次代を担う者達へ(かんけーないおまけ)

時計の短針が午後九時を回った、カルマトライブ調停事務所のリビングで、

「あ。もうあがったのタケシ?」

モソモソとチーズケーキを食べながらテレビを眺めていた金色の熊は、入浴から戻ってきた青年に声をかけた。

「喜んでた?」

「いや、居心地が悪そうに見えた」

チームリーダーであるタケシは、事務所に滞在している上客…鼓谷の御曹司の入浴に際し、背中を流して疲労と機嫌をそれ

ぞれとるという、ユウト曰く「非常に重大な歓待ミッション」に挑んで来た所である。

「あれぇ〜?何でだろ?」

「さてな」

不思議そうに首を傾げるユウトと、「そういう者も居るのだろう」と、あまり興味もない様子のタケシ。

「反応は、どことなくユウヒさんと似ていた」

「兄さんと?」

兄の名を出され、ますます怪訝そうな顔になるユウト。

ユウトの故郷である河祖下村では、混浴が一般的である。

村を出て外の世界常識に触れるようになってしばらく経った今でも、裸を見られる事に対して殆ど忌避を覚えていない。

そして、例えば自身の兄のように、他者との入浴を避けたがる者の心中を察する事ができずにいる。

ユウトはある意味「その点」について、空気の読めない発言で度々周囲の度肝を抜くタケシと同等の理解力しか持ち合わせ

ていないのだが、これは彼女が「持たざる者」である上に男を知らない以上、仕方ないと言えば仕方がない。

ユウトと向き合って腰を降ろしたタケシは、

「食べる?」

「いや、いい」

チーズケーキを指し示した彼女に尋ねられるなり、無表情に即答した。

ユウトが食べているチーズケーキは、デザートにと自作した物である。

が、いつも通りに舌の後ろが傷むほど強烈な甘さと、甘味を通り越して苦味すら感じさせる殺人スイーツは、これまたいつ

ものように売れ行きが芳しくなく、残った大半をこうして自分で消費している。

キンジは一口食べるなり表情を無くし、そっとキヌタに押し付けていた。

しかし極度の甘党であるキヌタですら、なんとか二人分を片付け終えたものの、胸焼けでもしたのか、しばらくの間しきり

に鳩尾の辺りをさすっていた。

それでも、ユウト作成の甘痛い菓子を二人分食べおおせたキヌタは賞賛に値しよう。

味見すらしなかったタケシはそう考えている。

「あ。ハトリ君がね、音楽聴くから音が漏れるかもだけど、気にしないでくれって」

「ふむ?」

相棒の為にコーヒーを淹れてやっていた金熊が、思い出したように告げると、タケシは訝しげに眼を細めた。

「防音は万全だが…」

「うん。ちょっとやそっとの音は漏れないから気にしないでって言っておいたけど…、何でも、キーの高い歌聴くからって言っ

てたよ?」

絵画やダンス等、他の文化に対してもそうだが、音楽という物にも興味を持っていないタケシは、

「そうか」

と、さして感心を示さず頷き、ユウトからコーヒーカップを受け取ると、バニラ風味プロテインを大量に投入し、一心不乱

にかき混ぜ始めた。



一方その頃、事務所の三階廊下を、風呂上がりの若い狸が歩いていた。

背は低いが、丸々と肥えてボリュームのあるずんぐりした体躯を、柔らかな生地の桃色バスローブでくるみ、濡れた頭をタ

オルでクシクシと拭いながら。

壁に設置されている獣人用ジェットタオルで体の水気を取り、タケシからやや遅れて脱衣場を出たキヌタは、機嫌良さそう

に太い尻尾を揺すっていた。

背中を流された事を思い出しつつ、恥ずかしげに耳を寝せて。

(キンちゃん以外に、あんなふうに体に触られるの…、覚えてる限り初めて…)

