Risky

 目と眉の細いアジア系の男を、少年と巨漢は見つめている。

(誰も追っかけてこねぇと思ってたけど、つけられてたのか…!もしかしたら、オマワリさんからオラと家の事なんかを聞い

てたのかも…)

 交番からここまでそれなりに距離がある。直接ここに結びつけられたとしたら、尾行されていたか、警官から情報を得てい

た線が濃い。

 だが、居場所が知られても、目の前に男が現れても、カムタの気持ちは揺らがない。

 どうするべきかは瞬時に決まった。

 ルディオがどういう存在なのかは、もうどうでもいい。生物兵器と聞いてもピンと来ないし、どういう物かも解らない。た

だ、昨夜一度見た別人のような巨漢と、自分の作業を手伝ってくれたのんびりしたセントバーナードは、どうしても結びつか

ない。

 だから、思った。

 ルディオが本当に、警官が言ったような存在だったとしても、そう扱われるべきではない、と。

(連れてなんか行かせねぇ!なんとかしてアンチャンを逃がしてやる!)

 熱されたフライパンを投げつけて時間を稼ごうと考えたカムタは、

「…いや、本当に失礼…」

 男が再び口を開いた瞬間に、フライパンを持つ腕の肘を少し曲げて、投擲に備え…。

「まさか家があるとは思わず、…いや、この言い方も失礼ですね、とにかくその、海岸方向に抜けられる道だと思いまして…」

 アジア系の男がペコペコと、繰り返し頭を下げ始めたので、「ほへ?」と間の抜けた声を漏らした。

(参ったな…。民家の入り口だったのか…)

 リスキーは呆れていた。視界が開けて傍に家が見えるまで、民家敷地の入口だと気付かずに入ってきてしまった自分自身に。

 協力者を喪った今、悠長な真似はしていられない。危険を覚悟で全員が個別に動き、夜通し捜索を続けている。リスキー自

身もそうだったが、いよいよ疲れ、注意力が鈍っていた。普段なら木々の隙間にチラリと見える民家に、これほど接近するま

で気付かないなどという失敗はしない。

「朝食のお邪魔をしてしまいましたね、本当に申し訳ない。すぐに出て行きますから…」

 カムタはポカンとしたまま、返事もできなかった。

 ルディオの方は、しばしアジア系の男を見つめていたものの、記憶を刺激する相手ではなかったらしく、敷地の主である少

年へ、判断を委ねるように目を向けた。

「…いや、いいけどさ…」

 やがてカムタは、拍子抜けと安堵が半々の声を漏らした。

(環境保護ナントカのヒト…だよな?あれ?アンチャンに興味ねぇのか?…いや、油断させて不意打ちする気なんじゃ…?)

 しかしリスキーは、本当に引き返して行こうとしていた。軽く頭を振って、やれやれ、と肩を竦めながら。

「あ、あ~…、アンチャン?」

 思わず呼びかけてしまった少年を、リスキーが振り向く。同時に、そう呼ばれるのが習慣になってしまったルディオまで、

自分が呼ばれたのかと考えてカムタを注視した。

「海に行くんだったら、引き返すよりもウチを抜けてった方が早ぇぞ」

「え?いや、お邪魔でしょう」

 リスキーは遠慮しようとしたが、カムタは「いいって!」と笑いかけた。

「そっちの、ちょっと太い方の道から出たら、もう海見えっから」

「しかし…、お父さんやお母さんが、知らない相手を入れるなとおっしゃるのでは…」

 迂回する程度なんでもない、と、断ろうとしたリスキーは、

「言われねぇって。オラにはどっちも居ねぇから」

 気の良い少年がさらりと口にした言葉で、口を閉じた。

「…これは…、済みません。余計な事を言ってしまいましたね…」

「あ、あーっ!気にすんなって!」

 深々と頭を下げるリスキーに、少年は慌ててしまう。育った環境から馴染がなかったので、こうして慇懃に接される事には

慣れていない。

「平気だからさ、アンチャンも居るし!」

 取り繕うように言ってから、勝手に家族扱いしてしまったな、とルディオを見遣ったカムタは、

「そうですか…。お兄さんも、弟さんとふたりでご苦労なさっておいででしょう」

 リスキーの発言に「ん?」と反応したセントバーナードが、それ、おれのこと?とでも言いたげに自分の顔を指差して首を

傾げたので、変な事を言い出さないかと焦った。しかし…。

「逆だなぁ。苦労してるのはカムタの方で、おれは世話になりっぱなしだぁ」

 ルディオの返答は、当たり障りのない、それでいて一切の偽りがない物だった。

「そうですか…。しっかりした弟さんなのですね」

 セントバーナードの発言を、弟を立てた謙遜と受け取ったリスキーは、微笑みながら会釈した。

「では、お言葉に甘えて通り抜けさせて頂きます。有り難うございます坊ちゃん、お兄さん」

 顔を上げ、庭を通り抜けるリスキーに、気を許したカムタは訊ねてみた。

「アンチャン、カンコーか?」

「ええ、半分は。もう半分は仕事ですね」

 リスキーはそう答えて、「環境保護団体の一員なんですよ、私」と付け加えた。

「ここは綺麗な、素晴らしい島ですね。変な物が流れ着いて汚れたりしないよう、願って止みません。…では、失礼しました。

ごゆっくり…」

 表の道への出口に立ったところで、リスキーはふたりに向き直り、丁寧にお辞儀した。

(両親が居ない、人間と獣人の兄弟ふたり、か…)

