ご馳走様でした!」
満足の笑顔でペコッと頭を下げた僕に、座卓を挟んで向かい側に座ったガクが、少し得意げな笑みを浮かべて頷いた。
ガクは料理が趣味だ。僕が好きなオムレツだってフワッフワでトロットロ、とても上手に作ってくれる。絶妙な焼き加減も
さる事ながら、特製ケチャップがまた絶品!
「もっと手の込んだヤツをリクエストして良いんだぞ?」
「良いの。他じゃ食べられない、ガクのオムレツが一番好きだから!」
僕の返答に、ガクは大きな体を揺すって、照れたようにモジっと身じろぎする。
ガクの趣味が料理って事は周りにはヒミツ。料理できるなんてちょっとカッコイイと思うんだけど、ガクはそうは思ってな
いらしい。女の子の趣味みたいで恥かしいんだってさ。訊いたのが僕だからこそ、本当は恥かしかったけど、正直に打ち明け
てくれたんだって。
「それじゃあ、片付けて来るから先に部屋に上がっててくれ」
「だ~め。洗い物ぐらい手伝いますぅ~!」
「手伝いなんて良いんだぞ?客なんだから」
「手伝いしたいんだから、やらせてよぉ」
立ち上がり、食器を纏め始めたガクに倣って、僕も片付けを手伝い始めた。
口にはしなかったけれど、ガクはちょっと嬉しそうだった。だって、ズボンのお尻から出ている灰色の短い尻尾が、ピコピ
コとせわしなく動いていたから。
食事の後はガクの部屋で、折り畳み式の座卓を挟んで勉強会。
…本当はあまりそういう気分でもないんだけどね?一応外泊の理由をガクとの勉強の教えっこって事にしているから…。
別に確認される訳じゃないから無視しちゃえば良いんだけど、そこはそこ、見た目に反して(余計なお世話?)真面目なガ
クが首を縦に振ってくれない。まぁ、僕としても外泊理由を形だけでも守った方が、罪悪感は軽くなるんだけれど…。
「ねぇガク」
「ん?」
「応援団って、テストの成績も良くないと、先輩達に何か言われたりするの?」
「別にそんな事は無いな。さすがに補修になったヤツは怒られてたけど。…何だよ急に?」
「いや、ちょっと気になっただけ…」
…そっか…。デフォルトで勉強できる子なのかガク…。
付き合い始めてから知ったけれど、ガクは成績が良い。期末テストの結果を見せっこしたらかなりの差で負けていた。僕は
並のやや上くらいっていうところだけれど、ガクは各科目の平均が80を軽く超えているんだもん…。
「…今日は、このぐらいにしとくか?」
「さんせ~…!」
やっとガクのお許しが出て、僕は床にゴロンとひっくり返り、ため息をついた。
「飲み物のお代わり取って来るから、ちょっと休んでてくれ」
「う~…、ありがとぉ~…」
ガクが出て行って、一人きりで残った部屋を仰向けに転がったまま眺め回す。十五畳はある広い部屋は全面フローリングで、
中央には2メートル四方くらいのカーペットが敷かれている。カーペットの真ん中には今勉強で使っていた座卓が置いてあっ
て、僕が寝転んでいるのがそこ。
壁には鏡付きの、埋め込み式クローゼットの扉がある。家具は勉強机と本棚、小さな箪笥と、その上のテレビと最新のゲー
ム機、そしてベッド。…といっても、応援団関係の雑誌(ガクの部屋に来るまでそんな本があるなんて知らなかったけど…)
が並ぶ本棚は結構大きいし、ベッドなんて僕が三人は並んで寝られるサイズ。広い部屋だけれどスペースが無駄に余っている
訳でもない。ガクの体の大きさに見合った広さだって感じる。
半分開いているクローゼットの中には、ガクが今日着ていた学ランが吊るしてある。上着もズボンも着ている時の形のまま、
専用の型入りハンガーで吊るしてあるから、なんだかクローゼットの中に大柄なひとが立っているように見えてしまう。
学ランは学ランなんだけれど、それは僕らが普段着る制服とはちょっと形が違う。応援団としての活動の時に着る、一種の
ユニフォームで「団服」って言うらしい。長くて硬い詰め襟に、膝まで届く上着の長い裾。ズボンはどかっと太い。
僕、この服は一般生徒に睨みを利かせるために、わざと怖そうなデザインにされているんだと思っていた。でも本当は違う
んだって。付き合い始めてちょっと経った頃、ガクが細かく説明してくれた。
詰め襟は、礼をした時に首がだらしなく曲がらないように長いらしい。応援団の礼は、首を背骨と一直線に伸ばしたまま、
腰でする物だから。その姿勢強制のためなんだって。
上着が長いのは、礼をした時に、後ろの人にベロンとお尻を見せない為。最敬礼しても太ももの真ん中あたりまで隠れるよ
うに、あの長さにしてあるらしい。
ぶっといズボンは、演舞の動きを妨げないようにする為のもの。四股を踏んだり、大きく膝を曲げたりする時に、細いズボ
ンだと縫い目から裂け易いんだってさ。
他にも、左腕の腕章は、ただの不良がそういった格好をしているんじゃなく、応援団が正装しているんだっていう事を、周
りに教える為のアイテム。
白い手袋は、手の動きを観衆に見え易くする為。腰まで届く長い鉢巻は、汗が目に入るのを防ぐ為。そして、向いている方
向を観衆に知らせる為のもの。
コワく見えていたこの学ランが、実は機能性に基づいてできているなんて、言われるまで解らなかった…。
