第三十一話 「プレゼント交換」

俺、阿武隈沙月。東護中三年の、茶色い被毛の熊獣人で、胸元の白い月の輪がトレードマーク。

俺とキイチ、ジュンペーとダイスケ、二組のカップルは幸せなイブを過ごす事ができた。

そして今日はクリスマス!…だったんだが…。

興奮して疲れてたんだろうなぁ、俺達が起き出したのは昼も近くなってからだった。



「お味噌汁運んでいい?」

「おう、頼む。でも無理すんなよ?」

「やだなぁ。平気だよこれくらいは」

と答えながらも、スケートの筋肉痛が出たらしいキイチは、盆に乗せた味噌汁をギクシャクした動きで運んで行った。

ま、今日は一日ゆっくり休もうな、キイチ。

「運んで良いの、ありますか?」

「ああ、鮭が焼けるまではねぇかな。…それよりダイスケ」

手伝おうと声をかけてくれた黒熊の顔を眺め、俺は思わず吹き出した。

「顔洗って来い。口周りに鼻先からデコまで、精液でガビガビに固まってんぞ?」

「んえっ!?」

ダイスケは口周りに触って感触を確かめると、慌てて洗面所に向かった。だははは!

「だらしないなぁもう…」

俺の隣で玉子を割りながら、ジュンペーが苦笑した。こいつの唯一の得意料理、卵焼きを作ってくれるらしい。

「そう言ってやるな。お前が顔射したんじゃねぇか?」

「うひひ!まぁそうなんですけどね」

ジュンペーは妙な笑い声を上げて、狸特有の太い尻尾を左右に振る。ぬはは!幸せそうな笑い方しやがって!

「それにしても、昨夜は勉強になりました。さすがに先輩方は進んでますねぇ」

「まぁな。つっても、俺もキイチから教わったんだぞ?何せオナニーの仕方まで教えて貰ったからなぁ」

ジュンペーは意外そうな表情で俺の顔を見上げた。

「え?でも先輩方って、二学期に入ってから付き合い始めたんじゃ?」

「…おう。ほんの二ヶ月ちょっと前まで、オナニーの仕方も知らなかったんだよな。俺」

「確か、告白したのって先輩の方でしたよね?」

「まぁな。でもそういった事は何も知らねぇで告白したんだよなぁ。考えてみればおかしな話だぜ…。元から同性愛者だった

俺は何の知識も無くて、元はその気がなかったキイチがリードしてくれてんだからよ」

「う〜ん…でも何となく先輩らしいですねぇ。性欲より先に恋から始まるなんて」

「性欲もあったと思うぜ?なんせあいつとちょっと体が触れただけでチンポがいきり立ってたからなぁ」

「なーに寝起きからディープな話してるの?」

呆れたように笑いながら、キイチが台所に戻って来る。

「良いじゃねぇか。こんなのいつでもできる話じゃねぇんだしよ。ところで、ダイスケはどうしたんだ?ずいぶん長ぇな」

「まだ洗面所だよ。完全に固まっちゃってて手こずってるみたい。今、ぬるま湯で洗った方が良いって教えてきたところ」

「おうおう、ま〜た随分濃いの出しやがったもんだなぁジュンペー」

「タマタマがあのサイズだからねぇ」

「え?オレのせいですか!?量はともかく濃さは普通だと思うけどなぁ」

俺達は声を上げて笑った。

しっかしなんつぅ下品な会話だ?しかも飯を作りながらってんだから、どうかしてるよなぁ。



「お。綺麗に落ちたなぁ」

「うん。つややかになったね」

「ど、どうも…」

朝飯の支度ができた所に戻ってきたダイスケは、頭を掻きながら俯いた。

「じゃあ、さっそく飯にしようぜ」

『頂きます!』

俺達は手を合わせ、声を揃えると、朝食に取りかかった。

ちなみにメニューはカボチャの煮込みと焼き鮭、大根とジャガイモの味噌汁に、ジュンペー特製卵焼き。…うん。絶妙な塩

加減で美味い!

