第八話 「言葉にできず」

通学路で、おれはいつものように黒毛和牛の姿を見つけた。

大柄で全身が黒いゲンは、遠くからでもすぐ分かる。

「おはよう、ゲン!」

「あ…、お、おはよう…、ウエハラ君…」

元気に挨拶したおれに、ごもごもと挨拶を返したゲンは、なんとなく気まずそうだった。

…まぁ、昨日の事を気にしているんだろう。おれだって昨夜は良く眠れなかったし…。

ゲンと並んで歩き、他愛もない事を話しながら、校門を抜けて校舎に向かう。

おれは上原犬彦。東護中一年生で、柔道部所属の秋田犬の獣人だ。

今おれは最優先で解決するべき非常に重要、かつデリケートな問題を抱えている。この大切な親友、ゲンに関する大事な問題だ。

おれは、ゲンが同性愛者だという事を知ってしまった。

そして、おれの自惚れめいた勘違いでさえなければ、ゲンはおれの事…を…。

ゴホン!ま、まぁとにかく、自慢じゃないがおれには恋愛経験なんてない。…ほんとに自慢じゃないけどな…。

そこで人生の先輩たる誰かに、この件について相談してみようと思う。

相談すると言っても、もちろんゲンの秘密は口外できない。

そもそも相談したところでゲンの好みが変わるものでもないし、外からどうこう言うべき事ではないとも思う。

おれが相談したいのはつまり、「自分を好いてくれているらしいヤツがいるが、この場合おれはそいつとどう接すれば良い

のか?」という事についてだ。

ゲン自身も気にしている事なので、傷つけないように、うまくゲンの本心を確かめたいのだ。

そして、おれの勘違いでなかったら、…その時は…。…え…、えぇと…。

…まぁ…、その時改めて考えよう…。



「ウエハラ?珍しいねぇ、何かあったの?」

昼休みを利用し、二年生の教室を訪ねたおれを、小太り狸の獣人…、柔道部の先輩、タヌキ主将が少し驚いたように迎えて

くれた。

他人に話を聞かれないように、校舎の外を這う非常階段の踊り場まで移動した後、おれは主将に尋ねてみた。

「主将は、誰かを好きになった事はありますか?」

主将は目をまん丸くしておれの顔を見つめた後、納得したように呟く。

「なるほど。人目に付かない所で話したいっていうのは、そういう事だったのか…」

少しの間黙った後、主将は頷いた。

「あるよ。結局片想いだったけどね」

「…それは、失恋したという事ですか?」

おれの問いに、主将は苦笑いした。

「まぁそうなんだけどさ、しかし遠慮無く聞くなぁ〜」

「あっ!す、すいませんっ!」

改めて考えれば失礼なところまで突っ込んで聞いてしまった…!