ちなみにこの団服は、応援団として一年以上活動した団員しか、着る事が許されないんだって。中堅以上の団員だけが身に
つけられるこの学ランは、ガクには良く似合っていると思う。
さっき入念に消臭スプレーをふっていたから、もう汗の匂いはしなくなっているかな…。
頭を使ったせいなのか、それとも昼間の応援で疲れていたからなのか、寝転んで学ランを見ていたらなんだかウトウトして
来ちゃった…。
ドアが開いたから、薄目でそっちを見る。
お盆にコップを二つ載せたガクが、部屋にのそっと入って来た。
「寝るなよ?まだ風呂入ってないんだから」
「判ってるぅ~。でも…、ふぁああ~…。ちょびっとだけこのままで…」
僕が欠伸をすると、座卓にお盆を置いて座ったガクは、口の端っこを吊り上げて、悪戯っぽくニヤッと笑う。
そして、四つん這いでのそのそと座卓を回り込んで来ると、僕の上を半分通過した。
目の前には、ガクのおっきなお腹。
「プレス開始」
ブニ~ッ
「むぎゅぅ~!」
宣告と同時に下降してきたお腹が、僕の顔を圧迫する。とはいっても全体重を乗っけてくる訳じゃなくて、重力で下がった
お腹の肉を乗せて来る感じ。
床に肘と膝をついて体勢を低くしたガクの、柔らかくて気持ち良いタプタプお腹に鼻面を埋めながら、僕は両手で灰色熊の
体をまさぐった。
脇腹を探り当てて、ポフポフ叩いてタップしたけど、ガクは降参を認めない。
「さあ、目を覚ますんだ」
逆に永眠しちゃいます~!
自重で垂れたモフモフのお腹の感触を、薄いシャツの生地越しに楽しみながら、僕は苦笑いした。
「あはははは!ガクぅ~!こうさ~ん!」
たっぷりした脇腹をムニムニ揉んで、くぐもった声で訴えたら、ガクはようやく顔の上からお腹を退けてくれた。
少し後退したガクは、僕の横にどすんと腰を降ろす。
「お返し~!えいっ」
身を起こした僕が、お返しに繰り出した軽いジャブは、ガクのお腹をポヨンっと揺らした。
「えい、えい」
ポヨンポヨン揺れるお腹の感触を楽しみながら、ワンツーを繰り返す僕を、ガクはニンマリ笑いながら見つめている。
「目、覚めたか?」
「おかげさまで。っていうか、あのまま永眠しても悔いはなかったかも?」
ガクのお腹に埋まって窒息死するなら、それはそれで本望だ。
「じゃあ、少し休憩したら風呂行こう」
「賛成」
ガクが持って来てくれた、キーンと冷えたレモン水を飲んで、頭をしゃっきりさせた。
いよいよお楽しみ、バスタイムだ!
夕立のように勢い良く注ぐシャワーで、体を流しっこした後、僕らは浴槽のタイルの上に座りこんだ。
あぐらをかいて座るガクに、横からくっつくようにして、僕は目を閉じ、顔を突き出す。
いつものように、ちょっと躊躇っているような間を空けた後、ガクは唇を重ねて来る。
腕を伸ばして肩に手をかける僕を、背中に腕を回したガクがゆっくり抱き寄せる。
お互いの舌を絡ませて、口の中をまさぐりあいながら、僕らは次第に密着していく。
ガクの太くて柔らかな太ももに片足を乗り上げる格好で、その広い胸に手を這わせる。
少し垂れ気味で、お乳の下で段がついているガクの胸は、柔らかくて気持ちいい。軽く掴むとお肉が手に余って、指の間か
らムニッと溢れて来る。
炎天下の応援や、太陽が照りつける屋上での練習で、しょっちゅう汗だくになっているはずなのに、ガクの身体は細くなる
様子が全く無い。まぁ原因は食べる量のせいだろうって何となく判るし、あんまり痩せて欲しくないけれど…。
胸を揉まれながら、ガクは僕の背中を首から腰にかけて撫でていく。
降りて行った手は、やがてカーブしている僕の尻尾の根本を軽く掴んで、先端に向かってすぅっと撫でる。何度も、何度も、
根本から先へと、優しく丹念に…。
お尻から背骨にかけて這い上がってくる、強くはないけれど、ほんのり心地良い感覚…。
長い長いキスの後、口を離した僕達は、揃って下を向いた。
僕らの股間では、それぞれの息子達がすでに元気になっている。
…その立派な体格とは裏腹に、ガクのアレは可愛い。
ボヨンと段がついているガクのお腹の下、太ももの間のムッチリ肉がついた三角コーナーに、ソレはある。僕の片手にスッ
ポリ収まって、なお余裕があるサイズのソレは、先っぽまで皮を被っていて、短くて太い。
勃起しても皮を被りっぱなしの、コロンっと太い重度の仮性包茎チンチン。
勝手に、ズル剥け、巨根、大玉って思い込んでいたから、最初はイメージとのギャップが凄くて、それはもうびっくりした
けれど、今じゃ可愛くてしょうがない。
最初に見た時、思わずマジマジと見つめてしまった僕に、ガクは、
「短くて包茎なのは、熊族全体の傾向なんだ…!」
って言った。両手で股間を隠しながら、顔を伏せて耳を寝せて、凄く恥かしそうに。
最初は本気にしてなかったけど、なるほど、銭湯に通って確認してみたら、数人確認した熊さんはだいたい皆コンパクトな
モノをお持ちだった。やたらとガードが固くて確認できなかったひとも数人居たけど、たぶんそういうひと達もそうなんだろ
う。偏見かもだけれど、入念に隠すのが何よりの証拠のような気がする。
…え?僕の?
