第三十二話 「ただいま帰りました!」

「ほい、到着~!」

 サツキ君のおじさんが運転するバンが減速する。

 阿武隈家の前にはサツキ君のおばさんと、お父さんと、お母さんの姿。すっかり暗くなってるのに出迎えてくれてる!

 全国大会を終えて、そのまま里帰りしてきた僕らは、懐かしい東護の空気を吸い込んだ。健闘慰労って事で、今日は御寿司

を取ってくれてるんだって!

 二家合同のお帰り夕食会、楽しみにしてた僕はサツキ君に続いて車を降りて、お父さんとお母さんに駆け寄って…、

「ただいま帰りました!」

「おかえりキイチ!」

「おかえりなさい、お疲れ様」

 笑顔のお父さんとお母さんと、久しぶりに顔を会わせて…ん?

「お父さん?」

 僕はお父さんの腋の下を見る。…松葉杖だ。アルミの…。

「足、怪我してるの!?」

「うん?ああ、大した事は無いよ、もう完治間際さ!はっはっはっ!」

 笑うお父さん。お母さんは…、ちょっと困り顔。

 急に、ある記憶が浮上してきた。前にお母さんと電話で話した時、お母さんが何か言いかけて口ごもった事があった。たっ

た一回だけだったから、変な違和感があったのを含めて憶えてる。

「骨折とか!?重傷なの!?」

「うんまぁそんな所だ。でも大した事はなかった!はっはっはっ!」

「それって、いつごろ?」

「結構経つからもう治り際さ!はっはっはっ!」

「お母さんに口止めを…?」

「わざわざ言うような事じゃなかったからね!はっはっはっ…」

「………」

 ニコニコしている僕の顔を見ながら、お父さんは笑い声を小さくしていく。

「…キイチ?どうかし…」

「それはたいへんでした。でもだいじにいたらなくてなによりでしたねおとーさん」

 サツキ君がお父さんの袖をツンツン引っ張って、何か耳打ちした。途端にサーッとお父さんの顔色が失われる。

「…あ、あのなキイチ?お父さんはね…」

「お母さん、行きましょう!おじさん、おばさん、お邪魔します!」

 僕は笑顔のままお母さんの手を引いてお父さんから離れた。

「き、キイチ!?ちょっと待って…」

「あっちゃ~…。早く謝った方が良いっすよ。ありゃあ本気で頭に来てる…」

 お父さんが呼ぶ声とサツキ君の声を残して、僕はサッサと玄関へ。

 僕、乾樹市。

 …………………………………………………………………おこです。



「いやもう何と申しましょうか本当に申し訳ございませんでした」

 平伏して長々とお詫びの言葉を泣きそうな声で吐き出し続けるお父さん。

 サツキ君とおじさんが、居間の入り口のところからハラハラした顔を覗かせてる。

 到着から三十分。仕事で大怪我した事を黙ってたお父さんは、尻尾を股に巻き込みながらひたすら謝った。怪我した事にビッ

クリして、元気そうだからホッとして、…安心した途端に腹が立ったよ!?

 …自分でも一言も言わなかったけど、思った通り僕が心配するから黙ってるようにって、お母さんにも口止めしてたそうだ。

「…ふぅ…」

 ため息をついたら、お父さんの背中がビクンと跳ねた。

「何で、心配させてくれなかったんですか?」

「それは勿論、余計な心配をかけさせな…」

 顔を上げたお父さんは、

「家族を心配するのは、「余計」ですか?」

 ピシャリと言ったら「うっ!?」と呻いた。

「僕も心配させて欲しかったです」

「面目次第もございません…」

「家族として気遣いたかったです」

「申し開きできません…」

「僕、今度から風邪とかひいてもお母さんにだけ言って口止めしますね」

「待ってキイチ!そういうのはきちんとお父さんにも教えて!」

「だってお父さん教えてくれませんでしたよね」

「うっ!?」

 …そんな調子で三十分、僕は不満をジクジクダラダラ垂れ流してじっくりお父さんを責めてから、いいですよって開放した。

「ただし」

「はい」

「次にやったらもっと怒りますから」

「はい…!」

 本気で念を押したら、お父さんは生真面目に唾を飲み込んで喉を鳴らした。

 …ただいまって言うタイミングで怒らせないでよ!心配させてよ家族でしょ!?

