Valiant(中編)

深夜の街を濡らす霧雨の中、転送されてきたデータを再確認したランゾウは、携帯を上着の内ポケットに仕舞い込むと、行

く手に聳えるマンションを見上げた。

国道に近い位置にある三十階建ての高級マンションは、立地的にも好条件を満たした物件であった。

壁には雨だれの汚れなども見えず、敷地内も清潔で、警備員も常駐している。

アガタから詳細を聞き出したトモエより送られてきた情報によれば、カードキーやオートロック、訪問者の顔を確認できる

カメラなど、セキュリティも行き届いており、一見安全そうに感じられる。

アガタに聞いた部屋の位置を右眼で確認すれば、明かりが灯っている事が、外からでもカーテン越しに判った。

だが、部屋の中がどんな状況になっているかまでは、外からでは判断のしようがない。

ランゾウが足を止めて様子を窺っていたのは、ほんの短い間の事であった。

アガタの家族かどうかはともかく、とにかく室内に誰かが居るらしい事を外から確認すると、巨熊は無表情のまま道を進み、

マンションの裏手側へと姿を消した。



安形美津子(あがたみつこ)は、今年四歳になったばかりの長男、正雄(まさお)をしっかりと抱き締めたまま、リビング

のソファーに座らされていた。

今朝方、夫の同僚を名乗って訪ねてきた男達によって自宅に監禁された状態は、今もなお続いている。

ミツコ達の背後には恐ろしく背の高い真っ黒な犬獣人…ドーベルマンと、筋肉の塊のような黒褐色の水牛獣人が立っている。

そして、ミツコの向かい側のソファーには、おそらく三十かそこら、この中でリーダー格と思われる男が座っている。

髪をオールバックに纏めたその男は、仕立ての良いスーツ姿だが、手にしている物は物騒であった。

右手に握られ下に向けられている、くすんだ黒のそれは、拳銃である。

銃口から先に筒型のサウンドサプレッサーが取り付けられた拳銃は、ミツコには初めオモチャか何かだろうと思えた。

訪問者が、家族の一員であったインコを撃ち殺すまでは。

男達が強引に部屋に上がり込み、銃を突き付けてミツコを脅すと、異常を察したインコは鳥かごの中で激しく暴れた。

銃を手にした男はそれが不快だったらしく、躊躇わず発砲した。

同時に、鳥かごの中で鮮やかな羽毛の青と、血の赤と、その他の色が弾けた。

「ああなりたくなかったら、大人しくしろ」

男達が本気である事を悟ったミツコは、泣き出したマサオをなだめながら、抵抗を諦めて監禁された。

それから12時間以上が経った。

泣き疲れて眠ってしまった息子を護り、しっかりと抱き締めながら、ミツコは必死に恐怖と戦っていた。

ミツコと男の間にあるテーブルには、ファックス兼用の電話機が置かれている。

男達はアガタからの連絡が入るのを、こうして朝からずっと待っているのである。

ミツコは彼らから、夫が会社の重大な機密を盗み出したと聞かされている。

だが、彼女は夫が間違っているとは思えなかった。

ずっと研究畑で生きてきたアガタは、真面目さと誠実さだけが取り柄のような男である。悪事に手を染める事などできるは

ずがない。

押し入ってきた男達がこういった手段に出ている事も、これまで務めてきた会社が、実はまっとうな存在ではなかったとい

う裏付けになっていた。

夫が持ち出した機密という物は、会社の悪事を暴くような物なのではないかと、ミツコは考えている。

夫は間違っていない。そう信じる事で、ミツコはこの緊迫した状態でも冷静さを失わずにいられた。

「…見捨てられたんじゃあないか?」

ドーベルマンが唐突に口を開くと、男は「かもな」と頷いた。

「家族に手が回ってると察したかもしれん。連絡も無いのはそのせいだ」

「つめてぇ旦那だなぁ?えぇ奥さん」

冷ややかな笑いが混じった水牛の声に、ミツコは唇を噛む。

「だが、人質としての価値は惜しい。明け方まで待って駄目だったなら連れ帰る。…が、一人で十分だ。子供は何かと扱いに

くい、処分して行く」

男の冷淡な言葉を聞き、ミツコの背を冷たい物が伝い落ちた。

男の言葉はミツコ達には向けられていなかった。

同僚に向けられたその言葉は、ミツコを脅すための物ではない。ただ行動方針として同僚に伝えているだけのものである。

普通の仕事のやりとりのように発された淡々としたその言葉で、ミツコは男が本気であると直感した。

