「小牛田元の望み」

「いぬ…ひこぉ…」

自分が呟いた寝言で目が覚めたぼくは、薄く開けた目で見慣れた天井を眺めた。

目を擦りながらベッドの上で起き上がって、壁の時計を見る。

午前三時…。まだまだ寝られる…。できればさっきの夢の続きが見られますように…。

欠伸しながら布団を引っ張り上げたぼくは、横になろうとして、その変な感触に気が付いた。

…パンツの中が、じわじわ冷えてくる…?

まさか…、まさかぼく、おねしょしちゃった!?

慌てて布団を退けて、上から垂れてるヒモを引っ張って灯りをつける。

布団は…、無事…。パジャマは…、一見大丈夫そう…。

ぼくは恐る恐るズボンの中に手を入れて、パンツに触れた。

…あ、湿って…る…?

恐る恐る膝立ちになって、ズボンを下ろして腰ゴムを引っ張る。たるんだお腹越しにブリーフの中を覗き込むと…、

…な、なに…?これ…?

真っ黒なぼくの被毛は、白いベタベタした汁でぐちょぐちょになっていた。なんだか変な匂いがする…。

ブリーフの内側にもべったりついている白い汁は、太ももを伝ってとろーっと降りていく。

慌てて手を太ももに当てて、それ以上たれていかないように押さえた。

ドキドキして、不安になりながら、ぼくはそれが何なのか、しばらく呆然とした後に気付いた。

白い液体でべたべたになってるぼくのおちんちんは、勃起して、硬くなっていた…。

ぼく、小牛田元(こごたげん)。東護中学校一年生の、黒い牛獣人。部活は柔道部で、クラスでは学級委員。

今夜が初めてなんだけど、…夢精…、…しちゃったみたい…。



「へぇ!」

翌朝、今学期最後の登校中、昨夜、初めての夢精をしちゃった話をしたら、一番の友達の秋田犬は目を丸くして感心したよ

うに声を上げた。

さっき顔を合わせたばかりの彼は、クラスメートで部活の仲間、そしてぼくの一番の友達で…、そのぉ…、…男同士だけど

恋人の…、上原犬彦(うえはらいぬひこ)。

「おめでとう!…なんだよな?たぶん」

「う〜ん…。たぶん。ありがとうイヌヒコ…」

ぼくらは声を潜めて笑いあう。

イヌヒコは、夢精はこの間済んだらしい。ぼくもやっと追いついた。

ちょっとびっくりしたけれど、体が大人になってきているって事なんだよね?

「あのさ、パンツどうした?」

「夜中にこっそり洗って、洗濯篭に入れておいた」

「はは!おれとおんなじだ!」

何故か嬉しそうに笑うイヌヒコ。つられてぼくも笑う。

一時期のぼくらは、上手く行っていなかった時期もあったけれど、今ではもうすっかり仲良し。

イヌヒコはぼくのせいで怪我をして、今年の中体連に出られなかったんだ。

でも、イヌヒコはぼくを赦してくれて、今じゃもうその事を怒っていない。

それどころか、いつだってぼくの事を気にして、喜ばせようと色々な事を考えてくれる。

小心者で引っ込み思案なぼくを、グイグイ引っ張っていってくれるイヌヒコの事が、ぼくは、その…大好き…。

「ところでさ。25日、大丈夫そうか?」

「うん。大丈夫」

「よっしゃ!」

頷いたら、イヌヒコはガッツポーズを取った。

24日はそれぞれの家でイブを祝って、25日は丸一日、イヌヒコとのデートの予定…!

楽しい冬休みは、いよいよ明日から…!

「ここんとこ、急に寒くなったよな」

「うん。ウチは昨夜からコタツ出したよ」

「うわ。結構頑張ったな?おれの家は先月末に出したぞ?」

「コタツ良いよねぇ。コタツでミカンとか、ごろ寝とか、凄く幸せ…」

「はははっ!同感!」

他愛のない、でも楽しいやり取り。

手袋をしていない手をポケットから出して、「はぁ〜っ」と息を吐きかけるイヌヒコの横顔を、微笑みながら横目で見てい

たぼくは、前に視線を戻す。

そして、前を歩く三年生の先輩二人の後ろ姿を見て、思わず足を止めた。

「どうかしたか?ゲン」

三歩進んでから立ち止まったイヌヒコは、ぼくの視線を追って前を向く。

そして、スタイルの良い、かっこいい先輩と、ロングヘアの美人の先輩の後ろ姿を見遣った。

二人の先輩は、茶色と白の大きなストライプが印象的な、おそろいのマフラーをしていた。

「あの先輩達が、どうかしたのか?」

「え?う、ううん。何でもない…」

慌てて首を横に振って、ぼくは歩みを再開した。

イヌヒコは不思議そうに首を捻っていたけれど、ぼくは別の話題に切り替える。

…おそろい、かぁ…。ちょっと憧れるけど、イヌヒコが迷惑だろうしね…。

こういうささやかな望みも、ぼくらのような関係じゃあ、なかなか…ね…。



25日の朝、ぼくは少し早めに待ち合わせの公園にやって来た。

「…あれ?」

凄い勢いでブランコを漕いでいるあれは…?

