第十四話 「先輩達の引退」(前編)

ボクの名前は田貫純平。東護中二年生で、柔道部所属。名字のとおりの狸の獣人。

この夏、何の間違いか全国大会出場を成し遂げてしまったボクは、試合を終え、会場内の公衆電話の前に立っていた。

「ごめん、ダイスケ…。一勝もできなかった…」

ダイスケにも協力してもらって、あんなに練習を重ねたのに、全国の壁は厚く…、…ボクは…、一回戦で敗れてしまった…。

彼は学校も違うボクに付き合って、カワグチ先生まで紹介してくれたのに…。ボクときたら一勝を上げる事もできなかった

んだ…。

『そうか。…帰ってきたら、また稽古しよう。来年目指して、また一緒にやろう』

「…うん…」

話すのが苦手な黒熊が、一生懸命言葉を選んでいる姿が目に浮かんだ。その無骨で不器用な励ましが嬉しかった…。嬉しく

て、申し訳なくて、目が潤んだ…。

『ジュンペー。オイラに電話なんか後でいいから試合を見ろよな?テレビじゃ準決勝くらいからしか見れない。せっかくなん

だからじっくり全国の試合を見ろ。…そして、帰ってきたら、いろんな話を聞かせてくれると、嬉しいな…』

「…うん。しっかり目に焼き付けてくよ。来年に備えて…」

ボクはダイスケに約束し、試合をしっかりと見るために会場へと戻った。



「やっぱり…、オジマ先輩のようには行かないか…」

戻ってきたイイノ主将は、そう言って苦笑いした。

かなり惜しかったけど…、主将は準々決勝で敗れてしまった。

「この立場になって初めて分かったよ。先輩も、きっと一試合でも長く、最後の夏を感じていたかったんだろうな…」

少し寂しそうに呟くと、主将はサツキ先輩に視線を移した。

「これで、勝ち残ってるのはお前だけだ。思いっきり暴れて来い!」

いよいよ次は準決勝。分厚い胸をドンと叩かれた先輩は、しかし…、

「…おう…」

なんとなく、元気が無い様子でイイノ主将に応じた。

…先輩、追試が終わって部活に復帰してから、なんとなく様子がおかしい。

一緒に帰る事も少なくなったし、気が付くと、時々ぼーっと考え事をしている。

稽古には前にも増して真剣に打ち込むようになっていたけど、それすらも、何かを頭から追い出そうと必死になっているよ

うにも見えた。

さっきの試合中も、一瞬観客席に気を取られたような場面があった。先輩にしては珍しい。…っていうか、あんなの初めて

だった。普段なら試合中は凄く集中していて、客席に視線を向けるどころか、こっちの声援すら届かなくなるのに…。

先輩は日に日にぼーっと何かを考え込む回数が増えてきていた。「何か悩んでるんですか?」って聞いてみたけど、「なん

でもねぇ」とか、「緊張してんだよ」とか、その都度はぐらかされた。先輩は嘘が下手だから、何かで悩んでるのはボクもイ

イノ主将も勘付いていたけど、先輩は何を言っても話そうとはしなかった…。

さっき、キダ先生が先輩を廊下に連れ出して、何か話をしていたようだけれど…。

タイミング良く、他の部員達が離れた隙を見て、ボクはもう一度先輩に尋ねてみた。

先輩は誰かを探しているように、また二階の観客席を見回していた。

「先輩?」

「ん?なんだ?」

先輩はボクに視線を向け、笑みを浮かべる。…作り笑いだ。だいたい、先輩は何もないときに普段からニコニコしていたり

はしない…。

「さっきの試合中も客席を気にしてたみたいですけど、誰か探してるんですか?」