明け方までに事態が好転しなければ、一人息子のマサオが殺される。

何とかしなければとは思うが、自分からは動きようが無い。

パニックになりそうな自分を必死に宥め、部屋の中を見回しながらあれこれと手を考えたミツコは、隣室に通じるドアに目

を止めた。

少しだけ空いているドアの隙間から見えた子供部屋の、真っ白なレースのカーテンが、微かに揺れていたような気がして。

音が外に漏れないようにと、窓は男達の手で全て閉じられている。隙間風で揺れるはずは無い。

確認しようと目を懲らしたミツコは、その隙間が急に暗くなり、眉根を寄せた。

それは、暗くなったと言うよりは、黒い何かで塞がれたかのような、そんな急激な変化であった。

しばしそこを見つめていたミツコは、リビングから入っていく光を遮り、吸収しているそれが、黒い布である事に気付く。

その視線を少し上にずらすと、隙間の上部に、赤銅色が少しだけ見えた。

ミツコが色違いの部位に気付いた直後、ドアが音もなく押し開けられる。

最初にドーベルマンが、次いで水牛が、最後に、同僚とミツコの視線に気付いて振り返った男が、気配のない侵入者に気付

いた。

首を曲げてドアを潜り、のっそりと室内に入って来た男は、見上げるような巨漢であった。

眠っているマサオ以外の視線を受けているのは、黒いスーツを身に纏い、左目を眼帯で覆い隠した、赤銅色の巨大な熊。

2メートル半はありそうなその巨体は、長身のドーベルマンよりさらに高く、屈強な水牛よりも幅と厚みがある。

正面から入ると何かと面倒だと考えたランゾウは、マンションを警護するセキュリティの守備範囲外であるルートを辿って

この部屋を訪問している。

要するに、僅かな凹凸のある外壁を、道具も使わずによじ登って来たのであった。

部屋の中に足を踏み入れたその瞬間に室内の状況を把握したランゾウは、相手のいずれもレリックは所持していない事を確

信する。

「な、何だお前!?」

見上げるような巨体に圧倒されつつも、声を上げた水牛が伸縮式の警棒を腰の後ろから引き抜き、ソファーの横手側へ回り

込む。

ドーベルマンは上着の前側をバッとはだけ、胸にベルトで固定していたサバイバルナイフを二本引き抜き、身構える。

相手が上げた誰何の声にも応じず、ランゾウは受諾した指令内容を反芻する。

−アガタの妻子が無事であれば救出し、居合わせた敵対者は全て始末せよ−

最悪のケースも想像していたが、幸いにもアガタの妻子は無事であった。

二人の救出を実行し、敵対者を抹殺する前に、ランゾウはただ一言だけ、ポツリと漏らす。

「葬(はぶ)る…」

オールバックの男が立ち上がり、銃を向けるその刹那、巨熊の体が沈み込むように低くなり、左腕が水平に振るわれた。

身を乗り出しつつ平手打ちするようなその動作を、しかし把握できた者は当の巨熊以外には一人も居ない。

他者からは、静から刹那の動、そして静へと移ったランゾウの動きは、コマ落としのように始動直前と停止後しか見えてい

なかった。

平手打ちの動作で振るわれたランゾウの左手、指四本で、頭部の中央を灼きながら毟り取られ、握り潰され、絶命した男の

頭は、横から見ればコの字に近い形状になっている。

巨体が高速で動いたことで掻き回された空気が、突風となって部屋の中を吹き荒れる。

思わず目を閉じたミツコの腕の中では、マサオが騒ぎで目を醒ます。

開かれたばかりの男の子のつぶらな目は、崩れ落ちる男の上を飛び越え、自分達の上を通過してゆく熊の巨体を、何が起こっ

ているのか認識できないままに映していた。

跳躍したランゾウの方も、男の子が目覚めた事を確認している。

そして、その巨体が宙にある一瞬の内に、トモエが命令ついでに言っていた注文を頭の中で反芻した。

−できれば、子供にはあまり惨い情景は見せないようにね?頼むわよ−

「…承知…」

低く呟いたその時には、繰り出された跳び足刀が水牛の喉を捉え、喉仏や気管ごと首の骨を粉砕している。

一瞬で葬った水牛の体を踏みにじるようにして床に倒しつつ、ランゾウが着地したその時、ドーベルマンはやっと反応を示

した。

手にしたナイフを大きく水平に振るったその腕は、しかし振り切る前に途中で止まる。

巨大な手で手首を掴まれたドーベルマンは、自分よりも遙かに背の高い相手に、驚愕の視線を向けた。

見上げるような巨躯に黒ずくめ、そして隻眼の巨熊。

