最終話 「友達を越えて」
「お疲れ様でした!」
靴を履いていると、後輩達から声がかかった。
「ああ、お疲れ。皆も気を付けて帰れよ?」
靴紐を結ぶおれの横で、先に靴を履き終えていた大柄な牛獣人は、
「先に上がらせて貰うけれど、戸締まり、くれぐれも宜しくねぇ?」
おっとりとした笑顔を浮かべて、戸締まり担当の後輩達に声をかけた。
「はいっ!」
元気に返事をした一年生に軽く手を上げ、おれとゲンは連れ立って道場を後にする。
おれは上原犬彦。東護中二年生で、秋田犬の獣人。
柔道部所属で、三年生の引退後からは主将を務めさせて貰っている。
全国大会で三位成績を修めた前主将、タヌキ先輩と比べればまだまだだけど、精一杯、部を引っ張って行くつもりだ。
おれ一人だけじゃ正直なところ少しばかり心細いが、支えになってくれる、頼りになる副主将も居るしな。それほど厳しい
訳じゃない。
「ねぇイヌヒコ。今日、何の日か覚えてる?」
「ん?」
帰り道、ゲンに突然尋ねられたおれは、首を捻って考える。
「…誰かの誕生日?」
首を傾げながら聞き返すと、ゲンは少し怒ったように頬を膨らませた。
身体はでかくても、こういう表情を浮かべた顔は、まだまだ子供っぽいんだよなぁゲン。
「もうっ!今日でぼく達が付き合い始めて丸一年になるんだよ?」
「え?あ、ああ〜!そうか!すっかり忘れてた!」
「…まったく…」
ゲンは呆れた顔でため息をついた。
「ははは!悪い悪い!でもさぁ、早いもんだよな。あれからもう一年になるんだな?」
笑いながらおれが言うと、ゲンは機嫌を直したのか、そもそもそんなに怒ってもなかったのか、苦笑しながら頷いた。
「うん、早いねぇ…。あれだけ色々な事があったのに、思い返してみれば、あっという間に過ぎて行ったみたい」
「言えてるな。本当に、色々あったって言うのに…」
おれの公式戦デビューとなった新人戦。
ゲンと二人、楽しく過ごしたクリスマス。
アブクマ先輩にイイノ先輩、三年生達の卒業。
おれ達の進級に、新入生の加入。
偉大な先輩方の顔に泥を塗らないよう、気合いを入れて望んだ中体連。
タヌキ先輩達、三年生の引退。
そして、主将の引き継ぎ…。
傍らを歩くゲンの顔を、おれはそっと見上げる。
ゲンは前にも増してデカくなった。身長はもう175センチにもなっている。
おれもずいぶん背が伸びたんだが、ゲンとの身長差は相変わらずだ。
面倒見が良い、穏やかな気質のゲンは、至らない所だらけのおれを、副主将として助けてくれている。
あれから一年経った今でも、ゲンはおれにとって一番大切な、秘密の恋人だ。
人には言えないおれ達の関係は、一年経った今ではずいぶん強固なものになっている。…と、自負している。うん。
…おおっぴらにできないから、のろけようにも相手が少ないのが歯がゆいんだよな…。
あぁ、そうそう。アブクマ先輩とタヌキ先輩、イイノ先輩も、おれ達と同じで男の恋人が居る。
この事を知ったのはつい数ヶ月前、今年の梅雨時だった。
元はと言えば、戸締まりを口実に最後まで残っていたおれとゲンが浴場でニャンニャンしている現場をタヌキ前主将に目撃
され、言い逃れ出来ない状況でバレたのが発端で分かった事なんだけれどな。
…思い出すと、今でも顔が熱くなる…。
「ねぇ、久しぶりに家に寄って行かない?明日は休みだし、少しぐらい遅くなっても大丈夫なんでしょ?」
「ああ。それじゃあ邪魔させて貰おうかな?」
ゲンの家に寄って行くと少し遠回りにはなるが…、おれの部屋は入り口が襖で鍵が無い。
だからつまり、いつ兄弟が乱入して来るか分からない。
実際、キス直前に前触れも無くコマ兄ちゃんに襖を開けられた事があった。
…そん時は目にゴミが入ったふりをして事無きを得たけどな…。
まぁそんなアクシデントを防ぐ意味でも、二人っきりでイチャイチャするなら、ゲンの家にお邪魔する必要があるんだ。
「夕飯食べて行くでしょ?母さんも喜ぶし」
「う〜ん。じゃあお言葉に甘えて、ご馳走になろうかな」
すっかり暗くなった夜道を、おれ達は並んでゆっくりと歩いて行った。
ゲンのおばさんが作った夕食をご馳走になり、ゲンの部屋に上がり込んだおれは、ビシッとシーツが整えられている、大き
なベッドにダイブした。
…あ〜、ゲンの匂い…!