素直に褒めると、ジュンペーは照れ笑いした。

「いやぁ、先輩と比べたら素人も良いとこですよ」

おや謙遜しちまって。世辞抜きに大したもんなんだけどなぁ。

「風呂は沸かしてあるから入ってけよ。この後出かけるんだろ?昨日の汗やら何やらの匂いもあるしな」

そう言ってやると、ジュンペーとダイスケは顔を見合わせ、苦笑いしながら頷いた。

今日はそれぞれの組、二人っきりで過ごす予定だ。俺達は家でのんびりと過ごすが、ジュンペーとダイスケは遊園地に出か

けるらしい。

「飯食ったら先に入っちまえ。俺達は後からでも良いし、…なんなら一回やって汗流してから入るかキイチ?」

「やだこのスケベ」

肩に腕を回しながら言うと、キイチは俺の胸元にビシッとつっこむ。

「それにしても…」

ジュンペーは俺達を見ながら呟いた。

「昨夜は意外でした」

「うん。意外だ」

ダイスケも俺達を見ながら頷く。

「何が意外だったんだよ?」

「いやぁ、ベッドの上では主導権握ってるの、ネコムラ先輩なんですね?」

「…言っちゃなんだが、普段から主導権はキイチが握ってんだぜ?」

「う〜ん、言われてみるとそうかも。サツキ君って、どっちかと言えば尽くすタイプだし」

俺の言葉にキイチも頷いて見せると、ジュンペーとダイスケは意外そうに顔を見合わせた。

「へぇ。サツキ先輩はどっしり構えてるタイプに見えますけど…」

「惚れた弱みってヤツすかね?」

…う〜ん。ダイスケの言う通り、俺がベタ惚れしてるからってのもあるかもしれねぇな…。

「まあ、何かあればサツキ君がグイグイ引っ張っていってくれるんだけどね。いざという時はやっぱり頼もしいし、頼り甲斐

があるよ」

「珍しいな?お前が普通に俺を褒めるなんて?」

「別に褒めたくない訳じゃないんだよ?褒めてあげられる機会がなかなかないだけで」

「…厳しいなぁ…」

俺が顔を顰めると、ジュンペーとダイスケは声を上げて可笑しそうに笑った。

「もう一つ意外だったのは、先輩、本当に可愛くなっちゃうんですねぇ」

「うん。ネコムラ先輩の言ったとおりだった」

「でしょ!?可愛くなってたでしょ!?」

キイチは我が意を得たとばかりに満面の笑顔だ。

「口調まで変わってましたよね!」

「うんうん!」

「普段の男らしいサツキ君からは想像も付かないよねぇ!」

…頼むからその話題で盛り上がんねぇでくれ…。

俺は会話に加わらず、黙って飯を掻き込んだ。早いとこ話題が逸れてくれる事を願いながら…。



「では、お邪魔しました!」

「ご馳走様でした」

玄関口で、靴を履き終えたジュンペーとダイスケは、並んでペコリと頭を下げた。

「こっちこそ楽しかったよ」

「おう。また遊びに来い」

笑顔で頷いた二人を送り出し、俺はキイチの肩を抱いた。

「さぁて、風呂入ろうぜ!」

「え?入っちゃうの?僕、てっきり先に…」

「お?良いのか?俺こそてっきり嫌がるかと思ったけど」

「あはは!嫌がる訳ないじゃない!…じゃ、しよっか?」

「…おう!」

俺はキイチをひょいっと抱き上げ、部屋に向かった。あ〜、幸せ!



存分に愛撫し合い、風呂で汗を洗い流した後、俺はキイチをベッドの上寝かせ、マッサージしてやった。

「痛っ!いたたたた…」

「ぬはは!運動不足が祟ったなぁ」

「僕は肉体労働向きの体をしてないんだよ…」

「…スケートは労働なのか?」

昨日も入念にマッサージしたんだが、筋肉痛は防げなかったなぁ…。

キイチは体を動かすのが苦手だし、好きじゃねぇんだが、もうちっと運動して貰った方が良いなこりゃあ。

要らねぇ力まで入ってたんだろう。脚だけじゃなく脇腹から背中、肩まで筋肉痛だ。どこを揉んでも悲鳴を上げる。…にし

ても…。

俺はトランクス一枚でベッドに横たわるキイチの体を見ながら、その手触りを楽しむ。

柔らかい毛の下には薄い筋肉と脂肪。うっかり力を入れ過ぎたら壊れちまうんじゃねぇかと心配になるぐれぇに、どこもか

しこも細っこい。

…良い手触りだなぁ…。ってやべぇやべぇ…!さっきやったばっかりだってのに、また興奮してきちまう!

股間が軽くうずいた俺は、なるべくキイチの体の感触の事を考えないようにした。

「ま、今日は大人しくしてようぜ。どうせ出かける予定も立ててねぇしな」

「そうだね…。何しても体が痛いや…」

「…そんじゃまぁ…」

俺はキイチの隣に横になり、鼻の頭にキスをする。

「贅沢の極み、二度寝しようぜ!」

「…ま、こんな時は悪くないか…」

キイチは苦笑すると、俺の頬に軽くキスをした。あ〜、こんな幸せなクリスマスなんぞ、生まれて初め…、ん?

