第四十二話 「濃い時間」

僕は根枯村樹市。クリーム色がかった白い被毛の猫獣人で、もうじき卒業の東護中三年生。

「キイチ。今夜暇か?」

帰り支度を始めた僕に、大柄な茶色い熊獣人がそう声をかけてきた。

明日は土曜日で学校は休み、期末試験も終わってゆっくり過ごせる休日だ。

「うん。あいてるけど?」

サツキ君は周りのクラスメートを見回し、誰も僕達に注意を向けていない事を確認してから、声を潜めた。

「…ん…んじゃよぉ…。今夜、ウチに泊まりに来ねぇか…?」

「ん?どうしたの急に?」

大きな体を縮こめて、サツキ君は胸の前で組んだ手をモジモジと動かしながら、小声で呟く。

「…ん…。そのぉ…、ホワイトデーだろ?今日…」

…あ。そうだった。

「一応ほら…、お返し、用意してるからよ…。気にいるかどうかは、ちっと自信ねぇんだけどな…」

サツキ君は太い指で鼻を擦り、とても恥かしそうにモジモジしながら、僕の顔色を窺っている。

…あ…。「ホワイトデーに期待する」なんて言ったの、本気にしちゃったんだな…。

「あれ、冗談のつもりで言ったんだけど…。ごめんね?悪い事しちゃった…」

申し訳ない気分になって、耳を伏せながら謝ったら、サツキ君は恥かしげに鼻の頭を掻き続けながら呟いた。

「…それだけじゃ…ねぇんだよ…。最近ほら、あんま二人でゆっくりできる時間も無かったろ?…進学準備で身動き取れなく

なる前によ、…そのぉ、一晩ぐれぇ…」

…ひょっとして、寂しかったのかな?さっちゃん…。

「うん!両親に話してみてからだけど、たぶん大丈夫だと思う」

そう返事をして微笑みかけると、

「そ、そか!んじゃ部屋綺麗にして待ってるな!」

サツキ君の顔にパーッと笑みが広がった。

…本当に久し振り…。毎日同じ部屋で寝起きしていたあの頃から、もう一ヶ月以上も経ってるんだね…。



その夜、外泊許可を貰った僕は、夕方にサツキ君の家にお邪魔した。

「こんばんはー」

「おう!上がってくれ!」

玄関で出迎えてくれたサツキ君は、久し振りに見るエプロン姿だった。

「あれ?おばさんは?」

「日曜まで婦人会の旅行に行ってる。親父は遅くなるってよ」

…ん?という事は…。

「ぬはは!久々に二人っきりでのんびりできるぜ?」

サツキ君は嬉しそうに笑うと、靴を履いたままの僕をひょいっと抱き上げ、グリグリと頬ずりしてきた。

「ちょっとサツキ君、靴靴!」

「んあ?おっと悪ぃ…」

サツキ君は僕を玄関にそっと下ろすと、決まり悪そうに眉根を寄せ、口をへの字にした。

「…まったく、嬉しいのは分かるけど、最初から飛ばし過ぎないでよ?」

…とは言ったものの、一緒に過ごせる事をここまで喜んでくれると、まんざらでもない。

靴を脱いで玄関から上がった僕は、サツキ君に抱き付いて、エプロンに頬ずりした。

「のんびり、楽しもうね?」

「おう!」

サツキ君はニッと笑って、ギュッと、僕を抱き締め返してくれた。



サツキ君お手製、僕の好物ばかり集めた夕食の後、僕達は居間でくつろぎ、テレビを見ながら会話を弾ませていた。

胡座をかいて座ったサツキ君の足に、僕はちょこんと座っている。

サツキ君はまるで大きな座椅子みたいだ。

背中が柔らかいお腹に当たって、寄り掛かると具合が良い。

体格差も手伝って、サツキ君はドッシリ動かず、僕がどんなに体重をかけたってビクともしない。

