第二十九話 「メリークリスマス!」

俺、阿武隈沙月。東護中三年で、濃い茶色の毛をした熊の獣人。胸元にある白い月の輪がトレードマークだ。

「良いか?冬休みだからと言って、ハメを外しすぎないようにしろ」

キダ先生はクラスの全員を見回して、そうクギを刺した。

が、言葉の内容とは裏腹に、なんとなくソワソワしてるように見える。

 …そういや、今朝方廊下ですれ違った時はやけにニヤニヤしてたっけな?…ひょっとして…。ぬははっ!

「特にお前達は受験生なのだからな、それを忘れるな」

っと、そうだった。最後まで渋ってた俺も進学する事に決めたから、このクラスは全員が受験生になったんだっけな。

「では皆、良い年を」

キダ先生の話が締めくくられると、俺達は学級委員長のナギハラの号令に合わせて起立し、礼をした。



「さぁて休みだ休みだ!」

帰り道、歩きながら伸びをした俺の横で、キイチが苦笑した。

「本当に嬉しそうだね」

「あったりめぇだろ?明日から思う存分遊べんだからよ!」

キイチはキョトンとした顔で俺を見上げ、呟いた。

「遊べないよ?」

…はい…?

「え?だって期末も終わったし…、追試にもならなかったし…」

「でも入試はもう一ヶ月後じゃない?キダ先生も言ってたけれど、僕達は受験生だっていう事を忘れちゃダメだよ?」

…う…?つまりあれか?せっかくの休みなのに勉強三昧にするつもりかキイチ?

