第十三話 「新しい友達」

ボクの名前は田貫純平。東護中二年生で、名字のとおりの狸の獣人。

ボクが所属している柔道部では、個人戦の各階級で三年生のサツキ先輩とイイノ主将、団体一組が中体連の県大会を突破し、

地区大会への出場を決めた。

えぇと…、後ですね…、今では部内で三番目の実力者となったボクも地区大会に進出しましたっ!…あ?疑ってる?これほ

んとだからねっ!?

そんな乗りに乗ってるこの時期に、我らが柔道部では大問題が浮上していた。

「アブクマが!?どうしてです!?」

イイノ主将が困惑した様子でキダ先生に聞き返す。

「地区大会を目前に控えたこんな大事な時期に…!」

主将だけじゃない。他の皆も、もちろん僕だって困惑は隠しきれない…。

キダ先生の話では、サツキ先輩は今日からしばらく部活を休むという事だった。

「あいつの名誉のために、詳細な理由は伏せておく」

キダ先生は不機嫌そうにそう言った。

何の説明も無い事に不安を覚え、皆がざわつき始めると、イイノ主将が何かに気付いたように呟いた。

「…まさか…、あいつが期末試験で赤点を取りまくった事で、何らかの問題が…?」

「言ったはずだ…。あいつの名誉のためにも、詳細な説明は避ける。…っく…!」

キダ先生は目を瞑り、何かに耐えるような表情ですっと立ち上がる。そして道場の壁際に寄せてあった黒板に歩み寄り、チョ

ークを手に取ると…、

「あんのバカグマぁああああっ!あれほど言い聞かせたにも関わらず授業を昼寝と早弁に費やした挙句に赤点を大量生産しおっ

てぇええええ!さらに私の担当科目の数学で一桁なんて点数を取るなぁああああっ!しかもこの大事な時期に追試なんて醜態

を晒しおってぇええええっ!!!」

黒板に凄い勢いで何かの数式をガガガガっと書き殴りながら、先生は先輩の名誉の為に伏せておくはずの事を声高に叫び続けた。

…先輩…。勉強は嫌いだ嫌いだって常々言ってたけど…、ちょっとかっこわるいです…。



稽古を終え、戸締まりを終えたボクは、遅くなる事を家に連絡し、そのままバスに乗って隣町のお寺に向かった。

「こんばんは〜」

解放されている裏手の道場の入り口を潜り、会釈して挨拶。

「やあ、いらっしゃいタヌキ君」

幼稚園児の子の手を取って指導していた、柔和な顔立ちをした人間の老人が顔を上げ、微笑んだ。

この人は川口三四郎(かわぐちさんしろう)先生。今年72歳になる先生は、小柄で細身の体つきながら、柔道6段の達人。

さすがに寄る年波には勝てず、体力は衰えているらしいけれど、ボクは先生の豊富な経験と、様々な技術を教わっている。

先生は友人であるお寺の住職さんからこの小さな道場を借りて、無償で近所の子供達に柔道を教えてくれているんだ。

…実はボク、ここ最近は毎日のように、稽古後にここを訪ねている。この事は皆にはナイショ、一種の秘密特訓ってヤツ。

ボクは道場を見回し、見慣れた姿が無いことに気付く。

「彼はまだ来てないんですか?」

「何も聞いていないから、そろそろ来るはずだよ」

先生は穏やかな笑みを浮かべたままそう応じた。

なら、先に着替えておこうか。と、道場の隅に向かおうとした時、

「こんばんは」

すぐ後ろで扉が開き、待ち望んでいた相手の声が聞こえた。

「いらっしゃい、ダイスケ」

「や。珍しく遅かったね?」

先生とボクがそれぞれ声をかける。

「今日はジュンペーの方が早かったな」

先に来ていたボクを見て、黒い熊の獣人が笑みを浮かべた。

球磨宮大輔。強豪、南華中の二年生で、柔道部所属。去年の新人戦でボクを負かした相手で、練習試合でボクが負かした相

手。その後にちょっとした事で縁があって親しくなり、カワグチ先生にボクを紹介してくれたんだ。

「今日は随分かかったね?」

「ん…。三年生が引退してから、みんな纏まりがなくなって…」

