第三十九話 「仕切り直し」
国内最大の調停者チーム、ブルーティッシュの参戦によって、市街戦は大きく模様を変えた。
ダウド率いる第一部隊は、最短ルートで港を目指し、敵を殲滅しながら進軍。
ネネ率いる第二部隊は、住民の護衛と負傷者救出に奔走。
トシキ率いる第三部隊は、市街地に潜伏している敵をあぶり出し、始末していった。
「手加減する必要はないぞ?二年前のお礼参りだ。調停者舐めたらどうなるか…、ラグナロクの奴らに思い知らせてやれ!」
ダウドの鬨の声に応じ、戦士達の声が上がる。
まだ生き残っていた調停者達も、この援軍で息を吹き返し、一気に攻勢に出た。
「際どいタイミングでしたね…」
ヘリの窓から眼下の光景を見下ろし、ロキは呟いた。
ヘリに乗り込んでいるのは、シノブ、フェンリル、ガルム、ヨルムンガンド、そしてロキの五人。ガルムが操縦席につき、
その横にシノブが座り、残りの三人は後部席にかけている。
「ブルーティッシュの到着がもう少し早ければ、贄の数が足りなくなる所でした」
「厳しいところでしたが、間に合いましたな」
ヨルムンガンドの言葉に頷き、ロキは薄く笑った。
「いかにダウド・グラハルトの力をもってしても、もはや止めることはできません。この地に神代勇羆はなく、バベルを破壊
できる者は居ない。中に入ってしまえば手出しはできませんからね…。僅差で我々の勝利です」
「…ユウヒ…」
ロキの口から発せられたその名に、フェンリルは目を細める。
その瞳に一抹の寂しさと、懐かしむような光が瞬いた事には、乗り合わせた誰も気付いてはいなかった。
操縦桿を握るガルムは、目標地点目指してヘリを駆る。
太平洋を見渡せる公園、ユウトとタケシ、二人の想い出の場所を目指して。
近場で拝借したラグナロクの屋根の無いジープの後部座席で、ユウトは涙ぐんでいた。
見つめるその手の上には、一本の、焼け焦げた太いネジが…。
「忘れていたんだ…。決してわざとではない…」
運転席のタケシは、静かにそう言った。
「…ボクの…プラド…」
「…済まない…」
「二年かけて貯金したのに…」
「…だから…、悪かった…」
「まだ半年しか乗ってなかったのにぃ…」
膝を抱えて泣き出したユウトの肩を、隣に座ったアケミが、ポンと叩いて慰める。
運悪く、タケシが斬り墜としたヘリの一機は、ホテル脇に停めていたランドクルーザーの上に墜落し、道連れにしていた。
ミサイルの一発も当てられなかったヘリ部隊だったが、ユウトの心にはかなり大きなダメージを残していった。
「まだ、動けそうにないっスか?」
助手席のアルが振り返り、ユウトに問いかける。
いまだにユウトの体は異常に高い体温を保っていたが、ホテルを出る際に比べれば、幾分疲労が薄れたようにも見えていた。
「ずいぶん良くなってきたけど…、クールダウンはもうちょっとかかりそうだね」
今襲撃を受けたなら、ユウトを護りながら応戦しなければならない。
なんとか敵に会わずに移動したいというのが、ハンドルを握るタケシの本音であった。
ラグナロクの各部隊は、応援に駆けつけたブルーティッシュとの交戦に精一杯で、前線に兵力が集中しており、すでに制圧
した区域は監視すらされずにほぼ放置されている。
そのおかげで一行は、敵の支配域内にある現在も、手荒い歓迎を受けずに済んでいた。
この統率の悪さは、指揮系統の中枢であった空母の撃沈によるところが大きい。たった四人の即席部隊は、この戦いを左右
するほどの大戦果を上げていた。
「あ、そうだ!ちょっとリーダーと連絡とってみるっス!ジャマーも消えたんスから、混線さえしてなきゃ繋がるかも!」
アルはそう言うと、上着のポケットから携帯を取り出す。
