FILE13

「お手柄ね、ヤチ君。ヨウコさん」

ネクタールの情報源を確保した俺達を、安堵と喜びの入り混じった表情を浮かべたタマモさんが、ススキの間で出迎えた。

結果的には3名を捕縛し、被害は限りなくゼロに近い。

力を使ったユウとショウコちゃんが眠り続けているが、夜が明ける頃には力を取り戻し、目を覚ますだろう。

俺の体もガタがきていたが、まぁ問題ない。こっちも十分な休息と栄養を摂ればずぐに回復する。

「俺の読みが甘かったせいで、ショウコちゃんに力を使わせざるを得ない状況になってしまった。あまり叱らないでやってくれ」

俺が言うまでもなく、元々あまりきつく叱るつもりも無かったのだろう。タマモさんは微笑みながら頷いた。

「ホテルに部屋を用意したから、とりあえず今日の所は休んでちょうだい。詳細な報告はその後でお願いするわね」

有り難い。一刻も早くユウを休ませてやりたかったし、辛そうな様子こそ見せないものの、ヨウコだって緊張の連続で疲れ

ているはずだ。

四天王を3人欠き、ネクタールがどう動くか分からない状況である以上、俺も可能な時に休息を取っておきたい。…まずは

シャワーを浴びて冷たいビールでも…。

「生ビールと極上のサーロインステーキを部屋に用意させたわ」

俺の欲求を見透かしたようなタマモさんの気配り…。いつもながら感心させられる。

有り難く礼を言い、俺達は用意された部屋に向かった。



「…分かった。すぐにゆく」

俺が内線電話を置くと、眠り続けていたユウがベッドの上で身を起こした。

「…おはようございます…、ヤチさん…」

ぼーっとした様子で目を擦るユウは、タマモさんが用意したパジャマを着ている。

「済まない。起こしてしまったな…。まだ夜明け前だ。もう少し休んでいるといい」

俺は小声で謝り、ユウの肩を押して再び横にならせると、軽く頭を撫でてやった。

ユウは微かに笑みを浮かべた後、再び瞼を閉じる。

また起こさぬようにそっと部屋を出た俺を、ヨウコが待っていた。

「ヨウコさんも呼ばれたのか?」

「はい。当事者として、立ち会って欲しいと」

確かに、結果を見れば、これまでのヨウコの働きは、俺達に大きな恩恵をもたらし続けている。ここまできて蚊帳の外とい

う訳にもいかないだろう。タマモさんも彼女を本物の同志として認めたのだ。

…つまりタマモさんは、ヨウコを本格的に巻き込む覚悟を決めた…。そういう事だ…。

 

