第二十八話 「時々臭う」

どどっと、畳を震わせる地鳴りみたいな足音。

柔道場の中央で、ゆさぶって崩した相手を追撃して、勢いよく踏み込むサツキ君は、土砂崩れみたいに迫力がある。

いつもの稽古風景に近いけど、今回は相手が主将じゃない。主将は今審判をしてる。

サツキ君の相手は黒い山猫。陽明のエース、ネコヤマ先輩だ。

本来はサツキ君と階級が違うけど、170センチ超、約130キロの堅肥りしたネコヤマ先輩は、もっさり長毛な事もあっ

て数字以上に大きく見える上に、主将曰く「強いだけじゃなく上手い選手」。実際サツキ君と好勝負を繰り広げてる。

夏の間は全国へ向けた追い込み!部活の殆どが練習試合と、ネコヤマ先輩を交えての練習になって、みっちり内容が濃くなっ

てる。

…もっとも、ネコヤマ先輩は他校の生徒だから、理事長が来てばったり顔をあわせる事がないように細心の注意を払ってる

んだけど…。

本当は理事長、気付いてるんじゃないかなぁ…とか、僕は思ってる。だって時々、明日は何時頃に来る…とか、何日は来れ

ない…とか、夏休みに入ってからは前もって断ったりして、そういう時に限って、たまにはアイスでも…って、ジュース代を

多めに主将へ預けたりしてるし…。

僕が考え事をしている間に、サツキ君がネコヤマ先輩の襟を取った。…ように見えたら、寸前で体をずらされて手が肩の上

を通過、咄嗟に奥襟を掴む格好に持ち込んだみたい。

「っしゃあ!」

気迫が滲む声と表情。こういう時のサツキ君は怖いくらい格好良い…。

引き付けられたネコヤマ先輩がサツキ君の襟を取り、深く組み合ったかと思えば、両者はすかさず足を使う。

ネコヤマ先輩の右足が、ちょっと前に出てたサツキ君の右足首を内から狙う。けど、狩り払うようなその足を、サツキ君は

ぐっと体ごと前に出て、二人の足はふくらはぎの高さでぶつかった。

ネコヤマ先輩はすぐさま払う動きから変化させて、足を絡ませる。そこからはもういよいよ本格的なせめぎ合いになって、

攻守が目まぐるしく変わって行き、僕は目と確認が追いつかなくなっちゃう。

サツキ君が投げを打った…かと思えば、どうやったのか判らないけどネコヤマ先輩の内股に入ったはずのぶっとい足がスカッ

と空ぶって、サツキ君の巨体が片足立ちで不安定になった。

 かと思えば、ネコヤマ先輩の刈り足が軸足を払えずにガッと当たって止まって、そうしたらサツキ君が奥襟を取ったまま体

重をかけて巻き込むように倒れ掛かって…。

 気が付いたら二人は畳の上で二転三転。上になって下になってようやく止まったと思えば、サツキ君が四方固めに入ってる。

サツキ君が得意な、巨体と体重を十二分に活かした抑え込みの形だ。

もがくネコヤマ先輩。けれどサツキ君は揺られながらも体勢を維持して、しっかり捕えたまま逃がさない。

「…そこまで!」

主将の声が凛と響いた。時間だ!サツキ君の一本勝ち!