 背を向けたリスキーの顔からは、社交用の笑みは消えていた。

(どこの国にでも、居るものだな…)

 そのまま立ち去るアジア系の若者の、後ろ姿が見えなくなってから、

「…焦った…。けど、ホッとした…!」

 カムタは安堵のため息を漏らした。

「…ん?ちょっと待てよ…?環境ナントカって…、アンチャンを探してた訳じゃねぇのか…!?アンチャン、今のヒトに見覚

えなかったか!?」

 少年が顔を向けると、ルディオは首を傾げる。「知らない男だ、…と思うなぁ」と。

「環境ナントカって、ホントの環境ナントカなのか!?ホンモノの環境ナントカ!?アンチャンと関係ねぇのか!?」

「かもしれない。でもわからない」

「…で、でも待てよ?オマワリさんは…」

 警官は、ルディオの事を生物兵器と言った。回収に来た者に渡さなければならない、と…。

「…別に居んのか?アンチャンを探してるヤツは…」

「カムタ。タレが…」

 少年の思考を遮ったのは、セントバーナードの声。

「ん?あ、あああっ!」

 カムタは手元を見て声を上げた。握ったまま、うっかり傾けてしまったフライパンから、肉汁とタレが毀れてサンダルにか

かっていた。

「あっづぅううううう!」

 フライパンを放り出して跳び上がり、サンダルを脱ぎ捨てたカムタは、しゃがみ込んで足の甲を拭う。

「カムタ。水」

 テーブルから水差しを取ったルディオは、少年の脇に跪き、清潔な飲料水を足の甲にかけてやった。

 幸い火傷には至らなかったが…。

「うえ…!手も足もサンダルもベタベタだぁ…!つくとなかなか落ちねぇんだよなこのタレ…」

 タレは肉汁とからみあって脂っぽい。水だけでは簡単に落ちないので、調理を再開する前にしっかり手を洗わなければなら

ない。

「………」

 少年は、突然無言になった。

 タレまみれの手をじっと見て、それから巨漢を見て、その水差しを持つ大きな手に視線を向け…。

「…アンチャンじゃねぇ…」

 カムタは呟く。

 引っかかっていた物が、思考を先へ進ませてくれなかった物が、何だったのか判った。

「アンチャン!ちょっと手ぇ見して!」

「ん?」

 ルディオの手を掴み、マジマジと見つめ、反対の手を掴み、じっくり見つめ、それから巨漢の胸元大部分を占め、太鼓腹を

覆っている、柔らかな白い被毛を確認して、カムタは言った。

「アンチャンじゃねぇ…!オマワリさんを殺したのは、アンチャンじゃねぇんだ…!そうでなけりゃおかしい!」

「…んん?」

 首を傾げるルディオに、カムタは自分の広げた両手を見せる。タレでベタベタの手を。

「だってそうだろ!?オマワリさんは血まみれだった!喉からすげぇ血ぃ出てた!周りもそうだった!でもアンチャンは…!」

「………あ」

 セントバーナードは気付く。気付いて、自分の両手を見る。

 あれからずっと手から目を離さなかった。自分の行動にも注意を払っていた。だから、これだけは断言できる。

「おれは…、返り血を落としたり、してない…」

「そうだよ!」

 警官の喉から派手に飛び散っていた血は、丸腰だったルディオが殺したのならば、その体にも付着しているはずだった。

「あそこから逃げて、真っ直ぐ帰ってきて、そのまんまだ!洗ったりしてねぇ!アンチャンが覚えてなくたって、オラが行く

までに洗えてたわけもねぇ!あそこには水場がねぇし、鼻血とかは服につくと、水で洗ったぐれぇじゃ落ちねぇ!アンチャン

の白い毛だってたぶんそうだろ!?あんだけの血は、夕べの雨なんかじゃ綺麗になるはずねぇし、放っといて勝手に消えるわ