僕の頭の上にはサツキ君の顔。時々顎を頭の上に乗せてグリグリしてくる。

一ヶ月と少し前には当たり前だったこの時間が、今ではどんなに素晴らしい物だったかが良く分かる。

あの当時はこの上なく幸せだと思っていたのに、間を置いた今になってから「あの時はもっともっと幸せだったはずなんだ」

って、惜しく感じるんだから…。

人は「慣れていく生き物」だから、繰り返す日々の中で当たり前になってしまうと、きっと幸せも、薄れて感じられるよう

になってしまうんだね。

感覚が麻痺して、だんだん鈍感になっていってしまうんだろう。

その事についてサツキ君に話してみたら、

「深く考え過ぎなんじゃねぇのか?」

との答えが返ってきた。

「大変な経験してきたお前に、こんな事話すのもなんだけどよ。前の事を思い出すと、今より良かったって思える事、多くねぇ

か?」

「う〜ん…。どうだろう?言われてみればそんな気も…」

「俺に言わせりゃ、人ってのは「忘れてく生きもん」だ。辛ぇ、自分に都合の悪ぃもんは忘れたがって、昔を思い出せば楽し

かった事や良かった事なんかは…なんつったっけあれ…?…ああそうだ、美化されて思い出される。都合が良いけどそういう

もんだろ?俺だって、お前に言われなきゃ、ケントの事も、忘れてぇって思い続けてただろうし…」

サツキ君は困ったように顔を顰めながら、ガリガリと頭を掻いた。

「上手く言えねぇけど、それなんじゃねぇか?同居中も、楽しい事や嬉しい事ばっかじゃなかったはずだぜ?」

「え?…嫌な事は思い出せないけど…」

「例えば…。寝返りうった俺の下敷きになって窒息しかけた事は?」

「…あったね、そんな事も…。すっかり忘れかけてたけど…」

「だろ?振り返れば悪いモンは印象が薄くなってて、全体的にはいくらか良くなって思えたりするもんだ。慣れてた訳じゃな

く、今から見れば、あん時より幸せに思い出せるって事じゃねぇのかなぁ?…ま、あの時期が幸せだったってのは、もちろん

俺も同意見だけどな」

「…こんな事を言ったら、両親に申し訳ないんだけど…。サツキ君は、あの頃の方が良かったって、思い出したりしない?」

「もちろん思い出すぜ?でも…」

サツキ君は、丈夫そうな歯を見せてニッと笑った。

「俺にとっちゃ、お前と一緒に居る「今」がそれまでで一番上、幸せの最高記録だ」

…参った…。僕はサツキ君の言葉を反芻しながら舌を巻いていた。

勉強は教える側だけど、こういった物事の考え方は、サツキ君の方がよほどしっかりしている。

振り返ってばかりいる癖が付いた僕にしてみれば、彼の前向きさは眩しいくらいだ…。

「ぬはは!ま〜た、らしくもねぇ事話しちまったな。あくまで俺のちっこい脳ミソから出た戯言だ。聞き流しちまってくれ」

そう笑いながら言うと、サツキ君は壁掛け時計を見上げた。

「そろそろ風呂も沸いてるな。入ろうぜ」

僕はもちろん即座に頷いた。

「うん!…そうだ。傷痕の毛、だいぶ濃くなってきたんだよ?」

「んじゃ、じっくり確認させて貰うかな。入念に洗いながらよ!」

サツキ君はニィーっと笑うと、座っていた僕を両腕でひょいっと抱え上げた。俗に言うお姫様抱っこの状態。

「お前、少し重くなったよな?」

「かもね。でもそれ君が言う?サツキ君こそ今何キロ?」

「今は170丁度だよ」

おや?

