第九話 「クリスマスっ!」

ボクの名前は田貫純平。東護中一年で、柔道部所属。名字のとおり狸の獣人で、身長は平均そこそこ、幅は普通よりちょっ

ぴりあるかな。

本日はクリスマスイブっ!しかも憧れの先輩とのデートだっ!…もっとも、向こうにはその気はないんだけどね…。

イブとは言っても、僕達はまだ中学生、夜中に遊び回る訳にはいかないから、デートはもちろん日中だ。

最近はめっきり冷え込んで、雪が降る日も多くなってきた。今日もかなり寒い。

待ち合わせ場所の駅前で、ボクは手袋をはめた手を揉みながら先輩が来るのを待つ。先輩はいつも10分前行動だから、も

ちろんそれより早く来ている。

腕時計を見ると15分前、そろそろかな?通りに視線を走らせると…、あ、来た!

行き交う人々の中、飛びぬけて大柄な熊の獣人がこっちに歩いてくる。ボクが所属する柔道部の副主将、二年生の阿武隈沙

月先輩だ。

モスグリーンのトレーナーに、こげ茶色のジャケットを前を開けて羽織り、濃いジーンズにアウトドアブーツ。露出の少な

い季節になったのは残念だけれど、冬仕様の私服姿もこれはこれでかっこいい…!

先輩はボクに気付くと、驚いたような顔をしてドスドスと走ってきた。

道行く人々が驚いて道を開ける中、先輩はボクの前まで走って来ると、

「悪ぃ!遅れたか?」

と時計を覗き込んだ。

「いえ、まだちょっと早いですよ?そんなに慌てること無いのに」

笑いながらそう言うと、先輩はほっとしたように表情を緩めた。



電車に揺られて約一時間半。さらにそこからバスで30分。普通なら嫌になるような移動時間も、先輩と話しながらなら全

く気にならない。道中、学校や部活、テレビの話をしていたら、あっというまに目的地に到着していた。

今日のデート場所は仙大にあるベリーハイランド。つまり遊園地である。

先輩は絶叫マシーンが好きだという話を、心強い味方(イイノ主将)から得ている。これは本当だったらしく、入場ゲート

を潜ったとたん、先輩は興味深そうにジェットコースターのレールを見つめていた。大商い(?)の予感!

園内はクリスマス一色の飾り付け、常にクリスマスソングが流れ、クリスマスらしくカップルが闊歩する遊園地…。

ふふふふふ…。他人から見れば恋人が居なくて、一人で過ごすのも嫌だから、男二人で仕方な〜く連れ立って遊びにやって

来たように見えるかもしれないけれど、実際にはデートなんだなこれが!…ま、厳密にはまだ恋人じゃないんですけどね…。

…ふぅ…。

今日は先輩に楽しんで貰って、良い雰囲気になれば、あわよくば…、こ、告白しちゃおうかななんて思ってたりするんだけどっ!

イイノ主将も応援してくれてるし…、なんだかんだ言って先輩もボクの事可愛がってくれるし…、ボクが男だという事さえ

除けば、不安要素はないと言える。…でもこの唯一の不安要素、かなりデカいよね…。

イイノ主将、どういう風に告白されたんだろう?聞いておけば良かったな…。

…さて、気を取り直して…。

「先輩!あれ乗ってみましょうあれ!」

ボクが指さしたのは、観覧席のように段差になって席が並んだ横長の船体、トップスピンだ。地上13メートルの高さで3

60度急回転、そこから急降下といういわゆる無重力体験マシーン。

「おー、面白そうだな」

先輩も興味津々の様子。よし、さっそくトライだ!



「いやぁ。面白かったなぁ!」

先輩は笑いながらそう言い、たった今乗ったばかりのトップスピンを見上げた。

「結構高いところで回るんですね…」

喜んで頂けたようで何よりです…。正直、甘く見てました、はい…。

13メートルって結構高い。そこでグリングリン回転された上に、まっさかさまに地面に落下…。瞬き一つの間に入れ替わ

る空と地面…。はっきり言って…、ボクの耐久度ギリギリのレベルだった…。

「どうしたジュンペー?具合でも悪ぃのか?」

足がおぼつかないボクを心配し、先輩が声をかけてきた。

「もしかして、お前こういうの苦手なんじゃ…?」

たぶん人並だと思うけど…。

「大丈夫ですよっ!ちょっと目が回っちゃっただけです!」

笑顔でそう返すと、先輩は安心したように口元に笑みを浮かべる。先輩の事だ。苦手だと思ったら気を遣って絶叫マシーン

を避けるだろう。平気な顔で乗り続けなければっ!