「で、でも正月だぜ?」

「「受験生に正月は無い」っていう名言、知ってる?」

「…そんなぁ…」

思わず耳を伏せてしょぼくれた俺に、キイチは小さく吹き出した。

「とは言っても、たまには息抜きも必要だしね。少しくらいならいいかな」

「やりぃっ!さっすがキイチ!話が分かるぜ!」

そうと決まりゃあ、さっそくどっかに出かける計画を…。

なんだかんだ言って、一緒に雄流和に行って以来デートなんぞしてねぇからな!おし!帰りがてら情報誌でも買って…、

「あ!せんぱ〜い!」

俺が考えを巡らせてるとこに、聞き馴染んだ声が飛んできた。

「あ、ジュンペー君だ」

振り返ったキイチが、駆け寄って来る狸の獣人に手を振った。

柔道部の後輩、ジュンペーは、俺達の前で足を止めると、ペコッとお辞儀した。

「どーもっ!突然ですけど先輩方、明後日って何か予定ありますか?」

俺とキイチは顔を見合わせる。

「いや、特に決めてねぇけど。何だ?」

ジュンペーは顔を綻ばせると、俺とキイチの顔を交互に見ながら話し始めた。

「明後日はクリスマスイブじゃないですか?昨日オレとダイスケで相談したんですけど、せっかくだから先輩方も誘ってどこ

か遊びに出かけようかなって」

ああ、なるほどなぁ…。

「もちろん、お二人だけで過ごしたいなら無理にとは言いませんけど」

俺が目で問うと、キイチは笑みを浮かべて頷いた。どうやら許可してくれるらしい。

「そうだな。邪魔でさえねぇなら、俺達も一緒に行くか?」

「邪魔だなんてとんでもない!ダイスケも先輩方に会いたがってましたし、オレも自分らみたいな他のカップルがどういうん

だか興味あるんですよ」

「そうだね。お互いの情報交換にもなるし、一緒に出かけてみるのもいいかもしれないね」

キイチもそう言って頷いた。

「じゃあ決まりですねっ!先輩方、行きたい所とかありますか?」

「いや、特にねぇけど、お前達は何処行くつもりだったんだ?」

「隣町に最近オープンした屋内スケート場です。ボーリングもカラオケも併設してるし、あそこなんか良いかなと思ってたん

ですが」

ああ、そういや俺が入院してる間にオープンしてたな…。

「まだ行った事ねぇし、どうだろキイチ?」

「賛成。…でも、良いの?」

「ん?何がだ?」

聞き返した俺に、キイチは肩を竦めて言った。

「受験生に「滑る」「落ちる」は禁句でしょ?」

俺とジュンペーは思わず顔を見合わせる。

「や、やっぱり他のトコにしますか?」

「…う〜ん…」

悩み始めた俺に、キイチは笑いながら言った。

「まぁ、ただの験担ぎだけどね。心配しないでも、サツキ君の事は僕がちゃんと責任もって、合格させてあげるよ」

「なら最初から言わねぇでくれよ…」

顔を顰めて抗議した俺に、キイチは悪戯っぽく笑った。



そして24日のクリスマスイブ。

俺とキイチがスケート場についた時には、ジュンペーはすでに到着して待ってた。その隣には黒い熊獣人が立ってる。…あれ?

「悪ぃ悪ぃ。待たせたか?お前いっつも早いよなぁ」

微かな違和感は棚上げにして声をかけると、ジュンペーは首を横に振った。

「いえ!今来たばかりですからっ」

「お邪魔しちゃって悪いけれど、今日はよろしくね」

「やだなぁ、だから邪魔なんかじゃないですってば!」

キイチの言葉に笑みを返すと、ジュンペーは傍らの熊獣人の袖を引っ張った。

「彼が球磨宮大輔(くまみやだいすけ)です」

「お久しぶりですアブクマ先輩。それと…、ネコムラ先輩は初めまして。クマミヤです」

「初めまして。よろしくねクマミヤ君」

少し緊張したようにクマミヤが挨拶し、キイチがにこやかに挨拶を返す。

「サツキ先輩は、ダイスケとは春にも会いましたよね」

「おう。でもなんつぅか…」

ペコリと頭を下げたクマミヤを見ながら、俺は首を傾げた。

「太ったか?前はもっとこう、細く無かったっけ?」

「…それ、君が言う?」

キイチから即座につっこみが入った。が、これは無視。

「気付いてませんでした?ダイスケ、中体連から階級を上げたんですよ。で、減量を止めたから、確かに春先と比べて少しプッ

クリしましたね」

なるほどなぁ。上背もあるし、骨格もがっしりしてるから、確かにジュンペーと同じ階級は無理があるだろ。

「ところで、俺の事は名前で呼んでくれていいぞ?ジュンペーの彼氏なんだ。他人じゃねぇからな」

「あ、はい。じゃあ、アブクマ先輩もオイラの事も名前で呼んでください。あ、…サツキ先輩ですね…」

「おう。分かったよダイスケ!」

モジモジと、照れてるように言ったダイスケに、俺は笑顔で応じた。

「よろしくね。ダイスケ君」

キイチも笑顔でそう言った。

「あ、あの…呼び捨てで良いんですけど…」

ダイスケが恐縮したようにそう呟いた。

「キイチは誰でも君付けなんだよ。俺だって未だに「サツキ君」だしな」

「ああいう事してる時なんかは「さっちゃん」って呼ぶけどね」

『ああいう事?』

キイチの発言で、ジュンペーとダイスケが目を丸くして顔を見合わせた。…いきなり何言い出すんだよキイチ!



「先輩、スケートも上手いんですね?」

「そか?人並みじゃねぇかな?」

後ろ向きに滑りながらそう応じると、横に並んだジュンペーは首を捻って後ろを振り向く。

「ダイスケ、本当に柔道以外はまるっきりなんですよね」

その視線の先では、おっかなびっくりヨロヨロと滑っているダイスケの姿。…う〜ん、かなり必死の形相だな…。

「まぁ、こっちも運動に限っては得意がほぼゼロだけどな」

俺はそう応じて目の前に視線を戻す。

そこには、俺の両手に必死にしがみつき、硬い表情で足をガクガクさせながら滑っているキイチの姿。…腰が無茶苦茶引けてる。

俺が後ろ向きに滑ってる理由はこれだ。キイチはやっぱりっつうか何つうか、スケートもダメらしい。

「て、手を放さないでねっ!?絶対だよっ!?」

キイチは俺の顔を見上げながら、さっきから何度となく繰り返してるセリフを言う。

「分かってるって。もうちょっと体の力抜けよ?こけたってどうって事ねぇから」

「転んだら痛いじゃないっ!」

「…いや、そりゃあ少しは痛ぇけどよ…」

応じながら、思わず笑みが込み上げる。こんな必死なキイチを見れるなんて珍しい事だしな。こいつは新鮮だ!