「イヌヒコ!」

恋人の姿を見つけたぼくは、小走りにブランコに近付く。

公園の土を押し上げる霜柱が靴の下で潰れて、足を踏み出す度にキュッ、キュッと音を立てた。

「お!早かったなゲン!」

ブランコを漕ぐのを止めて、それでも慣性で前後にグイングイン揺れながら、イヌヒコは嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

「それ、こっちのセリフ。何かあったの?」

「いやぁ…。なんか待ち遠しくってさ、ちょっと早めに来た」

鼻の頭を擦って、イヌヒコは苦笑い。

待ち遠しかったんだ?ぼくと会うのが…。しかも、あんな落ち着き無い様子でブランコなんか漕いじゃって…。

…えへへ…。嬉しい…なぁ…!

「な、何笑ってんだよぉ…。お前だってちょっと早かったじゃないか…」

ぼくが思わず顔を綻ばせると、イヌヒコは照れ臭そうにそう言った。

「でも、さすがにちょっと早過ぎだったかな?店が開くまで三十分以上あるぞ?」

「あ。そうだね…。じゃあ…」

ぼくは視線を巡らせて、公園入り口脇の自動販売機に目を向けた。

「ちょっと、ここで話でもして行く?」

「そうだな。時間はたっぷりあるんだし!」

賛成してくれたイヌヒコは、勢いが弱まって来たブランコから大きく飛んで、危なげなくストっと着地する。お見事。

イヌヒコはぼくと違って運動神経が良くて、大半のスポーツが得意だ。

足も速いし柔道も強い。この間の三年生の先輩との試合では、全国大会二位の実力者、アブクマ先輩を相手に大奮闘、凄い

試合を見せてくれた。

本人は少し背が低い事を気にしてるけれど、体付きそのものは秋田犬らしく骨太でがっしりしているし、稽古で鍛えられて

筋肉質。

う〜ん…、小さいながらも馬力があって、小回りも利くトラクターみたいな感じ?

大きいばかりで贅肉だらけのぼくの体とは大違いだ。

…中学生からメタボリックはまずいよねぇ…。いくら黒毛牛だからって、霜降りになるにはまだ早過ぎるよ…。

一緒に自動販売機前に立つと、イヌヒコは小銭を入れながら、

「何にする?ココアか?」

と、聞いてきてくれた。

付き合い始めてからまだあまり経っていないんだけれど、イヌヒコはぼくの好みをかなり細かく把握してくれている。

ぼくが頷くかどうかの内にボタンを押して、イヌヒコはココアの缶を差し出してくれた。

いつもの事だけれど、アクションがとにかく速い…。

「イヌヒコは、無糖のコーヒーで良い?」

ココアを受け取ったぼくが、交代して硬貨を入れようとすると、イヌヒコは肩をぐいっと押さえて押し留めた。

「良いって。今日はクリスマス記念でおれのおごり!」

「えぇ?クリスマス記念だから、ぼくもイヌヒコにおごるよぉ」

イヌヒコはニーッと歯を見せて苦笑いする。

「あのな…、それじゃいつもと同じじゃんか?」

…あれ?それもそうかも…?

