第十話 「かわいくなっちゃうんだね?」
「…でさ、これが本当にすげぇらしいんだ。もうリアル過ぎてスクリーン見てるだけで酔ったりするってよ」
「それは…、興味はあるけど、見るにはちょっと勇気がいるね…。僕、乗り物苦手だし」
僕の名前は根枯村樹市。東護中三年生、図書委員会所属。クリーム色がかった白い被毛の猫の獣人だ。今日は友人であり、
秘密の恋人でもあるサツキ君の部屋で会話を弾ませている。
今日は土曜日で学校は休み。先日借りた本を返すために、図書館の帰りにちょっと寄るだけのつもりだったんだけれど、彼
が強く勧めるので、少しだけお邪魔している。…少しだけっていうか、話に夢中になってすっかり長居しちゃってたんだけれ
どね…。
僕達はベッドに並んで腰掛けて話をしていた。今の話題は最近公開された映画について。見に行ったクラスメートからサツ
キ君が聞いて来た話である。僕は映画もテレビもほとんど見ないから、彼からの情報は実に貴重だ。
「ところで、もうすぐ文化祭だね」
「ああ。何すんだろな?ウチのクラス」
「出し物は前の週までに決めるらしいよ?」
「まあ、何になってもあんま興味ねぇけど…」
サツキ君はどうでもいいと言った様子で肩を竦めた。が、
「そして、文化祭が終われば中間試験だね」
この話題には露骨に顔を顰める。
「…ヤなこと思い出させんなよ…」
「夏休みにミッチリ勉強したじゃない?中間は範囲が比較的狭いし、楽だと思うよ?」
「…う〜ん…」
腕組みをして唸るサツキ君を見ていたら、思わず顔が綻んだ。
基本的に楽天家で大雑把な彼が物事を真剣に悩む姿は、普段の学校生活ではあまり見られない。なんとなく僕のささやかな
特権に思えてくる。
「厳しそうなら、また教えてあげるから」
「…そん時は…、悪ぃけどまた頼もうかな…」
一応僕達は(周りに秘密で)交際している訳だけれど、僕とサツキ君の関係は例の告白以後も特に変化はない。
一緒に帰って、商店街に行って、公園や神社、彼の部屋などで長話をするだけ。確かに、他の友人やクラスメートには見せ
ないような一面も、僕にだけはポロッと見せてくれるけど…。
少し照れくさいけれど、思い切って聞いて見る事にした。
「ねえ、恋人同士ってさ、こうやって話をするだけかな?」
「んがふぉっ!?げほっ!げほっ!」
僕の質問に、コーラを飲みかけていたサツキ君は派手にむせ返った。
「な、なんだよいきなり!?」
「いや、だって…。前と何も変わってないでしょ僕達?付き合い始めてから、もう一ヶ月にもなるのに」
サツキ君はどぎまぎしながらこぼしたコーラを拭いている。
「例えばさ、サツキ君の考える「付き合う」って、何?」
「何って、そりゃあお前!」
サツキ君は言いかけて、口をパクパクさせ、それから口を閉じ、やがて首を傾げた。
「何…だろ…?一緒に出かけて…、ダベって…、それから…、…何だ…?」
…驚いた。告白するからには僕が知っているよりずっと先まで進んでるんだとばかり思ってたのに、サツキ君の考える「付
き合う」は、ひょっとして小学生レベル…?
好きとは言ってくれたものの、彼が僕をどういう風に捉えているのかが気になり始めた。
「ええと…、例えばさ…、サツキ君は…その…、夜の…する時には、その…」
僕の事、考えてしたりとか…するのかな?…って僕、何を聞こうとしてるんだ…!?
言っている内に想像してしまい、カーッと顔が熱くなる。普通に「おう」とか答えが返ってきたら、どんな顔をすればいい!?
思わず俯いてしまった僕は、いつまで経ってもサツキ君が何も言わないので、恐る恐る顔を上げる。
サツキ君は首を傾げていた。
「夜の、何だよ?」
ななななな何ってそれは…、言わせる気!?
「ほ、ほら…、その…、…オナニー…」
顔がカーッと熱くなった。何してるんだろう僕!?
