オマケ♪
(注・18禁、同性愛表現アリ)
カツカツと厚底の靴が石の床を踏む。
カウンターの受付嬢に会釈されながらホテルのロビーを抜け、エレベーターに乗り込んだのは、胸も分厚く肩幅も広い、大
柄で逞しいヒゲ面の男。
スーツを着込んでコートを羽織ったその男は、きびきびとした歩き方で、姿勢が良かった。
上昇してゆくエレベーターの階数表示を見つめ、高層階で止まるまで微動だにせず立ち続けた男は、やがて止まったエレベー
ターから降りて、豪奢な内装のフロアに足を踏み入れる。
そこは高級客室が並ぶ特別階層。上階層の高級客室を利用する宿泊客専用のラウンジやプールが備えられたハイグレードフ
ロア。
行くべき所へ行けば係員が居るものの、基本的には過度に介入せず客のプライベートを優先するスタイルのため、廊下には
ホテルの者の姿はない。ルームサービスを頼まれた者や、清掃の時間に係の者と時折すれ違うのみ。
客も部屋に居るかラウンジかバーで過ごすかして、あくせく歩き回ったりしないので、絨毯が敷かれた廊下は寂しいほど静
かだった。
どこか軍人然とした逞しい男は、スーツの胸ポケットからカードキーを取り出して、宿泊している部屋に入る。
80平方メートルはあるだろう広い客室には、大型テレビとキングサイズのベッド、そしてウォーターフロント特有の絶景
を高所から眺められる特権がついている。
バスルームも広く、ジャグジー付き。高級ボディソープなどアメニティも充実しており、スリッパもガウンも一級品で、フ
カフカと好感触。
勿論、それだけの部屋なので宿泊金額もかなりの物だが…。
男は備え付けのクローゼットにコートをかけると、ふく…とため息をつき、
「あー、きつかったー」
右手を顔に当ててマスクを剥ぎ取る。
取り払われた人工皮膚の下から現れたのは、絞めつけられて縦方向に引き伸ばされていた、幅広の茶色い顔…ヒキガエルの
ソレだった。
次いでヒキガエルはスーツのボタンを外し、ワイシャツ越しに何らかの留め具を解除する。
その直後、胸が分厚くウェストが引き締まっていた逆三角形の体が、デプンとボリュームを下に移動させて、弛んだ丸っこ
い体躯に変貌する。
「長く変身し過ぎー、お腹の皮が擦れちゃってもー…」
ブツブツ言いながらベルトとズボンのホックを外せば、ボヨンと勢いよくせり出す下っ腹。よくこのズボンに収まっていた
ものだと感心するほどの出具合だった。
身長を偽って足を長く見せるために履いていた、分厚い靴底が踵側に向かってせり上がっているシークレットブーツを脱ぎ
捨てて、スーツ一式をクローゼットに収納し、体格調整用の特製コルセットを外し、トランクスとランニングシャツだけの姿
になったカエルは、変装していた偉丈夫とは全く違う体型になっている。
脚は太く短く、胴回りは弛んで膨れ、顔は横に広い。背中側が茶色く腹側が白い、タプタプの肥満体である。
このヒキガエルの名はコンラッド・グーテンベルク。年齢は25。階級は軍曹。仕事仲間からがラドの愛称で呼ばれている。
現在の所属はナハトイェーガーだが、三年前まではヴァイスリッターの諜報部に所属していた。
特技は変装。タプタプの肉と柔らかい関節を巧みに利用して体型を変え、自在に声音まで操って別人に成り済まし、潜入工
作や正体を偽っての諜報活動を行なうのが、今も昔もラドの主な役割になっていた。
きつく締めたベルトの痕がうっすら残る肌を手で擦りながら、スーツの内ポケットから取り出したビニールをソファーセッ
トのテーブルへ置いたラドは、備え付けの大型冷蔵庫に向かい、ビールと食べ物を取り出す。
