しらなみ

幼年期

しらなみ(一) 
 白い巨犬は思い出す。波風だらけの今日までの歩みと、音が追いかけ合い、重なり合って奏でた、ピアノの曲を…。

しらなみ(二) 
 黒い柴犬は奏でる。白犬が遠くへ足を伸ばし、見晴らしが良くなった部屋を視界の隅で気にしながら、馴染みの曲を…。

しらなみ(三) 
 大きな河馬は出会う。すっかり馴染みとなった白犬から、幾度も幾度も誇らしげに聞かされた、小さく上品な黒い柴犬と…。

しらなみ(四) 
 老いた羚羊は考える。自分には何ができたのだろう?自分は何を遺せたのだろう?損なわれる環境と、陰り始める黄金期…。

しらなみ(五) 
 黒い豚は見定める。無邪気な天才。認められた強者。小さな猛者。そして、空虚な頂点…。幾つもの道が交錯する、秋の大祭…。

しらなみ(六) 
 レッサーパンダは知る。憧れ続けた強者の真実と、見るべき夢の在処を…。濁り男浪と空虚な嵐。大祭は頂上決戦で幕を降ろす…。

しらなみ(七) 
 少年達は悟る。時の流れを留める事などできはしない事を。明日が必ず明るい方へ向かうとは限らない事を。黄金期は、終わりを迎えた。

しらなみ番外編 「この夕暮れに君を待つ」 
 山猫は思う。判らない奴でよかった。変な奴でよかった。それが楽でよかった。でもひとりにぐらい、本音を言ってもよかったかもしれない。


少年期

しらなみ(八) 
 中学生になったクレドとヒジクロ。時は移ろう。変わらない物ばかりではない。だが、ふたりの関係は昔のまま。…と、思えていたのに…。

しらなみ(九) 
 自分の本心に気付いたクレド。異質さを理解し、受け入れた彼だったが、そこへ揺さぶりをかける黒柴宛ての恋文。ふたりの関係は…。

しらなみ(十) 
 関係を少し変えたクレドとヒジクロ。見方が変わったのか、目に映る景色は新鮮さを増し、色を変え、より強く、はっきりと香るようになる。

しらなみ(十一) 
 全国に挑むクレド。それを見守るヒジクロ。壁はあまりにも高く、土俵はあまりにも深く、しかし白波とは、当たり砕けてなおも立つ物…。

しらなみ(十二) 
 三年生の引退を受け、部長を任せられたクレドだが、なかなか思うようには行かない。ヒジクロにもアドバイスできるような経験は無く…。

しらなみ(十三) 
 去ってしまう後輩を地元に誘ったクレドは、短くも濃い時を共に過ごす。それは無駄な事なのか、無意味なのか、白犬にも判らなかったが…。

しらなみ(十四) 
 今年も春が訪れ、クレドとヒジクロは中学三年になった。相撲部がある高校は地元から遠い。ふたりが町で過ごせる最後の一年が始まった。

しらなみ(十五) 
 選択を迫られるヒジクロ。しかし「正解」は判らないまま時間は過ぎて不安が募る。そんな中、大会を控えたクレドと過ごせる時間も減り…。

しらなみ(十六) 
 全国出場を賭け、中学最後の総体に挑むクレド。ヒジクロが、クロダブチが、カバヤが見守る中、白波と濁流は再会し、再戦する。

しらなみ(十七) 
 それぞれが時を積み重ねる中、全国大会が迫る。かけがえのない時と実感しないまま、少年達は互いの時を重ねあって過ごす…。

しらなみ(十八) 
 全国大会。中学最後の公式戦。目指してきた大舞台。求めてきた強者との立ち合い。夢に見た土俵。だが、そこに立ったクレドは、今…。

しらなみ(結) 
 中学最後の夏が終わる。少年達は選択し、決断し、歩き出す。それは、誰よりも孤独を恐れた強者の物語。終わって初めて始まる物語…。


後日譚 なみあと

なみあと(春) 
 高校に進学したクレドと、クロダブチの決意。そして新たな仲間との出会い。備えの春に、種は撒かれた。

なみあと(梅雨) 
 (春)の後のお話。三年引退で代変わりした陽明相撲部。元々仕切っていたクロダブチが主将を継ぎ、事はつつがなく進むかに思えたが…。

短編集(一) 
 (梅雨)の後のお話。陽明相撲部の梅雨から夏を描いた、ショートショート集第一弾。

なみあと(夏) 
 短編集(一)の後のお話。夏休みのある日の出来事と、波跡のように残された記憶。むせぶ夏の夜に、轟く雷鳴。

短編集(二) 
 (夏)の後のお話。陽明相撲部の夏休みを描いた、ショートショート集第二弾。

なみあと(秋) 
 短編集(二)の後のお話。秋の大連休に合わせ、部費を温存してきた陽明相撲部は遠征をおこなう。

短編集(三) 
 (秋)の後のお話。陽明相撲部遠征中の出来事を描いた、ショートショート集第三弾。

短編集(四) 
 短編集(三)の後のお話。陽明相撲部の遠征終了までを描いた、ショートショート集第四弾。

なみあと(祭) 
 短編集(四)の後のお話。クレドの故郷で開かれる、秋祭りの相撲大会。一戦きりの奉納相撲は、今後を占う大事な取り組み。

なみあと(冬) 
 (祭)の後のお話。冬休みのある日の出来事と、改めて出された想いの答え。凍て染みる冬に、雷が哭く。

短編集(五) 
 (冬)の後のお話。陽明相撲部の一月を描いた、ショートショート集第五弾。

短編集(六) 
 短編集(五)の後のお話。次年度の準備を始める陽明相撲部の三学期を描いた、ショートショート集第六弾。

なみあと(結) 
 短編集(六)の後のお話。結びの一番。年度は終わり、世代は変わる。今も昔も黒と白。並んで目指すは見果てぬ高み。