第四話 「先輩のヒミツ」
ボク、田貫純平は、東護中学一年生。苗字そのままの狸の獣人だ。身長は平均そこそこ、幅は平均よりほんの少しだけ太め。
得意科目は国語。苦手な科目は数学と理科。最初は不安だった新科目の英語は結構好きになってきた。
そんなボク、部活は柔道部に所属している。
小学校に入ったと同時に始めた柔道だけど、実はあんまり強くない。いや、練習ではそこそこだと自分でも思うんだけれど、
気弱な性格と極度の上がり性が災いして、試合になると体が思うように動かなくなっちゃうんだよね…。
それでもまあ、他に得意なスポーツが有るわけでも無いし、「ま、柔道部でいいやっ」ぐらいの気持ちで入部したんだけれ
ど…。
「整列!」
オジマ主将の号令で、顧問のキダ先生の前に全員が整列した。
「では、今日の稽古はここまで。大会も近い、皆、体調には十分に気をつけるように」
そう言った巨乳の眼鏡美人、キダ先生に主将が礼をする。
「あしたっ!」(あ、これ「有難うございました」って意味ね)
『あしたぁっ!』
全員がそれに倣って礼をし、キダ先生が道場を出てゆくと、ここからは片付けの時間だ。箒で畳を掃き清め、汗を吸って汚
れた部分は拭く。
その作業の中、ちらりと視線を動かすと、大きな体の熊獣人が、せっせと箒を動かしているのが見えた。
二年生の阿武隈沙月先輩。身長188センチ体重160キロ、三ヶ月で少し絞れたけれどまだ太り気味。道着の胸元から覗
く白い月の輪がチャームポイント。極めて大柄で強面なので近寄り難い雰囲気があるけど、実は結構気さくで優しい、面倒見
のいい先輩だ。
実はこの先輩、ボク達一年と同時に柔道部に入部したんだけど、柔道歴は三ヶ月ちょっとなのに、凄いスピードでめきめき
強くなった。先輩に勝てる部員はもはや部内に二人しか居ない。…ちなみに、ボクももう全然相手にならない。柔道歴6年な
んだけどな…。
「どうしたタヌキ?ぼーっとして?」
すぐ傍で名前を呼ばれて顔を上げると、はたきを手にした猪の獣人がボクを見下ろしていた。
飯野正行先輩。アブクマ先輩と同じ二年生で、彼に勝てる数少ない部員だ。
「あ、ちょっと考え事を…。試験勉強もしなきゃなぁって…」
「あー、試験近いもんな。初めてだから緊張するかもしれないけど、すぐ慣れるよ」
イイノ先輩はボクを励ますように笑いかけた。この先輩は温和でとても優しく、細かいところまで気が回る、とにかくでき
た先輩だ。ちなみにスペックは173センチ112キロ。体格にも恵まれているし、何よりも努力家。部内では主将に次ぐ実
力者。
「…これぐらいで良いだろう」
箒を片手に道場を見回し、低く野太い声で不機嫌そうにそう言ったのは、我らが主将にして部内最強の漢、三年の尾嶋勇哉
先輩だ。
黄色い被毛に黒い縞模様。太くて長い尻尾ももちろん黒いストライプ入り。主将は筋骨隆々たる虎獣人だ。無駄な脂肪が一
片もついていない筋肉質の身体は180センチ128キロ。極端に寡黙で、いつも不機嫌そうに見えるけれど、実は機嫌が良
くてもそう見える。
アブクマ先輩がこの短期間で異様に強くなったのは、この主将の超スパルタメニューでみっちり鍛え込まれたからだ。…ち
なみに、同じメニューをこなそうとしたボクら一年生は、たった一回で音を上げました…。体力的に恵まれている獣人のボク
でも、3日間もの間筋肉痛でろくに動けなくなったし…。聞いたところに寄れば、主将とアブクマ先輩以外で、これまでにあ
の殺人メニューを継続できたのは、イイノ先輩ただ一人だけらしい。
「…では、解散」
主将の宣言で、皆が掃除用具をしまい始める。アブクマ先輩も箒をロッカーに押し込み、道着をバタバタやって胸元に風を
入れていた。
ボクは手元の雑巾に視線を落とし、ため息をつく。…最近、先輩の事を考えると胸が苦しくなる…。