慌てて頭を下げたおれに、主将は笑いながら続ける。

「ま、それは良いよ。もう決着のついた事だし」

「…すんません…」

居辛くなって頭を掻きながらもう一度謝ったおれに、気分を害した様子もなく、タヌキ主将が尋ねて来た。

「それより、つまりは好きな相手ができたけど、どうするべきかっていう恋愛相談?」

「それが、少し違うんですけど…」

おれは「自分を好いてくれているらしいヤツがいるが、この場合おれはそいつとどう接すれば良いのか?」という、あらか

じめ準備していた質問を主将にぶつけてみた。

「う〜ん…。難しいねぇ。相手がウエハラに好意を持ってるのは確か?」

「たぶん…」

「ふむふむ…。その前提で話を進めるなら…、まずは相手の気持ちを実際に確かめてみるのが先決だね」

「ぢっ、ぢぢぢぢぢぢ実際にぃっ!?」

「うん。…そんなビックリしないでさ…」

「す、済みません…!」

主将は何かを思い出すように目を細め、顎に指を当てて続ける。

「本当に好きなら、相手に知られたくないと思う反面、気付いて欲しくもあるんだ。…これはオレ自身の経験だから、万人が

そうとは言い切れないけどね…。だから、ウエハラが相手の事を嫌いでさえないなら…」

「そ、そんな!おれがあいつを嫌うだなんて有り得ませんから!」

「ふぅん…。有り得ないんだね…?」

おれが思わず口走った言葉に、主将はニヤリと笑う。慌てて口を押さえたが、後の祭りだ…。

「それなら何も問題ないじゃないか?ウエハラの方から告白してみるのも…」

「おっ…おれから告白!?」

激しく動揺するおれに頷き、

「うん。…あ、そうだ。そういった事なら相談相手にうってつけな人が居たな…」

タヌキ主将は何かを思い出したようにポンと腹鼓み…じゃない、手を打った。

「うってつけの人?」

「告白した事もされた事もある人で、告白した相手と交際中の人。このケースの経験はウエハラの場合参考になるはず…」

主将は一人でうんうんと頷いている。

「よし、丁度今日は部活も休みだし、オレからその人に話しておくから、今日の放課後にでも相談に乗って貰うと良い。きっ

と告白のアドバイスをくれる!」

「え?えぇっ!?」

そ、そんな!?おれは告白するなんてまだ一言も言ってないのにっ!?

「あ、そろそろ鐘鳴っちゃうね。それじゃあ放課後、屋上に行っておいてもらうから、遅くならないように行ってね」

「え?ちょ、ちょっと待って主将!」

「それじゃあオレはもう戻るから。ファイトだよウエハラっ!オレ、応援してるからさ!」

主将はにこやかに手を振りながら、屋内へと戻っていった。

…何だか話がおかしな方向へ…!?

一人残されたおれは、鐘が鳴るまでの間、呆然と非常階段で立ちつくした…。



「おう。早かったなウエハラ」

放課後、屋上へやってきたおれを待っていたのは、大柄な熊獣人。元柔道部副主将、三年生のアブクマ先輩だった。

「あれ?先輩?え?え?もしかして、主将が言っていた相談相手って…」

「おう。俺だ。まぁ、ジュンペーからは相談に乗ってやってくれって言われただけで、詳しい話はまだ聞いてねぇんだけどな」

…なんて言うか、意外だ…。この先輩は無茶苦茶硬派なイメージがあったけれど、恋愛経験あったんだ…。しかも、主将の

話では現在誰かと交際中って事?

…まぁ、人気ある先輩だから、誰かと付き合っていても不思議じゃないけど…。

それにつけても、告白したのは先輩の方からって話だったよな?誰だろう?この先輩を惚れさせた相手って…。

きっと、凄くステキなヒトなんだろうな…。



「…くしゅん!」

「風邪ですか?ネコムラさん?」

くしゃみで汚さないように咄嗟に閉じた本を開き直して、読んでいたページを探す僕を見つめ、向かいに座ったサカキバラ

さんが首を傾げた。

「う〜ん…、噂話でもされてるのかな?」

「くしゃみ一回は良い噂、でしたっけ?」

「良い噂がたつような事は何もしてないんだけれど…」

…あれ?デジャヴ?何だか最近こんな事を誰かと話したような…。

それにしても、サツキ君まだかな?