「救護班回して貰えれば少しはマシになるはず…。交戦中でなければ良いんスけど…」
「それは助かるよ。ついでに栄養ドリンクか何かも貰えれば…、ん?」
その音に気付き、ユウトは顔を上げた。
「ヘリだ!」
ビルの隙間から見える、細長く切り取られたような空に、一機のヘリが姿を現した。
通路のようになったビル街では、ジープのエンジン音が反響していた上、立ち並ぶビルの外側からの音が入りにくかった。
そのせいで、鋭い聴覚を持つユウトもアルも、頭上を取られるまで気付く事ができなかったのだ。
見上げる青年の目が細められ、ヘリを捉える。
ホロウエッジを放って叩き落とそうと、刀を振りかぶったその瞬間、タケシの瞳は、操縦席の黒犬と、その横のシノブを映した。
僅かな躊躇いが生まれた。その、硬直したほんの短い時間で、青年は致命的な遅れを取った。
ヘリの下部に備え付けられたミサイルポットから、十二発のミサイルが放たれた。
即座に撃ち落とそうとしたタケシの、アケミの手が、状況を察して半ばで止まる。
ビルの間を通るこの道では、どう撃墜してもミサイルの爆風は逃げ場が無く、道の両端へ向かって押し寄せる。
ヘリ本体の撃墜も、ミサイルの迎撃、回避も不可能。わざわざシノブを前面席に着かせ、姿を見せたのは、それを見越して
のロキの指示だった。
「伏せろ!」
急ブレーキをかけながらタケシが叫ぶ。
アルは携帯を放り出し、倒した座席を乗り越えてユウトとアケミに覆い被さる。
最初のミサイルはジープの目の前の地面に命中して爆発し、続く11発も立て続けに誘爆する。
閃光と共に弾けた炎が、一瞬でジープを飲み込み、爆風とともに四散した炎が、ビルの谷間で出口を求めて荒れ狂った。
一刀のもとにラグナロクの兵士五人を纏めて斬り捨てると、ダウドは巨剣を一振りし、返り血を落とす。
昨夜ユウトが駆け抜けたオフィス街は、ラグナロクの大部隊とブルーティッシュの激突の場となっていた。
「…む?」
白虎は懐で携帯が振動したのを感じ、懐に手を突っ込む。
生まれた隙を逃すものかと、ナイフを手に後ろから飛び掛った兵士は、空を裂いて振るわれた縞模様の尾で顎の先端を撫で
るように叩かれ、白目を剥いて昏倒する。
「アルからか?」
尾を一振りして携帯の画面を見つめ、着信があった事を確認すると、ダウドは巨剣を片手で操り、殺戮を再開しながらアル
の携帯を呼び出す。
しかし、何度呼んでもアルの携帯には繋がらない。
「なんだ?回線が混雑してるのか?」
呟いたダウドだったが、言いようの無い不安を覚えた。
「くそ!何かあったんじゃないだろうな!?」
白虎は舌打ちすると、傍に居た部隊長の一人に声をかけた。
「外すぞ!代理で指揮を取り、予定通りに進軍しろ!」
「了解!」
ダウドは剣を振り回し、行く手を塞ぐ敵兵を斬り散らしながら、ビルとビルの隙間へ駆け込む。
路地を走りながら再び携帯を取り出し、ダウドはサブリーダーを呼び出した。
「ネネ!大至急アルの位置を探れ!何かあったかもしれん!」
『何かあったって…、あの子に!?』
「詮索は後だ!急げ!」
ネネ率いるブルーティッシュ第二部隊は、雑木林に囲まれた丘の上の公園に、救出した負傷者を集めて保護していた。
その小高い丘の上で、ネネは懐から取り出した、きらびやかなネックレスを首に巻く。
「頼むわよ、ブリージンガル…!」
胸元で輝いた感覚増強作用を持つレリックに片手で触れ、ネネは目を閉じ、意識を集中させる。
思念の波動がネネの体から放射され、拡散し、広がっていく。
波動の濃度、パターンをめまぐるしく変え、対象への透過率を変えながら、反射して返って来る思念波をソナーのように捉える。