「まぁいいじゃない。いつも通りだけど、今日のはちょっと特別って事で…。…よっ…!」

「あぁっ!しまった!」

ぼくは隙を突いてイヌヒコの上から腕を伸ばし、身長差を活かして硬貨を投入する。

と、イヌヒコはようやく諦めたように半歩退いてくれた。

「ブラックが良いんだよね?」

「うん」

ガコンと落ちた缶を取り上げて、イヌヒコに手渡す。

ぼくは苦くて飲めないけれど、イヌヒコはコーヒーに何も入れない派だ。…ちょっと大人…。

「さんきゅ」

「してやられたなぁ」っていうような顔で笑って、イヌヒコはプルタブに指をかけた。

二人で同時にタブを起こす、カシュッという音が公園に響く。

『メリークリスマス!』

コツンと缶を合わせて、ぼくらは笑いあった。



クリスマスソングと飾りつけで、耳にも目にも賑やかな商店街に入ったぼくらが最初にやって来たのは、入り口近くにある、

若者向けのアクセサリーショップ。

ショーケースの中には銀メッキのかっこいいブレスレットや指輪、首飾りなんかが飾られている。

他にもおしゃれな財布や小物類、ちょっとした上着や帽子なんかも置いてある。

本物のシルバーアクセサリーじゃないから、値段はぼくら向けのお手頃価格。

それでも、デザインが凝っている品なんかは、やっぱり少し値が張っちゃう。

お小遣いを貯めて、そういった品を身に付けるのが、ぼくらの年代の男子の大半が抱く夢だったりもする。

…そう、大半はそうなんだけれど、実際にはぼくはあまり興味がない。

もっと正確に言うと、ぼく自身が身に付ける事には興味がないんだ。

興味があるのは、イヌヒコに似合いそうなアクセサリー。

イヌヒコはおしゃれだ。

シューズやウィンドブレーカーを揃えたり、着こなしのセンスもバッチリ。

スポーツウェアブランドを中心にチョイスする、動きやすさ重視のスポーティーなファッションが好きみたい。

でも、たぶんこういったストリートファッションも似合うと思うんだよね…。

「なあゲン」

「うん?」

イヌヒコに後ろから声をかけられて、ショーケースの中を覗いていたぼくは、顔を上げて振り向く。

「これ、どう思う?」

イヌヒコは耳出し穴のついたモスグリーンのニットキャップを被って、三角の耳をピクピク動かしてみている。

…か…かわいい…!

当初の目的とはちょっと違うけれど…、こういうのも…アリ…かな…。

「似合うよ、凄く!」

「そ、そうかな…?」

照れたようにぺたっと耳を伏せたその顔が、ますますキュート…。

「な、なら…、買おうかなコレ」

帽子を脱いで値札を確認するイヌヒコ。よし、これだ!

「あの、さ…。それ、ぼくにプレゼントさせてよ?」

「え?」

きょとんとした顔をするイヌヒコに、ぼくは微笑みかけた。

「クリスマスプレゼント。ね?」

「いや、気持ちは嬉しいけどさ…。でも、これ結構するし…」

値札を見ながら躊躇っているイヌヒコの手から、ぼくは帽子を取り上げる。

「大丈夫だよ。ね?いいでしょ?ぼくからのプレゼント!」

「…なんか今日は珍しく強引だなゲン?」

イヌヒコはそう言って不思議そうな顔をする。…あれ?そ、そう…かな?



「悪いなぁゲン。小遣い減らさせちゃって…」

「平気平気。これぐらいどうって事ないよ!」

嬉しそうな困ったような、そして照れているような笑顔で、イヌヒコはキャップの入った紙袋を抱き締めている。

値札を外すときに痛むのが嫌だから、きちんとハサミで切ってから被るんだって。

「せっかく貰ったプレゼントなんだからな、大事にしなくちゃ」

照れ笑いするイヌヒコは、とてもかわいくて、素敵で、見ているだけで幸せな気分になれた…。

もうじきお昼になる事だし、ぼくとイヌヒコはそのまま、近くのたこ焼き屋さんに足を向けた。

このアブクマ先輩お勧めのたこ焼き屋台、柔道部ではポピュラーな寄り道先。

…同時に、ぼくらにとってはちょっとした縁があるお店…。

前にイヌヒコが恐い人に絡まれた時、ここのおばちゃんがアブクマ先輩に知らせてくれたおかげで、ぼくらは難を逃れる事

ができたんだ。

外側はかりっと焼き上がって、中はトロッとしたここのたこ焼きは、他の何処で食べるよりも美味しい。

おばちゃんに挨拶して一パックずつ買って、道すがらコンビニでおにぎりと飲み物を買ったぼくらは、一度公園まで引き返

した。

今度はついにイヌヒコに奢られちゃった。どうしてもって聞かないんだもん…。



「冬休み、ずっと予定無いのか?」

「うん。年末年始のご挨拶とかを除くなら、予定らしいのは部活くらい?家の手伝いも冬はあまり無いし…」

「そうか。じゃあ目一杯遊べるな!」

「うん!」

公園のベンチに並んで座り、お昼ご飯にしながら、ぼくらは冬休みにしたい事をあれこれ話し合った。

イヌヒコは嬉しそうな笑顔で、

「そう言えばゲン、お前スキーとかやる?」

と、ぼくに尋ねて来る。

「え?んっと…、小学校のスキー合宿で数回やっただけで…、得意でもないなぁ…」

ぼくは鈍いからほとんどのスポーツがダメ。スキーもやっぱりダメなんだよね…。

「おれ、結構得意なんだ。コマ兄ちゃんさ、たまに連れてってくれるんだよ。良かったら一緒に行こう?おれと兄ちゃんでき

ちんと教えるからさ」

イヌヒコの一番上のお兄さん、狛彦(こまひこ)さんは、確か今21歳。

これが秋田犬だ!って言うような、180センチ以上ある立派な体格の骨太犬獣人で、綺麗な赤茶色と白のツートンカラー

が印象的な好男子。落ち着いた、大人の雰囲気がある優しいお兄さんだ。

「いいの?ぼく下手くそだから、迷惑かけちゃうよ?」

「ははは!迷惑なんてするもんか!ゲンが一緒に来るなら、おれも嬉しいし!」

遠慮しながら訊いてみると、イヌヒコは楽しそうな笑い声を上げた。

…嬉しい…。あまり興味は持っていなかったけれど、イヌヒコが誘ってくれるなら、連れて行って貰おうかな?

