わたぬき

『二頭逃れた。そちらに向かっている』

「りょ〜かいっ」

携帯から流れ出るなじみの声に、ボクは返事をしながら地上を見下ろす。

ボクが今居るのは地上20メートル、暗い路地を見下ろす立体駐車場の屋上だ。

屋上って言っても、登り階段もタラップもなく、本来は入れるようにはできてない。

皆が綺麗だと誉めてくれる、母さん譲りの金色の被毛を、高所を流れる夜風が穏やかに撫でていく。

三月末日の今日、風はとてもやわらかく、暖かい。

これまた母さん譲りの蒼い目を凝らし、ボクは足元へと続いて来る狭い路地の先を見つめる。

視力にはちょっと自信がある。まぁ、鼻と耳ほどじゃないけどね。

…見えた。暗い路地をこっちに駆けてくる、羊みたいな丸っこい二頭の生き物。

でも彼らに手足は無い。手足の代わりになってその体を運ぶのは、絡まったロープのような物…、寄り合わされた蔦だ。

手足の無い羊の体に無数の蔦を生やした危険生物、バロメッツ。分類上は第三種下位と、位はまぁ低いんだけど、一般の人

達にとっては猛犬どころじゃない脅威だ。

ボクは屋上の縁を蹴り、夜気に身を躍らせる。

…あ。別にダイエットが上手く行かないのを悲観して身投げした訳じゃないよ?このくらいの高さから飛び降りても平気なだけ。

ぐんぐん迫るアスファルトの地面。ボクは両脚で着地し、四つん這いで伏せるほどに身を沈めて着地の衝撃を逃がす。

…一応言っておくけど、もしキミが人間か、さほど頑丈じゃない獣人なら、絶対に真似しないで欲しい。訓練次第である程

度の高さからの落下の衝撃は逃がせるようになるけど、体の強度の関係で、骨折程度じゃ済まない大怪我をする事になるから。

…っと、結構早いねぇ。もうバロメッツはボクの前方、30メートル程度まで迫ってる。

身を起こしつつ、ボクは両手に集中していく力の流れをイメージする。それに従って燐光を発するエネルギーの力場が瞬時

に形成され、ボクの両手の肘辺りまでを覆った。

これがボクの能力。この国古来の呼び方をするなら操光術(そうこうじゅつ)。一般的に呼ばれている方の呼び方ならエナ

ジーコート。

体内を循環する生命力、東洋では気とも呼ばれてたりもするそれを、チタン合金並の強度を持ったエネルギーの力場に変換

して体を覆う能力で、身を守るだけじゃなく、応用すれば熱エネルギーに変えて放出する事もできる。

…まぁ、消耗が大きくて、とにかくお腹が減るから、常に発生させておく事はできないんだけどね。

力場で覆った拳を構え、ボクは突進して来るバロメッツを迎え撃つ。

前を走る一頭が、首元から二本の蔦を伸ばして来た。

彼らと戦う時の注意は、とにかく四肢の概念に囚われない事。

羊っぽい外見だからといって、オーソドックスな四足獣のつもりで相手をすると痛い目を見る事になる。

彼らには手足は無く、体中のいたるところから好き勝手に生やせる蔦を手足代わりに移動して歩く生き物なんだから。

ボクは右腕を下からワイパーのように動かして一本の蔦を跳ね上げ、左手で残る一方の蔦を掴む。そして勢い良く引っ張り、

突進に勢いをつけさせてあげる。

力任せに勢い良く引っ張られ、自分では制御できない速度に達したバロメッツは、宙を飛ぶような感じで無防備にボクに向

かってくる。

咄嗟に手足代わりの蔦を、弱点の頭を覆うように伸ばしたけれど、それじゃあボクの攻撃は防げない。

左手で蔦を引いて半身になった姿勢から、体を開きつつ右の手の平を真っ直ぐに突き込む。大陸の拳法にある、打開(だか

い)って呼ばれる打法だ。十分な体重移動と震脚で、ボクの体は電柱よりもしっかり地面を捉えてる。

お互いの突進の勢いと体重、それに打撃の威力の上乗せだ、蔦の数本じゃ防げっこない。

ボクの右手はドーム状に展開された蔦をペキっと突破し、バロメッツの頭部を捉えた。

半分植物っぽいけれど、こいつらには頭蓋骨も背骨も脊髄もある。

バロメッツの背骨は段々折になり、力場を纏った手の平に激突した顔面は、内側にベコッと陥没する。

…うぁ…!やり過ぎた…!嫌な感触ぅ…。

顔を顰めつつ、そのまま激突の衝撃で上に跳ね上がったバロメッツの下を、身を屈めてすり抜ける。

そして脚力のリミッターを切り、アスファルトを蹴って二頭目に迫る。

太っちゃいるけど、こう見えて足は速いんだよ?普通に走っても100メートル走で6秒台なんだから。

急制動をかけた二頭目のバロメッツは、無数の触手をボクに向かって伸ばした。

鞭のようにしなってたたき付けてくる蔦をかわし、いなし、払い落とし、ボクは速度を緩める事無くバロメッツに迫る。

「ちぇすとぉっ!」