部屋に上がったおれが勝手にベッドを乱す事にはすっかり慣れっこなので、ゲンは苦情を言うでもなく、ポットから二人分
の食後の茶を淹れている。実に落ち着いたもんだ。
その間におれはベッドサイドのリモコンを取り、コンポの電源を入れる。
勝手知ったる恋人の部屋ってヤツだな。
「タヌキ先輩、やっぱり星陵に行くんだって」
「そうか。って事はクマミヤさんも一緒かな?」
「たぶんそうだろうね」
ベッドの上で身を起こしたおれに、ゲンが茶を差し出す。
礼を言って受け取り、茶を啜りながら、今では高校生となっている先輩達の顔を思い浮かべる。
ある先輩は北陸へ、またある先輩は道北へ、先輩方は皆散り散りになっているけれど、殆どがそれぞれの進学先でも柔道を
続けている。
「…また、先輩達と柔道がしたいな…」
ぽつりと呟くおれの脳裏には、色々と迷惑をかけてしまったアブクマ先輩や、お世話になったイイノ先輩達の顔が浮かんで
いた。
「なぁゲン」
「うん?」
手慣れた手つきでリンゴを剥いていたゲンは、おれに視線を向けないまま応じる。
「行きたい学校、もう決まってる?」
「うん」
「え?まじ!?」
ゲンは即答し、おれは驚いて聞き返した。
意外だ…。何事にも慎重なゲンが、まさかこんなに早くから進学先を決めているとは思わなかった。
「どこ!?」
「さぁ…、どこだと思う?」
少しばかり焦って尋ねたおれを、ゲンは笑ってはぐらかした。
ゲンは成績が良い。学年でもトップクラスだ。
…こいつが狙う学校に、果たしておれの頭で入れるだろうか…!?
「イヌヒコは何処に行きたいの?」
「おれは…、実はまだ決まってない…」
「おおまかにでも、何処に行きたいとか、どういう風な学校に進みたいとか、そういうのもまだ決まってないの?」
「おおまかなら、そうだな…」
おれは首を捻って考え、それからゲンに尋ねてみた。
「星陵って、どんな高校か知ってるか?」
「うん。ある程度は」
「どんなとこなんだ?」
おれの問いに、ゲンは小さく首を傾けて微笑む。
「星陵に行きたい?」
「確定じゃないけど…、興味はあるかな」
何と言ってもアブクマ先輩が居る。そしてタヌキ先輩も目指す高校だ。興味が無いはずが無い。
ゲンはおもむろに立ち上がると、机の引き出しを開け、カラーの印刷物を取り出した。
「はい」
「はいって…、これ、星陵のパンフレット?何でこんなの持ってるんだよゲン?」
ゲンから手渡されたのは、北陸の私立高校、星陵ヶ丘高校の概要が纏められた、学校発行のパンフレットだった。
「タヌキ先輩に貰ったんだ。あとこれ、こっちは醒山ね」
「へぇ。…って事は、ゲンの進学希望って星陵か醒山?」
そう問うと、ゲンはベッドに座っているおれの正面、丸いクッションの上に正座しながら応じる。
「それはイヌヒコ次第。パンフレットを貰っておいたのは、たぶんイヌヒコが見たがると思ったから」
…ん?おれ次第…?ゲンの返答は、何だか少し分かり辛い。
「お前の進学希望が、なんでおれ次第なんだ?」
尋ねると、ゲンは照れたような笑みを浮かべた。
「だって、ぼくが進学するのはイヌヒコが行く学校だもん…」
…へ…?
