ドウニングデイ
ドグシャッ!という、物凄い音がリビングに響き渡り、コリー犬は耳を動かしながら振り向いた。
その視線の先には、脚立の上で足を左右に広げ、股間でバランスを取っているジャイアントパンダ。
「うっ…!?」
思わず自分の股間を押さえ、コリーは端正な顔を引き攣らせる。
やがて、パンダはゆっくりと仰向けに傾き、脚立の上から床に落下した。
背中からまともに落ち、ズシンと床が揺れ、コリーはさらに顔を引き攣らせる。
「おっ…う…!お、おほおぉぉおおっ…!」
仰向けに倒れたまま、股間を押さえて悶絶しているパンダに、コリーは恐る恐るといった様子で歩み寄る。
「こ、コータ!?大丈夫か?」
「えっ、うっ、おぉおぉおぉおうっ…!」
Vの字に上げた両足をヒクヒクと痙攣させ、涙目になっているパンダは、まともに返事もできない状態である。
それは、年末の大掃除の最中の、何度目かのアクシデントであった。
コリーの名は永沢義則(ながさわ よしのり)。有名宅配業者の支店に務める三十歳。
フサフサの被毛は、赤みの強い茶色と温かな白のツートンカラー。
ベージュ色の綿パンを履き、ネイビーブルーのトレーナーの首周りからは、豊かなフサフサした被毛がマフラーのように溢
れている。
すらりとした長身で、スタイルが良い。
シャープなマズルに、半分から上が垂れている三角の耳。
優しげで聡明そうな顔立ちの、なかなかのハンサムである。
パンダの名は笹木幸太(ささきこうた)。ヨシノリの職場でバイトしている大学二年生、二十歳。
体を覆うモサモサの被毛は、種族特有の白黒ツートンカラー。
身につけているのはコリーと同じく、ベージュのズボンにネイビーブルーのトレーナー。ただし、サイズはこちらの方がか
なり大きい。
身長はヨシノリに比べて少し低いが、横幅は倍近い。
真ん丸く肥えた恰幅の良い体つきで、肩や腕などは筋肉で丸々と盛り上がっている。
目の周りにはパンダ特有の黒い円。まだ若さの残る丸顔には愛嬌があった。
周囲には秘密にしているものの、二人は今年出会い、そして付き合い始めた、男同士の恋人同士である。
「おっ、おっ、おっ、おっ、おっ、おぉ…、おふぅっ…!ひぐぅううううううううっ…!」
股間を押さえたまま尻を上げてうつ伏せになり、目に涙を浮かべているコータの腰の後ろを、トントントントンと軽く叩き
ながら、ヨシノリは目を閉じてため息をついた。
今日は、大晦日の夕方まで仕事が入っているヨシノリと、二十九日で年内のバイトが終わるコータの休みがあう、年内最後
の日であった。
大掃除という事で、リビング天井の照明の拭き掃除を買って出たコータだったが、脚立の上で足を滑らせ、股間を痛打する
という不幸な目に遭っている。
(自信満々だったし、パンダだから、何となく曲芸染みた真似なんかは得意そうかなぁ…、とか思っていたんだが…、これは
偏見だったか…)
「も、もぉ…、だいじょぶそうっす…。済んませんヨシノリさん…」
ようやく口をきけるようになったコータは、股間を押さえたまま身を起こすと、気まずそうにちらりと、コリーの顔を見た。
「少し休んでろコータ。な?」
気遣うように言ったヨシノリは、雑巾を片手に棚の掃除に戻る。
(…今年は二人だから、掃除も楽になるかと思ったんだが…。かえって大変だ…)
ヨシノリはいささか疲れた顔つきで、これまでのアクシデントを思い返す。
数々のアクシデントの一つ目が起こったのは、掃除開始から間も無くの事であった。
やたらと広い浴室を掃除していたヨシノリは、ガシャーン!という、ガラスが割れるような音を耳にし、大慌てでキッチン
に飛び込んだ。
「コータ!?大丈夫か!?」
食器棚の掃除を任されていたパンダは、足元に散らばった破片…、粉々の食器の残骸群の中で、両手で口元を覆って硬直し
ていた。
「ご、ごごごめんなさい…!棚の戸を拭いてたら、肘ぶつけちゃって…!」
「怪我は無いか?」
フルフルと首を横に振ったパンダに、その場から動かないよう告げると、ヨシノリは掃除機を取ってきて、手早く破片を片
付ける。
「…ごめんなさい…」
「怪我がなくて何よりだ。足元、気をつけろよ?」
耳を伏せて大きな体を縮め、しょぼくれて謝るコータに優しく声をかけるヨシノリだが、
(俺のラスカル…!)
粉々になった、コンビニのキャンペーン景品のキャラクター絵皿を掃除機で吸いながら、泣きたい気分になっていた。
二度目のアクシデントが起こったのは、寝室の掃除をしていた時の事である。
窓を拭いていたヨシノリが、ベギャッ!という音を耳にして振り向くと、
「ご、ごめんなさいっ…!」
壁に備え付けのルームランプを両手で持ったコータが、顔色を失ってヨシノリを見ていた。
ランプを拭いていたコータは、踏み台の上でバランスを崩し、そのまま体重をかけてもぎ取ってしまったのである。
「怪我は…?」
「無いっす…」
ほっとしながらも、壁の穴から繋がるコードがついたままのランプを眺めるヨシノリは、ガックリ落ち込んでいた。
そして、三度目のアクシデントでは、周囲の物こそ破壊されなかったものの、コータ本人が、作業の継続が不可能な程の大
ダメージを受けている。
股間を押さえて床にペタンと座り、申し訳無さそうに見つめて来るコータの視線を背中に感じ、ヨシノリは苦笑いした。
「気にしないで休んでろ。怒ってなんかないから…」
少し安心したように表情を緩めたコータはしかし、俯いてボソボソと謝る。
「ごめんなさい…。おれ、ホント役立たずで…」
今年の秋から同居するようになり、家事も分担するようになったのだが、家事に不慣れなコータは失敗ばかりしている。
が、歳の離れた恋人を大事にしているヨシノリは、失敗続きのコータを厳しく叱るような事は全く無い。
その都度丁寧に教えて貰うのだが、生来うっかり者のコータは、なかなか失敗を減らせなかった。
独り暮らしの長かったヨシノリは、掃除洗濯等家事全般をそれなりにこなす。
面倒だからという理由で調理をしていなかったので、作れる料理のレパートリーこそ少ないものの、可も無く不可も無くと
いった無難なレベルの腕をしている。
対してコータは、独り暮らし中、掃除も必要に迫られた時しかせず、洗濯機がなんとか使える程度であった。
(おれ…。ほんとに役立たずな居候だ…)
項垂れたままため息をついたコータは、頭の上に急にポンと手が乗せられ、驚いて顔を上げる。
いつの間にか歩み寄っていたヨシノリは、コータの顔を見下ろしながら微笑んだ。
「役立たずなんかじゃないさ。コータはちゃんと役に立っている。こういうのは慣れだよ慣れ。俺も最初から出来た訳じゃない」
パンダの頭をワシワシと撫でながら、コリーは笑みを深くして続けた。
「もっとも、さすがにこれほどはやらかさなかったけれどな。なかなか退屈しなくて良い」
からからと笑いながら言ったヨシノリは、コータを立ち上がらせると、別室で休んでいるように促した。
手伝いたかったコータだが、失敗を重ねた手前、もっとやらせて欲しいとも言えず、不承不承勧めに従った。
両手で股間を押さえて俯き、やや蟹股で寝室に移動したコータは、「はふぅ〜…」とため息をつくと、どすっとベッドに腰
を降ろした。そして、
「いぎっ!?い、いってぇ〜…!」
無造作に腰を降ろした振動が伝わり、急所に鈍い痛みが舞い戻り、下っ腹を押さえて前のめりになる。
しばらくの間、その姿勢でプルプルしていたコータは、やがて横にボスっと倒れ、再びため息をついた。
「ダメだなぁおれ…。何か一つぐらい、家庭的な特技があれば良いのに…」
股間が苦しいのか、モゾモゾと身じろぎしながら休憩している内に、コータはうつらうつらとし始めた。
やがて、はっと目が覚めた時には、窓の外は茜色に染まっている。
時刻を確認すると午後三時。二時間ほど眠っていた事に気付くと、コータは慌てて飛び起きた。
そしてドタドタとリビングに向かうと、勢い良くドアを開ける。
「す、済んませんっ!おれいつの間にか寝ちゃっ…」
「あ、コータ!そこはワッ…!」
踏み出した右足の靴下越しに、ベタッと、妙な感触を感じたコータは、足を踏み出したそのままの姿勢で「ん?」と首を傾
げた。
「…クス…、塗ったばかり…、だったん…、だ…」
リビングの向こう側でモップにもたれかかり、ヨシノリはガックリと項垂れた。
「うぇえええええっ!?ご、ごごごごごごめんなさいっ!」
慌てて足を引っ込めても後の祭り。まだ乾いていないワックスには、パンダの大きな足跡が残っていた。