ドーベルマンは、相手の正体に心当たりがある事に、今更になって気付いた。

強大な力を誇る、歴史ある古い組織の盟主が死去した事で、組織同士のパワーバランスが崩れたこの街や近隣では、丸一年

以上もの間、幾多の組織が支配権拡大を狙い、水面下の暗闘を繰り広げている。

盟主を喪った後の内部抗争と分裂で疲弊し、大幅に弱体化したその組織は、そのまま消えゆくかと思われたが、今年度に入っ

てから急速に勢力を拡大している。

その組織が抱える腕利きの暗殺者の事もまた、今年度に入ってから急速に広まっている。

目撃者が極めて少ないものの、挙げられる特徴は共通していた。

相手が噂の暗殺者である事を確信した次の瞬間、

「砕腑(さいふ)…」

ランゾウが呟くと同時にドーベルマンの体はガクンと前のめりになり、俯せに床へ崩れ落ちる。

ドーベルマンの手首を掴むと同時に、その胸に素早く当てられたランゾウの右の平手は、軽く叩いたかのようなその動作で、

胸腔内を破壊し尽くしていた。

接触のタイミングで瞬間的に力場を発生、即座に破砕。それによって発生した衝撃を伴う特殊な打法。

肋骨を折り、その破片と圧迫によって心臓を中心に周辺をズタズタに破壊しつつ、外見上は無傷で仕留めた相手の襟首を、

ランゾウは無造作に掴み、吊し上げた。

そして、首が折れた水牛の上に被せるようにして放り出す。

折り重なって倒れている獣人達は、血の一滴も流しておらず、ただ気を失っているようにすら見えた。

次いでランゾウはソファーを回り込み、事切れているオールバックの男を見下ろす。

顔面をえぐり取って殺したこちらはどうしようもないので、見えないようにして担ぎ上げ、隣室に放り込んでドアを閉め、

ミツコとマサオの目に触れないようにする。

トモエの注文通りに事を済ませたランゾウは、ソファーに座ったままの、アガタの家族に向き直った。

何が起こっているのか理解できずに硬直し、それでも息子を護るように抱き締めているミツコと、その腕の中からキョトン

とした顔を自分に向けているマサオを見遣りながら、ランゾウは携帯を取り出し、短縮ダイヤルでトモエを呼ぶ。

繋がった事を確認したランゾウは、一言も発する事なく携帯を耳から離してソファーに歩み寄る。

そして、固まっているミツコの傍で屈み込むと、ずいっと携帯を突き出した。

差し出されている携帯と隻眼の巨熊の顔を、困惑顔で交互に見比べたミツコは、

『…ミツコ!?ミツコ!マサオ!無事なのか!?』

携帯から聞こえる、叫ぶような夫の声に気付き、息を飲んだ。

「ぱ〜ぱ?」

マサオが顔を上げ、母の顔を窺う。

ランゾウはミツコの手に押し付けるようにして携帯を渡すと、テーブルの上の電話機へと視線を向けた。

ファックス兼用の電話機には、四角い箱のような機械と小さなモニターが繋げられている。

それは、かかってきた電話を逆探知する機材であった。

アガタの妻子に手が及んでいる事は確実だと考えたトモエは、アガタの妻の携帯や宅電へ直接連絡を入れる事を避け、アガ

タにも自宅への連絡を禁じた。

電話は恐らく探知用の機材に繋がれ、かければ高確率で割り出される。

相手の規模や場合によっては、位置情報まで与えてしまう事態にも繋がりかねない。

トモエは相手がそういった逆探知を仕掛けてくる事も見越し、アガタの居場所が知られる事を避ける為、直接の連絡役とし

てランゾウを向かわせたのである。

連絡と同時に、アガタの家族の救出と保護を行う為に。

ランゾウの携帯とトモエの携帯をそれぞれ借り、電波越しに涙声で言葉を交わす夫婦。

交わされる声に耳を傾けながら、ランゾウは自分をじっと見つめているマサオの顔を眺めていた。

殺害される前に保護する事はできたが、二人を無事に屋敷まで連れて行くまでが、ランゾウの任務である。

既にモチャが車を出し、こちらに向かっているが、妨害も覚悟しなければならない。

屋敷までつけられる訳にはいかないため、先程そうしたように、しつこい追っ手は排除する必要がある。

ランゾウは玄関側のドアへと歩み寄ると、壁にもたれて太い腕を組み、仁王立ちになる。

できればすぐにでも移動したかったが、事情も知らせないまま無理矢理連れて行く訳にも行かないので、アガタ達の話が終

わるまでは動けない。

周囲の気配を探りながら、ランゾウは静かに目を閉じた。