目を閉じている彼女の脳には、現在の東護町の様子が、偵察衛星の画像よりも細かく、正確に描かれていた。
「…居た…!アル…!」
ネネは目を閉じたまま呟き、そして眉根を寄せた。
「…え…?」
ネネは再び意識を集中し、アルと同位置から感じる反応を探る。
(ユウト、タケシ…、もう一人居るわね…。でも、違う…)
さらに思念波の放出を絞り込み、ネネはその区域に存在する別の反応を捉えた。
「…!!!」
大きく目を見開き、被毛を逆立て、ネネは驚愕の表情で呟いた。
「司狼(しろう)…!?ウソでしょ…、何故貴方がここに!?」
ダウドは入り組んだ路地を駆け抜けながら、ネネの返答を聞いていた。
『港地区の方…、観光ホテルが立ち並ぶ辺りに反応を感じるわ。動いていないわね…。思念波のノイズがあり過ぎて、近くま
で行かないと正確には…』
「現地まで直接移動しろ!」
『了解…』
「…?…何かあったのか、ネネ?」
『いいえ、大した事じゃないわ。じゃあ、現地でね』
「…ああ…」
張りの無いネネの声に微かな違和感を覚えたが、疑問は後で直接聞くことにし、ダウドは通話を切った。
「くそっ!最短ルートはどっちだ…!?」
土地勘のないダウドは路地を走りながら舌打ちした。
方角だけを頼りに不慣れな路地を駆けるが、入組んだ路地や行き止まりに苦戦してなかなか進まない。
「ちぃっ!こうなったら壁をぶち抜きながら…」
白虎は苛立たしげに舌打ちすると、背にした巨剣に手をかけ、行き止まりに聳える低いビルの壁を、駆け寄りながら見据える。
その時、白虎は奇妙な声を聞き、急ブレーキをかけた。
素早く振り返った視線の先、先ほど曲がってきた路地の角に、見覚えのある女性が立っていた。
病的なまでに細い体に纏った白いワンピース。
右手には光沢のある赤い革のバンド。
長い闘病生活の内に色素を失った白い髪。
血管が透けるほどに白い肌。
頬の落ちた青白いその顔は、それでもなお美しかった。
「…マユミ…!?」
この場に、いや、この世に存在するはずの無い、古い知人の姿を前に、ダウドは思わず声を上げていた。
白い女性は微笑を残すと、すぅっと消える。
何度か瞬きしたダウドは、錯覚だったのだと自分を納得させる。
感覚が見せた幻…。覚えのある気配を感じたような気がして、脳裏に姿を描き出してしまったのだと。
そして、視覚が正しい情報を伝えると同時に、幻は消えてしまったのだと。
彼の知る黒伏真由美という女性は、二年前に他界しており、もうこの世には居ない。
…そのはずなのだが、その記憶と精神を宿した存在は、佇むダウドの顔を苛立たしげに見上げ、な〜お!と鳴いた。
一時、過去の思い出を振り返ったダウドは、幻が消えたその足元に、一匹の白猫がちょこんと座っているのに気付き、眉を
潜めて歩み寄った。
「…この猫…、どこかで…」
ダウドは白猫の赤い首輪に気付き、前回この町を訪れた時の事件の事を思い出す。
「お前、タケシにくっついてた猫だな?」
にゃ〜、と鳴くと、マユミはダウドに背を向け、尻尾をくねらせながら首だけ振り返った。「ついて来い」そう言われてい
るような気がして、ダウドはマユミに尋ねる。
「タケシの居場所、判るのか!?」
にゃおぉ〜、と鳴いて応じると、白猫はタッと走り出す。
ダウドもその後を追って、白猫の姿を見失わないよう、注意して駆け出した。
猫をあてにするなど馬鹿げている。
頭ではそうも思ったが、ダウトは本能的に、この白猫が案内を買って出ている事を認めていた。
「封印点の確保は、完了したようですね」
着陸したヘリから降り立ったロキは、回転を収めつつあるヘリのローターがかき乱す風に髪をなぶらせ、満足気に頷いた。
公園内の広大な芝生広場。その外周を、ラグナロクの兵が取り囲んでいた。
