第六話 「たった一つの願い事」
ボクは田貫純平。東護中一年で、柔道部所属。小学校に上がると同時に始めたので、柔道歴は6年以上にもなる。なのに戦
績はいまいち…。
というのも実はボク、昔から気が小さく、極度の上がり性なのだ。なので、練習はともかく他校との練習試合や公式試合と
なったら、ガチガチに緊張して体が思うように動かなくなってしまう。
そんなボクにとって、新人戦を目前に控えた今週は、まさに胃が痛くなる一週間だった…。
「一年の仕上がりも上々だ。明日の新人戦は期待できるな」
顧問のキダ先生の満面の笑みが、ボクにさらなるプレッシャーを与える…。
「中学に入ってから始めた部員も、かなりさまになって来ています。いい線行けると思いますよ」
イイノ主将の期待の笑みが、ボクの胃をキリキリと痛くさせる…。
…はぁ…。気が重い…。
「タヌキ、今日時間あるか?」
お風呂上がりのアブクマ先輩が、タオルで頭をごしごししながらそう声をかけてきた。
先輩は大柄な熊の獣人だ。熊獣人らしい固太りした巨躯は、もうちょっとで190センチに達する。
濃い茶色の被毛に覆われた巨体。筋肉で盛り上がった分厚い胸には白い三日月。がっしりとした太く逞しい手足。丸くせり
出した肉付きの良いお腹。あいかわらずのナイスバディ…。
見た目は怖いが、強くて面倒見が良くて頼り甲斐のある先輩は、最初こそ一年生に怖がられていたものの、今ではすっかり
打ち解けている。
柔道歴はたったの七ヶ月だが、今では部内で最強の漢…、いや、県内にだって先輩より強い選手なんか居ない。今年の中体
連では並み居る強豪を片っ端から投げ飛ばし、全国大会まで勝ち進んだ。…これが四月から柔道を始めた人の成績なんだから
バケモノじみてる…。
先輩とボクはいつものようにシャワー最終組。戸締まり担当の僕達は、皆のシャワーが終わってから入り、道場をチェック
して回る。
ちなみに先輩がこの役を買って出ているのは、おちんちんが小さい事を気にして他の部員と一緒に入りたがらないからであ
る。ボクも小さい方なのは先輩も知っているので、三年生が引退して役割交代する際に上申したら、一緒に残ることを承諾し
てくれたのだ。
なお、ボクはあまり自分のモノのサイズは気にしていない。単に先輩と一緒にお風呂に入れるからという邪な動機での志願
である。…正直に言ったんだからそんな目で見ないで…!
「はい。大丈夫ですけど?」
「んじゃ、帰りにラーメンでも食ってかねぇか?」
ボクが頷くと、先輩は丈夫そうな歯を見せ、ニカッと笑ってそう言った。あまり見せることのない希少な笑顔…。あぁ、幸
せ!もちろんお伴しますとも!例え火の中水の中!地の果てまでもついてゆきます!…とは思っても、外見上はあくまでも平
静を装う。
「いいですね。行きましょう」
今年の春から柔道を始めた先輩に、一番最初の稽古相手となっていろいろ教えるという縁があったからか、それともボクが
一年生の中でただ一人の獣人だからなのか、それともやっぱり逸物が小さい者同士という連帯感があるからなのか、一年生の
中でも特にボクに目をかけてくれている。
…え?気のせい?皆平等に扱われてる?…そ、そうなのかな…?…まぁとにかく、先輩はボクを可愛がってくれるし、ボク
も先輩を慕っている。
…そんな先輩に、ボクは恋をしていた…。
「なにぼーっとしてんだ?早いトコ着替えろよ」
先輩に言われてボクは我に返り、慌てて道着をバッグに押し込む。明日は会場になる中学に直接集合だ。忘れたりしたら大変だ!
「おいおい、そんな慌てて詰め込んで大丈夫か?」
「へ、平気です。持ってくの道着だけですし…」
…あ、でも道着を忘れたら試合に出なくて済む…?いやいやいやそれはまずいだろう!