冷えても美味いローストビーフと魚介類のカルパッチョは、先にルームサービスで取り寄せた食事の残り。元々備え付けら
れていたビールは地元の一級品。
「いっただっきまーす」
夜食を広げたラドは、やたら大きなソファーにラフな格好で座り、独りの食事を始める。
外で一応食べて来たものの、ベルトとコルセットで体を締め付けて体型を変えた状態では、あまり物を食べられない。すぐ
に苦しくなってしまうので、軽く口を付けただけだった。
ミオとミューラーがコペンハーゲンを経ってから、既に十二時間以上経過している。
ふたりを送り出して以降、到着した少佐へミオから預かった詳細報告を行ない、その後も手伝いをしながら一日を送ったラ
ドは、すっかり疲れてしまっている。
もっとも、普段からのぺ〜っとしているので、疲れていても傍目には判り難いのだが。
そんなラドはナハトイェーガー内で一番階級が低い。元々が諜報部の下っ端であり、内偵も行っていた部署の出である事か
ら、あまり好意的には扱われていなかった。
そもそもナハトイェーガーは、人格よりも実力を重視してメンバーを集め、出来上がった部隊。我や癖が強い者も多く、普
通にひと部屋に集めておけばそれだけで騒動が起きるほどの個性派揃いだった。
それがきちんと部隊として機能して、纏まっているのは、ひとえに部隊の長たる少佐の存在あればこそ、と言えた。
纏め上げるその手腕は勿論、癖の強い隊員を黙らせるだけの実力と、それぞれの個性を受け入れる人格。これらが無ければ
ナハトイェーガーは設立し得なかったと、誰もが考えている。
もう一つ大きいのは、ミオ・アイアンハート少尉の存在だった。
年若く、線も細く、顔は整っているがその反面迫力が無いのに、その姿勢と態度、秘めた力で他の隊員を納得させている。
今では隊の誰もがあの青年将校を気に入っており、従順であるどころか心酔している。
そしてそれはラドも同じ…。
夜食を摂り終えて人心地つき、アルコールが少し回ったラドは、食器を片付けもせず、先にスーツから取り出したビニール
を手に取った。
ビニールジッパーで密封できるようになったその袋に入っているのは、一枚のハンカチ。
「グ…」
ラドが喉を鳴らし、肩を揺すった。
「グッグッグッグッ…!」
噎せているようにも聞こえるその唸りは、実はラドの笑い声。
喉から低い音を漏らして笑ったラドは、ビニールの口を開けてハンカチを見つめる。
それは、港に戻った際に「お顔とか汚れたでしょー」と労ってミオに貸し、顔や首周りを拭かせた後に回収した物。
ラドはおもむろにそのビニールを口元に寄せて、
「すーはっ…!すーはっ…!はすはすっ!」
嗅ぎ始める。物凄い勢いで。
「しょ、少尉のー!少尉の匂いー!」
うっとりした…というより虚ろな目になるヒキガエル。まるでヤバいクスリでもキメたかのような有様だが、ハンカチには
そんな成分は全く付着していない。
コンラッド・グーテンベルク軍曹25歳独身。片想いのまま本心を伝えられず玉砕未満の失恋を繰り返すこと年齢と同数。
実は男色家である。
ミオはラドにとって実に理想的な青年だった。
容姿もさる事ながら仕事もできて、階級が低い自分相手でも柔らかい物腰と丁寧な態度で接してくれる…。
「少尉ー!少尉ー!」
ビニールの内側をを曇らせながらスーハスーハを執拗に続けるラド。感極まったのか匂いを嗅ぎながら高級客室の絨毯上を
転げまわっている。窒息が心配である。
「ふっ、ふぅーっ!ふはーっ!ふーっ!」
やがて、流石に息が苦しくなったらしいラドは、床に座り込んで荒い息を繰り返した後…。