サツキ君はのそっと身を除ける。続いて、少し息を荒らげてるネコヤマ先輩も身を起こして、両者は同上中央で向き合い、

深く一礼。

「もう十分だろう?これくらいで切り上げたらどうかな?」

そんな主将の提案に、ネコヤマ先輩は「そうだね」と静かに頷いた。

「調整としては、この辺りで留めておくべきだろうと思う」

「だな。こっちは明後日出発、ネコヤマ先輩は明日出発だしよ」

道着の襟を掴んで暑そうにバタバタ扇ぎながら、サツキ君も同意した。

「最後の稽古、か…」

主将がしんみりした様子で言う。…そう、ネコヤマ先輩と稽古するのは今日が最後。主将との稽古も明日が最後…。

勝っても負けても、泣いても笑っても、全国大会が終われば先輩達は引退なんだ…。

正直、僕はあまり実感が湧かないような状態…。

春にマネージャーになったばかりの僕にとって、柔道も部活も、主将と一緒の活動だった。それが…、夏休みが終わったら

もう居ないんだよって言われても、ピンと来ない…。主将が居ない、僕とサツキ君だけの柔道場が想像できない…。

「世話になった。有り難うネコヤマ」

主将が手を差し出し、ネコヤマ先輩がそれを握る。

「こちらこそ有り難う。お陰様で、全国に挑む前に、悔いのない稽古に取り組む事ができたよ」

普段は表情に乏しい山猫の黒い顔は、ちょっとだけ笑みを浮かべてた…。

「おっし!んじゃ稽古締めにモフ行くっすか!」

サツキ君は太い両腕をかぽんかぽんと胸の前で交差させ、ニンマリ笑った。食いしん坊根性が発揮されただけじゃない。今

日がラストだから、ネコヤマ先輩ともっと一緒に居たいんだよね…。

「理事長からおやつ代貰ってますし、良いですよね主将?」

僕も同調したら、サツキ君がちょっと意外そうにこっちを見る。

それはまぁ、絞れたとはいえ190キロ近いままだし、できればハンバーガーもコーラもポテトもナゲットも遠慮して貰い

たいところだけど…、今日くらいはいいです!頑張りを認めない訳じゃないから!



「何だかよぉ、意外っつぅか、拍子抜けしたっつぅか…」

「ん?何が?」

並んで寮の階段を登りながら、僕は傍らのサツキ君を見上げた。

「だって今日は昼飯ハンバーガーだろ?夕飯特盛豚骨チャーシューメンだろ?普段ならぜってぇ止めんだろ?」

「止められると思っててもあれだけオーダーする神経にはある意味感心するけど、姿勢には感心できないなぁ…」

「ぬはは…!」

苦笑いして頭を掻くサツキ君。

「頑張りを認めてない訳じゃないし、嫌がらせで好きな物を禁止してる訳じゃないもん」

僕は言う。まさか勘違いされてるとは思わないけど、念の為…。

「ちゃんと体が維持できて、良い試合ができるコンディションに仕上がってるなら、好きな物をお腹いっぱい食べて貰いたいよ」

「お〜、何だか今日のキイチは結構ユルい感じだな?」

 そんなサツキ君の言葉に、僕は「心外だよ」って応じる。

「基本的に僕はゆるい方だよ?…あんまりガミガミ言う方じゃないはず…。うるさく言うのはサツキ君にだけだと思う」

「…まぁ、そりゃ確かにあるなぁ…。オシタリなんかには何も言わねぇしよ」

顔を顰めるサツキ君。

特別だから、他の皆とは違うひとだから、サツキ君にはついつい遠慮なく、口うるさく言っちゃうんだ。

判って欲しいけど、それを口にするのは何だか図々しいような気もするんだ。貴方が大事だからうるさく言うんですよ。だ

から許してね。…なんて言うのは…。

苦言するなら嫌な顔をされる覚悟くらいしなくちゃいけない。口にするのが正しい忠告だったとしても。

幸いにもサツキ君は正しいと思う忠告はへそを曲げずに受け入れてくれるし、なかなか納得できない事でも頭から否定はし

ないで、ちゃんと考えてくれる。体同様に気持ちも大きいから。

だから僕は…、

「ずっと頑張ってきたし、今夜くらいはアイス食べる?」

時々、こんな事を言っちゃう。嬉しそうな、気分が良さそうなサツキ君が見たくて。

「お?どうしたんだよ今日は?」

半分訝しげで半分嬉しそうなサツキ君の半笑いが可笑しくて、僕はつられて笑う。

「言ったじゃない?ちゃんとしてるなら、好きな物をお腹いっぱい食べて貰いたいって。美味しい物を食べてる時のサツキ君、

可愛い顔してるんだから」

そんな僕の言葉で、大きな熊が耳を寝せて、まるで子供みたいな笑みを浮かべて喜んだ。

…けどこれって、僕にその気はないけど飴と鞭…かなぁ?