…たぶん転がりまくって雪だるまになっちゃうけど…。



お昼を挟んで、午後一番に商店街に引き返し、ぼくらは衣料品店に入った。

今度来たのはカジュアルな品揃えのお店で、ハーフコートや丈の長いダウンジャケットとか、少し大人っぽい服なんかが見

られる。

今日はイヌヒコが来たがってたんだけれど、ぼくらは普通このお店には来ない。

大人びた服が並ぶ店内で、イヌヒコは迷う事無く一番奥の棚に向かった。

少し遅れて後ろをついていったぼくを振り返って、イヌヒコはマネキンが首に巻いているマフラーを指さして見せた。

「どうだこれ?」

それは、黒と茶色のギンガムチェックに織り込まれた、手の込んだ毛糸のマフラーだった。

イヌヒコのちょっと恥ずかしそうな顔を見て、ぼくの胸がほわっと暖まった。

…ぼくが心の中で、密かに望んでた事…。気付いてくれていたんだ…、イヌヒコ…。

「その、さ…。おそろいのマフラーとか…、してみる気、ない?」

居心地悪そうに視線を逸らしながら、何でもない風を装って、でも確実に照れながら言っているイヌヒコに、ぼくは、不覚

にも目を潤ませながら頷いた…。

ありがとうイヌヒコ…。ぼくの事、いつでも気にかけて居てくれて…。

イヌヒコは自分の分とぼくの分、マフラーを二本買ってくれた。

単にマフラーを貰っただけじゃない。おそろいのものを身に付けられるっていう、本当に素敵なクリスマスプレゼント…。

 …憧れの、ちょっとだけペアルック…。

ふと思いついて店員さんに頼んでみたら、綺麗に値札を外して貰えた。

「い、イヌヒコ…」

「ん?」

新品のマフラーを、さっそくぼくの首に巻いてくれていたイヌヒコは、ぼくの顔を見上げ、それからギョッとしたように目

を大きくした。

「い、いぬ、ひ…、ひっ、ひっく…!あ、ありがっ…、あり…が、とぉ…!」

「おいちょっと!?げ、ゲン!こ、こんな事で泣くなってば!おい!?」

じーんと来て、我慢できなくなって、思わず嬉し涙が込み上げてきてしまったぼくの顔を、イヌヒコはおろおろしながら、

取り出したハンカチで拭ってくれた…。

ごめんね?そしてありがとう、いぬひ、ひ…、ふ、ふえぇぇぇぇん…!



しばらくしてようやく落ち着いたぼくは、イヌヒコとおそろいのマフラーをして商店街を歩いた。

午後になったら、急に人が増えてきた。

人ごみの中を、ぼくらははぐれないように傍にくっついて、ゆっくり、ゆっくりと歩き続ける。

…嬉しい…。気付いてる?ぼく、今凄く嬉しいんだよ?イヌヒコ…。

自然に顔が綻んじゃって、さっきから頑張ってるのに笑顔が消せない。

…今のぼく、周りから見てかなり気持ち悪いんじゃないかな?

「んんっ?」

興味を引きそうな店を探し、視線を巡らせながら横を歩いていたイヌヒコが、急に声を上げて立ち止まった。

ぼくも立ち止まり、イヌヒコの視線の先を見て、そして気付いた。

ずっと先に居る、あの大きな後ろ姿は…。

「あ。アブクマせんぱーい!」

濃い茶色の、大きな熊の獣人は、イヌヒコの声に反応して足を止めて、こっちを振り向いた。

ぼくらの姿を見ると、目が細められて厳つい顔に笑みが浮かぶ。

「おう!久し振りだなぁ!」

「お久しぶりです!」

「こんにちは、アブクマ先輩」

歩み寄ったイヌヒコがハキハキと礼をして、ぼくも笑顔を浮かべてぺこっとお辞儀する。

部活があるぼくらと違って、受験生の先輩方は、普通平日は真っ直ぐに帰る。

二学期の終業式後も会えなかったから、先輩の顔を見るのは、あの三年生の先輩達との試合以来だった。

アブクマ先輩は一人じゃなかった。大きな体のすぐ横には、白い小柄な猫獣人の姿がある。

…何回か図書室で見た事がある。確か、図書委員の先輩じゃなかったかな?