南華中は、県大会で中体連を終えた。県大会まで勝ち進んだ各選手に止めを刺したのは、皮肉にも大半がウチの部員だった。

彼自身も予選と県大会とでイイノ主将と二度も対戦し、結局二回とも負け、県大会準々決勝で夏を終えた。

…イイノ主将を応援していたのは当然だけど、彼の事も密かに応援していたから、ボクの胸中は複雑だった…。

「主将も大変なんだねぇ…」

ボクがそう言うと、ダイスケは困り顔で呟いた。

「…オイラ、主将になんか向いてないのに…」

そう、彼は三年生の引退後、南華の主将に任命されていた。

ダイスケは実直で真面目な性格で、柔道も凄く強い。それに実に稽古熱心だ。確かに他の部員の模範となる選手ではあるけ

れど、どうにも彼は人にあれこれ指示を出したり、号令をかけるのが苦手らしい。少し前のボクみたいな極端な上がり性って

訳じゃないけど、どっちかというと人前で話すのは苦手…、ようするに恥ずかしがり屋なんだ。

「運が無かったって諦めるしかないよ」

笑いながらそう言うと、ダイスケは恨みがましい視線を投げかける。

「ジュンペーだって他人事じゃない。次は分かんないんだぞ?」

「う、う〜ん…」

たぶん大丈夫だと思うけど…、可能性はゼロじゃないんだよね…。あまり考えたくないなぁ…。

「それは今考えたって仕方無いや…。それより稽古稽古!さっさと着替えよっ!」

気持ちを切り替え、ボクはダイスケを促して道場の隅に向かった。

彼と再会したのは、あの練習試合のすぐ後の事だった。そして先生と、この道場の事を教えられ、ここに通って稽古させて

貰うようになった。

…あれからもう、二ヶ月以上になるな…。



強豪校との練習試合を繰り返す強行スケジュールの合間、待ちに待った休みがやってきたその日、ボクは久しぶりにショッ

ピングモールへ出かけた。

…本当は先輩も誘ったんだけれど、用事があるとかで断られちゃったんだよね…。

朝のうちに移動してしばらくゲーセンで遊んだ後、テーピングを切らしていた事を思い出し、ボクはスポーツショップに足

を向けた。

「え〜と…、あったあった」

いつも使っているタイプのテーピングを棚から見つけて手に取る。

僕ら獣人は体毛のせいで、人間と同じ普通のテーピングを使ったら毛がベタベタになったり、剥がすときにごっそり毛が抜

け(凶悪に痛いんだこれがっ!)たりする。で、内側が薄いゴム張りになっている獣人用のテーピングを使う。粘着するんじゃ

なく、摩擦で固定するタイプなわけ。

他の獣人製品にも言える事だけれど、店頭に置いてある在庫は、人間のそれと比較してかなり少ない。まぁ獣人が人口の一

割程度って事もあるからだろうけど、生産数自体も少ないらしく、金額もやや割高。

まだしばらく強行スケジュールが続くし、少し多目に買っておく事にして、棚に残っていた6個全部をかごに放り込む。…

お小遣いから出すのは厳しいし、あとでお母さんに請求しよう…。

…そんな事を考えながらレジに向かおうとしたその時だった。自動ドアが開いて見覚えのある顔が入ってきたのは…。

まっすぐにこっちに向かってきた彼は、ボクに気付いて足を止める。

「あ…。タヌキ君?」

黒熊の獣人は、少し驚いた様子で目を丸くした。

「や。この間はどうも…」

ボクは笑みを浮かべて挨拶する。

「うん。このあいだは、ごめん」

眉尻を下げ、申し訳無さそうにまた謝ってきたクマミヤ君に、ボクは苦笑を返した。

「もう気にしないでよ。ボクにとっては実りの多い試合だったんだからさ!」

クマミヤ君ははにかんだような笑みを浮かべる。ちょっとかわいいんだよね、この笑顔。

彼はテーピングの棚に視線を向け、品物を確認し始めた。そして、空になっている棚で視線を止める。

「…あ…」

彼は小さく声を漏らし、ちょっとがっかりしたような表情を浮かべた。

ん?彼も、ボクと同じのを使ってるのかな?