そんな巨熊に、マサオは好奇心旺盛なきらきらした目を向けていた。



二時間ほど後、厳重な警備が敷かれた烏丸の屋敷の中、アガタ一家は涙を流して再会を喜んだ。

豪華な客室を用意されたアガタが、長男を寝かしつけ、妻に事情を話しているその頃、

「お疲れ様、ランゾウ。よくやってくれたわ」

手入れの行き届いた庭が見渡せる三階の洋室で、トモエは任務を果して帰還した隻眼の巨熊を労っていた。

ソファーに座るトモエと低いテーブルを挟んで向き合ったランゾウは、毛足の長い絨毯に直接腰を下ろしている。

普段着である甚平に着替えた赤銅色の巨熊は、手にした一升瓶に直接口をつけてラッパ飲みすると、「ぶはぁ…」と大きく、

満足気に息をつく。

任務中は全く無表情が無かった顔は、心なしか弛んでいるようにも見えた。

酒瓶をゴトンとテーブルに戻すなり箸を掴むと、こよなく愛するインスタントの四角いカップヤキソバをガフガフと掻き込

み始めるランゾウ。

その豪快な食いっぷりを眺めながら、微笑を浮かべたトモエはカプチーノが入ったカップを静かに口元へ運ぶ。

「それで、相手はどう?出来るヤツだった?」

洗い晒しのジーンズに、ボディラインがはっきり判る薄い黒色のタンクトップという格好になったトモエの口調は、アガタ

の対応をしていた時よりも少し砕けている。

トモエの問いに、ランゾウはソースヤキソバを口に詰め込んで頬をパンパンに膨らませたまま、黙って首を横に振った。

「そう?重要な役柄だから手練が当てられているかもって思ってたんだけど…、違うの?」

頷いたランゾウが高級酒を惜しげもなくラッパ飲みし始めると、トモエは右手で口元を覆いながら軽く目を閉じ、頬に指を

這わせて、ブツブツと呟き始める。

「あてがわれた者の実力を測れれば、あちらの人材の質がある程度把握できるかもしれないと期待していたのだけれど…、カ

タギの素人相手とタカをくくって、それほどでもない者で間に合わせた?アガタさん自身を追跡していた連中も、質は大して

良くなかったようだし…、追っ手に力を入れたという訳でも無い様子…」

目を瞑りながら呟き続けるトモエを、山積みになったカップヤキソバの一つを開封し、ポットから湯を注いでいるランゾウ

が、半眼にした右目で眺めている。

他者の前では、思索を巡らす際には黙り込むトモエだが、今は口に出して考えを纏めている。

一方、普段は気配すら希薄になるほど静かな巨熊もまた、部屋に二人だけしか居ない今は、騒々しい程の音を立ててヤキソ

バを啜り込んでいる。

「裂くべき所に力を裂かない…。あるいは裂けない…。どちらにしても、こう評価できるわね…」

しばしの間、口調すら変えてブツブツ呟いていたトモエは、すぅっと薄く目を開け、静かに続けた。

「今回の相手である製薬会社側の責任者は、素人も同然の取るに足りない相手だわ」

ランゾウは黙したまま、首肯する事で同意見だとトモエに伝える。

「大型化した企業が「裏」と繋がりを持って、秘匿技術に手を出す事は時々あるけれど…、それにしたって遣り方は色々ある。

レリックの研究許可を取った鼓谷や、政府公認で極秘に平和利用している黒須のように。あちらはいずれも筋を通して「裏」

に踏み込んでいる…」

国内トップクラスの大財閥の名を例に挙げたトモエは、すぅっと目を細め、険呑な光を瞳に宿した。

「連中は初めから派手に動き過ぎた。「裏」の住人は、騒々しい新参者を歓迎するほど心が広い者ばかりじゃないわ…。マナ

ー違反のペナルティーは、身をもって学んで貰いましょう」

方針は定まった。全ての判断をトモエに委ねており、特に意見をする事も無いランゾウは、顎を引いて頷く。

「けれど、相手は県内屈指の企業…。あそこが存在しているお陰でこの街に落ちるお金も大きい。アガタさんの話によれば、

恐らく無関係な社員が大半だという事だし、完全に潰すのは心苦しいわね…。その点に関しては少し考えてみようかしら」

言葉を切ったトモエは表情を緩めると、口調を先程の若干砕けたものに戻し、ランゾウに尋ねた。

「ところでそのお酒、サキが選んできたのよ?高級品らしいけど…、どう?美味しい?」

まだ湯を注いだばかりのカップヤキソバを片手に、じっと見つめていたランゾウは、トモエにそう問われると、顔を上げて

軽く首を傾げる。

「いつものお酒の方が口に合う?」