恥ずかしくはあったが不快ではなかった。

少し顔を俯け、はにかんだような笑みを浮かべながら、キヌタはてぽてぽとゆっくり歩く。

タケシの股間にぶら下がっていた物を目にして、息を呑むほど驚いて固まってしまった自分と、何に対して驚かれているの

か判らず、怪訝そうにしていたタケシの様子を思い出しながら。

事務所の浴室と湯船は銭湯顔負けの広さを誇っており、普段ユニットバスを使用する事が多いキヌタにとっては嬉しいサプ

ライズであった。

機嫌良く尻尾を揺すり、タオルで頭を拭いながら、あてがわれた部屋へと戻って来たキヌタは、ドアを開けるなり目を丸く

する。

ベッドに腰掛けていたゴールデンレトリーバーは、読んでいた雑誌から目を上げ、キヌタをちらりと見遣った。

「どうしたのキンちゃん?もう寝たんだと思ってたのに…」

隣に別室を与えられているのに、負傷した足を引き摺って、わざわざ自分の部屋に来ている。

さらに言うなら、ギブスのせいで入浴もできないので、夕食の後に鎮痛剤を飲んで早々と休んだはずなのに、である。

「眠れねーんだよ。一日安静にしてたから体力有り余っててな…」

雑誌をパタンと閉じて脇に放り出すと、キンジは自分の横をポンポンと平手で叩き、隣に来るようにキヌタを促す。

大人しく従ったキヌタが隣に座ると、キンジはその肩に腕を回し、グイッと抱き寄せた。

「んうっ…!」

素早く唇を重ねられたキヌタは、キンジの舌が口内に侵入すると、くぐもった呻き声を漏らして身を固くする。

が、体が強ばったのも極々短い間に過ぎず、キンジの舌が軟体動物のような動きで口の中をまさぐってゆくと、ピクン、ピ

クンと身を震わせつつ、次第に脱力してゆく。

キヌタとキンジは、雇い主とSP、友人同士、そういった関係の他に、また別の繋がりを持っている。

それは、二人のこの行為からも判るように、恋人としての繋がりである。

二人は男同士でありながら、体を重ね合うほど親密な恋人同士でもあった。

生粋の同性愛者であるキンジが供述するに、「リミッターだけでなく他の所もイカレてる」という事になる。

半ば強引に恋人にされてしまったキヌタは、しかしそれで満足してしまっている。

元々引っ込み思案で社交的でもなかったキヌタは、ある日突然目の前に現れた、暴力的なまでに強烈な個性を持つゴールデ

ンレトリーバーのエネルギーに、巻き込まれる形で虜にされてしまっていた。

個人としての自分を認め、弱々しさを叱咤してくれて、そして何より自分を好きだと言ってくれたキンジ。

自分勝手で人懐っこく、抜け目ないのに時々お人好しで、荒々しくも優しいゴールデンレトリーバーに、篭の中の狸はすっ

かり心を奪われている。

唇を重ねたままのキンジの手が、キヌタの胸の辺りからバスローブの合わせ目に分け入り、たぷんと垂れた豊満な胸を軽く

掴む。

「んっ…、んんっ…」

口を合わせたまま、目を閉じてくぐもった声を漏らすキヌタは、首筋から背にかけての被毛をぶわっと逆立てた。

比較的太めの濃い茶色の毛が立つと、薄い灰色のきめ細かな下毛が隙間に覗き、その毛色は部分的に淡くなった。

栄養状態が極めて良いせいか、キヌタの体は毛艶が良く、ふかふかと柔らかい。

その柔らかな被毛に覆われた胸を、キンジは荒々しく揉みしだき、感触を楽しんでいる。

「き、キンちゃ…、だ、めぇ…」

抱え込むように金色の腕が回された首を引き、やっとの事で口を離したキヌタは、キンジの目を間近に見ながら、それ以上

の行為を拒絶した。