加速と全体重を乗せ、力場で強化したボクの飛び蹴りが、二頭目のバロメッツの頭部を粉砕した。



「ご苦労。監査は終わりだ。報酬は明日には振り込まれるから、念の為に口座のチェックよろしくな」

「判りました」

交番の地下にある取調室で、太り気味(まぁボクも人の事は言えないんだけど…)で丸顔の警官がノートパソコン型の監査

端末を閉じた。

そしてその正面で、立ったままのボクの前でパイプ椅子に座ってる、光を吸い込むような漆黒の髪に黒い瞳の青年が会釈する。

警官の方は、調停者監査官の種島和輝(たねじまかずき)さん。そこそこ長い付き合いで、色々と便宜を図って貰ってる。

とっても良い人だよ?初対面でもボクを男と勘違いしなかったし。

黒髪の青年は、ボクのパートナーの不破武士(ふわたけし)。ボクと同じく調停者で、ボクらのチーム、カルマトライブの

リーダー。

…「ボクらの」とは言っても、メンバーはリーダーの彼とサブリーダーのボクの二人だけっていう、最小規模のチームなん

だけどね…。

「では、撤収します」

「お邪魔しました」

タケシとボクは揃って頭を下げ、部屋を後にした。

…あ、ボクも名乗っておかなくちゃ。

ボクは神代熊斗(くましろゆうと)。

奥羽は河祖下村生まれの19歳。身長は218センチ、体重はヒミツ。

母親譲りの蒼い瞳と、金色の被毛に全身を覆われた熊の獣人。

遺伝子上の細かい分類で言うなら赤熊の人獣交配種。ようするにアラスカアカグマの熊獣人と人間の間に生まれた獣人って

事。…まぁ、ボク自身も15の時に遺伝子鑑定して貰って初めて知ったんだけどね…。

趣味は家事全般と家庭菜園の手入れ。

一応、特定上位認定を受けてる…、つまりは異名持ちの調停者だったりする。



「ほっ」

手首のスナップを利かせて振ったフライパンの上で、オムレツが宙を舞った。

すかさず差し伸べたお皿の上に、ペタッと着地する黄色い半月。

レタスと茹でたブロッコリーを添えて、特製ソースをかけて…、はい出来上がりっ!

炊事洗濯家事一般はボクの仕事だ。ちなみに事務所の会計もボクの仕事。一応家計を預かる身ってわけ。

「お待たせ〜!」

ボクらの事務所兼住居では、キッチンとリビングが繋がってる。

カウンターを回り込んでテーブルに歩み寄り、タケシの前と、その向かいの席にお皿を置く。

読んでいた新聞を脇に置き、夜食に視線を向けたタケシの向かいに座り、ボクらは両手を合わせて声を揃えた。

『頂きます』

ボクらの仕事は不規則だ。真夜中に呼び出しを貰う事もあれば、朝方までかかる事もある。だから、仕事が済んで事務所に

戻れば、夜食をとってから休むのが普通。

ん?食べてすぐ寝ると太るだろうって?…うん。それは判ってるんだけれどね…。仕事の後はお腹が空くんだよ。

調停者っていう職種は体力勝負だし、ボクの能力はとにかくエネルギーを消費するからね。ちゃんと食べておかないと、い

ざという時に役に立たないんだ。

…まぁ、体重が増えて来てるのと、お腹がぽっこり出てるのは否定できないけど…。

「美味しい?」

「ん、美味い」

同居するようになって半年以上。もう何度も繰り返した短い会話。

タケシはあまり喋る方じゃない。いや、むしろ寡黙な方だね。

外で誰かと話す時も、お客さんと話す時でも、必要最小限の事と仕事の事以外の話はあまりしない。

でも、そんなタケシがボクにはいろいろな事を話してくれる。

ボクには他の人に見せない面を見せてくれるんだって、気を許してくれてるんだって思うと、少し…嬉しくなる…!

もちろん、他の人にも愛想良くした方が彼の為でもあるんだけど…。

…う〜ん…。ニコニコ愛想を振り撒くタケシかぁ。…言っちゃあ悪いけど想像もつかないなぁ…。

夜食を食べ終えたボクは、

「ところで、もうすぐ日付変わっちゃうけど…」

僅かな期待を込めて、そうタケシに話しかけた。

「明日は何の日か知ってる?」

タケシは目を細めて、微かに首を傾げる。

「…何処かの国の独立記念日か?」

…いや、まぁ、あまり期待はしてなかったけれどね…。

「…まぁいいや…。お風呂入って来る」

首を傾げたままのタケシを残し、ボクはリビングを出た。

…ちょっとヘコむなぁ…。



目を閉じて、シャワーを顔から浴びて汗を落とす。

体中の毛に熱いお湯が染み渡って、肌をくすぐりながら流れてく。

…あ〜、幸せっ!気持ちよさに一日の疲れも吹っ飛ぶよ…。

ボディソープを染みこませたヘチマのスポンジ(自家製っ!)で体を洗い、泡を入念に落とす。

腕を上げて、腋の下から脇腹、腰まで洗って、…ちょっと気になって折り返す。

おそるおそる摘んでみれば、…明らかにお腹周りの肉付きが良くなってるぅっ…!