反感を抱いてはいても、面と向かってロキに逆らう部隊長は居ないらしい。その事を見て取り、緊張を緩めたフェンリルは、
傍らのシノブを見遣る。
「不破武士が心配か?」
浮かない表情を浮かべていたシノブは、銀狼から顔を背けた。
「…案ずるな。幸か不幸か…、アレも足止めにしかならなかった」
「…え?」
「あの程度で殺せるならば、ロキもあの男を危険視はされん。…つくづく、恐ろしい男だ…」
呟いたフェンリルの口元が、微かに歪んで笑みを湛える。
シノブはその横顔を見上げ、それから小さく頷いた。
タケシへの恋慕の情が、微かな迷いが、まだシノブの心を捕らえて離さない。
その事を、不二沙門の頼みにより、シノブの守護を担っているフェンリルだけは見抜いていた。
走り出して数分後、白猫に追走して目的地を目指していた白虎は、車の音を耳にし、走りながら首を巡らせた。
「ダウド!」
荷台付きのジープの窓から顔を覗かせたネネが、ダウドを呼び止める。
「ネネ!さすがに早いな!」
助手席のネネが、追いついたダウドに車を寄せさせると、白虎はジープの荷台の縁を掴み、ひらりと飛び乗る。
「お前も来い!この辺りはまだ危険だ!」
白虎が呼びかけると、マユミは走りながらジープに寄り、身軽に荷台へ飛び上がる。
ダウドは飛び上がった猫の体を両手でキャッチし、落ちないようにしっかりと抱きかかえた。
白虎に抱き止められた白猫を振り返りながら、ネネはまるで、白猫が言葉の意味を察したように見えて首を傾げた。
「いいぞ!遠慮なく飛ばせ!」
ダウドは荷台で立ち上がり、運転席の屋根を叩いて声を張り上げた。
「ここか…」
炎の収まったビル街で、周囲を見回しながら白虎は呟く。
その傍ら、ジープのボンネットの上で、マユミは鼻をひくつかせ、焦げ臭い空気に目を細めている。
崩れ落ちたビルの壁面。くすぶり続ける瓦礫の山。一面が焼け焦げたそこは、ついさっきまでタケシ達を乗せたジープが走っ
ていた道だった。
ダウドの隣に並んだネネが、形の良い眉をしかめる。
「ひどいわね…、でも…」
ネネは目を閉じ、天を仰いだ。そして意識を外へと開く。
ダウドはそんなネネを横目に、周囲のメンバーに瓦礫の撤去準備をするよう指示を出す。
「見つけたわ。まだ生きている!」
ネネは目を開け、うずたかく積み重なった瓦礫の一角を指さした。
「四人居るわ。そこよ」
「よし、瓦礫をどけて救助しろ!慎重にな!」
ダウドの指示を受け、瓦礫の撤去作業が始まる。ネネはダウドの傍らに寄り添い、そっと耳打ちした。
「…今、海岸の方でヘリが着陸したわ…、たぶん彼らを攻撃したヘリでしょうけど、場所は、臨海公園前よ」
「乗っている連中はどんな様子だ?」
「全部で五人、全員が手練れね。奇妙な反応が一人居るわね、恐らく能力者だわ。残る二人は私やトシキと同レベル。最後の
二人は…ばけものね」
ネネは一度言葉を切り、ぼそりと呟いた。
「ばけものの片方は、あの術士よ…」
「…ロキか…」
これまでにも何度か相対した、因縁浅からぬ相手の名に、白虎は露骨に顔を顰めた。
「もう一人は?」
「私の知っている相手だわ。貴方とは面識が無い相手ね」
ネネは悲しげに目を伏せた。
「ふむ…。で、奇妙な反応の一人というのは、どんな感じにだ?」
「…それが、どうにもおかしいの…。この奇妙な感覚…、タケシ以外から感じるのは初めてよ…」
「例の、レリックに似た反応、ってヤツか…」
ダウドは何かを考え込むように腕組みをする。
超広域捜査能力。それが神将の血筋である神崎家の者が、代々宿す能力であった。
上位調停者としてのセレスティアルゲイザーの異名は、天を見上げ、その能力を行使する彼女の姿からつけられたものである。
