お ま け ♪
湯船から湯気がもうもうと立つ浴室から、「お先ー」と声をかけて三年生が二人出て行く。
広い浴槽に漬かって二の腕をマッサージしながら返事をしたイワクニと、湯船の縁に太い腕をかけてくつろいでいたウシオ
は、二人きりになった浴場で、同時にため息をついた。
春が近いとはいえ、豪雪地帯の星陵は三月も冷え込む。湯に浸かると意識していなかった体の強張りが取れて、生き返るよ
うな心地になる。じじむさいなどと言うなかれ、声混じりの息が出てしまうのも仕方のない事なのである。
天井の水滴がピチョンと鼻に落ち、目をしばたかせてブルルッと顔を振るウシオ。それを見て笑みを浮かべるイワクニ。点
呼前の穏やかなひと時…。
「そろそろ上がろうか?」
そうイワクニが切り出したのは、それからたっぷり五分ほど経ってからの事。
応じるウシオの「うむ」に、何処かホッとしたような雰囲気が漂っている事には、イワクニは気付いていない。
先に立って湯の上に裸体をさらしたイワクニの姿を、ウシオはじっくり見つめる。
無駄な肉が少ない体つきだが、筋肉量そのものも少ない。スポーツをしている者の体には見えないが、イワクニの体は鍛え
ても鍛えても、大きくも太くも逞しくもならなかった。
股間には標準的なモノがぶら下がっているが、そちらはもう剥けており、大人の陰茎と呼べる。
未成熟な少年の体躯と、ファッションに疎い柔道少年らしいいがぐり頭、背筋が伸びてきりりと姿勢が良い。
そのバランスが、ウシオから見ると素晴らしい。いかにも朴訥な少年武道家らしくて。
湯船の縁をまたぐイワクニの股間…主に揺れた陰嚢の動きに目を奪われていたウシオは、
「あれ?上がらないのか?」
そんな声をかけられてハッと我に返った。
「ああいや、上がる!上がるとも!」
少し硬い笑みを浮かべたウシオが腰を上げ、焦げ茶色の全身から湯を滴らせた。
肉付きの良い、逞しいその体躯を見るイワクニの目に、微かな羨望の色が浮かんだ。
「少し汗を噴いたな…。シャワーで体を流して行く。先に着替えとってくれ」
「え?うん」
声音が少し硬いような気がしたイワクニだったが、些細な違和感だったので追求しようともせず、先に脱衣場へ出て行った。
そしてウシオは…、
「…むぅ…!」
軽く視線を下げ、脂肪が少し乗った腹越しに自分の逸物を見遣った。
標準よりだいぶ大きく、しかし皮を被った倅が、ムクッと起きたかと思えば見る間に膨れ、臍まで反り返る。
硬度を増したソレを手で押し下げ、放すと、勢い良く反り戻ってベチンと腹を打った。
実はウシオ、世界史年表などを思い出して必死に気を逸らしていたが、限界寸前だった。
部屋で体が強く触れたせいもあるだろう。昔の事を思い出していたせいでもあるだろう。だが何より…。
(昨日抜いとらんからな…)
如何に立派な応援団長であろうと、年頃の高校生。趣味はいささかスタンダードと異なっていても、性衝動自体はごくごく
普通のハイティーン…否、普通より少し性衝動が強めのハイティーンである。
スタミナがあり体力を持て余し気味な大牛は、並より精力が強かった。
しかし、幸せなはずの想い人との相部屋生活は、現実的な部分で弊害が出る。
四六時中目の前に好きな相手が居て、時々裸も拝むし、無防備に眠っているのに、手出しができない…。
ある意味生殺しである。
それでも鋼の意思で手出しを禁じ続けて今に至るウシオだが、毎日元気に抜いてこそ保てる自制心。昨夜は抜く隙が無かっ
たのだが、ムラムラして寝つきが悪かった。
そのムラムラが、今ではもう限界まで来ている。
解き放たれると同時に、先端からダラダラとヨダレをこぼし始めた品の無い息子を剥き、普段は包皮に守られている薄ピン
ク色の亀頭を露出させる。
壁際に寄って胡坐をかき、音の誤魔化しを兼ねてシャワーを出し、適温に調節して亀頭に注ぐと、ウシオは大きな体をビク
ビクンッと大きく震わせ、「んぐぅ…!」と、食い縛った歯の隙間から、くぐもった声を漏らした。
じっくりやっている時間は無い。あまり遅くなればイワクニが訝る。
曇りガラス一枚を隔てた向こうに居るイガグリ頭は姿こそはっきり見えないが、体を拭っている様子だけは判った。
緊張感と興奮を強く覚えながら、ウシオは短期決戦に出る。
シャワーの刺激で助走がついた陰茎は、既に痛いほどに硬くなり、亀頭はパンパンに膨れている。
大きな手でソレを掴み、湿った音を立てて強くしごくウシオは、「くふー!くふー!」と荒い吐息を鼻から吹きつつ、大き
な体を揺すり続ける。
ちらちらと覗う曇りガラスの向こうには、想い人の滲んだシルエット。
もしも今、ガラッと戸を開けられてしまったら…。イワクニにこの恥ずかしい姿を覗かれてしまったら…。
そんな事を考えると背筋がゾクゾクし、興奮が強まった。
(ワシ、頭がおかしいんじゃなかろうか…?)