「意外…、全然増えてないね?」

サツキ君は少し引き攣った苦い顔で答える。

「バレンタインに…イエローカード貰ったからな…」

あぁ、どうやらあのメッセージは汲み取って貰えていたらしい。

「ま、星陵に行って部活再開したら、元通りの逆三角形に戻るからよ、期待しててくれ」

「確かに今よりは締まってたけど…、逆三角形だった事なんてあったっけ…?どっちかっていうとドラム缶…」

「…ドラム缶とか言うなよ…」

情け無さそうに眉を八の字にするサツキ君。

「あはは!ごめんごめん!でも、ちょっと太り気味なくらいが丁度良いよ?太り過ぎはもちろん問題だけどね」

僕がそう言うと、サツキ君は微妙な顔で苦笑いした。



サツキ君に背中を流して貰いながら、僕は入念にあそこを洗った。

時々チラチラと覗き込んで来るサツキ君が、羨望の眼差しをソコに注いでいる。…やりにくいなぁ…。

サツキ君のおチンチンは、相変わらずの可愛いサイズだ。

…ゆくゆくは僕のぐらいの大きさになって欲しいと願っているらしい…。

…ちなみに、重度の包茎なのも相変わらず。

サツキ君は僕の背中の泡を洗い流し、軽くポンと叩いた。

「終わったぜ」

「うん。ありがとう」

そして僕達は交代し、今度は僕がサツキ君の広い背中を洗う。

僕からすれば、サツキ君の立派な体格が羨ましかったりする。

濃い茶色の被毛に覆われた固太りした体は、骨太で、筋肉がみっしり詰まっている。

その上には脂肪が乗り、フサフサの被毛と相まって手触りが良い。…もちろん脂肪が付くにも限度はあるけど…。

縦も横も高さもある大きな体は、そのくせ結構機敏に動いて、長距離走以外のどんなスポーツもこなす。

全国大会で並み居る強豪を投げ飛ばした、太く、逞しい腕は、僕を抱き締めてくれるときにはとても優しく、暖かい。

大きくて強くて逞しい。そして優しくて暖かい。君は、小さな頃の純粋さはそのままに、真っ直ぐ、逞しく成長したね…。

そんな君に、いつまでも好きでいて貰えるように、僕も君に恥じない振る舞いを心がけよう。

「ねえ…」

「うん?」

声をかけると、彼は首を捻って僕を見た。

「大好きだよ。さっちゃん」

広い背中に抱き付いたら、サツキ君は照れ笑いした。

「ぬはは…、何だよいきなり?」

「ふふっ!何でも良いじゃないっ!」

僕はサツキ君の背中に体を密着させながら、股間が疼くのを感じて、少しばかり決まり悪い気分になっていた。

…考えてる事は純粋な事だったのに…、体は正直だね…。



「んで、ホワイトデーのお返しなんだけどよ…」

お風呂から上がって彼の部屋に行くと、サツキ君はブリーフ一丁のまま、机の引き出しを開けて、何やらゴソゴソやり始め

た。

そしてくるりと向き直ると、僕にリボンをかけて包装された、細長い小箱を差し出した。

「わぁ、ありがとう!半分冗談だったのに、気を遣わせちゃったね?」

「気にすんなって!あのお茶結構効いたしな。ほれこの通り」

サツキ君はそう言って、お腹をポンポンと叩いて見せた。

…ごめん、その軽く叩いただけで揺れるお腹を見ても、どう効いたか良く分からないや…。

「開けても良い?」

「おう。…気に入って貰えると…良いんだけど…」

サツキ君は少し不安そうに言った。

僕は小箱にかけられたリボンを解き、包装を開ける。中には…、

「…これ…って…」

中に入っていたのは、しおりだった。

革製の帯型しおりで、上端にはシルバーのアクセサリーが付いている。

箱を見て再確認すると…、やっぱり!これ、伊国の有名ブランドのしおりだ!