「もしかして、コレ?」

ボクがかごからテーピングを取り出すと、クマミヤ君は包装を確認して頷いた。

「はいっ」

ボクがテーピングを三つ差し出すと、彼は慌てて首を横に振った。

「タヌキ君も使うんだろ?」

「いいよ。半分こしよう」

ほとんど無理矢理手に握らせたら、彼は少し俯き、上目遣いにボクを見つめて微笑んだ。

「…あ、ありがと…」

くぅ〜っ!この顔がまたかわいいなぁっ!



店を出たボク達は、せっかくだから一緒に昼食を摂る事にし、近くのファーストフード店に入った。

中体連やインターハイが目前に迫ったこの時期、スポーツショップは品薄になりやすい。

クマミヤ君の近所のスポーツショップではテーピングが品切れだったらしく、わざわざここまでやって来たという事だった。

「調子、どう?」

「う〜ん…。まずまずかな?クマミヤ君こそ、今期から階級上がったばかりで大変なんじゃない?」

「ん、ちょっとだけ…」

彼はそう言いながらハンバーガーに齧り付くと、思い出したように苦笑した。

「でも、減量を続けるのもキツかったから。減量中は、大好きなコイツも食えなかったし」

「あぁ、やっぱり減量してたんだ…」

そりゃそうだよね、この体だもん。ボクと同じ階級じゃ厳しいだろう。放っておいてもリミット内(というよりリミット枠

の下限ギリギリ)のままのボクには、減量経験はもちろん無いから、正直なトコ、減量の辛さというものは良く分からない。

「中学に入ってから、急に体が大きくなってきたんだ。去年の秋頃まではなんとかなったけど、今年の春にはもう、どうやっ

てもリミットを出るようになって…」

そう言えば彼、熊獣人にしては体つきがやや細めかも。肩幅なんかから見るに、本来は結構骨太なはずだ。かなりハードな

減量してたんだろうなぁ…。

「なら今は、逆に増量中?」

「うん。でもすぐには増えないものなんだな。…増やしたくない時は勝手に増えたのに…。あははっ!」

クマミヤ君はちょっと困ったように笑った。

「じゃあガンガン食べて体重増やさなくちゃ」

ボクの言葉にクマミヤ君は、今度は苦笑いした。

「肉だけついて動きが鈍くなっても困る。キミのトコの主将、凄く強いからな」

そうだ。中体連からは彼はイイノ主将と同じ階級になる。…もう、ボクと公式戦で試合する事は無いんだ…。そう考えたら

少し寂しくなった。強敵が一人減ったんだ、本当は喜ぶところなんだろうけどね…。

「キミが強くなったのは、あんな凄い先輩達と稽古してるからなのか?」

「どうだろう?先輩達は強過ぎでね、ボクなんかじゃ全然敵わないんだ。強くなれてるのかどうか、よそと試合するまでは全

然分からなかった。もうちょっと実力が近い部員が居れば、少しは強くなっていく実感が沸くのかもしれないけど…」

「そうなのか?相手が強すぎるのも問題なのか…」