ぼくらの視線に気付いたのか、アブクマ先輩は横に立って微笑んでいる、白猫先輩に視線を向けた。

「っと、紹介しとくな?俺の幼なじみ、でもってクラスメートの…根枯村樹市(ねこむらきいち)だ」

白猫のネコムラ先輩は軽く頭を下げると、

「初めまして、ネコムラです。君達は、上原犬彦君と、小牛田元君かな?」

 と、ぼくらに微笑みかけ…、

『え?』

ぼくとイヌヒコは、思わず顔を見合わせた。

…あ、あれ…?初対面、だよね?少なくとも、言葉を交わしたりするのは初めてのはず…。

「サツキ君から何度か話を聞いていたんだ。二人とも柔道部なんだよね?よろしく」

困惑しているぼくらを見ながら、ネコムラ先輩は穏やかに微笑んだまま、そう言った。

アブクマ先輩がぼくらの事を?…ど、どういう風に話しているんだろう?ちょっと、気になるかも…。

「あ、はい!ウエハラです!こちらこそよろしくです!」

「初めましてネコムラ先輩。コゴタです」

イヌヒコはちょっと打ち解けたように笑い、きびきびと礼をする。

柔道歴が長いせいか、イヌヒコのお辞儀はビシッとしててかっこいい。

ネコムラ先輩がぼくらのどんな話を聞いているのか想像して、ちょっと恥かしくなって照れ笑いしつつ、ぼくもおじぎした。

…ネコムラ先輩、凄く小柄な、線の細いひとだけれど…、雰囲気が、何だか不思議…。

可愛い。そう言って良い華奢な外見。でも、何て言うか…、凄く大人びた感じ…?何だろう?これ…。

「買い物していたんですか?」

イヌヒコの発した声で、ぼくは考え事を中断した。

イヌヒコはアブクマ先輩が手に下げている袋を見つめて、興味深そうにそう尋ねていた。…目をキラキラさせてる…。

「ひょっとして、恋人へのプレゼントとか!?」

「い、イヌヒコ。あまり詮索しちゃ失礼だよ…?」

別にやじ馬根性とか、そういうものから出た行動じゃない。

イヌヒコは単に、恋愛というものを学習しようとする意識が強くて…、その…、誰と誰が恋仲だとか、そういう話しに凄く

興味を示すだけ。

アブクマ先輩は少し目を細めると、丈夫そうな歯を見せてニッと笑って、

「期待持たせて悪ぃが、ただの食材だ。晩飯用のな」

と、ぼくらに袋をかざして見せた。…確かに、この近くのスーパーの袋には、お野菜なんかが詰まっている。

イヌヒコは露骨にがっかりした顔をした。

…まぁ、アブクマ先輩が誰かにクリスマスプレゼントするなら、ぼくもちょっと興味あるけれど…。中身にも相手にも…。

「お前らこそ、買い物に来たんじゃねぇのか?」

アブクマ先輩はぼくらの顔を交互に見ながらそう尋ねて来た。

「ええ。でも、そっちは済みましたから…」

ぼくはちょっと誇らしい、温かい気持ちで、マフラーに手を当てて先輩に頷いた。

…また、自然に笑みが浮かんでくる…。

「あ!ゲン、そろそろ時間だ!」

ぽわんと温かい気持ちに浸りかけたぼくは、イヌヒコの声で首を巡らせて、商店街の中にいくつかある柱時計に目を遣った。

「え?あ、本当…。済みません先輩方、ぼく達そろそろ…」

揃ってペコリとお辞儀すると、大人と子供程も体格差のある二人の先輩は、穏やかな笑みを浮かべた。

「おう。何か用事があんだな?気にしねぇで行けよ」

「そろそろ暗くなるから、気をつけてね二人とも」

「はい、ありがとうございます!」

姿勢を正してビシッと礼をするイヌヒコの横で、

「それじゃあ、失礼しますね、アブクマ先輩、ネコムラ先輩」

ぼくも先輩達に丁寧にお辞儀する。

二人は顔を上げたぼくらは、右手を軽く上げたアブクマ先輩と、頷くように小さく会釈したネコムラ先輩に背中を向けて、

人ごみの中を引き返し始めた。



「広いなぁ、お前の家…」

「そう?」

約束どおり、ぼくの家に遊びに来てくれたイヌヒコは、後ろについて廊下を歩きながら、物珍しそうに天井や襖、長い廊下

を見回していた。

この付近は昔からの農家…、特に減反で土地が余っちゃって、潰した田畑も売るに売れなかった兼業農家が多い。

使わなくなった倉を潰して、母屋に繋げたりもしているから、どこの家も平屋でべたーっと広くなってる。

この辺りじゃみんなこんな感じだけど、分譲住宅が多い地区に住んでいるイヌヒコから見れば、広い家に見えるのかな?

廊下の突き当たりにあるドアを開けると、そこがぼくの部屋。

持て余し気味の十畳の和室には、ベッドと制服かけ、普段着を入れる四段引き出しの箪笥に本棚、勉強机。

それに石油ファンヒーター、冬場以外は布団を外してテーブルになる小さめのコタツに、宝物のCDMDコンポなんかが置

いてある。

「おぉ!マイコタツあるのか!良いなぁ!それにしても、いろいろ揃ってて羨ましいなぁお前の部屋」

「そうなの?」

ファンヒーターのスイッチを入れながら、ぼくは感心しているようなイヌヒコを振り返った。

イヌヒコは鼻をフンフンさせながら部屋を見回してから、本棚に視線を向けて、じっと見つめる。

「やっぱりエロ本は無いな」

「え!?な、無いよぉそんなのっ!」

そもそも、あったとしたら親の目に付く本棚なんかに入れておかないってば…!