そんな思いが頭の隅を掠めたが、すぐさま刺激を求める貪欲な衝動に押し流されてしまい、今の自分の姿勢にはっきり疑問
を抱けない。
逞しい肩が、腕は、一心不乱に動き、贅肉が乗った中年レスラーのような体躯が揺れる。
事の始めにシャワーをかけられた陰茎は、既に湿り気の大半を、多量に溢れ出た先走りのヌルヌルした物に変え、湿った音
はニッチャニッチャと粘度を感じさせる物になっていた。
程なく、脱衣場からドライヤーの音が聞こえ始めた。
イワクニはパンツを穿いただけの格好で頭を乾かす。もう体は拭い終わり、着衣手前の段階になっている事が察せられ、ウ
シオは気が急いて動きを早めた。
(サトル…!サトルゥ…!)
体を抱き締めたい。身を摺り寄せたい。思う存分感触を味わいたい。
抑えに抑えた欲求が、弾ける衝動をより強くする。
「はっ…!ふっ…!…と…る…!ふっ…!さと…!」
乱れた息の隙間に愛しい相手の名を含ませて、ウシオは長大な逸物を擦り上げ続け、上り詰める。
「さ…ど…!んぐぅっ!」
声を漏らすまいと口をきつく引き結んだウシオの体躯がブルルっと震え、房のついた尻尾がビンッと真っ直ぐ伸びる。
反りの強い陰茎の尿道を駆け上り、どびゅっと鈴口から溢れた種汁が腹を汚し、跳ねてパタパタと落ちた分が太腿と股間を
汚す。
最後の一滴まで絞りつくそうとするように、射精しながらもウシオは手を緩めない。ピストン運動を繰り返す大きな手は、
大量に溢れた精液をローション代わりにして自慰を続行する。
焦げ茶色の体に濃い精液の色は目立つ。繰り返しビュクッビュクッと放たれる精液が、大牛の被毛を、元の焦げ茶と混じっ
たクリーム色に染める。
「くふっ!くふーっ!んぐふーっ!」
食い縛った歯の隙間と鼻穴から熱い息を噴出させ、ウシオは動きを止めた。
強張っていた体からすぅっと力が抜け、前屈みになった牛の口から「はふぅ…」と気の抜けたため息が漏れる。
耳は倒れ、気だるさと満足感が同居する恍惚の表情が牛の顔を染めたが…。
「サトル…」
余韻が去りつつある中で呟いたウシオの胸には、一握りの罪悪感と、強い虚しさ。
下から立ち昇る青臭さが、衝動が去った牛に現実を突きつける。
「…サトル…」
切なげに繰り返したウシオは、目を瞑って軽く頭を振り、気持ちを切り替えた。
イワクニが待っている。急がなければならない。
勢いを強くしたシャワーで流された精液は、最初こそ耐えるようにあちこちで固まりを作っていたが、タイルの上を運ばれ
て行く中ですぐに薄くなり、排水溝で微かな筋を見せるだけとなった。
「結構かかったな?」
軽く水気を切って上がった脱衣場で、イワクニからそんな言葉をかけられたウシオは、内心激しく動揺しつつも、「なかな
かしつこくてな」と応じる。
(…む?しつこいと言ってしまうと、汗ではなく雄汁だと深読みされてしまうか…?)
そんな妙な心配をしたウシオは、既にズボンを穿いてトレーナーに袖を通しているイワクニの姿を眺めながら、パンツ姿を
見損ねた、などと少しだけ残念がった。
…既に欲求が復活しつつある辺り、底なしである。
「ところでウシオ。今日さ、かなり濃かったんだ」
「え!?」
唐突なイワクニの言葉で、耳と尻尾がビンッと立ち、心臓が口から飛び出しそうになるウシオ。
(み、見られていたのか!?あの痴態が!?ワシの自慰が!?い、イワクニに…!?)
腰に巻いたタオルの下で、危機感を覚えながらも何故か興奮して大きくなり始める息子。しかし…。
「あ、ごめん。味噌汁な?夕食の。珍しく味噌の分量ミスったみたいで…」
「あ、ああ…!」
ホッとして耳を倒し、尻尾をへなっと降ろしたウシオに、
「だからなのか、風呂から出たら急に喉が渇いちゃってさ…。自販機寄ってから戻るから、先に出るぞ?」
「お、おお判った!」
やや硬い笑みを浮かべるウシオと、はて、何故笑っているのだろうか?と首を傾げるイワクニ。
やがてイワクニが脱衣場を出ると、ウシオはため息をついて脱力した。
「…それならば、先に行くともう少し早く教えてくれれば良かったのだ…。そうすれば…」
あんなに大急ぎでせんずりしなくとも良かったのに…。
口が裂けてもイワクニの前では言えない言葉を飲み込んで、ウシオは体を拭い始める。
結局、驚かされて少し起きた息子は、そこからすっかり元気になり、しばらく収まらなかった。
そしてウシオは、独り悶々と悩み始める。
(…ワシ、見られたい欲求でもあるのか?露出狂の気でもあるのか…?こ、これが知られたら流石に愛想をつかされる…!)
図体は大人でも、こういった部分はまだまだ年相応なウシオであった。