階段を登り切った僕らは、夏休みに入ってやけに静かになった寮内をゆっくり歩いてく。

応援団も出ちゃったから、さらに人数が減ってなおさら静かなんだよね…。

オシタリ君は春に比べてだいぶ社交的になったけど…、応援団の皆との外泊は大丈夫かな?ウシオ団長の話だと他の団員と

も上手くやってるって事だけど…。

「案外、心配要らなかったりして…」

ポツリと呟いた僕の横で、サツキ君が「お?」と声を漏らす。

「もう心配要らねぇ?つまり、食事制限解禁か!?」

「何でそう都合良くポジティブに受け取る時だけは驚きの連想力なの!?」

即座に入った僕のツッコミは、サツキ君の出っ張ったお腹に当たってボヨンって跳ね返された。



日課のストレッチを終えたサツキ君は、ネットで獣人用テーピングとサポーターなど、スポーツ用品の新製品や、代替わり

したおかげで値下げされた品をチェックしてた僕に、

「なぁキイチ。そろそろ…」

ランニングシャツとブリーフだけの格好で擦り寄って来た。

体格差があるから、ちょっと肩で押されただけで小柄な僕は大きく揺れちゃう。

「そろそろ…、駄目か?」

何が「そろそろ…」なのかは聞くまでもない。こういうおねだりをして来る時は、何を求めてるかはっきり判る。

「ちょっと待ってて、今きりがいい所まで…」

「おう」

サツキ君は頷いて…40秒くらいしたらソワソワし始める。

「…なぁ、まだか?」

「待ってってば…」

「おう…」

サツキ君は頷いて…20秒くらいしたらモゾモゾし始める。

「なぁキイチ…」

…やだこのスケベ。

僕はため息をついて、価格比べを諦める。

「ちょっと待って。電源落とすから…」

この後はお風呂だし、今夜はもう使わないだろうし、パソコンは落としておく事にする。

ウインドウを閉じたりして終了手順を済ませる僕の横で、サツキ君はゆさゆさと体を前後させてた。…ちょっと落ち着きな

さいさっちゃん…。

「はい、お待たせ」

顔を向けた僕に、大きな熊がにへら〜っと緩んだ表情で笑いかけて来る。そして…。

「わっぷ!」

僕を抱き締め、潰さないように気遣いながら、抱え込む格好で床に押し倒した。

ボリューム満点の体躯に圧し掛かられると、簡単には逃げられないし身動きすらままならない。

主将もネコヤマ先輩も頻繁にこの巨体に抑え込まれて、そこから必死に抜け出そうとしてるんだよね…。恋人としての僕ら

のこの状況はともかく、試合中に抑え込まれた対戦相手の絶望感を想像すると、ちょっと同情しちゃう…。

僕を抱いたままサツキ君はゴロンと横に返って、腕を下に入れてひっくり返す形で、僕も一緒に横向きにした。

そうして抱っこされたまま寝返りを打たされた僕は、ギュッと一回強く抱き締められた後、ちょっと引っ張り上げられてサ

ツキ君と近い位置に顔を持って行かれる。

興奮気味の大きな熊は鼻穴を大きくしてて、熱い鼻息が至近距離から顔にかかってこそばゆい…。

期待の色を浮かべる目は、ちょっと照れた表情と相まって可愛く、愛おしい…。

サツキ君はそっと、頷くように顔を動かして、僕と唇を重ねた。

最初は口の先を触れあわせた軽いキス。けれど舌が入ったらすぐ行為に熱が入っちゃって、僕らはマズルを互い違いに寝か

せる格好でディープキスに移った。

僕らのキスは人間のそれとも違う。マズルが短い猫でも人間と比べればやっぱりちょっと出てる訳で、こうして顔の角度を

ずらしてキスをすると、お互いに噛みつきあってるようにも見えるらしい。

一説には、ずっと昔の獣人にはキスなんて行為は存在しなくて、舐めあう事が愛情表現だったとか。でも、人間のそれを真

似るようになって今では定着したらしいとか、古い壁画とかの資料で判ってきてる。

…人間と獣人が交わりを持たなかった時代があったらしいって、定説ではあるけど…、その頃の獣人と人間はどんな関係だっ

たんだろう…?