「あ!コータ!その足をついたら…!」
引っ込めた足を廊下に下ろしたコータは、そこにワックスの足跡を残したことに気付くと、「ぎゃー!?」と声を上げて片
足を上げる。
「あ、あわっ?あわわわわわっ!」
そして、そのままバランスを崩し、リビングの床に倒れこんだ。
ドスンという音にかたく目を瞑り、顔を顰めたヨシノリは、おそるおそる目を開ける。
「あ、ああああああ…。ご、ごめ…なさぁい…」
ワックス塗りたての床の上へ、うつ伏せにベタっと倒れたパンダは、涙目になって上目遣いにコリーの顔を見上げる。
ヨシノリは「ふぅ…」とため息をつくと、立ち上がるようにコータを促す。
「いや…、ぐっすり眠っていたようだったから声をかけなかったんだが…、それが悪かったな…。とにかく服を替えろ。あと、
毛がギチギチになる前に、シャワーを浴びてワックスを洗い落として来い」
「ご、ごめ…なさ…」
上体を起こし、目をうるうるさせて詫びるコータに笑いかけると、ヨシノリはワックスの塗り直す作業手順を、頭の中で組
み立て始めた。
「昼寝して…、シャワー浴びて…、大掃除だってのに、何やってんだろおれ…」
首にシャワーを当て、顎と喉に付着したワックスをボディーシャンプーで洗い落としていたコータは、手を止めて項垂れた。
「…何で怒らないんだろ…。こんなに山ほど失敗してるのに…。いっそガツンと怒って貰った方が気が楽だ…」
役に立てない自分が情けなくて、悔しくて、ヨシノリに申し訳なくて、ついついため息がこぼれる。
頭からシャワーをかぶりながら、しばし俯いていたコータは、
「くよくよしてても仕方ないっ!これ以上失敗しないように気をつけて、続きやろう!」
気を取り直して両手を胸の前に持ってくると、ギュっと拳を握った。
「お待たせっす!さぁ、ジャンジャンバリバリ働くっすよぉっ!」
リビングのドアを勢い良く開け、しかし失敗は繰り返さぬよう足は踏み入れずに、コータは元気な声を張り上げる。
「あ。今終わった所だから。ワックスが乾くまで待っててくれ」
が、清掃用具を手に、トイレから出て来たヨシノリに、背後からそう声をかけられ、
「えぇぇええええっ!?…はふぅ…」
と、肩を落として項垂れた。
「済んません…」
ソファーに座ったコータは、隣に腰を下ろし、テレビを眺めているヨシノリを横目で見遣った。
「だから、気にするなって何度も言ってるだろう?」
苦笑いしながらそう応じたヨシノリは、ホットココアを啜る。
大掃除も片付けも終わった午後五時。二人はようやく一息つき、リビングで休憩していた。一汗流して作業も終わり、スッ
キリとした様子でくつろぐヨシノリとは対照的に、コータは浮かない顔である。
(まぁ、さすがのコータもあれだけ失敗を量産すれば、ヘコむよなぁ…)
基本的に楽天家のコータではあるが、今回は最初から最後まで良い所が無く、かなり落ち込んでいた。目の前のテーブルに
置かれた、湯気のたつココアがなみなみと入ったカップにも、全く手を伸ばそうとしない。
「今日の夕飯は、昨日のカレーの残りで済ますか?」
「う、うす…」
項垂れているコータの頭にポンと手を乗せると、ヨシノリは立ち上がり、キッチンに向かおうとする。
「あ。あっためるだけならおれがや…」
顔を上げて口を開いたコータは、しかし途中で言葉を切り、再びカクンと項垂れる。
「…いや、今日は余計な真似しないっす…。何やっても失敗しそうっす…」
笑いを噛み殺したヨシノリは、一つ頷くとリビングを出た。
キッチンでカレーとライスを温め、食器を引っ張り出しながら、お気に入りの絵皿が粉々になった事を思い出し、ヨシノリ
は小さくため息をついた。
「俺のラスカル…」
良い香りが漂うリビングで、コータはニコニコしながらカレーをかきこむ。
腹に物が入ったら元気が出たのか、コータはすっかりいつもの様子に戻っていた。ヨシノリと並んでソファーにかけ、食事
を摂りながら談笑している。
「二日目のカレーって美味いっすよねぇ!」
「カレーだからといって、一日経てば何でも美味くなる訳じゃないらしいぞ」
「へ?そうなんすか?…そういえば、何で二日目だと美味くなるんすか?」
「俺もそれほど詳しくはないが…、カレー粉を使った物はまぁ、大概美味くなる。具に味が染み込んだり、ルーが馴染むから
だとか聞いたな。が、スパイスから作る本格的なカレーは、時間が経つと味が悪くなる」
「本格的なのは、日持ちしないんす?」
「日持ちしない訳じゃないが、味は確かに落ちたかなぁ…。スパイスがとんでしまうからだそうだ」
感心したように「ほへぇ…」と声を漏らしているコータの横で、ヨシノリは複雑な顔をする。
(あいつは料理が得意だったからな…。たまにカレーもスパイス調合からやっていたが…)
昔の恋人の事を思い出していたヨシノリは、その頃はたまにやっていた、二人で一緒に夕食を作るという、面倒ながらもそ
れなりに楽しい作業の事に思い至った。
(そうだ。簡単な物で良いから、二人で料理の練習でもしようか…)
「なあ、コータ」
「むぐふ?」
詰め込んだカレーライスで頬を膨らませたコータが、くぐもった返事をしながら顔を向けると、ヨシノリは思わず小さく吹
き出した。
「いや…、来年は、二人で少し料理の勉強でもしようか?簡単な物から少しずつ」
コクコクと頷いたコータはゴクンとカレーを飲み込み、顔を輝かせた。
「簡単なのだと、ラーメンとかどうっすか!?」
「…ラーメンは今でも作れるじゃないか…。しかも絶妙なゆで加減で…」
「えぇと…、んじゃあスパゲッティとかっす?」
「とりあえず麺から離れろ…。そうだなぁ、とりあえず俺のレパートリー、カレーやシチューなんかだな、あれぐらいは覚え
て貰うか」
「えっ?な、なんか…、のっけから難易度高くないっす…?」
ヨシノリは「そうでもないさ」と笑いながら応じると、カレーをすくって口に入れる。
(自分で作ったカレーだから、あまり美味いと思わないのかな…。それとも、あいつのカレーと比べてしまうからだろうか…)
ヨシノリは思い出し、そして考える。
結局、自分では幸せにしてやる事ができなかった、かつての恋人から貰った楽しい日々の記憶を。そして、あの頃の自分が
感じていたような楽しさと幸福感を、コータにも与えてやるには、どうすればいいのかと。
だが、ヨシノリは気付けていない。過度に大切にするが故に何をしても叱らない。そんな気を遣った態度が、時にはコータ
に対して逆にプレッシャーになっている事には。
怒られでもすれば気が楽になる所を、優しい言葉と態度で慰められてしまう。そういった対応に慣れていないコータは、失
敗をやけに優しく慰められる度に、自分がいつまでも「お客さん」でいるような気分を味わってしまうのである。
「そだ。大晦日は何食うんすか?」
「そうだなぁ。コンビニで安い寿司の詰め合わせでも買うか」
「うはっ!なんか微妙っすねぇ。せっかくなんだから普通のお寿司にしたら良いんじゃないっすか?」
「一人だけなのに、贅沢する事もないだろう」
「大晦日なのに…、そんなんで良いんすか?」
応じたコータは残り少なくなったカレーをかきこもうとして、
「へ?一人?」
と、首を曲げてヨシノリを見遣る。
「一人だろう?コータは実家に帰るんだから」
さらりと応じたヨシノリに、慌てた様子でブンブンと首を横に振るコータ。
「帰んないっすよぉ!?こっちで年越しするっす!」
「ダメだ。帰りなさい。大晦日と正月ぐらいは、大切な家族と実家で過ごした方が良い」
「えぇ〜!?…よ、ヨシノリさぁ〜ん…。良いっしょぉ?こっちに居てもぉ…」
「甘えたってダメだ。バイトがあるならともかく、せっかくシフトから外れたんだ。帰りなさい」
皿をテーブルに置き、体をすり寄せて懇願するコータに、ヨシノリは首を横に振る。
何度訴えてもノーと言い続けるヨシノリに、しばらくゴロゴロと縋り付いて甘えていたコータはふと表情を変えた。
そして、ヨシノリの脚に頭を乗せた膝枕のような姿勢から、のっそりと身を起こす。
「どうかしたのか?コータ」
急に静かになったコータに、ヨシノリは不思議そうな視線を送ったが、
「い、いやぁ…、何でもないっすぅ…!」
パンダは、少し作り物めいた笑みを浮かべ、そう応えた。
ヨシノリには帰るべき実家が無い。その事を思い出したコータは、心の中で呟く。
(大切な家族って…。おれにとっちゃ、ヨシノリさんもそうなんすよ…?)