「ジュンペー。俺達に構わねぇで楽しんでろよ」

「う〜ん…。何でネコムラ先輩もダイスケも、滑れないのにオーケーしたんだろう…?」

ジュンペーは速度を落とし、フラフラ滑ってるダイスケが追いつくのを待ちながら首を捻る。…ごもっとも。

…まぁ、キイチはハナっから見物に回るつもりだったみてぇだが、もちろんそんなのは認めねぇ。俺が強引にリンクに引き

ずり込んだけどな。

「ひゃんっ!」

削れた氷の段差にエッジを取られ、キイチは可愛い悲鳴を上げて俺の体にしがみついた。

いやぁ!良いなぁこういうの!雷ん時は深刻過ぎてさすがに笑えねぇが、こういう状況なら大歓迎だ!

「そろそろ足疲れてきたろ?少し休憩するか」

俺は頃合を見てキイチを牽引し、リンクから連れ出した。

「あー…、足首…、がくがくだぁ…」

ベンチに座ったキイチは、靴を脱いで足首をグリグリ回しながら顔を顰めた。俺はキイチの前で屈み込み、足首を軽く揉ん

でやる。

「これ、明日は確実に筋肉痛だね…」

「ぬはは!んじゃ今夜マッサージしてやるよ」

「うーん。お願いしようかな…」

キイチは言葉を切り、俺の後ろを見た。

振り返ると、ジュンペーとダイスケがリンクの手すりに両腕を乗せてもたれ掛かり、ニヤニヤしながら俺達を見てる。

「あ、オレ達の事は気にせず、どうぞ続けてくださいっ!」

…見せもんじゃねぇっての…。

結局、キイチは一人で滑れるほどには上達しなかった。

まぁ、また誘って、次回もこんな具合でお楽しみだなっ!

それから俺達は、軽くボーリングとカラオケを楽しみ、夕方になってから移動を始めた。

次の行き先は…、



『おじゃましまーす』

家の玄関で、ジュンペーとダイスケは揃って声を上げた。

「ちっと寛いでてくれ。キイチ、居間に案内してやってくれよ」

「うん。二人とも、こっちに」

ジュンペーとダイスケを家に上げて、キイチに案内を任せ、俺は台所に向かった。

実は今日、ウチの親はお袋の実家に年末の挨拶に行ってる。

つまり俺の家なら気兼ねなく過ごせるってことで、こうして二人を呼んだわけだ。ここなら辺りをはばからねぇで、俺達特

有の話もできるって寸法だ。

エプロンを身に付けた俺は、まずシチューの入った鍋を火にかける。実はかなり早起きして、朝の内にビーフシチューを煮

込んどいた。言っとくが自信作だぜ?