 まったくもう…。ねぇケント、聞こえてたら今夜お父さんの枕元に立ってコッテリ絞ってやって。



 気を取り直して始まった御寿司パーティーでは、学校での一学期の生活についての話も勿論するけど、やっぱり全国大会の

タイムリーな話題に集中しがち。

「そういや親父」

 イクラの軍艦巻きをパクパク口に放り込みながら、サツキ君は思い出したようにおじさんへ訊ねた。

「「大和」って苗字の親戚、ウチに居るか?」

「あん?…いや、どうだろうな?すぐ出て来ねぇ苗字だが…、う~ん…」

 おじさんに目を向けられたおばさんも、「私も心当たり無し」と首を振る。

「会ったの何処だ?」

「北街道だ。俺達と似た羆系で、顔とか声とか似てる」

「北街道ってなって来るとなぁ…。昔あっちに移住した親類かもしれねぇが、あっちの苗字だったら判らねぇぞ?だいたい、

ただの他人の空似って可能性も…」

 サツキ君に携帯を突きつけられておじさんが黙る。…携帯のモニターにはたぶんヤマト寮監に撮らせて貰った写真が表示さ

れてる。よっぽど気が合ったのか連絡先も交換してたけど…、ツーショット写真まで撮らせて貰う辺り、やっぱり遺伝子的な

繋がりがあるんじゃ…。

「…むぅ…。こりゃあ血縁あるかもなぁ…」

 でしょう?ビックリするぐらい見た目の共通点ありましたよ。…最後の方は慣れたみたいでそうでもなかったけど、初対面

の時のサツキ君、ビックリし過ぎて凄い挙動不審ぶりだったもん…。

 衝撃は強く記憶に焼きついたみたいで、おじさんとおばさんに身振り手振りを加えて話すサツキ君。ひっきりなしにお寿司

を食べてるから手も口も忙し…って、食べすぎじゃない!?肥るよまた!?…まぁ、今日ぐらいは何も言わないでおこう…。

「キイチ、喉渇いてないか?オレンジがいい?コーラ?」

 …こっちはこっちで、さっき絞り過ぎたのかお父さんの態度がおかしい。猫なで声で、終始僕を窺って世話を焼いてくる…。

やり込め過ぎたっぽい…。

 お母さんもサツキ君のおばさんも、一番気になるのは寮生活の事だったみたいで、授業部活そっちのけで、食事のスタイル

や門限、お風呂の事、部屋と寮内の設備を気にしてた。



 お土産話で盛り上がって、美味しいご飯を楽しんで、僕は両親と一緒に家に戻った。

 お風呂が沸くまでは家族水入らずでお茶を飲みながらお喋りして、…引き摺ってるお父さんがちょくちょく機嫌を取りに来

て…、お風呂に入って部屋に戻ったら、すぐに眠気が押し寄せてきた。

 さっきまでは興奮とかがあったのかもしれないけど、やっぱり疲れてたんだろうね…。

 寮の部屋とは空気が違い過ぎる。…あっちはサツキ君の匂いとか台所で煮炊きした匂いとか、僕以外の匂いも染み付いてる

からかな?

 考えてみたら、独りで寝るの久しぶり…。

 ベッドに座って壁を眺めながら、頭の中で兄弟に語りかける。

 ただいまの挨拶に、向こうでの日常の報告、…そしてお父さんへの文句。

 今日から夏休みの終わり間際まで居る事と、…そしてお父さんへの苦情。

 サツキ君が大会で頑張った事、相撲した事、…そしてお父さんへの不満。

「…大変な事もあったりしたけど、元気にやって来れたよ…」

 ポスンとベッドで横になって、僕は目を閉じる。

 残り少ない夏、明日から急いで満喫するってサツキ君も張り切ってた。

 夏休みの終わりまでは東護で過ごすんだけど…、ただの里帰りじゃなくて、ウツノミヤ君とオシタリ君も一緒。

 ウツノミヤ君はもうこっちに来てて、親戚の家に泊まってるらしいけど、オシタリ君は実家に帰っても仕方ないって言うか

ら、休みの間は僕とサツキ君の家に泊まる事になってる。

 応援団は全国大会出場中の部活の全日程が終わってから休みに入るから、僕らより少し遅れた到着になるけど…。

 …ふぁ…、明日はダイスケ君とジュンペー君と会う事になってるし、僕も体を休めなくちゃ…。

 そろそろお休み、ケント…。

 