「っと悪ぃ!寝る前に一つ!」

危ねぇ危ねぇ、二人っきりになってから渡そうと思ってたんだが、忘れるとこだったぜ。

「どうしたの?」

訝しげに首を傾げたキイチを尻目に、俺は自分のベッドの下に手を突っ込み、箱を取り出した。

「クリスマスだからな!俺からのプレゼントだ!」

俺の手の上に乗った、リボンのかかった小箱を見て、キイチは「あっ!」と声を上げた。

「僕も忘れる所だった!二人っきりになってから渡そうと思ってて…」

キイチは今寝ているベッド…、つまり自分のベッドの下に腕を突っ込み、赤と緑のクリスマスカラーの包装紙を取り出す。

だはは…!考えてた事も隠し場所も同じだなぁ。

「はい!僕からもプレゼント!」

キイチは照れたような笑顔で、両手で持ったプレゼントを差し出した。

「悪ぃな。わざわざ…」

「何言ってるの?こっちのセリフだよ」

「んじゃ、プレゼント交換な!」

そして俺達は、プレゼントを交換しながら笑いあう。

「ありがとよ、キイチ!」

「うん!僕の方こそありがとう。嬉しいよ!」

「開けていいか?」

「もちろん!気に入ってもらえると良いんだけど…」

包装紙を丁寧に剥がすと、中には濃い緑色のセーターが入っていた。キイチは少し恥かしそうな笑みを浮かべる。

「…手作りなんだ。それ…」

「うぇっ!?ま、まじか!?」

手先が器用なのは知ってたが、編み物まで出来んのかよ!?

ってか、いつ編んでたんだこれ?俺のサイズじゃ、毛糸の量もかかる手間も半端じゃねぇだろうに…。

「実は叔母さんの家に居た時から作ってたんだ。こっちに来てからは、サツキ君がお風呂に入ってる間にコツコツね」

俺なんかの為にそんなに前から…。じーんとなって、思わず目が潤む…!

「…きっちゃん、あ、ありがとぉ…!お、俺っ、絶対に大事にするぅっ…!」

俺がギュッとセーターを抱き締めると、キイチは照れたように苦笑いした。

「そ、そんなに喜んで貰えると…、なんだか安上がり過ぎて申し訳ないなぁ…」

安上がりなんてとんでもねぇよ!俺にとっちゃ何よりのプレゼントだ、大切にするぜ…!

「僕も、開けていい?」

「お、おう…。全然手間かかってなくて悪ぃんだけど…」

あっちゃ〜…、俺も何か自作のプレゼントにすりゃ良かったなぁ…。

でも、俺が作れるのなんて本棚とか箪笥とか、そういう日曜大工的なもんか食い物だけだし…。

「…うわぁ…!」

小箱を開け、中を覗き込んだキイチが声を上げた。

俺からのプレゼントは腕時計だ。

キイチはろくに小遣い貰えてなかったらしいから、自分の腕時計も持ってねぇし、思いついた時は良いプレゼントだと思っ

たんだが…。

「こ、これ…、サツキ君のとおそろいだ!」

キイチはゴツい腕時計をそっと手に取り、目を大きくして見つめた。

そう、プレゼントは俺が愛用してるのと同型で色違いの、アウトドア仕様の腕時計だ。

自慢じゃねぇが有名メーカーの人気商品で、頑丈で防水機能も付いてるし、電波時計だから時間のズレもねぇ。

「…でも、こんなの受け取る訳にいかないよ!これ凄く高いじゃない!」

「気にすんなよ。お前のと比べりゃ全然手間もかかってねぇんだ」

そうだ。俺達受験生にとって、金よりも何よりも惜しい時間っていう大切なもんを使って、キイチはプレゼントを用意して

くれたんだ。それに比べりゃ貯金をはたくのなんてどうって事ねぇ。

「さっちゃん…。ごめんね?気を遣わせちゃって…」

「だ〜か〜ら〜!大した事ねぇって!気にしねぇで受け取ってくれよ。な?」

「…うん…!ありがとう!すっごく嬉しい!」

キイチの満面の笑み。ぬははっ、良かったぜ、喜んでくれたみてぇで!



「どうかな?」

キイチは左腕に付けた時計を見ながら、照れたように俯いた。

「おう!かっこいいぜ!」

キイチの細い腕にはまったゴツい時計は、被毛とは対照的なつや消しブラック。うん。なかなか決まってるぜキイチ!