「次、あれ行きましょうあれ!」

弱気になっている所など見せてはならないっ!ボクが指し示したのは、アームの先にゴンドラが繋がった、何やら工場内の

装置を思わせるマシーン、メガダンスだ。

回転しながら人の腕のように可動するアーム、140度までリフティングするゴンドラ。様々な方向からかかるGを体験す

る絶叫マシーン。

「よし、乗ってみるか」

先輩はもちろん乗る気まんまん。さっそくトライだ。



「結構キツいのな、5Gって」

先輩は満面の笑みでそう言った。

「昼食前で良かったですね…」

楽しんで頂けたなら幸いです…。ぶっちゃけナメてました、はい…。

縦、横、斜め…、あらゆる角度に引っ張りまわされ、空中に放り出されるような感覚と、急激にかかるGに翻弄され…、あ

やうく胃の中身が口から飛び出るかと思った…。

「ジュンペー、顔が赤くねぇか?」

「興奮して、あ…頭に血が昇っちゃったみたいですねっ!」

なんのこれしきっ!これ以上キツいのはもう無いだろう!

「先輩!次はアレ行ってみましょうアレ!」

少し震える手でボクが指さしたのは、オーソドックスなローラーコースター。コークスクリューだ。

急降下にきりもみ回転と、コース上の見所はあるが、これまでのような変則的な動きはしないはず…。

「連続で三つとは、お前も絶叫マシーン好きなんだなぁ」

先輩はちょっと嬉しそうに言った。…同類と思われてる!?こ、これはボロを出せない…、さっそくトライだ…。



「いやぁ、気持ち良かったなぁ」

先輩はスッキリした表情で笑みを浮かべた。

「そ、そうですね…」

満足して頂けたなら嬉しいです…。すみません、普通に見えたから侮ってました…。

最高点からの落下速度が半端じゃなかった…。一瞬魂が抜けるかと思った…。さらにそこから渦巻状に配置されたレールを

駆け抜け、一瞬で二回転…。頭の上を地面が二回横切って行った…。

「…ジュンペー?どこ見てんだ?」

焦点の定まらない目でぼんやりとコーヒーカップを眺めていたボクの顔を、先輩が横から覗きこんだ。

「は!す、済みません!ちょっと余韻に浸ってましたっ!」

残りのマシーンを後回しにしたいのは山々だけれど、昼食後に乗るのはさすがに遠慮したい…。午前の内にヤバそうなのだ

けは制覇するべきだ…。

「よぉし!次はアレです!」

ボクが次なる試練に選んだのは、またしてもジェットコースター。この遊園地の代表的なアトラクションの一つ、…その名

もサイクロン…。

最高度地上25メートル。最大傾斜55度。全行程2分半のロングコース。…さ、最初に乗っとくべきだった…。

「おお、あれかぁ。ここ来たら乗っとかねぇとな!」

先輩は本当に嬉しそうに笑った。苦労の甲斐はあり、今日は先輩の笑顔がたくさん見れるなぁ!…で、では…、いざトライ…。



「ここの名物つったらやっぱりコレだよなぁ!」

先輩は大満足なご様子で笑いながら言った。

「他の所のとは一味違いますもんね…」

今更ながら気付いた…。ボク、あまり絶叫マシーン得意な方じゃないのかも…。それに、連続で乗らなければもうちょっと

楽だったんじゃない?これ…?

コースターは最高部から一気に55度の傾斜を駆け下り、間断無く旋廻と捻りを繰り返して乗客を翻弄し、二分半もの間思

う存分に暴れ回った…。

で、でも…、大物はこれで制覇しただろう…。あとは安心して楽しめるはず…。

「絶叫マシーンばっかってのもあれだ。次はゴーカートでも乗ってみるか?」

お?やった、先輩から他のを希望してくれた!

「いいですね!この辺で少しのんびりしましょうかっ!」

今のうちに、絶叫マシーンのはしごで痛めつけた三半規管を少し休めておこう…。



ゴーカート乗り場へやって来たボク達は、カップルだらけの列の最後尾に並んで順番を待つ。

なんでカップルが多いのか不思議だったけど、カートを見て納得した。…二人乗りでイチャイチャできるんだ、これ…!

「せっかくだから別々に乗るか?」

…先輩はボクの気も知らないでそんな事を言い出した…。「せっかく」だから一緒に乗るんでしょうっ!?