柔道場にはシャワールームがある。5人が一度に入れる大きさの浴槽まで完備された立派なものだ。
練習が終わったらそこで汗を洗い流してから帰るのがボクらの日課。皆で数人ずつ順番に入ってから帰るんだけど、ボクは
いつも最終組。別に一年だから最後って訳じゃない。ちょっとした理由があって、毎回最後の組に入れて貰ってるんだ。
「お先しました〜」
「お〜、お疲れさ〜ん」
僕以外の一年組が出てくると、イイノ先輩は帰り道も気をつけるように告げて送り出す。
こういう細やかな気配りができる先輩だから、三年の先輩方や先生からは次期主将として期待されている。本人は面倒だか
ら嫌だと言っているけれど、ボクだってイイノ先輩が主将になってくれたら嬉しい。
あ、ちなみにイイノ先輩も最終組。真面目でしっかりしているから、道場の鍵を預けられて戸締り係りになっているんだ。
嫌な顔一つしないでこういう役を引き受けるあたり、本当に偉い人だなぁと思う。
で、最終組はもう一人居る。イイノ先輩は一人足りないことに気付き、トイレを覗き込んだ。
「アブクマ〜!あれ?どこ行った?」
「あ、ボク呼んできます」
さっき道場に出て行くのが見えた。たぶん涼んでるんだと思う。ボクは扉を開けて首を出し、先輩を呼んだ。
「先輩。お風呂空きましたよ?」
「おう。今行く」
思いの外すぐ傍から声が返って来た。
アブクマ先輩はボクのすぐ脇、入り口のすぐ横の壁に寄りかかって座り、道着の襟をバタバタやっていた。先輩は暑がりで
汗っかきだ。あおいだ胸元からボクの方へ風が流れ、汗の匂いが運ばれてくる。…あ、先輩の匂い…。
思わずクンクンと鼻を鳴らすと、先輩は手を止め、気まずそうにボクを見上げた。
「悪ぃ。臭かったか?」
「え?い、いえ!そんな事はっ!」
ぶっちゃけこっち向かって遠慮なくバッタバッタ扇いでやって欲しいんですけどっ…!
「気にする事無いですよ。ボク達だって汗だくで、自分の汗の匂いか他人の汗の匂いか、全然分からないんですから」
「それもそうか」
先輩は苦笑いする。…嘘です。ボク、先輩の匂いだけはどんな状況でも嗅ぎ分けられますからっ!
「さ、お風呂行きましょうお風呂!」
「おう。ちゃっちゃと済まさねぇと、今日もまた遅くなっちまうからな」
「今日もって…、毎回遅くなるのは、帰りに先輩が…「腹減ったなぁ〜…、何か食ってこうぜ〜…」って死にそうな声で訴え
て、寄り道するからじゃないですか?」
「…お前…、口調とか真似んの上手いな…」
先輩は眉根を寄せて頭を掻く。
そう。アブクマ先輩とイイノ先輩、そしてボク。この三人が最終組固定メンバーだ。固定なのにも理由がある。さっき言い
かけたちょっとした理由というのと同じだ。
「先に入ってるぞ」
腰にタオルを巻いただけの格好で、イイノ先輩が浴室に入ってゆく。広い背中は猪特有の剛毛で覆われ、それを筋肉が押し
上げて陰影を作っている。いいガタイしてるなぁ…。
「おう。俺達もすぐ行く」
アブクマ先輩は更衣室に入ると、帯を解いて道着をベンチの上に放り投げた。
濃い茶色の毛に覆われた固太りした大柄な体。筋肉が詰め込まれた胸は脂肪が乗って丸みを帯びている。肩も腕もがっしり
していて逞しい。むっちりしたお腹はズボンの上に少し乗っかる感じで、触ると結構柔らかい…。そして胸には鮮やかに白い
三日月マーク。
毎回の事ながら、先輩のナイスバディを前に、ボクは思わずゴクリと喉を鳴らす。
…ボク…、実はホモです…。そして、アブクマ先輩に惚れてます…。
「俺も先入ってんぞ?」
ボクがぼーっとしている間に先輩は道着を脱ぎ終え、腰にタオルを巻いただけの悩殺ルックでボクを振り返った。
「あ、はい。ボクもすぐ行きますから!」
