第三話 「やましい事は何一つ」

懐かしい夢を見た。

幼稚園の頃の夢だな…。当時泣き虫だった俺は、夢の中でもやっぱり泣いてた。

これは…、かくれんぼしてた時だったっけか…?



涼しい風が吹き過ぎる林の中。

かくれんぼの鬼になった俺は、皆を捜してて、見覚えのない場所まで入り込んでた。

呼んでも誰の返事もなく、俺はベソをかいて林の中を一人で歩いてる。

…当時の俺は、図体ばかりでかくて、鈍くさくて、泣き虫だった。

歩き疲れた頃、俺は大きな杉の木の根に足を引っかけ、見事にすっ転んだ。我ながら情けねぇが…、膝を擦り剥いてワンワ

ンと泣き始める。

林は静かで、世界でたった一人になったように思えて、心細くて仕方なかった。

そんな時、遠くから微かに俺を呼ぶ声が聞こえた。

泣き声を聞きつけたのか、一緒に遊んでた二人が、俺の方へ駆けてくるのが見えた。

「あー。さっちゃんが、またないてるー!」

黄色い猫が、俺の傍らに屈み込んだ。

「かくれんぼのオニが、さがされるほうになるなよー」

茶色い犬が、呆れたように言った。

「だって、だって、ふたりともみつかんなかったんだもん…」

俺がしゃくりあげながら言うと、茶色い犬が肩を竦めた。

「だからって、こんなおくのほうまでくるなよ。なきむしなくせに、たいりょくだけはすげーあるんだからなぁ」

黄色い猫が、血の滲んだ俺の膝小僧に唾を付けた。

「いたいの、いたいの、とんでけー!」

おまじないをすると、薄茶色の瞳で俺の顔を覗き込む。

「まだいたい?」

本当は痛かった。が、俺は首を横に振る。

「あるけるか?」

茶色い犬はそう言うと俺の右肩を支え、反対側で黄色の猫が俺の左肩を支えた。

「うん。…ありがと、きっちゃん…。けんちゃん…」

嬉しくて、再びぐずり始めた俺に、茶色い犬が呆れたように、そして仕方がないな、というように苦笑を浮かべた。

「ほんと、さっちゃんはなきむしだな」

黄色の猫は、見ていると元気が出るような、明るい笑顔で言った。

「なかないで。ぼくたち、ずっといっしょだから」



目が覚めてからしばらくの間、俺はベッドの上でぼーっとしていた。

懐かしい夢。だが、心が痛んだ。二人とも、もう居ねぇんだ…。

きっちゃんは、幼稚園を出る前にどこかへ引っ越していった。突然の事で、お別れの挨拶すらできなかった…。

…そして、ケントのやつは去年、……………。

ため息をつき、俺はベッドから降りる。

今日は追試の日だ。手伝ってくれたネコムラに報いる為にも、絶対にパスしてやる。

…いきなり情けねぇとこ見られちまったが、ここらで自己紹介しとくか…。

俺の名前は阿武隈沙月。東護中三年。柔道部所属。胸の白い月の輪がトレードマークの熊の獣人。これから中学最後の夏を

賭け、追試に挑むところだ。



学校に着くと、ネコムラが校門に寄りかかって待っていた。

「なんだよ?今日も来てくれたのか?」

心底嬉しかった。どんなヤツの励ましよりも、こいつの顔を見たほうが元気が出る。

「一応、戦場へ赴く見送りはしておこうかと思ってね」

ネコムラはまじめ腐った顔で敬礼し、俺も笑いながら敬礼を返す。

「では、阿武隈三等兵、これより追試に赴きます!」

「うむ!見事散ってきたまえ!」

…がっくし…。

「…ひでえなあ、散るのかよ俺?」

「最悪でも刺し違えてきてよね?」

声を上げて笑いながら、俺達は正門に向かって歩き出した。

ここんとこ毎日、俺はネコムラと顔を合わせるのが楽しみだった。

だが、追試が終われば俺が図書室に行く理由もなくなるし、ネコムラだって自分の夏休みを過ごし始める。不謹慎だとは思

