最終話 「憧れの先輩」

「あぅっ!」

太い指で秘所をまさぐられて、オレは堪らずに声を漏らした。

唾液で十分に湿らされたダイスケの指は、布団の上に仰向けになったオレの肛門をほぐしながら、ゆっくりと侵入して来る。

「痛くないか?ジュンペー」

「んっ…、大丈…夫…!」

囁くように尋ねてきた黒熊に、なんとかかんとか頷いて見せる…。

ダイスケの指は太い。自分でほぐすのとはかなり違う。

正直なところ、初めはちょっと痛かったりもするけれど…、それでも最近は随分慣れてきたと思う。

ある程度奥まで入り込むと、ダイスケの指は直腸の内側をまさぐり、くいっと腹側に押して刺激してきた。

「うっ…、んっ!」

覆いかぶさったダイスケが、刺激に声を漏らすオレの口をキスで塞ぎ、舌を入れてくる。

口内と腸内を同時にまさぐられ、脳みそがとろけていくような感覚に囚われながら、オレは夢中でダイスケの舌に自分の舌

を絡ませる。

さっきからずっと興奮しっ放し。

前立腺を刺激されて、オレの包茎チンチンは先っぽから汁をだらだら零している。

黒熊はしばらく肛門をほぐした後、指を抜いてオレのチンチンを握った。

勃起しても皮を被っているチンチンが、ダイスケの手でしごかれて、クチュクチュと音を立てる。

オレは口を塞がれたまま、ダイスケの口の中に喘ぎ声と、荒い息を漏らす。

「ジュンペー…、気持ち…いいか?」

唇を離し、顔を覗きこむようにして尋ねて来たダイスケの広い背中に手を回して、オレは声を殺して頷きながら、必死になっ

て縋りついた。

大きなダイスケの体にぴったりと体を密着させると、心地良さと安心感で心が満たされる…。

ダイスケは要望に応えるように、頭の脇についていた右手をオレの頭の下に入れた。

そして、頬をすり寄せながら抱きかかえるように胸を合わせ、さらに体重を預けてくる。

艶やかな黒毛と、柔らかい皮下脂肪の下の、みっちりした筋肉がオレの胸を圧迫する。

少しずつ、ダイスケの手の動きが速くなっていく。

ジンジン来る快感でか細い声が口から漏れそうになるのを、オレは必死に歯を食い縛って我慢する。

「んうっ!…だ、ダイスケっ!オレ、もうっ、イ、イっちゃい、そっ…!」

宣告が終わるか終わらないかの内に、体を震わせながら射精し、オレは自分とダイスケの手の中で果てた。

…もうちょっと耐久力が欲しい今日この頃…。



布団の上に座り、背中側に両手をついて股を広げたダイスケは、少し恥かしそうに、上目遣いでオレを見た。

こんな事してるんだ。今更恥かしがる事もないだろうにね?