ランゾウは普段飲んでいる、お気に入りの安酒の味を思い出しながらコクリと頷いた。

この巨熊、最初に口にした物が好みになる。

つまり、最初に食した安いインスタント茶漬けに愛着を覚え、最初に口にしたカップのヤキソバに執着し、最初に味わった

質より量の日本酒が好みとなっている。

最初に高級品から口をつけさせさえしなければ、食う量が量なのでかなりの経費節減になる。

「本当に好みが安上がりねぇ…。サキが聞いたらちょっとがっかりするかもよ?」

トモエはそんな事を言いながら、面白がっているように微笑を浮かべた。



一方その頃、ハーフパンツにランニングシャツというくつろぎスタイルに着替えたモチャは、フラフラと屋敷内を歩き回っ

ていた。

心当たりがある場所は何ヶ所も見て回っているのだが、目当てのものがなかなか見つからない。

まさかこの時間には居ないだろうと思いつつも、厨房を覗いてみたモチャは、

「サキは〜ん!」

表情を弛緩させ、猫なで声を上げた。探していた人物の姿をようやく見つけて。

声を耳にして振り向いたのは、背中の中程にまで達する長く艶やかな黒髪をポニーテールに纏め、真っ白い頭巾を被った若

い人間。

使用人の制服の上から真っ白なエプロンを纏っており、生クリームの入った絞り袋を手にしている。

「モチャ様。お疲れ様です。まだお休みになられていなかったのですか?」

微笑みかけられたモチャは、美貌の使用人の顔を細めた目に映しつつ、ますます表情を弛緩させる。

「いやぁ、何や眠れへんのでこうしてウロウロ…。今夜は何作ってはるんですぅ?お手伝いしましょかぁ?」

「ありがとう御座います。ですが、もうクリームを乗せるだけですので…」

屋敷の使用人であり、同時にトモエの秘書役でもあるサキは、歩み寄ったモチャに微笑を浮かべながら頭を下げる。

小柄なモチャよりサキの方がやや背が高い。

が、かなり太っているあんこ型のモチャは、スレンダーな体付きをしているサキと比べれば、倍近いボリュームがある。

「このような時間に厨房までお越しになられたのは…、何かお探し物でしょうか?申し付けて頂ければお持ちしますが…」

「や、平気ですわ。…めっかりましたさかい…」

応じたモチャは、相変わらず緩んだ笑みを浮かべつつ(実は、探しモンはサキはんやったんで…)と、心の中で付け加える。

「ところで…、サキはんこそ何でまたこないな時間に?もう2時でっせ?」

モチャが視線を向けた先には、カラメルソースがかけられた、鮮やかな卵色のプディング。

「お嬢様が、少し考え事をしたいとおっしゃられまして、お夜食にと…」

「へぇ。…アガタはんの件やろか…?っちゅう事は、まだやらなあかん事がぎょうさんあるんやろな…」

自分達のボスが思索を巡らせる際、好んで甘い物を食べる事は、屋敷内の皆が知っている。

それが真夜中である事も多いので、何故太らないのか?と不思議にも思っているのだが。

「今夜中に案を纏めて、明日には幹部の皆様を招集なさるおつもりだそうです」

「なるほど…。もしかして、アガタはんのデータにあったレリックらしいモン…、結構重要なモンやったとか…」

「さぁ…?わたくしは拝見しておりませんので…。どんな物なのでしょう?」

「う〜ん…。口止めされとらんし、どうせサキはんも明日の会議には同席させられるんやろから、たぶん話しといても問題無

いやろ…。なんやこう、釜みたいなモンでして…」

モチャは先程データを解析してトモエに伝えた内容を、どうせ聞かされるのだからと、サキにも話して聞かせた。

「なるほど…。それにしても…、釜…?釜…ですか…。何か引っかかるような…。お嬢様が以前釜について何か…」

眉根を寄せて考え込んだサキだったが、「あ。いけない…」と、呟き、止まっていた作業を再開させる。

「余分に作りましたので、モチャさんも如何ですか?」

「ええんですか?んじゃ有り難く頂きますわぁ〜!」

嬉しそうに耳を倒したモチャは、次いで苦笑いし、突き出た腹を平手でぺしっと叩く。

「…けど、こんな時間に甘い物食べると、また肥えてまうかなぁ…」

タプンと揺れた三毛猫の腹を見下ろしたサキは、ニッコリと柔らかく微笑んだ。

「モチャ様は、お太りになられていても充分可愛らしいですよ?」

三毛猫は幸せそうに照れ笑いしつつ、

(やっぱり、嫁に貰うんやったらサキはんみたいな人がええなぁ…)