それから数日が慌しく過ぎた、十二月二十九日。シフト上では、コータの年内のバイト最終日となるその日、
「ん?んんっ?」
経理主任のヨシノリは、あるリストを眺めていて首を捻った。
ここはヨシノリの職場であり、コータのバイト先でもある某宅配業者の事務室。この宅配業者では、年末年始等の忙しい時
期には、バイトの賃金にかなり色がつく。よって、間違えないようにシフトをチェックしていたのだが…、
「済みません、ここ違ってませんか?」
ヨシノリは腰を浮かせると、机に並んだファイルの上から覗き込むように身を乗り出し、バイトの管理を担当している同僚、
眼鏡をかけた人間のおばさんに確認するが、
「ああ、バイトの子が入れ替わったのよお。ササキ君が大晦日に当たってる子に頼んで、替わって貰ったみたいね」
との、意外な返答が返って来た。
(あの…ブヨパンダっ…!)
額に手を当ててため息をついたヨシノリは、
「あら?どうかしたの?」
「いいえ、何でもありませんよ。何でも…」
おばさんの問いにそう答えると、頬をヒクヒクさせながら静かに腰をおろした。
「えと…、ヨシノリさん?」
「………」
「ヨシノリさぁ〜ん?」
「……………」
「…あ、あれぇ…?」
仕事を終えて帰宅した、マンションのリビング。
ヨシノリはテーブルに背を預け、床に腰を降ろしてテレビに視線を向けたまま、背後のソファーに座るコータが何度声をか
けても返事をしない。
「え、えっとぉ…。怒ってるっすぅ…?」
引き攣った笑みを浮かべつつも、ご機嫌を取ろうとあれこれ話しかけるコータを完全に無視しながら、ヨシノリは乱暴に缶
ビールを煽った。
少し残業して帰宅したヨシノリは、先に上がっていたコータの出迎えを受けるなり、何故大晦日にまでバイトを入れたのか
と問い詰めた。それに対し、首の前で人差し指をちょんちょんと突き合わせながら発したパンダの返答は、
「バイト入ってるなら、大晦日こっち居ても、オッケーかなぁ…、なんて…」
との、ヨシノリの予想通りの物であった。
以降、夕食後の今に至るまでずっと、ヨシノリは不機嫌にむっつりと黙り込んだままである。
しつこく食い下がるコータを、やがてヨリノリはギロっと、半面だけ振り返って睨んだ。
「…コータ?先日俺は家族と過ごせと言ったな。覚えているか?」
その視線にやや怯んだものの、コータはニパっと笑みを浮かべて頷いた。
「もちろんっす!年末年始ぐらい、大切な家族と過ごす…。大事っすよね!」
「だったら何故あんな勝手な真似を…!」
「だからぁ、おれはちゃ〜んと、大切な家族と過ごすんすよぉ!」
珍しく少し声を荒げたヨシノリの言葉を、コータはニコニコと笑いかけながら遮った。
眉根を寄せたヨシノリに、コータは笑みを浮かべたまま続ける。
「おれの大切な家族。ヨシノリさんと一緒に年越しするっす!」
意表を突かれて少し口をあけたヨシノリに、コータは「ダメぇ?」とでも言いたげに首を傾げ、にへら〜っと弛んだ笑みを
浮かべる。
「…コータ…」
「うす?」
口を開いたヨシノリだったが、結局何も続けずに視線を前へ戻す。甘え上手で弁の立った昔の恋人の顔が、全く似ていない
にも関わらず、首を傾げたコータの丸顔に重なって見えた。
(…解釈を良いようにすり替えて丸め込む…。まさかあいつと似たような事をするとは…)
小さく笑ったヨシノリの、軽く震えた肩を後ろから眺め、コータは困ったように口を引き結ぶ。
(あ〜…、本格的に怒らせちゃった…?)
ポリポリと頬を掻くと、コータはのっそり立ち上がり、テーブルを回り込んで、チラリと一瞥を寄越したヨシノリの傍に、
足を崩してペタンと座る。
「来年はちゃんと帰るっす…。でも、今年は最初の年越しだから…、そのぉ…」
声をかけられてもなお、テレビに視線を向けたままのヨシノリ。
コータは少し迷った後、ズリズリと近付く。そして横に並ぶと、控えめに肘を触れさせた。
その行動に、ヨシノリは諦めたような微苦笑を浮かべる。
「…判った。今回はもう何も言わない。好きにしろ」
パァッと顔を輝かせたコータは、「でへへぇ〜!」と笑いながらゴロッと横になり、ヨシノリの脚に頭を乗せた。
「もう怒ってないっす?」
「ああ」
困ったような苦笑を浮かべたままのヨシノリの顔を見上げ、コータは嬉しそうに笑った。
「勝手な真似して悪かったっすけど…、ヨシノリさん、や〜っと怒ってくれたっす!」
訝しげに「ん?」と首を傾げたコリーに、パンダはにぃ〜っと笑みを向ける。
「一緒に海に行って、無茶やらかした時には叱ってくれたのに、付き合うようになってからは、怒ったの一回も見た事無かっ
たんすよ?」
「そう…だったかな…?」
意外そうに呟き、目を細めて記憶を辿るヨシノリに、コータは続ける。
「おれがどんな失敗しても、ヨシノリさん、慰めてはくれるけど叱ってはくれないじゃないっすか?だからおれ、ヘマする度
になんだか気を遣われてるみたいに感じて、尻が落ち着かなかったんす…。でも、やぁ〜っと怒ってくれたっ!でへへぇ〜!」
ヨシノリは優しく笑みを浮かべると、脚の上に乗っているコータの頭を、少し乱暴にわしわしっと撫でた。
「怒られて喜ぶのも、だいぶ変わってると思うけどな?」
「そりゃあおれ、Mっすから!」
そして、十二月三十一日、大晦日。
「えうぅ〜っ…、ぎづがっだっすぅ〜…」
「自分で志願したんじゃないか」
帰って来るなりソファーに倒れ込んだコータに、ヨシノリは肩を竦めてみせた。
「さぁ、ダレるのは後にし…」
「あ〜っ!紅白始まってるぅ〜っ!」
ヨシノリが皆まで言い終えない内に跳ね起きると、コータはドタドタとキッチンへ走って行った。
「コータ?醤油皿と、お吸い物用の湯と、茶の支度だけで良いからな?それと、たっぷり汗かいただろう?飯の前に風呂だ」
片手に下げた、スーパーの寿司の詰め合わせを高く上げ、ヨシノリはパンダの後頭部に声をかけた。
テレビに映し出される紅白のおおとりを眺めながら、ヨシノリはちらっと横に視線を向けた。
左の肩の上には、そこに顎を乗せているパンダの顔。ヨシノリの背中にもたれかかっているコータは、
「すか〜…」
抱え込むようにしてコリーの背中に抱きつき、酔っ払って眠っていた。
冬場になって汗をかき辛くなったコータの体重は、現在152キロ。
人間に換算すれば軽く100キロを越える恰幅の良さだが、アルコールへの耐性は非常に低い。何とか飲み干したグレープ
サワー一本で、すっかりヘベレケモードである。
むっちりしたパンダに抱きつかれ、背中に熱さを感じながら、ヨシノリは番組が終わったチャンネルを、各地の初詣の様子
