綿雪


湯煙が立ち込めた、大浴場の独特の空気。

カララッと引き戸を開けて浴場に踏み入った僕は、たっぷり湿気が含まれた温かい空気を胸一杯に吸い込んだ。

広い浴室には、オーソドックスな大きい湯船の他に、大小様々な湯船…、ジャグジーや寝風呂がある。他にも打たせ湯、サ

ウナルームまであるらしい。

なんだかウキウキしてきた!フサフサの尻尾がハタハタっと勝手に揺れる!

「でっかいだろう?」

声をかけられた僕は、後ろから続けて入ってきた、名が体を表しているような巨漢を振り返った。

そこに立っているのは、灰色のフカフカした毛に全身を覆われた、むっくり太った体型の灰色熊。丸太みたいな太い手足に、

スイカでも丸呑みしたような太い胴体。そしてむっちり突き出たたぷたぷなお腹。

首回りの毛は他の場所より一層たっぷりしていて、顎から喉が白くて、前掛けをつけたみたいになっている。

ぱっと見そうは思えないけれど、実は彼、僕と同じ歳で高校二年生。名前は灰島岳(かいじまがく)。僕のクラスメートで、

応援団に所属。三年生の団員が二学期序盤に引退してからは、応援団長を任されている。

腰回りが太過ぎて回りきらないのか、畳んだタオルを右手で持って、左手で前を隠している彼に、僕はウンウンと頷いて応

じた。

「ビックリした!ホントに!」

進学して寮に入って、この町で暮らすようになってから一年半以上経つけれど、この銭湯に入るのは初めて。名前は知って

いたんだけれど、寮に大浴場があるし、何より出費を抑えたかったから利用しようと思った事は無かった。こんなに立派だっ

たなんて思ってもみなかったからなぁ…、もっと早くに来てみれば良かった…。

大きな銭湯は、たぶんいつもは賑わっているんだろうけれど、今はガラガラだった。今日は特別な日だからね。

そう、特別な日…、なんだけれど…。

「ねぇガク…」

「ん?」

「クリスマスイブにわざわざ銭湯なんて、やっぱり変じゃない?」

「良いじゃないか?過ごし方なんてひとそれぞれだ。イブに銭湯に来るヤツも居るって事で」

尋ねる僕を見下ろして、ガクは可笑しそうに笑った。

「さぁ、さっそく体流して入ろうな。沢山あるから、色々試してみなよ」

ガクの大きな手を背中に当てられて、軽く押されて促された僕は、上機嫌で頷いてシャワーブースに向かった。

僕は小木明仁(こぎあきひと)。犬獣人で、犬種はウェルシュコーギーカーディガン(純血種だよ~)。柔らかな自慢の毛

並みは、茶色と白の暖色。
肘と膝から先、それと頭頂部から目の間の細いラインと、口と顎、喉を通ってお腹側が真っ白。そ

こ以外は茶色のツートンカラー。
体と比較して大きいピンと立った耳と、フサフサ尻尾、手足がちょっと短めでずんぐりして

いるのが僕の種の特徴。

童顔と小柄さがチャームポイントって言われるんだけれど、もうちょっと背が欲しい高校二年生。ちなみに吹奏楽部所属で、

担当はトランペット。それなりに上手いんだよ?




それは、約一時間前の事だった。綿雪がフワフワと舞い降り始めた、だいたい午後五時頃の事。

「わ~!また降って来ちゃった!」

曇った窓を拭って、すっかり暗くなった外を見た僕は、ふわりふわりと落ちてきた綿毛みたいな雪のひとひらを目で追った。

「一昨日降ったのもまだ全然溶けてないのに…」

表面が溶けて固まった雪の上に、新しい雪が降り積もる。そうして冬の間中、常に雪が残り続ける。

豪雪地帯のここら一帯は、毎年こんな感じ。まぁ仕方ないんだけれどねぇ…。

「あー。今晩またドッと降るんだと」

ベッドに背を預けてあぐらをかいて座り、ポテチをパリパリと食べながらテレビを眺めていたガクが何でもないように言っ

て、僕は「うわ…」と顔を顰めた。

四時過ぎにガクの家にお邪魔した僕は、彼の部屋で一緒にくつろいでいた。今日、僕らは二学期の終業式を終えた。つまり、

明日からは冬休みなわけ。普通は喜ぶところなんだろうけれど、僕にとってはちょっと複雑…。

…だって、冬休みになったから、寮生の僕は地元に帰らなきゃいけないんだもん…。

部活や補習なんかがあれば別で、寮に残ったりもするんだけれど、我らが吹奏楽部はコンクールを十月に終えている上に、

僕は補習に引っかかるような点数でも無かった。

…実は、ガクに勉強を見て貰うようになってから、上の下クラスまで成績が上がっていたりする…。

そんな訳で、明日のお昼にはこの町を離れる事になる。荷物をまとめて寮を出た僕は、帰るのを一日先送りにして、ガクの

家にお邪魔したんだ。

…しばらく会えなくなる前に、クリスマスイブくらいは、一緒に過ごしたかったから…。

ところが。ところがですよぅ!?別れを惜しむ僕の気持ちを知ってか知らずか、ガクには普段と変わった様子がないっ!

…む~…!ちょっと面白くないぞっ!

僕はガクの前に回り込んで、あぐらをかいている足に座った。いつもの熊座椅子スタイル。タップリした柔らかいお腹と胸

が、背中に密着してホカホカ温かい…。

僕はおもむろにリモコンを手に取って、チャンネルを変えた。午後五時のニュースを映していたテレビには、アニメが映し

出された。

「あ。全国ニュース…」

ちょっと残念そうに呟いたガクは、でもそれ以上は何も言わなかった。脇に置いていたポテチの袋に黙って手を伸ばし、ガ

サガサとまさぐっている。

特に見たい訳でもないアニメを眺めながら、僕はすっと手を上げて、ガクが口に入れる寸前だったポテチを人差し指と中指

で挟んだ。
食べる直前でポテチを奪われ、パクンと虚しく空気を噛んだガクの下で、奪ったポテチをパリッと囓る。…今日は

コンソメ味か。

「アキぃ~…。何か急に機嫌悪くなってないか?」

見ている途中だったニュースをアニメに変えられても何も言わなかったくせに、ポテチを目前で奪われたガクは、今度こそ

さすがに抗議して来た。

「ねぇガク」

「ん?」

「冬休み中は会えなくなるけど、ガクは平気なの?」

僕がそう尋ねた途端に、ガクのおっきな体がピクンと震えた。

「………」

答えは返って来ない。…けれど、その沈黙だけで僕には良く解った。

やがて、太い腕が僕の腋の下を通って体に回されて、キュッと抱き締めてきた。より強く密着したその状態で、灰色熊は僕

の左肩に顎を乗せて、頬ずりしてくる。

…やっぱり、ガクだって平気なんかじゃなかったんだ…。

体は大きいくせに、相変わらず甘え上手なガク…。左腕を上げて、そのふさふさした首に回し、首の後ろをサスサスしてあ

げながら、僕は勝手ながらちょっと満足して、同時にちょっと寂しさが深まった。

「…我慢する…。俺は、大丈夫だからな…?心配しないで良いんだ。アキは、実家でゆっくりして来い…。な?」

しばらくスンスンと鼻を鳴らして僕の匂いを嗅いだ後で、ガクはそう、ボソボソと言った。

応援団長として振舞っている時のような堂々とした様子は、今のガクには全く無い。まるで子供みたいに寂しそうで、放っ

ておけない感じがする…。

…ショックだった…。

僕は、ガクがいつも通りな事が面白くなかった。寂しがって欲しいって思った。

でも、平気だった訳じゃない。ガクは、頑張っていつも通りに振舞っていただけなんだ…。実家に帰る僕が心配しないよう

にって、平気なふりをしていたんだ…。

なのに僕は、寂しがって欲しいだなんて、勝手な事…。

「…ごめんね?ガク…」

「謝るな。正月に実家に帰るのなんて、当り前だろう?」

謝った僕に、内心まで察していないガクはちょっとずれた返事を返して来た。

「…じゃあ、今日はいっぱいくっついて、会えるまでの貯金にしておこうね?」

努めて明るく言った僕の言葉に、ガクは「ん…」と返事をした。「いっぱい話しておこうな」って。

あまり饒舌じゃない、むしろ口数の少ないガクだけど、僕相手にはいっぱい話をしてくれる。一見近寄りがたい巨漢は、僕

らと変わらない少年の顔に、ちょっと可愛い一面があるところも見せてくれる。

これはクラスメートにも、応援団の団員達にも向けられない、僕にだけ向けられる特別なボーナスだ。

こんなステキな恋人に、時々ちょっといぢわるしたくなるのは、ひょっとすると僕にSっ気があるからなんだろうか?