などと、胸の内で呟いていた。



そして翌日の昼過ぎ。

屋敷の地下に設けられた長方形の広間は、灯りが抑えられて薄闇に包まれていた。

その中央に据えられた巨大な長机には、二十名ほどがついている。

その部屋は、オブシダンクロウの重要な話し合いが行われる際に使用されている、秘密の会議室であった。

アガタとの密談に使われた部屋と同様の造りとなっており、盗聴などへの対策も数重に張られている。

重厚な木材を黒塗りにして仕上げた長机を囲むのは、トモエによって招集された幹部達。

それぞれがオブシダンクロウの正装である黒いスーツに身を包み、豪華な装飾の施された、しっかりとした造りの肘掛けつ

きの椅子に腰を下ろしている。

幹部達は人間と獣人が半々という顔ぶれで、全てが男性である。

だが、上座となる長机の一端、一際豪華な装飾が施された大きな椅子に座っているのは、聡明そうな顔立ちのまだかなり若

い女性…、トモエであった。

居並ぶ幹部達と同じデザインの、黒い上着にズボンといういでたちとなったトモエは、目にした者が「男装の麗人」という

単語を思い浮かべずにはいられないほど、凛々しくも美しい。

そのやや後ろ、一歩引いた位置で両脇に控えているのは、右手側にランゾウ、左手側にモチャという、直属のエージェント

二人組。

部屋の下座に当たる方向の壁には大きなモニターが設置されており、今は全員がそちらへ視線を向けている。

モニターの横に置かれた、コントロール用のデスクについているのは、艶やかな黒髪をポニーテールに纏めたトモエの使用

人兼秘書であるサキ。

モニターに映し出されているのは、アガタが持ち出したデータに含まれていた画像である。

計測用の様々な機材に接続されている、直径4メートル、高さ3メートルはあろうかという、球体を半分に切ったようなそ

れは、調理用の釜に見えた。

「どうだ?この外見に、不思議な作用を持つ粥が湧き出すという特性…、心当たりはないかね?」

トモエが言葉を切ると、スクリーンの横に立ったサキが、おずおずと口を開いた。

「もしや…、ダグザの大釜…でございますか?」

「その可能性も低くないと思っている。瓢箪から駒だな。予想外の大物が手に入りそうだ」

頷いたトモエは、サキに合図して部屋を明るくさせると、集った幹部達の顔を見回した。

「先にも話した通り、捻り潰すのは簡単な相手。…しかし、会社としての知名度と、それによって当県、ひいてはこの街に落

ちる富を考えれば、単純に潰せば良いという相手でもない…。よって、企業その物は存続させつつも、これ以上の悪戯が出来

ないよう牙を折る」

トモエが方針を告げると、幹部達は無言で頷いた。

「施設のデータは入手できている。少数精鋭で強襲をかけて施設を占拠させると共に、私があちらのトップの元を訪れて、直

接「説得」する」

「お待ち下さいボス!」

トモエの声を遮って太い声を上げたのは、おそらく五十代半ばと思われるゴリラの獣人であった。

大量の筋肉を纏う逞しいその体は、しかし歳のせいかやや贅肉がつき、黒い被毛には白い毛が混じり始めている。

「ボスが直接出向かれる事はありません。ここは代理を立てて…」

トモエはゴリラの言葉を遮って口を開く。

「代理では効果が薄いのだよガイゼ。私が直接交渉に出向いてこそ、牽制にもなるという物だ」

口を横に引き結んだゴリラは、しかしそれでも食い下がった。

「…ですが、敵陣にボスご自身が乗り込まれるのはやはり…」

「ガイゼ」

トモエが凛としたよく通る声で名を呼ぶと、ゴリラは再び口を閉ざす。

「正直に言いたまえ。私が出向く事に反対する理由…、今実際に口にした事だけではないのだろう?」

「あ…、いや、それは…」

口ごもったゴリラに、トモエは微かな笑みを向けた。

「あの辺りは以前貴男が管轄していた区域の一つだったな…。それで責任を感じているのだろう?」

古株の幹部であるガイゼは、目を大きくしてトモエを見つめる。彼女の指摘は、ズバリガイゼの心情を言い当てていた。

「これまで一切の情報が無く、ノーマークだった企業だ。貴男が担当していた頃に動きがあったとは考えにくい。察知できな

かったのは不手際とでも考えているのだろうが…、貴男自身には全く落ち度は無い。気に病むな」

微笑を浮べたままそう告げたトモエは、「しかし…」と先を続ける。

「今言ったとおり責任が無い事は明らかだが、それでも気が晴れないと言うなら、交渉の席へ私の共を頼みたい。今回ランゾ

ウとモチャは攻める側へ回すつもりでいる。私の左右が空く事になるのでな」

体面を慮ってくれたトモエの提案を喜びつつ、ガイゼは深々と頭を下げながら、「御意…!」と短く応じる。

軽く首を捻って振り向いたトモエに、ランゾウは顎を引いて頷く。