思考が逸れて行ってる事を察したのか、サツキ君は僕の口を強く吸って、口の中に入れた舌を一層激しく動かした。ちょっ

と腕に力を込めてハグを強くする所なんかは、まるで構って貰いたくて仕方がない子供のようで、行動自体が愛くるしい…。

お詫びのように強く吸い返して、得意の舌技で口内を蹂躙されるに任せた僕は、太い胴をお返しとばかりに強く抱く。

柔らかい脂肪が分厚く堆積した脇腹は、僕の腕が沈み込むムニムニ感。だけどその下に密度の高い筋肉が詰め込まれてるか

ら、一定以上は沈まない。

僕はその感触で、サツキ君の体の締り具合が判る。被毛もふさっと長めだから、ちょっとぐらい体を絞っても見た目はあん

まり変わらないけど、僕の腕には抱き心地の微妙な変化が察せられる。

頑張ってきたサツキ君の胴は、沈み込みがちょっと浅くなって、代わりにずしっとした感じが…つまり重量感が増した。そ

れは頑張ってきた何よりの証拠…。

腕が回り切らないほど太く分厚い胴をサスサス撫でてあげたら、サツキ君はいよいよ熱が増したのか、もどかしそうに体を

揺すって身を起こした。

「キ、キイチ…。あの…」

座り直したサツキ君は、スケベに行為を求めてきたくせに、いざ直前になったら恥ずかしげに口ごもった。

はっきり言ってよ。判らないよ。

そう言って焦らすのもちょっと可哀想だから、僕は微苦笑して頷いた。だって、またぐらでブリーフのアソコが、もう既に

ピニョッと盛り上がってるんだもん…。

サツキ君は恥ずかしげな笑みを浮かべてブリーフに手をかけ、ベロンと下ろす。布地に押されて寝かされてた毛が、空気を

間に入れてフワッと立ち、一瞬だけボディラインが見えてた股の間もすぐに丸みを帯びた。

僕は一度立ち上がって、ローションを手に取ってからサツキ君の所に戻る。サツキ君は後ろに手をついて上体を支え、

「じゃ、じゃあ、頼むぜ…!」

 と、照れ笑いしながら足を広げた。…いつも通り特大のM時開脚…。恥ずかしくてもやる事はやるんだよねぇ…。なんて考

えながらも、僕は「うん」って頷いて、ローションを手に塗ってサツキ君のソコに手を伸ばした。

ローション効果は発揮されてるみたいで、サツキ君のおちんちんはちょっとずつ剥ける範囲が広がってる。

本人は大喜びだけど…、これ、皮が縮んでる訳じゃないんだよね…、剥けるようになるだけで、皮余りまでどうにかしてく

れる物じゃないし…。常時剥けた状態になるには、また別の手段も考えなきゃいけないと思う。…お互いに…。

もう勃起してる可愛いソレにそっとローションを塗ると、いくらか冷たかったのか、サツキ君は「んっ!」と首を縮めて腰

を震わせた。…場所が場所だけにちょっと蒸れてたらしくて熱を持ってるから、温度差がきいたらしい。

 …ところで…。最近のサツキ君は時々臭う…。

汗臭いだけじゃなく、ちょっと妙な匂いがする。こうしてくっついてると特に感じるんだ。

 去年の夏はまだ付き合ってなくて、こういう事なんかしてなかったから知らなかったけど、汗をかく夏場はこんな感じなの

かなぁ?それとも体が大人になってきて匂いが変わってきた、とか?

 …まさか加齢臭!?…いや…、いやいや、まさかね…。

 ローションでぬめらせたおちんちんを、そっと両手で包む。

 厚い皮に覆われたサツキ君のそこは、とても敏感でデリケートだ。軽く手で包んだそれだけで早くもヒクンッと大きく跳ね

る。まるでビクついてるみたいに。

 後ろに手をついて上半身を支え、足を大きく広げてるサツキ君は、ぼくの手元をじっと見てる。恥ずかしそうで、不安そう

で、けど期待が混じった表情…。

 すぐ気持ち良くしてあげるからね?さっちゃん…。

 おちんちんを弄るのもそこそこに、ぼくは指でローションを絡め取る。早速お尻を弄ってあげるために。

おちんちんだけだとすぐ出しちゃうし、それでイっても不完全燃焼っぽいから、最近じゃこれがワンセット。

立派な体格からすると不似合に小振りなおちんちんが、股をさらに広げるサツキ君の股間でぷるんっと震えた。まるでおち

んちん自身も期待してるように。

 …ん?