「…オナニーって何だ?」
しばしの沈黙の後、サツキ君は、なんだか不思議そうな顔で僕を見ながらそう言った。
「……………へ?」
「いや、だから何だ?ソレ?」
とぼけている様子は無い。サツキ君は、自分から切り出して赤面している僕の様子を目にし、首を傾げるばかりだった。
…どうしよう?知らないなんて思ってもみなかったから、この角度から切り込んでみたのに…。
サツキ君は答えを待っているのか、僕をじっと見つめている。
まさか自分から振っておいて、「やっぱりなんでもない」なんて言える訳ないし…、適当に誤魔化してもいいけど、…こ、
これについてはきちんと説明した方がいいよね?健全な男子の常識(?)だし…。さて、どう話せばいいか…。
どう説明したものか迷った挙句、僕は(自分でもどうかしていたんだと思うけど…)サツキ君にオナニーが何なのか実技指
導することにした。
…告白された側の僕がそこから教えなければならない辺りが、すでにかなりおかしい…。
「例えばさ…、エッチな写真とか見たり、興奮した時に、チンチン大きくならない?」
サツキ君は、どうやらそっち方面の話題である事に気付いたらしく、顔を赤くした。
「え?お、おまっ!?ななな、何言って…!?」
「恥ずかしがらないで答える!(僕だって恥ずかしいんだから!)…なるでしょ?」
「…お、おうっ…」
「どういう時に大きくなる?」
「そ、そりゃあ…」
サツキ君は一瞬口ごもり、俯いてボソリと言った。
「…お前とひっついた時とか…」
この答えに、僕はますます顔が熱くなった。…そういえば、熱中症でフラフラになって、もつれあって転んだ時、サツキ君
の股間が…。
妙な気分になって、僕はサツキ君に近寄った。そして、その手をそっと握る。ビクリと体を硬くしたサツキ君に、僕はその
ままペタッと体を摺り寄せた。
「今も、興奮してる?」
「…すこ…し…」
サツキ君はガチガチに固まったまま頷く。
…かわいい…。緊張に強張ってるサツキ君を見て、そう思った。
僕自身、男同士でこういうのって、これまでは良く分からなかったけど、今はなんだか興奮している。そしてボクは…、
「むぐっ…!?」
僕は、サツキ君の唇に、自分の唇を重ねた。…僕の人生で、二度目のキス…。
サツキ君の手が反射的に僕の肩にかかり、ぎゅっと掴んだ。強張っているサツキ君の首に腕を回し、僕は抱きつくような格
好で唇を重ね続ける。…次は確か、こうして唇を重ねたまま…。
僕は合わせた唇から、サツキ君の口の中へ舌を割り込ませる。噛まれたらどうしようかと思ったけど、サツキ君は固まった
ままだった。
舌で口の中をまさぐると、やがてサツキ君も舌を動かし、ボクの舌と絡ませた。
奇妙な感覚だった。ゾクゾクする、でも不快ではない感覚が背筋を走る。最初はされるままだったサツキ君は、やがて僕の
体にぎこちなく腕を回した。しばらくの間唇を重ね、舌を絡ませあったあと、僕は唇を離し、鼻がくっつきそうな距離でサツ
キ君の顔を見つめた。
サツキ君は少し俯き加減で、恥ずかしそうに上目遣いで僕を見ている。その表情は小さい頃の彼と全く同じで、たまらなく
かわいかった。
サツキ君の股間にそっと手を伸ばすと、その腰が反射的に逃げそうになった。
「大丈夫、僕に任せて…。オナニーがどういうものか教えてあげるから」
一瞬身を引きそうになった彼にそう言うと、僕はハーフパンツの柔らかい生地越しに、サツキ君のそれに触れた。
不思議なことに、男同士でこういう行為をする事を、僕は抵抗無く受け入れていた。…考えてみれば、前にキスした時もそ
うだった。自分では気付かなかったけれど、もしかしたら僕もサツキ君と一緒で、元々そのケがあったんだろうか…?
ピクンと、サツキ君の体と、それが動いた。
「キ、キイチ…、俺、恥ずかしい…」
「うん、僕も…、ちょっと恥ずかしい…」
サツキ君のそれは、もう固くなっていた。僕はベッドを降りて彼の正面に回り、屈み込む。そして股間に小さなテントが張
られたズボンに手を掛け、そっと降ろした。中に穿いていたのはブリーフ。…ん?