けねぇ!」

 ルディオは覚えていない。カムタは見ていない。だが、警官は死んでいた。状況からは、あの場に居たルディオが殺害した

ように思えるが、返り血を全く浴びていないのは不自然過ぎる。

 自分が見た物だけで判断し、答えを出す事は出来ない。そう考えたカムタはここで初めて、自分が見て聞いた全てを、整理

しながらルディオに語った。

「アンチャンはオマワリさんぶっ飛ばした。で、それ追っかけてった。でも…、オマワリさんが死んだトコはオラも見てねぇ

し、アンチャンも憶えてねぇ…。オマワリさんはヨロヨロだったけど、アンチャンもゆっくり追っかけてった。…でも、殺そ

うとして追っかけてくなら、逃げらんねぇように急いで追っかけるだろ?そうしなかった…」

 カムタはふと思った。あの時、警官を追っていくその背中は急いでいるように見えなかった。どちらかと言えば、もう危険

が無いかどうか慎重に確認していたような…。遠くまで離れるかどうかを見届けているような…。

「そうだ…。あんなスピードで動けんだから、その気だったらすぐまた張っ倒しに行けた…。あん時はオマワリさんを追っ払

えればそれでいいと思ってたんじゃねぇのか…?」

「わからない」

「でも、実際オマワリさんは死んでた。オラが見てねぇ、で、アンチャンも覚えてねぇ、オラ達ふたりとも何があったか知ら

ねぇ時間が、ほんのちょっとだけある…」

 ふたりが押さえていない、空白の時間が存在する。ルディオが殺害していないとしたら、警官はその空白の時間に…。

「オマワリさんは、アンチャンとオラがあそこに行く前に、別の誰かに殺されたんだ!」

 安堵すると同時に寒気を覚えて、カムタは肥えた体をブルルッと揺すった。

 あんな凄惨な殺し方をする何かが、正体不明の何かが、この島に居る…。それがきっと、警官が語った「生物兵器」。

「…そうか…」

 ルディオは手を見ながら呟いた。

 自分に自信がない。信用できないという意味で。しかし…。

(ひとをああいう風に殺せる、危ない何かが居るなら…、カムタがひとりになるのは…)

 こんな自分でも、一緒に居た方がまだマシなのかもしれないと、思えてきた。

「あ。そういや肉…」

 カムタの声で顔を上げた巨漢は、少年が直前まで持っていたフライパンの事を思い出した。

 そして同じ方向に顔を向けたふたりは…。

『…あ』

 地面にうつ伏せになったフライパンと、その周囲に散乱した土まみれの鶏肉を、四つの目が映した。

「…洗って食おう」

「…ん…」





 一方その頃、カムタの家とは逆方向の、島の西側。群生して茂ったパンダナスの木立の中を、

「はっ!はっ!はっ…!」

 体格がいい白人が、汗だくで駆け抜けていた。

 時折振り返る男の右腕は、肩の筋肉が球状に盛り上がったすぐ下で、骨が見えるほど深く抉れている。吹き出る汗は運動し

たせいでも、気温が高いせいでもない。痛みを堪える脂汗である。

 しかし男は、その深い傷を止血もせず、後ろを気にしながら走っている。

(リスキーに…!リスキーに連絡を…!)

 見つけた。ついに。しかし男は、既に戦えるだけの余力がない。

 不意を突かれ、先手を取られた。かろうじて致命傷を避けたものの、利き腕をやられた。

(どこかに身を隠して、電話を…!)

 逃げる男のその後ろ、かなり距離がある茂みの中で、キシキシ…、キシキシ…、と、何かが擦れるような音が鳴っていた。





(親のない、人間と獣人の兄弟…、か…)