「…いや、ちょっとな…」

先輩は歯切れ悪くそう応じると、何かに気付いたようにボクの顔を見つめた。

「?何ですか?どうかしました?」

「…ジュンペー。お前、誰かを好きになった事ってあるか?」

その時、ボクはどんな顔をしたんだろう?一瞬、目の前が真っ白になった。

「あり…ますよ…」

掠れた声でそう応じたら、先輩は少し驚いたようだった。

「相手は気付いてなくて…片思い…、なんですけど…」

「…そっか…」

先輩はボクに背を向け、小さく呟いた。

「…辛ぇな、お互い…」

…先輩…。…もしかして…。

ボクは先輩が歩き去って行くのを、身動き一つできず、呆然と見送った。



それから先、先輩は落ち着きを取り戻し、決勝まで勝ち進んだ。

でもボクは…、先輩が腕を負傷してドクターストップがかけられ、試合が中断されるまでの間、自分でも何をしていたのか、

何を考えていたのか、ほとんど何も覚えていなかった…。



「…ペー。おい、ジュンペー?」

大会が終わり、戻ったホテルで、ボクは自分を呼ぶ声に、はっと我に返った。

「あ、な、なんでしょう?」

「…どした?ぼーっとして?」

相部屋のサツキ先輩がベッドの上であぐらをかき、ボクの顔を見つめていた。

試合で痛めた右腕を肩から吊り下げている。不幸中の幸いで、少しスジを違えただけだったらしいけど、なんとも痛々しい

格好だ…。

「…済みません。今日見た試合の内容を思い出してて…」

「あ〜…。レベル高ぇ試合ばっかだったからなぁ。来年の参考になんだろ?」

先輩はそう言って口の端を吊り上げた。

先輩は、いつのまにか普段の先輩に戻っていた。決勝に向かうときにはもう元通りだったような気もするけど、よく覚えて

ないんだよね…。

「悪ぃけど、ジャージ脱ぐの手伝ってくんねぇか?右腕が使えねぇだけで結構しんどいんだわ」

言われて初めて気付いたけれど、なんとか一人でトライしてみたのか、先輩はジャージの上を中途半端に脱ぎかけた格好に

なっている。

「…す、済みませんっ!全然気付かないでっ!」

慌てるボクを見ながら、先輩は決まり悪そうに、ぎこちなく左手で頭を掻いた。

「ぬははっ…。情けねぇよなぁこれしきで。けど、お前が同じ部屋で助かったぜ。他のヤツに頼むよかナンボか気が楽だ」

ボクは先輩の左手側に回ってベッドに上がり、痛めた右腕をあまり動かさないように注意しながら、左腕の肘のところで引っ

かかっていたジャージを脱がせる。右側は羽織るようにしていたので、苦労せずに脱がせられた。

「結局、オジマ先輩の代わりに全国制覇、できなかったなぁ…」

タンクトップ姿になった先輩は、腕を吊っていた布を外し、肘関節から先が固定された腕をゆっくりと下ろしながらぽつり

と呟く。

そしてボクは、今更ながらとても大事なその事に気付いて、息を飲んだ。

…先輩達は、帰ったら引退なんだ…。

考えて無かった。いや、考えないようにしていた。もう、道場で先輩と顔を合わせる日々は終わりなんだ…。

胸が…、締め付けられるように苦しい…。

心臓が…、バクバクと激しく脈打つ…。

…先輩が、引退しちゃう…。

「じゅ…、ジュンペー?」

先輩のおろおろしたような声に、ボクは首を傾げる。

「なんですか?」

「…なんですかって、お前…」

先輩はなんだか少し慌てているようだった。一体どうしたんだろう?