「あれ?トランクス派じゃなかったっけ?」
「ぶ、部活と保体の日は…。どっちもねぇ日と、家に居るときはこっち…。…す、スースーしてて…、なかなか馴れねぇんだ
よ、トランクス…」
あまりにもドギマギしながら答えるものだから、僕は小さく吹き出してしまい、サツキ君は恥ずかしそうにそっぽを向く。
「少し、腰を浮かせて」
サツキ君がお尻を上げると、僕はズボンとブリーフをすっと膝まで下ろす。
サツキ君のおチンチンは…意外だけどかなり…、っていうか…すごく小さい…。太さは僕の人差し指くらいで、短くて完全
に皮を被ってる。…これは確か、短小包茎っていうやつだったかな…?興奮しているらしく、小さいおチンチンはピンッと勃
っていた。
でも、それが見えたのは一瞬で、サツキ君は素早く両手で股間を隠した。
「隠しちゃだめ、手を退けて。大丈夫だから…」
僕が手を添えると、サツキ君は頷き、恥ずかしいのを堪えて手をどけた。
「触るよ?大丈夫だから逃げないでね?」
サツキ君は硬い表情で頷く。隠したいのを必死に堪えている様子だった。
僕はサツキ君のおチンチンに触れた。柔らかい皮に指先が触れた瞬間、それはピクンと動き、サツキ君の腰が逃げそうにな
ったけれど、彼はなんとか自制する。
考えてみれば、逃げそうになるのも無理も無いんだよね。恥ずかしいのはもちろん、急所を他人に晒してる訳だし…。本能
的な恐怖感ってあると思う。
僕はおチンチンをそっと握り、皮を根本に向かって少しずつずらす。
「いつっ!」
三分の一くらい亀頭が顔を出した所で、サツキ君が声を上げた。
「ごめん、痛かった?」
「少…し、だけ…」
サツキ君は目を潤ませてそう言った。…かわいい…。
「それじゃあ、始めるよ?」
僕はサツキ君のチンチンをそっと握り、ピストン運動を開始する。初めて経験する刺激なんだろう。サツキ君の腰がまた逃
げようとした。
「ちょっ…!まっ…!あぅっ…!キ…イチ…!くすぐっ…たい!」
「気持ち良くならない?」
「…な、なって、る…!…っく…!すご…くっ…」
サツキ君は刺激に耐えるように、歯を食いしばり、目をギッと瞑っていた。
ピストン運動の刺激に誘われ、サツキ君の亀頭の先から透明な液が漏れる。
気持ち良いんだろう、時折サツキ君の口から、喘ぐような息が漏れた。サツキ君が僕におチンチンを弄られて感じている。
その事が、僕を興奮させた。
なんて言うか…、一言で言うと意外。こんな大きな体して、厳つい顔して、なのに表情も声も(おチンチンも…)やけにか
わいい。これ、反則だよ!
「キイチ…!なんか…、ヘンなっ…感じが…!小便出そう…!」
サツキ君が目尻に涙を溜めて言った。思ってたより刺激に耐性がなかったみたい。初めてだから当り前か…。
「大丈夫、おしっこじゃないよ。そのまま出して良いんだからね」
答えながら、僕はティッシュを探す。探…、ああ!?と、遠い!?ティッシュの箱はドアの傍にある棚の上、ベッドから3
メートルは向こうにある。なんて使用頻度の低さが良く分かるレイアウトなんだろう!
「サツキ君、ちょっとだけ我慢して!」
「そ…んあっ!…こと…、言っ…!…ふあぁっ!!!」
サツキ君はビクッと体を奮わせた。亀頭の先から白濁色の液体が飛び出る。両手が塞がっていた僕は、反射的にサツキ君の
おチンチンを咥え込んでいた。
……………苦っ!?
苦いらしいとは知ってたけど、これほどとは…!口の中がイガイガする!でもって結構生臭い…!
サツキ君が痙攣するように体を震わせる度、精液は止め処なく溢れる。初めてのせいか、かなりの量だった。
ようやく納まると、サツキ君のおチンチンを咥え、口の中に精液を含んだまま、僕は彼の顔を見上げた。目尻に涙を溜めた
ままだったけれど、彼はトロンとした目で、恥ずかしそうに僕を見下ろしていた。
その顔があまりにもかわいくて、見た途端に、僕は思わず口いっぱいの精液を飲み込んでしまった。
……………苦っ!!!