「そうと決まったら、さっそくお風呂でも入る?隅々ま~でキレーにしてあげるっ!」

腕の中で体を捻って顔を向き合わせ、悪戯っぽく笑いながらそう言ったら、ガクは困ったように応じる。

「あ、悪い、まだ沸かしてない…。すぐ沸かして来るな?」

「あ、いいよいいよ!ご飯の後、のんびりしてからでも良いでしょ?」

ガクは顎を引いて頷いた後、「あ」と小さく声を上げた。

「なんなら、蓮の湯に行ってみるか?今の時間帯ならそう混んでないはずだ。特に今日は」

「蓮の湯?」

「知らないか?この近くの銭湯」

「う~ん、名前は聞いた事ある。けれど利用した事はまだ…」

首を捻って顔を仰ぎ見ながら答えたら、ガクは鼻をピトっと押し付けて来ながら笑った。

「凄く立派なんだぞ。そこ、蓮木先輩の親父さんが経営してるんだ」

「…あ!先輩の!?それで蓮の湯って名前なんだ?」

ハスキ先輩は僕らの一つ上で、前応援団長のシベリアンハスキーさん。

ガクとは家がお隣さんの幼馴染で、何を隠そう、当時根性が無かった(とは本人の弁)ガクを応援団に入れたのもハスキ先

輩。
眼光は鋭く、ちょっと怖そうだけど凛々しい顔立ちをしている。外見は、とにかくビシっとしていて、堅いイメージが強

い人だけど礼儀正しい紳士だ。

「応援団員たるもの紳士たれ」。それは前々団長さんの言葉で、ガクの信念でもあるけれど、前団長さんもそれを体現して

いる。

「どうせ二人だけなんだから、飯の時間は適当で良いだろう?良かったら先に銭湯に行ってみないか?」

銭湯かぁ…。銭湯だと、いつもみたいにベタベタはできないなぁ…。でも、興味はあるんだよね…。

どうせ今夜も汗かくし、明日の朝はガクの家のお風呂をお借りする事になる。ひっつくのはその時でもいいかな?

「良いかも。せっかくだし行ってみたい!…けれどガク、大丈夫なの?」

「ん?何が?」

尋ねた僕に、ガクは首を傾げて聞き返して来る。

「お腹。銭湯から出るまでもちそう?」

ガクは視線を上に向けて少し黙って考えた後…、

「…何か軽く詰め込んでくか」

ポテチの袋に手を伸ばしながら、苦笑いしてそう言った。

なお、ガクの両親は揃って外出中。旅行会社に務めているご両親は、世間が休みの日こそ忙しい。今夜も帰って来られない

んだって。

ガクが料理得意なのも、洗濯から何から自分でやっちゃうのも、小さい頃から両親が家に居る事が少なかったかららしい。

仕事の都合上仕方ないとはいえ、ここまで放任主義で育てられて、それでも勉強もできるんだから、ガクたんは根っからの真

面目さんだ…。
僕だったら、子供の頃から口煩い親が近くに居なかったなら、間違いなく連日遊び倒してダメダメコーギーに

なっていたはず…。

ちなみに、旅行会社のバス運転手をしているガクのお父さんは、筋肉質なグリズリー。

バスガイドをしているお母さんの方は、少し細め(といっても熊だからだいぶ骨太だけど…)のホッキョクグマ。

…どうでも良いけれど、ちょっと気になるのは、ガクの体型は、どこから遺伝したんだろうか?ということ。

ムキムキマンのお父さんに、スレンダー(熊族比)のお母さん。二人の間に生まれたガクは半端じゃなく太っている。

ガクは間違いなくお父さん似だけれど、体はもうガクの方が(太っている分)おっきい。体格はともかく、体型の方は遺伝

じゃなく食生活のせいかもしれない。凄く良く食べるから…。

結局、銭湯に向かう前に、ガクはポテチを貪るように食べた後、お徳用サイズのカップ麺を二つ胃袋に流し込んで、2リッ

トルのコーラのボトルを空にしていた。




洗面器でザバッとお湯をかけて、おっきな背中を流してあげる。

僕を振り返ったガクは、「ありがとな」と、耳を寝せて、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

僕らは小学生と大人以上に体格差がある。僕は小柄で、ガクは飛び抜けて大柄だ。

おっきくてかなり太っているガクは、モロに僕の好みだったりする。歩くだけでタユタユと揺れる脂肪。軽く叩けばタプン

と波打つお腹にグッと来る。

さらに、ガクのアレはとても可愛い。ボヨンと段がついているお腹、その下のムチッと三角に脂肪が乗った股間には、先っ

ぽまでスッポリ皮を被ったチンチン。僕の片手に収まるサイズの、短くてコロっと太いそれは、勃起しても皮を被ったままの、

重度の仮性包茎。

ほんと、ガクの何から何までが、僕のツボにはまるんだよね…。

交代で背中を流しっこした僕らは、まず一番大きい湯船に入ることにした。

「湯船にタオル浸けちゃダメだぞ?マナーだからな」

「へぇ~、解った。…こうかな?」

湯船に入る前、ガクが頭の上にタオルを乗せながら言ったから、僕は真似をして畳んだタオルを頭の上に乗せる。…この格

好!古いドラマとかで見た事ある!

そして僕らは、二人並んでお湯に浸かって、湯船の底に腰を下ろす。僕はすっかり肩まで浸かれるけれど、おっきなガクは

胸から上がお湯の上だ。

少し熱めのお湯が、僕らを体の芯まであっためてくれる…。

「僕、銭湯なんて小さい頃に何回か入ったきりだから詳しくないんだけれど、マナーってどんなのがあるの?」

「ん~…、大事なのは三つか?湯に入る前に体を洗う。タオルを湯船に浸けない。脱衣場に戻る前に体の水気をしっかり切る。

まぁ、細かいのを上げれば切りないけどなぁ…」

話をせがんだ僕に、ガクは他のマナーも教えてくれた。

ひとぉーつ。節水を心掛ける。資源は大切に!

ひとぉーつ。走らない。迷惑になるし、怪我にも注意!

ひとぉーつ。湯船の中で体を擦らない。皆で使うから清潔に!

他にも色々あったけれど、ガクは丁寧にNG行為とその理由を、解りやすく、そして詳しく教えてくれた。

「さすが成績上位者。ホント物知り~!」

感心して言った僕に、ガクは首をフルフルと横に振った。

「いや、通ってる内に覚えただけだ。昔から来てるからな」

なるほど。…ん?