「そのぉ…、お前が使いそうで、役に立ちそうなもんって判らなくてよ…、それぐれぇしか考えつけなかったんだ…。悪ぃ…」

サツキ君は鼻の頭を擦りながら、絶句している僕の顔を伺うように見つめた。

「う、ううん!逆に申し訳ないよ!僕のプレゼントはあんなのだったのに、こんな高そうな物なんて…」

「そ、そっか?気に入ってくれたか!?」

目尻を下げて耳を寝かせたサツキ君は、なんだかほっとしているみたいだった。

心配してたんだ?君からのプレゼント、気に入らない訳が無いのに…。

「気に入るも何も、凄く嬉しい!役に立つよ!大事に使う!」

「だはは…、ほんとは、お前がくれたみてぇに、手作りのもんなんかが良いんだろうけど、俺、編み物なんかもできねぇし…。

毎度毎度、買ったもんで悪ぃな?」

「ううん!気持ちだけで嬉しいんだから!君からのプレゼントなら、何だって嬉しい!」

僕はサツキ君に抱き付いた。

本当に、僕の事を良く見て、憎いぐらいに好みを把握してくれてる…。

こういう時、サツキ君がどれだけ僕を良く見てくれているかが実感できて、凄く嬉しくなる…。

「ありがとう。すっごく嬉しいっ…!」

「そか、良かった!」

サツキ君は満面の笑みを浮かべた。そして僕を軽々と抱き上げ、おでこにキスをしてくる。

「んじゃ、お返しも終わったトコで、お楽しみと行くか!」

「…やだこのスケベ…」

…う〜ん…、ムード台無し…。



「き、きっちゃ、ん…!も、もぉ…ダメ…!いっ、イっちゃ…ぅひっ!すとっ…ぷぅっ!」

お互いのチンチンを同時にしごき始めて2分程。僕のチンチンを握っていたサツキ君の手が止まった。

早くも音を上げた彼に、思わず「え?もう?」と言いそうになるのを堪え、僕は微苦笑して頷く。

うっかり「早いね?」とか「もう?」とか言っちゃうと、サツキ君は滅茶苦茶ヘコむ。

…まぁ、よっぽど溜まっていたんだろう。と、そういう事にしておく…。

僕は彼の手を自分の股間から放させ、仰向けになるように促した。

…久し振りだから、今日は入念に行こう。できれば一杯一杯になるまで弄って弄って弄り倒したい。

素敵なプレゼントのお礼も兼ねてねっ!

大人しく仰向けになった彼の横に座って、広げた股の間に手を滑り込ませ、舐めて湿らせた右手の指をお尻の穴にあてがう。

「んっ…!」

指が入る瞬間、サツキ君は目を硬く閉じて、歯を食い縛って声を漏らした。

きつく締め付けてくる肛門の奥、ふわふわと柔らかい腸内を、僕は指の腹でゆっくり、優しくまさぐる。

内側をまさぐる内に、サツキ君のお尻から少しずつ力が抜けてくる。

弛み始めたのを見計らって、指を抜き挿ししてお尻をほぐしていく。

「う…、んぅっ、ふ…!」

時々サツキ君の口から漏れる声が、何とも可愛らしい…。

指を二本に増やした僕は、左手で柔らかい胸を揉みしだきながら、サツキ君の真ん丸いお腹に顔を寄せ、長くふさふさの被

毛に隠されて窪んでいるおヘソに舌を入れた。

「んあっ!ちょ、まっ…!ひにぃっ!」

舌先でおヘソをグリグリすると、少ししょっぱいサツキ君の味がする。

ここは最近発見したばかりの、新しい弱点だ。

「あっ!あっ!ら、らめっ!ソコらめぇえっ!」

早くもかなり感じているらしく、なんだかろれつがおかしい。

胸、おヘソ、お尻の三点攻撃を受けているサツキ君の股間で、可愛いおチンチンがひくひく動いてる。

勃っても皮を被ったままのおチンチンの先から、先走りがとうとうと漏れてる。

「や、やめっ、お、おねがっ、お願いっ!ら、らめぇええええっ!そこ…、あ、やっやめっ!ひぐぅっ!」

硬く閉じた目に涙を滲ませながら、さっちゃんは懇願する。

…止めれませんよ。そんな反応されて、そんな声聞かされて、そんな顔されたら…!