…ちなみに俺のはブラウンで、俺の体毛の色に近い。

「…こっちはどうだ?」

セーターを着た俺が尋ねると、キイチは笑顔で頷いた。

「良く似合ってる!…良かったぁ。失敗してたらどうしようかと思ってたから」

グリーンのセーターはフカフカで、手触りがすげぇ良い。

袖丈も首周りも少し遊びを多めに作ってあるのは、太りやすい俺の体質を考えての事なんだろうなぁ…。

ほんとに、細けぇ気配りが有り難くて涙が出そうだぜ…!…っとと…、汚さねぇ内に畳んどこう…!

「ありがとう。さっちゃん…!」

「こっちこそ、ありがとよ。キイチ!」

俺達は唇を重ね、そのままベッドの上に寝転んだ。

顔を間近で突き合わせ、俺はキイチに腕枕してやって、背中に手を回す。

キイチは俺の突き出た腹を一度優しくさすってから、細い腕を背中に回してくる。

そうやってお互いの体を抱き締め合ったまま、幸せな二度寝を始めた…。



目が覚めると、午後の四時になってた。

一つあくびして身を起こし、隣を見ると、キイチはまだ眠ってた。

くぅ〜!可愛い寝顔だなぁおい…!

静かに体を起こしたが、十分に寝たせいか、キイチは気配を察して目を開けた。

「…ん〜…。どこか、行くの?」

ジャンバーを羽織る俺に、キイチは目を擦りながら尋ねて来た。

「夕飯の材料買って来る。昨日は洋食だったしな、晩飯はなるべくなら和食が良いだろ?」

「あ、僕も一緒に行く」

「無理すんなって、筋肉痛だろ?」

「動かした方がほぐれやすいよ。少しくらいは歩きたいし」

言いながら手早く着替えると、キイチは俺の手を取り、縋り付くようにして腕を組んだ。

それは、キイチにしちゃ珍しい行動だったが、あまりにも自然な動作で…、…これ、恋人同士に、見えるよな…?