昇龍軒。ここがよく先輩と一緒に立ち寄るラーメン屋だ。
「ニンニクミソチャーシュー特盛りと、バターコーンラーメンお願いします」
並んでカウンターに腰掛けた後、ボクは先輩の分も合わせて注文する。先輩の好みは熟知してますからっ!ちなみに大好物
は冷や奴と豚汁とはらこめしだ。結構渋い。
「タヌキさぁ」
注文を待っている間に、先輩が突然口を開いた。
「試合になると、緊張すんのか?」
ギクリ!
先輩は答えに窮したボクを横目で見ると、納得したように頷く。…お見通しだったんだ。
「お前一年の中じゃずば抜けて強ぇのに、練習試合とかになると動きが悪くなるもんなぁ」
「う…、それはその…、…実はその通りで…」
ボクは自分が極端な上がり性である事を先輩に打ち明けた。部内の仲間との試合ではそんな事無いんだけれど、部外者相手
になると途端に緊張してしまう事を。
「昔から気が小さいんです、ボク…」
先輩は黙ってボクの話を聞いた後、ぼそっと呟いた。
「まぁ…、気持ちは分かるなぁ…」
はい?ボクの気持ちが分かる?先輩が?ボクの疑問の視線に気付いたのか、先輩は照れ臭そうに言った。
「今から話す事、誰にも言うなよ?」
そう切り出すと、先輩は辺りをはばかるように声を潜めた。
「俺もな、ずっと前はかなり臆病で、上がり性だったんだぜ?」
意外に思って顔を見返すと、先輩は鼻の頭を擦った。恥ずかしがっている時や、照れている時の癖だ。
「俺、幼稚園ぐれぇまでは無茶苦茶泣き虫だったんだよ。図体ばかりでかくて、鈍くさくて、ちょっとからかわれただけでワ
ンワン泣き出すような弱虫でな。そりゃあもういっつも仲の良い友達に庇って貰ってた」
「え?先輩が!?本当ですか!?」
…意外!っていうか想像もつかない!
「ああ本当だ。気が弱くて、自分に自信が無くて、いっつもウジウジしててなぁ」
先輩は恥ずかしそうに苦笑いしている。
「でもな、ある時その友達の一人が、えらい強引な方法で俺に自信をつけさしてくれた。そんときは半泣きだったが、それが
きっかけで俺の上がり性は治った」
「その…、強引な方法って?」
「町内の子供相撲大会に勝手にエントリーされた。ありゃあキツかったぞぉ?素っ裸で恥ずかしいわ、相撲なんて経験無くて
不安だわ、皆に注目されて緊張するわ…。終始泣きべそかいてた」
…小さい頃の先輩が、まわし一丁で、泣きべそかきながら…。や、やばい!想像しただけでカワイ過ぎる!
「そんなに可笑しいか?」
先輩は恥ずかしそうに耳をぺたんと伏せ、ボクの顔を覗き込む。おっと、ニヤニヤしてたみたい…!
「誰にも言うなよ?イイノにだって話した事ねぇんだからよ」
「りょ、了解です…」
口元が緩みそうになるのを抑えて頷く。イイノ主将すら知らない先輩の過去!なんて大収穫だろう!?
「で、まぁ。話を戻すとだ」
先輩は咳払いして口調を改めた。
「お前の場合も、必要なのは自信を付ける事じゃねぇか?まず一勝、そうすりゃ多少は自信が付くはずだ」
「そ、そんな無理ですよぉ!」
「観客は気にすんな。カボチャが並んでるもんだと思って、相手にだけ集中しろ」
「例え誰も見てない所でだって無理です!相手が見てるじゃないですか!」
対人恐怖症なわけじゃないけど、まるっきりそう聞こえる。…我ながら情けない…。
先輩はそんな情けないボクに呆れるどころか、肩をポンと優しく叩いて励ましてくれた。ドキッと心臓が跳ね上がる!