オレはダイスケの太ももに両手を当て、脚を広げさせる。

世の男の大半が羨むと思われる、それほどまでに立派な逸物はすでにビンビンで、臍に向かって反り返っている。

皮がめくれかけた先端からは、ピンクの亀頭が半分ほど顔を出し、すでに漏れた汁で光っていた。

「うっわ、やらしいなぁダイスケってば。こんなにヌルヌルになって」

「うっ…。じゅ、ジュンペーだって、さっきは凄いグチョグチョだったぞ?」

オレ達は顔を見合わせて笑う。

ダイスケの逸物を軽く握り、オレは亀頭の先を舌で舐めた。

ピクンと、ダイスケの体とチンチンが跳ねる。

…独特の匂いとしょっぱい味…。ダイスケの匂いと味…。

それらをじっくり味わいながら、オレは大きな亀頭と皮の間に舌を捻じ込み、舌で皮を剥いていく。

亀頭に、かりに刺激を受けたダイスケが、何かを堪えるような低い声を漏らす。

完全に剥けたチンチンを、オレは歯を当てないように注意しながら愛撫した。

裏筋から先端まで舐め上げ、かりに舌を絡ませ、亀頭をしゃぶり、先端を舌先でほじくる。

オレが刺激を加えるたび、大きな体を震わせて声を漏らすダイスケが、愛おしくて仕方がない…。

ダイスケのお腹に手を当てて押し、完全に仰向けに寝てもらう。

そそり立った逸物を咥え込んだまま、オレは脂肪の乗ったダイスケのお腹に手を這わせ、軽く肉を掴んで揉みしだく。

艶やかな長い被毛と、脂肪の柔らかい手触りが心地良い。

感触を楽しみながら、愛しくて可愛らしいダイスケを、オレは一生懸命に愛撫した。

感じてくれて、息を弾ませて、時折声を上げてくれるのが嬉しい…。

誰にも聞かせない声を、オレにだけは聞かせてくれる。その事が堪らなく嬉しい…。

「ジュンペー…、ジュンペー…!ん…!お、オイラも…、もう…!で、出ちゃ…ふっ!」

良いよダイスケ。いつでも…。

オレの考えた事が伝わったように、ダイスケは「ふぐうっ!」と声をあげ、体をブルっと震わせながら射精した。

口の中で痙攣して、熱い体液を吐き出した逸物を、オレはぢゅうっと強く吸う。

最後の最後まで気持ち良く出させてあげて、それから、口から溢れるダイスケの精液を飲み下す。

苦いようなしょっぱいような、舌の奥がちくちくするこの味にも、少し慣れて来たかな…。



オレの恋人、ダイスケは、今日は家にお泊りに来ている。

一回戦目を終えたオレ達は、布団の上に横たわって休憩していた。

「来週は、卒業式だな…」

仰向けに寝た黒熊は、オレの肩を逞しい腕で抱いたまま、天井を見つめながら呟いた。

オレはダイスケの腕を枕代わりに、彼の分厚い胸に手を這わせながら頷く。

「寂しく…、なっちゃうね…」

卒業式…。入学式と同じで、毎年必ずやって来る行事。

始まりがあれば終わりがある。そう実感させられる儀式…。

オレは昨年一度、一年生の時に、オジマ先輩達、当時の三年生を見送った。

そして今度は、サツキ先輩やイイノ先輩、ネコムラ先輩を送り出す事になる…。