「グッグッグッグッグッグッ…!」
ティーカップにポットの湯を満たし、そこにハンカチを漬ける。
「少尉のー…!少尉由来の真夜中ティー…!」
発想がなかなかに個性的で愉快なラドは、ミオ成分入りのお湯をフーフー冷ましながら立て続けに五杯やる。
そして、もはやミオ由来の物は殆ど何も残っていないだろうハンカチを後生大事に摘み上げると、いそいそとバスルームへ…。
「少尉ー!お風呂ご一緒しまーす!」
ハンカチをミオに見立て、バスタブに湯を張るコンラッド・グーテンベルク軍曹25歳独身。なかなかに重症である。
「ハッ…、ハッ…、ま、待ってて下さいね少尉ー!すぐいっぱいになりますからねー!」
バスタブに浸かっているハンカチミオにそう声をかけつつ、ラドはタプタプの体をシャワーの中で揉み始める。
蛙獣人のラドの肌は、種族柄保湿性が高く、しっとりしていて柔らかい。水分含有量が多い上に体温も低いので、夏場など
はひんやりして肌触りが良く、からかわれながら弄られる。
だが、冬や寒い環境は苦手。寒さにはあまり強くない上に、肌には乾燥が天敵。…乙女か。
「あっ…、しょ、少尉ー…!そこ、くすぐったいでーす…!」
たっぷりした垂れ胸を自分の手で揉みしだき、独り芝居を始めるラド。
「んっ…!は、恥ずかしー…!」
デップリした体をクネクネと捻じり、妄想に浸るラドのイメージ内では、一緒にバスタブに浸かったミオに胸を揉まれ、「
軍曹のおっぱい、柔らかいですね」などと笑いかけられている。
なお、水泳トレーニングの際などにミオの裸体を見ている上に、一緒にシャワーを浴びた事も、風呂に入った事もあるので、
フリードリヒ・ヴォルフガング・ミューラー特務曹長37歳独身よりもイメージミオの姿は鮮明でリアル。
加えて言うなら、ミオの好物がグミキャンディーである事や、ホラー映画が大好きである事など、プライベードな情報につ
いてもかなり押さえている。
(パッと出の猪おじさんなんかにはー、負けませんからー!)
対抗心を燃やすコンラッド・グーテンベルク軍曹25歳独身。
実は二週間もの間ミオとふたりっきりで任務についているフリードリヒ・ヴォルフガング・ミューラー特務曹長37歳独身
にはバリッバリの嫉妬心を抱いていた25歳独身。
傍から見ればふたり合わせてかなりのソネットを演じている25歳と37歳の独身達。
「はっはふー!はふふー!」
ハンカチミオが浸かる湯船に身を沈め、強くしたジャグジーでプニプニした全身をマッサージさせながら、アメリカンショー
トヘアーの繊細な指先が自分を撫で回している様子を夢想するヒキガエル。
「あ、あ、少尉ー…!そ、そこは…、だっ…だめぇー…!」
自らの手を股座に入れて、肛門に指を入れるラド。
その脳内では、自分のタプタプした体に細い体を沈めるように密着させ、肛門に性器をあてがったミオが、望んだとおりの
甘い言葉を並べ立てて、耳元に囁き続けている。
「少尉ー…!少尉ーっ…!」
蝦蟇口を大開きにして喘ぐラドは、クチュクチュと水中の肛門を弄り、前立腺を刺激する。
しばし経って、ジャグジーの泡が満ちた湯船の中に、プルルっと小刻みに震えたラドが放った白濁液が混じり込んだ。微細
な泡で白く濁った湯の中ではさほど目立たないが。
「はぁー…。少尉ぃー…」
ぐったりと脱力したラドは、仰向けになって体を楽にすると、泡に浮かされて湯船の表面を漂うハンカチを摘み上げて胸に
乗せて、
「少尉ぃー…!」
ぎゅぅ〜っと、強く抱き締めた。
ナハトイェーガーは、人格よりも実力を重視してメンバーを集め、出来上がった部隊。
癖が強い者も多く、個性派揃いである。