を中継する予定の局に変えた。
「コータ?我慢しなくて良いから、ベッドで寝なさい」
「んぅっふぅ〜…。へ〜きへ〜きぃ〜…。あと二杯はいけるっすよぉ〜…」
ラーメンの夢でも見ていたのか、妙な返事を返すコータに、
「いや俺が平気じゃない。かなり重くて肩痛くなってきたから。そろそろ退きなさい」
左手を上げ、真ん丸い頬をタフタフと軽く叩くと、コータはようやく薄目を開ける。
コータの顎の下に手を入れて押し上げ、肩を抜いたヨシノリは、そのまま力なくぐたっと倒れかかって来るコータをかなり
苦労して受け止め、横にさせる。
しばらくの間、床暖房の温もりを感じながら、薄目をあけてぼーっとしていたコータは、ゴロンっと仰向けになり、天井を
見上げた。
「…あ〜…、回ってるぅ〜…」
「だから無理して飲まなくても良かったのに…」
テレビを眺めながら応じたヨシノリに、コータはモゾモゾと体を揺すりながら近付き、膝枕をせびる。
室内犬か何かのように甘え、うつ伏せになって脚に顎を乗せて来た大きなパンダの首を、コリーは苦笑いしながら優しくさ
すってやった。
(このままにしてやりたいが…、そろそろ準備しないとな…)
心の中で呟くと、ヨシノリは座布団を折って、自分の脚と入れ替えでコータの顎の下に入れ、立ち上がる。
「年越し蕎麦持って来るが、食えそうか?」
その問いが届いた瞬間、コータの寝せられていた耳がピッと立ち、寝ぼけ眼がカッと見開かれた。
「よゆーっす!」
急にシャッキリして身を起こし、親指を立てて見せたコータを少し驚いたように見つめ、
「…どれだけ麺類が好きなんだか…」
ヨシノリは呆れたようにボソっと呟いた。
午後十一時五十三分。
二人は並んでソファーにかけ、つけ蕎麦をズルズルと啜りながら、テレビ越しに除夜の鐘が突かれる様を眺めていた。
「目は覚めたか?」
「う〜っす!バッチリパッチリっす!」
ワサビのきいた蕎麦つゆで眠気が完全にとんだのか、蕎麦を啜りながらテレビを眺めるコータの目は、先ほどまでのショボ
ショボの状態がウソのように生き生きとしていた。
「あ、そろそろ急がないと、蕎麦食い終わる前に新年になるっす…!」
コータが勢い良く蕎麦を啜り始め、ヨシノリもそれに倣って少しペースを速める。
やがて蕎麦がすっかり平らげられると、コータはモジっと身じろぎし、はにかんだような笑みを浮かべた。
「おれの今年は、サイコーの一年だったっす。傍に同類が居た事に気付いたし、ヨシノリさんと付き合えたっすから!」
箸を置いたヨシノリは、少々照れ臭そうに半分垂れた耳を寝せ、コータの顔を横目で見遣った。
「ヨシノリさんは、どうだったっすか?」
「聞かなくても判るだろう?」
コリーが軽く肩を竦めて応じると、パンダは不満げに頬を膨らます。
「え〜!?言わなきゃ判んないっすよぅ!」
「…良いだろう?別にそんな事は…」
「良く無いっす!ちゃ〜んと聞きたいっす!」
どうあっても言わせたいのか、しつこく食い下がるコータ。
ヨシノリは困り顔でため息をついた後、コータの肩に腕を回した。
「…最高だったに、決まってるだろう?」
ヨシノリは照れ臭そうな微笑を浮かべると、少し驚いているコータの首を抱き込むようにして引き寄せ、素早く唇を重ねた。
鼻先が触れあい唇が密着すると、程無く、テレビの時報が午前零時を知らせた。
ヨシノリがゆっくりと唇を離し、肩に回していた腕を外すと、コータは頭を掻きながら「でへへっ!」と、嬉しそうに笑った。
「あけまして、おめでとうございます。ヨシノリさんっ!」
「あけましておめでとう、コータ」
やってきた新たな年の初めに、二人は笑顔で頭を下げあい、挨拶を交わした。
今年も昨年同様、良い年であるよう願いを込めて。
「初風呂っすぅ〜!」
ドアを開けたコータの声が、湯煙漂う浴室内に反響する。
奥行き10メートル、幅7メートルという長方形の広い浴室に、最初こそ度肝を抜かれていたコータだったが、最近ではすっ
かり慣れている。
広い浴室の中央には、ほどよくザラついた石材を組んで造られた真円の湯船。
今はブラインドを下ろしてあるものの、入って右手側の壁は、一面が丸々一枚の大窓になっている。
ブラインドを上げれば夜景が楽しめるのだが、コータは入浴の際にも下したままにしておく。
付近にはこのマンションよりも高い建物はない上に、腰の高さまではベランダの手すりが隠しているものの、やはり恥かし
いのである。
円形の湯船の縁には、褌一丁の筋骨隆々たる牛獣人等身大石像が膝立ちで屈んでおり、肩に担いだ水瓶から、巡回した湯が
絶え間なく浴槽に注がれている。
この高級マンションの最上階にあたる最高級の部屋は、卒業レポートを手伝ったお礼にと、ヨシノリの後輩がプレゼントし
た物である。
この牛の像も、その明神という名家出身の後輩が感謝を込めて設置したものらしいが、ヨシノリに言わせれば、「あいつは
センスがおかしいんだ」との事である。
「飯の前にも入ったのに、何でそう嬉しそうなんだ?」
続いて浴室に入ったヨシノリが微笑みながら首を傾げると、コータはクルっと向き直り、年上の恋人に抱き付いた。
「アレはアレ。それに別々だったじゃないっすかぁ。やっぱ一緒に入んないとっ!」
コータのプニプニした柔らかな胸が、タプタプした腹が、ヨシノリの豊かな被毛越しに、つぶれるようにして密着する。
フカフカムニムニの体の感触を味わいながら、ヨシノリはコータの背に左腕を回し、右手で頭をなでる。
「その気になる前に、体流そうか?」
「…う、うっす…!」
微笑みながら言ったヨシノリに、「でへへ〜っ!」と、弛んだ笑みを浮かべて頷くコータ。
裸で抱きあう二人の股間は、ぺったりと触れ合っていた。
「じゃあ交代な」
シャンプーの泡だらけだったコータの体を流し終えたヨシノリは、シャワーを止めて横にずれる。
「でへ〜!ありがとっした!」
コータはニコニコしながら椅子から「どっこいしょ」っと腰を浮かせ、ヨシノリに席を譲った。
「コータ…。そんなに若いのに「どっこいしょ」もないだろう…」
「え?ヤバいっすかね?」
「ヒロですら「どっこいしょ」はもう少し後からだったと思う」
心地良さの余韻を楽しみながらシャワーヘッドを手に取ったパンダは、湯を手に当てて温度を確かめ、コリーの背を濡らし
始める。
長く豊かな手触りが良い被毛に湯を十分に沁み込ませた後、一度シャワーを止め、ボディシャンプーのボトルを手に取った
コータは、
(…あ。イーコト思いついたっ!)