えと…、僕のは、並よりちょっと小さいくらいかな…?皮はちょっと余り気味だけれど、一応、勃起すれば完全に剥ける。
股間から顔を上げた僕達は、顔を見合わせて笑った。
たっぷりしたガクのお腹に手を這わせて、円を描くように優しく撫で回す。
ガクの被毛は、色で毛の硬さが判別できる。背中や腕の外側とか、外面の濃い灰色の毛は硬めだけど、喉や胸、お腹や内も
もの白味が強い毛は、フワフワと柔らかい。
僕は、柔らかくて手触りの良いガクのお腹が大好き。お肉は柔らかくたっぷりしていて、毛も柔らかくてフワフワの、最高
の触り心地…、正に魔性のお腹だ。
お腹を撫でられて気持ちが良いのか、表情を緩めたガクは、僕の背中に回していた腕に力を入れて、さらに少し抱き寄せる。
ガクは僕を抱っこするのが好きだ。キュッと抱きしめて密着して、大きく息を吸って僕の匂いを嗅ぐのが大好きなんだって。
鼻からいっぱいに息を吸い込み、お腹を膨らませたガクは、匂いの余韻を楽しんでいるのか、目を閉じてピタッと息を止め
る。その間に、僕はガクの膨らんだお腹から手を離して、丸く段がついたお腹の下に手をあてがって、軽く揺さぶった。
脂肪がたっぷり詰まったムチッ腹が、垂れ気味の胸が、太ももが、タプンタプンと揺れる。全身を覆う長い被毛が、脂肪の
揺れにあわせて風に靡いているみたいに揺れる。
ゆっくり息を吐き出したガクは、僕にお腹を揺すられながら、鼻面を首筋に突っ込んできた。僕の首周りに頬ずりして、肩
に顎をすりつけ、鎖骨の辺りを大きな鼻で押す。
大きな灰色熊が甘えてくる仕草はとても可愛らしい。くっついていたいっていう心情が行動にはっきり現れていて…。
僕にだけ見せてくれる甘えん坊なガクの姿。これは僕だけの特権だ。もっとも、こうやってひっつくのは、二人きりの時に
しかできない事なんだけれど…。
十分に時間をかけて、お互いの体の感触を味わった後、
「アキ…、あの…。俺、そろそろ我慢できない…」
やっぱりガクが先に音を上げた。
見れば、怒張して硬くなった(でも皮は被ってる)太くて短いシャイボーイが、先っぽからタラタラと、かなりの量の汁を
垂らしている。
「…うふふ~っ!ガクのすけべぇ~っ!」
「う…!し、仕方ないんだよぉ…!」
…ってまぁ、僕もひとの事は言えないんだけれどね。…もうだいぶ濡れているし…。
僕はそっと手を伸ばして、ガクの股間のソレをキュッと握った。もうすっかりヌメヌメ。
途端に、ガクの大きな体が、電気でも走ったみたいにビクッと震える。
「うっわぁ…。ヌメヌメでヤラシぃー!」
「あ、アキだって…!」
「ひゃうんっ!」
おっきな手でいきなり股間をまさぐられて、僕は悲鳴を上げる。脚の間に滑り込んだガクの手は、僕のソコを睾丸ごと掴ん
でいた。
「ほら。グチュグチュじゃないか?」
「あ、あんっ!そ、そ、んぁっ…!いきな、りぃ…!」
ギュッギュッと睾丸を揉まれ、剥き出しになった亀頭を太い親指でグリグリされ、僕は我ながらどうかと思うほどの高い声
を上げる。
「き…、気持ち良いか?アキ…?」
「い、いんっふ!ちょっ!まっ!はにゃぁっ!す、スススストップぅっ!」
「ストップって、まだ始めたばかり…んぐっ!?」
反射的に、ボクの手は反撃を開始していた。
ガクのチンチンの先で、余った皮の中に人差し指を滑り込ませる。そして、皮の内側でギュニギュニ動き、いつもはガード
されているピンクの亀頭を…。
「う、うぁっ!?ま、待ってアキ!そ、そんな、激し…くっ…弄ったら…!」
グリグリグリグリグリグリ…!
「ま、まっ!や、やめ、やめてっ!ちょっと休憩!休憩希望っ!なっ!」
「だめぇ~っ!」
皮の内側はもう先走りでムネムネだから、指はもうスムーズに動く動く…。
ガクはデフォルトが皮オナニーだから、亀頭に直接加えられる刺激には超敏感。手の動きが鈍って、僕は再び優位に立った。
「んううううぅっ!」
刺激で我慢できなくなったのか、ガクは呻き声を漏らしながら、のしかかるようにして僕の唇を奪った。
そのまま、僕達はもつれあうようにしてタイルの上に転がる。
半分重なり合って、左半身をガクに押し潰されるような格好で仰向けになった僕は、それでもガクのソコを離していない。
柔らかいガクの体に軽く圧迫されながら、僕はガクのチンチンの皮をそっと剥いた。途端に唇が離れて、ガクは僕の顔の横
に手をついて、膝をついて腰を浮かせて、少し体を起こした。
仰向けの僕に覆いかぶさる格好になった灰色熊の、熱っぽく潤んだ目が、間近で見下ろして来る。
…ガク…。可愛いっ…!