人狼の呪いによって死ねなくなっているチーターへの容赦ない拷問。そしてコウモリへの激しい尋問。

ヨウコは口元を押さえながらも、逃げ出そうとはせず、タマモさんの隣で敗者の姿を見つめ続けた。

彼女は「酷い」とは言わなかった。例え内心でそう思っていたとしても、決して口には出さなかった。

あの一件…、俺がヨウコとの約束を守ってミラーと戦ったあの一件から、ヨウコは俺達の血で血を洗う激しい闘争に対して

口を挟まなくなった。

 倒すべき敵。守るべき味方。それらの間に横たわる明確な線引き。俺達の絶対の価値観に、完全に納得する事はできなくと

も、容認はし始めていた。

文明社会に生きる彼女達人間にとって、俺達の生き方は受け入れ難いものだろう。それでもヨウコは受け入れようとしてい

る。血を血で贖う、けだものの生き様を。

「大丈夫か?」

拷問部屋を出た後、俺はそっと尋ねてみた。

「…大丈夫です。…直接手を下す力も、度胸もないのに…、見る事さえ拒んだら…、ここに居る資格はありませんから…」

大丈夫なはずはない。もちろん強がりだ。だが、その意志は本物だ。ヨウコはタマモさんの見込んだとおり、覚悟を決めた

のだろう。…俺達の世界で生きる覚悟を…。

ヨウコは度し難い程の甘さを削ぎ、俺達の世界の常識を身に付け始めた以外は、出会った頃から全く変わっていない。そん

な彼女を好ましく思っている俺の方こそ、変わってしまったのだろうな…。

「最後に、もう一つ見て欲しいものがあるの」

しばらくの間、ヨウコを観察するように見つめていたタマモさんは、そう言って俺達を医務室に誘った。



医務室のベッドには、牛のライカンスロープが横たえられていた。

今は人間の姿…、若者の姿だ。やつれた顔で、頬の肉はそげ落ちている。本来の姿とは裏腹に、やせ細った、弱った姿だ。

その体には様々な計器と繋がるコードや、点滴の管が繋がれており、口元には人工呼吸器があてがわれている。

その周囲で、シルバーフォックスお抱えの医師団が慌しく動き回っていた。

「何らかの薬…、あまり良くないものを投与されていたようね」

やはりか…。俺が嗅いだあの匂いは、その薬のものだったのだろう。

「ドクの話では、判断力を鈍らせ、自我を持たない人形に作り替える為の薬らしいわ。極めて強い中毒性があって、摂取し続

ければ脳を破壊されかねない…、一種の麻薬だそうよ」

「それじゃあ、この人は…?」

ヨウコは痛ましげに、若者のやつれた顔を見下ろした。

「…捨て駒の兵隊。そう考えて良いだろうな」

知らずに利用されたのか、それとも、知っていて荷担し、結局は捨て駒にされたのか…。恐らく前者だろう。言うことを聞

く相手ならば、薬などで支配する必要は無い。

心臓の移植や、キメラブラッドにされていない事を考えれば、この若者はヤツらにとってさほど重要な存在では無かったと

いう事も伺える。

「治らないのか?」

俺の問いに、タマモさんは首を横に振った。

「すでに脳にも影響が出始めていたわ…。手は尽くしてみるけれど…、正直厳しいというのがドクの見解よ…」

表情を曇らせているタマモさんの様子から、彼女もまた、この若い同族に同情を寄せている事が伺えた。

…ネクタール、何を考えている?俺達の同族を食い物にするだけでは飽きたらず…、自我を持たぬ操り人形にするとは…!