「クマシロさんやフワさんに…、聞こえちゃうよぉ…」

胸元に侵入してきた手をバスローブ越しに押さえながら、キヌタがそう告げると、

「へー…?ほー…。ふぅーん…」

キンジは片方の眉を上げながら、恋人の顔をしげしげと眺め回し、

「そーゆーことゆーんだー?おめー…」

ゆっくり、わざとらしく間延びさせた声でそう呟く。

「あーそう。そーなんだー?」

しつこく繰り返しながら胸元から手を引き、少し身を離したキンジを、キヌタは嫌な予感に囚われながら見つめ返す。

「…き、キンちゃん…?」

おずおずと声をかけたキヌタから目を逸らし、あらぬ方向を見遣りながら、キンジはポツリと呟いた。

「風呂、気持ち良かったか?」

「え?う、うん…」

「そーかそーか。良かったなー…」

頷いたキヌタの顔を見ないまま、キンジは続けた。

「おれさー。怪我してて風呂入れねーんだよなー…」

ビクンと肩を震わせたキヌタを見ないまま、

「頑張り過ぎたかなー…?まー、仕事だからしゃーねーんだけどよー…。そーかそーか。良かったなー、気持ち良く入浴でき

て。広いんだって?んー?」

キンジは壁の方を眺めながら、クドクドネチネチと続けた。

自分を囮にして相手を誘うという手は、確かにキヌタの案である。

キンジの負傷原因の一端は、確かにそこにあるとも言えた。

が、シオンを別働隊に含めた少数精鋭での迎撃作戦という具体的なプランを練ったのは、他ならぬキンジ自身である。

その点は重々承知していながら、まるで自分には全く責任が無いかのように、キンジはチクチクとキヌタを責めた。

「こうやって足痛めて、歩くのにも不自由してるとなー、なんつーの?健康の有り難み?判るよなーホント。風呂、気持ち良

かったか?んー?」

耳を伏せて軽く項垂れ、上目遣いにおそるおそるキンジの横顔を見つめるキヌタ。

「き、キンちゃん…?あの…ゴメンね…?」

「えー?んー?何がー?」

一向に自分の方を見ようともしないゴールデンレトリーバーに、丸い狸はオドオドしながら詫びた。

「ご、ゴメンね?ぼくが向こう見ずな計画を立てちゃったせいで…」

「べっつに気にしてねーけどー?」

そっぽを向いたままのキンジに、キヌタはじりっと身を寄せた。

「え、えと…。つ、続きしたら…、赦してくれる…?」

「はー?赦すって何をだよー?」

胸の内ではしめしめとほくそ笑みつつ、しかしそっけない態度で焦らすキンジ。

「す、する…。続きするから…。ね?」

なんとか機嫌を直して貰おうと、キンジの手にぽってりとした自らの手をそっと重ね、おずおずと提案したキヌタは、それ

でも相手がこっちを向かないのを見て取ると、

「…きょ、今日は…、キンちゃんの好きなやり方で良いから…」

ついに、キンジが待ち望んでいた言葉を吐いてしまった。

「ほんとーか?」

ぽつりと呟かれたその言葉に、耳をピクリと動かすキヌタ。

「ほんとーに良いんだな?」

ゆっくりと首を巡らせ、とてもとても悪そうな顔で笑っているキンジの表情を見た途端、キヌタは身震いして目をまん丸に

する。

うっかり提案してみた事をかなり後悔しながらも、キヌタはコクリと、顎を引いて頷いた。

「よしきた。さっそくやろう!」

ニヤリと笑ったキンジの左足は、素早くベッドの下に入り込むと、小さな鞄の取っ手につま先を引っかけて引っ張り出した。

どういう訳かあらかじめ用意されていた、「道具類」が収まった鞄を目にし、キヌタはビクッと身を震わせる。

「二言はねーよな?キヌタ」

キンジは最初から怒ってなどいない。自分は見事にハメられたのだ。