「い、一緒に、イこ…、アキ…」
「うん…」
ガクの手が、仰向けになっている僕のチンチンを再び握り、ゆっくりとしごき始めた。大きな手で丁寧にしごかれて、股間
がムズムズしてくる…。
僕は手を小刻みに動かして、ガクのチンチンを刺激する。興奮と快楽で息が上がった。熱い息がからみあって、重なり合っ
た呼吸音がいやに大きく聞こえる。
クチュッ、クチュッという卑猥な、湿った音が、僕とガクの股間で鳴っている。
下向きになったせいで、自重で垂れ下っているガクの胸とお腹が、呼吸と手の動きでタプンタプンとセクシーに揺れる。
快感に耐えているガクの腰が、体重を支えている膝が、カクカクと小刻みに震えている…。
「はぁ…、はっ、はぁ!あ、アキ、アキぃ…!…す、好き…!」
「ふ…んっ…、僕も、ガクぅ…!好き、だよぉ…!」
唐突に、ガクの体がブルッと震えた。
「んうっ、うっ、ううぅあ…!あ、あっ!」
手の中に、熱い何かが迸った。
ガクの可愛いチンチンから、サイズに見合わないほどの大量の精液がビュクッ、ビュクッと飛び、零れ、滴る。
僕のお腹の上に熱い精液を垂らしながら、ガクは僕のチンチンを、ギュウッて、少し強く握る。
「あひゃんっ!」
思わず声を上げると同時に、ギリギリだった僕のソコからも、精液がピピュッと飛ぶ。勢いがあまり強くないのは、ガクの
手がチンチンを握って尿道を圧迫しているから。
射精してもなお、ガクは僕のチンチンを必死になってしごき続けた。根本から先へと、一滴残らず絞り出すように。
「も、もう良いよ…。ガク…」
「は、はぁっ…、はふぅっ…!」
ガクは力尽きたようにベしゃっと、僕を半分下敷きにして潰れた。
プニプニの贅肉に埋まりながら、僕はガクの背中に手を回してペシペシ叩く。灰色熊の体重に耐えかねて。
「ガクぅっ!ちょっとぉ!重いよぉっ…!あ、でもやぁらかくて気持ち良い…」
「はふ…、ふぅ…、ごめ…」
ガクは荒い息をつきながら体をずらして、僕の隣に横たわった。
荒い呼吸で上下するお腹を撫で回しながら、僕は微笑みかける。
気だるさと快楽の余韻で弛緩した顔に、ガクもトロンとした笑みを浮かべた。応援団員としての凛々しい顔じゃなく、恋人
にだけさらけ出す可愛らしい顔をしている。
あぁ…。幸せだな僕…。こんな格好よくて可愛い恋人が居て…。
「また、汗かいちゃったね…」
「ああ…。もう一回、流さないとな…。…少し休んでから…」
浴室の湿った空気の中に、二人で放った雄の匂いが漂っている…。
笑みを交わしながら、僕らはしばらく横たわっていた。快感の余韻と幸福感を噛み締めながら…。
「あ~、サッパリしたぁっ!」
浴槽の中でまでベッタリくっついていた僕らは、脱衣場で冷風を浴びながら涼む。
トランクス一枚身につけただけの格好で、鏡の前で頭の毛の乱れを直していた僕は、そこに映っているガクの姿を目にして
手を止めた。
「ちょっと待ってガク」
「ん?」
ガクは手を止めて顔を上げ、振り返った僕を訝しげに見る。股間にタオルを通して、前とお尻側から掴んで、ギュっギュっ
と擦っていた途中の格好で。
なんてセクシーな拭き方だろう?もはや犯罪だ。誘っているとしか思えない。
「何だよ?」
「ちょっと貸して」
僕はガクに歩み寄って、股の下を通したままのタオルの一方を掴んで、横に回りこんでもう一方も掴み、前側を押さえなが
ら…、あ。ダメだなコレ…。
「…何してるんだよ…?」
恥かしげに耳を寝せて尋ねるガクに、僕は苦笑いで応じた。
「タオルをフンドシっぽくできるかなぁって思ったんだけど…。えへへっ!長さが全然足りなかったぁ!…あ、そうだ…」
僕は首を巡らせてバスタオルを見遣り、それからガクの腰周りを眺め回す。
…微妙…?いや、やっぱりダメっぽいな…。
「こ、今度は何だよぉ…?」
腰周りをまさぐったり、手を回してサイズを確認している僕を見下ろしながら、ガクは心底恥かしそうに、眉尻を下げなが
ら尋ねて来る。
「いや…。バスタオルならどうかなぁって思って…。残念、ちょっと無理そう…」
「なんでフンドシに拘るんだ?」
「似合いそうじゃない。フンドシとか」
僕がそう言って笑いかけると、ガクは急に真顔になった。
「…似合うかな?」
「絶対似合う!」
僕は力強く頷く。期待を込めた眼差しでガクの顔を見上げながら。
「…そうか…。似合うか…。フンドシ、探してみるかな…」
ガクは前向きに検討し始めたっぽい。わぁ!言ってみるもんだね!きっと似合うと思うんだ、体も大きいしドッシリしてい
るし!