 海を見渡せる土の道を、リスキーは行ったり来たりしていた。

 現場を再確認しようと、最初に死者が出た磯へ向かっていたのだが、考え事に没頭して、足が勝手にぶらつき出していた。

 集中できず、余計な事が頭に浮かぶ。

 疲れているのかと額に手を当て、潮風に弄られ額にかかった髪を後ろに撫でつけたリスキーは、十年以上も昔の事を思い出

していた。

 今の名になる前…、まだ、親から貰った名を名乗っていた頃の事を。



 竹が多い、山深い集落に、リスキーは生まれた。

 崖と谷、竹林と高い岩山、霧と雲、そんな水墨画のような景色が広がる場所…。そこが、幼いリスキーにとっての世界全て

だった。

 家族は彼と父母、そしてひとつ下の弟。リスキーは母に似て人間だったが、弟は父の血が濃く現れて、獣人だった。両親は

姿が違うふたりを同様に可愛がった。兄弟は種が違っても仲が良かった。

 リスキーの弟は、顔こそ厳めしく体も大きい子だったが、大人しい気質で、近所の子にからかわれて泣かされもした。獣人

の自分が本気で喧嘩に応じたら勝てるだろうと、判っていたはずなのに、それでも一切反撃しようとはしない、気の優しい子

供だった。非常に物覚えがよく、外で遊ぶより読書が好きで、集落の診療所の先生に懐き、大きくなったら医者になって皆を

助けたいと言っていた。

 どちらかと言えば、弟よりも小柄だったリスキーの方がやんちゃで、親をハラハラさせていた。弟が苛められようものなら、

すぐに飛んで行って相手を殴り倒し、弟に謝らせた。か細く見える子供だったが、その実、闘争心と肝の太さは人一倍あった。

 幸せな子供時代だったと、今でも思う。裕福ではなかったが、それでも必要な物は足りていた。…たった一つを除いて…。



 両親が亡くなったのは、リスキーが十五になる年の事だった。

 谷深い田舎で、渓谷の底で河の渡し守をしていた両親は、大地震で起こった土砂崩れに巻き込まれ、一緒に逝ってしまった。

 残された兄弟は、持ち家こそあったが、蓄えもなかった。集落の住民達も地震によって暮らしに大きな被害を受け、兄弟を

助けるどころか自分達の事で精いっぱいだった。

 家はある。それだけを生活の支えにし、リスキーは働く場所を探した。

 自分が外で稼ぎ、賢い弟はちゃんと学校を出て、立派な医者になる。それが、少年だったリスキーが思い描いた未来だった。

 苦労はしたが、集落住まいの家族のツテで、働く先は見つかった。

 これで弟は勉強を続けられる、町の学校に入れてやれる、田舎の遅れた勉学ではなく、都会の子供達と同じ勉強をさせてや

れる。そしていつか、医者になる事ができる…。

 そう喜んだリスキーだったが、しかし、その時に初めて知った。

 裕福でなくとも、必要な物は足りている。そんな生活だった。

 だが、たった一つ、足りない物があった。

 分け隔てなく育てられ、仲も良かった兄弟は、種や性格以外にも違う事が、実はあった。

 弟には、戸籍が無かった。国の方針で二子目を持つことが許されなかったので。田舎ではそれで困る事もあまり無かったた

め、入学手続きに戸籍事項が必要となるまでは、リスキーも弟も知らなかった。

 しかし、一度は困り果てたリスキーに、弟を医者にしてやれる道が開けた。それが幸か不幸かは別として。

 人身売買の組織。

 そんな物が、その国ではいくつも、それこそ至る所に根を張っていた。

 寒村の口減らしに…、無戸籍児の行き着く先に…、そんな暗部の需要が、そういった団体を支えていた。

 公然と昼日中に人買いが来る寒村で待ち構え、少年は自分を売った。大切な弟の為に。

 蛇の道は蛇。人身売買を生業とする組織は、リスキーが頼んだとおり、戸籍の問題もクリアしてくれた。

 そうして彼は名を失い、弟に戸籍と、自分を売ってできた金を残した。

 新たな名は、買い取られた先のONCで与えられた。顔も整形して面影は無くなった。偽装のための戸籍と国籍は、ONC

が本来の物とは縁もゆかりもない物を用意した。

 弟には、働く先が見つかったと嘘をついて別れ、集落を出てから今日まで、連絡は取っていない。医師の身内に、犯罪者な

ど不要だから。

 ホンコン生まれのリスキー・ウォン。それが、今の彼を表す記号である。



(まったく困ったものだ…。感傷に浸っている場合ではないのに…)

 水平線から離れて、すっかり浮き上がった太陽を見遣り、リスキーはため息をついた。

(あれからまだ、一日か…)

 たった一日。たった一日の間に部下がふたり死に、警官が死んだ。何とも濃過ぎる一日は、同じ濃さの疲労を体に埋め込ん

でいる。

 浜沿いの道まで行き、また岩場まで戻り、仲間の死体を見つけた磯を見下ろす崖の上まで来たところで、

(…ん?あれは…、さっきの兄弟か?)

 岩場を移動してゆく少年とセントバーナードに気付き、足を止めた。

 昨日、仲間の死体が浮いていた場所に近付く両者を、リスキーは注意深く見つめていたが…。

(いや、やはり関係ないか…)

 ふたりは何の反応も見せず、話をしながらその場所を通り過ぎて、リスキーは取り越し苦労だったかと苦笑いする。

(考えてみれば、警官は独り者が見つけてきた、というような話をしていた。あの兄弟は無関係だろう)