「…最善は尽くすわ…」

タマモさんはそう呟くと、やつれた若者の頬をそっと撫でた。



四日後、医師団が手を尽くしたにも関わらず、若者は意識を取り戻さぬまま、黄泉へと旅立った。

持ち物にも身元や名が分かる物は無く、チーターやコウモリも若者の本当の名は知らなかった。

奴らの話によれば、自らの意思でネクタールに所属する獣人は少ないらしい。さらってきた獣人の内、研究材料にならない

者は、あの若者のように薬漬けにされ、使い捨ての兵隊にされるそうだ…。

結局、名も知られる事の無かった若者は、墓碑銘のない墓に葬られた。

ネクタールを潰す際には、せめて彼の名前だけでも取り返して来てやりたい。心底、そう思った…。



「…ただいま…」

あまり元気のないユウの声と共にドアが開いた。

「おかえりユウ。ヨウコがロールケーキを買ってきてくれた。おやつに食べると良い」

資料に没頭していた俺は、背を向けたまま応じた。これまでの一週間に渡る入念な尋問の末に、やっと捕虜達から聞き出せ

たネクタールの情報資料だ。

奴らとの決戦は近い。いや、近いうちに決着を着けねばならない、と言うべきだろう。あの若者のような犠牲者は、こうし

ている間にも増えているのかもしれないのだ。一日も早く、奴らを潰さねばならない…。

「え、えぇと…、ヤチさん…」

なにやら口ごもるユウの声に続き、ショウコちゃんの声が聞こえた。

「あの、こんにちはヤチさん…」

「ああ、ショウコちゃんも一緒か、遠慮しないで上がって行くと良い」

そう声をかけたが、ユウとショウコちゃんは玄関口に立ったまま、上がろうとしない。

さすがに奇妙に思い、椅子に座ったまま視線を巡らせた俺は、予想だにしない来客を目にして動きを止めた。

二人の後ろに立つ、いかつい顔の、筋骨隆々たる大男…。

「…フータイ…!」



ソファーにかけて向かい合った俺とフータイの前に、ショウコちゃんがコーヒーカップを置いて、恐る恐る下がる。

「…有り難うショウコちゃん…」

「…馳走になる…」

ピリピリとした空気が満ちる部屋で、ユウとショウコちゃんは俺達から少し離れ、固唾を呑んで様子を見守っている。

なんでも、下校途中のユウと、ネクタールを警戒して付き添ってくれたショウコちゃんを、途中で待ち伏せしていたらしい。

それで、フータイが言うには、

「字伏夜血の所へ連れてゆけ。大事な話がある」

との事だったらしい。

無論、二人が逃げられる相手ではない。立ち向かうなど論外だ。下手に刺激しなかったのは正解と言える。…正直、俺自身

もフータイと戦って勝てるという自信は無い。

「…今日は…」

フータイがぼそりと呟き、ユウとショウコちゃんが身を固くする。ユウは俺からフータイについて聞かされているし、当時

小さかったとはいえ、ショウコちゃんも11年前の旧ネクタールとの凄惨な抗争を忘れてはいない。

「白波女史は居ないのだな?」

「ああ、先程帰ってきたが、また出て行った」

俺の返答を聞き、フータイは少しほっとしたような表情を浮かべた。そういえば、こいつはヨウコの事が少々苦手な様子だ

ったな…。

再び会話が途切れると、ショウコちゃんが俺達にロールケーキを運んできた。

フータイは軽く手を上げ、それを制する。

「俺は結構。…ケーキ類は苦手でな…。お嬢さんが食べると良い」

…?…俺は一瞬目を疑った。あのフータイが、一瞬、微かにだが…、ショウコちゃんを見て微笑んだような…?

「…なんだ?」

少々驚いていた俺を、フータイは訝しげに見た。

「いや…。で、大事な話とはなんだ?」

フータイは鋭い目をさらに細め、俺の瞳を見つめた。

「…ネクタールは、警戒態勢に入った…」

俺は眉を上げ、フータイに目で問う。

「お前達はネクタールの主力を削いだ。その…四天…王…を三人倒してな…」

やはり四天王という肩書きはこっ恥ずかしいのか?フータイは自分もそう呼ばれているくせに、ぼそぼそと言った。

「総帥も危機感を覚えたらしい。俺を専属のボディーガードとして傍に置く事にした」

「会ったのか!?今のトップと!?」

思わず身を乗り出した俺に、フータイは首を横に振った。

「今週末、顔合わせとなる」

「…大丈夫、なのか?」

「俺の心配ならば無用だ」

…別にお前の身など案じてはいないぞ。断じて。元々俺達は敵同士なのだ。…ただ、こいつの計画が失敗するのは勝手だが、

それでネクタールが今以上に警戒し、動きが掴み辛くなるのが困る。それだけだ…。

「…で、何故その話を俺に?」

フータイは俺の目を見据え、呟くように言った。

「力を貸して欲しい。…俺一人では、勝てぬ…」

「…何…!?」

俺は自分の耳を疑った。フータイが…、勝てないだと?

「…誰にだ?」

「総帥の側近、二人だ」

フータイは忌々しげに呟くと、コーヒーを一気に飲み干した。

「一対一ならば、おそらく…。だが、二人同時となれば、勝ち目は無い…」

一対一で、おそらく、だと?このフータイがか!?

「…その側近共はお前と同等の実力者…、そういうことか?」

「…何度か顔を合わせた際に実力を推し量ったが…、ほぼ五分といったところだろう」

フータイと五分…?どんな化け物だそいつらは?