「っぷはぁ~っ!この一杯のために生きてますなぁっ!」
冷房がきいて心地良く冷えたガクの部屋に、僕らはトランクス一枚の実に開放的な格好で戻ってきた。この格好で寝るから、
今日はもう服は畳んでいる。
瓶の牛乳を腰に手を当てて一気飲みして、至福の息を吐き出した僕を、
「…なんかおっさんくさいなアキ…」
と感想を述べつつ、大事な事を理解してない灰色熊が微妙な顔で見下ろした。そして、手にしていたコーラの2リットルボ
トルを、豪快にラッパ飲みし始める。
あれだけ汗をかいても、ガクが一向に痩せない理由…。それはやっぱりカロリーの過剰摂取だと思う。一回の食事の量が半
端じゃ無い上に、ジュースをガブガブ飲んでいる。寝る直前にポテチ一袋、飲むような勢いで食べたりとかもするし…。
前にその事に話が及んだ時は…、
「腹が減って夜中に目が覚めたら切ないだろう?だから寝る前に食い溜めするんだ。合理的だろう」
と、同意を求められたけど…。ごめんガク、よく判らない…。
一気にボトルの三分の二くらいもコーラを胃に納めてから、ガクはベッドに背を預ける格好で床に腰を降ろした。そして、
にへ~っと、少し照れているような弛み顔になって、両手を広げて見せる。
「来いよ」。…っていうより、「こっちにおいで」っていう感じ?ちょっと柔らかいお誘い。
もちろん僕に拒否する理由は無い。両手を広げているガクに歩み寄って、胡坐をかいている脚の上に乗っかり、ぼふっと抱
きついた。
ふかふか~。むにむに~。はぁ~、気持ち良いぃ~。
僕をキュッと抱き締めて、灰色熊はすぅ~っと大きく息を吸い込む。ガクは僕の匂いを噛み締め、僕はガクの膨らんだお腹
を撫でる。ふぅ~っと息を吐き出してガクは微笑んだ。凄く幸せそうな顔で…。ガクがこんな顔をしてくれると、僕もとても
嬉しくなる…。
「ふふ~!えへへぇ~!」
嬉しくて楽しくて幸せで、ガクのお腹を両手で挟んで、横から押したり離したりする。
柔らかいお腹が、中でタッポンタッポン音をさせながら揺れる。脇腹はガクにとっても、触られると感じやすいポイントら
しい。僕が楽しむだけじゃなく、結構喜んでくれる。…んだけど…。
「あ、アキ?ちょ、ちょっと、…うぉっぷ…、待っ…!…んっ…んげぇぇぇぇっぷふぅっ!」
揺すり過ぎた?コーラが振られて胃の中で炭酸が充満したのか、ガクはものっすごいゲップをした。
「あ…。ごめ…!」
僕がビックリして固まった事に気付き、ガクは眉尻を下げて謝る。
「こ、こっちこそごめん…!えへへ…!」
「ふっ…、ははは!」
なんだか可笑しくなって、僕らは声を上げて笑った。
あ~、幸せぇ…!
それからしばらくの間、僕らはベッドに並んで腰掛けてテレビゲームに興じた。
「あぁ…。また負けた…」
アーケードの人気作を移植した格闘ゲームで八連敗したガクは、コントローラーを放り出して仰向けにひっくり返る。
「ふふ~ん!どんなもんだいっ!?」
「強い。っていうか強過ぎるんだよアキ…。俺、持ち主なのに…」
だって吹奏楽部の仲間達と一緒に、ゲーセンでよくやっていたんだもんコレ。
「勉強にまわす時間削って、ちょっと練習するかな…」
「いや、それはどうだろう…?」
ちょっと悔しいのかガクは顰めっ面で呟いて、僕は苦笑いで応じる。
「そうふて腐れないでよぉ。いっこぐらい僕が勝てるものがあっても良いじゃない?」
「…勝ってるじゃないか…アレの大きさとか…」
小声でぼそっと呟いたガクが可愛くて、僕はコントローラーをベッドの上に置き、ガクの上にのしかかった。
ベッドから脚を出して開いているガクの股に、下側から乗り上げる姿勢。
ガクの腰が僕の胸の下にあって、顔の下にはやわらかぁいお腹。
コレ、僕のお気に入りのポジション。スポンと収まって具合が良い。
「えい。ぶよぶよぶよぶよ…」
脇腹のお肉を軽く掴んで揉むと、ガクは気持ち良さそうに目を細めた。ゆっくり伸ばされた大きな両手が、お腹の上に顎を
乗せてる僕の頭にポフッと被さる。柔らかいお腹に埋もれて、大きな手で優しくクシクシと頭を撫でられて、気持ち良くなっ
て目を閉じる。
ガクが気持ち良くなるツボ、脇腹を微妙な加減で揉みながら、大きなお腹に頬ずりし、キュッとしがみ付く。言葉も交わさ
ずに、ただただこうやってくっついているだけで、僕らは幸せな気分になれる…。
「あのぅ…アキ…?」
しばらく幸福感に包まれながら揉み揉みしていた僕は、ガクの遠慮がちな声で目を開ける。
見れば、ちょっとだけ首を起こして、耳を寝せながら、ガクはなんだか申し訳無さそうな表情をしていた。
…あ…?