「じゃあとっておきだ。いいか?もしも明日の試合、お前が3回勝てたら…」
先輩は悪戯っぽく笑った。初めて見る新鮮な表情…。
「なんか一つ、お前の言うこと聞いてやる」
ボクは口をぽかんと開けた。…え?…えぇぇええええ!?
「まぁ、俺の時に友達が言った事の受け売りなんだけどな。飴と鞭ってやつだ」
言うことを何か一つ…!?こ、これもしかして夢じゃないの!?
「ただし、金くれ!とかそういうのはダメな?あと、あくまで俺個人、俺の体一つでできる事だけだ。その範囲の中でなら、
何でも言うこと聞いてやる」
「で、でも…。良いんですか?そんな約束しちゃって?ボクが無茶なお願いしたら…?」
「お前がまともに試合できるようになるなら、多少の無茶は安いもんだ。それに、お前はあんま無茶な事言ったりしねぇだろ。
これでもお前の事信用してんだぜ?でなきゃこんな事言わねぇよ」
「…先輩…」
…ボクを信用してくれてるんだ…。
「まぁ、俺が聞いてやれる事なんてたかが知れてるけどな」
先輩がそう言って笑っていると、注文していたラーメンがやってきた。
「多少はやる気出たか?」
「は、はい。頑張ってみます!」
「そうか」
先輩は笑みを浮かべ、ラーメンを食べ始める。
多少なんてとんでもないっ!すごいご褒美を目の前にぶら下げられ、ボクは俄然やる気になっていた。
帰宅したボクは、荷物も放り出してベッドにダイブした。そして嬉しさのあまりベッドの上を転げ回る。
三勝したら何か一つお願いを聞いて貰える!何をお願いしよう!?
例えば…、つ、付き合って下さい!とか…!?
だ、だめだ、そんないきなりっ!先輩がノンケでさえ無ければ絶好の告白チャンスなのにっ!
それじゃあ…、脇の下とか股間の匂い嗅がせてください。とか…!?
これもダメだ!ボクが変態だと思い知らせる事になる!例え聞いてくれたとして、先輩後輩の間柄が一発で崩れる!
なら少しソフトに…、胸とお腹揉ませて下さい…。とかっ!?
いや違うだろっ!?全然ソフトじゃないっ!
じゃあ…、は、ハグしてください!?
ダメダメダメっ!アウトだろこれもっ!
ならば…、
悶々と妄想を膨らませつつも、思いついたお願いのことごとくは、お願いする事自体に無理がある。
…はい…。ボク、汚れてます…。先輩はボクの為にあんな事言ってくれたのに、ボクは邪な欲望に邪魔されて爽やかなお願
いを思いつけない!あああぁぁぁあ!どうすれば良いんだっ!?
「ジュンペー!電話よー!」
お母さんの声がボクを現実に引き戻した。あぁもう!良いとこだったのに誰だよ!?こんな時に電話なんてかけてくるなよっ!
「だれー!?」
ベッドの上に転がったまま、不機嫌丸出しに声を返すと、
「アブクマ先輩よー!」
!!!!!
ガバッと起き上がり、ドアを蹴り開け、廊下を疾走し、お母さんの手から子機を奪い取り、そのまま部屋へと駆け戻りなが
ら、子機を耳に押し当てるっ!
「も、もしもしっ!?」
『おう。悪ぃな、こんな時間に』
受話器の向こうから聞こえてくるのは、間違いなく最愛のアブクマ先輩のお声!
…え?もしかして、邪な事を悶々と考えてたのがバレた!?…いやそんな訳ないか…。
でも何の用事だろう?先輩が電話をかけて来るなんて珍しい事だ。部活動の連絡ぐらいでしか電話くれないし…。あ、明日
の新人戦の事で追加連絡でもあったのかな?
『あのよ…、さっき話した事、あんま気にすんな』
先輩はいきなりそう言った。…え?何?もしかして、さっきの約束は無し!とか!?
