独白する人狼の物語(エピローグ・1)

俺の動きに合わせ、ベッドが軋む。

仰向けに寝たホウスケは、硬く目を閉じ、歯を食い縛って呻いた。

狸族特有の太い尻尾が苦痛と快感にのたくる。

「あ、兄貴…。もう少し優しく…、うっ!」

乱暴に陰茎をしごき立てると、狸は高い声を上げた。

俺はホウスケの肛門を唾液で湿らせ、そこに男根をあてがう。

「あ、だ、だめっ!いきなりは…、ああぁっ!」

殆ど前戯もなく、舌で少し湿らせただけの肛門から、俺の男根はホウスケの中に侵入した。

いきなり挿入されて苦しいのだろう。喘ぐホウスケに、しかし俺は容赦なく最初から奥まで挿入した。

 視界の隅で、部屋の壁に設置してある鏡に、狸を犯す狼の姿が映っているのが見えた。

声を上げて悶えるホウスケの顔を眺めながら、俺はある女の事を考えていた。

少し肉のついた、丸みを帯びた腹を揉み、乳首を吸い、抱き起こしてさらに奥深くへ性器を突き込みながらも、俺が考えて

いるのは、抱いているホウスケの事では無かった。

…ヨウコ…。

俺をばけものと呼び、殺そうとし、そして俺の手によって命を絶たれた母に、うり二つだった女性…。

 …俺は、また守れなかった…。

喪失感と悔恨の念がない交ぜになり、胸が張り裂けそうになった。

全て吐き出して、楽になりたかった。

俺は自分を満たすそんなものを全てぶちまけるように、激しくホウスケを責め立て、容赦なく犯した。

声を上げるホウスケの口を口で塞ぎ、獣の長い舌を絡ませあい、貪るように強く吸う。

 唇を離し、胸に舌を這わせ、乳首に歯を立てる。

腹の中をぐちゃぐちゃにする勢いで、俺はホウスケを何度も、何度も深々と貫いた。

「あ、あ、兄貴っ!兄貴っ!おいら、もう…!」

乱暴に責め立てられ、泣きそうな顔で喘ぐホウスケ。

程なく、俺とホウスケの間で、短く太い男根から、大きな二つの睾丸で作られた大量の精液が放たれた。

体を痙攣させて精を放ち、脱力したホウスケを、俺は強引に貫き続ける。

ホウスケの中で肉壁と擦れ、男根はますます膨張する。

 体内で膨張する男根の感触を感じているのだろう、ホウスケは圧迫感からか、また高く声を上げる。

そして、それから程なく俺も頂に達した。

「ああぁぁぁっ!」

腹の中に精を放たれたホウスケは、身を捩って声を上げ、体を震わせた。

俺は自分の中のやりきれない思いをぶちまけるようにホウスケの中に射精し、その体を抱えるようにして、ベッドの上に押

し倒す。

俺は朝が来るまで、何度も、何度もホウスケを犯した…



「…済まない…」

ベッドの上に仰向けに寝た俺は、寄り添うように隣に寝そべるホウスケに詫びた。

ずいぶん乱暴に犯してしまった。自分の辛さのはけ口に、ホウスケを求めてしまった…。

俺はホウスケを抱きながらも、ずっとヨウコの事を考えていた。心底済まないと思う…。

ホウスケは、少し寂しそうに微笑んで、首を横に振る。

「良いんですよ。…兄貴、あのひとの事が忘れられないんでしょう?おいらの事は、二の次でいいんでさぁ…」

「気付いていたのか?」

思わず聞き返してから「しまった」と思った。否定してやらねばならないところなのに…。

だが、情報屋をやっているホウスケは、非常に勘が鋭い。

 自分を抱きながらも、俺が何を思っていたのか、全てお見通しだったのだろう。…本当に、酷い真似をしてしまったな…。

「済まない…。それにしても、何故分かった?」

再び謝り、そして問い返した俺に、ホウスケは恥ずかしそうに目を伏せた。

「そりゃまぁ…、惚れた相手が何に苦しんでるかぐらいは、分かりまさぁ…」

…顔が、熱くなった…。

「兄貴、あのひとの事が好きになってたんでしょう?」

「…好きになったのとは、少々違うな…」

俺は呟き、そして目を閉じてヨウコの顔を思い浮かべる。

「彼女は…、俺の母に良く似ていたのだ…。助けてやりたかった…」

傍らで身じろぎした気配に、俺は目を開け、ホウスケを見る。

ホウスケは、慰めるような、労りに満ちた目で俺を見ていた。

「…俺は、結局彼女に何もしてやれなかった…」

「そんなことはありません!」

ホウスケは、強い口調でそう言った。

「…あのひと、最期に兄貴に言ってたじゃないですか。「ありがとう」って、言ってたじゃないすか…。おいらが駆けつけた

時、野郎と向き合ったあのひとは、覚悟を決めた顔をしてました。ヒムロの野郎を自分の手で殺すつもりだったんですよ…。

法の裁きをあてにしないで、出刃包丁なんか持ち出して、あの細っこい体で、たった一人で大の男に立ち向かうつもりだった

んです…。それこそ相撃ち覚悟だったのかもしれません…。兄貴は、誰も頼れなかったあのひとに、ちゃんと手を差し伸べて

あげたじゃないですかっ!」

まくし立てるように一気に言ったホウスケは、手を伸ばし、俺の頬に触れ、透明な雫を拭った。

「…だからもう、自分を責めて泣くのは、止めにしましょうや…」

言われて初めて気が付いた。涙が俺の頬を濡らしていた事に。

俺は、泣いていた。

いつからだろう?…もしかしたら、ホウスケを抱きながらも、俺は泣き続けていたのかもしれない…。

「済まなかった…。ホウスケ…」

酷い抱き方をしてしまったな…。

俺はホウスケを抱き寄せ、その頭を抱きかかえ、安堵するような温もりを噛み締める。

 人は一人では生きてゆけないと、誰かが言っていた。

 …それはきっと、人に限った事ではない、俺達もそうなのだ…。

 この冷えた街の中で、俺に唯一温もりを与えてくれる、かけがえの無いホウスケを、俺はずっと抱き締め続けた…。