水音が響くシャワールームで、頭から湯を被りながら、三毛猫は太った体を入念に流していた。
たっぷりと手に取ったボディシャンプーを拝むように手を擦って泡立て、垂れた胸を下から揉むようにして洗う。
ぷよぷよした腕を上げて脇の下から脇腹までスポンジで擦る。
突き出た腹を撫で回し、臍にも指先を入れ、ほじくるようにして泡を塗りたくる。
短めの尻尾もヒョイと上げ、またぐらや肉付きの良い尻の割れ目もくまなく擦り、満遍なくシャワーで流す。
汗っかきな太った三毛猫は、とても綺麗好きである。
特に梅雨時の仕事明けは、屋敷の地下のシャワールームや、豪華な浴室を利用して身を清めている。
モチャ自身の立場は、オブシダンクロウ内では決して高い方ではない。
組織内の会議などでは何の発言力も持たない彼だったが、しかし総帥直属のエージェント兼ボディーガードである為、特別
待遇を受けている。
つまり、階級こそ低いが様々な特権を持ち合わせているという極めて特殊な立場にあり、勅命執行中の行動や独自判断、屋
敷内での行動については幹部達よりも制限が無い。
このシャワールームを含む屋敷内の設備の自由使用もその特権の一つ。
加えて言うならば、豪華な私室を与えられての住み込みであるという事もまた、破格の待遇である。
もっとも、もう一方のエージェントは、豪華な洋室では落ち着かないという理由から、離れの小屋で寝起きしているのだが。
「あ〜、生き返るわぁ〜…!仕事上がりのシャワーはまた格別でんなぁ!ところで…」
頭をゴシゴシと指先で揉み洗いしながら、モチャはしきりの向こうへ声をかける。
「静かでんなぁランゾウはん?どないしはりましたん?」
巨漢が静かなのはいつもの事なのだが、しきりの隣からは水音が聞こえて来ない。
訝しく思ってひょいとしきりの向こうを覗くと、まだ体が濡れていない赤銅色の巨熊は、何やら視線を下に向けている。
眼帯が外された左目は堅く瞑られており、残る右目が見つめる先には、爪先が見えないほどに出っ張った太鼓腹。
「お腹ポッコリ〜が気になりますのん?えぇやないですか、お互い健康なんやし」
気楽な口調で言ったモチャに、しかしランゾウは俯いたまま答えない。
「ワイは気にしてまへんで?…サキはん、こんなにデブっとっても可愛いゆぅてくれはりましたしぃっ…!」
短めの尻尾を立てて小刻みに揺らし、モチャは至福の表情で目を閉じ、想い人の顔を思い浮かべる。
しばし動きを止めていたランゾウが小さくため息をつくと、モチャは目を開け、胡乱げに巨漢の後姿を見上げた。
「何やあったんですのん?」
モチャの問いにも応じず、ランゾウは相変わらず無言のままシャワーヘッドに手を伸ばす。
「夏服出してみたら、ズボンが入らへんかったとか…?」
シャワーヘッドを掴む直前で、ランゾウの手がピタリと止まった。
無言で首を巡らせ、何か問いたそうに自分を見つめて来る巨熊の顔を見上げながら、
(…図星やわコレ…)
つい先日同じ目に遭った三毛猫は、心の中でボソリと呟く。
「衣替えの時期は憂鬱ですなぁお互い…。おまけにランゾウはんのスーツは、あのコートと同じで温度調節機能つきの特別製
でっしゃろ?」
巨熊の為にトモエがあつらえる外出用衣類は、いずれも極度の暑がりである着用者を高い気温等から守る特別製である。
レリックの解析で得られた技術を流用して造られる特別製のそれらは、製造の手間に加えてコストもかかる事から、そうそ
う数が無い。
その為、ズボン一着穿けなくなっただけで、ランゾウにとっては大問題なのである。
「お嬢はんに何か言われたんで?「デブるのもたいがいにせぇ!」とか?」
モチャの問いに、ランゾウは首を左右に振った。