 少年が岩の間で屈み、潮だまりから小さな箱状の網を取り上げ、かかっていた小魚を回収する。セントバーナードはすぐ傍

でそれを見守っている。

 仲睦まじい兄弟の、長閑で平和な朝の一幕…。そう捉えるリスキーは、声も届かず顔も良く見えないので、ふたりが何を話

しているのかという事までは気付いていない。



「…つまり、オマワリさんが言ったセーブツヘーキってのが、オマワリさんを殺したんだ。で、それを連れ戻しに来てる連中

が居るんだな。オラがここで出くわしたのが、その連れ戻しに来た方なんだろ、たぶん」

 カムタがそう推測を述べると、網から出された魚を受け取り、ビチビチ暴れるそれを海水を少し入れた袋に納めながら、ル

ディオは視線を少し上に向けて考え、口を開く。

「連れに来た側が、きちんと連れて行ってくれるといいなぁ。ソレを」

「だな。早ぇトコ帰ってくれればいいんだけど…。で、今度はアンチャンの事だ。結局セーブツヘーキはベツジンなんだから、

アンチャンの事は判んねぇまんまだ」

「そうだなぁ」

「そっちが落ち着かねぇと、アンチャンの事ケーサツに教えらんねぇよな。またあんな目に遭ったらヤだし…。アンチャンは

もう何日かウチで寝泊まりしとこうな。不便だろうけど我慢だぞ」

「不便はないなぁ」

「そっか?でも、寝床はなんとかしねぇとな。居間のソファーじゃ寝れねぇみてぇだし…」

「いや、あれは寝れなかったんじゃなく寝なかっ…」

「よし、トーチャンのベッド使うか。部屋も綺麗にしてあっから、軽く掃除するだけでオッケーだろ。ちょっと島の様子見て

回ってから部屋掃除な!オマワリさんの方もどんな事になってっか判んねぇし…、もう誰か、死体見つけたかな…」

 言葉を切り、一度黙り込んだカムタは、ふと「オマワリさんも勘違いしてたけど」

 と巨漢の顔を見上げて、考え込む。

「アンチャンと、そのセーブツヘーキっての、顔とか似てんのかな?」

「わからない」

「だよなぁ…。でもタダモノじゃねぇよなアンチャンは。鉄砲持ったオマワリさんやっつけちまうんだから。…あ」

 カムタは沖を見遣る。昨日見つけた金属の筒を、また改めて調べてみなければならない。

「魚上げちまったし、後でもっかい来るか…」

「ん?」

「変なの見つけたんだ。でも後でいいや」

 引き返そうと、波打ち際から岩の上へ戻ったカムタは、「あ。さっきのひと」と、崖上のリスキーに気付いて手を振る。

 それにつられてルディオも手を振り、アジア系の若者も手を振り返す。

 岩場から上の道へ戻ったカムタは、家へ引き返す道の途中に立つリスキーに話しかけられた。

「ここの岩場で、魚が獲れるんですね?」

「うん。オラの仕事だ!アンタの仕事は環境ナントカだよな?何するヒトなんだ?環境ナントカって」

「環境を汚すような、危ない漂着物もありますからね。そういう物に注意を払うのが仕事です」

 例えば、生物兵器など。…とは言わず、不法投棄された有害な薬剤や油が漂着し、環境を汚染したり、知らずに弄った子供

が危険な状態になったりする事もあると、リスキーは説明する。マニュアルにある説明なので、口はなめらかで淀みがない。

「じゃあ、環境ナントカは正義の味方か」

 真面目くさった顔でウンウン頷くカムタに、本当の事が言えるはずもないリスキーは苦笑い。

(いいや、本当は悪党さ。君達をこうして煙に巻く、嘘つきの大悪人なんだよ…)