「い、いいえ!順番待ちの人も多いですからっ!一緒に乗りましょう!」

「そうか?俺達の後は番待ち居ねぇけど…、ん?」

後ろを振り返った先輩は、何か見つけたのか、首を傾げた。

「どうかしたんで…」

振り返ったボクは、驚いて目を丸くした。ボク達の後ろに並ぼうとした二人、それは…、

「見覚えのある後姿だと思ったら、やっぱりか」

ボク達が良く知る猪獣人が、少し驚いたような顔で言った。その横には…、

「イイノ!オジマ先輩も!」

先輩の言うとおり、イイノ主将の隣に居たのは大柄な虎獣人、オジマ先輩だ。

「ははぁん。そっちも恋人居ねぇ組っすか」

笑いながら言ったサツキ先輩に、イイノ主将とオジマ先輩が顔を見合わせて苦笑する。…イイノ先輩の付き合ってる人って…、

もしかして…?

ボクの視線に気付いたのか、オジマ先輩はふっと視線を逸らし、イイノ主将はウインクしてよこした。

「丁度良いや、せっかくだから四人で回るか!」

楽しげに言うサツキ先輩。

だからそれ「せっかく」じゃないですからっ!この中で唯一のノンケは、空気を読むどころか二人の関係にも、ボクの気持

ちにすらも気付いていない…。

「い、いや。こっちはこれ乗って昼食摂ったら、向かいの動物園に行こうと思ってたとこだ。オレ絶叫マシーン駄目だから、

もう殆ど回り終わっちゃってね」

イイノ主将は慌てたように言い、サツキ先輩は肩を竦める。

「もったいねぇなぁ。遊園地に来て絶叫マシーン乗れねぇなんて」

…別にもったいなくはないです…。

「…進め。前空いたぞ」

オジマ先輩にぼそっと言われて振り返ると、あと二組でボクらの番だった。

「そうだジュンペー、どっちが運転する?」

「あ、先輩お願いします」

先輩から言い出したんだし、きっと乗りたかったんだろうから、ここは譲っておこう。

「良いのか?んじゃ俺が運転な」

ボク達が運転手を決めていると、後ろでオジマ先輩が目を光らせた。

「アブクマが運転か」

「そっちはオジマ先輩っすか?」

「ああ。…どうだ?勝負するか?」

「面白そうっすね。良いっすよ?」

好戦的な笑みを交わす二人…。この二人、なんでこう張り合うのが好きなんだろう?今回はイイノ主将も止めるつもりがな

いみたい。まぁ、カート勝負だしね…。



「では、位置について〜…」

イイノ主将の合図を待ち、ハンドルを握ったサツキ先輩とオジマ先輩が表情を引き締める。

「よ〜い、スタートっ!」

合図と同時にアクセル全開っ、エンジン音(電動モーター音)が高々と鳴り響く。そして、カートはタイヤをギュリギュリ

滑らせながら急発進!(危険なので皆さんは絶対真似しないでねっ!)

「手加減しねぇっすよ!」

「何人たりとも俺の前は走らせん…!」

カーブの連続を巧みなハンドル捌きで切り抜けつつ、睨み合い、見えない火花を散らす二人のレーサー。前見て下さいっ!

お願いだからっ!

そしてボクは気付く。これじゃ絶叫マシーンとあんまり変わりないしっ!

抜きつ抜かれつデッドヒートを繰り広げ、最終コーナーを抜けて直線に入った時、ボクらのカートは少しずつ遅れ始めた。

「うお!?何でだ?もしかしてあっちは新型か!?」

焦るサツキ先輩。しかし徐々に距離は離され、結局あっちのカートが先にゴールする。

「あ〜…、負けちまったか…」

先輩は悔しそうに呟き、カートを降りる。遅れて少しふらつきつつ降りるボク。

満足げなオジマ先輩の横で、イイノ主将が笑いかけた。

「ハンデがあった割には善戦したんじゃないか?」

「ハンデ?なんだそりゃ?」

「…もしかして、気付いて無いのか?」

イイノ主将の言葉に、ボクらは顔を見合わせた。

「トータルの体重差30キロ分と、バランスの悪さだよ。そっちのカート、運転席が沈み込んで、助手席は浮いてたぞ?」

そうか、ボクと先輩ではかなり体重差があるからね。

「ちょっと待てよ?先輩、それ知ってて勝負しようって言ったんですか!?」

「いや、乗ってから気付いた。…が、面白そうだから黙っておいた」

…最後まで気付かなかったボクらって一体…?