「あの、実はですね…」

おれは先輩に、「自分を好きらしいヤツがいるが、この場合おれはそいつとどう接すれば良いのか?」と、用意していた質

問をぶつけた。

そして主将から、おれから告白してみたらどうか?とまで言われた事まで説明する。

「…恋愛相談かよ…」

話を聞き終えた先輩は、困ったように頬を掻きながら呟いた。

「先輩は、誰かに告白した事があるんですよね?」

「…それ、ジュンペーから聞いたのか?」

おれが頷くと、先輩は意外そうに目を丸くした。

「…あの野郎、そんな事まで話してんのか…。…まぁ、そんだけウエハラを信用してるって事か…」

ぼそぼそと呟かれた独り言は、おれには内容までは聞き取れなかった。

それから先輩は、困ったように頭を掻いた。

「まぁ、大体の事情は分かった…。しかし告白なぁ…。う〜ん…」

先輩は顔を顰めて唸りながら、頭をガリガリと掻き続けている。

おれ達の前ではいつもどっしり構えているこの先輩が、こんな仕草を見せるなんて珍しい…。

「…お前、そいつの事は好きか?」

「え?は、はい。それは好きですが…」

突然尋ねられたおれは、ごもごもと答えた。

「…そうか…」

先輩はしばらく黙った後、ふっと優しい笑みを見せた。

「お前は偉いな」

「…え…?」

いきなり何を言い出すのかと面食らい、おれは言葉を続けられなくなった。

「俺にもな、好きになってくれたヤツが居た。…俺はそいつの気持ちに気付いてやれねぇで、結果として傷つけちまった…。

俺にとっても大切なヤツだったのにな…」

先輩はそう言いながら、少し辛そうに目を伏せた。

だが、それも一瞬だけで、先輩は辛そうな表情を消し、また優しく微笑むと、

「…だから、自分に向けられる気持ちに、気付いてやれたお前は偉い」

そう言って、おれの頭をポンと叩いた。

「お前がそいつを大切に思ってるなら、ジュンペーの言うとおり、お前から話を切り出してやるのも良いと思う。あいつが言

うような告白の手法とか、そういうのは分からねぇが、心構えぐれぇならまぁ、俺でも教えてやれるかな?」

「心構え、ですか?」

「おう。…つってもそんなに大層なもんじゃねぇ。告白した結果、相手と自分の関係がどうなっても後悔しねぇ、そう覚悟す

るだけの事だ」

「…覚悟…」

口の中で反芻した俺に、先輩は続ける。

「まぁ、お前の場合は相手にも脈があるんだ。そこまで固く考えなくて良いと思うけどな」

おれの目をじっと見つめて、先輩は真剣な口調で続けた。

「だが、これだけは言っとく。結果がどうなろうと、気持ちを打ち明ける前の自分達には二度と戻れねぇ。友達関係だったの

が恋人同士になるのか、それとも気まずくなっちまうか…、一回口にしちまったら取り消せねぇ、完全に前のままって訳には

いかねぇからな」

おれは、なんだか少し恐くなって来た。

…やっぱり、何も口にしないで、今まで通りの関係で居た方が…。

「…こっから先は、俺の独り言だ…」

怖気づいて黙り込んだおれに背を向けると、先輩は校庭を見下ろしながら言った。

「本当にそいつの為を思うなら、どんな形にしろ、ケリってのはつけてやらなくちゃならねぇ。そういうもんだと俺は思う」

…どんな形でも…、ケリを…。

……………。

「先輩。ありがとうございましたっ!」

おれは先輩の大きな背中に頭を下げた。

首を巡らせておれを振り返った先輩は、微苦笑しながら口を開く。

「礼には及ばねぇよ。参考にゃならなかったろう?」

「いいえ、先輩方の話を聞いたおかげで決心が付きました。おれ、もう逃げないって決めたんです。だからこの事からも、逃

げません!」

先輩は「そうか」と、一言漏らして、口元に笑みを浮かべて頷いた。

腰を90度に折って先輩に深く一礼し、おれは校内に引き返した。

おれは、ゲンに嘘はつかない。ごまかしもしない。あの時にそう決めた。

今避けたって、どうせいつかははっきりさせなきゃならない事なんだ…!



翌日、稽古と掃除が終わった後、おれはまた柔軟運動をしながら、皆が帰るのを待った。

ゲンはおれの事を気にしていたようだったが、何も言わず、いつものように皆がシャワーを終えるのを待っていた。

「ゲン。一緒に入ろうぜ」

二人きりになってから、おれはそう声をかける。ゲンは少し迷っていたが、先日のようには拒まずに、やがてコクリと頷いた。



先に入ったおれは、まずシャワーを出し、後から入ってきたゲンに向き直った。

「ゲン。話したい事があるんだ」

今日もしっかりと前を隠していたゲンは、動きを止めておれを見つめた。

「ゲン。おれ、お前が好きだ」

…沈黙…。

長い、長い沈黙が浴場に落ちた。

ゲンは固まったまま動かず、おれも言葉の続きが出ず、シャワーの音だけが、会話のない浴室でやけに大きく響いていた。

…あ、あれ…?もしかして、外した…?