シチューを暖めている間にグリルで七面鳥を焼き、キイチの好物の唐揚げを用意。次いで鍋を替え、白身魚のフライ、ポテ

トを次々と揚げる。

これもあらかじめ作っといたタルタルソースとサラスパを冷蔵庫から出し、オーブンで照り焼きチキンとツナのピザを焼く。

ピザの焼き上がりを待つ間に、野菜と共に皿に盛りつけた揚げ物類を居間に持ってくと、

「…うお…、すげ…」

腕を振るった料理を前に、ジュンペーが目を丸くした。

「料理できるって、本当だったんですね」

ダイスケも感心したように料理に見入った。

「声をかけてくれれば運ぶのに」

キイチは微苦笑しながら立ち上がった。

「オレ達も手伝いますよ」

「んじゃ、悪ぃけどシチューとサラスパ運んでくれ、もうちょいでピザと七面鳥も焼けるからよ」

三人は頷くと俺に続いて台所に入った。一気に賑やかになった台所で、俺達は和気あいあいと飯の支度を続ける。

「じゃあジュンペー、シチュー分けるから持ってってくれ。シチューも皿もかなり熱いから気ぃつけろよ?」

「はいっ」

「あぁダイスケ、そこのボールにタルタルソース入ってるから、横に重なってる小皿に分けてくれるか?」

「うっす。これですか?」

「そう、そいつだ。キイチ。オーブンの窓覗いて、ピザのチーズの溶け具合見てくれ」

「良い具合にとろけてるみたいだよ」

「お、じゃあオーブン止めといてくれ。ピザは俺が出すから、テーブルに大きめの皿出しといてくれるか?」

「了解。…ねぇ、このお皿でいいかな?」

「おう。悪ぃな、そこに置いといてくれよ。じゃあシチュー分け代わってくれ」

「うん」

「んじゃピザは、と…よしよし、良いあんばいだな。ダイスケ、そっち終わったらグリルから鳥を出してくれ。熱いから気ぃ

つけてな」

「うっす」

俺がオーブンからピザを取り出していると、居間と台所を何往復かしたジュンペーが、足を止めて小さく笑った。

「なんだジュンペー?」

「いえ、なんだか先輩、普段とはイメージ違うっていうか、すごくテキパキしてますよね」

「ん。少し意外です」

「そうだよね。家事をしてる時だけは凄く細やかなんだよね」

三人が口々に言う。

「ってキイチ、家事の時だけはって、いかにも普段は雑みてぇじゃねぇか?」

俺の抗議に、キイチは笑いながら応じた。

「だって普段は何するにも大味っていうか、大ざっぱっていうか、むしろずぼらじゃない?」

…ずぼらって…。…俺、そうなのか…!?



『メリークリスマス!』

声を揃えてコーラで乾杯し、俺達は夕食にとりかかった。

「どうだ?上手く行ったと思うんだけどよ」

「うん!美味しいよ!」

「すごく美味いです!」

「うわぁ〜、これが先輩の味かぁ〜!」

三人は料理を気に入ってくれたらしい。何かを口に運ぶ度に口々に褒められる。

少々照れくせぇが、まぁ悪い気はしねぇな…!

「なるほど…、納得しましたよ…」

頷きながら言ったジュンペーは、ダイスケに耳打ちした。

「気をつけてねダイスケ。ネコムラ先輩はこの料理を食べ続けて、10日間の内に2キロも太ったんだから…」

「まじか?」

「うん。それ本当だよ」

「待てキイチ、半分以上はお袋が料理作ってるじゃねぇか!」

「だっておばさんは無茶な量作らないもん」

「無茶って…どんな量です…?」

「まぁ確かに、先輩凄い大食漢ですからね。そういえば去年の柔道部の合宿の時…」

「あ!ジュンペーそいつはバラすなって言ったじゃねぇか!」

「え?ナニナニ!?聞きたい!」

「オイラも聞きたい。教えてくれジュンペー」

「だぁー!言ったら狸汁にすんぞジュンペー!」

「大丈夫。僕が身の安全を保証します。って訳でジュンペー君、どうぞっ!」

「実は先輩、去年の夏の合宿先で、真夜中に…」

「おぉし…、言うってんならジュンペー。俺からは、その合宿の入浴中に起きたあの出来事を暴露さしてもらう…」

「え?ジュンペー、何かやったのか?」

「へぇ、そっちも聞きたいなぁ」

「え?な!?せ、先輩っ!卑怯ですよっ!?絶対喋らないって約束したじゃないですか!」

「もう時効だ。その合宿でジュンペーな、風呂に入る時…」

「わー!わー!わぁあああああっ!!!」

…ま、そんな調子で盛り上がりつつ、俺達は楽しく夕食を平らげた。



「へぇ〜…、ここが先輩の部屋ですか…」

「すごい広いな…」

「今は俺とキイチの部屋だけどな」

ドアのとこで足を止めているジュンペーとダイスケを促し、俺は二つのベッドを示した。

「うわぁ…、羨ましい〜…」

「…同棲生活かぁ…、いいな…」

「うん。まぁ毎日が幸せだよ」

のろけんなってキイチ、照れるじゃねぇか!