 なお、僕の言い分は兄弟に聞き入れられたのか、翌朝のお父さんは「ケントが枕元に立って一晩中怒られた…」と泣きそう

な顔でしょぼくれていた。…どんな叱られ方したんだろう…。





 快晴だけどそんなに暑くない、ゆるく風が吹く朝。

 気持ちいい一日になりそうな予感で心を弾ませて、迎えに来てくれたサツキ君と一緒にバスに乗る。

 何だか懐かしいねって、東護の景色を路線バスから眺めながら話をしてたら、あっという間に目的地に着いた。

 バスを降りて待ち合わせの時計塔の下に来ると…、

「せ~ん~ぱ~いっ!」

 声を張り上げてアーケードの中から走って来たのは、丸っこいフォルムの狸君。そしてその後ろには、大股にそれを追いか

けてくる黒熊。

 ふたりとも先に到着して、何処かに行ってきたみたい。

「おひさしぶりでーすっ!」

 駆け込みながら飛びつくジュンペー君。飛びつくって言っても、ジュンペー君は小さくないし痩せてもいない…って言うか

むしろ肉付きがいい狸体型だから軽く砲弾。案の定、胴に抱きつく格好でダイビングしたジュンペー君は、サツキ君のお腹に

深々と頭がめり込んで、音がドブォッって…。

「おう!ひさしぶりジュンペー!ぬはははは!」

 ジュンペー君を抱き止めるサツキ君。…って、ちょっ!?ドブォッて、今凄い音してたよドブォッて!?平気なの!?

 甘えられて嬉しいのか、サツキ君はジュンペー君を抱えたままグリグリ回る。…あの、通行人の皆さんから注目されてるよ?

 ふと見れば、後ろからのそのそ歩いて来た黒ダイスケ君は、そんなスピニングペアを指を咥えてじっと眺めた後で、僕に顔

を向けて目で何か訴えてきた。

「無理だよ?」

「無理!?」

「ふたつの意味で」

「ふたつの無理!?」

「僕は物理的にダイスケ君をああはできないし、精神的に衆目があるところでああして貰うのも無理…。恥かしくて死ぬ…つ

まり恥か死しちゃう」

「じゃあ!人目が無いとこなら!」

「うん!無理!恥か死んじゃう!」

 笑顔できっぱり無理主張。ガッカリと耳を倒すダイスケ君だったけど…、

「また体が大きくなったね?しっかり真面目に鍛えてたんだ?」

 見上げながらそう褒めたら、嬉しそうに目を細くした。

「キイチ兄ぃも、背、結構伸びてない?」

「え?そう?」

「うん。だって前と殆ど変わってないから…」

「え?変わってないなら伸びてないんじゃ…」

「あ。変わってないのは、顔の距離がそうだからで…、オイラが伸びてて、顔の距離が変わんないのは、つまり…」

「ああ!そういう事!」

 言われてみれば、ダイスケ君大きくなった印象あるけど、向き合って見上げる時の僕の顔の角度は前のままだ。

「ですよー、だってホラ」

 ジュンペー君がサササッと寄って来て、自分と僕の頭の上で水平に手を動かす。

「オレと先輩の身長、ちょっと近くなってますよ?前よりシュッとした感じ」

「わ、ホントだ!」

 背比べしなくても、常識的な身長のジュンペー君とは目線が近いから、バッチリ判っちゃう。

「…あれ?むしろこれってオレの身長さんが伸び悩んでらっしゃるんじゃない!?」

『かもな』

 気付いて焦り顔になったジュンペー君に、熊二頭が声をハモらせて頷く。…なんで「身長さん」って他人行儀な表現になっ

てるんだろう?

 久しぶりだけど最初から賑やか!僕らは揃ってアーケードに向かう。午前中はボーリングして、今年の四月にできたばっか

りだっていうお店でご飯を食べる予定なんだ!

 実は、今日のお出かけはジュンペー君とダイスケ君のお祝いも兼ねてる。なんと!ジュンペー君は全国個人戦三位入賞!ダ

イスケ君はベスト8入り!キダ先生が教えた生徒には名選手が多いそうだけど、ジュンペー君は特に、キダ先生のシゴキで開

花したらしい。入部したての頃から考えれば物凄い成長ぶりなんだって。

 それに加えて、階級違うけどマンツーマンで練習相手になってくれるダイスケ君の存在も大きいとかなんとか…。ごちそう

さまです…!