「まぁいいや…。とりあえず時間も時間だ。飯にしよう…」

サツキ先輩は残念そうに呟いた。

「こっちも昼食にしましょうか?食べたら移動って事で」

「…そうだな」

イイノ主将とオジマ先輩も食事にするらしい。今度こそ「せっかく」なのでと、食事だけは一緒に摂る事になった。

それにしても…、オジマ先輩がイイノ主将の恋人だったなんて…。…意外…。



「さて、オレ達はそろそろ行くね」

園内のファーストフード店で食事を摂り終えると、イイノ主将とオジマ先輩は一緒に立ち上がった。

「え?もう行くのか?」

「ああ。…お二人さんはごゆっくり」

サツキ先輩に頷きつつ、意味深な笑みを浮かべるオジマ先輩…。

「あ、そうだ」

イイノ主将はボクの耳に口を寄せ、そっと呟いた。

…え?意外に思って目で尋ねると、主将は悪戯っぽい笑みを浮かべて頷いた。へぇ…、サツキ先輩がねぇ…。

「それじゃ、ハメを外し過ぎないように気をつけて」

「そっちも、先輩がライオンなんかと取っ組み合いの勝負始めねぇように気をつけろよ?」

「おいアブクマ、お前俺をなんだと…」

「分かってる。ちゃんと監視するさ」

「…イイノ…、お前まで…」

会話を聞いていると、このカップル、なんとなくイイノ主将がイニシアティブを握ってるような雰囲気。…そういえば、オ

ジマ先輩ってイイノ主将の言うことは素直に聞くし…。

「それじゃ、そろそろ行くよ」

「…行ってくる」

「おう!」

「そちらもごゆっくり〜!」

挨拶を交わして別れたボク達は、それぞれ出口と中心部に向かって歩き始めた。



それからボク達は、ミラーハウスやコーヒーカップなどを楽しんだ。あぁ…、ゆったり楽しめる幸せ…。

さて…、そろそろ試してみようかな…。

「先輩、次はあそこ入ってみましょうよ!」

「ん?どれだ?」

ご機嫌で笑みを浮かべていた先輩は、ボクの指さした方に視線を向け、硬直した。

「も…、もしかして…、あれか…?」

少し引き攣った表情を浮かべる先輩の視線の先には、おどろおどろしい外観の洋館…、お化け屋敷が建っていた。

…この反応…、意外過ぎて半信半疑だったけれど、イイノ主将の話は本当だったらしい。

「…や、やめとかねぇか?俺達ももう…、お化け屋敷とか喜ぶ歳でもねぇし…」

…コーヒーカップで大はしゃぎしていた人が何を言いますか?

「ボク、ああいうの大好きなんですよ〜!入りましょうよっ!」

「いやほら…、でも…」

「…もしかして先輩、お化け屋敷とかは苦手ですか?」

「な!?そ、そんな事ねぇよっ!」

先輩は慌てたように言い繕う。実に分かりやすい反応だっ!

「なら行きましょうよ!アトラクション殆ど回っちゃったし、せっかくだからコンプリートしましょう!」

「…お、おう…」

先輩はしぶしぶといった様子で頷いた。



「…なぁ、やっぱり俺、外で待って…」

「二人お願いしま〜す!」

小声で呟いた先輩の言葉は聞こえないふりをし、ボクは受付にパスポートを提示する。

諦めたのか、先輩は入り口を潜ったボクの後ろをとぼとぼついてきた。

入り口を潜ると、広いエントランスに出た。ボロボロのカーテン、蜘蛛の巣の張ったシャンデリア、破れた窓…。内装、結

構凝ってるな…。

少し感心していると、先輩はボクのすぐ後ろで周囲をキョロキョロと見回す。普段は見られないオドオドとした様子がまた

新鮮…。

順路表示を見ながら歩き始めると、先輩はボクの背後にぴったりくっついてくる。やっぱり先輩、お化け屋敷が苦手なんだ!

薄暗い廊下に足を踏み入れると、どこからか別の客が上げた悲鳴が聞こえてきた。悲鳴に反応し、先輩はビクリと身を竦ま

せ、落ち着き無く周囲を見回す。

ボクは別にお化けとか苦手でもなんでもないから、普通に廊下を進んだ。先輩は神経質に辺りを気にしながらついてくる…。

そして、

バタンッ!