「…なんで、泣いてんだ?」

「え?」

言われてから、頬を伝うものに気付いた。触れてみて、それを目の前に翳し、ボクは自分が泣いていた事を知った。

「ち、違うんですっ!これは…、その…!」

「ジュンペー?」

何について、何と弁明しようとしているのか、自分でも分からなかった。ただ、自分が泣いている事に気付いたせいで、感

情の制御がきかなくなっていた。

「ち、ちがっ…!ボク…はっ…!」

喉が勝手にしゃくりあげ始め、涙が溢れ出す。声が震え、嗚咽が洩れる。

「ジュンペー…」

先輩はボクを見て少し哀しそうな顔をした。そして…、

「…せ、せんぱっ…いっ…」

先輩は、左腕を僕の背に回し、ボクの体をしっかりと抱きしめた。

優しく、力強い腕に抱えられ、温かい胸に顔を埋め、ボクは泣きじゃくった。

「せ、先輩っ!引退なん、かっ…しちゃ…、いやですっ!もっと、もっと一緒に…!」

「…ジュンペー…」

「もっと…、もっと一緒に居て…!一緒に柔道して…!いっぱい話をして…!そ、傍にっ!これからも…!ボクらの傍に居て

くださいっ…!」

「ジュンペー…。そう言ってくれるのは嬉しいけど、そりゃ無理な相談だ…」

分かってる…。ボクだって、自分が馬鹿な事を言ってるのは分かってる…。でも、口が勝手に言葉を吐き出していた…。

「は、はなれっ…たく…、ないですっ!ずっと、一緒に居て…、もっと、いっぱい…!」

言葉を上手く言う事もできないボクを、先輩はギュッと抱き締めてくれた。

「俺だって、もっともっと、お前と一緒に柔道してぇよ…」

ボクは涙でグショグショになった顔を上げ、先輩の顔を見つめた。気のせいだろうか?先輩の目は、少し潤んでいるように

見えた。

「でもな、物事にゃ終わりがある。柔道部員としての俺の生活は、もうじき終わるんだ」

先輩はそう言った後、一層力を込めてボクをきつく抱き締めた。

苦しくはなかった。ただ嬉しくて、そして同じくらいに切なかった…。

「…でも、忘れんな?引退したって、お前は俺の可愛い後輩だ…。これからも、ずっと…、ずっとな…」

先輩の優しい語りかけが、寂しげな声が、温もりが、ボクの心に沁み込んで来る…。

「…せ…、せんぱ、い…。せんぱいっ…!う…、うあぁぁぁあああああああんっ!!!」

ボクは先輩の胸に顔を埋め、声を上げて泣いた。

先輩は、ボクが泣きやむまで、ずっと抱き締めていてくれた…。



泣きはらした目が治らないまま、ボクは先輩に連れられて食事に行った。

広い和室には人数分のお膳が並べられている。

大会が終わった開放感も手伝ってか、皆は広間に用意された豪勢な食事を前にして盛り上がった。

やがて全員が揃って食事が始まると、イイノ主将と並んだ先輩は、何かを話し合いながら、時折笑い声を上げていた。

…ボクは…。

「どうしたんですか?先輩。料理にもほとんど手を付けないで…」

顔を上げると、一年のウエハラがボクの顔を覗き込んでいた。

「…ちょっと、食欲が無いんだ…」

「う〜ん…、じゃあ、好きな物だけでも食べてくださいよ。おれもそんなに食べないですから、選んで取ってって貰って構わ

ないですからね?」

「ん。ありがとう。でも、本当に良いんだ」

ウエハラが気を遣ってくれているのが分かる。でも、やっぱり食欲は無かった…。

「お〜い!ジュンペー!」

大声で名前を呼ばれ、ボクは顔を上げる。イイノ主将がボクを手招きしていた。トイレにでも立ったのか、サツキ先輩の姿

は、いつの間にか消えていた。

「はい?」

立ち上がり、主将の傍に行くと、主将は声を潜めて言った。

「席替わってくれないか?あいつ、右手が使えなくて飯食えないようなんだが、「食わせてやろうか?」って言ってやったら、

顔を真っ赤にして断られたんだ。お前になら大人しく食わされるんじゃないかな?」

言われて見てみれば、先輩のお膳の上には、料理が殆ど手付かずのまま残っている…。

「…え、えぇと…。例え誰でも、周りの目があればウンと言わないかと…」

「う〜ん…、そういうものか…」

…主将…。そんなのちょっと考えれば分かるじゃないですかっ!?それとも、オジマ先輩とは周囲の目を気にせずにそうい

う事してたんですかっ!?