「ねぇガク?ハスキ先輩と一緒に入ったりとかもしているの?」

幼馴染なんだからそういったスキンシップもあるのかなって、ちょっと気になって尋ねてみたら…。

「いや。昔は一緒に入ったりもしたが、ここ数年は無いな」

何でそんな事を?と首を傾げたガクは、「あ」と声を漏らした。

「ちっ、違うぞ!?べ、別にハスキ先輩と体流しあったりとかしてないからな!?本当だぞ?う、浮気したりなんかはしてな

いからな!?」

僕が訊きたかった事を察したらしく、ガクはアワアワと、先輩との入浴同伴を否定する。

「ちょっとぉ!?声が大きいよガクっ!い、いや大丈夫!そんな必死にならなくても、最初のさらっとした答え方で本当だっ

て解ったから!」

オロオロしながら浮気とか口走り始めちゃったガクを、僕は慌てて宥めた。

そして、辺りの少ないお客さんに聞かれないように、声を潜めて続ける。

「それに、別に浮気とかを疑った訳じゃないんだよ?ただ、昔からずっと通っているって言ったから、先輩ともずっと一緒に

入っていたりしたのかなぁって、単純に気になっただけ。僕、そういう幼馴染とか居なかったから」

ガクはほっとしたように表情を緩めて、大きく息を吐いた。僕は「ふふっ!」と笑い、湯船の中でガクの分厚い大きな手に、

自分の手をそっと重ねる。

「小さかった頃のガク、きっと可愛かったんだろうなぁ…」

「そうかでもない。昔からこんなだったぞ?」

鼻の頭を人差し指でコリコリ掻きながら、ガクはそう応じた。…昔から今みたいに太っていたのかな?今度アルバム見せて

貰えないかな…。

程よく体が温まった後、僕はガクを引っ張って、色んなお風呂を楽しんだ。

体がピリピリする電気風呂や、成分が違う温泉風のお湯。

高い所からタパパーっと落ちて来る打たせ湯は、頭に受けたらムズムズした。

ちょっと気になったから、試しにガクにお腹で受けて貰ったら、柔らかいお腹が水の勢いでへこんで波打っていた。

…想像以上…!デブ専の僕には堪えられない光景に、思わず勃っちゃいそうになった!危険過ぎる!

ガクは他の湯船でも、片っ端から僕を悶えさせてくれた。

ポコポコ泡が浮いて来るジャグジー寝風呂では、仰向けに寝たガクのまん丸お腹が、水面からポコンと出ていて、これまた

愛くるしかった。

ただ、バイブバスだけは避けた。

え?何でって?…だって、「痩身効果抜群」って説明が書いてあったんだもん…。僕の個人的な好みの問題で、ガクにはあ

んまり痩せて貰いたくないし…。

ひとしきり湯船を回って堪能した後、僕らはぬるめのお風呂(毛とお肌に良い特殊な泉質らしい)にゆったりと浸かった。

「先にサウナ入った方が良かったかなぁ?」

「…サウナは…、良いんじゃない?十分に体温まったし」

それに、痩せて貰ったら困るしね。

「ちょっとサウナに入ったぐらいじゃ痩せないって…」

ボソっとガクが呟く。…考えていた事、完全にバレてる…。

「サウナ、入りたいの?」

っていうか、もしかして痩せたいの?そんな事を考えながら尋ねてみたら、ガクは微かに笑った。

「心配しなくても、俺には痩せられるような根性もダイエットの持続性もない。そんなのがあったらもうちょっとはスリムに

なってるモンだろ?サウナの熱い空気を吸い込むのが好きなだけだよ」

根性が無いって言うのはどうかなぁ?何せ、あの厳しい応援団を二年近くも続けているんだし…。まぁ、痩せる気が無いっ

ていうのが解って、ちょっと安心した。…我ながら身勝手だなぁ僕…。

「ただし」

ガクが意味ありげに視線を寄越す。

「もしもアキが痩せろって言ったら…、その時は、なけなしの根性見せてやる」

「大丈夫!」

僕は即答した。

「体を壊したとかじゃなければ、そんな事言わないから!」

「おお。安心した」

「それはよかった!」

僕達は笑い合ってぬるいお風呂から上がる。火照っていた体は少しマシになった。

それから体を拭って脱衣場に戻った僕らは、自販機からコーヒー牛乳を購入。二人並んで腰に手を当てて一気飲み。パンツ

一枚の格好で。

「っぷはぁ~っ!この一杯のために生きてますなぁっ!」

と、いつものように息をついた僕を眺めながら、

「毎回おっさんくさいなアキ…」

と、いつものようにガクは呟いた。

銭湯通のくせに、こういう所が解っていないっ!


銭湯を出て白い息を吐いた僕らは、綿雪がフワフワ降ってくる空を見上げる。

「今年も、ホワイトクリスマスだね」

ここらじゃ毎年クリスマスは雪。今日も空全体を覆った雪雲が、音も無く白い贈り物を降らせている。

顎を引いて「ああ」と頷いたガクが吐き出した白い息が、僕の頭上で冷えた空気に溶け込んで消える。

プルルっと体を震わせて、僕は手袋を引っ張り上げた。…今日は一段と冷えるなぁ…。ガクは平気そうだけど…。

「帰ったら温かい物食おうな?急いで作るから」

気遣ってくれたのか、ガクはそう言いながら僕の背を軽く押して促した。

僕は毛糸の帽子を深く被り直して、ガクはジャンバーのフードを引っ張り上げて、綿雪が舞う夕暮れ道を、降ったばかりの

真新しい雪を踏み締めながら歩き出した。

湯上がりの体に夕風の冷たさがじんわり染みてくるけれど、そんな事はあまり気にならないほど、恋人と連れだって歩く僕

はウキウキしていた。


夕食は、今夜もガクの手料理だ。…僕もほんのちょっとだけ手伝っているけど…。

仕込みを終えていたガクがテキパキと作業をしているその横で、指示された通りに野菜を洗ったり、使い終わったボールを

流したり、盛りつけを手伝ったり…。

まぁ、ホントにちょっとしたお手伝いオンリーだね…。共同作業は楽しいけれど、労力はガクに偏っちゃっている。

クリスマスだからチキンとかそれっぽい料理になるのかなって思っていたけれど、ちょっと違っていて、洋食に拘らない鶏

尽くしのコースだった。

鶏腿肉のチリソースがけ、塩と醤油と甘酢餡かけの三種唐揚げ、そしてバンバンジー。さらに僕の好みにあわせて卵をふん

だんに使った中華風のコーンスープ。鶏ガラの出汁を使っているそうで、余所で食べるのとは一味違う、ガクのオリジナルだ。

あと、これだけは洋風。僕のリクエストで、ガクお手製特製ケチャップがたっぷりかかった絶品オムレツ。

「クリスマスっぽく無いけど、こういうのも良いだろ?…それとも、やっぱり普通のが良かったか?」

「ううんっ!これ凄く良いと思う!」

料理に勤しみながら、ちょっとばかり心配そうに言ったガクに、僕は満面の笑みで答えた。

…正直に言うとちょっと申し訳ないから黙っておくけれど、別に料理は手間がかからない物だって良いんだ。ガクが作って

くれるご飯は、何だって格別においしいし、一緒に居られるだけで幸せだから…。

やがて、居間のテーブルに料理を並べ終えた僕達は、並んで座って頂きますをして、遅めの夕食に取りかかった。

付けっぱなしのテレビには、クリスマス特番のラブストーリーが映っているけれど、僕もガクもろくに見てない。美味しい

ご飯を食べながら、他愛のない話で楽しく盛り上がっていたから。

「ご馳走様でした。あ~…、美味しかったぁ…!」

「お粗末でした。…ちょっと多かったか…。食い過ぎたかも…」

僕も普段じゃないくらい食べたけれど、ガクはその五倍ぐらいを平らげている。

灰色熊はゲフッとゲップをすると、背中側に右手をついて、ちょっと苦しそうな表情でお腹を撫で回し始めた。ベルトを緩

めて、ジーンズのボタンを外したその様子が、何だかやけに可愛い。

撫で回されているタップリお腹、張りが出た丸さと膨れ具合が何とも堪らない…!

僕は堪らず、横からガクの体に抱き付いた。鳩尾の辺りに頬ずりすると、トレーナー越しに感じられる、ふっかふかで柔ら

かいお腹の感触…。

ちょっと恥ずかしそうな表情を浮かべて僕を見下ろすガクの顔が、また可愛い…。

おっきなお腹を軽く、優しく叩いてみたら、ぽんっと良い音を立てて揺れた。

…くぅ~っ!最高っ!僕にとってガクのお腹は、高級羽毛布団なんかよりもずっと触り心地が良い!