実直な古株幹部であるガイゼは、腕も信用でき、トモエへの忠誠心も一際高い。彼としても異論の無い人選であった。

「決行は今夜。午前二時より奇襲を開始、実行部隊には一時間以内に制圧を終えて貰う。先にも触れたが、今回はランゾウと

モチャを奇襲部隊へ回す。部隊の指揮は…、そうだな。スガヤマ、頼めるか?」

「はっ!お任せ下さい!」

中年の豹が即座に応じると、トモエは顎を引いて頷いた。

「メンバーの選抜は任せる。ランゾウとモチャも上手く使ってくれたまえ。大釜の確保等の大まかな行動方針は、後に私を加

えて決めるとして、現場での細かな指揮は柔軟な対応に長けた貴男に委ねる。頼むぞ?」

「必ずや、ご期待にお応えします!」

制圧作戦を得意とするスガヤマに指揮を任せたトモエは、次々と他のメンバーに細やかな指令を下してゆく。

奇襲に際しての外部からの見張り役の任命や、侵入、撤収ルート、手段の確保を担わせる者の決定など、一通りの事をテキ

パキと決めたトモエは、そのまま数名の幹部を残して奇襲作戦の打ち合わせに入る。

若さに不釣り合いな程の求心力と指導力を持つトモエに纏め上げられた幹部達は、集合から二時間後、与えられた役目を果

たすべく、あるいは準備に移るべく、屋敷を後にした。

最初から最後まで会議に臨席していたランゾウとモチャ、サキは、幹部達を見送った屋敷の玄関ホールで、閉じられた大扉

の前に立つ、若きボスに視線を向けていた。

「どうにか纏まったわね…」

そう呟いて小さくため息を漏らしたトモエは、三人を振り返った。

「お疲れ様でございました。すぐお茶をご用意致します」

「ありがとうサキ。私の書斎の方へ運んでくれるかしら?皆でお茶にしましょう」

先程までの凛々しい表情を消したトモエは、柔らかな微笑を浮かべて三人を労うと、大きく伸びをした。

「あ〜疲れたっ!甘い物が欲しぃ〜っ…!」



「粥が無限に湧いてくる釜…でっか?そらまぁお得やとは思いますけどぉ…、レリックやって思うたら、凄いようなそうでも

ないような、微妙な能力でんなぁ…」

ソファーに腰掛けてプリントアウトされた写真を見ながら、胡散臭い物でも見るような顔で首を傾げたモチャに、

「その伝承通りだとすれば充分凄いわ」

と、出窓の縁に寄り掛かったトモエは、ブルーベリージャムが乗ったクッキーを囓りつつ応じた。

「上手く使えば食糧問題を一挙に解決できるもの。けれど、恐らくそのままの性能じゃあないはずよ」

トモエにランゾウ、モチャとサキの四人が集まっているのは、トモエの個人的な書斎である。

大きめのワイシャツにジーンズという私服に着替えたトモエの脇では、床にあぐらをかいた甚平姿のランゾウが、大きな丼

から鮭茶漬けをサクサク掻き込んでいる。

一方で、二人と同じく私服に着替えたモチャと、仕事中のため使用人の制服を着たままのサキは、並んでソファーに腰掛け

ていた。

四人が集まった手狭な書斎は、重要な資料等が収められた屋敷の大書斎に対し、小書斎と呼ばれている。

トモエが愛読している小説がずらりと並べられた本棚が、入り口と窓を除く壁を占領していた。

なお、トモエの個人的な蔵書は、八割以上がかなりグロいスプラッタ込みのホラーで、残る二割未満がサスペンス物という

怪しげな偏りを持つ。

「そのままの性能やないて、どういう事でっしゃろ?」

首を捻ったモチャに、トモエは指先についたブルーベリーを、子供のような仕草でペロリと舐めてから応じた。

「アガタさんが言っていたわよね?実験で粥を摂取させられた動物は、攻撃的になったりもした…、って」

思い出しながら頷いたモチャと、その横で紅茶を空になったカップに注ぎながら興味深そうに耳を傾けているサキに、トモ

エはここまでに考えてきた事を話して聞かせた。

「古来、粥っていう物はね、地域や文明によっては、軍隊を維持する糧食の代名詞でもあったのよ。兵士達を餓えさせず、し

かも傷を癒やし、好戦的な性質を与える粥を無限に生み出す大釜…。一歩兵が歴史に名を残していた時代においては、立派な

戦略兵器だったはずよ」

「はぁ〜…。そう言われると、確かにえらいモンやて思えてきますなぁ…」

言われてみてから改めて考え、実感してウンウン頷くモチャに、トモエは軽く顔を顰めながら先を続ける。

「ただし、伝承とは違って、大釜は無条件に無限の粥を供給してくれる訳じゃないらしいわ。粥を生み出させるために必要な

物があるのよ。その必要なもの…、「対価」によって生み出される粥の成分が変わるから、アガタさんは成分の分析なんてさ

せられていたのね」

「対価…でございますか?わたくしなど、お釜と粥という事から、材料が必要…などと考えてしまいましたが…」

「…鋭いわねサキ」

トモエがポツリと漏らすと、サキは整った顔にキョトンとした表情を浮かべる。