この時点でやっとその事に気付いたお人好しの狸は、顔を強ばらせながらゴクリと唾を飲み込んだ。

「今日は…、た〜っぷりイヂメてやるからなぁ…」



「ひゃんっ!」

キンジは全ての準備が済むと、バスローブの帯を利用して後ろ手に縛り上げたキヌタを、ベッドの上へやや乱暴に突き飛ば

して転がした。

縛られたまま仰向けに転がったキヌタは、背中側で縛られた腕のせいで身を反らす恰好になっており、前をはだけられ、ブ

リーフも脱がされ、性器もあらわにされている。

不自然な姿勢で窮屈そうに、そして辛そうに身じろぎしつつ、怯えたような目でキンジを見上げるキヌタ。

満足げな、そしていかにも意地が悪そうな笑みを浮かべているゴールデンレトリーバーは、機嫌良さげにふっさふっさと尻

尾を振りながら、狸の両膝に手を当てて、グイッと股を開かせると、

「まずはコレからな」

キンジは手にしたその器具を、キヌタに見えるように顔の高さに上げ、フラフラと揺らした。

それは、男性器を象ったバイブレーターである。

息を飲み、反射的に脚を閉じようとしたキヌタは、しかし「ひぎゅっ!?」と声を漏らして硬直した。その股ぐらに、キン

ジの手が素早く滑り込んだせいで。

皮を被った短くて小振りな男根と、たっぷりとして大きな睾丸を纏めて鷲掴みにされたキヌタは、息を止めて、睾丸を圧迫

される物理的な苦痛と、急所を握られているという恐怖感からブルブルッと身震いした。

キヌタのソレは、大きい睾丸に極端に短い陰茎という組み合わせで、皮がだいぶ余っており、勃起しても亀頭の先端が少し

見える程度の仮性包茎である。

対して、いまだズボンの中に収まって出番を待っているキンジのソレは、完璧なバランスを誇り、長さも太さも睾丸のサイ

ズも平均を上回っている。

雄の急所を鷲掴みにしているキンジは、苦悶に歪むキヌタの顔を満足げに見下ろす。

「抵抗したら…ギュッ!…といくぜ?ん?」

涙目になったキヌタは、声も出せないまま、必死になってコクコクと頷く。

キンジが力を少し緩めると、キヌタはほんの少し楽になり、そろそろと静かに息を吐き出した。

抵抗が無くなると、キンジはあらかじめ出していた小さな容器のキャップを外し、指にぬめりのある液体を塗りつけ始める。

ローションでぬめった指を肛門にあてがわれたキヌタは、そのひんやりとした感触に「ひんっ!」と悲鳴のような、か細く

高い声を上げた。

ヒクヒクと痙攣する肛門に、待ちきれないとでも言いたげに手荒く、乱雑にローションを塗りつつ、キンジは喜悦に口元を

歪める。

それは、信頼する相手に向ける馴れ馴れしいほどに人懐っこい笑みとも、敵に向ける好戦的で獰猛な笑みとも違う。

強いて言うならば、お気に入りのオモチャを手に、「さてどうやって遊ぼうか」と思案しつつ、期待で胸を膨らませている

子供のような笑みである。

ただし、その頭の中身は無邪気と言うには程遠く、あからさまに劣情をもよおしつつ快楽を求めているのだが…。

丁寧とは言い難い、雑な前準備をそこそこに切り上げると、さっそく肉棒を象った器具を掴み、先端をひたりとキヌタの尻

にあてがう。

そしてキンジは、僅かな遠慮も一切の容赦もなく、その器具を荒々しく一気に中へと送り込んだ。

「いっ…あぁぁぁああああああああああああああああっ!」

侵入したバイブがもたらす圧迫感と、肛門が一気に押し広げられた苦痛によって、首を反らしたキヌタの喉から甲高い悲鳴

が迸った。

「ひっ!ひんっ…!ぐ…!き、キンちゃ…、あっ!痛…!く、苦し…!」