『あん時は良かれと思って言ったけどよ。もしかしたら、逆にプレッシャーかけちまったんじゃねぇかと思って…』
「い、いいえ!そんな事無いです!俄然やる気出ましたからっ!」
そう!お願いを叶えて貰う為なら頑張れる!撤回なんて冗談じゃないっ!今更アレはナシ、なんていうのは無しですよ先輩っ!?
『そっか。なら良いんだけどよ…。改めて考えてみたら、余計なこと言っちまったかな、って思えてきてよ。せっかくの公式
デビュー戦なのに、俺の一言が原因で思うように試合できなかったんじゃ、お前が可愛そ過ぎるもんな』
「余計なことだなんてそんな…」
…先輩はボクがあんな妄想やこんな妄想をしていたなんて露ほども疑わず、プレッシャーかけたんじゃないかと気遣ってく
れたんだ…。あぁ、本当に優しいなぁ先輩…。…なのにボクは…。
「せ、先輩…。ボク、明日は頑張ります!」
『おう、応援してるぜ!』
「は、はいっ!」
先輩はおやすみを言って電話を切った。ボクは子機を抱えたまま考えた。
一時間近く考えた後、ボクのお願いはやっと決まった。
新人戦は生徒達が応援に来るような大規模なものじゃない。でも来年の中体連に出場する選手の実力を推し量る、重要な大
会でもある。出場する一年生は今回が中学初の公式戦になる者が殆どだから、出場者の大半の実力が未知数だ。
でもまぁ、学校を上げて応援するほどの盛り上がりにはならないし、ボクの天敵である観衆もそんなには…。
「…詐欺だ…」
思わずポツリと呟いていた。
淡い期待を裏切り、会場となる中学の道場には大勢の人々がひしめき合っている。大会関係者や参加者、各校の柔道部員だ
けじゃなく、あきらかにその他の人々も混じっていた。
他県の学校の顧問や生徒だったり…、間違いなく大会と関係無いウチの学校の生徒達だったり…、目的はそう。イイノ主将
とアブクマ先輩だ。
飛び抜けた実力を持つ二人を始め、キダ先生が顧問となってからの数年で強豪校の仲間入りを果したウチの部を偵察に来て
いるんだ!
ウチの学校の制服を着た女子連中は、たぶん先輩方の勇姿を見に来たんだろう。よく見ればボクのクラスの女子も何人か混
じってるし…。けど残念、先輩達は今日試合無しっ。
ボクは心臓をバクバク言わせながら準備運動を開始した。
や、やばい…。いざ試合が目前に迫ったら、いつもの緊張虫が騒ぎ出した!体がガチガチに固まり、ストレッチもままなら
ない!視界が極端に狭くなり、目の前しか見えない!
そして、緊張が解けないままなのに、無情にもボクの順番が刻々と迫って来る!
「タヌキ」
「ははははいっ!?」
石像のように固まっていたボクに、アブクマ先輩が声をかけてきた。上ずった声で返事をしたボクに、先輩は心配そうに言った。
「…平気か?」
「も、ももももうバッチリでゃふっ!」
か、噛んでるよぉっ!しっかりしろボク!
先輩は困ったようにボクの顔を見つめ、それから不意に口元を歪めた。
「俺なりのおまじない、教えてやろうか?」
おまじない?ボクが頷くと、先輩は両手を上げ、自分の顔をバシンと叩いた。そういえばこれ、先輩が試合前にいつもやっ
てるな…。
ボクは先輩を真似て、両頬をバチッと叩く。…結構痛い!目に涙が滲んだ。
「どうだ?」
「どうって、痛いですよ!」
「だろうな。でも気合い入ったろ?」
…あれ?そういえば…、体が動く?鼓動も落ち着いてきたような…?