僕はちょっと意地悪してやりたくなって、サツキ君のお尻の中で、二本の指を激しく動かし始めた。

異物感に耐えかねたのか、だいぶ腸液が出て、僕の指とサツキ君のお尻はクチュクチュに濡れてる。

「あ!やぁっ!らめぇぇえええええっ!そ、そこ、当たっ、て…!ひうぁあああっ!」

指先で腸の中を、お腹側にグリッと押し込むと、前立腺を刺激されたサツキ君は、口から高い嬌声を、おチンチンからコプ

コプと我慢汁を零す。

いつもの堂々とした様子はもうすっかり無い。

あられもない声を上げて痴態を曝すサツキ君…。僕だけが見られるこんなにも可愛いサツキ君…。

これは僕だけの特権って言えるだろう。…ちょっと得した気分…。

「ひっ、…ひんっ…!き、きっちゃ…、はぁっ!…もぉ…だめ…!い、イかせ、て…!おかしく、なっちゃうぅっ…!」

繰り返す快感に責め立てられ、泣きながら懇願するサツキ君。

…反則だ…。こういう顔とか見せられると、なんかサドっ気に目覚めそう…。

「も、もう…はぁっ…イかせ、てぇ…!ひぅっ! お、お願いぃ…!」

なおもお尻とおヘソを弄り続けると、サツキ君は涙をポロポロ零し始めた。

…これ以上じらすのは流石にかわいそうかな…。

僕はサツキ君のオヘソから口を離し、胸から手を離して、すでに先走りでヌトヌトになっている可愛いおチンチンを握った。

サツキ君の体がピクンと震えて、手の中でおチンチンが跳ねた。…敏感だなぁ…。

中指から小指と、親指を使ってサツキ君のかわいいおチンチンをしごきつつ、先っぽまでスッポリ被った皮の中に人差し指

を挿し入れ、指の腹で亀頭を擦る。

「あ、あんっ!ぅあっ!い、ふぅっ…!」

サツキ君は可愛い声を上げ、嫌々をするように首を横に振りながら身を震わせる。

絶頂間近のご様子。相変わらず感度が良いねぇ。

口から漏れる喘ぎ声と一緒に、サツキ君の胸とお腹が、早くなった呼吸で上下する。

「ひぎぃっ!」

サツキ君のかわいい声と同時に、指先で、温かいものが弾けた。

出口を塞がれたせいで被った皮が膨らみ、先っぽから入れた指の隙間から白い精液がこぽっと零れ、かわいいおチンチンを

伝い落ちる。

しばらくピクピクとおチンチンを痙攣させ、ピピュッと数回精液を発射した後、サツキ君は深い息を吐いて脱力した。

お尻まで垂れた精液をティッシュで拭い、おチンチンを綺麗にしてあげると、サツキ君はまた声を上げて身を震わせる。

そして、乱れまくった荒い呼吸を整えて、少し落ち着くと、

「じゃあ、交代…」

そう言って身を起こし、サツキ君は僕をベッドに寝そべらせる。

同時に始めてもサツキ君が先にイっちゃうから、僕達はいつも結局、交互に愛撫する形になる。

サツキ君は仰向けになった僕の足を大きく広げさせ、股の間から身を乗り入れた。

自分の体重で僕を圧迫させないよう、両腕を僕の両脇について身を支え、鎖骨を、胸を、鳩尾を、ゆっくりと、丁寧に舐め

上げる。

ゾクゾクする舌使いに、僕は時折小さく喘ぎながら、サツキ君に身を委ねる。

サツキ君の舌技は回を重ねる毎に上達して行く。

舐めるのが好きらしく、放っておけばいつまでだって僕の体を嘗め回している。

以前一度、前面ガードでうつ伏せに寝転がったら、頭のてっぺんからお尻、足の裏まですっかり舐められ、くすぐったさで

死にそうになった。

…尻尾だけは断固としてガードしたけど…。

時に、部位によっては少し強めに甘噛みしながら、もしかして勢い余って僕を食べ始めるんじゃないかと思うほどに、入念

に、執拗に、サツキ君は僕の体を味わうように舐めて行く。

うっとりとした表情で愛撫してくれる様子が、僕をますます興奮させる…。

たぶん、好きな人には堪らないプレイなんだろうけれど、僕は時々くすぐったさに耐えかねて、声を上げて笑い出しそうに

なる。

時間をかけた愛撫は、やがて僕の股間に達した。

サツキ君は大きく口を開けて、「はむっ…」と、僕自身を咥え込み、ゆっくりとしゃぶり始める。

僕は必死に喘ぎ声を押し殺し、サツキ君の頭を両手で挟み、撫でる。

巧みに動く舌が、柔らかい頬の内側が、さきばしりと混じり合った唾液が、亀頭を、肉棒を苛めて、絶え間ない刺激を送っ

てくる。

愛撫の最中に何度か、僕の亀頭が喉の奥を突いた。

その都度くぐもった呻きを漏らし、むせ返りそうになりながらも、サツキ君は目を潤ませたまま必死に愛撫を続ける。

そのひたむきな奉仕が、顔つきが、僕を興奮の最頂点まで昇り詰めさせる。

「さっちゃん…。僕、も…!もう、そろそろ…!」

サツキ君は目で頷くと、僕自身を根本まで口に含んだ。

また喉の奥に先端が当たり、小さくえづいた後、サツキ君はぢゅぅっと、僕を強く吸った。