うが、追試がもう少しだけ先でも良かったな…。

「んじゃ、サクッと終わらせて来るわ」

俺は余裕に見えるよう、気楽な調子でネコムラに言った。

「今日も一日、図書室に居んのか?」

「うん。そのつもりだけど」

「夕方には採点も終わるはずだからよ。一緒に帰ろうぜ。また、あそこのたこ焼き食ってこう」

「…うん。楽しみにしてるよ」

一瞬返事に詰まったように見えて気になったが、俺はネコムラに別れを告げ、教室に向かった。

正直なとこ、胸の真ん中に罪悪感がゴロッと転がってる。見返りも求めず、純粋な善意で協力してくれたあいつに、俺は…、

勝手な感情を抱き始めていた…。



「…逃げずによく来たな…」

どっかのラスボスみてえなセリフを吐いたキダ先生に、俺は仏頂面で応じる。

「逃げて良かったのかよ?」

「ダメに決まっているだろう。敵前逃亡は銃殺刑だ」

…この女は…。

「まあ、冗談はさておき…。この数日、頑張ってきたようだな。ネコムラにも良く礼を言っておけ」

先生の口から出た言葉に、ちょっとばかり驚いた。

「…知ってたのかよ?」

「私を誰だと思っている?これでもお前達の担任だぞ?」

キダ先生は珍しく、優しく微笑んだ。

「お前達の努力は本物だ。これでどんな結果が出ようと、後悔はしないだろう」

「…先生…」

その労いの言葉に、俺の胸は熱くなった。

が、次の瞬間、キダ先生は優しげな笑みを口元に浮べたまま、眼鏡の奥の瞳をギラリと輝かせた。

「だが…、万が一にも補習確定となって、大会棄権などという醜態をさらしたその時は…、覚悟しておけよ…?」

…台無しだ…。



最初の科目は国語だった。

あまり自信が無かった科目だが、マメな漢字の書き取りが成果を見せた。古文についてもネコムラの絞った範囲が大当たり。

手応えはかなり良い。

二つ目の科目は数学だ。

九九をマスターできたのはでかかった。ネコムラの言うとおり、やっぱ基礎は大事だと思い知った。こいつの手応えはバッ

チリだ!

三つ目の科目は英語。

ネコムラの協力で文法から焼き直しした俺は、範囲内の簡単な和訳、英訳はできるようになってる。スペルの間違いに集中

した結果、それなりの手応え!

四つ目の科目は美術だった。

俺の苦手な暗記問題が集中する。呪文のようなカタカナの芸術家名に、覚えにくい作品名…、だが、やまは当たってた。た

ぶんいける!



昼食休憩の間に、俺は弁当(いつも自分で作って来る)を掻き込みながら、理科と社会を復習する。

ここまでは全科目それなりの手応えだ。問題は、暗記部分が泣きたくなるほど多い社会…、こいつが難敵だ…。



休憩を終え、五つ目の科目、理科に挑む。

硫黄って「イオウ」って読むんだよな…。ネコムラに指摘されるまで「リュウキ」って読んでたぜ…。これもなんとか及第

点には達した気がする。残すは…。

最後の科目は社会だ…。

とにかく苦手な暗記問題が多い。情けなくなるほど少ねぇ脳みその容量を呪いつつ、何とか空白を埋める。こいつは…、結

構際どいな…。



六科目全てのテストを終えた俺は、椅子にふんぞりかえって天井を見上げ、採点の終了を待っていた。

たぶん…、きっと…、大丈夫…。…だと思う…。

ふーっ、とため息を吐き、判決を待つ被告人気分で俺は時計を見る。

もうじき四時半。結構かかるもんだな。さっさと楽になりてぇもんだが…。

そんな事を考えていると、唐突に教室の前の扉が開いた。

入ってきたのは、キダ先生と…、学年主任のエコジマだ。…なんであの野郎まで?