慌てて道着を脱ぎ始めるボクを残し、先輩は浴室に入っていった。
この最終組の顔ぶれが固定になったのは、二ヶ月ほど前からの事だ。
「あれ?先輩、今日も最後ですか?」
シャワーも浴びずに道着を着たまま道場で座り込み、ぼ〜っとしている先輩。
それに気付いてそう声をかけたのは、入部から一ヶ月あまりが過ぎた頃だった。
「お、おう…」
「先に入ってくださいよ。ボクらが先輩より先に入るんじゃ、なんだか申し訳ないです」
別の一年生もそう言ったら、先輩はなんだか慌てたように、ブンブンと首を横に振った。
「えぇと、ほらあれだ!俺はイイノと戸締り確認してから帰るからよ、最後の方が都合が良いんだ」
先輩は慌てているような早口でそう説明してくれた。
「そういう訳だから遠慮しねぇで先に入った入った!」
そう言われて、ボクら一年は浴室に押し込まれた。
…この時は大人しく従ったけれど、先輩は嘘をついていた。まぁ、嘘が下手だから薄々何かあるとは気付いていたけれど…。
そして二ヶ月前のあの日、ボクは練習中に足首を捻ってしまい、キダ先生に連れられて保健室で手当てを受けた。
「スジは大丈夫、軽い捻挫だね。君なら一晩も寝れば治ると思うよ」
保健の先生、ビーグル犬の獣人の美倉先生はそう言った。
キダ先生はほっとしたような表情で、ビクラ先生に何度も頭を下げた。
「平気か?歩くのが辛いようなら、私が家まで送るぞ?」
「いえ!もう大丈夫ですから!」
ベッドに座ったボクは、そう言って足をブラブラさせて見せた。少しシクシク痛むけど、歩くのに不自由する程じゃないや。
手当てを終えて道場に戻ったボクは、更衣室で待っていた3人の先輩に出迎えられた。
「…どうだ?」
オジマ主将は鋭い目でボクの足を睨んだ。…いや、たぶん本人は睨んでいるつもりは無い。心配してくれているんだと思う
けど、どうにも主将の眼光は鋭過ぎる…。
「なんともありませんでした。一晩寝れば治るだろうって。ご心配をおかけしました」
ボクが頭を下げると、主将は「…そうか…」と頷き、荷物を担いで更衣室を出て行った。
「ああ見えても、主将は君が心配で残ってたんだよ」
主将が出て行ってから、イイノ先輩は微笑しながらそう言った。
「やっぱり…。心配かけちゃいましたね」
主将は無口で顔は怖いし、何考えてるか全然顔に出ないけど、たぶん心配してくれたんだろうなとは思ってた。
「で、本当に大丈夫なのか?」
アブクマ先輩がボクの足を見つめた。先輩はすぐに顔に出るので、本当に心配してくれているのがすぐ分かる。
「大丈夫ですって!少し冷やしておいたらだいぶ楽になったし、歩くのももう平気です」
ボクの言葉に安心したのか、先輩達は表情を緩めた。
「じゃあさっさとシャワーを浴びよう。タヌキも大丈夫かい?」
「はい。平気ですっ」
答えてから気付いた。うわどうしよう?先輩の裸が見れるチャンスじゃないか!?怪我の功名とはまさにコレか!?
ボクはちらりと先輩を盗み見る。あ、目があっちゃった…!って、…あれ?
先輩は、なんだか困ったような顔でボクを見つめていた。
「どうしたアブクマ?」
すでにタオルを腰に巻いただけのイイノ先輩が言うと、アブクマ先輩は「むぅ…」と唸った。イイノ先輩は何かに気付いた
ようにボクを見て、
「…あ〜…、そうか…」
と納得したように呟いた。
「諦めろ。もう遅いし、バラバラに入ってる時間は無いぞ?」
イイノ先輩がそう言うと、アブクマ先輩はしかたないと言った様子でため息をつき、ボクらに背を向けて道着を脱ぎ始めた。
…なんだろう?…も、もしかして…、ボクの趣味に気付いた!?身の危険を感じて一緒に入りたくないと、そういう事!?
あああああ!考えてみればボク無闇に先輩にひっついたり、着替えをガン見してたりするっ!気付かれたんだきっと!