捜査能力は正確にして精密。レリック、ブリージンガルで増強することで、最大で半径10キロ以内の全ての生命体、レリッ
ク、運動物、エネルギー反応を捉え、把握できる。この能力は、調べたい相手の力量までも、ある程度把握する事ができた。
「いずれも手強い相手よ」
「それでも勝てる」
警戒を促すネネの言葉に、驕りでも、余裕でも、強がりでもなく、ダウドは事実としてそう答える。
ネネが知る限り、この男に土をつけたのは、ネネの古馴染みでもあるユウトの兄、神代勇羆ただ一人しか存在しない。
同様に、ユウヒに膝をつかせる事ができた者も、ダウド以外に見た事がない。
雄々しく、猛々しく、力と自信に満ち溢れた恋人が、ネネには頼もしく、そして誇らしかった。
やがて、瓦礫の撤去にあたっていた者達の間で、どよめきが起こった。
二人は一度そちらへ視線を向け、顔を見合わせてから歩き出す。
「これは…」
瓦礫の下の路面に、ポッカリと、筒状の穴が空いていた。
3メートルほどの深さを持つ穴の底で、四人の人影が折り重なっていた。
差し込む光が頬にあたり、青年は目を開ける。
「よう。無事か?」
穴の縁から覗き込んだ白虎が問うと、タケシはその顔を見上げて安堵の息を漏らした。
「なんとかな。…が、炎で酸素が焼かれ、息苦しくなっていたところだ。助かった」
ミサイルがもたらす炎が治まるまで、自分を含めた四人を護り、空間歪曲の障壁を維持するのは不可能。
そう判断したタケシは、ミサイルが炸裂した際、瞬間的に障壁を張ると同時に、真下に向かって筒状の空間の断層を生み出した。
これで炎の侵入を防ぐと同時に、ジープの床ごと路面に垂直に穴を開け、その中に四人で落ち込んだのである。
爆風は穴の中までは入ってこず、奇跡的に全員かすり傷と軽い打撲程度の軽傷で済んでいる。
身動きがままならなかったユウトと、肉体的には普通の少女であるアケミも、咄嗟にアルが抱きかかえ、クッションになっ
たおかげで、衝撃で気絶はしているものの、目だった怪我はしていない。
もっとも、二人を抱えていて受身もとれなかったアル自身は、穴に落ち込んだ際に壁面に顔から激突し、盛大に噴き出した
鼻血のせいで顔面を真っ赤に染めていたが。
見下ろすダウドの手を借り、タケシが這い昇ると、ブルーティッシュのメンバーの手により、アルが、アケミが、そしてユ
ウトが次々と救出された。
三人ともまだ気を失ってはいたが、救護班が診察したところ、命に別状はないとの事だった。
「助けて貰っておいて済まないが、すぐに行かなければならない」
タケシは着衣の乱れを直し、ダウドに一礼する。
「まぁ待て。膝が笑っているぞ?」
指摘されて初めて、タケシは体を覆う脱力感に気付いた。
ユウトが本調子ではないので、ろくに休みも取らずに見張りをしていたのが効いていた。
脳を休めないままの能力の連続行使により、疲労がかなり蓄積されている。
「貴方達を攻撃したヘリなら、海岸付近で降りたわ。後退したラグナロクの部隊もそこに集結しているみたいよ。それに、こ
こからだとまだ距離があるから、私達の車両に乗って、一緒に行きましょう」
ダウドとネネは、下がれとは言わなかった。
二年前のマーシャルローを経験し、大事なものを失ったタケシとユウトが、ラグナロクを前にして大人しく引き下がれはし
ない事を、二人とも良く解っている。
しばし考え込んだ後、タケシは頷いた。
「…済まないが、言葉に甘えさせて貰うとしよう…」
そして、救護車に運び込まれるユウトの姿を目で追いながら、微かな安堵を滲ませて呟いた。
「…散々無理をさせてしまったな、ユウト…。…一息入れて、仕切り直しだな…」