「それじゃあ、さっそく始めようか?」

「え?…も、もう?」

「当たり前だろ?それがお邪魔した最大の目的なんだから」

イヌヒコは何でもないように言うけど…、き、緊張してきた…。…っていうよりも…、ちょっと恐くなってきた…。

じ、実は今日、イヌヒコは…、ぼくにオナニーを教えてくれる為に来てるんだ…。



きちんと鍵がかかった事を何回も確認してから、ぼくはドアの前でイヌヒコを振り返った。

「い、良いよ…」

「んじゃ、こっち来て」

ベッドに腰掛けたまま手招きしたイヌヒコに頷いて、ぼくはおそるおそるイヌヒコに近付いた。

「そんな泣きそうな顔するなよ…。別に恐い事や痛い事なんかないんだからさ」

「そ、そんな事、言われても…」

自分でもはっきり判るくらいに、ぼくの声は上ずって震えている。

イヌヒコはぼくを気の毒に思ったのか、自分の横をポンポンと叩いて、座るようにぼくに促しながら、優しげに微笑んだ。

「やっぱり、緊張するんだよな?でも、大丈夫だ。おれだって何回もやってるんだから」

ぼくはおずおずと頷いて、イヌヒコの横に座る。重たいぼくの体重を受けて、ベッドが微かに軋んだ。

硬くなっちゃってるぼくを見かねたのか、イヌヒコは、揃えた足の上に置いていたぼくの手の上に、そっと、自分の手を重

ねてきた。…あったかい…。

イヌヒコの体温と、気遣ってくれている感じが伝わってきて、ほんのちょっと、ぼくの体から硬さが取れる。

「ビクラ先生もさ、みんなやることだって、そう言ってた」

「…うん」

「おれの場合はちょっと早かったみたいだけど、年頃の男子はみんなやるんだってさ」

「…うん…」

「その…、ちょっと恥ずかしいだろうし、今は恐いかもしれないけど…、大丈夫だよ。おれ、きちんと教えてやれるように頑

張るから…」

ぼくを励ますイヌヒコの言葉を聞いていて、やっと気が付いた。

声が、少し震えてる…。イヌヒコも緊張しているみたい…。

そうだよ。イヌヒコだって、ひとに教えるのは初めてなんだし、自分だってこの間覚えたばかりなんだもんね…。

こ、怖がってばかりは、いられないよね?せっかく、イヌヒコが気を回してくれたんだから…!

「い、イヌヒコ…」

「ん?何だ?やっぱり、恐いか?」

気遣うように顔を覗き込んできたイヌヒコに、ぼくは…、

「ううん。もう、大丈夫。…大丈夫だよ…」

精一杯頑張って、笑顔を作って頷いて見せた。…ま、まだちょっと恐いけど…、が、頑張るよ…!



トレーナーとズボンを脱いで、ティーシャツとブリーフだけになる。

ヒーターで部屋は暖まっているのに、足がカタカタ細かく震える。

イヌヒコも服を脱いで、ぼくと同じ格好になってくれた。

ぼくが恥ずかしがらないように、自分も同じ格好になる、って言ってくれて…。

まず勃起していないといけないらしいけれど、怖さが勝って、興奮できない…。

「ゲン。良いか?まずおれがやってやるから、見ててくれな?」

「う、うん…」

イヌヒコはぼくの前で屈み込んで、ブリーフのゴムに指をかけた。

「ぬ、脱ぐの?」

「うん…。当然…」

「じ、自分で脱いじゃ、ダメ?」

「た、たぶんだけど…、脱がされる方が、興奮すると、思う…。あ!い、嫌なら自分で脱いで良いんだぞ?無理しなくて良い

んだからな?」

「…う、ううん…。い、イヌヒコがそう言うなら、やってもら…う…」

気遣うように見上げてきたイヌヒコに、ぼくは唾を飲み込んでそう答えた。

「じゃあ…、ちょっとだけ、我慢、な?」

「…ん…」

イヌヒコの指が、そろっとブリーフのゴムを引っ張った。中に空気が入り込んで、おちんちんがすーすーする…。

…恥ずかしい…。顔が熱くて、体が汗ばむ…!胸がドコドコ言って、心臓の音が耳元で聞こえる…!

ぼくはぽこんと出てしまっているお腹の上から、ブリーフをそろそろ下ろしていくイヌヒコの手を見つめた。

…恥ずかしい…。今更になって思ったけれど、ぼくの締まりのない太った体は、筋肉質なイヌヒコから見たらどう映るんだろう?

やっぱり、だらしないとか、見苦しいとか、そう感じられるんじゃ…?