去年の卒業式の日…。オジマ先輩を送り出すイイノ先輩の姿を、オレは漠然と、サツキ先輩を送り出す自分に重ねていた。

あの時抱いていた想いは結局実らなかったけれど、それでも先輩への親愛の念は、今でも全く変わっていない…。

ただ、あの時オレが気付かなかった事が、今では痛いほどに解る。

…オジマ先輩を送り出したあの時と今回とは…、違うんだ…。

あの時のオレは気付けなかったけれど、一緒に過ごした時間が長い分、別れも辛くなる。

オレにとって、一つ上の先輩方は、いつのまにか、とても身近な、そしてとんでもなく大きな存在になっていた…。

サツキ先輩も、イイノ先輩も、凄く遠くの高校へ行ってしまう。

これからは、簡単には会えなくなるんだ…。

「ジュンペー…」

「ん…?」

ダイスケは優しくオレを抱き寄せて、自分の胸に顔を埋めさせた。

柔らかくて分厚いダイスケの胸…、頬に心地良い感触がある…。

「哀しい時は、泣いて良い。でも、先輩の卒業の日は、泣かないで送ってやれ。哀しい事じゃなく、めでたい事なんだから…。

サツキ先輩優しいから、ジュンペーが泣いたらきっと哀しむ…」

ダイスケは優しく俺の頭を撫で、耳の後ろを指先で擦った。

「覚えてるか?カワグチ先生が亡くなった時の事」

「うん…」

カワグチ先生…。決して長い期間じゃなかったけれど、オレに色々な事を教えてくれた、とても素晴らしい先生…。

オレがここまで強くなれたのは、部活だけじゃない、先生の教えがあったからだ…。

先生が病で逝ってしまわれた時、ダイスケは頬がこけて目が落ち窪んで、やつれきってしまう程に落ち込んだ…。

あの時、先生の墓前で泣き出したダイスケを、オレは上手に慰める事もできず、ただ抱き締める事しかできなかった…。

「オイラ、ジュンペーに抱き締めて貰って、ワンワン泣いた…。あの時、ジュンペーが傍に居てくれなかったら、オイラは今

でも、前に…、進めてなかったんじゃないかと思う…」

ダイスケは言葉を選ぶようにして、ゆっくり、ゆっくり、静かな口調で続ける。

「ジュンペーは、どうしようもなく落ち込んで、一人じゃ立ち直れないほどヘコんでたオイラを、優しく抱き締めて、泣きた

いだけ泣けって言ってくれた…」

オレは口を閉ざしたまま、ダイスケの胸に顔を押し付ける。

「あの優しさを、オイラは一生…、いや、死んだって忘れない…」

ダイスケの太い指がオレの頭の毛に分け入り、クシャクシャと優しく掻き乱した。

「だから、泣きたいなら今のうちに、好きなだけ泣いていい。今度は、オイラがジュンペーの傍に居てやるから…、抱き締め

ててやるから…、な…?」

口下手なダイスケが不器用に、一生懸命に、言葉を紡いだいたわりが、嬉しくて、温かくて…、オレは黒熊の胸に顔を埋め、

声を押し殺して泣いた。

本当は、ダイスケはずっとお見通しだったんだろう。

卒業式が近付くにつれ、胸が苦しくなってきていた事に、寡黙な黒熊はずっと気付いていたんだろう。