「で、その先輩は何処に?」

「鎮痛剤を取りに部屋に行った」

「え?やっぱり、痛むんでしょうか?」

「いや、薬が効いていればさほど痛まないと言っていたが…、あいつの性格からすると、痛くても黙ってそうだな、痩せ我慢

して…。ま、痩せないけどな、全然」

ナチュラルに毒を吐くイイノ主将…。

「とにかく、食後に飲むように言われて渡されたらしい。それを部屋に忘れてきたんだと」

「そうでしたか…。って、あれ?」

ボクはジャージのポケットに手を突っ込み、二枚のカードキーを取り出す。

「先輩…、上手く開けられないからって、自分の分もボクに預けてるんですけど…」

「…預けた事を忘れて、一人で行ったのかあいつ?」

呆れたように目を丸くするイイノ主将。

「ボク、ちょっと行ってきます」

「悪いけど頼むよ。下手をするとドアを破って部屋に入りかねないからな」

「あははっ!まさかぁ!」

笑って応じながらも、先輩の馬鹿力ならそれも可能だろうと思い至り、笑顔がギギッと引き攣る…。

「…急いで行ってきます…」

ボクは若干の不安を覚えながら広間を後にした。



宿泊しているフロアにエレベーターが到着し、ドアが開くと同時にボクは飛び出した。

ぼすんっ!

「いったぁ!」

ボクは跳ね返され、エレベーターの床に尻餅をついた。飛び出した所に、何故か壁があったのだ。

誰だよエレベーターの前を壁で塞いだの!なんて考えてたら、ボクを跳ね返した壁がのそっと動く。

「どうしたジュンペー?そんな慌てて…」

って、良く見たら先輩だった。

「先輩…?もしかして…、手遅れ?」

「…?…何がだよ?ああ、それより丁度良いトコに来てくれたな。鍵貸してくれ。部屋に忘れ物しちまったんだけどよ、お前

に鍵預かって貰ってたのをすっかり忘れてた」

「あ、間に合ったんだ…」

「…?…だから何がだよ?」

先輩に助け起こされたボクが、先輩がドアを破りかねない、とイイノ主将が言っていた事を説明すると、先輩は露骨に顔を

顰めた。

「…俺の事何だと思ってんだあいつ?自分家ならともかく、よそでそんな真似するかよ」

…自分の家でならやるんですか…?

「と、とにかく行きましょう。急がないと料理冷めちゃいますよっ!」

「まぁ、腕がこれだから殆ど食えねぇけどな…」

先輩は固定された右腕を軽く叩いて苦笑いする。

「食べさせてあげましょうか?はい、あ〜ん!って」

「じょ、冗談じゃねぇ!明日から晒しもんにされちまうっ!」

…ちっ、イイノ主将にはああ言ったものの、実はそんな新婚さんみたいな事やってみたかったんだよね。けどやっぱりだめか…。

「まぁ冗談は置いといて、食べないとダメですよ?」

「一晩くれぇ平気だよ。水でもがぶ飲みして腹膨らませとく。ま、明日の朝は握り飯でも用意して貰うさ」

先輩はそう言って笑った。

…腕が使えないだけの問題じゃないはずだ。大喰らいの先輩の事、食べる気があれば手づかみででも食べるはずだもん…。

…本当は、先輩も食欲が無いんだろう…。

先輩の薬を取り、戻った時には、料理はすっかり冷めていた。

やっぱり食欲はなく、ボクはせっかくの料理に殆ど手を付けないまま、部屋に引き上げた。



「薬が効いてきたかな…、もう眠くなっちまった」

先輩は、そう呟いて目を擦った。人の事は言えないけど、先輩は広間に戻っても、やっぱり夕食には殆ど手を付けていなかっ

た。…お腹、減ってないかな…?