 そうそう。サツキ君はそのキダ先生に最初に挨拶してきたかったらしいけど、残念ながらジュンペー君達引退直後の今、三

年生が抜けた後で変に弛まないようにって、新部長体制での強化合宿を強行してるらしい。

「まぁオレ達のせいかもしれないんですけどね?あっはっはっはっ!」

 ジュンペー君がカラカラと笑う。何でも、サツキ君達が引退した後は、寂しさを和らげようとして色んな悪ふざけをしたと

かで…。キダ先生のスケジュールはその経験から…?

「お前ちょっとウエハラとかに謝っとけよ…」

「ごめんコゴタ。南無南無…。ついでにウエハラも南無南無…」

「何でコゴタからなんだよ?そこは部長にしたウエハラから手ぇ合わせとけよ」

 拝むジュンペー君とつっこむサツキ君。いや拝む順番以前に、この場で拝むように手をすりすりしてもしょうがないよね…。

 会話は途切れる事が無くて、ボーリングが始まってもずっと賑やかなまま。剛腕でパワフルにピンをなぎ倒すサツキ君、絶

妙なコントロールで高ポイントを確保し続けるジュンペー君、ノーコンなダイスケ君、そして四投目でもう指が小刻みに震え

始める流石に筋力無さ過ぎな僕…。

「そういやジュンペーにダイスケ、そろそろ受験勉強だな?」

 コーラをがぶ飲みしながらそんな話題を出すサツキ君に対し、僕も流石に「今はその話しなくてもよくない?」と突っ込ん

じゃう。

「おう、そうだな!ぬはははは!…は?」

 サツキ君の目が動く。僕の隣でドヨォンと暗い空気を纏ったダイスケ君の方に…。

「オレは余裕あるんですけど…」

 成績優秀、推薦枠を貰えるらしいジュンペー君は、嫌味でも自慢でもなくサラッと言いながらダイスケ君を気の毒そうに見

つめている。

「…ダイスケは何ていうか…。時々勉強見てあげてるんですけど、今あげられるハンコは「がんばりましょう」…かな?」

 …う、うう~ん…、何だか…。

「…思い出すよな…」

 僕とサツキ君の目があった。

 僕は推薦入試で、サツキ君は一般で…。僕は余裕があって、サツキ君は自信がなくて…。

「ぬはははは!大丈夫だって!」

「うん!きっと上手く行く!」

 笑い合う僕らを、ジュンペー君とダイスケ君はきょとんと見つめた。



 昼食のために入ったのは、ジュンペー君オススメの新しくできたお店。スパゲッティとピザが売りの、イタリアン風ファス

トフード店。

 窯焼きピザはなんと一枚500円からのお手ごろ価格で、ジュンペー君曰く、一番安いサイズのピザをいくつも選んで、皆

で分け合って食べるのがベターとのこと。とりあえず人気メニューから相談してチョイスして、マルゲリータ、照り焼きチキ

ン、生ハム&トマト、シーフードの四種類を頼んだ。

「…急に腹減ってきたぜ…」

 サツキ君が切なそうにお腹を撫でた。視線は他のテーブルと厨房を行ったり来たりして、鼻がヒクヒク匂いを嗅いでる。

「キイチ兄ぃ、モチモチとサクサクとどっち好き?」

 ダイスケ君にそう訊かれたけど、実は僕、ピザ生地とかにはあまり詳しくない。食べる機会もあまり無いし…。

「冷たくなってないなら…オーケーかな?」

「えええハードル低くない?」

「それ、好みまで行かないラインなんじゃないですか…?」

「ピザの最低限のトコじゃねぇか」

 ダイスケ君とジュンペー君とサツキ君が口々に言う。…何故かちょっと可哀相なものを見るような視線を感じる…。

 少しして最初に到着したマルゲリータを、ダイスケ君がピザカッターで切り分けてくれた。伸びて糸を引くチーズ、漂う香

りがよだれを誘う…。ボーリングで体力使ってたのか、急に空腹感が…。

「はい、キイチ兄ぃの!」

「有り難うダイスケ君」