たぶん、最近手応えの無い仕事ばかりだったから、カロリー消費量が少ないのが原因だ…。

エネルギーを消費しなくても、ボクの体もお腹も、カロリー消費量に関係なくエネルギーを蓄積する為に努力してる。これ

は能力の発動に備えて、体がエネルギーを溜め込んでしまう、エナジーコート能力者の宿命だ…。

…え?エナジーコート能力者は皆太ってるのかって?

…その…まぁ…、痩せてる人は確かに痩せてるんだけど…。ボクの場合は体質的な物もあるからねぇ…。

何度もため息をつきながら、肩、背中、太もも、足、腕と、入念に泡を落として、広い湯船に手足を伸ばして浸かる。

見下ろせば、お湯の中にまったく女性らしくない胸と、ポコンと出っ張ったお腹が見えた。

胸の垂れ気味の肉を両手で掴み、いつものように軽く揉む。

…ボクには胸がない…。いや、ある事はあるんだけど、女性的な意味では、はっきり言ってない…。

胸筋の上に脂肪が乗って、いわゆる肥満型の胸になってるわけで…。

揉まれると大きくなるって何処かで聞いたから、毎日こうして一生懸命揉んでみてるけど…、ぱっと見、効果は現れてない

ように見える…。

…やっぱり、自分で「揉む」んじゃなく、「揉まれ」ないと効果は無いのかな…?

実際には、胸よりも深刻なのはこの体型の方なんだろうけれど、正直言って諦めてる。

ボクはおデブだ。おまけに度を越して大柄…。

それはまぁ、熊族だからと言えばそれまでなんだけど、義姉さんみたいな可愛い熊と比べるとねぇ…。

確かに筋肉はきちんとついてるし、まるっきり脂肪太りって訳じゃないけど、それでも女性らしいとは決して言えない体型だ。

…実際、他種族の人達からはよく男に間違えられる…。

お腹はむっちりして張り出してるし…、屈辱的な説明になるけど…、下腹部、腰の所で段がついてて、ベルトを締めればズ

ボンの上に肉が乗る…。

おまけに、胸はアンダーウェアで締めても、弾力が無いのか垂れ気味。

手も足も太いし、お尻なんて大きすぎて、ボクと同年代の女の子が可愛く穿きこなすような、ぴっちりしたジーンズなんか

は穿けない。

ダイナマイトボディ。悪い意味でそう。

…こんなボクが恋をしているなんて言ったら、十人中十人が笑うんじゃないだろうか…?