「先入ってるぞー」
イイノ先輩はそう言うと、さっさと浴室に入って行った。その後をアブクマ先輩が追いかける。
一人取り残されたボクは、道着を脱ぎながら、これからどうしよう?と本気で悩んでいた。
「お邪魔しま〜す」
「遅かったね。どうかした?」
ボクが浴室に入ると、湯船に浸かっていたイイノ先輩がそう尋ねてきた。
「あ、いえ、その…!タオルがなかなか見付からなくて、あははははっ!」
まさか「ホモだとバレたからこれからどうするべきか考えていました」などと言えるはずもない…。
適当に誤魔化したら、シャワーで頭を洗っていたアブクマ先輩が首を巡らせた。
「なんだ?言えば俺の予備貸してやったのに…」
「アブクマのじゃ大き過ぎるだろう?」
二人はいつもと変わった様子も無く、そんな会話を交わす。…あれ?もしかして、バレた訳じゃないの?
ほっとすると同時に、それじゃあ何で?という疑問が頭をもたげた。
アブクマ先輩はボクと一緒に浴室に入ることを困っていたようだった。そういえば、いつも最後にイイノ先輩と二人で入っ
ている。
…まさか…、いやでも…、ふ、二人はもしかして…?そういえばこの先輩達はすごく仲がいい。もしかしたら仲がいいだけ
じゃなく…?
「どうかしたのか?ぼ〜っと突っ立って」
アブクマ先輩の声に、ボクははっとして顔を上げた。
「足、痛むのか?」
「い、いいえ!全然平気ですっ!」
慌てて答えたボクに首を傾げ、先輩は椅子から腰を上げた。腰にタオル一枚巻いただけのナイスバディ…ああ…、やっぱり
良い体してるなぁ…。
「無理すんなよ?なんなら帰りおぶってってやるからよ」
先輩はボクの前に来ると、心配そうに顔を覗きこんできた。…あ、今ボク達裸で向き合ってる…。気付いたとたん、顔がカ
ーッと熱くなった。や、やばい!勃起しちゃう!
「だ、大丈夫ですよぅ!さ、急いでシャワー浴びなくちゃ!」
本当はおんぶしてもらったりしたかったけれど、あんまり考えると本当に股間がヤバい!ボクは先輩の隣を通り抜けようと
して…、
「あっ、済みません!」
動きがギクシャクしていたせいで、ちょっと体がぶつかってしまった。
その拍子に先輩の腰に巻かれたタオルがほどけた。哀しいかな本能的に、そして反射的に目は先輩の股間へ向いた。このガ
タイだし、さぞや立派なモノをお持ちなんでしょう!?
……………あれ?
…先輩は前を隠し、青ざめた顔で俯いていた。…先輩の口が…、ぼそっと呟く…。
「…み…見たか…?」
え、えぇと…。正直に答えよう…。
「い、いいえっ、見てませんっ!」
そう、見えなかった。角度的な問題で、突き出たお腹の下に隠れていたので…。…つまり…、それだけで隠しおおせる程に、
先輩のは小さかったという事になる…。
「気にする事ないのになぁ。あんまり隠そうとするとかえって怪しまれるぞ?いいじゃないか、小さくても、短くても」
イイノ先輩が微妙な半笑いで言う。
「うるせぇよ!小せぇとか短ぇとか言うなっ!でっけぇの持ってるお前にゃこの気持ち分かんねぇだろ!?」
アブクマ先輩が怒ったように吼える。
…あれか…?おちんちんが小さい事、知られたくなかったのか…?それでいつもイイノ先輩と二人で、他の誰かに見られな
いように最後まで残って…?
「い、言うなよタヌキ!?ラーメン奢ってやるから!このとおり!」
アブクマ先輩はそう言ってボクに向き直り、手を合わせる。手を合わせたものだから、股間がはっきり見えた。
…た、確かに小さい…。ボクも小さい方なんだけど、それよりもさらに小さい。完全に皮を被った短いチンコは、なんとい
うかこう…、ドリルみたいだ。
「い、言いませんから!そ、それに、…ボクもあんまり大きくないし…」
ボクのは本当にタヌキのおちんちんだ。信楽焼きのアレを想像して欲しい。玉は大きいけど棒の方は…、まぁそういう訳…。
先輩はほっとしたように胸をなでおろし、それから息子さんを大公開していた事に気付くと、顔を真っ赤にしながら慌てて
前を隠した。
この一件以来、ボクも先輩達と一緒に最終組になった。
本当はそれほど気にしていなかったんだけど「ボクも小さいのを気にしてるから、他の一年と一緒に入りたくないんです!」
と訴えたから。
アブクマ先輩は理解を示してくれ、「ちっさくても、一緒に頑張ろうな!」とまで言ってくれた。何を頑張るのかは分から
なかったけれど、ちょっと心が痛んだ…。ボクのは先輩と比べればまだマシだったし、サイズで悩んでもいなかったから…。
「はい、終了です」
「悪いねいつも」
背中を洗い流し終えたボクが泡を洗い流すと、イイノ先輩は笑みを浮べて礼を言う。猪独特の長い剛毛の下に、鍛えられた
筋肉がみっしり詰まっている。先輩方はみんな良い体してるなぁホント。
「アブクマ先輩も、背中流しますよ?」
「おう。んじゃ頼もうかな?」
いつもアブクマ先輩の背中を洗っているうちに、イイノ先輩は湯船に浸かり、さっさと上がって行く。僕達が入っている間
に窓やドアの閉め忘れをチェックして歩くので、いつもカラスの行水なんだ。
ボクは体を洗っていたアブクマ先輩の後ろに立ち、背中を洗い始める。
背筋が盛り上った大きな背中は洗い甲斐がある。後ろから見ても脇腹から腰にかけて肉付きが良いのが良く分かる。腰の下
には短くて可愛い尻尾。その下にはでっかい尻。…毎度のことながら理性がふっ飛びそうになりますなぁっ!