「キイチのだけでかくねぇか?」

「気のせいす」

 僕のだけ明らかに三割り増しお得用サイズなんだけど、サツキ君の指摘をキッパリ否定するダイスケ君。

「交換するサツキ君?」

「ダメ!」

 サツキ君と交換しようとしたら、ダイスケ君が思いのほか強い口調で制止してきた。

「キイチ兄ぃ伸び盛りなんだから!食べなきゃ!食べよう!食べろ!」

 …こういう気の使われ方は新鮮かも…。

「熱いうちに!熱いうちに!」

 意地でも交換させないつもりなのか、急かすダイスケ君。

「だな!んじゃ食うか!」

『いただきまーす!』

 皆でいっせいにピザを口元に運ぶ。唇に近付けて温度を窺って、食べられそうだと判断したら、端っこをちょっと齧る。

 カリッ、サクッと軽やかで気持ちが良い歯応えの生地。ブレンドチーズとソースがたっぷり乗ってて、口の中から鼻に、熱

と一緒に香りが抜ける。舌の付け根がキュッと疼く、濃厚な味…。

「おいしいね?こういう歯応えだと思ってなかった…」

 ちょっとビックリした。窯焼きピザってこんな感じなんだ?もうちょっと生地が柔らかい、クニャットと自重で折れるよう

なピザを考えてたから、食感が既に不意打ち。イメージ変わるなぁ…。

 生地は軽くてサクサク。正直、これまで食べてきたモッチリしたピザはお腹に重たくてあんまり食べられなかったんだけど、

これは好きになりそう…。

 そんな感想を正直に語ったら、ダイスケ君はパァッと顔を輝かせた。

「大正解だジュンペー!」

「え?」

 喜んでるダイスケ君のセリフで、僕はジュンペー君を見る。

「あ~…、ダイスケに言われたんです。オレもダイスケもサツキ先輩も何でも食べるクチだけど、先輩は重いのあんまり得意

じゃないでしょ?で、栄養あって美味しくて先輩でも飽きないで食える飯とか何か無い?って今日の店チョイスに注文があっ

たんです」

「そ、そうだったんだ…?ごめんね、気を使わせちゃって…」

「ゴメンじゃねぇだろ?」

 サツキ君がニヤリと笑った。…あ、そうだった!

「だね!有り難う、ふたりとも!」

 ジュンペー君とダイスケ君は顔を見合わせて笑って、『どういたしまして!』って声を揃えた。

 それからのピザは、…ダイスケ君に言って普通の量に切り分けて貰った。悪いけど、量が多いと最後を待たないでお腹いっ

ぱいになっちゃいそうだし…。

 途中のアクセントっていう事で、ジュンペー君がオススメのパスタを一皿注文して、皆で分けた。タラコとキノコが和えら

れて、刻み海苔がトッピングされた和風のパスタは、ほど良い辛さでチーズの飽きをリセットする。

「お前ら結構グルメなのな?」

 バリバリピザを食べながらサツキ君が漏らした感想で、ジュンペー君が「それはまぁ」と苦笑い。

「体造りに食事は欠かせない、って事です。美味い物ならたくさん食べれるでしょう?オレは程ほどで維持しなきゃいけない

けど、ダイスケはもう調整気にしなくていいし、たっぷり食べてでっかくなんなきゃ。ね?」

「だな」

「え?何で?」

 僕の素朴な疑問に、ジュンペー君はダイスケ君を見ながら言う。

「もう限界なんです」

「…え?」

 ドキッと、胸が鳴った。ダイスケ君は視線を下げてる。

「限界って…、え?」

「限界なんですよ、もう。階級維持の減量は…」

 ………。

 僕が視線を向けると、ダイスケ君は恥かしそうに耳を倒しながら、上目遣いでボソボソ言う。

「…げ、減量厳し過ぎるから…、来期からは…、無差別級に…」

「あ、ああ!なるほど!」

 ホッとしたら声が大きくなった。限界とか言うから、てっきり何かあって柔道辞めちゃうつもりだったのかと…!