…うん…。言っちゃうけど、今ボクは恋をしてる…。

でも、ボクなんかとじゃ全然釣り合わないような相手だ。

道を歩けば周りの女の人が足を止めて見入ったりするぐらいに、スタイルが良くてかっこいい。

ちょっと常識が欠けてるような所があるけれど、物知りで、頼り甲斐があって、そして…、時々…だけど…、とても優しい…。

ボクは湯船に目の下まで浸かり、息を吐き出してぶくぶくと泡を立てる。

…はぁ…。

そもそも…、タケシはボクの事、きっと女性とは見て無いだろうなぁ…。



湯船から上がり、ぶるぶるっと身震いして水気を切る。お尻も軽く振って、短いフサフサの丸尻尾から水を飛ばす。

そしてボクはタオルで体を拭いながら、更衣室の片隅にデンと鎮座する、その悪魔の装置に視線を向けた。

…二週間…かな…?…大丈夫…。そんなには…。だって今週結構動いたし…。うん。きっと大丈夫…。

ボクは意を決して悪魔の装置…、体重計(体脂肪まで量れる)に乗った。

…ぅぁ…。

見なかったことにして静かに体重計から降りる。

若干へこみながらキャミソールとスパッツタイプのアンダーウェアを身に付けていると、

「ユウト。解ったぞ」

と、ノックも無しにドアを開けて、タケシが入ってきた。

ボクは裸を見られる事に抵抗がない。男女の入浴が同じっていう風習の、山奥の村で育ったせいでね。普通は男女一緒には

入らないっていう事、山を降りてから初めて知ったし。

平然と脱衣場に入ってくるタケシも、そういった事には疎い。記憶喪失だから生まれも育ちもタケシ自身すら知らないんだ

けど、たぶん彼も田舎育ちだったんだろう。と、勝手に想像してる。

「解ったって、何が?」

尋ねたボクに、タケシはきっぱり言った。

「明日はエイプリルフールという日だ」

…ほふぅ…。

ため息をついたボクに、タケシは首を傾げる。

「む?間違ったか?カズキさんに聞いたのだが…」

「いや、合ってるよ…」

合ってるけど…さ…。…やっぱり覚えてなかったか…。

「…なんか疲れたからもう寝るね?…お休み…」

「ああ。お休み」

首を傾げるタケシを残して廊下に出たボクは、何度もため息をつきながら自室に戻った…。



「有難うございました〜!」

「はいは〜い。ご苦労様で〜す」

翌日の夕方、サインをして宅急便を受け取ったボクは、差出人の名前をもう一度確かめた。

送り先が不破武士様方になってるその荷物の差出人名は、神代勇羆(くましろゆうひ)。つまりボクの兄さん。

送られて来た長方形の箱の中に入ってるのは、…何となくだけど、これ、液体…、かな?

首を捻りながら、荷物を自室に持って行って開封して見ると…、…予想外の荷物に、ちょっと、ホロッと来た…。



「ん〜…。出遅れちゃったねぇ…」

「そのようだ」

夜十時。連続二日目の緊急呼び出しに応じたボクらが駆け付けた時には、もう大捕り物は終わった後だった。

東護町の西側、なだらかな山際を通る深夜の県道は、警察に封鎖されてかなり賑やか。

何台ものパトカーが放っている回転する光が、真っ暗な闇の中でいやに目立って眩しい。

…車欲しいなぁ。タクシー呼んだりしなかったら、もっと早くに駆け付けられたのに…。

どこかの組織に売り飛ばそうと考えてたのか、危険生物を搬送していた大型貨物トラックの一団は、抵抗虚しくボクらより

先に駆け付けた調停者に捕縛、あるいは無力化されてる。

お風呂に入ってる最中に呼ばれて、大慌てで飛んで来たっていうのに、手ぶらで帰る事になっちゃった…。

応援要請に応じたから少しは手当てが出るけれど、働いてないから報酬はもちろん貰えない。

それはまぁ残念だけど…、被害が拡大しなかったんだから良しとしなくちゃね。

「あらかた片付いたようだな。手伝いも必要無さそうだ」

タケシは現場を見回して呟く。いつもの事ながら準備をするまでが異様に速かった。ああいう所、見習わなくちゃね…。

「同感。やれる事も無さそうだし、帰ろっか?」

ボクはタケシに頷いて、引き上げる事を近くの警官に告げようとした。…その時…。

「ユウト」

「うん…」

ボクとタケシは同時に振り向いた。ボクらのずっと後ろの方で、荷台を確認されていたトラックの中から、お腹の底に響く

ような、低い唸り声が聞こえたから。

一瞬勘違いかとも思ったけれど、ボクが感じた事は間違いじゃないみたい。

距離があるにも関わらず、タケシは腰の刀に手を添えて臨戦態勢に入ってる。タケシのこの反応だけで、予想が正しかった

事を確信できる。

…今の唸り声…、第一種最上位指定を受けている危険生物のものだ…!

警官達が悲鳴を上げながら、トラックの荷台から慌てた様子でまろび出て来る。皆引き攣った顔をして、ガタガタ震えてる。

…無理も無いよ。タケシはどうだか解らないけど、ボクだってこの目で見るのはまだ二回目だ…。

「い、居た!居たぞ!あ、あれは、あれは…!」

ぎおおおおおおおぉぉぉぉぉ…!

警官の一人が叫ぼうとした言葉を掻き消して、耳の奥を直接揺さぶる咆哮がこだました。

反射的に耳を伏せたボクの横で、タケシは鯉口を切り、刀を抜き放つ。

「な、なんであんなのが!?」

「麻酔が切れてるぞ!」

「さ、騒ぎで目覚めたのか!?」

警官が、捕縛されていた運送人達が、そして調停者達すら、パニックになりかけながら口々に叫ぶ。

ボクも臨戦態勢に移り、全身を薄い力場で覆う。…出番は来たけれど…、さて、どう動こうかな…。

警戒しながらトラックに歩み寄るボクらの視線の先で、トラックの荷台、たぶん危険生物搬送用に十分な強度を持っている

はずの金属の部屋が、ベコン、と外側に突っ張った。

誰かが悲鳴を上げる中、荷台はあちこちが内側から叩かれて外に膨れる。あ〜あ〜、暴れちゃって…。

ぎおおおおおおおおおおおおっ!!!