円を描くようにお腹を撫でさすったら、ガクはトロンと、気持ち良さそうに目を細めた。

やがて、体を起こしているのもだるくなったのか、ガクはゆっくりと仰向けに寝転がった。ちょっと照れているような表情

を浮かべた彼は、顔の横で手を小さく動かしておいでおいでする。

僕はもちろん微笑みながら頷いて、横からガクの胸元に覆い被さった。ムニッと出っ張った垂れ気味の胸が、僕の体を柔ら

かく受け止める。

山になっているお腹を左手で撫で回す僕の背中に、ガクのおっきな手が回される。さすさすと背中をさすり、クリッと反っ

た僕の尻尾を掴んで、根本から先っぽへと撫でていく大きな手。

やがてガクは我慢できなくなったのか、体を預けていた僕をグッと引き寄せて、僕の首筋に鼻を当てて鳴らし始めた。

ガクは何故か僕の匂いを嗅ぐのが好き。スンスンと鼻を鳴らしてスリスリして来る大きな灰色熊が、この上なく愛おしい…。

このままベタベタしていたいのは山々なんだけれど…。

「…食器、片付けなきゃな…」

しばらくしたら灰色熊は残念そうにボソっと言い、僕はガクの胸の上で頷いた。

片付けもそうだけれど、他にもやらなきゃいけない事がある。このままじゃ僕が我慢できなくなって、行為がエスカレート

しちゃうかもしれないし…。

「…アキ?」

「ん?」

「あのさ…、だから…、片付けしなきゃ…。その後のんびり楽しもう。な?」

考えている事とは逆に、僕はしっかりしがみついたままだった…。

そんな僕を見ながら、ガクは困ったように眉尻を下げながら苦笑いする。

「う、うん…!」

かなり苦労して自制心を働かせ、僕はモサモサプヨプヨ柔らかいガクから身を離した。


食べた後は洗い物。

手際よく食器を洗って行くガクの、エプロン姿が何ともラブリィ…。

その横で、僕は食器を拭いて重ねていく。僕と話をしながら洗い物をしていると、あっという間に片付くって、ガクは楽し

そうに笑っていた。

不思議だけれど、家で皿洗いを手伝うのは面倒で嫌なのに、ガクと並んで皿拭きをするのは結構楽しかったりする。これも

共同作業って感じがして好き。

片付けを終えた僕らは、ガクの部屋で寝間着に着替えた。

そして僕はちょっとドキドキしつつ、荷物の中から用意して来た品を引っ張り出す。…気に入ってくれると良いんだけど…。

「はいこれ、クリスマスプレゼント!」

僕が両手で差し出した、赤い包装紙にくるまれ、金色のリボンがかけられたそれを、ガクは目をまん丸にして見つめた。

「え?あ…、え?お、俺に?」

笑みを浮かべて頷いた僕の手から、おずおずとプレゼントを受け取ると、

「え、えぇと…。実は、俺も…、そのぉ…」

ガクは恥ずかしそうにボソボソ言った。

そして、片手に僕からのプレゼントを持ったまま、机に歩み寄って引き出しを開けると、細長い小箱を取り出す。

「き…、気に入ると…、良いけど…」

「え?僕に?あ、ありがとうっ…!」

差し出された小箱を受け取った僕は、長さ10センチ程のそれをじっと見つめた。

雪だるまが散りばめられた赤い包装紙に包まれていて、角の所にリボンが張り付けてある。…見ている内に、じわじわと嬉

しさが込み上げてきた…!

「開けてみてもいい!?」

「ああ…」

ドキドキしながら尋ねた僕に、ガクは何故かちょっと緊張気味に頷いた。

いそいそと、でも丁寧にリボンを解き、赤い包装紙を剥がした僕は、アクセサリーショップのロゴが入った箱の蓋を外し…、

「わ…ぁ…!」

中に収まっていたそれを目にして、声とも息ともつかないものを漏らした。

中に入っていたのは、ペンダントだった。

細い、暖かな茶色の革が三つ編みにされている凝った作りの紐の先に、シルバーのトランペットがぶら下がっている。

…か、かわいい…!これ、すっごくかわいいっ!

そっと摘んで持ち上げてみると、革紐が擦れて、鳴き声のようなキュっという音を立てた。

「あ、ありがとうガク!すっごく嬉しいよぉっ!」

嬉しい!嬉しいっ!胸がジ~ンとして、涙が出そうになった…!

僕がお礼を言ったら、ガクはパァッと顔を輝かせた。

「き、気に入ってくれたか?俺、センス無いから、もしかしてはずしちまうんじゃないかと…」

「そんな事無いよ!凄くかわいくてステキだよコレ!」

「そ、そうか?え、えへへ…!ちょ、ちょっと、付けてみてくれよ?な?」

ガクはそう言いながら、僕の手からペンダントを摘み上げ、留め具を外して首に回してくれた。

胸元に下がったトランペットを見下ろした僕は、

「…似合ってる…。良かった…」

ほっとしたようなガクの声を耳にしながら、そのおっきなお腹に抱き付いた。

「ありがと…!うふふっ…!ありがとねぇ、ガクっ!」

柔らかなお腹に腕が埋まるくらい、ぎゅーっと抱き付いた僕の頭に、ガクが漏らした「ムフーっ!」という鼻息がかかった。

そろっと背中側に伸びた太い腕が、僕の体をギューってして、ムニムニのお腹に埋没させる。

気持ちいいその感触を味わい、目を閉じた僕は、いまさらながらそれに気が付いた。

「あの、ガク?僕のプレゼントもあけてくれない?」

灰色熊は「あ」と声を漏らすと、僕の体を放して、ずっと手に持ったままだった包みを、顔の前に持ち上げた。

「ご、ごめん!さっそく…」

一歩下がった僕が見上げる前で、ガクはいそいそと包みをはがす。

「お?暖かそうなマフラー。手袋まで?…ん?この柄って…」

笑みを浮かべながら、その毛糸のマフラーを伸ばしたり、手袋をかざして見たりしたガクは、どうやら早速気付いたみたい。

赤を基調に、真ん中に細く黄色いラインを入れたデザインのマフラーと手袋、実は…。

「ふふ…!僕の手袋とマフラーと…!」

照れ笑いしながら僕が言うと、ガクは「あー!」と声を上げ、飾り気のないマフラーと手袋をまじまじと見つめた。

「ぺ…、ペアルック!?アキのとお揃いだなこれ!?」

「う、うん…。…い、嫌だった?お揃いのとか、身に付けてみたいなぁ、なんて思って…」

「そ、そんな事無いっ!嫌なはず、無い!そうじゃなくて、同じデザインって事は、その…!あ、アキのと同じでっ…、こ、

これも自分で…!?」

驚いたように目を大きくしているガクに、僕はコクンと頷いて応じた。

実はこのマフラーと手袋、僕の手作りだ。

特に裁縫や編み物をした事も無かった僕だけど、実はガクと付き合い始めて間もなく、編み物の練習を始めた。

勉強もできて、料理なんかの家事全般までできるガク…。僕も見習って、何か一つ位は生活で役に立つ特技を持とうと思っ

た。もちろん、今日この日に渡すプレゼントを、手作りで用意したかったっていうのが一番大きな理由…。

自分で使っているのは練習で作ったヤツ。そしてこのガクへのプレゼントこそが、全身全霊を込めて作った本作。

「もしもほつれたり解けたりしたら、遠慮なく言ってよね?責任をもって直すから」

「…あ、アキぃ…」

ガクは目をウルウルさせながら、マフラーと手袋をギュッと抱きしめて、鼻をピスピス鳴らした。

「お、俺…、俺ぇっ…!こんな嬉しいプレゼント貰ったの…、生まれて初めてだぁ…!」

ガクがここまで喜んでくれるとは思わなかった…。ペンダントと比べれば明らかに見劣りするし、ちょっと申し訳なく思っ

ていたんだけれど…、良かったぁ…!