「い、いぬ…ひこ…」

「ど、どうした!?」

ブリーフを10センチくらいまで下ろしたイヌヒコは、ビクッと手を止めて、ぼくの顔を見上げた。

「ぼ、ぼく…、かっこわるい、よね…?ふ、太ってるし、臆病だし…、い、イヌヒコとは、大違い…」

イヌヒコは少し黙った後、

「…ん…、まぁ、確かにおれ達ってかなり違うけど…」

ぼくが突然何を言い出すのかと、不思議がっているような顔でそう話し始めた。

「でもゲンは、かっこわるくなんか無い。おれから見たらでかくて羨ましいし、優しいし、勉強もできるし、それに…、その

…、か、可愛いん…だぞ…」

最後の方の言葉は途切れ途切れで、イヌヒコは恥ずかしそうに目を伏せていた。

「変な事気にするなよ。おれは、そのまんまのお前が、そのまんま好きなんだから…。まぁ、「好き」もまだ勉強中だから、

気の利いたこと…言えないけどさ…」

「…う、ご、ごめ…、あ、ありが…と…」

「ちょっ、な、泣くなよ!?」

「ん、んうっ、我慢、するぅ…」

ぼくは天井を向いて、嬉し涙を必死に堪えた。でも…、

「う、うふぐっ、え、え…、ふえぇぇぇぇえええん…!」

今日二回目の大きな嬉しさが、我慢できなくなっちゃった…。

イヌヒコは、両手で顔を覆って泣き出しちゃったぼくを見上げて、

「…なんか…、これじゃおれ、嫌がってる事を無理矢理やって、泣かせちゃってるみたいじゃないか…」

そう、途方に暮れたように呟いた…。



再びベッドに腰掛けたぼくの手を、横に座ったイヌヒコが優しく握っている。

「大丈夫か?」

「う、うん…、ごめん…」

「ほんと涙もろいよなぁゲンは…」

「う…、ご、ごめん…」

「ま、そういうとこも…、か、可愛いんだけど…な…」

そっぽを向いて恥ずかしそうに言ったイヌヒコは、ぼくの手を少し強く、キュって掴んだ。

「イヌヒコ…、ぼ、ぼく…、今度こそ、もう大丈夫…」

ブリーフを脱いで丸出しになっているおちんちんを見下ろして、恥ずかしいのを我慢しながら、ぼくはなんとかイヌヒコに

告げた。

「そ、それじゃ…、再開、な…」

イヌヒコは繋いでいた手を放して、ベッドから立ち上がると、畳に膝を着いてぼくの前に屈み込んだ。

一応…、言葉ではどういう事をするのか説明されている。

硬く目を閉じたいのは山々なんだけれど、それじゃあイヌヒコが教えに来てくれた意味がない…。

恥ずかしいのを我慢して、ぼくはイヌヒコの手元を見つめた。

イヌヒコの手が、躊躇いがちに伸びて、ぼくのおちんちんにそっと触れ…、

「ふぁ…」

く、くすぐったくて、ちょっと触れただけなのに声が漏れちゃった…。

イヌヒコはちょっと笑って、それからぼくのおちんちんの先から、そっと皮をめくる。

慎重に、先っぽが出るいっぱいまでゆっくり皮を剥いてから、まじまじと、ピンク色のそれを見つめた。

汚いとは思っていないのか、触ってくる手には躊躇いがないみたいだった。…け、けど…、恥ずかしぃ…よぉ…。

ぼくのおちんちんは皆と比べて少し大きいらしいけれど、今は緊張ですっかり縮んでしまっている。

イヌヒコはごくっと喉を鳴らしてから、右手でおちんちんの棒を軽く握って、左手は下から、袋にそっと添えてくる。

体が、ピクンと勝手に震えた。

「げ、ゲン…。我慢しててくれな?」

イヌヒコはそう呟くと、ゆっくり、ぼくのおちんちんを擦り始めた。

少し握ったり、緩めたりしながら、イヌヒコは手を上下させて、ぼくのおちんちんを擦る。

顔が燃え上がるんじゃないかと思うくらい恥ずかしかったけれど、…我慢…!

そのうち、何回も擦られて温まったせいか、それとも緊張が解けて興奮の方が強くなったせいか、ぼくのおちんちんは大き

くなって、硬くなってきた。

硬くなったら動かし易くなったのか、イヌヒコの手はスピードを上げ始める。

むずがゆいような、それでいてお腹の奥に響くような、変な刺激が…、…あ…!

「ま、待って!イヌヒコ!な、なんか、おしっこ出そう、かも…!」

「たぶん違う。膀胱じゃないだろそれ?ちょっと違う所が…、その、ムズムズするんだろ?」

手を動かし続けているイヌヒコは、少し息を切らせながらそう言った。

言われてみれば、おしっこがつまってる感じとはちょっと違う…?

「いいか?何か出そうだって感じても、我慢するなよ。出して良いんだからな?」

「う、うん。で、でもぉ…」

なんだか…おかしい…!

太ももの付け根がかくかく言いそうになって、腰や背中に震えが来る…!

寒気ともちょっと違うゾクゾクする感覚が、おちんちんからお腹の下や、股の間に広がる…!