「ぎゃぁぁあああああああああああああああああああああああっ!!!」

廊下の脇にあった扉が開き、作り物のミイラ男がボク達の目の前に飛び出すと、先輩は凄まじい絶叫を上げてボクにしがみ

ついた。

…こ、ここまで怖がらなくたって…。正直、予想以上のリアクションですっ!

ミイラ男が「うぃ〜ん…」という機械音と共に収納されると、先輩はほっとしたようにため息をつく。それからボクにしが

みついている事に気付き、慌てた様子で身を離した。

「わ、悪ぃっ!いきなりだからちょっとビビって…」

「先輩?やっぱりお化け屋敷苦手だったんじゃ…?」

「そっ…、そんな事は…」

がしゃんっ!

「ほぎゃぁあぁあぁあぁあぁあああああああああああああああっ!!??」

頭上から落ち掛かった骸骨にしなだれかかられ、先輩は再びボクに抱き付いた。うひょ〜!役得役得っ!

骸骨が「きゅりきゅりきゅり…」と音を立てて引き上げられると、

「…じ、じじ実は俺…。ここ、こ、こういうの苦手なんだ…!」

誤魔化しきれないと観念したのか、先輩はビクビクと天井を見上げながら白状した。

「む、昔っからお化けとかそういったのダ…ダメで…、つ、作り物だって知ってても…」

よほど苦手なのか、目尻に涙まで滲んでいる。…やべ…、か、かわいい!

「それなら言ってくれれば良かったのに…」

ボクは白々しく先輩を心配するふりをする。まぁ、主将から聞いても半信半疑だったし、ここまでとは予想もしてなかった

けれど…。

「それじゃあさっさと抜けちゃいましょうっ!」

ボクは先輩の手を掴み、先に立って歩き出す。よし!この状況なら自然に手を繋げるっ!

先輩は少し潤んだ目で、ボクを頼もしそうに見つめた。ああ!ボクは今、先輩に頼りにされてるんだ!…て、照れるぅっ!



「…あ、あのよ…」

夕陽に照らされた街並みを一望できる観覧車の中で、先輩は決まり悪そうに頭を掻いた。

「悪かったな。お化け屋敷…、俺のせいで楽しくなかったろ…?」

出口に辿り着くまでに、計11回ボクに抱き付いた先輩は、顔を真っ赤にして俯いている。

「いえ!そんな事ないですよぉ!」

本当に、もう楽しくて仕方なかったですからっ!

実は…、抱き付かれて存分に感触を味わったので、さっきまで息子がビンビンだった。歩き方がちょっとおかしくなってた

けれど、先輩にはそれに気付く余裕は無かった様子。

「情けねぇよな…。こんな図体してんのに、お化けが怖ぇだなんて…」

先輩はかなり気にしてる様子。気にすること無いのに…、ギャップがかわいかったし!

「やっぱり、皆には内緒にしてるんですよね?」

ボクの問いに、先輩は小さく頷いた。

「分かりました。誰にも言いませんよ!」

「悪ぃ、助かる…」

先輩はほっとしたように呟く。

煌びやかに輝き始めた、クリスマスデコレーションの遊園地を見下ろしながら、ボクは数回深呼吸した。

…二人きり…、観覧車内はクリスマスソングが流れ、結構良い雰囲気…、そして体を重ね合った直後…(なんか違う?)。

…こ、告白のチャンスだ…!

「せ…、先輩…」

高鳴る鼓動を耳元で聞きながら、ボクは緊張で乾いた唇を舐めた。

先輩は顔を上げ、ボクの目を見つめた。

「そ、その…、せ、先輩…、…す…、す…!…すきっ!」

先輩の目が少し驚いたように丸くなる。い、言っちゃった!ど、ど、どうしようっ!?胸がバクバク言い、顔が熱くなる。

「すき焼きとか好きですか!?」

気がついたら、ボクはそう付け加えていた。

うあああああああああん!ボクの根性無しぃいいいいいっ!!!

「おう。鍋物はなんでも好きだ。…それがどうかしたか?」

「あ、い、いえ。寒い季節だし、皆で鍋をつつくのも良いかなぁなんてっ!」

ボクの口が勝手にすらすらとフォローを入れる。

「そうだなぁ。…キダ先生にでも相談してみるか?柔道部で鍋やらねぇかって。三年生も誘ってよ」

「良いですねっ!きっと楽しいですよっ!」

あぁぁああああああん!絶好のチャンスだったのにぃいいいい!

観覧車はゆっくりと回る。回り回って元の所へ…。まるで今のボクらの関係のよう…。

じ、次回こそはきっと…!