キダ先生は固い表情で、エコジマは勝ち誇ったような顔をしていた。

「アブクマ君。追試、ご苦労様でした」

「…どぉも…」

エコジマは笑ってる。なんとも嫌な笑い方だ。

「さて、キダ先生?どういうつもりで、彼に数学の問題を事前に教えるなどという不正を

おこなったのか、説明して頂けますか?」

………は?今、なんつった?

「…何度も言いましたが、私は彼に問題を教えてはいません!」

そりゃそうだろう。俺だって知らねえ。

「では、前回15点の彼が、何故90点もとれたのでしょうね?」

「きゅうじゅってん!?」

俺は思わず声を上げていた。

「それは、彼の努力の賜物です」

キダ先生の言葉に、エコジマは嫌な笑みを深くする。

「素晴らしい答えです。生徒の努力を信じる。まさに教師としてあるべき姿ですなぁ…」

エコジマは俺に向き直った。あの嫌な笑いを顔に貼り付けたまま。

「では、質問を変えましょうか。…アブクマ君?」

「…なんすか?」

「どうやってカンニングしたのですか?」

………あ?

「国語78点。数学90点。英語72点。美術54点。理科64点。社会48点…。前回赤点を大量生産した君が、なぜこれ

ほどの点数を獲得できたか…」

エコジマは大げさな身振りでため息をついた。

「先生は悲しいですよ?君のような活躍を期待された生徒が、大会に出たいがためにこんな不正までするとは…」

「はっ…」

キダ先生とエコジマが、俺を見た。

「は…、はは…、だはははははははっ!」

堪えきれなくなった俺は、大声で笑い出した。

「アブクマ…?」

キダ先生は胡乱げな顔で俺を見つめ。エコジマは顔を顰める。

これが笑わずにはいられるかよ!?ネコムラ、お前やっぱ天才だ!クラス一の大バカの俺に、こんだけの点数を獲らせるん

だからな!

「ぬははっ!いや悪ぃっす。あんまりにも予想外だったんで、つい」

俺は笑いを噛み殺すと、立ち上がり、エコジマの前で両手を広げた。

「荷物でも何でも検査してください。俺、やましい事は何一つしてねぇっすから」

「アブクマ…」

キダ先生は嬉しそうに微笑んだ。

「いまさら検査などしても無駄でしょうね。その自信…、カンニングに使ったものは、もう処分したのでしょう?」

なるほどそう来たか。そうなると証明のしようがねぇ。…こいつは…、困った流れになったな…。

「正直に告白してくれれば良かったのですが…、まあ、ここは私の胸に収めておきましょう。ただし、補習は受けてもらいま

すよ?」

「待ってください!」

キダ先生はエコジマの前に回りこむと、床に膝を着いた。

「こいつには…、アブクマには…、これまで我が校が為し得なかった、個人戦全国制覇の夢が掛かっているんです!どうか、

どうか大会までは、補習を免除して頂けないでしょうか!?」

土下座して頼み込むキダ先生の姿に、俺は頭をぶん殴られたような衝撃を受けていた。あの、気位の高いキダ先生が…。俺

なんかのために…。

「やめてくれよ先生!俺はカンニングなんぞしてねぇ!そこまでする必要は…」

「黙っていろ!」

俺の言葉は、キダ先生の鋭い声に遮られた。

なんでだよ…。俺なんかのために…、なんであんたがそこまでしなきゃなんねぇんだよ…。先生のそんな姿、見たくねぇよ!

エコジマに対する怒りが膨れ上がり、俺は一歩踏み出す。エコジマは土下座するキダ先生を見下ろし、満足げに笑ったまま、

こっちには気付いちゃいねぇ。前々から気に食わなかったその面に、思いっきり一発ブチ込んでやる!