胸に当たっているその感触に気付いた僕は、ちょっとだけ体を浮かせて、下を見た。
ガクの股間で、トランクスが小さく盛り上がっている。
「えへへぇ~!さっき出したのにもうこんなになって、ガクのエッチィ~!」
「だ、だって…、アキがあんまり揉むから…」
困ったように眉尻を下げるガクの顔を見て、僕は小さく吹き出してしまった。
「お腹揉まれて感じちゃったんだ?」
「…ん…」
恥かしそうに視線を逸らしたガクのお腹を、僕はペチっと軽く叩いた。それだけでポヨヨンと波打つのがまたセクシー。
「じゃあ、もう一回抜くね?」
僕は微笑みながら、ガクの腰の両側で、トランクスのゴムに手をかける。
恥かしそうにしながらも、ガクは大人しく腰を浮かせて、脱がせやすくしてくれる。
トランクスを脱がすのは腰さえ浮いてれば結構簡単。僕みたいな種とは違って、ガクの短い丸尻尾は、尻尾ホールから引っ
かかり無くすんなり抜ける。股間の可愛いのだけ、ゴムにグイッと引っかけないように注意すればいい。
「足上げて~」
「んん…」
恥ずかしそうにしながらも、ガクは大人しく僕の言葉に従って、相変わらず仰向けのまま、今度はお尻を下ろして足を浮か
せる。そこからトランクスをスポンっと引っこ抜いた。
丸出しになった股間、ボヨンと段が付いたお腹の下の、むっちりした三角コーナーで、可愛いチンチンがピコッと勃ってい
る。股間の柔らかな白い毛とお肉に半ば埋もれるようなサイズのそれは、何度見てもキュート…!
顔の上に片腕を乗せて、必死になって恥かしさに耐えているガクのチンチンを、僕はキュッと掴む。手の中でソレがヒクッ
と動き、ガクの太った身体が震えた。
「右へ曲がります♪」
レバーを操作するように、僕はソレを掴んだまま、グイッと右に傾ける。
「お、おいアキ。や、やめっ…」
「左へ曲がります♪」
「ちょ、苦しい…!アキ!」
今度は逆サイドに傾けると、ガクは少し身を起こして抗議した。
少しの間見つめあった後…。
「…バックします♪」
「ちょ!まっ!いだ!いだだだだだだっ!痛いって!ギブ!ギブギブ!」
チンチンを下向きに下げられたガクは、頭を抱えて背中側に倒れる。
「ギブ?ギブミー?もっとして欲しいの?」
「ちっが!ギブアップ!いだだ!勘弁しろホント!無理無理無理苦しいって!」
パッと手を離すと、反動で戻って行ったガクのチンチンは、ペチンとお肉を打って震わせる。
「ひ、ひどい事するなよぉ…」
「ごめんごめん。新ネタ思いついたらつい…。てへっ!」
涙目になって顔を起こしたガクに、僕はペロッと舌を出して謝る。あ。新ネタと言えば…。
「ねぇガク?いつもと違った事、してみない?」
「違った事?」
「うん。大人の階段、登ってみよう。レッツトライ!ネクストステップ!」
僕の発言で嫌な予感でも覚えたのか、灰色熊は露骨に怯えた顔をする。
「大丈夫。気持ち良い事だから。アナルオナニーって知ってる?」
僕の問いかけに、ガクはしばし沈黙した後、「まぁ、言葉ぐらいは…」と頷いた。…ふふっ!なら話は早い!
「凄く気持ち良くなれるらしいし、やってみようよ!踏み出そう新たな一歩!踏み締めようフロンティア!」
「なんかさっきからちょっと変だぞアキ?言う事が何だか映画の予告編のテロップとか、広告の煽り文句みたいだな…」
「え?そ、そう?…ゴホン!まぁ、それはともかく!やってみよう!ね?良いでしょ?」
「いやでも、俺あんまり詳しくないし…。やっぱりちゃんと予習してからの方が…」
「心配御無用!ちょっとは予習してあるから!」
「でもなぁ…」
「ねぇガクぅ!やってみたい~!やらせてぇ~!…ダメぇ?」
僕は小さく首を傾げつつ、上目遣いにガクを見る。灰色熊はボクの視線を受けて、しばしドギマギしながら躊躇した後…、
「…ちょ、ちょっとだけ…、やってみる…か…?」
結構簡単に陥落した。
「股を開いてね~。そうそう、そのまま」
ベッドの上で仰向けに寝ているガクのお尻に、僕はそっと顔を近付ける。
「あ…、なんか、ケツの穴に息が…」
僕の息を感じたのか、薄茶色の肛門がヒクッと動いた。そ~っと舌を伸ばして、ペロッと舐めると…。
「ひっ!?」
ガクは可愛い声を漏らして身じろぎした。
ピチャピチャと肛門を舐めて湿らせている間、ガクは太った身体を時々ピクンと震わせていた。…あ。なんかちょっとやっ
てみたい事ができたかも…。
僕はすぅ~っと大きく息を吸ってから、ガクのアナルに口付けした。
ぶびぃ~っ!
「んはぁああああああうっ!?」
あ。こういう音がするんだ…。
「あ、アキ!?ちょっと待て!何を…」
お尻から息を吹き込まれて、慌てて身を起こそうとしたガクに、もう一発…!
べびぃ~っ!
「あっ!あああ、あひっ!あひはっ!アキ!や、やめっ!やめてぇっ!あふんっ!」
くすぐったいのか、妙な笑声交じりにガクは訴えた。
「どうかなこれ?」
「ふぅ…!ひぃ…!ど、どうって…!尻がムズムズして、こそばゆくて…。っていうかだなアキ…!な、何すんだよぅ…!俺、
カエルとかじゃないぞ!?」
後ろに手をついて体を起こしたガクは、…なんか泣きそうな顔をしている…。
「いやほら、どんな音するのかなぁって、ちょっと気になって…」
「気になるのかよそんなのが!あぁ…なんか下っ腹が張ってる…。どれだけ息入れたんだよアキ…」
顔を顰めておヘソの下辺りを擦ったガクは、唐突に言葉を切って黙り込む。
「…あ、アキの息が…。俺の中に…、入って…、充満して…」
「ちょ、ちょっと!妙な事言わないでよ!」
ぼそぼそと、恥かしげに言っているのを聞いたら、僕まで恥かしくなってきた…!顔が熱いっ!