泡立てスポンジに手を伸ばしかけたその時、ピーンと閃いた。
結局スポンジを取らずに手を引っ込めたコータは、「にししし…!」と、怪しい笑みを浮かべながら自分の手にタップリと
シャンプーを出す。
そして、拝むように両手を擦り合わせ、自分の胸や腹に塗りたくり始めた。
「何してるんだコータ?」
パンダが自分の背後で何かしているのを察し、体の前面を洗っていたコリーは、首を捻って後ろを振り返る。
「いや、なんてーかその…、おれの体型の活かし方、思いついたっす!」
再び体を泡だらけにしたコータは、膝立ちになると、ヨシノリの背中にベタっと抱き付き、体を擦りつけ始める。
「でへへぇっ!自前のスポンジっす!」
小刻みに揺すられる太ったコータの体が、ヨシノリの背に隙間なく密着して泡を立てる。
ムニムニ、タプタプ、何とも言われぬその柔らかな感触を背に受け、コリーは可笑しそうに笑った。
「おかしな事を思いつくもんだ…」
「あふん…!」
たっぷりお湯を吸って重くなったコリーの尻尾で、股座を下からビシャンと叩かれたコータは、妙な声を上げる。
「でぇ…、ど、どうすかね?天然スポンジ…」
「ああ。気持ち良いよコータ。でもまぁ、デップリした腹の下に、何だか妙な感触が…」
「あ、そ、そこはそのぉ…、仕方ないっつーか何っつーかぁ…、き、気にしないで欲しいっす…」
やや引き攣った笑みを浮かべたコータは、少しだけ腰を引き、股間が当たらないようにした。
種族の傾向でもある、体格とは不釣合いに小さい雄のシンボル。加えてコータは仮性包茎である。
勃起してもなお、出っ張った腹の高さとほぼ同じ程度にしかならない小さな逸物は、少し皮が剥け、亀頭の先端が僅かに覗
いている。
その替わりにという訳でもないのだろうが、睾丸はかなり大きい。たっぷりした特大稲荷が、陰茎の下にぶら下がっている。
対してヨシノリの股間には、コータが憧れてやまない立派な男のシンボルがついていた。
コリーの逸物は太さも長さも標準以上で、不恰好な所が無く、バランスが整っている。
おまけにズル剥けである事が、サイズの方は仕方ないとしても、コータから見れば羨ましくて仕方なかった。
だが、ヨシノリはコータの逸物を「なかなかかわいい」と気に入っている。
「コータのソレ、俺は好きだぞ」
などと言ってくれたりするので、コータも最近では、このままでも良いかもしれないと思い始めていた。
「いい具合だなあこれ…。フィット感が堪らない。コータの腹や胸が、柔らかくて心地良い…」
前を流しながら、ヨシノリは気持ち良さそうに目を細めた。
「どーすか?普段はあんまり良い事無い、低反発ボディの活躍ぶりは!」
気を良くして笑っているコータに、
「良い事だってあるじゃないか?なにせ極端に寒さに強い」
と、ヨシノリも上機嫌に笑いながら応じる。が、急に笑い声を収めると、下を向いて困り顔になった。
「それにしても困った…」
「へ?どうかしたんすか?」
動きを止めて尋ねたコータを振り返ると、ヨシノリは苦笑いしながら、コータにも見えるよう肩の高さに上げた右手で、チョ
イチョイと股間を指さして見せた。
「気持ち良過ぎて興奮したのか、せがれが元気に…、な」
ヨシノリにのしかかるようにして、肩越しにその股間を覗き込んだコータは、泡まみれで屹立している逸物を目にすると、
「にっひぃ〜!」と、嬉しそうに笑った。
「その気になったっす!?んじゃ今日はヤってくれるっす!?」
「おいおい、正月早々に…」
苦笑いしたヨシノリは、しかし肩に顎を乗せて窺って来るコータが、期待に満ちた目をキラキラさせている事を見て取り、
「まぁ良いか…。年末はお互い忙しくて、しばらくセックスまではしていなかったからな…」
と、要求を飲む事にした。
泡を洗い流した二人は、並んで湯船に浸かる。
コータにベタベタとひっつかれながら、湯煙越しに天井を見上げるヨシノリの頭を、
(今頃何をしているのかな、あいつ…)
先ほどメールを送った友人の事が、ふと過ぎった。
暗い夜空の向こうへと続いてゆくような、そんな錯覚を覚えるほど、長い長い石造りの階段を、
「…はぁ…、…ひぃ…、…はぁ…、…ふぅ…」
丸い体躯の大きな虎が、鉄パイプの手すりを頼りに、ヨタヨタと登っている。
山頂に建つ神社への石段は、最近では全く運動していないこの大虎にとって、新年初の苦行となっていた。
午前零時の初詣を終えて降りてきた客達は、息も絶え絶えになって登って来る肥満虎とすれ違うと、可笑しそうに忍び笑い
を漏らす。
すれ違う巨漢がどこかユーモラスで、そして珍しいからである。
引き締まった筋肉質の体躯が標準である虎獣人としては、例外と呼べる程に珍しい、肥満の巨漢。
でっぷりと肥え太った大きな体に、頬が丸い弛んだ顔つき。
太い鼻梁に乗せるようにかけた眼鏡の奥には、眠たげに細められた目。
この大柄な肥満虎の名は寅大(とらひろし)。ヨシノリの友人であり、コータにとっては高校時代の担任である。
階段を三分の二程登った位置にある踊り場まで辿り着くと、ヒロは膝に両手をついて前屈みになり、苦しげに肩を上下させた。
「…はぁっ…はぁっ…はぁっ…、ごほっ…!こ、こんなに…、長かった…かなぁ…?」
苦しげに呟きながらハンカチを取り出し、汗まみれの顔を拭う。
かなり気温が低い、冷え込んだ時刻にも関わらず、すっかり汗だくである。
頭や首周りからは湯気が立ち昇り、キンと冷えた夜気に吸い込まれて消えてゆく。
茶色いジャンバーの胸元を空け、バタバタと冷たい空気を入れたヒロは、次いで脇腹に手を当てた。
(運動不足だなぁ…。脇腹が痛い…」
体色に近い黄色のトレーナーを丸く押し上げるでっぷりとした腹、その脇をさすり、苦しげに呻くと、ヒロは歩みを再開する。
(もうちょっとだ。張り切って行こうかぁ…)
手すりを握り、ボーリングの玉でも入っているかのような腹をゆさゆさ揺すり、ヒロはえっちらおっちら石段を登ってゆく。
真夜中の初詣は、かつて恋人が元気だった頃に始めて経験した。
もっとも、二人きりで詣でた事は、たったの一度しかない。
だが、それまでは日が昇ってから詣でていたヒロは、その一度きりの想い出を大切にし、こうして早い内の初詣を続けている。
しかし、今回に限って言えば、少々寝過ごしてしまった。
年始の通信混雑を突破して届いた友人からのメールで目覚めたヒロは、慌ててここまでやって来たのである。
「はぁ…、ふぅ…、ひぃ…!や、やっと…、げふっ…、ついたぁ…」
やっとの事で階段を登り切り、神社の正面広場に辿り着いたヒロは、石造りの大鳥居によろよろと近付くと、両手を当てて
項垂れた。
時刻はもうじき午前一時。初詣客の賑わいは一旦落ち着き、人影は少なくなっている。
ヒロが今居る、砂利が敷かれた展望台を兼ねる広場も、階段に向かってゆく帰り客ばかりで、登って来る者は居ない。
「はぁ…はぁ…、年々…きつくなって…来るなぁ…。はは…、歳は取りたくないもんだ」
肩を揺すって小さく笑ったヒロは、はっとしたように顔を上げ、動かなくなった。
(…そういえば、今年で三十だなぁ…)
しばらく固まっていたヒロは、そう心の中で呟くと、苦笑いしながら鳥居から手を離す。
(少しは、普段から散歩するなりしておこうか…。面倒だけどなぁ…)
かつて恋人と一緒に来た時も、ヒロは途中でグロッキーになった。
恋人もまた息が上がっていたものの、
「もぉ〜ちょっとだからぁ…、頑張ってこぉ〜!ふぁいっとぉ〜!」
そう空元気で声を上げつつ、むっちりしたヒロの尻を下から押し上げようとして、
「やめろ!恥かしいだろうが!」
と、縞々の尻尾で頭を叩かれ、叱られていた。
(さすがにもう、尻を押してはくれないからなぁ…)
以前二人で来た初詣の夜を思い出し、弛んだ笑みを浮かべたヒロは、
「あ、あいた…。いたたたたたっ…!」
鳥居から離れかけたその瞬間、右足を攣って顔を顰めた。
足を引き摺るようにして近くのベンチに移動した大虎は、う〜う〜唸りながら腰をおろして靴を脱ぎ、下側に向きそうにな
る親指を靴下越しに押さえる。
広場から見下ろす街の灯は、この時刻ではさすがにそろそろ少なくなっていた。
眼鏡越しに望むその灯火の一つは、友人と教え子が暮らすマンションの部屋の明かりかもしれない。そう、ヒロは考えた。
かなりの距離があるので、マンションに灯るいくつかの明かりが、二人の部屋にも灯っているかどうかは判らなかった。
「あけまして、おめでとさん。ヨシノリさんにササキ…」
ヒロは目を糸のように細くして笑みを浮かべ、返信したメールにも打ち込んだ言葉を呟く。
「よっこいしょっ…と」
足の痛みが治まった大虎は、くせになりつつある声を漏らして立ち上がると、神社へ向かった。
境内に入って手水舎で手と口を濯ぎ、御守りや破魔矢を買ってゆく客達の間をのっそのっそと歩き抜けたヒロは、賽銭箱の
前に立つと、大きな鈴を見上げる。
混み合うピークは過ぎ、タイミングも良かったらしく、丁度ヒロ以外には拝もうとする客が居なかった。
財布から取り出した硬貨を握り締めながら、ヒロは思い出す。
恋人との別れの数ヶ月前…、一人でここにやって来たあの日…、ヒロはこの鈴を、憤りをもって睨み上げた。
何故、あいつにばかり不幸を与える?
何故、あいつを救ってはくれない?