「さっき進学先は決まっているって言わなかったか?」
「決まってるよ?イヌヒコの行く所って」
ゲンは目を細め、ほにゃっと、柔らかい笑みを浮かべる。
「星陵にはアブクマ先輩が居るし、タヌキ先輩やクマミヤさんも行く。醒山にはイイノ先輩が、それに、イヌヒコ憧れの虎の
先輩も居るんでしょ?イヌヒコが行きたいなら、ぼくはどっちにでも、一緒に行く」
「…ゲン…、お前…!」
…うわ。やばい…。おれ無茶苦茶嬉しくて泣きそう…!
「大っ好きだぁぁあああっ!!!」
「う、うわっと!?いきなり何!?」
ベッドの上から飛び降り気味に、ガバッと抱き付いたおれに押し倒されかけ、ゲンは慌てて両手を後ろにつく。
おれはゲンをきつく抱き締め、グリグリと頬ずりした。
「それじゃあ、おれが入れないような無茶苦茶レベルの高い学校に、一人で行っちゃうなんて事無いな!?」
「ぼくが?イヌヒコと別の?あははははっ!無い無いっ!それは無いよぉ!」
ゲンは笑いながら、おれを優しく抱き締め返す。
「ぼくが行く先は、イヌヒコが居る所って、決めてるもん…!」
「くぅ〜っ!泣いて良い?泣いて良いか?おれもう嬉しくて泣けて来そうっ!あとキスして良い?」
おれは目尻に涙を溜めたまま、ゲンと笑顔を見交わし、熱いキスを交わ…、
「あ。ストップ」
「ぶっ!?」
ゲンはおれの顔に手を当てて寸前でキスを中断すると、唐突に立ち上がった。
「いてっ!」
正座していたゲンの足に乗っかる形になっていたおれは、ゴロンと床に転げる。
ゲンはドアに歩み寄ると、カチャンと鍵をかけた。
…あぶね…、鍵かけてなかったのか…。
「あぶないあぶない…。念の為、ね?」
「だな。あぶないあぶない…」
ゲンは耳をピンと立てて部屋の外の気配を窺った後、おれを振り返り、笑みを浮かべてオーケーサインを作った。
「大丈夫みたい。それじゃ、続きしよ?」
「よし。どんと来い!」
無駄に胸を張ったおれに、ゲンは口元に手を当てて小さく吹き出した。
そしておれの前で正座すると、照れ笑いしながら顔を突き出す。
おれは膝立ちになり、ゲンの肩に手を当ててそっと引き寄せ、静かに唇を重ねた。
「あ、…んっ!イヌヒコ…、少し、緩め…て…。ちょっと…痛い…!」
ベッドに腰掛けて背中側に手をつき、股を広げたゲンが、途切れ途切れに声を上げた。
「あ、悪い…!…こんな感じ?」
「う、うん。そう…。んっ…!」
ベッド脇でゲンの股の間に屈み込んでいたおれは、慌てて手を緩め、少し優しく動かし始める。
膨張したゲンのチンコが、おれの手の中でクチュクチュと音を立てた。
ゲンはズボンとパンツを脱ぎ、ティーシャツ一枚になっている。
部活で鍛えられた体…。でも相変わらず腰と腹回りに乗ってる脂肪は、艶やかな毛と相まって実に手触りが良い。
こういう風にゲンの竿をしごくとき、おれの手つきは少々ぎこちなくなる。
気持ちよくしてやろうと思う余りに、必死になってしまうのか、ついつい力が籠もってしまう。
おれとは違ってゲンは結構上手い。
あの大きな手で弄られるとすぐに射精までいってしまう。
…教えたのはおれの方なのに…。
ゲンの息が上がり始め、喘ぎ声が少しずつ大きくなる。…そろそろかな?