さすがにそこまでは言われなかったものの、ランゾウの体型について寛容なトモエも、三シーズン続いた今回ばかりはさす
がに少し顔を顰めていた。
ランゾウはそれを気にしている。かなり。
生地に余裕はあったものの、その性質から普通の店に幅出し依頼はできないので、技術班に調節させる事になる。
レリックの研究と武装を開発する事が本来の仕事である部署の、その道の専門家にである。
ズボンの幅出し指令を下される彼らの心情と、それを指示するトモエの胸中を思えば、巨熊が居心地の悪さを感じるのも無
理は無い事であった。
モチャは何となくながらもその辺りの事情を察しながら、「まぁ、来年はちょっと気ぃつけましょな?」と、ランゾウを慰
める。
「お嬢はん絶対にデブ嫌いやありまへんし…、これまでランゾウはんにダイエットとか持ちかけた事はありましたん?」
モチャの問いかけに、黙って首を横に振るランゾウ。
「ホラ、肥えたかて怒った事もありまへんし、今回も怒ってはおられまへんて。それにほれ!男にとって大事なんは胴回りの
細さとかくびれやありまへんで?ホンマに大事なんはその下でっしゃろ?」
ぐいっと胸を張り、腹を突き出したモチャを、ランゾウは無言で見下ろす。
きめこまかな真っ白い毛に覆われた、肉付きが良すぎて自重で下がる、段がついた腹の下には、被毛と肉に埋もれるように
してチョコンとついている、皮を被った小振りなアレ。
一瞥するなり、興味無さげにフンと鼻を鳴らすランゾウと、そのリアクションを見てムッとしたように顔を顰めるモチャ。
「小振りな方が好きやてゆぅひともおるんでっせ!?ちっさいのも個性や!デカいばっかが価値やありまへん!」
力説したモチャは、ランゾウの肉付きのいい臀部をペチンと張る。
「ランゾウはんも、短いけどぶっといし個性的やありまへんか?まぁ、体に比べてのサイズで言うたらワイと比較してもかな
りちっさ…えぐぅっ!?」
素早く振り向いたランゾウに首根っこを掴まれ、モチャは苦鳴を上げた。
「い、いだっ!いだだだだだっ!ってちょ、放してぇな!いだだだだっ!」
首を後ろから巨大な左手で掴まれ、三毛猫は両手で首を押さえて悲鳴を上げる。
「放して!放してぇて!悪かった!ワイが悪かったんでゴメ〜ンねっ!?って何してはんのっ!?」
股間に伸びたランゾウの右手、その太い親指と人差し指でソコを摘まれたモチャは、
「あっ…、あっ!引っ張ったらあかん!あかんて!伸びてまう!悪化してまうがな包茎!」
掴まれた首を上に、摘まれたソコを下に向かってグニ〜ッと引っ張られ、伸ばされ、悲鳴を上げた。
片手で首を、もう片手で股間を押さえるが、ランゾウの腕力には敵うはずも無く、必死の抵抗は全く効果を上げない。
しばらく引っ張った後にパッとソレを放したランゾウの手は、次いでその太い親指で、ソコをググッと押し込んだ。
「ってちょ!?押し込んでもあかんて!堪忍!堪忍してやホンマ!」
ただでさえ余分な肉に埋もれているソレを、グググッと容赦なく内側に向かって埋め込むように圧迫され、じたばたともが
く三毛猫。
が、ランゾウは抵抗も物ともせず、無表情に、容赦なく、モチャの首根っこをガッシリ掴んだまま、太い右手の親指でモチャ
のソレを、消えてしまえ、あるいは潰れてしまえとばかりに押し込んでゆく。
「埋まるっ!埋まっとるてっ!埋没しとるて!ちょ、やめぇっ!そんな押し込まれたら出て来ぃへんようになってまう!く、
苦しっ!入らへん!もう入らへんてば!みぎゃぁ〜っ!」
シャワールームに、三毛猫の喘ぎ混じりの悲鳴が響き渡った。
うっかり口を滑らせ、強烈なお仕置きを食らったモチャは、それからしばし、苦痛を覚えている間は、股間の話題を避ける
ようになったとか…。