「ご、ごめんなぁ?これ作るの、時間も手間もかかったろう?」

「ううん!あんなかわいいペンダントを貰っちゃったのに、僕の方は安上がりでごめんね?」

そう言葉を交わした僕らは、ちょっと可笑しくなって、顔を見合わせて笑った。

プレゼントの事で謝り合っているよ僕達…。こういう時は謝るんじゃなくて…。

「ありがとうね、ガクっ!」

「ん。ありがとな、アキ…!」

お礼を言い合った僕らは、また笑った。

最高の恋人から、最高のプレゼント…!これまでで最高のクリスマスだ!

捨てちゃうのはなんだかもったいなくて、包装紙も綺麗に畳んで、箱と一緒に荷物の中にしまっていると、

「あ、あのさ…、アキ…」

マフラーと手袋をギュッと抱えたまま、ガクはチラチラと僕に視線を向けて来た。

「も、もう一個…、あげたい物があるんだ…」

「え?い、いいよ!もう十分すぎる物を貰っちゃったし!」

断ろうとした僕に、ガクはもじもじしながら首を横に振った。

「あ、アキにあげるだけじゃなく…、貰いたい物も…」

…ん…?首を捻った僕の前で、ガクは下を向いて、早口で言った。

「お、俺のっ…、俺の初めてを貰ってくれ…!」

「へひっ!?」

妙な声を漏らした僕の前で、ガクは俯いたまま続けた。

「た、たまにドラマとか映画でやる、ぷ…、「プレゼントは私」っていう…、あ、あれだ…!ベタだけど…!」

ちょ、ちょっとまって下さいガクたん!

そ、その…、シーンの事は判る。うん、判るよ。で…、でも、それってつまり…!

マフラーと手袋を顔まで持ちあげ、口元を隠したガクは、ボソボソモジモジと続けた。

「きょ、今日はほら…。その…、特別な日だし…。い、良いかな…って…」

僕はガクの顔を見上げながら、何も言えなくなった。

胸がすんごいバクバク言っていて、それが耳元で鳴っているような気がする…。耳の先まであっつくなって、喉がカラカラ

に渇いた…。

こんなセリフを聞くなんて思ってもみなかった…。しかもそれを言ったのは、厳めしくて立派な応援団長、灰色熊の巨漢…。

「…が、ガク…。それって、その…。が、合体…しよう…って…?」

「…ああ…」

顎を引いて頷いたガクは、目を伏せて、耳を寝せていた。

僕は言葉を発する事ができなくて、ガクもそれっきり黙ったままで、しばらくの間、部屋が張り詰めた沈黙で満たされた…。

「…だめ…かな…?」

しばらくして、沈黙を破ったのはガクの方だった。

灰色熊は伺うように僕の目を見つめて来る。僕の返事を待っているんだ…。

無理矢理唾を飲み込んで、渇いた喉をゴクリと鳴らし、僕は、頷いた…。


シャワーを浴びて来ると言って、ガクが出て行った後、僕は一人きりになった部屋で、必死になって知識を引っ張り起こし

ていた。

ベッドに腰掛け、揃えた足の上に両手を置いて、俯いて考え込む…。

今までに、興味から色々と調べている。合体についてもそれなりに調べた。

僕は、大丈夫、大丈夫、って自分に言い聞かせながらも、ガクが戻ってくるのを、ちょっとばかり恐れてもいる。

いざとなったら、やっぱり不安だった…。

覚えたはずの事は間違ってないか…、僕達でもちゃんとできるのか…、緊張して、心配になってくる…。

悶々と考え込んでいた僕は、ガチャっとドアが開いた拍子に、文字通り飛び上がった。

戻ってきたガクは、伏し目がちだったせいで、僕がビクっとした事にも気付いていないみたい。

「…お、お待た…せ…」

ガクはモゴモゴと言うと、僕の横に腰を下ろした。

重みを受けたベッドが沈み込んで、僕の体はガクの方に傾く。

ぺたりと寄り添ったまま、それでも僕らは俯いて沈黙している…。

…な、なんて息苦しい沈黙…!何か言わなきゃと思うのに、何を話せば良いのか…。

「ね、ねぇガク?」

「うんっ!?」

声をかけたら、ガクはビックリしたように上ずった声で返事をして、僕を見た。

…ガクも、がっちがちに緊張してる…。初めてなんだから、不安で当たり前なんだよね、きっと…。

改めてその事に気付いたら、なんだかほっとした。

いつも通りにいこう。うん。いつも通りにやって、それでいけそうなら最後まで…。それでいいじゃない。

僕はガクの顔にそっと顔を近付けて、鼻をくっつけた。

そして、ぎゅっと唇を重ねて、キスを交わす。

感じやすいガクは、ディープキスだけで呼吸を荒くする。弾んだ鼻息がこそばゆい、いつもと同じキスだ…。

舌を絡ませている内に、ガクは僕の背に両腕を回して来た。左手が僕の尻尾を軽く握り、根本から先へと何度も撫でる。

それに応えて、僕は左腕をガクの背中に回し、右手を豊かな胸に当てて、軽く揉みしだいた。

硬くなってきた乳首を軽く摘んだら、ガクは重ねた唇の隙間から「んっ…」と声を漏らす。

唇を離した僕の顔を、ガクは熱っぽい、潤んだ目で見つめて来た。

「あ、アキ…。俺、ちゃんと綺麗にして来たから…。その…、中の方…」

「…うん…。う、上手くやれるように、頑張ってみる…」

頷いた僕は、ガクのパジャマのボタンにそっと指をかけた…。


裸になった僕達は、まずはいつも通りに抱き合って、お互いの体の感触を味わった。

ベッドの上で横になり、しっかりと抱き合って。

おっきなお腹を覆う長い被毛の中に手を埋めて、タプンタプンと軽く揺する。

僕の首筋に鼻を埋めて、スンスンと匂いを嗅いでいたガクは、そろそろ緊張が解けてきたのか、体から力を抜いている。

ポカポカあったかくて、ムニムニ柔らかくて、フサフサ手触りの良いガクの体に抱き付いていると、心の底から癒される…。

お互いの体を軽く愛撫しながら、僕達は位置を変えた。

仰向けになった僕の上に、ガクが逆さまになって覆い被さる格好。

見上げる僕の目の前には、自らの重みでタプンと垂れたガクのお腹、お臍がある。

下を向いたガクの目の前には、無防備にさらけ出された僕のおちんちんがある。

ガクがそろそろと顔を下ろして来たのが、股間にかかる熱くてくすぐったい息で判った。カポッと、おちんちんを咥え込ま

れ、舌で亀頭を一撫でされた僕は、思わず「んっ…!」と声を漏らす。

両肘と膝立ちで体を支えるガクは、足を大きく広げて、体を下ろして来た。大きくて柔らかなタプタプのお腹が、僕の顔を

軽く圧迫する。その感触を存分に味わっていると、ガクはくぐもった声を上げた。

「ふぁいひょうぶふぁ?ふるひふふぁい?」

まぁ「大丈夫か?苦しくない?」って訊いたんだろうけれど…。口を離して喋ってよ…。

「平気。柔らかくって、気持ちいいよガク…」

僕は顔を横に向けてそう答える。…気持ち良さに身を任せてばかりもいられないんだよね…。

あまり激しくなく、そっと刺激してくるガク。きっと本番前にイっちゃわないように気を遣っているんだ。

僕はガクのおっきなお腹を、両手で横から挟んでタフタフと軽く揺さぶった。気持ちいいよってサイン。

お腹を押されて強く出たガクの鼻息が、たまたまにかかってこそばゆい…。

僕はベッドの上に転がしていた、小さな使い切りローションを手に取って、頭の上に持ってきた両手で蓋を外した。そして、

ぬるっとしたローションを、たっぷりと右手に馴染ませる。

それから頭側にそっと右腕を動かして、膝立ちの脚を左右に広げたガクの股間の向こうへ伸ばす。手首がガクのおちんちん

に触れると、灰色熊の「んふ~っ」っていう鼻息が僕の股間をくすぐった。

そろそろと腕を伸ばした僕は、ガクの股を抜けて、お尻の割れ目に手をあてがった。

「弄るよ?いい?」

「ん…」

おちんちんを咥えたまま応じる、くぐもったガクの声。僕は見えないままソコをまさぐり、ガクのお尻の穴に軽く触れる。

中指の腹が当たった瞬間、ガクのソコがキュっと締まって、太った体がふるるっと小さく震えた。

可愛い反応に微笑みながら、僕はガクのお尻を広く大きく撫で回す。

ちょっと窮屈な格好だけれど、身長差と体格差が有りすぎて、普通にシックスナインができない僕らは、こういうちょっと

変わった体位で愛撫しあう。

これとは上下逆の体勢になる事もあるけれど、どっちにしろ僕の顔はガクのお腹に埋まる格好になる。ビバ身長差!