「キイチ…、俺、どうしちゃったんだろ…?なんか、ヘンな気分…」
ティッシュでおチンチンをきれいにしてあげながら、僕はサツキ君の顔を見上げる。最初こそ抵抗してたけれど、途中から
はずっと大人しくしていた。
「今のがオナニーだよ。…と言っても、本当は自分で今のをやるのがオナニーだから、少し違うかな?たぶん、皆やってる事
だと思うけど…」
「…誰からも聞いた事ないんだけど…」
快感の余韻が残っているのか、どこかぼーっとしている彼は、少し不安そうにも見えた。
その様子はまるで小さい頃に戻ったようで、なんだか言葉使いも少し変わってる。
「このベタベタしてる白いの、何?」
「精液って言うやつ。ほら、夢精とかの…、って経験無かったのかな…。とにかく保体で習ったよね?ところで、どうだった?
初めてのは」
サツキ君は恥ずかしそうに目を伏せた。その仕草がまたかわいくて、思わず抱きつきたくなる。
「…ん…。ちょっと恥ずかしかった…。けど…、…気持ちよかった…かな…」
「そう。良かった」
少しほっとした。僕も誰かのおチンチン触るのなんて、初めてだったから。
「ちょっと、トイレ借りるね?」
ぼーっとしているようなサツキ君にそう告げ、僕は立ち上がる。…実は、僕もかなり興奮していて、パンツの中でチンチン
が膨張していた。
「あ、あのさ…」
「うん?」
振り返った僕に、サツキ君はもじもじしながら言った。
「お、俺も、キイチに同じこと…、その…、…してあげたい…」
一瞬、彼の言葉の意味が分からなかった。脳が意味を理解したと同時に、頭にカーッと血が昇った。
「い、いやっ、僕は良いよ…」
「キイチ…、俺に触られるのは、…イヤ?」
大きな体を縮め、サツキ君は上目遣いに僕を見つめる。う…!そ、その縋るような視線は反則だ…!僕はゴクリと唾を飲み
込み、首を左右に振った。
ベッドまで引き返すと、サツキ君はおずおずと僕のベルトに手を掛ける。
「いいよ、自分で外すから…」
そう言ったけれど、サツキ君は首を横に振り、ぎこちない手付きで僕のジーンズを脱がせてくれた。現れた下着を見て、サ
ツキ君はポツリと呟く。
「…トランクス…」
「…う、うん…」
…なんだか微妙な空気…。
僕達は位置を交代し、さっきとは逆になる。
自分で思っているより、よっぽど興奮していたらしい。僕の股間は、これまでにないくらいぐしょぐしょに濡れていた。
サツキ君はそっとトランクスを下ろし、僕のチンチンを見て目を丸くした。
「…でっかい…、それに、皮が…」
僕の亀頭は半分顔を覗かせていた。少し前から、もう完全に剥けるようになっている。サツキ君はでっかいって言ったけど、
たぶんサイズは平均くらいなんじゃないのかな?比べた事無いから分からないけど…。…サツキ君のと比べれば、それはまぁ
大きいけどさ…。
「…やっぱり…、皆、ほとんどは剥けてるのかな…?」
「…どうだろう?僕も、他人のを見る事なんてまず無いから…」
サツキ君は僕のチンチンをじっくり見つめる。恥ずかしさのあまり顔から火が出そうだったけど、僕も彼のおチンチンを見
て触った後だ。我慢する。
サツキ君は覗き込むようにして僕のチンチンを見つめた後、おそるおそるといった様子で手を伸ばした。
僕のチンチンを彼の大きな両手がそっと握る。その手が根本に向かって動き、皮がめくれて亀頭が完全に現れる。サツキ君
はまじまじとピンク色の亀頭を見つめたあと、指先でそっと触れてきた。その刺激に、思わずビクンと体を震わせると、サツ
キ君はビックリしたように手を離した。
「ご、ごめん!痛かった?」
「ううん、痛くない。大丈夫だよ」
他人に触られるって、自分で触るのとは全然違う。ちょっと触られただけなのに、凄い刺激が僕の体を貫いた。
サツキ君は少し戸惑いながら、僕のチンチンを両手でしっかり握り、ゆっくりと上下に動かし始めた。緊張のせいか、きつ
く握られて少し痛い。
「サツキ君…、少し、手を緩めて…、ちょっと、きつい…」