すすり泣くオレを、ダイスケは優しく抱き締めたまま、ずっと、背中をさすっていてくれた…。

「ごめんねダイスケ…」

しばらくして泣き止んだオレは、涙でグショグショにしてしまったダイスケの胸に顔を埋めたまま、小声で謝った。

「オレね…、本当は、ダイスケにだけは、こんなとこ見せたくなかったんだ…」

こうやって、先輩が居なくなるのを悲しんでいたら、未練を引き摺ってるように見えるんじゃないかと思って…。

恋人になってくれたダイスケに、申し訳なくて…。

「オイラにだから、何でも見せて欲しい」

ダイスケは優しい声でそう囁いた。

「オイラもジュンペーには全部見せる。だから、ジュンペーも、オイラにだけは全部見せてくれ。変に気張ったり、我慢した

りしなくていい。オイラ、ジュンペーの全部を見て、知って、全部好きになれるから…」

オレが顔を上げると、ダイスケはニカッと笑う。

「そして、いつかはオイラ、きっとジュンペーの一番になってやる」

オレの中でまだ燻っている先輩への想いを、ダイスケは見通していたんだ…。

「ごめん…。ありがとう、ダイスケ…。でもね?」

泣き顔に手を伸ばし、涙を指先で拭ってくれたダイスケに、オレは泣き笑いの顔で告げた。

「オレの一番は、もうダイスケなんだよ?」

そしてオレ達は、今夜何度もそうしているように唇を重ねた。

ダイスケの優しさが、温もりが、きっと、泣かずに卒業式も乗り越えられるだけの、そんな勇気をオレにくれた…。

…あ…。

「ねぇ、ダイスケ?」

「ん?」

唇を離して目を見つめると、ダイスケは小首を傾げる。

「ダイスケだって、ネコムラ先輩とお別れじゃないか…」

ダイスケはネコムラ先輩と仲が良い。

ネコムラ先輩は、籍を養親の所に移すまでは、ダイスケとは遠縁の親戚に当たっている。

親戚としてだけじゃなく、兄貴分として慕ってるらしく、先輩に対してはオレに見せるのとはまた違う、ちょっと子供っぽ

い顔を見せる。

せっかくお互いの関係が判って、仲良くなれたのに…、たったの数ヶ月で離れ離れになっちゃうんだ…。

「ん〜…。確かに、キイチ兄ぃが遠くに行っちゃうのは寂しいけど…」

ダイスケは目を細めて黙り込んだ。

それから少し寂しそうな笑みを浮かべて、

「二ヶ月ちょっとだけど…、随分甘えさせて貰ったし…、笑顔で見送って、オイラは大丈夫だよってトコを、見せてやんなく

ちゃ、な?」

と、穏やかな口調で言った。

…立派だなぁ、ダイスケは…。

「それに、キイチ兄ぃこの間携帯買ったから、いつでも話はできるからな」

「ん?ネコムラ先輩、携帯買ったんだ?」

ちょっと意外に思って聞き返したら、ダイスケは「何を不思議がってるんだろう?」とでもいうような、キョトンとした顔

で頷いた。

「親元を離れるから、どうしても必要になるんだって」

「あ、あぁー、そう言えばそうか」

…ん?待てよ…?