言葉は、自然に出た。…が、だんだん顔が熱くなって、おれは俯いた。

「…お前も、おれの事、好きか?」

そう尋ねたきり、俯いたまま、おれはゲンの言葉を待つ。

…だが、いつまで経っても答えは返ってこなかった。

…まさか…、ひょっとして、おれの思い違い…?

そんな考えが頭をよぎったら、急に恥ずかしくなってきた。

「…ゲン…、あの…」

沈黙に耐えきれなくなり、おれはゆっくりと顔を上げ、上目遣いにゲンの顔を見上げる。そしてそのまま、おれは硬直した。

両手で口を覆い、肩を震わせて、ゲンは、涙を流して泣いていた。

「げ、ゲン!?おれっ、おれまた何かまずい事言ったのか!?」

慌てて尋ねたおれに、ゲンは首を横に振った。

「ち、ちが…うの…。う、うれしっ…!…ぼくっ、うれしく…て…!」

嬉しくて…泣いていた?

とりあえず、傷つけてしまった訳ではないらしい事にほっとしながら、おれはゲンに歩み寄った。

「ウエハラ…君…。ぼくも、君が好き…。でも…でもね?ぼくの「好き」は、皆の「好き」と違うんだ…。ぼくの「好き」は、

友達の好きじゃなく…」

「分かってるよ。…いや、完全に分かってる訳じゃないけど、分かろうとしてはいるつもりだ」

おれはゲンの肩に両手を置き、間近で黒い瞳を見上げた。

「おれ、お前の「好き」を、たぶんまだ本当には理解できてないと思う。でも、お前と同じ「好き」を感じてみたいんだ!今

はまだ「好き」の形が違っても、お前の事が好きなのは、大切なのは、本当の事だから…」

言いながら、おれは顔を歪めた。言葉で伝えきれないのがもどかしい…!

「ああもうっ!何か上手く言えない!察してくれゲン!おれ、お前が好きなんだ!今は少し違うのかもしれない「好き」だけ

ど、お前の「好き」を教えてくれよ!おれが、お前の事を同じ「好き」で見られるように!」

ゲンは目を潤ませたまま、もたれかかるように、そっと、おれに抱き付いた。

おれよりもかなり大きい、そのくせ柔らかいゲンの体は、小刻みに震えていた。

「う、うぅっ…、うぇっ…!うえぇぇぇぇん!」

抱き付いたまま、声を上げて泣き出してしまったゲンを、おれはしっかりと抱き締め返しながら、その背中をさすってやった。

男同士、裸で抱き合う…。

妙な気分だったのは確かだけど、ちっとも嫌じゃなかった。それどころか、離したくないとさえ思えた。

…うん。たぶんだけど、おれの「好き」は、ゲンの「好き」と、あまり離れてもいないのかもしれない…。



おれは、しばらくして泣きやんだゲンと、手を繋ぎ、並んで湯船に浸かった。

ゲンは俯き加減で、口数が少なかったけれど、話しかければ穏やかな、そして少し嬉しそうな笑みを浮かべた。

「…ぼくが君とぶつかった日、あの日に教室で柔道部に誘ってくれたでしょ?覚えてる?」

「うん。…懐かしいな、あれからもう半年以上にもなるか…」

「そうだね。…ぼくね?実はあの時から、少しずつ君の事が好きになってたんだ…」

…へ?そ、そうだったのか?そんなに前から?

おれは少し驚いてゲンを見る。ゲンは恥かしそうに俯いたまま、ごもごもと続けた。

「正直に言うとね、初めは、柔道には興味なかったんだ…。でも、君が勧めるし、柔道の話をしている時のウエハラ君が、あ

んまり楽しそうだったから…、ぼくも、やってみようかなって、思ったんだ…」

「そう…だったのか…」

純粋に柔道に興味があったから、おれの誘いに乗った訳じゃなかったんだ…。

「こんな事言ったら嫌われちゃうかもだけど、君と接点が欲しくて、柔道部に入ったんだ…。だから…、君が怪我をした時、

ぼくは不純な思いにバチが当たったんだって…、君が怪我をしたのはぼくのせいなんだって、そう思ったんだ…」

「…ゲン…」

お前…、それであんなにも自分を責めて…。

「それでもぼく、君に嫌われたくなくて、それで…、しつこく声をかけて…」

「ゲン!」

おれは、ゲンの肩に腕を回して、しっかり抱き寄せた。湯が跳ねて、俺達の顔を濡らす。

自分よりも小さいおれの肩に顎を乗せる、ちょっと窮屈そうな姿勢で、ゲンは驚きからか硬直していた。

ゲンは、ずっとおれの事が好きだった。なのにおれは、気付いてやるどころか、ゲンにあんな酷い事を…!