クマミヤ君は意外そうな顔で呟いた。

彼はそれからしばらく、何かを考え込むように黙り込み、やがてボクの顔を窺うように、上目遣いに見つめた。

「タヌキ君は、今、部活以外に道場とか行ってるのか?」

「ううん。小学校卒業まではやってたけど、中学に入ってからやめたんだ」

「そうなんだ…」

クマミヤ君はまた黙り、少ししてから俯き加減に話し始めた。

「…あのさ。オイラ、子供の時から柔道教えて貰ってる先生が居るんだ」

突然何の話だろう?と戸惑いながらも、一応頷いてみる。

「先生、近所の小さい子供なんかに、ただで柔道教えてくれてる。オイラも、先生の手伝いしながら、今でも稽古つけて貰ってる」

「…うん…」

戸惑いながら返事をすると、クマミヤ君は上目遣いにボクを見つめ、ぼそぼそと続けた。

「…もし、タヌキ君が良ければ…、見学に来ないか?あそこなら、子供達を帰した後、先生に見て貰って稽古できるし…」

…正直、この時のボクはイマイチ乗り気じゃなかった。今更他の道場に通うなら、前の道場にまた通う方が良い。近いし、

知り合いも多いし。

でも、練習とはいえ、彼とまた試合ができるのは魅力的だったし、中体連までに少しでも力をつけておきたい気持ちもあっ

た。だからボクは、彼の提案に頷いた。



善は急げという事で、その日の夕方、ボクはクマミヤ君に連れられてその道場に足を運んだ。

「…そういう訳で、タヌキ君にもここを使わせて貰えないかなと…」

カワグチ先生は穏やかな笑みを浮かべながら頷いた。

「ダイスケの友達なら、ワシはもちろん大歓迎だよ」

少し話をしたら、ボクはすっかりカワグチ先生の事が気に入ってしまった。穏やかで、優しくて、それでいて柔道の造詣も深い。

なんだか、細くてしなやかで、それでいて強靱な、まるで柳の枝のような人だと思った。

そして、ボクはそれから毎日のようにこの道場に通い、子供達の稽古を見てあげ、それが終わったらクマミヤ君と二人で稽

古をするようになったんだ。



「どうしたジュンペー?ぼーっとして」

ここに通うようになったきっかけを思い出していたボクの顔を、ワイシャツのボタンを外していたダイスケが覗き込んだ。

「疲れてるのか?」

「ううん。なんでもない」

ボクはダイスケに笑顔を返す。この短期間に強くなれたのは、先生とダイスケ、そしてこの道場のおかげだ。

部活が終わってからの稽古だから、少しきついけれど、それでもここでの稽古は部活のものとは違った楽しさがあった。

…楽しい…?

…ボク、なんとなくで柔道を続けて来たけれど、柔道が楽しくなったのって、いつからだろう?少なくとも、小学校の頃は

いやいややっていた…。楽しくなったのは、中学に入って、柔道部に入って、先輩達や、部の仲間と稽古するようになってか

らじゃないだろうか?