「つ、続けて良い?今度は、真面目にやるから…」
「ん…、う、うん…。も、もうこれ以上ケツから息入れたりするのナシな?カエルみたいにパンクさせられて死んだりとか絶
対嫌だからな?」
「大丈夫だから!さすがにそんな事しないから!っていうかできないから!」
ガクは恥かしげにコクコクと小刻みに頷き、それからごろっと仰向けに戻る。
今のイタズラでも感じたのか、ガクの股間で、チンチンはまだビンビンになっていた。
再び肛門を舐めて、十分に湿ったと目星をつけた僕は、今度は自分の指を入念に舐めて唾液で湿らせる。
「いい?入れてみるよ?」
「ど、どんと来い!」
勇ましい言葉とは裏腹に、ガクの声はちょっと震えていたりする。トーンもおかしかった。
肛門に当てた右手の人差し指を、恐る恐る、ゆっくりと、慎重に中へ押し込んでいくと…。
「あっ…!んぅっ…!
ガクの体がピクンと震えて、肛門がキュッと締まり、僕の指先を締め付けた。
「ガク、我慢して、力抜いていてね?痛くしないように気をつけるから…」
「ん、んん…!」
ガクは小さく返事をして、お尻から力を抜く。
僕はガクがリラックスできるように、空いている左手で丸いお腹を、軽く、優しく撫でる。本当は安心させるために首とか
を撫でてあげたいけど、この格好じゃ届かないんだよね。
締め付けるような抵抗が消えたら、だいぶ指が入れやすくなった。
「あ、あ…!あっ…!」
ヌププゥッと音を立てて、湿った指は、可愛い声を上げるガクのお尻の中に潜り込んでいく。
「痛くない?大丈夫そう?」
「へ、平気…。だと、思…うっ…!」
「じゃあ、ちょっと動かしてみるね?痛かったらすぐに言ってよね?」
僕にだって不安はある。アナルオナニーについて調べた事は調べたけれど、実はまだ自分でもやった事は無いんだから。
いやに柔らかくてあったかいガクの内側を、慎重にまさぐる。指を動かした際にアナルが押し拡げられたりすると、さっき
吹き込んだ僕の息が、プピッと音を立てて少し漏れてくる。
指先で内側を探る間、ガクは時々呻き声を漏らしていた。その度にお尻の穴がキュッと強く締る。
僕は覚えてきた内容を頭の中で反芻して、指の腹を上側、つまりガクのお腹側に向けた。確か…、腸壁の向こうに、とか書
いてあったけど…。
「んがぁっ!?」
突然ガクが声を上げて、僕はビックリして手を止めた。
「だ、大丈夫!?ごめん!痛かった!?」
慌てて謝った僕に、
「ち、ちが…!なんか、腹の奥っていうか…、タマの下っていうか…、急に、何かが…」
ガクは息を弾ませながら答えた。…もしかして…ここ?他とはちょっと感触が違うここが、前立腺?
僕はたった今押した場所を、今度はゆっくり、そぉっと押してみる。
「あっ!あ、あああっ!あ、アキ…!な、何だコレ…!?何か、すご…んぅっ!」
そこを刺激しただけで、ガクは喘ぎ声を漏らした。間違いない、ここだ!
「ガク?ここがポイントなんだと思う。ちょっとマッサージしてみるから、痛くなったり、我慢できなくなったら、止めてっ
て、すぐに言ってね?」
「ん、んうぅっ…!」
灰色熊は頷きながら、可愛い声で返事をする。
クチュッ、クチュッと、お尻を弄り始めると、ガクは荒い息と喘ぎ声を漏らし始めた。息が弾んで、丸いお腹が上下する。
時々ヒクッと、大きな体が震える。
「あ、あんっ!あ、アキ…!アキぃ…!すご…、んっ!気持ち…いぃ…!なんか…あっ!や、やば…いっ…!」
あったかくて柔らかなガクの中で、前立腺を刺激していると、僕の胸はドクドクと高鳴り始めた。
ソコを刺激した効果は凄い物だった。今日はもう一回は済んでいるのに、チンチンからとうとうと汁が溢れて零れていく。
指の腹でソコを押すと、ガクの可愛いチンチンは、連動するようにヒクンッ、ヒクンッ、と動く。
「ちゃんと、気持ち良い?感じる?」
「かん、じ…るぅ…!あふっ!お、俺…、俺もう、どうにか…ひっ!なっちまい、そぉ…!」
止め処なく汁を溢れさせながら、ガクは可愛い声を上げる。
…あぁ…!ガク…、可愛い…!凄く可愛いよぉ…!
僕は言葉にできないほどの愛おしさを込めて、お腹をさすっていた手を離して、勃起しても皮を被ったままのガクのソレを、
そっと、優しく包んだ。
しとどに濡れたチンチンを軽く握ってしごく僕の手が、溢れてくるトロッとした汁で湿っていく。ガクのチンチンから溢れ
たそれが、毛の中に浸透して指の皮膚を伝う感触に、比喩が見当たらないほどの幸福感を覚えた。
ガク…、ガク…!大好きだよぉっ!