「…だが…、字伏白夜ほどではない」

フータイは口元に微かな笑みを浮かべた。

「…それを聞いて安心した。ビャクヤみたいなのが二人も居たら、俺が10人居ても勝ち目は無いからな」

俺も苦笑を浮かべて応じる。

「それで、俺達はどうすれば良い?」

俺の問いに、フータイは驚いたような表情を浮かべた。

「何だ?自分で話を振ったんだろう?」

「…いや。思いの外あっさりと話が進んだのでな…。良いのか?俺がお前達を罠にかけようとしているとは思わんのか?」

「人狼の鼻を侮るな。嘘かどうかは完璧に分かる。それに、お前との共同戦線という事になればこちらの被害も減るからな。

その程度の損得計算は俺にでもできる」

「…恩に着る…」

呟いたフータイは、俺に深々と頭を下げた。…目を疑いたくなるような…、信じ難い光景だった…。



「ネクタールの攻めの戦力は激減、いや、皆無に等しいと言って良い」

ススキの間に集った同志達に、俺はそう切り出した。

タマモさんは、俺の考えるとおりにしろと言った。今回の会合では口を挟まず、皆の判断に任せるとの事だ。

どうあっても皆の協力を得なければならない。俺とフータイだけでは確実では無いのだ。フータイが求めたのは、俺達の総

攻撃だ。ネクタールの本社を急襲して混乱に陥れ、その隙に俺とフータイが総帥と側近を仕留める。それが俺とフータイが打

ち出した計画だった。

「この機を逃せば戦いが長引く事は、火を見るより明らかだ。戦力不足となったヤツらが守りに入った今を置いて、攻め入る

好機は無い」

俺は同志達の顔を見回す。口を挟む者は無かったが、皆がフータイを信用していない事は、はっきりと顔に現れていた。

「フータイの言葉に嘘が無い事は、俺が保証する」

俺の言葉に、同志達から声が上がった。

「何故そこまでヤツを信じ切れる!?」

「そもそもその情報自体、都合が良すぎる!」

室内に不満の声が満ちた。無理もない事だ。この場にいる同志達の中には、フータイによって肉親や親しい者が傷つけられ、

あるいは命を奪われた者も多い…。

「…皆がヤツに対して恨みを抱く気持ちは、俺も良く分かっているつもりだ…」

言葉を選び、静かに言った俺に、皆の視線が集まる。

「俺が…、ビャクヤのように強ければ、この話に乗ることも無かっただろう…。狩人たる俺が不甲斐ないばかりに、皆にこん

な話をしなければならないのは、正直心苦しい…」

そう、俺にビャクヤのような強さがあれば、皆を危険にさらす事無く、単身でフータイに協力できた。あるいは、フータイ

の手を借りずにネクタールを潰す事もできたはずだ…。

室内が静まりかえった。皆がビャクヤの事を思い出し、沈痛な表情を浮かべている。

「…あの…」

ヨウコがおずおずと口を開いた。

「新参者の私が言うべき事では無いと思いますが…、何故、狩人のヤチさんだけが、危険な役を買って出るのでしょうか?」

それは…、俺が闘争向きのライカンスロープだから…。

「人間である私の一方的な見解ですが、皆が生き延びるために、誰か一人が業を背負い込むのは、不自然だと思います」

彼女は皆の顔を見回す。何が言いたいんだ?ヨウコ…?