 お尻を覗き込む格好でサツキ君の出っ張ったお腹の下に手をかけて体重を支え、ぐいっと押した僕は、鼻をひくつかせた。

 あの匂いが濃くなった。これまでも時々愛撫中に一瞬濃くなったりするのは感じてたけど…、お風呂がまだだから?それと

も稽古がきつかったから?今日のはムワッときた…。

「な、何だよキイチ?」

 サツキ君は動きを止めた僕を見つめて訊ねる。

「…臭う…」

「あ?」

「むわぁっと、臭った…!」

「えうお!?」

 ちょっとショックだったのか、サツキ君は顔を引きつらせた。…いや、今は悪いけどフォローしてられない。匂いの元…、

匂いの元がたぶんここらに…。

「サツキ君。ちょっとまさぐらせてね?」

「へ?ま、まさぐ…あおっ!」

 妙な声を上げたサツキ君のおちんちんは、剥けるギリギリまで下がって亀頭を三分の一くらい露出させた。勿論自動じゃこ

うならないから、僕の手動で…。

 一部剥けたおちんちんに鼻を近付けてスンスンするけど、…違う。ここじゃない。サツキ君結構まめに揉み洗いしてるみた

いだし、結構清潔なのかも?…もしかするとフェラチオする僕に気を使っての事かもしれないけどね…。

「うおおおおいっ!?キイチっ?どこ嗅いでんだよ!?」

 恥ずかしいのか、慌てた声を上げるサツキ君。でも僕は構わずにスンスン続行。

 おちんちんの付け根付近?…いや違う。確かに匂いは濃くなったけど、ここじゃないみたい。

 たまたまの近辺?…も違うっぽい。遠のいた気がする…。

 股の間?太腿の間が蒸れて臭う?…いや、そうでもないっぽい…。

 お尻…?でもないなぁ…。

「き、キイチおい!やめろって恥ずいっ!」

 サツキ君がモゾモゾして起き上がろうとする。

「ちょっと大人しくしててよ。すぐ済むから…。あれ?」

 お腹に手を当ててぐいっと押したら、また臭った。

 サツキ君が動いたから?いや、それだけで臭うならもっと頻繁に臭うはず…。

 僕はじっと見つめた。サツキ君のお腹…、の下側…、段がついた土手肉のさらに下を…。…まさか…?

「な、何だよ?どうかなってんのか?」

 どうやら深刻な顔になってたらしい僕に、サツキ君が不安げに問いかける。

「なってる…のかな…?ちょっとごめんね」

 断りを入れた僕は、サツキ君のお腹…、プニプニした一番柔らかい下腹部をぐいっと押し上げる。そして、そこに顔を寄せ

て匂いを嗅ぐと…。

「ここかぁーっ!!!」

「うえっ!?何が!?」

 鼻にきた!ツンときた!あの臭いの元はここかっ!?

「サツキ君!ここ洗ってる!?洗ってないでしょ!?」

「い、いや洗ってるって!ちょ、おい痛ぇ!痛ぇってキイチ!グイグイすんな!引っ張られて痛ぇ!」

 溝になってるそこは皮膚が弱いのか、痛がるサツキ君。

「いいや洗ってない!きちんと洗ってない!入念に洗ってない!でなきゃこんな匂いするはずないっ!」

「う!?そ、そんな臭ぇのか…!?」

サツキ君はショックを受けたような表情でちょっと仰け反る。顔から遠いからなのか、それとも自分の匂いだからなのか、

これまで全く気付かなかったらしい。…まぁ僕も臭いの元がこんなところだったなんて考えなかったけど…。

「アソコなら判るけどよぉ…、何でそんなトコ…」

「う〜ん…!むむむ…!」

僕は考え込み、そして考えるまでも無くすぐ判るその事に思い至った。

水は低い所に流れる。そして溝なんかに溜まる。溜まった水は淀んで濁り、腐ったりもする。

…それが汗だったなら…?

サツキ君のお腹は大きい。でもって腋の下とかいろんなところから汗が流れ落ちる。お腹の土手肉の下は、それらが流れ込

み、そして留まり易い場所な上に範囲は広い、しかも風通しが悪い。…だってプニ肉の下だもん…。

垂れ気味な胸の下もたぶん同じ環境だけど、そこはたぶん手が届きやすいし気も行きやすいから無事なんだと思う。臭わな

いからこれまで気にした事もない。腋の下もたぶん熱帯雨林なんだろうけど、そこはサツキ君自身が気にしてるようで、いつ

も入念に洗ってる。

…つまり…。これからはお腹の下も意図的に、それこそ股間と同じようにきちんと綺麗に洗って貰うようにしなくちゃ!

「サツキ君。今日からお腹の下もきちんと洗おうね?」

「…は、腹の下って…」

まさかこんな事になってるとは思いもしなかったらしいサツキ君は…、愕然としてる。目が真ん丸だ。

僕だって愕然だよ。唖然としちゃうよ。普通そんなところは汚れポイントにならないよ…。

「という訳で…」

僕は背筋を伸ばして座り直し、サツキ君の顔を見つめる。

「続きはお風呂の後で」

「ぇぅぉっ!?」

サツキ君は半分息を飲み込んだような、しかもやや掠れた妙な声を発した。…続きはCMの後で…。っていうアレをかまさ

れた気分になったのかもしれない。

でもお預け!

だって気になって弄りに集中できないもん!

こうやって愛撫できるのは今日で最後、大会で移動した先じゃ無理だし、東護に帰るまでお預けになっちゃうんだから…、

今夜は僕も本気でかかれるコンディションを整えなくちゃ!

僕は乾樹市。星陵の一年生で柔道部所属、マネージャーをしてるクリーム色の猫。

我慢期間中にサツキ君が暴発しないように、今夜は徹底的に抜いておきます!