おちんちんを擦られるむず痒さは、いつのまにか軽い痺れみたいな感覚に変わってる。

イヌヒコの手の動きはかなり激しくなっていて…。

「ご、ごめっ…!イヌヒコ!だめっ!お願い、止めて!なんか、なんか…!」

いまさらだけど、イヌヒコにおちんちんを触られている事に恥かしさと、興奮を感じてる…。

不安と…、恥かしさ?妙な心地良さで、逆に怖くなる…!

なんだか、頭がどうにかなっちゃいそうな、そんな不安が…!

「大丈夫。大丈夫だからな、ゲン?もうちょっとだけだから、たぶん…」

ぼくのお願いにも、イヌヒコは手を動かすのをやめない。やめないでくれた。そして…、

「ひあっ!」

お腹の下から首、そして頭の先までがゾクゾクッとして、ぼくは体を震わせた。

反射的に硬く目を瞑ったぼくは、お尻の辺りに力を込めて、歯を食い縛る。

おちんちんの下、玉の辺り…、かな?そこがヒクヒクして、それから何かが体の中を走って行って…、急に、楽になった…。

「わっぷ!」

最初、ぼくは自分のおちんちんからそれが飛んだ事に気付かなかった。

イヌヒコが声を上げて手を止めて、そして目を開けてから気付いた。

イヌヒコの顔に、白いドロドロが…。…ぼくの、…せ、せい…えき…?

「は…、はっ、はっ…」

これまでに感じたことがない快感。体から力が抜けて、気だるい感じが体の中に残る。

なんとなく、罪悪感みたいなものがある…。

イヌヒコはティッシュを取って顔を拭い、部屋に漂う妙な匂いに、微かに顔を顰めた。

「出るなぁ…。おれよりずっと…」

「う、あ…、あの…、ご、ごめんイヌヒコ…」

謝らなくちゃって思うのに、恥ずかしさで顔が火照って、まともにイヌヒコの顔が見られない…。

俯いて、もじもじ謝ったぼくに、イヌヒコは口を横に引いて、白い歯を見せて笑う。

「気持ちよかったか?」

「え?」

ぼくは少し黙った後、小さく、本当に小さく、頷いた…。



飛んじゃった精液を綺麗に拭いて、換気扇を回したぼくらは、並んでベッドに腰掛けた。

「さっきやったのを、自分の手でやるんだ。それがオナニー」

「イヌヒコも、ずっとやっているの?」

「うん。…ほぼ毎日…」

ちょっと恥ずかしそうに顔を背けて、イヌヒコは頷いた。

落ち着き無く尻尾をはたはた振っている様子が、…ちょっとかわいい…。

「ねぇ、イヌヒコ…」

「ん?」

「そ、その…。ぼくにも…、やらせ、て…?」

もじもじしながらぼくが言ったら、イヌヒコは背筋をびしっと伸ばして固まった。

「ん、あ、いや、その…」

「…ダメ…?」

「だ、だめって訳じゃ…」

耳がぺたんと寝てて、尻尾がぴくっ、ぴくっと動いて布団を叩いてる。…凄く恥ずかしがってるみたい…。

「ねえ…、お願い…」

もう一回お願いしてみたら、イヌヒコはたっぷり十秒近く黙った後、コクッと頷いた。

「…やった…!それじゃあ、パンツ、脱がせる所から…」

凄くドキドキしながら、ぼくの心は焦ってる。

…だ、だって…、い、イヌヒコのおちんちんに直接触るの、今日が初めてになるんだもん…。

腰を浮かせたイヌヒコの前に回って、ぼくは跪いて股間を覗き込む。

そして、トランクスに手をかけたら、もう待ちきれなくなって、ぼくはイヌヒコの腰の左右でゴムを掴んで、一気に下げる。

半分下ろしたパンツに、勃起していたイヌヒコのおちんちんが引っかかって…、

「んふぁっ!」

ビクッと体を震わせて、イヌヒコが声を上げたのは、唐突だった。

トランクスのゴムから解放されて、ぶるんっと跳ねたおちんちんが、少し剥けてる先っぽから、ぼくの顔に白い液体を…。

「うわっぷ!」

鼻面に生温かい液体をかけられて、思わず声を上げて顔を押さえたぼくの前で、イヌヒコはちょっと満足げな笑みを浮かべ

ながら「はふぅ…」と息をついた。…それから…、

「…あ…。あっ…ああああ…!ご、ごめんゲン!でっでっ、そのっ!出ちゃった!」

何が起こったか判らないまま固まっているぼくに、イヌヒコは表情を一変させて、焦りまくった顔で何回も頭を下げて、そ

う謝った…。



後で知った事だけれど、イヌヒコは、興奮している時におちんちんを刺激すると、すぐに出しちゃう。

凄く敏感みたいで、専門用語ではこういうのを「そうろう」って言うらしい。

それから、ぼくらは時々お互いのおちんちんを弄り合うようになったけれど、イヌヒコは時々、パンツを脱がすか脱がせな

いかの内に発射したりしている…。

ぼく?…うんと…、ぼくは、割と我慢強い方みたい…。