今更だけれど申し訳なくて、そしてずっと想ってくれていた事が嬉しくて、愛おしくてたまらなくなって、おれはゲンを抱

き締める腕に、ギュッと力を込めた。

「…あ…?」

突然の事に固まったままのゲン。その肩に顎を乗せる形で抱き締めたまま、おれはふと気が付いた。

…愛おしい…?

「ゲン。おれ…、今少しだけ、お前の「好き」が分かったかも…」

「え?」

愛おしい。

…そう。おれは今確かに、ゲンの事を愛おしいって思った。

友達の「好き」でもない。家族の「好き」でももちろんない。

ゲンの傍から離れたくないような、ずっとゲンを見つめていたいような、いつまでもゲンと触れ合っていたいような…、そ

んな、これまでと違う、ゲンに対してだけ感じる「好き」だった。

「ゲン…!おれ、きっとお前の「好き」を理解できる!うん!きっとすぐに!」

おれはゲンに抱き付いたまま、何度も頷いた。

「よし!それじゃあ今日からおれ達は恋人だ!」

「えっ!?」

「なんだ、嫌か?」

「そ、そんな事は…!」

「じゃあ決まり!」

おれは強引にそう決定し、それから体を離し、ゲンの顔を間近で見つめた。

「断っておくと、おれあんまり恋愛とかに詳しくないから、リードはゲンが頼むぞ?」

「え?そ、そんな!ぼくも誰かと付き合うなんて初めてだし…」

慌てたように言ったゲンを無視して、おれは付き合うにあたって、まずは何をするべきか考えた。

「恋人ならまずは何から始めれば良いかな…?あ、そうだ。まずゲンはおれを名字で呼ぶの禁止な?まずこれが一つと…」

「え?ね、ねぇウエハラ君、聞いてる?」

「「ウエハラクン」禁止っ!おれを呼ぶならイヌヒコって呼び捨てで!じゃ、リピートアフタミー…、イヌヒコ!」

「い、い、イヌヒコっ!」

「よしよし良い感じ。あとは、そうだな…。キスとかか?」

「へ?い、いやそれはまだ早いんじゃ…」

「早いのか?う〜ん、じゃあもう少し待つか…。あとは何だろ?」

「えぇと…、で、デートとか、かなぁ…」

「それだゲン!よし、さっそく週末に一回行ってみよう!」

「そ、そんな急な…」

「なんだよ嫌か?」

「い、いや、嬉しいけれど…」

おれはこれからの事をバンバン口にし、ゲンはドギマギしながらも、おれが尋ねる事に答えていた。

楽しかった。普通の友達とは違う、特別な相手。恋人と一緒に何かをすると考える事が。

長々と話し、そろそろのぼせてきたおれは、最後にふと思って、ゲンに尋ねてみた。

「…そういえばさ、付き合う相手、本当におれで良いのか?」

ゲンはきょとんとした顔でおれを見つめた後、声を上げて笑い出した。

「なんだよ?」

「ふ、ふふふっ!だ、だってウエハラ君、…じゃない、イヌヒコったら!ぷっくくくっ!いろいろ話した後、今になってそん

な事聞くんだもん!」

「し、仕方ないだろ?おれだって余裕無かったんだから…」

「ふっ、うふふっ!ふふふふふっ…!」

なかなか笑い止まないゲン。あまりにも恥かしくなったおれは…、

「ひゃんっ!?」

ゲンのチンポをむんずと掴んで黙らせた。

…しかし本当にでかいな、こいつの…。