「ああ、背も随分伸びてるしなぁ、肥る肥らねぇとは別の問題で階級維持は厳しいだろ?あと、それだけじゃねぇぞ?おっか

ねぇのは…」

 サツキ君が言う。伸び盛りだし、おまけに受験勉強で畳からしばらく離れる。そうなると高校進学後の復帰時にはどうなる

のかを…。

 まさに、経験者は語る、だね…。



 買い物をしてサツキ君の家に行って、のんびり喋って夕方までたっぷり遊んで、ウツノミヤ君との引き合わせの段取りを話

し合ったら、今日は解散。

 ジュンペー君とダイスケ君を見送った僕は…、

「夕飯までまだ時間あるし…」

 突然何か言い始めたサツキ君の横顔を見上げる。あらぬ方を見てる視線、胸の前で落ち着き無く組んだり離れたりする手、

ピコピコ動いてる短い尻尾…。

「へ、部屋上がってくか?」

 何を期待されてるのかは判ったから、僕は「うん」と頷いた。…大会前から我慢してたしね…。

 

 しばらく離れてたせいもあるんだろう、サツキ君の部屋からは主の匂いが薄れてた。寮の方が濃く匂うぐらい。

 上も下もさっさと脱ぐサツキ君は…今日は親戚のおじさんから貰った、男の下着こと褌着用だった。段がついたお腹の下に

回ってる褌は、被毛の中に紐が埋まってサイドはあまり見えない。

「あ、ちょっと待って」

 紐に手をかけたサツキ君は、僕の声で手を止める。

「何だよ?…え?もしかしてやっぱダメとかお預けとかそういう…!?」

「そこは心配御無用。ただ、紐を解きたかっただけ」

 心配顔になったサツキ君にそう言って、僕もパンツ一枚で傍に寄る。そして、しばらく頑張ったご褒美の…ギュッ!

 太い胴に腕を回して、胸に顔を埋めて、僕はサツキ君を抱き締める。…手が回らなくて、木にしがみついた木登り猫みたい

になっちゃうけどね…。

「ぬはははっ!」

 笑ったサツキ君が僕を抱き締め返す。包み込むように。

「頑張って我慢できたね?」

「そりゃあ本番だったからな!」

 実は、行為禁止はサツキ君自信が言い出した事。ネコヤマ先輩から聞いたそうだけど、射精は鍛錬に影響を与えるんだって。

精液として出てく栄養がある…とはいっても、こっちはむしろ少量。むしろ、性行為で分泌されるホルモン系の方が問題らし

い。何でも、筋肉の成長を阻害しちゃうとかで…。

 ちなみに、イワクニ主将も先達から「オナ禁による稽古成果向上」については聞かされてたそうだけど、伝統と言うか儀式

めいた何かと言うか、気を引き締めたりムラムラをパワーに変えるための欲望封印だと思ってたらしい。科学的根拠があると

知ってビックリしたって…。

 僕は労いを込めてサツキ君の背中を撫でてから、少し体を離して褌の紐に指をかけた。…えぇと…。

「ゴメン、結んであるのってどこ?」

「前。垂らした部分の内側だ」

 左右で捻ってあるだと思ってたんだけど、違う結い方みたい。前ね、前…。ん?

「前って…、このお肉の下?」

「おお」

 デンと突き出たお腹の下、段がついたお肉に一際深く食い込んでるフロントに結び目があるらしい。…なるほど!ここなら

圧迫されてるから結び目が緩まないとかあるのかもしれないね!そもそも結び難そうだけど!

 お腹の肉を押し上げるように、下から手を当てて押さえながらピラッと布を捲ってみたら、サツキ君が恥かしそうに身じろ

ぎした。…あ、結び目あった。結んだ紐の内側から上に出た布が、前に垂れる格好になってる。結び目隠しでもあるのかな?