…何故…。
並んでいる周囲の客の視線にすら気付かず、喉の奥から憤怒の唸り声を発し、じっと鈴を睨んだあの夜…。
(今じゃあもう、恨んだりはしてませんよぉ)
ヒロは微笑みながら心の中で呟くと、胸の前に拳を持ち上げ、視線を下げる。
関節がどこだか判らない。と、よく恋人にからかわれた、肉付きの良い手に握り締められているのは、二人分のお賽銭。
恋人と離れる直前までは、神様を恨んだりもした。
だが、それはハナから筋違いだったのだと、今ではヒロは思っている。
ある人物が教えてくれた、気に入っている言葉があるから。
神とは、困難な状況に陥った際に縋り付くべき存在ではない。
例えば、思いもかけぬ幸運が転がり込み、誰に礼を言うべきか分からぬとき、胸の内で拝むべき存在…。
叶えたい願いがある際に、それを実現する誓いを立てるべき存在…。
神とはそういったものだと、某は思うておる。
かつて出会った山のような巨漢が口にしたその考え方が、ヒロはたいそう気に入った。
だから今は、恨むどころか感謝している。恋人と巡り会う事ができた幸運を。
硬貨二枚を投げ入れ、太い綱を握って鈴を鳴らしたヒロは、頭を深々と二度下げ、二度拍手し、両手を合わせて拝む。
新年を迎えられた事を感謝し、今年一年も無事に過ごすと誓いを立てる。
最初こそ、どこか風変わりな参拝だと感じたものの、今では、これで良いのだと思っている。
(さぁて…。階段を転げ落ちないように気をつけて帰るかなぁ…。何せ丸いから、もしも転んだら、途中で引っかからないで
一気に下まで落ちるぞぉ…)
自虐的な冗談を心の中で呟きつつ、ヒロは境内を引き返し始めた。
「よし。そろそろ上がろうか」
ゆっくりと立ち上がったヨシノリは、豊かな被毛から湯を滴らせつつ浴槽から出る。
「あ。先上がってて欲しいっす。おれ、ちょっとその…、中の方洗ってから上がるっすから…」
同じく立ち上がったコータは、恥かしそうに耳を寝せて笑いながら、シャワーの方へと足を向けた。
そしてシャワーヘッドを手に取ると、視線を感じて振り返る。
「…どうしたんすか?」
足を止めてコータの姿を眺めていたヨシノリは、「いや実はな…」と口を開いた。
「方法は知っているが、シャワーで中を洗っている所を見た事が無かったからな。どんなだろうかと…」
「ちょっ!?は、恥かしいから見ないで欲しいっす!先出てて下さい!」
慌てて言ったコータの前で、ヨシノリは「ああそうだ!」と、名案でも浮かんだかのようにポンと手を叩いた。
「たまには俺も手伝おう!体を洗いあってはいても、そこを洗った事はなかったからな」
「うぇえっ!?い、いやいいっすから!」
「もしかしたら、肉が邪魔になって尻に手を伸ばし辛かったりするんじゃないかと」
「ひどいっす!…いやまぁ、最近はちょっと後ろから手を伸ばすと脇腹から背中の辺りがアレだったりするっすけど…」
「だろう?遠慮するなよ。どれどれ…」
「だから遠慮じゃなくてっ!」
ブンブンと首を横に振るコータに歩み寄ったヨシノリは、その手から素早くシャワーヘッドを奪い取る。
「さぁ、やってみようか」
笑顔で床を指し示したヨシノリを前に、コータはしばしモジモジした後、結局はノロノロと四つん這いになった。
大きな尻を向け、首を捻ってコリーを振り返ったパンダは、
「や、やさしくして欲しいっす…」
直前まで嫌がっていた割に、ちょっと興奮している。
シャワーを出し、ぬるめに調節したヨシノリは、コータの尻の上に片手を置き、「当てるぞ?」と断りを入れてシャワーを
近付けた。
尻の穴にぬるい湯があたる感覚に続き、シャワーヘッドが押し当てられる。
「も、もうちょっと下側から上向きに当てて…、あ、そう、そんな感じっす…」
自分でやるよりも効率は良く無いものの、コータは顔を熱くしながら、この一種の羞恥プレイに軽く興奮する。
(あ、な、なんか…、これはこれで嫌いじゃないかも…)
「もうちょっと強く押し当てて良いっすよ…。…あ、入って来た…」
少し息をはずませ、コータは尻の穴から入って来る湯の感触を味わう。
(なんていうかこう…、ヨシノリさんに入れられるっていうのがまた…)
一瞬ぼーっとしてしまったコータは、「もう良いんじゃないのか?」というヨシノリの声で我にかえった。
「あ…、そ、そろそろ良いっす…!」
シャワーを退けて貰うと、コータは少し顔を顰めながら身を起こし、脚をかたく閉じた。
ぼーっとしている間に多めに湯が入り、下っ腹が少し苦しくなっている。
「…ちょ、ちょっとトイレ行って来るっす…」
気を抜くと出てしまいそうなので、コータは下っ腹を押さえて尻をすぼめながら、妙な歩き方で浴室の出口に向かった。
コータの場合、腸内洗浄は三回行う。これをあと二回やるのかと考えたコータは、顔がカーっと熱くなるのを感じながら、
また興奮して来た。
寝室の大きなベッドの上に腰を下ろした二人は、湯上りで温かい体で抱き締めあった。
巧みに舌をからませるヨシノリのディープキスに、コータは「ん…、んん…!」と、くぐもった声を漏らしながら酔いしれる。
長い長いキスの後、口を離したヨシノリは、コータの頭を抱え込むようにして胸に抱き寄せ、丸い耳を甘く噛む。
豊かなフサフサの被毛に覆われた胸に、甘えるように頬を寄せたコータは、耳を刺激する快感に身を震わせた。
コータの耳を噛み、左手で背中を撫でながら、ヨシノリは右手をパンダの股間へと滑り込ませた。
「はふっ…!あんっ…」
大きな玉袋をたふたふと揺すられたコータは、急所を弄ばれる行為にゾクゾクとした快感を覚える。
次いでキスだけで既に硬くなっているそこを軽く握られ、熱い吐息を漏らす。
さらにはヨシノリの親指が皮の先端をこじ開け、指の腹で亀頭の先端を擦ると、
「あひっ!あ、ちょっと、まっ…!ひにぃっ!」
コータはビクンと身を震わせ、高い声を上げた。
クリクリと親指で亀頭を刺激してやりながら、ヨシノリは噛んでいた耳を放し、ゆっくりと囁く。
「かわいいなぁ…、コータ…」
間近でかけられた吐息が耳をくすぐる甘い囁きに、コータは背の毛を逆立てた。
「ほ、ほんとにぃ…?」
「ああ。かわいいよコータ…。最高にかわいい…」
ヨシノリは優しく囁きながら、コータのソレを軽くしごいた。
たっぷりとついた皮下脂肪で柔らかなコータの体は、その振動だけでふるふると揺れる。
「あ…!あっ…!ま、待ってヨシノリさん…!あ、あんまり刺激したら…、おれまたっ…!」
「どれくらいまで我慢できるか、ちょっと試してみるか?」
少し意地悪くそう言うと、ヨシノリは親指に少し力を込め、グリグリっと亀頭を擦る。
「ひゃあんっ!あっ!ま、待ってヨシノリさんっ!そ、そんな強くはっ!」
コータはヨシノリの体にぎゅっとしがみ付き、高い声を上げた。
「あひゃっ!ひっ、まっ…!ほんと待って!おれヤバイっす!さっきからずっと、ひんっ!興奮、しっ放しだ、からぁ…!」
「我慢我慢。できるだけ頑張ってみろコータ」
ヨシノリは楽しげに言いながら、いささかも手を休めない。
敏感過ぎるコータは、ヨシノリにとっては弄り甲斐のある恋人である。
どこをつついても良い反応を返してくれるし、初々しくて愛らしいと感じている。
ついつい意地悪をしたくなってしまうのは、以前の恋人と違い、ちょっと弄ればいっぱいいっぱいになってしまう様子が堪
らなく愛くるしいからである。
(自覚は無かったものの、ひょっとすると俺はサドなのかもなぁ…)
テンパっているコータの姿を、愛くるしく感じている自分に気付いた頃から、ヨシノリはそんな事を考えている。
涙目になって快感に喘ぐコータを前にすると、もっと感じさせてやりたい、もっと気持ち良くさせてやりたい、もっと乱れ
たところを見せて欲しい、そう思ってしまう。
そうしてついつい弄り過ぎ、敏感なコータを前戯で果てさせてしまう事もしばしばある。
そんな時、詫びる必要など無いのに、涙目になって謝るコータが愛おしくて仕方ない。
(デブ専って訳じゃあなかったんだが…、今じゃコータ以外の相手は考えられないな…)
そんな事を考えていたヨシノリは、「はひっ!」という高い声を耳にし、動きを止めた。
互いの間で弾けた、右手にもたっぷりかかった熱い液体…。
亀頭の先からピュククッと精液を迸らせたコータは、ブルルっと体を震わせ、早くも一度目の射精を終えた。
「う!あ…!ご、ごめんなさいっ!ま、また、出ちゃったぁ…!」
泣きそうな顔で謝るコータに、ヨシノリは苦笑いで応じた。