「あ、ごめん…!」
必死そうだったサツキ君の手が、少し優しく僕のチンチンを包みなおした。
ゆっくりと上下する手から、意思に反して腰が逃げそうになる。奇妙な興奮と、恥ずかしさとが入り混じり、それと一緒に
快感が押し寄せる。
ゆっくり、ゆっくり、おっかなびっくり、気遣うように優しく、サツキ君は僕のチンチンをしごき続けた。その表情があま
りにも真剣で、恥ずかしさと愛しさで体中が熱く火照る。股間から突き上げてくる快感の波は、もう耐え難い程になっていた。
「サツキ、君。ダ、メ…!も、もう、出るっ…!ティッシュを…!」
僕がそう言うと、サツキ君は事も有ろうに、僕の股間に顔を埋めた。彼の温かい舌が亀頭に触れた瞬間、僕はサツキ君の口
の中に射精していた。
僕が全部出し切ると、それまで我慢していたのか、ずっとチンチンを咥えていたサツキ君は、体を震わせながらゴクンと精
液を飲み込む。そして、僕の股間から顔を上げた。
「に、苦っ…!」
そう言ってむせ返り、目尻の涙を拭う。
「キイチ、よくこんなの普通に飲めるね?」
「普通にじゃないよ。僕だって初めてだったんだから。…でも、君のだったから平気…」
言いながら顔が熱くなる。サツキ君も俯いて頭をガリガリと掻いた。
心地よい気だるさと、奇妙な充実感。恥じらいは少し薄れていた。だって、彼も下半身まる出しのまんまだし。
「今のを自分のおチンチンにやるんだ。それがオナニー」
「自分でやる時は、どうやって飲むの?」
……………。
「…いや飲まないから…。ティッシュを使うの」
僕の言葉に、サツキ君は感心したように頷く。…本当に何も知らないんだね…。
「…ところでさ、キイチの…、でっかいよね…」
「え?そうかな?普通じゃない?」
「じゃあ、やっぱり俺のが…ちいさい…?」
思わず正直に頷きかけた僕は、彼の深刻そうな表情に気付く。…気にしてるんだな…。
「だ、大丈夫だよ!君の体と同じで、きっと大きくなるっ!」
しまった!これじゃフォローになってない!今のは「小さくなんかないよ」って否定するところだ!…と思ったけれど、サ
ツキ君はちょっと嬉しそうにもじもじした。
「そ、そうかな?」
「…そっ、そうだよ!きっとそう!」
力強く頷いてみせると、安心したのか、サツキ君は恥ずかしそうに笑った。そういうことで悩んでるのも、ちょっとかわい
いな…。
「でも、ビックリした」
「何が?」
「こういうことすると、サツキ君、かわいくなっちゃうんだね?」
「…かわいくって…、俺が?」
「うん。すごくかわいい」
サツキ君は目を丸くして、それから恥ずかしそうに俯いてしまった。僕だけが知ってる、かわいいサツキ君。なんだか、す
ごく幸せな事に思えた。
「ごめんね、すっかり長居しちゃった」
玄関を潜りながら言うと、サツキ君は首を横に振る。余韻が抜けたのか、その様子はもうすっかりいつもの彼だ。
「何もすることなくてヒマだったし、…丁度キイチに会いてぇと思ってたし…」
言葉の後半は、照れ臭そうにそっぽを向きながら、小声で呟かれた。
送って行くと言ってくれたけれど、それは丁重に断った。…付き合うようになった今でも、家を知られるのだけはやっぱり
避けたい…。
僕は小さく吹き出すと、素早く周りを見て、それから一歩前に出て背伸びする。
素早く唇を重ねると、サツキ君は目をまん丸にして、二、三度瞬きした。
「実は僕…、この間君にしたのがファーストキスだったんだ」
「俺も…、実はあれが初めてだった…」
唇を離して正直に言うと、サツキ君は鼻を擦りながら応じた。
「そうなんだ?お互いに、「初めての人」だね?」
「お、おう…!」
僕が照れながら笑いかけると、サツキ君も照れたような笑みを返してきた。
「それじゃあ、またね」
「おう!またな」
手を振ってサツキ君と別れ、僕は独り、帰路につく。
帰っても部屋に篭るだけの、辛い事しかないあの家でも、今日は幸せな気分で居られるような気がした…。