左手で脇腹を撫でてあげながら、右手の指でお尻の穴の周りを指圧してから、僕はゆっくりガクのアナルに指をあてがった。

最初は抵抗するようにすぼまったお尻の穴は、しかしガクが意識して緩める。指がツププっと中に入った瞬間、僕のおちん

ちんを咥えたままの彼は、「んうっ…!」と小さく呻いた。

いつもなら、ここでさっそく前立腺を刺激し始める所だけれど、今日はちょっと違う。本番前に指だけで先にイかれたら困

るんだ。
お尻が感じやすいガクがトコロテンしちゃわないよう、あまり激しくしないように気遣いながら、僕はゆっくりと指

の抜き差しを始めた。

少しかけて、十分にほぐした後に指を二本に増やして、押し拡げるように動かす。

「んっ…、ふ…、んんっ…!」

感じているのか、相変わらず僕のおちんちんを咥えたままのガクは、舌の動きを止めて息を乱して、くぐもった声を漏らし

ている…。

やがて、「ぷはっ!」と息を漏らしておちんちんから口を離したガクは、

「…あ、ふ…。あ、アキぃ、少し緩めて…。はぁ…、俺もう、感じて来て…」

と、弱々しい声を上げた。

「え?ちょ、ちょっと我慢しててくれる?ちゃんとほぐさないと、大変なはず…」

「で、でも…、ふぁっ…!このままじゃ俺ぇ…、先に、イっちまい、そう…!」

懇願するようなガクの声には必死さが滲んでいた。…本当に余裕無いっぽい…。

ちゃんとほぐれたのかちょっと心配だったけれど、僕はお尻から指を引っ張り抜いた。チュポッと音を立てて指が抜けた途

端に、ガクは体を震わせて「ふぁっ!」と声を漏らす。

ガクがのそのそと上からどいて、僕は体を起こした。

「…い、良い?本当に大丈夫そう?」

横に移動したガクにそう尋ねたら、四つん這いの姿勢のまま、顎を引くようにして小さく頷く。…顔を見るに、思いっきり

不安そうだけれど…。

「やっぱり…、四つんばいで後ろからやるのが、普通なのか…?」

それが良いような気もするけど…。前から?後ろから?どっちがスタンダードなんだろう?

「と、とりあえず…、ガクはどっちからが良い?」

「え?お、俺はどっちでも…。…いや、ホントの事言うと、どっちが良いのか良く解らない…」

僕とガクはちょっとの間見つめあって、

「前からじゃ、ダメかな?」

「ん…。俺も、前の方が良いかなって思った…」

と、意見の一致をみた。

 

仰向けに寝たガクは、お尻の下に畳んだ毛布を入れて、腰を少し高くした状態で、膝を立てた脚を大きく広げた。

自重で少し潰れたお腹、その手前側のムニっとした三角コーナーには、皮を被ったまま硬くなっているガクのおちんちん…。

「む、剥いとくよ?」

「あ、自分で…んっく!」

遠慮する間も与えず、僕はガクのおちんちんを掴んで、メロっと皮を引っ張り降ろした。ガクみたいにまん丸太い、先走り

でヌメッと光っている、濃いピンク色の亀頭があらわになる。

「うわヌルヌル…。ガクのエッチぃ~!」

「あ、アキだってもうヌルヌルじゃないか…」

「これは全部ガクのヨダレだもんね」

「…ウソだソレ…」

丸見えになったおちんちんとお尻を前に、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。

このまましごきたてて、良い声を出させたい衝動がムクムク大きくなるけれど…、と、とりあえず…、今日は合体が目標だ。

お尻の穴の周りを再び指で軽く指圧。さらに浅く指を入れて最後のウォーミングアップを済ませる。

「お尻、もうヒクヒクしてるよ?ガクったら、や~らしぃ~んだぁ~…」

いつものようにからかって声をかけても、ガクはあんまり余裕が無さげ。「あ…、う…!」と声を漏らすだけで、反論もし

ないで刺激に耐えていた。…実のところ、僕自身も軽口で緊張を和らげようとしているぐらいに余裕がない…。

まさかこれくらいでトコロテンしちゃう事はないだろうけど、あんまり弄って本番前に疲れ切っちゃっても困るし、始めた

方がよさそう…。

「が…、ガク…、そろそろ、良い…?」

「ん、んん…」

口を引き結んだ灰色熊は、潤んだ目で、おっきなお腹越しに僕を見つめてきた。

「あ、アキ…」

「うん?」

「…や、優しくしてな…?」

…あぁもぉっ!可愛いなぁもぉっ!どうしてくれようかっ!

「うん…、頑張るっ…!」

頷いた僕は、膝立ちでずずっと進んで、ガクのお尻に腰を近付けた。

ガクの唾液と先走り、そして塗りたくったローションでテカっているおちんちんの先端を、こっちもローションでぬめって

いる肛門にヒタリと押し当てる。

「じゃあ、入れるよ…?」

断りを入れたら、ガクは硬く目を瞑った。体の左右に投げ出された手が、シーツをギュっと掴んでいる。

「力を抜いていてね?…じゃあ…、い、行くよ…?」

大きく一度深呼吸した僕は、手を添えたおちんちんを、ゆっくりと前に押し出した。

結構抵抗があって、頭を押さえつけられたおちんちんがちょっと苦しくなる。ガク、力抜いてってば…!

そのままグググっと力を加えていたら、深呼吸して意図的に力を抜いたガクのアナルが、ふっと弛んだ。

次の瞬間、僕のおちんちんはズプっと、ガクの中に入って行った。一気に半分くらいまで。

その途端にガクの太いおちんちんがヒクンっと動いて…、

「いっ…ぎゃぁぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

直後、ガクの口から物凄い声が上がった。

「え!?が、ガク?ガクっ!大丈夫!?」

ビックリして動きを止め、僕は慌てて問いかける。

「いっ!いぎっ…!ひぅっ!んぎぃいいいいっ!」

ガクは目を硬く閉じたまま、口の隙間から押し殺した声を漏らしている。

た、たぶん物凄く痛かったんだ…!お尻がギュゥって締っているし、ガクの手はシーツを握り込んでブルブル震えている…!

「や、やっぱり止めようガク!」

興味なんかより、やっぱりガクの方が大事だ。この痛がりよう、尋常じゃないもん!

僕が中断を提案したら、ガクは薄く目を開けて、涙で潤んだ瞳を僕に向けてきた。

「ん、んんっ…!へい、き…!ちょっと、…きつかっただけ…!」

震える声でそう言った後、ガクは歯を食い縛ったまま、口を笑みの形にして、涙目のままニィっと笑って見せた。

「へ、へへ…!は、入ったよな?俺達、合体できてる、な…?」

強がって笑っているのかとも思ったけど、それだけじゃないみたい…。苦しげな笑みだけど、ガクは嬉しそうだった…。

「が、ガクぅ?無理しなくて良いんだよ?いつもどおりだって良いんだから…。ほんとは痛いんでしょ?」

僕の問いかけに、ガクは涙目で笑ったまま、ちょっと顎を引いて頷いた。

「しょ、正直言うとな…、きついし、苦しいけど…、でもどうって事ない…。続けてくれアキ、な…?」

ガクは一度大きく息をすると、眉尻を下げて恥かしげに笑った。

「お、俺さ…。少し前ぐらいから…、アキにこうして貰いたいって思ってたんだ…。だから…」

口を薄く開け、熱っぽい目で僕を見ながら、大きな熊は小さな声で「お願い…、な…?」と付け加えた。

僕は喉を鳴らして唾を飲み込み、ガクに頷いて見せる。

そして、「いくよ?」と声をかけてから、ガクの大きなお腹に手をついて、腰をゆっくりと突き出した。

グププッと、ガクの中に埋まって行く僕のおちんちん。…ガクの中、凄く柔らかくて温かい…!