「相変わらず敏感だな…。なかなか耐性がつかないのは、どういう訳だろうな?」
「う、うぅ…」
項垂れてモジモジするコータの額にキスすると、ヨシノリは微笑んだ。
「まぁ、お前の場合は一回抜けたぐらいで丁度良いさ。復活がやたらと早いからな」
精液でぬめった右手をわきわきと動かすと、コリーはパンダの頭に顎を乗せる。
「寝転がってリラックスしてろ。尻の方を弄っておいてやるから…」
「う、うす…。あ、あのぉ…、おれ一回出たんすけど…、休憩は…?」
「無し」
即答したヨシノリは、可笑しそうに笑いながら、コータの頭を顎でトントンと叩いた。
仰向けになって膝を立て、脚を開いて股を大きく広げたコータのアナルに、ローションをタップリ塗りつけると、ヨシノリ
はその周囲を指で押すようにしてマッサージを始めた。
目を硬く閉じ、歯を食い縛って刺激に耐えるコータだったが、
「んっ…、んうっう…!ん…!」
漏れる呻きは止められていない。
ヨシノリは片手で尻を弄りながら、もう片手でコータの腹をたふたふと揺すってやる。
恥かしそうに薄目を開けたコータに、ヨシノリはニンマリと笑いかけた。
「相変わらず良い手触りだな。どんな高級ウォーターベッドでも、お前の体にはかなわないだろう」
やがて、そろそろマッサージも十分だろうと感じたヨシノリは、「指入れるぞ」と断りつつ、コータの肛門に指を当てる。
肛門が刺激に反応して一度すぼまったが、コータが意識してそれを緩め、コリーの指が侵入を開始する。
「んんっふ…!…う…」
声を漏らしたコータの中に入り込んだ指は、クックッと中で折れ、伸び、それから抜き差しの動きに変わる。
ほぐす動きにも感じているのか、コータは両手で顔を覆いながら、微かに声を漏らしていた。
その内に指が二本に増えると、コータの声は少し大きくなった。
「あ…、んっ…!っふぅ…、んぅ…!」
一度射精して落ち着き、縮んでいた男根は、尻を開発されている間に興奮してムクムクと大きくなり、今では完全に勃起し
ている。
「相変わらず復活が早いなぁコータ」
指の動きに合わせるようにヒクヒクと動くコータのソレを見ながら、ヨシノリは嬉しそうに笑った。
が、あまり弄り過ぎるとまたイってしまいそうなので、指をさほど奥へは入れないようにし、動きを弛める。
「そろそろ良いな?」
「んくぁっ!」
ヨシノリの指がチュポンッと抜かれると、コータはビクっと身を震わせて声を上げた。
「それじゃあ、さっそく入れるぞ?」
言うが早いかコータの太腿に手を当てて広げ、ローションでぬめった肛門に、硬くなった逸物をあてがう。
「う…、や、やさしくして欲しいっす…」
早くも興奮で軽く息を乱し、潤んだ目でヨシノリを見つめたコータは、頷いたコリーが腰をゆっくりと前に出すと、圧迫感
を覚え、「んうぅっ!」と呻いて硬く目を瞑った。
ググッ…、ズブッ!
「んぐっ!…っく!うっ、うぅううううんっ!」
亀頭が一気に潜り込み、コータは食い縛った歯の隙間から声を漏らす。
その刺激に呼応するように、コータの逸物がヒクンッと震えた。
「大丈夫か?」
「お…、おっけぇーっす…」
かりまでが収まった所で一旦動きを止め、確認を取ったヨシノリは、コータが顎を引いて小さく頷くと、さらに腰を突き出す。
ヌププッ、ップ、ップ…、ズプッ…
「んうっふ!うぁ…!は、入って来るぅ…!奥ぅ…、あっ!ヨシノリさんの、入ってるっすぅ…!」
奥へ、奥へと侵入して来る逸物の感触を味わいながら、コータは高い声を上げる。
「どんな具合だ?コータ…」
「あ…、あっ…!すんごい…、奥までぇ…!届いてるっすぅ…!お、おっきぃ…!」
ヨシノリの男根が根本まですっかり潜り込むと、コータは喘ぎ声を上げながら、ムッチリした下っ腹を押さえた。
圧迫感を覚えている下腹部、臍のさらに下を両手で軽くさすり、
「んぅ〜…!ヨシノリさんの…、お、おっきぃっすぅ〜…!もぉ腹の中みっちり…!」
コータは少し苦しげに声を漏らす。
気を良くして笑みを浮かべたヨシノリは、温かくて柔らかいコータの内側の感触を味わいながら、ぐぐっと体を倒して上に
覆いかぶさる。
「それじゃあ、慣れるまで他を責めようかな」
コリーは機嫌良く笑いながら、パンダのたっぷりとした乳に両手をつき、指の隙間から零れる柔らかな脂肪の感触を楽しみ、
揉みしだく。
親指で乳首を転がされ、コータは我慢できずに喘ぎ声を漏らす。
首元に鼻を差し入れたヨシノリは、たっぷりと肉がついた顎の下を鼻で押し上げつつ、舌先で喉を責める。
次いで少し下へ移動し、贅肉に埋没した鎖骨を探り当て、周囲の肉ごと甘く噛む。
コータがやけにヨロコぶポイント、鎖骨のやや下、胸の筋肉の上端辺りを歯先で刺激してやり、さらに下へ。
揉んでいた手を放して、たっぷりした胸にかぶりつき、乳首を舌先で弄び、強く吸う。
「あっ…、い、いぃっ…すぅ…!はぅ…、きもち、いぃ…!あっ…!んぅ〜…」
何処をつついても反応が良いコータは、終始声を上げっ放しである。
我慢しようとしながらも、ついつい声を上げてしまうコータ。ヨシノリにはその反応が嬉しい。
やがて、乳首から口を離して身を起こしたコリーは、パンダの丸々とした腹を左右から手で挟み、たふたふと軽く叩く。
「そろそろ動くぞ?」
「う…、す…」
潤んだ瞳でヨシノリを見上げ、コータは小さく頷くと、一度深呼吸してアナルをリラックスさせる。
「それじゃあ…。ふっ…」
ヨシノリが下っ腹に少し力を入れると、コータの中に埋まったままの逸物が、その反り返りを強めた。
「あっ…ひっ…!つ、突っ張る…!下っ腹が突っ張るっす!」
「ポイントは…、この辺かな?」
「んあぁっ!だ、ダメっ!そんないきなりっ!ひんっ!こ、擦れてるっ!当たってるっすそこぉ!」
前立腺を的確にミートされ、男根をヒクヒクさせながら、コータは息を荒げる。
「それじゃあ、じっくり、ゆっくり動かすからな?すぐイったらダメだぞ?」
「そ、そんな事言われ…はひっ!あっ…!は…、入って…くるぅ…!んうぅ〜っ!」
ゆっくりと引き抜かれた肉棒が、出て行った時と同じようにゆっくりと再侵入し始める。
ヨシノリがゆっくり腰を前後させると、コータはその都度押し殺した呻き声を漏らす。
その動きが少しずつ速まるにつれ、コータの声も大きさを増してゆく。
「あ、ひっ!うにぃっ!っく、んふぅ…!はぁっ!ひんっ!」
「はぁ…、はぁ…、コータ…、かわいいぞ…。もっと、声出して、良いんだからな?」
そう囁かれたコータは、首をブンブンと左右に振って、我を忘れそうになる刺激に抗う。
腸内を擦られ、前立腺を刺激されるコータの尻はだいぶ弛み、結合部からズチュッ、ズチュッと、湿った音が漏れる。
「あ、あぁああっ…!だ、だめぇ…!ヨシノリ、さん…!お、おれもう…、もうっ…!ま、待ってぇ…!」
「もうちょっと…、はぁ…、我慢…できないか?」
ヨシノリの問いかけに、コータは首を左右に振る。
「ぎ、ギブアップっすぅ…!や、やめっ…!ちょっ…、ひぎっ!ま、まま待ってぇ…!」
涙をポロポロと零して懇願され、ヨシノリは動きを止める。
「や…、やばかったっす…!ひぃ…、ふぅ…!ホントに…、い、イくトコだったっす…!」
口を大きく開け、腹を上下させて荒い息をつくコータは、ヨシノリの顔を見上げて、モジモジと訴えた。
「あ、あのぉ…、おれ、上んなっても良いっす…?」
一旦離れ、仰向けに寝転がったヨシノリの上に跨ると、
「んじゃあ、いくっすよ?」
「ん」
屹立しているその男根の上に、コータはゆっくりと尻を落としていった。
ヌプッ…プ…ツププッ…
既に弛んでいるアナルは、今度は易々とヨシノリの逸物を飲み込む。
「あ…はぁ…、は、入っ…たぁ…。じゃあ…、う、動くっすよぉ?」
口を半開きにし、トロンとした目で自分を見下ろすパンダに頷くと、
(相変わらず重いな…。まぁ、我慢我慢…)
ヨシノリは心の中で呟きながら腕を伸ばし、コータの胸に手を当てた。
丸々とした体を弾ませ、自ら貫かれるコータは、歯を食い縛り、硬く目を閉じている。
動きに合わせて弾む胸を、ヨシノリは少し乱暴に揉みしだいた。
「あっ…ふ…ぅうっ…!んぐぅ…!ど、どうっすかヨシノリさん?うっ…!」
「はぁ…、き、気持ち良い…。コータは?はぁ…、どうだ…?」
「き、キてるっすぅ、だいぶぅ…!は、腹の奥まで、ヨシノリさんのが、は、入って来てぇ…!ジンジン、痺れてぇ…!はぁっ!