「タヌキがさぁ」
「はひっ!?」
先輩が突然ボクの名を呼ぶからびっくりして、変な声で返事をしてしまった…。
「背中流すの丁寧なのって、やっぱり家が銭湯やってるからなのか?」
「…それはたぶん関係ないかと…」
別に銭湯の息子だから丁寧なわけじゃないですよ先輩?先輩方の背中を流しているのは純然たる趣味です。丁寧なのはその、
…下心の…為せる業…。
「はい、おしまいっ!」
もうちょっと先輩の体に触っていたかったけれど、断腸の思いで背中の泡を流す。
「あんがとよ。んじゃ交代」
「はーい」
……………ん?
「え?えぇっ!?」
反射的に返事をしてから、ボクは先輩の言った言葉の内容を理解した。
「い、いやいやいやいいです!ボクはいいですっ!」
「なんだよ遠慮すんなって。毎回洗ってもらってばっかじゃ悪ぃし。そりゃ俺の洗い方は雑だから、お前が自分で洗ったほう
が綺麗になるかもしんねぇけど、たまにはやらせろよ」
そう言いながら先輩は立ち上がり、ボクをほとんど強引にシャワーの前に座らせる。そしてボディシャンプーをたっぷり手
に取り、良く泡立ててからボクの背中に塗り始めた。大きな手がボクの背中を丁寧に撫で回す。
…あぁ、気持ち良い…!…って、…あ!これやばい…!まじでやばいっ!興奮のあまりボクの愚息がビンビンにっ!
お、落ち着けジュンペー!年表だ!年表を思い出せ!でなきゃ元素記号!えぇい贅沢は言わない、この際九九でも良いっ!
とにかく別の事を考えるんだジュンペー!
「何ブツブツ言ってんだ?」
先輩は不思議そうに尋ねる。この人はノンケだからこんな事じゃ興奮しないんだろな…。
今日初めて知ったけど、背中を流されるのって結構感じるっ!先輩に毎回背中流されてたらそう遠くない内にバレる!…先
輩方が勃起してたのを見た事はないから、たぶん、ノンケにはなんでもない刺激なんだろうけど…。
「おし、終わったぞ〜」
先輩はシャワーでボクの背中を流し、丁寧に泡を落としてくれた。それから「ん?」と声を上げる。
鏡越しに様子を伺うと、鏡の中には先輩のお腹。今は立って僕を見下ろしているみたい。…って、あ!愚息が無茶苦茶元気!
「タヌキ、お前…」
先輩の訝しげな声。み、見られた!?やばいどうしよう!?
「尻尾の中身、結構細いんだな…」
…はい…?振り返ると、毛が濡れて普段の半分以下の太さになっている尻尾が見える。
「てっきり身が詰まってて、尻尾自体があの太さなのかと思ってた」
身が詰まって…カニみたいな表現だな。何はともあれバレた訳じゃなさそう。…ほっ…。
「さぁて、風呂入るか!」
新たな発見をして機嫌が良いのか、先輩は笑みを浮べながら湯船に入って行く。
ビックリしたせいか、ボクのチンコは縮こまっており、入浴中もばれずに済んだ。
…ふぅ…、あぶないあぶない…。毎度の事ながら先輩方との入浴はスリリングだ…。