拳を固めた次の瞬間。教室の後ろの扉がガラリと開いた。そこに見知った顔を見て、俺は動きを止めた。

「…ネコムラ!?」

ネコムラは俺をちらりと見て、小さく頷いた。

自分にまかせろ。俺には、あいつがそう言ってるように見えた。

「どうしたんですか?ネコムラ君?」

成績優秀なネコムラには、エコジマの笑顔が違うものになっていた。

「ちょっと忘れ物を取りに来ただけです」

ネコムラの後ろ、廊下から、数人の男子生徒が教室に入ってきた。

そいつらは教室前のスピーカーや、後ろの黒板。そしていくつかの机に取り付いてゴソゴソやると、黒い小箱と、筒のよう

な物を取り出した。

「映画同好会の皆です。夏休みの誰も居ない教室を使って撮影をおこなう予定だったのですが。まさか追試がおこなわれると

は思いませんでした。彼の試験風景、全部録っちゃったかもしれませんねぇ。カンニングしないで真面目に試験をしている様

子とか…」

ネコムラは口元に笑みを浮かべながら言ったが、その目は鋭くエコジマを見つめていた。

俺には見せた事がねぇ顔つきだ。その視線を受けて、エコジマはたじろいでいる。その背後から、隣の組のサカキバラが教

室に入ってきた。

「ネコムラさん。職員室のカメラも回収完了です。真夜中の職員室、幻想的で怖そうな、実にホラー映画向きな映像が取れて

いました。それにしても…、先生方が帰った後、キダ先生の椅子のあたりで蠢いていた人影…、後姿でしたが、あれは誰なん

でしょうね?なんだか小刻みに痙攣していましたが…、そうそう、丁度エコジマ先生のような、細身の後姿でしたね」

サカキバラの意味ありげな視線を受け、エコジマはあわてて言った。

「こ、校内を無許可で撮影してはいけません!テープをよこしなさい!没収します!」

ネコムラはにっこりと微笑んだ。だが、その目はちっとも笑ってねぇ。

「どうぞ。ああ、アブクマ君の試験風景もきっちり録画されてますから。不正が行われていたかどうか、どうぞご確認ください」

ぐう、と呻いて押し黙ったエコジマに、ネコムラ曰く映画同好会の一人が尋ねた。

「あ、先生。僕も赤点5つあったんですが、追試受けなくて良いんでしょうか?」

「ああ、俺なんか6つでした。追試ですかね?先生?」

「あ、俺も5つある。追試かなぁ?」

次々と上がる声に、俺とキダ先生は、きょとんとして顔を見合わせた。そこへ、ネコムラは手をポンと打って、思い出した

ように付け加えた。

「そうそう、他の先生や校長は、追試や補習が行われる事をご存知ない様子でしたね?」

…は…?どういう事だ?他の先生は知らねぇし、俺のほかの生徒も追試を受けてねぇ?…んじゃぁまさか…、この追試は…!?

ちらりと様子を窺うと、ネコムラの言葉を耳にしたキダ先生の顔が、見る見る嚇怒で赤くなる。俺でも考え付く事だ。先生

が気付かねぇはずがねぇ…。…これは…、やべぇ兆候だ…。

「どういう…、事でしょうか…?エコジマ先生…?」

ゆらりと立ち上がったキダ先生は、猫科の肉食獣のような目でエコジマを睨んだ。

「い、いや…、それは…、そ、そうそう!アブクマ君の名誉の為にですねぇ!他の職員には伏せておこうかと…」

「…そうそう…って、なんですかねぇ?それと、他の生徒には追試が無い…?先ほどはそれぞれの教室で受けているとおっし

ゃってらっしゃいましたよね…?」

キダ先生はゆっくりとエコジマに近付く。その動きは、さながら追い詰めた獲物ににじり寄る雌豹を思わせる。…こりゃ…、

冗談抜きに止めねぇとマズい…。キダ先生は細身だが、俺でも軽々と投げ飛ばされる。その気になったら、エコジマなんぞ一

瞬で捻り殺される…!