「全くその通り。必要な対価っていうのはつまり材料とも言い換えられるわ。ただし、とんでもない材料よ…。あんなえげつ

ないレリック…、どんな存在が作ったのかしらね…」

不快げに呟いたトモエをモチャとサキがじっと見つめるが、彼女はそれ以上説明を続けようとはしなかった。

ただ一人、ランゾウだけは興味を示さず、トモエが話している最中に立ち上がり、テーブルの上の電子ジャーから米を空に

なった丼によそい、こよなく愛する低価格インスタント茶漬けをサラサラとふりかけてポットから湯を注いでいた。

我関せず、とばかりにマイペースに間食を楽しむ巨熊は、再びトモエの脇にどっかと腰を下ろし、茶漬けを食べ始める。

「…けれど、どんな代物だろうと、性能そのものには大して興味は無いわ。効果が少し判っただけで利用する気はもう失せた

し…。重要なのは、大釜がエリンの秘宝の一つであるという事よ」

じっくりと茶漬けを味わっているランゾウに視線を向けると、トモエは目を細めて微笑む。

「これで三つ目…。バロールにかかっている封印は、四分の三が解ける事になるわ」

顔を上げたランゾウは、無表情のままトモエの顔を見遣り、口周りについた米粒を舌で舐め取りながら頷いた。

レリックの価値や機能については、詳しくも無いし興味も無い。

ただ、己の奮う技の源流が、元々はそれらを素手で破壊する事を目的に編み出された物だという事は、育ての親から聞かさ

れている。

永い時を経て本来の目的から外れ、既にランゾウの代では別の事に主眼を置いた形へと変化しているものの、決して退化し

てしまった訳ではない。

ひともレリックもその他のモノも、仔細無く葬る技へと変化しただけの事である。

「さて、作戦開始までまだ時間はあるけれど、準備は早めにお願いね?ランゾウ、モチャ。…まぁ、ランゾウは準備する物も

無いか…。今夜に備えて予定は全てずらしたから、後は自由行動にして構わないわよ」

「ほな、ワイはパパっと準備済まして来ますよって、失礼さして頂きますわ。ごちそうさんですサキはん」

隣に座るサキに、弛んだ顔でホニャ〜っと笑いかけると、モチャは「よっこらせっ…」と立ち上がる。

いちいち大変そうに立ったり座ったりするモチャの様子が可笑しいのか、サキはクスリと小さく微笑む。

そして、使用人もまた立ち上がると、トモエとランゾウへ深々と一礼した。

「それでは、わたくしも仕事に戻らせて頂きます。片付けには後で参りますので、どうぞごゆっくり…」

頷いたトモエの横でも、丼を空にしたランゾウがのっそりと動き、ドアへ向かって歩き出した。

「ランゾウは部屋で過ごすの?」

トモエの問いに一つ頷いた巨熊は、そのまま音も無く部屋を出て行った。

後に続く形でドアの前に立ち、モチャとサキが一礼して部屋を出てゆくと、トモエはクッキーを齧りつつ、小さく呟いた。

「ランゾウにも困ったものね…。最近は前にも増して引き篭もりがちになっちゃった…」



「最近のランゾウ様、お部屋で過ごされる時間が多くなっているような気がするのですが…、何かご趣味でもお作りになられ

たのでしょうか?」

並んで廊下を歩きながら、サキは自分よりも背が低いモチャに尋ねた。

「あ〜、ランゾウはん、仕事の時以外はあんまり外に出まへんでっしゃろ?なもんで、流行っとるネトゲ紹介したったんです

わ。意思疎通がチャットやから、キーボードに慣れるまで大変やったようですけど、興味持ってくれはったらしゅうて、連日

マニュアルと睨めっこしながらパソコンに向かってますわ」

「ネットゲーム…?」

MMORPGっちゅうヤツですわ。まぁ、顔も知らん全国至る所のプレイヤーと遊べるロープレでんな。ランゾウはん、チャッ

トやとちゃ〜んと喋らはりますんで、最初は違和感バリバリやったわぁ〜」

カラカラと笑った三毛猫は、唐突に足を止めたサキの横で、同じく立ち止まって首を傾げた。

「どうかしはりましたん?」

「いえ…、わたくしも、新しいご趣味が出来るのはとても良い事だと思うのですが…」

サキは一度言葉を切ると、形の良い眉をひそめ、小さく首を傾げた。

「ネットゲームに夢中になられては…、かえって外出なさらなくなってしまわれるのでは…?」

モチャは「あ」と声を漏らすと、耳を倒して困ったような顔になる。

「…ま、まぁ…。お嬢はんにも勧めたんですけどな?たま〜に一緒にやってはるみたいやし…、外出も促してくれはると思う

んですけど…。あっちゃ〜…、外出嫌いが悪化する可能性までは考えてへんかったわぁ…」

引き篭もりがちの巨熊が、自室で背を丸めながらパソコンと向き合い、延々とネットゲームに興じている姿を、背後からの

視点で細やかに脳内再現したサキは、

(結構…、絵になっているような…?想像してみても違和感が無い辺り、本当の事になってしまいそうで空恐ろしいですね…)

困り顔になりつつ、胸の内でそんな事を呟いていた。