「んっ…、んんぅっ…!」

ガクは硬く目を閉じて、少し苦しそうに呻いた。

「あ、あぁ…!は、入って来るの、解る…!アキのが…、中に…!」

やっぱり苦しいんだと思いながらも、僕はおちんちんを押し込むのを止めなかった。やがて、僕の腰とガクのお尻がくっつ

いて、おちんちんは根本までガクの中に埋まる。

「ど、どう?ガク…、大丈夫そう?」

尋ねる僕の声は震えている。おちんちんを飲み込んだガクの中の感触が、気持ち良過ぎて…!

「も、問題無し…!アキこそ…、ど、どうだ?俺の中…、どんな具合だ…?」

薄く開けた、潤んだ目で僕を見つめるガクは、苦しげにふぅふぅと漏らす息の間から、そう聞き返して来た。

「す、凄く、いい…!ガクの中、あったかくて…、フワフワしていて…、おちんちんに絡みついて来るみたい…!」

視線を下に向けた僕は、ガクのおちんちんがすっかり縮んで、ちっちゃくなっている事に気付いた。…やっぱり相当痛かっ

たんだ…。

ガクのお尻が慣れるまで、ひとまずはなるべく動かさないようにして、僕はすっかり萎えちゃったガクのおちんちんを両手

で包んだ。

僕のお腹、お臍の辺りに当たっているたまたまをそっと握り、優しく揉みしだきながら、いたわるように棒をさする。

低く「ん、あ…」と呻くガクの股間で、ソレは次第に元気を取り戻していった。

「アキ…。ありがと…、もう、動いても大丈夫そうだから…」

ガクが熱っぽい息を吐きながらそう言って、頷いた僕は少し腰を引く。

「んっ、うぁ…!あっ…!ひ、引っ張られ、るぅ…!んぐっ!」

ズズっと抜けて来る僕のおちんちんに腸壁を擦られて、ガクが声を漏らした。

少し抜いたおちんちんを、僕はまたガクの中に押し込む。

「んがぁあああああああっ!」

「あぁっ!」

僕とガクは同時に声を上げた。

突き入れたおちんちんが、ガクの腸壁に擦れて…!からみついてくるみたいで…!物凄く気持ちいい…!

ガクのアナルがギュッと締まって、おちんちんに吸い付いてくる…!

我慢できなくなった僕は、ガクが上げる声が部屋に響く中、腰を振り始めた。

「いぎっ!…あっ!…ぐぅっ!あ…、ひっ!っく…、くぅっ…!」

最初は硬く目を閉じて、苦痛からって判る声を上げていたガクは、次第に声の調子を変え始めた。

「あ…、あんっ…!あ…きぃ…!はぁっ…!アキ、んぅっ…!あっ…、あぁっ…!」

ジュブッ、ジュブッと卑猥な音を立てて、おちんちんを抜き差ししている僕の耳に、灰色熊のよがり声が届く。

僕の動きにあわせて、ガクの大きなお腹が、自重で潰れた胸が、タプンタプン揺れている。荒い呼吸で胸が上下して、喉か

らは官能的な喘ぎ声が漏れて来る。

腰を大きく引きすぎて抜けちゃったりして、何回か入れ直しながら続けたせいか、僕は初めて経験する合体の刺激にも結構

長く耐えた。…と、自分では思う…。

「あっ!あにゃはあぁああああっ!?アキぃっ!そ、そこ、ダメ…、ダメぇっ!」

角度を変えて、下から斜め上に突き上げるように動かしてみたら、ガクは目を開いて、大きな声を上げた。

同時に、短くて太いおちんちんがヒクッと動く。

「へぇ…、こう?ここかな…。あ、ねぇガク?ここってもしかして…?」

ブルルっと、太った体を震わせたガクの顔を見て、僕はガクが感じやすいポイントを突いた事を悟る。始める前は考えてい

なかったけれど、前立腺、おちんちんでも刺激できるんだ…。

「あひんっ!あ、あぁんっ…!はにゃっ!っく、ふ…、んぅっ…!」

気をよくして同じポイントを突いてみたら、ガクはプルプルしながら声を上げ、お尻の穴を締めて来た。

「だ、だめっ…、あぁんっ!そ、そこはっ、当たって…!ぜんり、つせ…ひにゅっ!あ、あふぅっ!そ…んにゃっ!に…、や

られ、たらぁ…!」

喘ぎの間から声を上げるガク。そのおちんちんから、コプコプと液体が漏れ始めた。…どうでもいいけど、何そのやけに高

くて可愛い「にゃ」声…?

よがるガクの姿を見ていたら、僕は我慢できなくなって…。

「が、ガクぅ…!」

僕はガクに覆い被さって、乱れた呼吸で膨らんでしぼんでを繰り返しているお腹に両腕を回して、フカフカの鳩尾に頬ずり

した。
僕のお腹に当たるガクのおちんちんが、とうとうと垂れ流す精液で毛皮を汚す…。

「あ、アキ…!アキぃ…!お、俺、もぅ…!あ、熱い…、ふぇっ…!腹の中が、熱くて…!尻がジンジンして…!」

ガクはよがり声を上げながら、僕の背に手を回して、ギュッと抱き締めて来た。

タプタプのお腹に沈み込みながら、僕は両手でガクの体をギュゥっと抱き締め返す。

柔らかい皮下脂肪と被毛に体がめり込んで、呼吸で動くお腹の感触がはっきり判る。

腰を揺する僕の動きに合わせて、ガクのお肉がタプタプと揺れているのが、なんだかちょっと可笑しかった。

鳩尾に押し当てた耳に、ガクの喘ぎが体の中を通して響いて来る。

「ふぁ…!あ、ああん!ひにゅっ!うぅ…!あっ、あん…!あにゃぁあああっ!」

硬く目を閉じて、イヤイヤをするように首を左右に振るガク。

…か、かわいい…、ガク…!