ゲンのチンコの皮を根本までそっと下ろすと、剥き出しになった亀頭は、すでにぐちゃぐちゃに濡れていた。
「あぁっ!」
ピンク色の亀頭を親指でグリッと撫でると、ゲンは堪らずに声を上げた。
目を固く閉じ、目尻に涙を溜め、大きな体を震わせて快感に耐えるゲン。
…か、かわいいっ…!
おれは右手で亀頭を弄りながら、ゲンの脇腹の肉を軽く掴み、優しく揉む。
…何とも言えない触り心地…。
脇腹から脇の下は、ゲンの快感ポイントらしい。
こうして脇腹を揉まれると、こそばゆいながらも感じてくれる。
ゲンのさらに息が上がって、ベッドのシーツを掴む指に力が入り、深い皺を刻む。
「い、イヌヒコ…!ぼく、もうっ…!」
絶頂に達する寸前のゲンは可愛い。
その泣きそうな顔を見つめながら、おれはゲンの体をベッドの上に押し倒し、仰向けにしてチンコをしごき続ける。
立派な竿の先から勢い良く放たれた精液は、ゲンの黒い腹を、そして胸まで捲り上げていたティーシャツを汚した。
「…はぁ…、はぁ…、はぁ…」
ゲンは仰向けで、目を閉じて、胸を上下させていた。
この脱力しきった顔がまたかわいい…。
おれはゲンの横に身を投げ出し、顔を横に向かせてキスをした。
十分に舌を絡ませあってから口を離すと、唾液がアーチを作り、そして程なく切れて落ちる。
「シャツ…、脱いでおいた方が良かったね…」
「そうだな…」
悪い、かわいい表情に夢中になって忘れてた…。
最初、自分の部屋でそうとは知らずに初オナニーした時には、無茶苦茶驚いた生臭い匂いも、今ではもうあまり気にならない。
しばらく添い寝した後、ゲンはもう一度おれと唇を重ね、それから照れたような微笑みを浮かべた。
「交代…しよっか…」
「う、うん…!」
おれは頷きながら、ごくりと唾を飲み込んだ。
失敗をふまえて上も全て脱いだおれは、ベッドに腰掛けて歯を食い縛る。
股を開いた俺の前で屈み込んだゲンは、大きな両手で優しく、しかし絶妙な力加減でおれのチンコをしごき、刺激を与えて
くる。
…実は…、おれのチンコはゲンのを弄ってる最中に勃起して、すでにパンツをグショグショにしていたりする。
早漏なのは自覚してるが、…またフライングするつもりだったのか?この愚息め…。
「すごい…。イヌヒコの、すごく熱くて硬くなってる…」
驚いているような、そしてどこか嬉しそうなゲンの声が、おれを一層興奮させる。
「嬉しいな…、ぼくでこんなに興奮してくれるんだもん…」
「あ、当たり前だろ?おれだって、お前の事…好きなんだから…」
ゲンが嬉しそうに顔を綻ばせる。
おれのこの言葉に、もちろん嘘はない。
…正直に打ち明けると、付き合い始めた頃は、少しばかり不安があった。
ゲンと同じ「好き」を、おれも知りたい…。
ああは言ったものの、男同士でそういうのが普通とは違うって事ぐらい、まだガキのおれでも判ってる。
だから、ゲンの事をこういう風に好きになれた事が、おれには本当に嬉しい。
おれはゲンが好きだ。
この好みが普通のヤツらとは違うとしたって、だから何なんだ?
おれにはゲン以上に大切なヤツも、好きなヤツも居ない。
おれにとってはその事が一番大事で、おれ達が男同士だって事なんか、取るに足りない事だ。
好きになった相手がたまたま男だったってだけ…、何もおかしな事なんて無いさ。な?
「イヌヒコ…、ぼくも、君の事が大好き…」
ゲンは快感に呻くおれの顔を見上げて微笑み、それから股間に顔を埋め、皮を捲って先端を顕わにした亀頭をペロリと舐めた。
あ、ちょ!まっ…!