「じゃあ、たぶんサツキ先輩も携帯持つよね?…あ!もしかしたらもう持ってるのかも?番号聞いておかなきゃ!」

「サツキ先輩はまだ迷ってるって、キイチ兄ぃが言ってたぞ」

「迷ってる?でも、持ってないと不便なんじゃ…」

「持つかどうかじゃなく、買う機種で迷ってるらしいぞ。細かくて複雑なのは苦手だし、頑丈なヤツじゃないと、うっかり尻

に敷いて壊すかもしれないからって」

…なるほど、凄く納得…。

最近じゃオレのクラスメートでも、携帯を持ってるヤツは増えてきた。

ちなみにオレとダイスケは持ってない派。部の皆も殆ど持ってない。

これまではあんまり必要性感じなかったけど、こうなって来るとちょっと欲しいなぁ…。

…離れてても、繋がれる…。

良い面も悪い面も、大人達がしかつめらしい顔で論評してる携帯だけど、今のオレには、携帯は先輩達と繋がっていられる、

素敵な魔法の道具のように思えた。

「ジュンペー、ちょっとは元気出たか?」

考え込んでいるオレの顔を間近で覗き込んで、ダイスケは尋ねて来た。

「うん。おかげさまでにゅっ!」

いきなりお腹を下から上に撫でられて、オレは最後の方を噛む…。

「良かった。オイラでも元気付けられたみたいで」

ダイスケはオレの丸いお腹を、大きな手で円を描くように撫でながら、にぃっと笑う。

「元気出たなら、そろそろ二回戦行くか?」

「いやだこのすけべ」

オレの返答に、ダイスケは少し驚いたように目を丸くする。

「キイチ兄ぃみたいだ」

「真似てみました!どう?」

「微妙に似てるみたいで妙に似てない」

オレ達は鼻がつくくらいに顔を突き合わせて、忍び笑いを洩らした。



「来ると思ってましたよ、先輩方」

道場の入り口に立った三年生の先輩方を、オレ達は整列して迎えた。

「…去年とは、逆の立場だな…」

イイノ先輩が苦笑する。

「オジマ先輩達の気持ちが分かったぜ。名残り惜しいってのかな…、考えてみりゃ、ここで過ごした時間は、短ぇもんじゃな

かったもんなぁ」

サツキ先輩はゆっくりと首を巡らせて、道場を見回しながら呟いた。

先輩達の卒業式は終わった…。

サツキ先輩もネコムラ先輩も、三年間の中学生活に…、居なくなってしまった友達との事に…、きっちり、決着をつけた。

見ていたこっちも、泣かずに堪えるのは、大変だった…。

式典終了後、オレ達は急いで道場に集合して、三年生を待った。

必ず来るって思っていた。

誰も疑いはしなかった。

そしてやっぱり、先輩達はこの道場に、別れを告げにやってきた…。

先輩方は名残を惜しんで、色んな想い出が詰まった道場を見回していた…。

…色んな想い出が、ここにはある…。

辛かった事、楽しかった事、それら一つ一つが、今となっては大切な、輝かしい想い出だ…。

イイノ先輩は、去年オジマ先輩がそうしたように、オレに歩み寄って肩を叩いた。

「後は頼んだよ、タヌキ…」

「…はい!」

先輩達は、そのまま部員達一人一人に声をかけて周る。

「気張ってけよ、タヌキ主将!」

「お前のキャラ、嫌いじゃなかったぞ?」

「強いんだからさ、もっと自信持ってけよな!」

先輩方は口々にオレを励ましてくれた。

ふと見れば、サツキ先輩は一年生から順に、全員に声をかけていた。

「ウエハラ、コゴタの事、引っ張ってってやれよ?もう、手ぇ離すんじゃねぇぞ?」

「はい!ご迷惑をおかけして、済みませんでした。そして、ご恩は決して忘れません!」

「ぬははっ!良いから忘れっちまえよそんなもん!…コゴタ、ウエハラにしっかりひっついてけよ?こいつは誰かが手綱握っ

て、時々ブレーキかけてやんねぇといけねぇんだからよ」

「は、はい!ぼくに出来るなら…」

「お前なら大丈夫だ。しっかり支えてやれ、頼んだぜ?」

先輩はゆっくりと皆の前を回り、そして、最後にオレの前に立った。

見上げるオレの顔を真っ直ぐに見下ろし、先輩は目を細くして、優しい笑みを浮かべている。

「今更、言葉で言うのもアレだな…」

サツキ先輩は鼻の頭を指先で掻く。

「この二年間、本当に楽しかったぜ。ありがとよ、ジュンペー…」

「オレの方こそ、楽しかったです…。ありがとうございました、先輩…」

サツキ先輩は、俺の頭に大きな手をポンと乗せ、少し乱暴にワシワシッと撫でてくれた。

「そう辛気臭ぇ面すんな!出発までもうちっとはこっちに居るんだからよ。まだ当分は会える」

「は、はい!」

頷くと、先輩はオレの頭を軽く叩き、

「じゃあな」

すっと後ろに下がり、踵を返した。

「そろそろ行くか」

「ああ」

イイノ先輩の言葉に先輩方は頷き、揃って出口へと歩き出す。

『したっ!』

部員全員で深々と頭を下げ、道場から出てゆく先輩達を送り出す。

少しして顔を上げると、開いた扉から外に出てゆく、サツキ先輩の背中が見えた。

なんとか、綺麗に、送り出すことが…、出来て…。

…出来て…いたのに…、…オレは…、我慢できなくなった…!