 そしてリスキーは、「毎日ご兄弟で魚獲りを?」と、当たり障りのない話題に持って行く。そして、

「兄弟じゃないなぁ」

 ルディオの返答で「おや?」と眉根を寄せた。

「アンチャンはニイチャンじゃねぇよ。いとこなんだ」

 巨漢が解っていないと感じ、変な事を言われる前に、と慌てて付け加えたカムタは、

「そう、いとこ」

 ルディオが頷くのを見て、何だ判っていたのか、とホッとする。

「そうでしたか。でも、それこそ兄弟のように仲がいいですね」

「まぁな!」

 胸を張って嬉しそうに応じたカムタは…。

「あ、オラはカムタ。アンチャンは…」

「ルディオ」

 自己紹介する少年と、後を引き取って名乗る巨漢に、

「リスキーです。リスキー・ウォン」

 リスキーも名を告げる。今ではもう偽名を名乗っているという意識はない。弟に譲り渡した名は、もう自分の物ではないと

思っている。

「リスキーはトーヨージンだな?チャイニーズか?ジャパニーズか?違う国のヒトか?」

「四分の三がチャイニーズで、四分の一はジャパニーズです」

 これも本当の事だった。リスキーの母方の祖父は、戦時中に大陸に渡ってそのまま現地に残った、旧日本軍の兵士だった。

「へー!オラと同じだな!オラのカーチャンのジーチャンはアメリカンなんだってさ!」

 少し親近感が湧いたカムタは、「ちょっと失礼…」とリスキーが取り出した携帯を、もの珍しそうに見つめた。

「…どうした?」

 声を潜めて通話に応じたリスキーは、耳元で鳴ったガシャンという音に軽く顔を顰め…。





「くそ…。くそ…!もう、少しで…!」

 うつ伏せに倒れ伏した男の、伸ばされた左手から1メートルほど先に、携帯が転がっている。

 男は背中や胸に傷を負い、出血は既に致死量に達していた。

 発信できたまでは良かったが、通話は無理だった。リスキーに説明する前に、携帯は手から飛んでしまった。

 何とか這いずって携帯を取ろうとする男を、後ろから、感情を窺わせない眼が見下ろす。

 その腕が、鋭い爪を備えた腕が、煌めく硬質な腕が、男の背に伸びて…。





「………」

 リスキーは通話を切った。カムタに向けるその顔は、微笑を浮かべた社交用の仮面。

「電波が悪いようです。移動してかけ直さないと…」

「オラ知ってるぞ、それトランシーバーだな?消防団のひとたちも使ってる!ひとりで持ってるなんて、アンタ金持ちのヒト

なんだな!」

 目をキラキラさせて珍しい機械を見つめるカムタに、リスキーは説明せず会釈した。

「では、私はこれで」

「うん!いい日だと良いな!」

 カムタの言葉とポーズを真似て、ルディオも「いい日だと良いなぁ」と片手を上げた。

「ありがとうございます。では…」

 そしてリスキーはふたりから離れ、携帯端末を操作し、先ほどの発信を行なった端末の位置情報を確認する。

(ジョルド…、受け取ったぞ…)

 リスキーは聞いていた。

 持ち主の手から離れた携帯へ叫ばれた、仲間の最後の言葉を…。

「リスキー!「蟻」だ!後を頼…」

 その叫びを最後に、声は途絶えた。

 うめき声すら、聞こえなかった。

 リスキーは手早く端末を操作し、部下全員に位置情報を送信する。

 そして、少年とセントバーナードが居た辺りから見えなくなる位置で…、

(後は任せろ。そのための私だ…!)

 猫科の肉食獣のような前傾姿勢で、しなやかに力強く駆け出した。





 魚を焼き、塩で粗野に味付けし、モリモリ食べて足りなかった朝食を補い、英気を養った少年と巨漢は、

「よし、調べに行こう!」

「ん」

 同時に腰を上げ、

「片付けてからな!」

「ん」

 食器類の片付けに入る。

 カムタは食事の最中に、磯で見つけた金属柱のような物について、巨漢に説明した。

 もしかしたらルディオに関係する物なのかもしれないし、ひょっとしたら生物兵器に関係のある物なのかもしれない。調べ

てみれば何か判るかもしれないし、判らないかもしれない。

 「かもしれない」だらけではあったが、他に手を付けられる物がない。さしあたってはあの見慣れない物を確認してみるべ

きだろうと、カムタと巨漢の意見は一致した。警官の死体がどうなっているのか、交番がどうなっているのか、島の状況はど

うなのか、確認しなければいけない事はたくさんあったが、まずは海中の奇妙な物を確認する事を優先した。

 そして、のんびり片付けながら腹がこなれるのを待ち、それから磯へと移動したふたりは、カムタが示した位置に近い岩の

上に立つ。

「アンチャン、泳げるか?」

「たぶん」

「ゴーグル一個しかねぇんだ。オラが先に様子見てくるから、交代で潜るか?」

「一緒に居る」

「んじゃ一緒に行こう」

 そう言い交わした後、少年は岩から跳んで海中に没し、巨漢はザブザブと歩いて海の中へ。

 流れは穏やかで視界は広い。カムタは昨日と同じ位置に沈んだままの金属筒をすぐに見つけ、巧みな泳ぎで近付く。

 そして気が付いた。

(…んあ?開いてる?)