「それじゃあ、申し訳ないですけど、一晩お邪魔します」

ジュンペーがぺこっと頭を下げ、ダイスケもそれに倣う。

二人はそれぞれ親に外泊許可を取ってある。つまり今日はウチに泊まってく事になってるわけだ。

「お借りできる布団とかは、何処ですか?」

ダイスケの問いに、キイチは自分のベッドを指し示した。

「二人は僕のベッドを使ってよ。僕はサツキ君と一緒に寝るから」

『…え?』

「え?じゃねぇよ。それとも何か?お前らまだ何もしてねぇのか?」

俺の問い掛けに、二人は顔を見合わせ、それから顔を赤くして俯いた。

「えぇと、そのぉ…2回だけ…」

「オイラが、ジュンペーの家に泊まりに行きました…」

おうおう、照れちまって、初々しいなぁおい!

こいつはキイチのアイディアだ。

気兼ねなく一緒に寝る機会なんぞそうそうねぇだろうし、一緒の布団で寝せてやろうってよ。

「そういえば、二人は何処まで進んでるの?」

二人はしばらく口ごもっていたが、俺達の視線に堪えかねたのか、やがてジュンペーが口を開いた。

「…お互いのチンチン弄るまでは…」

「なるほど。そんなに恥ずかしがらなくて良いんだよ?僕達だってしてるんだからさ」

キイチは笑いながら言うと、意味ありげに俺の顔を見上げた。

「おう。俺なんか尻の穴に指突っ込まれたりしてんだぞ?」

『え!?』

「まぁ、本番はまだなんだけど。ね?」

キイチはそう言って俺に笑いかけた。…本番…?

「本番って…、じゃあ今までのは違うのか?」

「…ほんと、君はこういう事に疎いねぇ…。まぁその内にね」

キイチは呆れたように苦笑した。…本番って何でしょうかね?きっちゃん。すげぇ気になんだけど?

「それじゃあ、お風呂入っちゃおう。どうせだし、みんな一緒に!」

あ、聞きたかったのにもう話題変わっちまったよ…。

「え?みんな一緒って…?」

不思議そうな顔をしたジュンペーに、キイチは悪戯っぽく笑う。俺は二人に説明してやった。

「ウチの風呂、結構広いんだぜ?俺とジュンペー、ダイスケがいっぺんに入っても大丈夫だ」

「加えて僕もね」

「つまり、入るつもりなら四人でも平気ってわけで…」

俺は言葉を切り、ハッとしてキイチを見た。

キイチは、少し恥ずかしそうに笑っていた。

「…お前…、良いのか?」

「うん。この二人になら、見られてもきっと我慢できると思う…。あはは、同類だっていう親近感があるせいかな?」

「…別に無理する事ねぇんだぞ?」

俺の言葉に、キイチは微笑んだまま首を横に振った。

「寮生活になったらどうなるか分からないんだから、リハビリも必要でしょ?」

…それは…そうだけどよ…。

「もう、隠すのはなるべく止めにしたいんだ。いきなり全部は難しいけどね…」

キイチは笑みを絶やさねぇで言った。

…でも、俺は知ってる…。

こいつは、不安な時や辛い時、それを相手に悟らせねぇように笑おうとする癖があるんだ…。

俺達の会話から何か感じたのか、ジュンペーとダイスケは少し戸惑ってるような様子だった。

「さ、行こう!」

キイチは極力明るく振る舞って、俺の腕を引っ張った。

…正直なとこ、ちっとばかり不安だが…、ジュンペー達ならキイチの事を変な目で見たりはしねぇか。…リハビリ相手には

丁度いいかもな。