子供達の稽古を眺めながら考える。…ボクがこの子達くらいの時、始めたばかりの頃は、それなりに楽しかったかもしれな

いな…。

「ジュンペー?」

再び声をかけられ、ボクは我に返った。

「調子悪いんじゃないのか?」

「ご、ごめん。本当になんでもないんだ」

ボクの顔を心配そうに再び覗き込んだダイスケに、笑みで応じる。

彼とはこの二ヶ月の間にすっかり親しくなった。最初は遠慮があって名字に君付けだったけれど、今ではもう名前で呼び合

うようになっている。

ダイスケの顔を見つめ、ふと気になった。

「ダイスケ、柔道って楽しい?」

「うん」

黒熊は笑みを浮かべて即答してから、怪訝そうに「ん?」と首を傾げた。

「なんでそんな事を聞くんだ?」

ダイスケの目は、「楽しくて当たり前じゃないか?」と言っていた。

「なんで楽しい?」

「なんでって…、なんでだろう?」

ダイスケは少し考え、

「分からないけど、楽しいなら良いじゃないか」

そう言って、彼は屈託無く笑った。その笑顔に、胸がドキンと高鳴った。

上着を脱いだダイスケの体は、無理な減量を止めたおかげで、練習試合のあの頃と較べ、だいぶふっくらしてきた。…肉付

きの良くなった胴回りに、時々ちょっとクラッとくる。

…ダイスケの言うとおりかもしれない。理由がどうでも、楽しいならそれでいいんだ。きっと、前よりもずっと柔道が好き

になれたって事なんだから。

「だねっ。楽しいからそれでいいか!」

ボクは笑みを返し、子供達に視線を向けた。

さて、時間まで先生を手伝って、子供達の稽古を見てあげようか。



子供達が帰った後、ボク達は柔軟体操を始めた。

部活で一度動かしているけれど、それでも入念に体をほぐしておく。だって、これから一時間、みっちりダイスケと試合形

式で稽古するんだから。

「さぁ、時間も遅くなる。準備が終わったらさっそく始めようか」

カワグチ先生はそうボク達を促した後、口元に拳を当てて咳き込んだ。

先生は午後八時にはこの道場をしめる。ボク達が稽古できるのは、子供達が帰った七時からの一時間だけだ。

「準備、オッケーです」

「オイラもできました」

口々に応え、ボクとダイスケは道場の中央で向かい合う。

審判に立ったカワグチ先生は、軽く咳払いした後、はじめの合図をかけた。



『有り難うございましたっ!』

「はい、お疲れ様。気をつけて帰るんだよ?」

先生は微笑みながら、声を揃えて礼を言ったボク達を送り出した。

「あ〜、喉乾いた〜!」

「オイラも…。自販機寄ってこう?」

ボクらは街路灯の光を頼りに、暗い道を並んで歩く。

やがて見えて来た自販機の灯りに、虫のようにフラフラと近付き、思い思いにジュースを買い、それを飲みながら再び歩き出す。

他愛も無い事を話しながら歩き、辿り着いたバス停のベンチに並んで腰掛ける。

バスが来るまで少し時間がある事を確認して、ボクはダイスケに話しかけた。

「先生の風邪、結構しつこいね」

「うん。先生も歳だから、少し心配だ」

ダイスケはいつも、ボクをバス停まで送って、バスが来るまで一緒に居てくれる。

最初は遠慮したけれど、まだ中学生なんだから、夜道の一人歩きは危険だって言い張り、そうしてくれているんだ。…でも

自分だって中学生じゃん。ねぇ?

実は、この辺りには他にも道場生の多い大きな道場はいくつもある。なのにダイスケはなんで練習相手にも不自由する、あ

の少人数の道場に通っているんだろう?強くなるだけなら、他の大きい道場に通った方が有利だろうに…。

前から少し気になっていたので、思い切ってその事をダイスケに聞いてみた。

彼から返ってきた答えによれば、あの道場も昔はもっと門下生が多かったらしい。でも、その内皆、新しくできた大きな道

場に移って行って、小学低学年の子や幼稚園児を除けば、ダイスケ一人しか残らなかったそうだ。

なんで他の子のように移らず、一人で残ったのか?そう尋ねてみたら、ダイスケは恥ずかしそうに俯きながら答えた。

「オイラ、小さい頃からあそこでカワグチ先生に柔道を教えて貰ってる。柔道以外に何も取り柄が無いオイラを、先生は褒め

てくれる。だから…、先生とあの道場が好きだから…、先生の教えてくれる柔道で強くなりたい」

なんとなくだけど、彼が強いのも、稽古熱心なのも、この答えで理解できたように思えた。

「今年はダメだったけど、来年はきっと全国に行く。そうしたら、先生もきっと喜んでくれるし、門下生も戻って来ると思う。

あの道場をまた賑やかにするのがオイラの夢だ」

ダイスケはそう言って照れ臭そうに笑った。

「お…、おかしいかな?」

「…ううん。立派な目標だと思う。きっと、来年の夏には道場はまた賑やかになってるよ!もちろんボクも応援する!」

うん。今年は残念だったけど、来年はきっとダイスケも全国へ行ける!

「…あ、ありがと…」

ダイスケははにかんだような笑みを浮かべた。

この時のボクは、ダイスケの願いが叶う事を信じて疑わなかった。



…でも、この数ヶ月後に起こった出来事によって、ダイスケの夢は、…結局、叶う事はなくなった…。