「じゃ、行こうか!」

「お、おう…」

嬉しくて、恥かしくて、ちょっと頭がぽーっとなって、俺はたどたどしく頷いていた。

…まぁ、単にキイチの脚がカクカクいってて、歩くのがおぼつかねぇから俺に縋ってるだけなんだろうけど…。

…まぁ、それも家を出るまでの短ぇ間だけだったけどな…。



「あ。アブクマせんぱーい!」

キラキラした飾り付けで、クリスマスムードに染まった商店街での買い物を済ませ、キイチの歩調に合わせてゆっくり歩い

てると、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。

振り向くと、赤茶色の比較的小柄な犬獣人と、大柄な黒毛の牛がこっちに歩いて来るとこだった。声をかけてきたのは犬獣

人の方だ。

「おう!久し振りだなぁ!」

俺が笑みを向けると、

「お久しぶりです!」

そう、犬獣人がハキハキと礼をし、

「こんにちは、アブクマ先輩」

と、牛獣人が柔らかい笑顔でぺこりと頭を下げた。

二人はおそろいの、茶色と黒のギンガムチェックのマフラーを巻いてる。

「っと、紹介しとくな?」

こいつらは確か初顔合わせだ。黙って笑みを浮かべてるキイチを、柔道部の後輩の二人に紹介する。

「俺の幼なじみ、でもってクラスメートの…根枯村樹市だ」

一瞬、イヌイって紹介しようかとも思ったが、まだ正式には直ってねぇからな。ネコムラって言っとくべきだろう。

「初めまして、ネコムラです。君達は、上原犬彦(うえはらいぬひこ)君と、小牛田元(こごたげん)君かな?」

『え?』

キイチに名前を言い当てられ、目を丸くして、不思議そうに顔を見合わせるウエハラとコゴタ。

実は、俺もちょっと驚いた。

確かに、キイチには前に何度か柔道部の話を聞かせてる。

獣人だって事と、俺を先輩って呼んだ事から、俺達の間柄を察したんだろうが…、ジュンペーの事と違って、こいつらの事

は一回やそこらしか話した事はねぇ。

良く覚えてるなぁ…、相変わらずすげぇ記憶力だ。

「サツキ君から何度か話を聞いていたんだ。二人とも柔道部なんだよね?よろしく」

「あ、はい!ウエハラです!こちらこそよろしくです!」

「初めましてネコムラ先輩。コゴタです」

笑みを浮かべて頭を下げるウエハラと、ぽわんと人の良さそうな笑みを浮かべて会釈するコゴタ。

クラスメートでもあるこの二人、ちっと前は、一時ギスギスしてた事もあったが、今じゃすっかり仲直りして、微笑ましい

ほど仲が良い。

ウエハラは気が強くて自信家で負けず嫌い。

コゴタはおっとりした穏やかな性格。

何事にも積極的なウエハラが、引っ込み思案なコゴタの尻を叩き、腕を引いてぐいぐい引っ張ってく。 

 同時に、コゴタを気にしてペースを緩める事で、突っ走りがちなウエハラも、行き過ぎねぇように周りと足並みを揃える。

この二人はそんな風に、お互いに良い影響を与え合う親友同士だ。

こいつらを見てると、昔の俺とケントを思い出すせいか、らしくもなく要らねぇ世話まで焼いちまった事もあった。

ま、一学期の半ば、まだキイチとろくに話もしてなかった頃の話だ…。

…そういや、少し前にジュンペー経由で相談されたんだが、ウエハラは誰かに告白するつもりだったみてぇだけど…。

こうしてクリスマスもコゴタと一緒に居るって事は、ひょっとして、玉砕しちまったのか?…一応触れねぇでおくか…。

「買い物していたんですか?」

ウエハラは俺が手にしてる袋を、興味有りげに見つめた。

「ひょっとして、恋人へのプレゼントとか!?」

「い、イヌヒコ。あまり詮索しちゃ失礼だよ…?」

目をキラキラさせて、食い入るように袋を見つめるウエハラを、コゴタが困ったような顔で嗜める。

「期待持たせて悪ぃが、ただの食材だ。晩飯用のな」

あからさまにがっかりしたような顔をするウエハラ。まぁ、他人が誰かにプレゼントを買ってたとしたら、そりゃ興味も湧くか。

「お前らこそ、買い物に来たんじゃねぇのか?」

「ええ。でも、そっちは済みましたから…」

コゴタは首に巻いたマフラーに手をあて、いつもの柔らかい笑みを浮かべる。

ああ、なるほど。二人でおそろいのマフラーを買ってたのか。仲が良い事は本当に良いんだが…、こりゃあやっぱりウエハ

ラ、玉砕したのか…。

こうなったらもうコゴタと付き合っちまえ!結構お似合いのカップルだしよ!

…とか思ったが、さすがにそうは言えねぇ。…たぶんそのケねぇもんなこいつら…。

「あ!ゲン、そろそろ時間だ!」

「え?あ、本当…。済みません先輩方、僕達そろそろ…」

済まなそうに頭を下げた二人に、俺とキイチは笑みを向ける。

「おう。何か用事があんだな?気にしねぇで行けよ」

「そろそろ暗くなるから、気をつけてね二人とも」

「はい、ありがとうございます!」

ビシッと礼をするウエハラ。

「それじゃあ、失礼しますね、アブクマ先輩、ネコムラ先輩」

その横で丁寧に頭を下げるコゴタ。

二人は顔を上げると、並んで踵を返し、仲良く人ごみの中に消えてった。

その後姿を眺めてたキイチが、ぽつりと口を開く。

「ねぇサツキ君。あの二人…」

「ん?あいつらが、どうかしたか?」

言葉が切れたから先を促すと、キイチは小声で言った。

「僕らと同類じゃない?」

「は?え?…いや、そりゃあどうだろうなぁ?たぶんそのケはねぇと思うけど…」

「そう?…僕の勘違いか…」

キイチは不思議そうに首を捻る。

本当のとこ、どうなんだろうな?そんな素振りはねぇけど、俺そういうのに鈍感らしいからなぁ…。言われると確信持てねぇや。

「ま、とりあえず買い物も一通り済んだし、帰って飯の支度にするか!」

「あ、今日は手伝うよ。僕も少しは料理覚えたいし」

意外にも、キイチはそんな事を言い出した。

「お?んじゃあせっかくだから、俺の好物でも覚えて貰おうかなぁ!」

調子に乗ってそんな事を言ったら、

「ひややっこ?なら任せて!たぶんボクでもできるから!」

キイチは自信満々にそう言った。

いや…、冷奴って…、切ってネギとか鰹節乗っけるだけじゃねぇか…。できればこう豚汁とかさぁ…。

「…ま、気持ちは有り難く貰っとくぜ」

俺は苦笑いしながらキイチの背を軽く叩いた。

そして、クリスマスの飾り付けできらびやかになった商店街を、ゆっくり、のんびり、歩いて帰る。

さぁて、今夜ばかりは二人っきりでのんびりできる!うんと羽伸ばしとこうぜ、キイチ!