きつく締めていた腕から力を抜いて、僕はガクのタプッとした脇腹を、少し強く掴んだ。

「いぎっ!んっく…!うぅ…!」

ぎゅぎゅっと脇腹の贅肉を揉みしだきながら、腰を動かす速度を上げていく。

ガクのお腹の上下運動が激しくなって、上になっている僕の体はかなり揺さぶられた。脇腹を強めに掴まれたガクのお尻が

ギュッとなって、おちんちんが強く締め付けられる。

「が、ガク…!ガク!僕…、も、もう、イ…」

おちんちんの根本が痙攣して、僕はヒュっと息を吸い込んで、止めた。締め付けてくるお尻の刺激を受けながら、僕のおち

んちんがガクの中でググっと一層怒張する。

「い、イっちゃ、うぅぅぅうううううううううっ!」

ガクの中に精液を放ちながら、僕は声を上げた。

「あっ、熱っ!あふああああぁぁぁあああああっ!」

ビクンッと、大きく一回震えたガクが、僕よりもさらに大きな声を上げる。

ビュクッ、ビュクッと、体を震わせながら精液を放った僕を、ガクはぎゅうううっと、きつく抱き締めてきた。正確には、

抱き締めるっていうか、縋り付くっていうか…、とにかく必死な感じで。

精を放って脱力した僕は、圧迫されるがままに荒い息をつく。やがて、ガクの体からくたっと力が抜けて、腕とお尻の締め

付けが軽くなった。

「はぁ…、はぁ…、あ、アキぃ…。どうだった?俺の中…」

ガクの問い掛けに、僕は柔らかいお腹にしがみついたまま、顎を引いて頷いた。

「すんごい…、気持ち良かったぁ…。ガクは?どうだった?」

「…まだ、腹の中が熱い…。尻がジンジンしてる…。す、凄かった…」

力尽きて萎えてきた僕の息子は、まだガクの中に居る。強い締め付けはもう無い。ガクのアナルも力尽きたみたい。

「…ほんとに、繋がってるんだな…。合体、やれたんだ…、俺達…」

「うん…。合体できた…。まだ、ガクの中に入っている…。あ!ご、ごめん!苦しいでしょ?そろそろ抜くね?」

ちょっと腰を動かして、ニュポッとおちんちんを抜いたら、ガクは「あふっ…」と、可愛く声を上げる。けれど、それでよ

うやく楽になったのか、両手を左右に投げ出してグッタリした。

「…はぁ…。正直言うとさ…、最初入った時、死ぬ程痛かった…。絶対に尻の穴が裂けたと思った…」

ガクはトロ~ンとした顔でボソボソと言う。僕はその上で、ガクの胸に肘を立てて頬杖をつき、恋人の顔を眺めた。

「抜かれる時は、腹の中身も全部引っ張り出されるんじゃないかって恐くなったし、入って来る時は、そのままどこまでも刺

さって来るんじゃないかって不安になってさ…」

ガクは恥ずかしそうに眉尻を下げて、「たはは…」と笑った。

「下っ腹が張って苦しいし…、出し入れされる度にジンジンするし…、途中までメチャクチャ苦しかったし…、本当は怖がっ

てたんだ、俺…」

僕はちょっと残念に思いながら、頑張ったガクの頬に手を伸ばして、そっと撫でた。

「じゃあ、もうこれっきり止めとく?僕はいつものでも満足しているんだから…」

そう言ったら、ガクは「とんでもない!」と急に眉を上げた。

「い、いや…、慣れれば大丈夫だと思う。それに…」

灰色熊はついっと視線を横に向けて、ボソッと呟く。

「す、凄く…、気持ち良かったし…。アキのが俺の中に入ってるって考えたら、凄く興奮できたし…。だからその…!凄く…、

そう、良かったんだ、うん…!で、まぁ…。アキが嫌じゃなかったら…、また、入れて貰いたいかなぁ?って…、凄く、そう

思ってる…」

やたらと「凄く」を繰り返しながら、ガクは耳を寝せて恥ずかしげに言った。

「ふふっ…!そんなに良かった?」

「…ん…」

口を引き結んで頷いたガクの鼻を、僕は指先でチョンっとつついた。

「ふふ~っ!ガクのすけべぇ~!泣きそうな顔していたくせに、もう次のを期待しちゃっているんだぁ?」

鼻をグリグリしながらからかったら、ガクは「ぐむぅ…」と唸って情けなさそうに眉を八の字にする。

「それにしてもすんごかったなぁ~…、おちんちん入れられた応援団長さんのよがり方っていったらもう…」

「う…!あ、アキだって、かなり必死な顔してたんだぞ?」

「あ、あれ?そうだったの!?」

「ああ。最初から最後まで、今にもイきそうな顔をしっ放しだった。あれは良い表情だったなぁ…」

ガクはニィ~っと笑って僕の頭に手を置き、ワシワシして来た。僕も似たり寄ったりだったのか…!優位性が完全消滅!

「むぅ~…!」

僕はガクの上でちょっと匍匐前進して、少し腰を浮かせて…。

「あっ!うひっ!こ、こらアキ!やめっ!やめてってオイ!うひぃっ!」

おちんちんのさきっぽでお臍をグリグリしてあげたら、感じたガクは妙な声を上げた。

「ウリウリウリ…!」

「ちょ、ちょっと!勘弁アキっ!下っ腹に来るっ!なんか漏れそうっ!こ、これ以上の刺激は…、あひっ!」

…まぁ、お互いに緊張しっ放しで疲れちゃっているし、いぢめるのはこれぐらいにしておこう…。

動きを止めた僕は、そのまま身を乗り出して、ガクと鼻をくっつけた。

「もう一個のクリスマスプレゼント、ガクの処女、確かに頂きましたっ!」

鼻をくっつけられたガクは、少し恥ずかしそうにむふーっと鼻息を漏らして、

「お、俺も…、アキの童貞、しっかり貰ったからな」

照れ臭そうに目を細めながら、唇をチュッと、軽く合わせてきた。

キスを交わす僕らの頭上で、壁かけ時計の針が午前零時を指し示す…。

最高のプレゼントを有り難う…。メリークリスマス、ガク…!



翌日のお昼前、僕はガクに付き添われて、最寄りの駅にやって来た。

一晩降り積もり続けてもまだ止まない綿雪は、今もフワフワと舞い降りている。

帰省客なのか、ホームには結構ひとが多い。

「…あれ?」

電車を待つ人達の中、少し離れた所に見知った顔を見つけて、僕は立ち止まった。

「鹿妻先輩だ…」

僕と同じく寮住まいの三年生。鹿獣人の前吹奏楽部長、カヅマ先輩が、僕が使うのとは違う方向へゆく電車の乗り場に佇ん

でいる。その横には…。

「あれ?ハスキ先輩も居るね?」

昨日利用した銭湯の息子。前応援団長のシベリアンハスキーが並んで立っていた。

「ああ。カヅマ先輩の見送りだろう」

「意外。プライベートでも仲が良いのかな?」

「え?あ、あ~…、うん…」

呟いた僕に、ガクは何故か困ったような顔で頷いた。…何で?

声をかけようかとも思ったけれど、なんとなく、邪魔しちゃいけないような気がした。

二人は僕らに気付く事もなく、微笑みながら楽しげに話をしていた。僕らと同じで、冬休み中は遊べなくなるから、名残を

惜しんでいるんだろう…。

僕は歩き出し、ガクも先輩達には声をかけずについてきた。そしてお客さんでごった返す中、僕は電車待ちの列に並ぶ。

僕とお揃いの手袋とマフラーを身に付けたガクは、僕の両肩にポンと手を置く。

「年賀状、ちゃんと元日につくように出したからな」

「え?あれ?アケオメールじゃなくて、年賀状にするの?」

「メールも送るが…、出さないとなんかしっくり来ないんだよな。年賀状って」

ガクってば生真面目だなぁ…。じゃあ僕も急いで書かないとっ!

スピーカーが電車の到着を告げるアナウンスを流し、僕とガクは天井を振り仰いだ。

…いよいよお別れ…。短い間だけど、寂しくなるなぁ…。

「アキ。年が明けたら、そっちに遊びに行くからな?」

「へ?」

突然の申し出にビックリして顔を見ると、ガクはニィ~っと、歯を見せて笑った。

「行けるのは、たぶん二日か三日辺りになる。…実は、前からさ…、アキが住んでた町、行ってみたかったんだ」

「ガク…!」

驚きながら声を漏らした僕の顔が、少しずつ綻んできた。…ふふふっ…!嬉しいっ!

「うん!待っているね、ガク!」

満面の笑みで頷いた僕の後ろに、速度を落とした電車が、キシィーッてブレーキ音を鳴らしながら走り込んで来た。

「じゃあね、ガク」

「ああ。気を付けてな、アキ」

短くお別れを言って、開いたドアから電車に乗り込んだ僕は、混み合っている中でなんとか席を確保して、窓から外を覗い

た。
乗り降りするお客さんの邪魔にならないように、ベンチの辺りまで離れたガクは、微笑みながら軽く左手を上げる。

僕が笑顔で手を上げ返すと、プシューっとドアが閉まった。

ホームに立っているおっきな灰色熊は、声を出さないまま、ゆっくり大きく口を動かした。たぶん…。

『め・り・い・く・り・す・ま・す!…よ・い・お・と・し・を!』

ふふっ!ガクってば…!僕は笑顔で、同じく大きく口を動かして挨拶を返した。

『いっ・て・き・ま・す!』

電車がゆっくりと走り出して、ホームが横に滑り始める。

肩の高さに上げた手を振って、微笑みながら見送ってくれるガクを残して、電車はぐんぐん速度を上げていった。

メリークリスマス!そして良いお年を、ガク!