キュッと、少し強めにお腹の中を指で押したら、ガクのチンチンはビクッと震えた。そして、
「あっ!だめっ!お、俺っ、だめっ!イ、イくっ…!もぉ、イっちゃ…う…よぉおおおおおっ!」
ガクのチンチン、先っぽまで被っている皮の先から、コプッと精液が溢れ出た。凄い量の精液が、コプコプ、コプコプと、
途切れなく溢れる。
「あ、あっ!アキぃ!な、なにぃ?何これぇ…!?と、止まらな…いぃっ…!」
ガクの高い声に答える事は、僕にはできなかった。こんなの初めて見たから、驚いて硬直しちゃって…。
やがて、長い射精を終えたチンチンを見つめながら、僕は呆然としながら呟いた。
「…凄い…」
それからやっと、その音に気付いた。
ガクが、ヒック、ヒックと、声を漏らし…て…?
「が、ガク!?大丈夫!?どうしたの!?」
慌ててお尻からチュポンッと指を抜いたら、片腕で顔を覆っているガクは「えうっ!」と声を上げた。
ベッドに這い上がって、覆いかぶさるように覗き込んだ僕を、ガクは顔に上げた腕の下から見つめた。
涙がいっぱいに溜った目で…。
「ガク!?ご、ごめんガク!い、痛かった!?」
「ち、ちがっ…!」
ガクは弱々しく震える声を漏らして、首を横に振った。
「お、俺…!…ひくっ…!さ、さっき、尻の、アソコ、触られてか、ら…、えっく!なんか、涙が、勝手に出てきて、とまっ
…らな…く、なって…、えっ!」
心配になって、その手をキュッと掴んだ僕に、ガクはしゃくり上げながら訴えた。
「なん、か…!幸せな、感じが、して…!えふっ!気持ち良いのに、泣きたく、なってぇ…えぅっ!」
…そういえば、幸福感を感じるとかなんとか、泣くひとも居るとかなんとか、調べた中にはそんな事が書いてあったような。
そういう事…?痛かったり、苦しかったりした訳じゃないのかな…?
ちょっとほっとした僕に、ガクは涙でぐしょぐしょになった顔で、
「アキぃ…、そのぉ…、ありが、とぉ…な…」
弱々しく、照れ臭そうに微笑んで見せた。
「お礼なんて、言わないでよ…!な、なんか、照れちゃうよぉっ!」
初めて経験する快感が強烈過ぎたのか、すっかり脱力しちゃっているガクに覆いかぶさるようにして、僕は、愛しい彼と唇
を重ねた。
僕も試してみたかったけれど、ガクの状態を見ると、今夜はこの辺までにしておいた方が良いかもしれない…。股間はうず
いているけれど、我慢しよう…。…それに…。
僕はちらっと、ガクの野球グローブみたいなでっかい手を見る。
…このぶっとい指を入れられるのは、ちょっとキビシそう…。次までに自分で慣らしておこうっと…。
綺麗にしたベッドの上で横になり、ピッタリと抱き合った僕達は、重ねていた唇を離した。
僕とガクの間で唾液がアーチを作り、切れて落ちる。
「アキが、俺みたいなのが好みで、本当に良かった…」
「ふふっ!なぁに今更?」
なんだか可笑しくなった僕が笑いながら言うと、ガクはガリガリと頭を掻きながら苦笑いする。
「だって俺、顔も良くないし、デブいし、恋人とか絶望的だろ?ましてホモだし」
「それはお互い様。僕だって背は低いし、童顔だし、恋人なんて絶望的だと思ってたよ?おまけにホモだし」
顔を見合わせて、僕らは笑う。
幸運だと思う。
一度目の夕立がくれた出会いで親しくなって、二度目の夕立がくれたアクシデントでお互いのことに気付けた。
あの日、夕立にびしょ濡れにされなかったら、僕らはきっと今でも、言葉もほとんど交わさない間柄だった。
僕はあの時の恩人を勘違いしたままで、ガクは真実を告げずに、遠くから僕を眺めるだけ…。
「あの…、あ…、アキ…?」
「なぁに?」
「その…。俺の事…、好きに、なってくれて…、ありがと…な…?」
ガリガリと頭を掻きながら、つっかえつっかえ、ぼそぼそと囁いたガクは、恥かしげに首を曲げて、天井を見上げてしまう。
…キュンって来た…。
嬉しさで、じわっと体の芯が温かくなって、胸がいっぱいになって…、僕は何も言えなくなってしまう…。
無言のまま、その横顔を見つめている僕を、ガクはチラッと横目で見てから、
「…えっと…、あ、あのなっ…!?ごほんっ!お、俺の事…、す、すっ、すっ…、好きになって、くれて、…そのぉっ…、あ、
あ…、ありがと…!って…、だな…!」
「い、いや!聞こえなかった訳じゃ無いから!そんな必死になって二回言わなくても大丈夫だから!」
「そ、そうか…。聞こえてたなら…良いんだ。…うん…」
ガクは恥かしさに耐えかねたのか、顔を伏せてしまった。…体はこ~んなにおっきいのに、可愛いなぁガク…!
「ありがとうは、僕もだよ…!」
僕はずりずりっと脚側に少し移動して、下からガクの顔を覗き込む。ガクはちょっとドギマギしながらも、僕の顔をちゃん
と見つめ返してくれた。
僕は満面の笑みを浮かべてガクに言う。二人っきりの時でないと言えないけど、本当はいつだって、どんな時だって、ずっ
とずっと心の中に納まっている、大事な気持ちを…。
「ガク。大好きだよっ!」