な、なんかもぉ、下っ腹が張っててぇ…!グリグリがぁ…!気持ち、良いっすぅ…!」
動き始めて少しすると、もう限界が近いのか、コータはやや前のめりになり、ヨシノリの両肩に手を乗せて体を支えた。
やや前屈みになり、押し出されるようにしてせり出したコータの腹が、動きに合わせてタプンタプンと揺れ、波打つ。
柔らかな腹中で肉棒を刺激される快楽を貪りながらも、コータのその様子がなんだか可笑しくて、ヨシノリは笑みを零しな
がら、揺れる腹を両手で左右から挟む。
両側から手の平で挟みこみ、弾みをつけて腹を揺らしてやりながら、ヨシノリはコータの顔を見上げた。
目を硬く閉じ、歯を食い縛り、必死そのものの形相で快楽に耐えるコータの顔が、堪らなく愛おしく感じられた。
揺れる脂肪の感触を手の平で楽しみながら、ヨシノリはググッと腰を上げ、より深く、下から突き上げた。
「んにぁっ!あ、あひぃっ!そ、そんな、奥までぇ…!あっ!だ、だめっ!今度こそだめっ!お、おれもぉ、我慢でき…な…!」
「はぁ、はぁ、良い。良いぞ、コータ?俺も、もうそろそろ、だから…!」
「あふっ!は…、ひにぃっ!あっ、熱っ!腹の中が、熱いっすぅ…!中で、ヨシノリさんのが…、動い、てぇ…!お、おれ…
もぉ…、ひんっ!ど、どぉにか、なっちゃうっすぅっ…!」
声を上げるコータの逸物が、自分の垂れ下がった腹とヨシノリの腹の間で圧迫され、擦られながら、トプトプと、精液を吐
き出し始めた。
尽きる事などないように、止め処なくコプコプと溢れる精液で腹を汚されながら、ヨシノリは歯を食い縛って、背を反らす
ようにして腰を突き上げた。
「あぎっ!?い、いふぅっ!深い…!深いっすぅ…!そ、そんな、奥…、あっ、あ…!よ、ヨシノリさんっ…!ヨシノリさん
のがぁ…、腹の中で、ビクビク、いって、るぅ…!あ、熱ぅっ!あ…、だ、だ、めぇ…!おれ、もぉ…!ひ、ひんっ!だめっ
すぅううう!」
首を仰け反らし、ビクビクと身を震わせるコータの下で、
「お、俺も…、もう、限界…!い、イくぞコータっ!こぉ…たぁ!んぐぅうううっ!」
ヨシノリもまた、硬く目を閉じてブルルっと身を震わせた。
コータの中で一層怒張したヨシノリの男根が、白い体液を存分に吐き出す。
「あ、お、おっきくなって…!熱い…!熱いっすぅ…!ヨシノリさんの、すごく、熱…!んうぅうううっ!」
半開きにした口の端からよだれを零し、コータは脳天まで突き上がってくる快楽に翻弄される。
ドピュッ、ドピュッと、コータの中に何度も精液を注ぎ込むと、ヨシノリは最後に一度大きく身震いし、「はぁ…」と息を
吐いて脱力した。
コータもまた力尽きたのか、ヨシノリの胸の上に手を付き、はぁはぁと荒い呼吸を繰り返す。
「コータ…。ちょっと重い…」
「んうぅ〜…。もぉ、ちょっとだけ、このままでぇ…。う、動けないっすぅ…」
繋がったままで余韻を噛み締めながら、コータは薄く目を開け、最愛の恋人の顔を見つめた。
「なんかもぉ…、んぅ…、腹いっぱいっすぅ…。ヨシノリさん出し過ぎっすよぉ…」
「コータこそ…。見ろよほら?俺の腹、全体がヌルヌルにコーティングされてるから」
下を向いたコータは、自分が垂れ流した精液でベトベトになったコリーの腹部を見て、眉を八の字にして耳を伏せる。
「うっあぁ〜…。す、済んません…!」
「ははは!良いけどな」
可笑しそうに笑ったヨシノリの上で身じろぎすると、コータは尻を少し浮かせた。
「んぅっ…!…ふぅ…」
チュポンと音を立てて尻から逸物が抜けると、コータはため息をつき、そのままぐたぁっとヨシノリの上に倒れ掛かる。
「おい…!おもぉ…い…!こぉ、たぁ…!」
やわらかなコータの体で、埋もれるような圧迫を受け、抗議の声を上げるヨシノリ。
「あ。す、済んませんっすぅ…」
詫びながらモゾモゾとヨシノリの左手側にずれたパンダは、コリーの横にゴロンと転がった。
そして、ヨシノリの右肩に手をかけて、汗で少し湿った胸に頬を乗せ、縋りつくような格好に落ち着くと、
「…重いっす?」
「これぐらいならまぁ、平気」
「でへへぇ〜…!」
フサフサの被毛に覆われた胸に、存分に頬ずりする。
甘えてくるパンダの背に左腕を回し、背中を撫でてやりながら、ヨシノリはコータの頭に軽くキスをした。
時にはその体を持て余してしまう程に大きな、太った恋人だが、中身はいつまで経っても子供っぽい。
かわいい恋人だと、ヨシノリはつくづく思う。
「今年も、色々な所へ遊びに行こうな?コータ…」
「う〜っす…」
ベッドの上で抱き合ったまま、二人はしばし、行為の余韻を楽しんだ。
「まだかぁコータ?」
「うっす!ただいまぁっ!」
ヨシノリが玄関から声をかけると、コータはジャケットを羽織りつつ、ドタドタとリビングから飛び出してきた。
「お待たせっす!」
靴を履きながら笑みを浮かべたコータの前で、ヨシノリはドアを押し開け、廊下に出る。
高級マンションの最上階にあたるこのフロアは、ヨシノリとコータが暮らす部屋と、もう一人の住人が住む部屋の、たった
二組分しか部屋がない。
エレベータまで続く廊下には、ヨシノリ以外に人影は無かった。
元日の午前九時。二人の、新年最初の外出である。
まずは二人で初詣。その後は初売りを見て回ろうという計画を立てている。
「初売り行くのはいいとして、欲しい物とかあるんすか?」
廊下に出たコータは、ポケットから取り出したカードキーで施錠すると、ヨシノリに向き直って尋ねた。
「メインは雰囲気を楽しむ事かな?買う物は一つしか決まっていないが…」
「お?なんすかなんすかっ!?」
「炊飯器。今使ってる三合のじゃあ物足りないんだろう?一升炊きのやつを探して来よう」
「うはっ!やったぁ!ヨシノリさん大好きっすぅ!」
「って、こらコータ…」
ガバっと抱きついて来たコータの頭を軽く小突くと、ヨシノリはパンダの鼻先を指でギュっと押す。
「忘れたのか?外じゃ抱きつき禁止。帰って来たら、いくらでもくっついて良いから」
「うへへぇ…。う〜っす!」
笑みを交わし、二人はエレベーターに向かって歩き出す。
今年一年もまた共に歩む恋人と、その足並みを揃えて。