「大きな脅威を前にした今、誰か一人の背に担わせるのはフェアじゃありません!皆の背で、平等に担うべきではないでしょ

うか?」

「…まるで、我らが臆病風に吹かれ、ネクタールの事をアザフセ一人に押しつけようとしている。そんな口ぶりだな?」

同志の一人がヨウコを睨み付ける。が、彼女は臆する事無くその視線を受け止めた。

「少なくとも、私にはそう見えます」

「なんだとっ!?」

激高して立ち上がった同志が、他の同志に抑えられる。

「ヤチさんは、辛いのに耐えて、弱音も零さずに頑張っています。なのに、何故一度くらい、ヤチさんの頼みを聞いてあげら

れないんですか!?」

激しい感情を眼鏡の奥の両目に灯し、ヨウコは一同を見回した。

「皆の為に頑張っているヤチさん…。なのに、その願いを聞き入れる事を渋っている皆さんは、我が身可愛さに縮こまってい

るようにしか見えません!私がヤチさんから常々聞いている、誇り高き同志達の姿は、ここには有りません!」

激しい口調で一気にまくし立てると、ヨウコは荒い息をついて同志達の顔を見回し、それから深々と頭を下げた。

「出過ぎた事を口にしてしまった事、お詫びします。ですが、お願いです…。今回一度限りで良いです…。ヤチさんに、力を

貸してあげて下さい…」

「…ヨウコ…」

「僕からもお願いします!」

呟きかけた俺の言葉をかき消し、立ち上がったユウが声を上げた。

「僕、ここに来て、初めて自分にも仲間が居た事を知りました。あつかましいかもしれないけれど、皆さんの事、大事な仲間

だと思っています」

ユウは必死な表情で皆に訴えかけた。

「今回のヤチさんのお願いが、かなり危険だと言う事は分かっているつもりです。たくさんの仲間が傷ついたり、死んでしま

ったりするかも知れないって、分かっています。…でも、今動かなかったら、もっと犠牲が増えるんじゃないんですか!?こ

こに居る仲間達だけじゃない、まだ会った事のない仲間達だって…!」

一瞬言葉を詰まらせると、ユウは泣き出しそうな顔で叫んだ。

「この間、ここに運び込まれた若い男の人みたいに、道具みたいに扱われる仲間がまた増えるんですよ!?僕は…、僕はそん

なの嫌です!」

「…ユウ…」

少年の真っ直ぐな言葉に、俺の胸が熱くなる。ここに居る同族達だけではない、顔も知らぬ同族達の事までも想い、ユウは

皆に訴えかけた。

「私も同意見です」

ショウコちゃんがすっくと立ち上がった。

「皆さんがフータイを許せない気持ちは、私も理解しています。実際、自分の復讐を完璧に運ぶため、彼は同族達がネクター

ルの手に落ちるのを傍観し、あまつさえその手助けまでしていました。彼は決して善人ではありません」

いつもの朗らかな様子からは想像もつかない程に、ショウコちゃんは凛とした態度で一同を睥睨した。

「ですが、彼はまた、完全な悪人でもありません。己の罪を全て背負い、それでもなお目的を完遂する鋼の意思を宿した生粋

の狩人です。行いの善悪や感情論だけで理解できるものでは有りませんが、彼もまた、ネクタールの打倒を悲願とする者です」

ショウコちゃんの顔には、幼い少女の面影はもはや無い。いずれは同志達を率いる事になる、十七代目玉藻御前としての、

厳しく、気高くも、神々しいまでに美しい顔がそこにあった。

「誤解を恐れずに言います。ネクタール打倒の前には、フータイへの恨みや憤りなど、大事の前の小事。過去を忘れろとは言

いません。しかし、今一度だけ目を瞑り、力を合わせる事はできませんか?過去のしがらみを一時忘れ、度量を示す事こそ、

フータイへの何よりの一撃になりましょう」

「ショウコちゃん…」

心のどこかで幼いままだと思っていたのに、いつのまにか、立派な雌に成長していたのだな…。

俺は改めて一同を見回した。全員が、先ほどまでとは明らかに違う顔をしている。ヨウコの、ユウの、ショウコちゃんの言

葉が、皆の魂を揺さぶったのだ。

「今一度頼む。俺には、ビャクヤのような力は無い。だからこそ、皆の力を貸して欲しい。命の保障はできないが…」

俺は同志達の視線を受け、自分の胸を指した。

「今度こそ必ず奴らを叩き潰す事を、この俺の魂と誇り、兄に貰った名にかけて誓う」

静まり返った広間の中で、同志の一人が、ポツリと呟いた。

「女子供にあそこまで言われて、まだ渋るやつは居ないさ」

「まあ、遅かれ早かれ決着を着けなくちゃならんしな」

「見せてやるか?俺達の底力」

「おう!ネクタールの奴らに、自分達がどんな相手に喧嘩ふっかけたのか思い知らせてやろうぜ!」

口々に声をあげ、立ち上がる同志達。

黙って事態を見守っていたタマモさんは、俺の傍らに歩み寄ると、満足げに頷き、皆に向き直って口を開いた。

「決定ね。四日後、フータイの決めた刻限に、ネクタール本拠地へ踏み込むわ。間違いなく、私達が経験した中でも最大規模

の戦闘になるでしょう。覚悟はよろしいかしら?」

『おう!』

同志達の力強い返答が、広間を揺らした。

見回せば、ヨウコが、ユウが、ショウコちゃんが、俺を見つめて微笑んでいた。

皆がその気になってくれたのは、お前達の言葉があればこそだ。なんと言って感謝すれば良いか分からない…。

…いや、これだけの恩に言葉で返すなど、無粋の極みだな…。

謝意は行動で示す。言葉に代え、この爪と牙で、饒舌に謡い上げよう。