開いたままのトラックの荷台から、こげ茶色の鱗に覆われた、巨大なトカゲのような、それでいて全体のフォルムは鳥にも

似た生き物が飛び出した。

…ワイバーン…。ボクが知っている限り、この国でたったの五例しか出現報告がされてない、上に超が付く強力な危険生物。

竜にも似たその生物は、翼になった両腕と、強靭な後ろ足と尻尾、そして岩石もやすやすと噛み砕く顎を持っている。

ヘリコプター以上の制空能力を持っていて、オマケに筋弛緩効果のある神経ガスまで吐く。

鼻から尻尾の先っぽまで、だいたい10メートルくらいかな…。前に見たヤツより少し小さい。

本物の竜ほどじゃないけれど、怪物って言って良いと思う…。

長い首を垂直に立てて、天を仰いで咆哮するワイバーン。その姿を見た人達は、大半が凍りついたように動きを止めている。

無理も無いよ。捕食者を前にした当然の反応だ。

…でも、実戦を潜り抜けて、本能的な怯えを意思の力で捻じ伏せられるようになれば、強大な敵を前にしても、対処する事

はできる。

ボクらのように。

「往くぞ」

「うん!」

先に飛び出したタケシの斜め後ろに従って、ボクも駆け出した。

禁圧解除!脚力を強化して一気に加速したボクは、タケシを追い抜いて一足先にワイバーンへと接近する。

いつだって、どんなのが相手だって、ボクはこうして前に出る。

そうする事で後続が相手の力量を推し量る為の判断材料を作る。

何か予想外の危険があっても、ボクが前に出る事で、それを後ろに伝えられる。

持ち前の頑丈な体を活かして、この役回りをこなせる事こそが、ボクの密かな誇りでもある。

ボクらの接近に気付いたワイバーンが、長い首を巡らせて、こっちに黄色い瞳を向けた。

両手にエネルギーを集め、いつもより分厚く密度の高い力場を作り出し、ボクはさらに加速する。

ワイバーンは叫びを上げながら、体を捻って長い尻尾を振り回した。

周囲を薙ぎ払うように素早く振るわれた尻尾を、姿勢を低くしてかいくぐり、懐に飛び込む。

続け様に蹴りに来たワイバーンの左足を、大きく体を捻って避ける。

その捻りを戻しながら、ボクは硬い鱗に覆われた脇腹に左拳を叩き込んだ。

「熊撃衝(ゆうげきしょう)!」

命中と同時に弾けさせた力場が、鱗を割り、皮膚を剥がし、筋肉組織を露出させる。

フック気味の一撃に手応えを感じると同時に、殴った反動を利用して体を反転させる。続いて…!

「熊撃震(ゆうげきしん)!」

人の体で言うなら胃の辺りに、力場を纏った後ろ回し蹴りを入れる。比較的柔らかい腹部に蹴りがめり込んで、皮膚が爆ぜ

た。堪らず首を下げたワイバーンの顎をめがけて、…もういっちょおっ!

「熊撃破(ゆうげきは)!」

地面を蹴って跳躍し、体の捻りを戻す回転を加えて伸び上がりながら、ワイバーンの下顎を右拳で叩き上げる。

首が跳ね上がって、ワイバーンの喉が無防備にさらけ出された。…チャンス!

人間離れした跳躍力を見せ、ボクの頭上を飛び越えた細身のシルエットが、ワイバーンの喉元目掛けて銀光を走らせた。

キンッという、接触抵抗を示す音に次いで、綺麗に斬られたワイバーンの喉から鮮血が吹き出す。

狙いは正確、深さも十分だけれど、残念ながら致命傷じゃない。

いかにタケシの腕が良くても、刀自体の強度の問題がある。ワイバーンの鱗は、角度が浅ければ9ミリ弾も弾くくらいに強

靭だからね。

宙で身を捻ってワイバーンに向き直ったタケシは、左手をその頭部に向けながら着地して、屈み込んだ姿勢を取る。でも…、

「む…!?」

「っく!?」

タケシとボクは同時に呻いて大きく飛び退いた。

タケシの能力は一撃必殺。どんな物質だろうと抉り取り、消滅させる空間歪曲攻撃を放つことができる。

本能的にタケシの危険性を察したのかもしれない。喉を深く斬られているにも関わらず、ワイバーンはガスを吐き散らして

ボク達を牽制した。

うかつにこれを吸ったら動けなくなる。そうでなくても目に入っただけで眼球が麻痺する!攻め切るタイミングを外された

ボク達は、距離を離すしかない…!

そこへ、体を旋廻させたワイバーンの尻尾が、右手側から横殴りに襲い掛かってきた。

「下がって!」

タケシへの警告と同時に尻尾に向き直ったボクは、禁圧を全て解除、全身を覆う力場を形成する。

鞭のようにしなって襲い掛かった尻尾を、両腕を広げて体で受け止める。

抱え込むようにして電柱よりも太い尻尾を捉えたけれど、踏ん張った両足がアスファルトを抉り、ボクの体は後方へと押し

流される。

あのダメージでここまで!?タフなのにも程がある!…おどげでねぇなぁこいづぁ…!

(訳・…簡単じゃないなぁこれは…!)

けれど…、ボクのすぐ後ろにはタケシが居る。

すぐにワイバーンを射程に入れられるように、僅かに下っただけで留まってる。

それは、ボクを信頼してくれている何よりの証…。ここは踏ん張りどころだ…!