 その円柱のような金属の脇に、隙間が空いている事に。

 取りついて隙間を覗いたカムタは、振り向いて…、

「ごぶぉっ!」

 溜めていた空気を一気に吹き出した。

 凄まじい量の白い気泡をまき散らしながら、ダイナミック過ぎる犬かきで海面を移動してくるルディオに気付いて。

 ゴボンゴボンドボボボと音を立てる、パワフル過ぎる犬かきの震動に驚いて、周辺の魚が一斉にパパパッと逃げ散ってゆく。

 笑いで空気を失った少年は、一旦浮上し、近付いてきたセントバーナードに話しかけた。

「あはははは!アンチャン、すげぇ豪快な犬かきだな!」

「この下にあったのか?」

「うん。でも…」

 カムタは言う。

「空っぽなんだ。中にカニ居た」

「カニ?」

 少年は、見つけた金属柱は中が空洞で、「いれもの」のような形だと説明し、

「オラが説明するより見た方が早ぇな。潜ろう」

 言うが早いか、息を吸い込んでザポンと海中へ。

 水面で反転し、頭を下にして潜った少年の背中が、尻が、足が、滑らかに水の中へ消えるのを見送ったルディオは、見よう

見まねで同じように、顔から水面下の世界へ。

 目を閉じて頭を海面より下へ、続く胴体部の重みが頭部にかかり、一気に水が押し退けられてすんなりと潜航姿勢に移行す

ると、なるほどこれは理にかなっているなぁ、とルディオは感心して…。

「………」

 目を開けた途端に、不思議そうな顔になった。



 魚が、泳いでいた。暗い水の中を。

 荒野を思わせる光陵とした水底は、灯りが届く範囲しか見えない。

 空や水面の位置は判らない。上が明るいという事もない。そもそも無いのかもしれない。

 それを、透明な壁の向こうに見ていた。硬い、象牙のように白い床の上に立って。

 そこは部屋だった。丸テーブルと、その周辺に背もたれも肘かけも無い椅子が四つあるだけで、だだっぴろくて殺風景な部

屋だった。

 壁の一面を構成する透明な窓は分厚いガラスなのか、それともアクリルなのか、水と空気を隔てるその表面に、灯りの照り

返しがある。

「毎回、定刻のだいぶ前だな」

 声がして、視界が巡る。

 魚が泳ぐ景色を眺める、その幅広い窓の端に、男が立っていた。

 金属のような光沢がある、明るい灰色の被毛に覆われた後頭部。ピンと尖って立つ鋭角の耳。背が高く、背中も広く、肩幅

がある、筋肉質で逞しい成人の獣人である。

「そういうところは彼に似ている」

 耳に心地良く響く、さほど大きくしなくともよく通る、そんな声だった。

 身に着けているのは、ディープブルーのジャケットとカーゴパンツ、そして黒いグローブとコンバットブーツ。

 衣類は紺の地に水色と白が縞模様を描くタイガーカモの迷彩柄で、グローブとブーツは艶を消してある。

 コツンと床を鳴らして、男が振り向いた。

 美しい、ライトグレーの狼だった。

 精悍な顔つきに、切れ長の鋭い目。その被毛と同色の、薄いグレーに光る双眸は、思慮深そうにも、物憂げにも見えた。

 ただし、脆弱さ、繊細さを伴う美ではない。逞しい、頼もしい、力強い美しさがある。それはきっと、獣の美しさであり、

機能美とでも呼ぶべき物なのだろう。

 逞しいとはいっても、ボディーボルダーのような重々しい筋肉は搭載されていない。短距離走のアスリートのような、無駄

を省き特定の運動性能に特化させて鍛え上げた筋肉が、全身を隙間なく覆っている。

 その男はまるで、獣頭人身の神か悪魔を象った、鋼鉄の像のようでもあった。

 水と空気を隔てる窓には、狼の後姿と、立ち尽くすセントバーナードが映っている。

 サイズこそ違うものの、狼と同じデザインの衣類を纏ったセントバーナードは、無表情だった。

 まるで、感情を持ち合わせていないような、完全な無表情…。

 そして、見つめて来る狼が口を開く。

「では、前回の続きからだ」



「?」

 ルディオはハッと我に返った。

 前方に広がるのは、小魚が踊るサンゴの楽園。美しい水底と透き通った海。直前まで見ていた景色とは違う、明るい海中…。

(今のは…?)

 あの、狼が居る部屋の光景は、何処にもない。

 もしやまた意識が飛んだまま動いていたのか、と一度疑いもしたが、先に潜るカムタが水底についておらず、潜る自分の体

も慣性を失っていない事から、何かを垣間見たのは一瞬だったらしいと察する。

(おれの記憶…なのか?)

 目当ての物に取りついたカムタが、上を見て手招きする。

 不慣れな素潜りで浮力と格闘し、何とか近付いたルディオは、少年と同じく金属塊の脇に空いた隙間に手をかけ、浮き上が

らないようしがみついた。

 水深3メートルほどの水底、岩に囲まれた砂地に少し埋まっているそれは、長さ2メートルほどで、横倒しになった形。遠

浅のサンゴ礁を、波に持ち上げられて転がりながらここまで来たのか、金属柱の表面は、よく見るとあちこち傷だらけだった。

(…金属…だなぁ?)

 触れてみて少しだけ疑問に思ったのは、金属特有の冷たさが無かった事。それ自体が熱をもっている訳ではないが、海水よ

りもやや暖かく感じられた。

 文字の類は書かれておらず、何処で作られ、何処で使われていた、どういった物なのかは判断できないが…。

(中には…。何もないなぁ)

 カムタに促されて覗き込んだ隙間の奥には、流れ込んだ砂が少したまっていた。中に隠れていた小魚が驚いて飛び出し、底

の方を三匹のカニがのろのろ歩いている。

(内側は…ビニール張りか?)