この締め方って。

 結び目を解くと、紐はプンッ…と外れて広がって、褌がハラリと下がる。

 あらわになったサツキ君の三角コーナーでは、可愛いアレがもうピコンと勃ってた。そこをしばらく見てから視線を上げて

顔を見上げたら、サツキ君は恥かしがってサッと目を逸らす。思わず頬が緩むリアクション…。

「晩ご飯まで時間もあんまりないし、じっくりやるのはまた今度、ね?」

「ん…」

 さっちゃんはそっぽを向いたまま、顎を引いて頷いた。


 仰向けになったサツキ君は、広げた太い脚の間にちょこんと正座してる僕と目を合わせないように、両手で顔を覆ってる。

 その恰好がかわいくて、こんもり山になってる大きなお腹を撫でて、じりじり股間に手を寄せて行きながら焦らす。ポンポ

ンッて、軽く叩いたら張りのあるお腹が良い音で鳴って、サツキ君はフルルッと身震いした。

 しっかり舐めて湿らせた指をヒタッとお尻の穴にあてがったら、肛門がすぼまって、おちんちんがヒクンッて震えて、タマ

タマがキュッて縮んだ。

「力抜いててね?」

「う…ん…!」

 鼻にかかった返事を聞いてから、湿らせた指をゆっくりお尻に埋める…。

「ひあ…!」

 おや?さっちゃんが妙に可愛い声を上げた。

 お尻の締め付けが強い。それに、指を入れただけで反応が…。

「んっ!んんうっ…!」

 ちょっと指を動かしただけで、可愛い声を漏らして悶えるさっちゃん。

 大会前から数日行為禁止にしてたせいか、いつもより敏感になってる気がする…。

「き、きっちゃ…ん…!」

「うん。何?」

「ちょっ…と…!はげ…し…」

 ええええええ!?かなりソフト…って言うか、まだ軽く弄っただけだよ!?

 ふぅふぅ息を漏らすさっちゃんは、早くも余裕が無い感じで…。

 ………クイッ…。

「やぅっ!」

 …クチュクチュ…。

「ひあうっ!」

 物凄く反応がいい!指を動かすたびに、さっちゃんは可愛い声を上げておちんちんをピクピクさせる。さきっちょからはタ

ラタラと、いつもより量が多い先走りがとめどなく漏れ続けてる。

 …これからは、少し長めの日数でインターバルを設けるのもいいかもしれない…。こんなに反応が良くなるなら我慢のし甲

斐もあるよね!

「き、きっちゃ…!」

「うん」

「も、漏れ…そ…!」

「うん」

 …うん?

 顔を上げて思わずさっちゃんの顔を見る。泣きそうな顔で僕を見下ろすさっちゃんは…、え!?限界顔!?もう!?

「え!?まだ二分くらいしか弄ってな…」

 ビックリして思わず身を乗り出した途端、僕の指がグイッと、勢い余って前立腺を押し込んだ。

「ひんぐっ!?」

 息を詰まらせるさっちゃんの体が、ブルルッと震えた。

「も、漏らしちゃ…ううううっ!」

 ドプリ…。おちんちんの先端から先走りに代わって溢れたのは、白濁した液体…。

 普通の射精とは違う、押し出されるようにダラダラと零れる精液を、僕は呆気にとられながら眺めていた。

 …これからは、インターバルを設けるにしても、期間を考えた方が良いかもしれない…。こんなに早くイッちゃうのは、流

石にちょっと…。



「…キイチ、機嫌は…直ったかな…?」

 夕食の席で、お父さんがチラチラ僕を窺いながら、控えめに訊いてきた。僕はお母さんを見て、お母さんも首を傾げる。

「今朝にはもう直ってたけど…」

「ねぇ?お父さん神経過敏なんじゃないかしら」

 僕とお母さんの言葉を聞いて、お父さんの顔がホッと緩んだ。

「それじゃあちょっと相談が…、泊まりに来る同級生の事なんだけれどねキイチ?」

「はい!」

 オシタリ君の事だ!サツキ君家とウチと、半々で寝泊りする事になってるから…。

「キイチは自分の部屋でいいって言うがね、もしそれでリラックスできないようなら、来る前に奥の和室を片付けておいても

良いかと思ったんだが…」

 お父さんが言うには、せっかくの休みで外泊なんだから、旅館に泊まる感じで一部屋あてがってあげても良いんじゃないか

なぁ、って…。

 お父さんとお母さんには、オシタリ君の家庭環境の事は話してある。ふたりとも流石に同情して、こっちに居る間は不自由

させたくないって言ってくれたんだ。

「それじゃあ、オシタリ君に訊いて…。あ、待てよ…?」

 僕はちょっと考える。遠慮されるのは目に見えてるし、せっかくだから黙っておいてサプライズにしようかな…。

 この思い付きを、お父さんとお母さんに相談してみたら、ふたりとも賛成してくれた。

「そうと決まったら早速掃除だ!」

「お父さんは足が本調子じゃないんですから大人しくしててくださいね?私がやりますから」

「僕も手伝うよ!安心して任せて!」

「いや、お父さんも混ぜて欲しいんだけれど…」

 会話が弾む食卓。賑やかに更けてく夏の夜。帰ってきたんだなぁっていう実感と、これからの楽しみで、僕の気持ちはかな

り弾んだ。

 オシタリ君、喜んでくれるかな…!?