「ぐ、う、う、う、うぅぅぅ…!」

腰を落として踏ん張り、両腕に力を込めて尻尾をぎしっと抱き締める。

「どっせぇぇええええええい!」

しっかりと地面を踏み締め、素早く身を捻って、ボクはワイバーンの尻尾を利用して一本背負いを仕掛けた。

強烈な負荷で全身がミシミシ言う。でも、禁圧総解除したボクの筋力は、かろうじてワイバーンの膂力を上回った。

回りの警官や調停者達がポカンと口を開けて見上げる中、宙に浮き上がったワイバーンの巨体は、ボクらの頭上を越えて反

対側の地面に向かう。

今度こそチャンス!叩き付けられた所を狙ってタケシが能力を使えば、それで仕留められる!

と、思った瞬間、ボクの腕の中でワイバーンの尻尾がふっと軽くなった。

「…へ!?」

思わず声を上げたボクの視線の先で、途中から切れた尻尾がアスファルトに叩きつけられ、路面にひびを入れる。

振り仰げば、ワイバーンは翼を広げて、投げ飛ばされた勢いを殺していた。

…トカゲみたいに、尻尾を切り離せるの…!?

これはさすがのタケシも知らなかったらしい。少し目を大きくしてビクンビクン跳ねてる尻尾を見つめ、それからワイバー

ンの姿を目で追う。

少し滑空して、離れた地面にズシンと着地したワイバーンは、翼を広げて大きく羽ばたいた。

翼に煽られて強風が巻き起こる。でも、ボクにとってこの程度の風はどうって事無い。…幸か不幸かこの体重のせいで…。

身を低くして踏ん張るタケシの前に立って風除けになり、能力の発動をサポートする。この距離なら、タケシの力が届く!

翼を羽ばたかせて地を離れたワイバーンめがけ、タケシは開いた左手を突き出す。

その直後、ワイバーンの頭部、額の辺りで空気が揺らめいた。

それは、スイカぐらいの大きさの空間の歪み。

そこに飲み込まれた物は、どんなに硬い金属でも、細かい粒子でも、一切の区別無く消滅させる。

これはタケシがディストーションと呼んでる力だ。

文字通りの一撃必殺を成し遂げるその能力…。でも、ボクらはここに至ってまだ、少しばかりワイバーンを…、その優れた

危機察知能力を甘く見てた。

タケシの手が、何かを握り込むように閉じられる直前、ほんの一瞬前に、ワイバーンは飛んだ。

普通の飛翔とは違って、脚で地面を蹴って跳躍してる。危機を悟って緊急離脱された!

タケシの手が握り込まれると、ワイバーンの頭があった位置、そこを通過しようとしていた右脚の膝関節の辺りで、球状に

空間が歪んだ。

次の瞬間、風船が割れたような音と共に、空気が振動した。

ぎおおおおおおおおおっ!

膝をごっそりと抉られたワイバーンが咆哮を上げる。僅かに残った皮で繋がった脚をぶらぶらと揺らしながら、ワイバーン

はぐんぐん高度を上げていく。

「ちっ!」

珍しく舌打ちしたタケシは、頭上のワイバーン目掛けて手を伸ばした。でも、この距離じゃもう…!

我に返ったのか、散発的な銃撃がワイバーンを叩くけれど、どれも小口径みたいだ。何発かワイバーンを捉えているのに、

上昇は止まらない。

最初から判っていれば、マグナムやライフルなんかの貫通力の高いものと、強力な弾丸を用意してただろうけど…。

「このままでは…」

 呟いたタケシの視線の先で、ホバリングしていたワイバーンはゆっくりと向きを変える。

その首が向けられているのは…、住宅地!?

灯りに惹かれたのか、ワイバーンは大きく一度羽ばたいて、民家の多い区域に向かって飛翔に移ろうとしている。

…なんとか…、なんとかして止めなきゃ!

失敗しても、何もしないよりはマシだ。一か八かの賭けに出る覚悟を決めて周囲を見回し、一番高い木に目を止める。

…あそこからなら、射角には何も巻き込まないはず…!

「タケシ!刀を貸して!」

疾走に移りながら言ったボク目掛けて、タケシは何の質問も挟まずに刀を放ってよこす。

鞘に収められたそれを左手で掴み、ボクは加速しながら身を屈めて、大きく跳躍した。

木の幹を蹴り、反転して別の木を蹴り、さらに反転して目当ての木の上、かなり高い位置にある太目の枝に着地する。

闇夜を飛翔するワイバーンの姿を捉えたボクは、刀を抜き放って半身になって構えた。足場はあまり良く無いけれど、贅沢

は言ってられない…!