「先生。もういいよ…。その辺で止めとこうぜ」

俺が肩を掴むと、キダ先生はグリンッと首を巡らした。…こぇえって…。

「お前、ハメられたんだぞ?コケにされたんだぞ?いくらお前ほどの馬鹿でもそれぐらい判るだろう?傷ついてるだろう!?」

…先生。正直なのはあんたの良い所だけど、俺、それで結構傷ついてるよ…。

「いいよ。大会に出れるんなら。でもって、俺がきちんと追試パスしたって認められるなら、そんだけでいい」

そう、それでいい。結局、俺の努力は空回りしただけだったかもしれねぇけど。ネコムラに協力してもらった結果は出せた。

俺にとってはそれだけで十分だ。

「…お前…」

キダ先生は俺を驚いた顔で見つめた。おいおい、俺はあんたに捕まる前のまんまじゃないんだぜ?ちゃんと分別も身につけ

たし、おかげで落ち着きも出てきた。感情に任せ…、

「なにか悪いものでも拾い食いしたんじゃないだろうな?」

「…感情に任せて暴れてもいいか…?

キダ先生はため息をつくと、エコジマに向き直った。

「では、エコジマ先生。詳しいお話は職員室でお伺いさせていただきます…。よろしいですね?」

ギラリっと、キダ先生の目が光り、エコジマは震えながらカクカクと頷いた。

「それともう一つ…。アブクマは追試をパスした。補習は無し、という事で、よろしいですね?」

雌豹の顔で言ったキダ先生に、エコジマはガタガタと頷いた。

そのまま先生は、エコジマを連れて教室を出て行った。自分のズラがかなりずれている事にも気付いてねぇエコジマは、ま

るで処刑台に向かう死刑囚にも見え、少しばかり哀れだった。

先生達が出て行くと、辺りの連中が喝采を上げる。

「うひゃー!すかっとしたぁ!」

「ざまぁみろエコジマ!キダせんせにたっぷりお仕置きされてこい!」

「やったじゃんアブクマよお!見せたかったぜ?職員室で採点してたとき、赤点回避されて口をぽかーんと開けたあいつの顔!」

盛り上がる連中に、俺は笑顔を返した。

「お疲れ様でした。良かったですね、大会に出られて」

サカキバラが俺の顔を見上げて微笑んだ。

「礼を言わなきゃな。他のクラスのあんた達まで協力してくれるなんて…」

ご令嬢は首を左右に振る。

「私は声をかけてまわっただけです。皆さんは貴方の力になりたくて、そしてエコジマ先生に一泡吹かせたくて集まってくれ

たんですよ。それに、この計画の発案は、全部ネコムラさんですし」

そうだ、ネコムラ!あいつにはどれだけ礼を言ったって言い足りねぇ!

俺は周囲を見回し、あいつの姿を探す。

「…ん?ネコムラは?」

「あれ?今までそこに…」

サカキバラもネコムラの姿が無い事に気付き、キョロキョロと周囲を見回す。そして、何かに気付いたように「あ…」と声

を上げた。

「ネコムラさん、もしかしたらまた一人になりたくなったのかも…」

「どういう事だ?」

俺の問いに、サカキバラは困ったような顔をした。

「ネコムラさん。誰とも関わりたくないから、ずっと一人でいる、というような事を以前言っていました。だから、貴方に借

りを返したから、また…」

「借りって…?俺に貸しはあっても、借りなんてねぇはずだぞ?なんだその借りって?」

サカキバラは口を閉ざしたが、俺がしつこく尋ねると、少し迷ったあとに話してくれた。



「くそっ!」

俺は思わず机を殴りつけた。机が騒々しい音を立てて倒れ、その音で皆が静まり返る。

聞いて、やっと思い出した。俺は…、本当に大馬鹿野郎だ!

「悪ぃ!急用ができた!皆、ありがとな!」

俺はカバンも置き去りにして教室を飛び出し、図書室に向かった。

図書室には誰も居なかった。玄関にも、校門にも、ネコムラの姿は無かった。

どこ行っちまったんだよネコムラ!今日も一緒に帰るって…、たこ焼き食うって言ったじゃねぇか…!

俺はネコムラの姿を求めて、学校を飛び出した。