「あぁっ!げ、ゲン!ゲンっ!お、おれもっ、ゲンが大好きだっ!あっ…、あぁあぁっ!」
敏感なおれは、亀頭を舐められる連続した刺激に一際高い声を上げ、頂へ登り詰めた。
ゲンの愛撫で、体を痙攣させて精を放ち、おれは目を閉じ、心地よい疲労感に包まれて脱力し…、
………あ………!
ふと大事なことに気が付いて目を開けると、そこには…。
「ご、ごめんゲン!」
ゲンの黒い顔には、おれの精液で白い斑が!…またガンシャしてしまった!
…ま、まぁ、パンツを降ろされた瞬間に、亀頭が擦れた刺激で、覗き込んでたゲンの顔面に発射した時と比べれば、まだ救
いがあるけど…。
…早漏でゴメンナサイ…。
呆然とした表情を浮かべていたゲンは、精液でベタベタになった顔に、やがて恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「あはは…。今日はまた凄くいっぱい出たねぇ」
そして、口の周りについたおれの精液を、舌でペロリと舐め取る。
精液って無茶苦茶苦じょっぱいしイガイガするのに、それを何でもないように…。
「げ、ゲン…?」
驚いたおれに、ゲンはふにゃんと、弛んだ表情で笑った。
「ごちそうさまぁ」
飛び散った精液を綺麗にして、おれ達は抱き合ってベッドに横になる。
大きなゲンの体は、温かく、そして程よく柔らかい。
結構成長したおれの体は、それでも平均より少し低いぐらい。
ゲンとの体格差は相変わらず。でも、甘えてくるのはゲンの方だ。
ゲンはおれの胸に顔を埋め、すりすりと頬を擦り付ける。
いわく、おれの体を覆うフサフサした毛の感触が、とても気に入ってるんだそうだ。
…以前は、誰かにこんな事を言われるなんて、思ってもみなかったな…。
ゲンとは違って筋肉質で筋張ってるから、感触はあまり良く無いと思うんだけどなぁ…。
おれはゲンの頭を抱えるように腕を回して、首の後ろから頭にかけて撫でている。
耳の少し上についている角は、稽古や試合で誤って誰かを怪我させることの無いように、削って短くし、先端を丸くしてある。
手入れをかかさないその角は、まるでゲンの性格そのもののようにかどがなく、丸くて滑らかで、つるつると光沢を帯びて
いる。
爪みたいにまた伸びてくるとはいえ、牛族にとっては大人の男のシンボルともいえる角…。
やっと伸び始めたその大切な大人の証を、ゲンは躊躇いなく削ってしまった。
自分の見栄えより、まず相手の事を考えるのが実にこいつらしい。
そんなゲンが愛おしくて、そして誇らしい。
どうだ!おれの恋人は、こんな立派なヤツなんだぜ!って、叫びたいくらいに。
「ゲン…」
「うん?」
声をかけると、ゲンは胸から顔を離し、おれの目を見つめた。
「本当に、お前が行きたい学校は無いのか?おれの選ぶ学校で良いのか?」
自分でも少しくどいと思うこの確認に、ゲンは微笑みながら頷いた。
「うん。イヌヒコと一緒にいられるなら、ぼくは何処にだってついて行くよ」
ゲンの迷いの無い返事が、心底嬉しかった。
あんな事をしたおれを赦してくれて、好きだと言ってくれるゲン…。
「…そうか…」
おれはゲンの頭を抱き寄せる。
ゲンはおれの胸に顔を埋める。
おれ達には、まだ時間がある…。
ゲンのためにも、後悔しないように進学先を選ぼう…。
先輩達がそうやって、自分達が行くべきそれぞれの道を、選んで巣立って行ったように…。
「ゲン」
「ん?」
抱き締めながら囁いたおれに、ゲンは胸に息を吐きかけながら返事をした。
「その…。…大好き…だぜっ…!」
「…ぼくもだよ。イヌヒコ…」
「おれ達ずっと…、ずっとずっと…」
「うん。ず〜っと…、一緒に居ようねぇ」
ああ…!おれ達は一緒だよ。ずっと一緒だ…!
いろいろあったけれど、おれ達はきちんと辿り着けたんだ。
友達を越えて、その先へ…!