「先輩!」

オレの声にサツキ先輩が振り向く。

「オレ、きっと先輩を追いかけますから!来年はきっと…!だから…!…だからまた一緒に…!」

叫ぶように言ったオレは、胸が一杯になって、最後まで言葉を続けられなかった。


『俺、アブクマってんだ。よろしくな』

『どうだ?良い眺めだろ?俺、ここが気にいってんだ。馬鹿と煙は高いトコが好きってのは本当らしいな』

『なるほどなぁ。お前、教えるの上手いんじゃねぇか?』

『ぬはははっ!お前、結構面白ぇやつだな!?』

『無理すんなよ?なんなら帰りおぶってってやるからよ』

『俺のことも名前で呼べ。俺を名前で呼ぶヤツも、学校じゃ居ねぇんだ』

『情けねぇよな…。こんな図体してんのに、お化けが怖ぇだなんて…』

『一年共にいいとこ見せてやれ。お前の内股、惚れ惚れするぐれぇ綺麗なんだからよ!』

『俺だって、もっともっと、お前と一緒に柔道してぇよ…』

『何があっても、いつまで経っても、お前は俺の大切な…可愛い後輩だ…!』


先輩との想い出が、頭の中を駆け巡る…。

かけられたたくさんの言葉が、耳元で甦る…。

泣き出したくなるのを堪えるだけで精一杯で、…声が…、出ない…。

先輩はオレの顔を見ながら、ニッと笑った。

…オレが大好きな、丈夫そうな歯を見せて笑う、人の良さそうな笑顔…。

「おう!また一緒に、柔道やろうなっ!」

先輩の大きな声が耳に届いたら、オレは…、

「…はいっ!きっと!」

…オレは…、先輩に笑顔を返すことができた。

良かった…。危なかったけれど、涙を見せずに送り出すことが出来て…。

笑みを浮かべているサツキ先輩の隣で、イイノ主将がドアの陰からひょこっと顔を出した。

…って、えっ!?今のイイノ先輩にも聞かれてたの!?

「何だ?オレの事は追いかけてくれないのか?」

「え?い、いや…、それは…その…」

…い、居心地悪っ…!

オレがしどろもどろに呟くと、イイノ先輩は心底可笑しそうに、大きな声を上げて笑った。

「はははははっ!冗談だよタヌキ!それじゃあ元気でなっ、皆!」

「夏にでも帰ってきたら、必ず顔出しに来るからよ!」

『おすっ!』

オレ達は再び深々と頭を下げる。

顔を上げた時には、すでに先輩達は立ち去った後だった…。

ありがとうございました。先輩方…。

…そして、いってらっしゃい…!



「…ダイスケ!?」

学校から帰ってきたオレは、驚いて声を上げた。

家の玄関の前に、南華の黒い学ラン姿のダイスケが立っていた。

「おかえり、ジュンペー」

ダイスケは微笑んで、片手を上げる。

「うんただいま。…って、何普通に迎えてんの!?」

「え?「おかえり」はおかしいか?」

「いや、それは別におかしくないよ。ってかそうじゃなくて…、どうしたの今日は?」

オレの問いに、ダイスケはにやりと笑う。

「落ち込んでるようなら、慰めてやろうかと思ったんだけどな」

「なるほど…。でも平気!オレはこの通り元気ですよーだ!」

腕を上げて力瘤を作って見せると、ダイスケは笑みを深くした。

「みたいだな。安心した」

ダイスケはオレに歩み寄ると、優しく肩に手を乗せた。

「ちゃんと、お礼言えたか?」

「うん」

「ちゃんと、お別れできたか?」

「うん」

「ちゃんと、見送ってあげられたか?」

「うん」

ダイスケはオレの顔を見つめ、微笑みながら大きく頷いた。

「偉かったな、ジュンペー」

「偉いことなんて、何にも無いよ。ダイスケこそ、ちゃんと見送れた?」

「まぁな。でもウチは三年生との関係が結構ドライだし」

…そういえば、あんまり部活繋がりでの親睦は無いって言ってたっけ…。

強豪の南華は、部内での競争も激しいらしいからな…。

「ダイスケ」

「ん?」

「サツキ先輩やネコムラ先輩と一緒に、学園生活を送ってみたいって思わない?」

不意打ちを食らったように、ダイスケの目がまん丸になった。

「寄ってってよ!話したい事がいっぱいある!オレの事、ダイスケの事、これからの事も…色々!」

オレは笑顔で、愛しい恋人の手を握って、引っ張った。

話が読めていないのか、ダイスケは戸惑ってるようだったけど、それでも頷いてくれた。

ダイスケに話そう。

オレがこれから先の事をどう考えているのか…、これからどうしたいのか…。

やりたい事を何もかも話して、そして許してくれるなら、ちょっと遠い所を目指す事になるけれど、一緒に行けるように頑

張ってみよう!

「ただいま〜!」

「お、おじゃましまーす…」

手を繋いで家に入ったオレ達の後ろで、玄関のドアがゆっくりと閉まった。

 カロンッと、軽やかに鐘を鳴らして。



…サツキ先輩…。

今は、行ってらっしゃいって見送るしかないですけれど、今のオレは、恋じゃなく、別の想いから、先輩を追いかけたいと

思っています。

卒業して、遠くへ行っても、サツキ先輩はやっぱりオレの…、憧れの先輩だから!