「さ、っちゃん…!さっ、ちゃ…あ、ああぁっ!」

声を上げ、サツキ君の口の中に精を吐き出し、僕は果てた。

サツキ君は僕のチンチンを強く吸い続け、最後の一滴まで気持ちよく出させてくれた後、ゴクリと喉を鳴らして精液を飲み

下した。

そしてヘニョラ〜っと、何とも弛みきった顔で笑うと、僕の横に寝そべり、甘えるようにくっついてきた。

催促に応えて軽く唇を重ね、サツキ君の腕を枕にしてぺったりと密着する。

こうするとお互いの顔が間近で見られる。

サツキ君は先に寝る事が多い僕の寝顔を、そのままじーっと見つめていたりするらしい。

脱力して余韻に浸りながら、僕らはお互いの体の感触と、体温を、心行くまで味わう。

温かい、大きな体にぴったりとくっついていると、とても安心する。

昨年、サツキ君に声をかける前までは、こんな温かい気持ちが、安らぎが存在するなんて事、すっかり忘れていた。

僕にそれが与えられるなんて、想像もしていなかった。

幸せを噛みしめる度、僕はサツキ君が傍に居なかった頃の事を振り返る。

すっかり染みついてしまった、後ろばかり振り返るこの癖は、なかなか取れないものだね…。

「…また、考え事?」

「ん…。幸せだなって、思ってただけ」

僕の顔を覗き込んでいたサツキ君は耳をペタンと寝せて、ほわっと、可愛い表情で笑った。

「…ん…。俺も…幸せぇ…」

昔の、小さかった頃と同じ、相手を信じ切ってる、安心し切ってる、甘え上手な笑顔…。

くぅ〜!かわいいなぁもうっ!

僕は、今度は自分からサツキ君の唇を求め、長い、長い口付けを交わした。



「今日はさ、どっか出かけてみようぜ」

おじさんを交えて三人での朝食を終えた後、サツキ君は黒いダウンジャケットを羽織りながら言った。

「この町ともじきにお別れだしよ」

…そういえばそうだ…。

しばらくのお別れになるんだから、大切な想い出に溢れたこの町を、改めてゆっくり見て回るのも悪くはないかも。

「うん、いいね。何処に行く?」

「何処だっていいさ。…お前と一緒なら…」

最後の方は、照れたような小声になっていた。

「ぶらぶらっとさ、何するでもなく歩き回ってみるのも良いんじゃねぇか?」

「…そうだね。そうしようか」

僕は両親に買って貰った、真新しい春物のコートに袖を通しながら、笑みを浮かべて頷いた。



「覚えてる?ここのドブ川でさ…」

「ああ。三人で良くザリガニ釣ったよなぁ」

短い橋の上を歩きながら、僕達は昔の事を思い出し、笑いあう。

「サツキ君、ザリガニをたくさん釣り上げて、おばさんにエビフライにして貰うんだ。って頑張ってた事があったっけ」

「…そ、そう…だったっけ…?」

サツキ君は覚えていないのか、困ったように眉根を寄せていた。

「あんまし良く覚えてねぇなぁ…」

「僕は良く覚えてる。ケントがね、すっごく慌ててたんだよ?「おばさんに怒られるからやめとけ!」ってさ」

「だはは…。お前ほんとに細い事まで覚えてんなぁ。そういうとこは「忘れてく生きもん」で良いんだぜ?」

サツキ君は苦笑しながら頬をぽりぽりと掻いた。

「ねぇ。こうして、一緒に歩いてるとさ…」

「ん?」

歩き出しながら、僕は幼い頃の自分達が、僕らの脇を抜け、歩道を駆けていく様子を夢想する。

懐かしく、甘酸っぱい白昼夢の中には、もちろんケントも一緒に居た。

「僕達、昔から離れないで、ず〜っと一緒に居たように錯覚しちゃうね」

「…だな。一緒に居なかった何年もの間も、無かった事みてぇに思えて来る」

しんみりと頷きながら、横に並んだサツキ君が呟いた。

「その時間が取り戻せるぐれぇ、一緒に居る今を、濃く過ごしてるって事なのかもな」

僕は立ち止まり、サツキ君の横顔を見上げる。

…昨夜もそうだったけれど、サツキ君は時々、凄く鋭い事を言う。

…そうか…。僕達は今、一緒に居られなかった時間を埋められるくらいに、いつもくっついてるんだね…。

一緒に居て、濃い時間が流れて、それが僕らの間にあった、数年分の空白の時間を埋めて行くんだ…。

「なんだよ?俺、また何か変な事言ったのか?」

足を止めて僕を見返し、サツキ君は訝しげな表情を浮かべた。

「ううん。凄く良い事言ったよ!」

僕は飛びっきりの笑顔で、どんどん大人になっていくサツキ君に答えた。

もうじき、このたくさんの想い出が詰まった町ともお別れになる。

家族や友達、他にも親しかった人、知り合い、良く行っていたお店や、何度も通った道…。

色々な物にお別れして、僕らは巣立つ。

でも、きっと寂しいのにも耐えられる。

だって、一番大切な人が、一緒に行ってくれるから…。

これからも、もっともっと濃い時間を、一緒に過ごして行こうね、さっちゃん!