「自信持て!なんたってお前は、俺に基本を仕込んだ師匠なんだからよ!さぁ、行って来い!」
先輩はニッと笑うと、力強くボクの背を押してくれた。
「は…、はいっ!」
先輩に頷き返し、ボクは試合場に向かって歩き出した。
相手と向き合ったボクは、先輩のアドバイス通り観衆をカボチャとして考える事にした。
乱れる呼吸、跳ね回る心臓、硬直する体…。普段ならそうなる。でも、今は大丈夫だった。先輩のおまじないが効いたのか
な?対戦相手と向き合った今でも、部内の仲間と立ち会う時のように平静でいられた。
相手は黒い犬の獣人。中肉中背で、ボクと同じくらいの体格。
冷静に観察する余裕ができて初めて気付いた。相手もちょっと緊張してるみたい。当然だよね、ボクと同じ一年生なんだ。
きっと彼も初の公式戦デビューで緊張しているんだよ。
…なんだ…、皆もボクと同じ条件じゃないか…。
「はじめ!」
開始の合図と同時に、ボクは声を上げた。これまでは上手く上げられなかった声も、練習の時と同じように腹の底から出せた。
「それでは、皆のデビュー戦の終了と、タヌキ君の四位入賞を祝して!おめでとう!そしてお疲れ様!」
反省会が終わった後、道場で車座になった全員を見回し、イイノ主将がジュースの入った紙コップを掲げて声を上げる。そ
して、全員がそれに倣って紙コップを掲げた。
…えへへ、調子良かったみたいで、準決勝まで進んじゃいました!三位決定戦じゃ負けちゃったけどね…。
ちなみに、準決勝でボクを破った相手がそのまま一位になった。黒い熊の獣人で、強豪、南華中の選手だったけど、ほんと
強かったなぁ…。
皆が褒めてくれるなか、やっぱり一番嬉しいのはアブクマ先輩の笑顔!先輩は嬉しそうに笑いながら、ボクの頭を少し乱暴
にグシグシ撫でてくれた。
「どうだ?上がらなかったか?」
「ええ、まぁ。少しはマシになったと思います」
試合が進むにつれ、ボクを見ている観客は多くなっていったのに、体が動かなくなるほどの緊張はしなくなっていた。
あのおまじないが効いたのか、それとも相手も新人だから頑張れたのか…、でも、きっと次回からも大丈夫かもしれない。
なんとなくそう感じた。
解散後、ボクは先輩と一緒に戸締まりを確認し、道場を出た。
「で、決まったか?」
「え?」
突然そう言った先輩に、ボクは首を傾げて聞き返した。
「え?じゃねぇよ。お前4回も勝ったんだぜ?」
…!!!そうだった!有頂天になってすっかり忘れかけてたけど、3勝以上したから先輩に何か一つお願いができるんだ!
「えぇと…」
実は、昨夜の内に何をお願いするかは決まっていた。
「今度、暇な時でいいんですけど…」
「おう」
「部活が休みの日に、どこかに遊びに連れて行ってくれませんか?」
先輩は少し目を見開いて、ボクの顔を見つめた。なんだか拍子抜けしているようだった。
「なんだよ?そんなんで良いのか?」
そんなのだなんてとんでもない!ボクにしてみれば最高のご褒美ですよっ!
先輩は難しい顔で考え込みながら呟いた。
「ん〜、俺もあんまり遊びに出かける方じゃねぇから、流行ってるような場所とか詳しくねぇんだよなぁ…」
いいんですっ!一緒に出かけられるなら、それだけで満足なんですからっ!
「何処でも結構ですよ!」
「んじゃ近場で悪ぃけど、次の日曜あたり、映画でも見に行きながらショッピングモールぶらついてみるか?」
「はい!ありがとうございますっ!」
ボクは心の中でガッツポーズを取る。やった!先輩との初デート!
「見てぇ映画決めとけ、俺は何だって良いんだからよ。…にしても、お前も物好きだなぁ。俺なんかと出かけたってつまんね
ぇだろうに」
「つまらないだなんて…、そんな事無いですよっ!来週、楽しみにしておきますっ!」
やべっ!秋物の余所行き出さなくちゃ!何着て行こう!?
新人戦を終えてプレッシャーからも開放され、先輩とのデートの約束まで出来てしまった帰り道、ボクの足取りはとにかく
軽かった。