 ルディオは子細に窺って、中身を衝撃から守るような、緩衝材の積層を認める。美術品を運ぶトランクの内側にも似た内部

空間は、カムタならばすっぽり収まるが、ルディオが入るにはやや狭い。

(普通の大人なら、中に寝られる大きさだなぁ…)

 しかし、ひとが入る物ではないのだろうと、ルディオは考えた。覗き窓のような物もなく、閉じれば密封される形になって

いる。ふたりが指をかけている隙間には、閉じた時にスライドして迫り出し、反対側の深い溝と噛み合うのだろう金属板が見

えていた。

 そこまで見たところで、カムタがルディオの肩を叩く。

(アンチャン、一回上に…)

 息継ぎをしようと上を指す少年に頷き、海底をしっかり踏んで蹴ろうとしたルディオは、その拍子にガクンと浮力に捕まる。

 隙間に手をかけているふたりが体重を移動させた拍子に、かろうじてその状態を保っていた金属柱は、大きく口を開けた。

 柱が縦に真っ二つになったように、この場合は、上を向いている側面半分が持ち上がる形で開く。そうしてさらけ出された

内側を見て、ルディオとカムタは顔を見合わせた。

 上に開いた側は、内側の緩衝材がズタズタになっていた。まるで、刃物で何度も斬り付けたように…。

「っぷは!」

 海面に顔を出したカムタは、続いて浮上したルディオに言う。

「アンチャン、見えたか?ゴーグル貸すか?」

「いや、ちゃんと見えた」

 どういう訳か、ゴーグル無しでも明瞭に海中を見る事が出来たルディオは、その事に触れる前に、今見たばかりの物につい

て言及した。

「アレはたぶん「ケース」だ。そしてあの中には、何かが「居た」んだ」

 物ではない。生きている何かがあの中に入っていた。そしてそれは…。

「セーブツヘーキ…」

 カムタが呟く。

 海面に浮いたふたりの頭を、潮風が強く叩いて行った。





「受け取ったぞ」

 うつ伏せに倒れ伏して動かない仲間の背を見下ろし、リスキーが口を開く。

 集合した男達の顔は蒼白だった。

 囲んで見下ろすのは、転がった携帯に手を伸ばし、取る事が叶わないまま息絶えた、同僚の姿。

「確かに受け取った…。無駄死にではない。無駄になどするものか」

 再び呟くリスキーの目は、背中を貫かれ、肋骨と内臓を引き摺り出された、無残な傷を凝視している。

 目を見開き、喀血した口を半開きにして事切れている男は、最後の最後まで職務に忠実だった。

 取り立てて何が優れていた、という事もない。水準は満たしているが、特徴的な所がない。そんな男だった。

 だが、責任感が強い男だった。警察官にでもなればよかったのにと、皆にからかわれるほど真面目で、忠実だった。フェス

ターもリスキーも、この男のそんなところを買っていた。

「…確か、奥さんと息子が居るんだったな…。息子は、…去年の末に五つになったんだったか…」

 跪いたリスキーは、物言わぬ同僚に囁きかけた。

「安心しろジョルド。フェスターにはきちんと伝える。お前の家族が路頭に迷う事は絶対にない」

 フェスターは悪党だが、通すべき筋は通す。それは彼のポリシーでもあるので、その点では信用に値する。

「そして…、安心しろ」

 常よりもなお細くした目に鋭い光を湛えて、リスキーは続けた。

「仇討ちは、必ず…」

 リスキーも悪党ではあるが、払うべき敬意は払う。そして、報いるべき相手には報いる。

「お前の働きを、無駄にはしない」

 伸ばされた若者の指が、同僚の瞼をそっと閉じさせた。



「…そうか」

 ラグーン内を移動する船の上で、リスキーから報告を受けたフェスターは、一旦携帯をおろし、島の方向に向き直って、静

かに目を閉じる。

 そして、二十秒ほどの沈黙の後…。

「…真面目な男だった。有能とは言い難いが、よく働いてくれる男だった」

 ミスにはペナルティを、働きには報酬を、それがフェスターのポリシー。

「家族の事はただちに手配する。ジョルドを回収して船着き場に運ばせろ。…ここは死体も傷み易い。家族もなるべく綺麗な

姿で見送りたいだろう。急げ」

『承りました』

 リスキーが遺体に手向けた言葉は、裏切られなかった。

「…リスキー、こんなタイミングでなんだが、私からもよくない知らせがある」

『…あなたがそう切り出す時は、だいたいシャレにならない知らせですよねフェスター…』

 リスキーの軽口は、これから訊く事になる話の重さに備える、いわばクッションだった。

 そしてフェスターは告げた。

「ショーンが来る」

『………………』

 リスキーの絶句は、かなり長い時間に及んだ。

 それは、フェスターの同期の名。そして、幹部候補の名。同時に、フェスターとリスキーが、この世でもっとも嫌っている

男の名…。

『…急ぎます』

「…頼む…」

 部下の硬い声を最後に通話を終えて、フェスターは天を仰いだ。

「疫病神め…!今お前はどの辺りだ…!?」