大気中のエネルギーを体内に取り込んで、自分の分と混ぜ合わせて刀に流し込む。

ボクの周りだけ気温が急激に下がって、木の幹が、枝が凍りついてく。

タケシから借りた刀は、高密度の力場にコーティングされて金色に光り出す。

これは神代家の三大奥義の一つ。

…とは言っても、昔ちょっと練習したっきり、まだ物にできてない。ついでに言うなら、本当なら特殊な金属で作られた刀

で放つべき技だったりもする。

…この状況じゃ無い物ねだりしても仕方ないんだけどね…。

「未完成だけど…奥義、雷切(らいきり)!」

光り輝く刀身を、ボクは背中まで振り被り、渾身の力を込めて振り下ろす。

ギンッという音と共に放たれた三日月形のエネルギーの刃が、宙を走ってワイバーンを追う。

その一瞬、気配を察したのか、遥か彼方のワイバーンがこっちを振り向いた。

振り向いて立てられた状態のその首が、光の刃に切断されて宙を舞う。直後、斬り離された頭部と胴体は、エネルギーの余

波で炎上する。

火達磨になったワイバーンが田んぼに墜落したのをしっかり確認してから、ボクは木から飛び降りた。

ドシッと着地したボクの後ろに、

「無事に仕留められたようだな」

タケシがゆっくりと歩み寄った。

「今夜は随分働かせた。疲れただろう」

珍しくかけて貰えたせっかくの労いの言葉にも、ボクは笑顔で応じる事ができなかった。と、言うのも…。

「タケシ…」

ボクは握り締めたままの、タケシから借りた刀を見つめ、背中を向けたまま口を開く。

「何だ?」

聞き返したタケシを振り向いて、ボクは刀を差し出した。半分から先が折れ飛んじゃった刀を…。

「ごめ…。おっぺしょいだ…」

(訳・ごめん…。へし折れた…)

「…む…陸奥の守…!?」

タケシは真っ青な顔で、変わり果てた姿になってしまった刀を受け取った…。



「落ち込んでたなぁタケシ…。許してはくれたけれどさ…」

事務所に戻ってシャワーを浴びたボクは、母さん譲りの金色の髪をタオルでゴシゴシしながら呟いた。

結局、ワイバーンを仕留めた分で出る事になった手当ては、タケシの刀を購入するのに使う事になった。

やっぱり無茶だったかぁ…。ボクの不完全な雷切でも普通の刀じゃ保たないなぁ。兄さんみたいにラインゴルドの刃物とか

使わないとダメだろうね。

そんな事を考えながら、ふと動かした視界の隅に、悪魔の装置の姿がちらついた。

…今日は、結構カロリー使ったよね?…うん。使った。かなり使った。少なくとも昨日よりはマシになってるはず…!

ボクは意を決して、今日も体重計に乗った。

…増えっ…!?

「どうしたユウト?」

べっこべこにヘコんで床に両手をついて項垂れていたボクに、ドアを開けたタケシが不思議そうに声をかけた。

…あ。全裸だボク…。

「ん…。何でも…ない…」

腰にタオルを巻いて立ち上がり、一応ポーズとして背中を向けて、ボクはタケシに応じる。

「そうか」

信じたのか、それともさして興味が無いのか、タケシはそれ以上突っ込んでこなかった。

「で、どうしたの?」

「今日が何の日かという昨夜の問答。俺の答えは正解ではなかったようだからな。今更ながら少し気になった」

…ああ。ゆうべはそんな事も話してたっけ…。

ボクは脱衣場の壁時計をちらりと見る。時刻は0時を少し回ったところだった。

…過ぎちゃったな…。

「エイプリルフールで正解だよ」

「そうか。だが、何か他にもあるのではないか?」

タケシの視線を背中に感じながら、ボクは苦笑いしながら首を巡らせた。

「…うん…、まぁ…、ボクの誕生日でもあったんだけどね…」

「ああ。そうだな」

タケシはこくりと頷いた。

…あれ…?

「もしかして、覚えてた?」

「ああ」

…へ…?

さすがにプレゼントなんかは期待してなかったけど…、覚えてたなら、何で一言も無かったんだろう…?

…やっぱり、タケシにとってのボクは、ただの仕事仲間で…。

軽く落ち込んで項垂れたボクを見つめ、タケシは首を捻った。

「ユウト」

「ん?」

「もしかすると誕生日という日は、世間一般では、何かするイベントなのか?」

ボクはあんぐりと口を開け、不思議そうに首を捻ってるタケシを見つめ返した。

…もしかしてタケシ…、誕生日を祝うとか、そういう事も知らない…?

「え〜と…。うん、まぁ…、後で話すよ…。なんか今、いっぱいいっぱい…。色んな意味で…」

今ボクの口から説明したら、なんだか催促してるように聞こえちゃうじゃないか…!