そういえば、さっきのは冗談じゃなかったらしく、本当にミネラルウォーターを4リットル程がぶ飲みしてたっけ…。

僕達は今、それぞれのベッドの上でごろごろしながらテレビを見ていた。さっきまでは中体連のニュースを見ていたんだけ

れど、柔道の試合の様子はほとんど映されず、入賞者の名前をリストで映しただけだった。

まだ7時になったばかりなんだけど、疲れていたのか、ボクも少し眠気を覚えていた。

「早めに休みましょうか?なんだかボクも眠くなってきちゃいましたし…」

「そうするか」

ボクは立ち上がってテレビを消し、それからずっと抱えていた疑問について、尋ねてみる決心を固めた。

「あの…、先輩?」

ボクが声をかけると、先輩は眠たげに目を擦りながら「うん?」と視線を向けてくる。

「…好きな人ができたんですか?」

先輩は手を止め、真顔になった。

「今日、準決勝の前に言ってたのって、そういう事…なんですよね?」

「…まぁな…」

先輩は答えにくそうだった。先輩の困っている顔を見るのは嫌だから、いつもはそう感じたら大人しく引き下がる。でも、

今日は…、

「…ウチの学校の生徒なんですか?」

長い、少なくともボクには長いと思える沈黙の後、先輩は「…ああ…」と頷いた。

…やっぱり、そうだったんだ…。

「誰にも言うなよ?…どうせ付き合えやしねぇんだ。黙ってりゃバレねぇんだからよ」

先輩は苦笑いした。その笑顔は、泣きそうなのを堪えて笑っているようにも見えるほど、悲しげだった…。

「そ…それって…、どういう…?…もしかして、フラれたんですかっ!?」

「なんでそんなに目ぇキラキラさせてんだよ…」

先輩に軽く睨まれ、ボクは半笑いする。…失礼しました…。

そうか…。交際が決まった訳じゃないんだ…。ゲンキンなもので、そう分かったら少し元気が出てきた。

「…告白はしてねぇし、するつもりもねぇ。相手にとっても迷惑なだけだからな…」

「そ、そんなの分からないじゃないですかっ!」

ボクは思わず声を大きくしていた。先輩は少し驚いたようにボクを見つめる。

「告白する前から諦めちゃうなんてもったいないですよ!」

…ボク、何言っちゃってるんだろう…?

「だいたい、迷惑かけるかもなんて考えてたら、誰とも親しくなんてなれないじゃないですかっ!?」

馬鹿だなボク…。先輩が告白しなければ、ボクのチャンスも残るのに…。

「…お前の言うとおりかもな…」

先輩はそう呟くとふっと笑みを浮かべた。

「情けねぇなぁ俺は…。後輩のお前に教えられてばっかりだ…」

「そ、そんな事は…。で、その…、告白、してみますか?」

「…さぁな。分かんねぇや」

焚きつけるように言っておきながら、先輩の返事に少し安堵を覚えた。…本当に、なんなんだろう…ボクは…。

「さぁて、寝るか」

先輩はそう言うと、シャツに手をかけ、もぞもぞと体をくねらせ始めた。

「…どうしたんです?」

「…いや…、シャツ脱ごうとっ…、よっ!思ったんだが…、くそっ…!これもだめかっ?」

シャツを相手に悪戦苦闘しながらもぞもぞしている先輩は、なんだかかわいい。

「言ってくれればいいのに。手伝いますよ」

「…おう、悪ぃ…」

先輩は決まり悪そうに眉を八の字にした。

「はい、バンザイして〜」

ボクは素直にバンザイした先輩からシャツをすぽっと引っこ抜く。程よく脂肪の乗った固太りの身体があらわになり、ボク

は思わず喉をゴクリと鳴らした。

そして先輩は自分でジャージの下を脱ぐ。

トランクス一丁。この実に男らしい格好で先輩は寝る。その寝姿は無防備極まりなく、ボクは昨夜も理性を抑えるのに必死

だった。…これだからノンケは…。

「先に寝んぞ?」

「あ、はい。お休みなさい、先輩」

「ああ、お休みジュンペー」

挨拶を済ませると、先輩はさっさと横になり、布団を被ってしまう。

よほど眠かったのか、ボクが寝支度を調えている間に、「んか〜…、く〜…、んか〜…、く〜…」と、規則正しい寝息が聞

こえ始めた。

ボクは先輩の寝顔を少し見つめて癒し効果を味わったあと、灯りを消し、自分のベッドに潜り込んだ。

おやすみなさい、先輩…。

…今日はいろいろ、ごめんなさい…。