「解った」

タケシは素直に頷いて、脱衣場を出て行った。

…本当は、怒るところなんだろうね…。でも、ボクは少し呆れて、そして、ちょっとだけ安心してた。

タケシは、ボクの誕生日を忘れてたんじゃなく、普通、誕生日は祝うものだって事を知らなかっただけだった…。



自分で用意してたケーキを切り分け、タケシと二人で食べる。

誕生日だったっていうのに、いつもとちっとも変わった所のない、普通の会話に他愛ないやり取り。

それでも、ボクにとってはこの平凡な日常は、何物にも代えられない宝物だ。

平凡な日常は、ともすれば唐突に終わり…、昨日まで笑って話していた人が、何かのきっかけで突然居なくなる…。

…その事を、ほんの数ヶ月前に経験したから…。

「ユウト」

「ん?」

「そろそろ教えてくれるか?誕生日の風習について」

「…ん〜。まぁ、説明しとこっか…。今後の為にも…」

ボクは苦笑を浮かべ、タケシに誕生日のお祝い事について説明した。

なんとなく消化不良な感じもする二十歳の誕生日だったけれど、それでも結構満足はしてる。大切な人と一緒に、いつもの

毎日と変わらずに、平穏に終える事ができたから。

…告白までしちゃえれば、結果はどうなっても、もっと平穏な気分で過ごせるのかなぁ…?兄さんは、どんな気持ちでチナ

ツ義姉さんに告白したんだろう…?

…あ…。兄さんと言えば…。

「あのさ、兄さんがお酒を送って寄越してくれたんだ。ちょっと飲んでみたいんだけど、一緒にどう?」

ボクは兄さんが送ってくれたお酒の事を、今になって思い出した。

タケシは少し考えてから、

「ユウヒさんは、お前宛に送って来たのだろう?お前に飲んで欲しいはずだ」

と、珍しく他人の心情を気にするような発言をする。

「良いの。ボクはタケシにも飲んで貰いたいんだから。それに、兄さんもタケシとボクとで飲むようにって、送ってくれたは

ずだよ?」

思いつきで言ってる訳じゃないよ?兄さんはタケシの事を気に入ってる。

たぶん、タケシが河祖下のお酒を「美味い」って言ったのを覚えてて、それで一升瓶三本も送って寄越したんだ。

「ね?一緒に飲んでみよう?」

ボクがそう誘ってみたら、やがて、タケシはこくっと頷いた。

兄さんから届いた荷物は、ボクの成人祝いだった。

中身はボクの故郷、河祖下村の地酒が一升瓶で三本。

贈り主同様に色気が無い、無骨な誕生プレゼント、そして成人祝い。

生まれて初めて口にするお酒は、ちょっと臭かったけど、美味しかった。…でもベロがちょっとピリピリする…。

タケシのおつまみにいつも用意するように、冷凍のタン塩をおつまみにしてみたけど…。うん。悪くないかも?

タケシと向かい合って、生まれて初めてのお酒を飲みながら、ボクはお酒に添えられていた、兄さんの手紙の内容を思い出

した。



拝啓

若葉の緑が目にも鮮やかな昨今、皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか…

(中略)
  

 誕生日おめでとう

 月日の経つのは早いもの…。子供、子供と思っていたが、いつのまにやらお前も成人する歳になったな

成人祝いの意味を込め、河祖下の地酒、「熊潰し」を送る

千夏には渋い顔をされたが、他に相応しい物も思い付かず、このような祝いになった。無粋な兄だと、笑って許せ

…あのような事もあり、大層堪えたとは思うが、それでもなお、調停者として歩むという決意は変わらぬようだな

お前の決意が揺るがぬのなら、もはや俺も、無理にこちらで暮らせとは言わぬ

不破殿という信頼できる御仁も傍に居て下さるのだ、積みし修練に恥じぬ武を、その身をもって示してみよ

…さて、話が逸れたが…。

おめでとう、熊斗。

フレイア殿も、父上も、無論、お前の育ての親たる我が母も、黒白(こくびゃく)の原の向こうより、お前の成人を喜んで

くれている事と思う

お前がどう思おうと、俺はお前の兄であり、河祖下はお前の故郷。これは、未来永劫変わる事は無い

少々遠いが、時には帰り、元気な姿を皆に見せよ

(中略)

…春の穏やかなる日々を、健やかにお過ごし下さい

                                    敬具



初めて経験したけれど、酔っ払ったって事なんだと思う。

気が付いたら、ボクは自室のベッドの上で寝ていた。いつ寝たのか、ぜんぜん思い出せなかった。

翌朝起きてきたタケシは、凄く顔色が悪かった。

二日酔いとかじゃないよ?ワイバーンとの戦いで怪我をしていたのか、タケシは肋骨二本にヒビが入ってたんだ。

あれ?でもお酒を飲んでた時は何とも無かったような…?

それと、せっかく二十歳になって、お酒も付き合えるようになったっていうのに、タケシは何故か、ボクにあまりお酒を飲

ませてくれない。

訊いてみても(彼にしては珍しく)歯切れが悪い答えが返ってくるだけ。

もしかして、ボク何かマズい事でもしたのかな?

あ〜。そういえば、どうやって部屋まで戻ったか覚えてないし、ベッドまで運ばせちゃったりしたのかなぁ…。

うん。なるべく迷惑にならないよう、深酒は控えた方が良いかも。