あまりほぐしもせず、ローションで少し湿らせただけの肛門がギリギリと痛む。

ろくな前準備も無しに異物を一気に奥まで突っ込まれたキヌタは、しかしそれを一度抜く事は勿論、一息つく事すら許され

なかった。

それは、尻に突っ込まれたそれの根本を掴んでいるキンジが、左右に揺さぶって腸内を掻き回し始めたせいである。

「ひっ!?ちょ、ちょっと待っ…、ひにゅっ!いうううううっ!」

キヌタの高い声で気をよくしたのか、キンジはニヤリと笑みを浮かべると、尻に挿入した器具とコードで繋がっている、四

角いコントローラーを手に取る。

そして、そこについている丸い摘みを、「MAX」という文字が記してあるポイントまで、一気に捻った。

ブルルっと身震いしたキヌタは、腹中で突如発生したその震動が、感じた直後に最大になると、

「あ…ん…?ふあっ!ふなぁああああっ!」

口を大きく開け、高い声を上げた。

が、その声も長くは続かない。

腸内から腹へ、周囲の臓器へと伝播する強烈な刺激によって力が抜け、腰がガクガク震え、勿論腹にも力が入らず、声がか

細く掠れる。

「えっ…う…!ふ…!ふひゅ…!んっ、ふ…、うぅっ!うんんっ…!あひっ…!」

後ろ手に縛られたまま、ベッドの上で身をくねらせて悶えるキヌタを、キンジは満足げな表情で見下ろしている。

狸の特大ふぐりをぶら下げた短い男根が、刺激を受けてゆっくりと立ち上がり、先端からトロトロとよだれをこぼし始めて

いる。

「き、キンちゃん…!ひにゅっ…!と、止め…て…!はぁ…!」

体の左側を下にして横向きに転がり、硬く目を瞑り、身悶えしているキヌタの懇願を、キンジは当然のようにスルーした。

そして、鞄から次なる器具を取り出し、ニンマリと笑いながら強引に股を開かせ、素早く着用する。

抵抗する間もなく、やけに手慣れた様子でスムーズに強制装着させられたそれを、仰向けのキヌタは首を起こして何とか確

認する。

直後、その丸顔が盛大に引き攣った。

半立ちになった自分の陰茎に、ベルトでバイブが固定されている様を目の当たりにして。

「ま、まま待ってキンちゃん!だめぇっ!お、お尻だけで…!お腹熱くなって…!こ、これ以上は…もぉ…!」

必死になって懇願するキヌタに、キンジは微笑みを返した。

「そーかそーか。大変だなー。んじゃ行ってみよー。…スイッチオン」

「おにゃぁああああああああああああああっ!」

新たに装着した器具によって今度は前を直接刺激され、キヌタはベッド上で大きく身を反らした。

ほぼブリッジの姿勢になるまで身を仰け反らせ、身悶えしているキヌタを、キンジはニマニマと満足げに笑いながら見下ろ

している。

そして、ギブスで固定された足を苦労しながら上げ、硬い足裏をキヌタの股間に当て、ぐぐっと体重をかけた。

睾丸が圧迫されて苦しい上に、器具の遊びが無くなって震動がより強く伝わり、苦しげに首を左右に振るキヌタ。

「あぁあああああっ!はっ、はぐっ!んひゅぅっ!」

「いーのかよおい?あんまりでかい声上げたら、クマシロさんとフワさんが見に来るぜ?んー?」

「え、えぇっ!?はにゅっ!だ…、だったら!ちょっと…、ひゅぐっ!緩め…てぇ…!」

「まさか襲撃が!?って、ドア蹴破って入って来るかもなぁ?」

「や…!やぁあっ!むぐ…!んむぅうううっ…!」

プレッシャーをかけるキンジはしかし、客室はきちんと防音されている事をユウトに確認しており、音が漏れていてもあま

り気にしないでくれとまで伝えている。

キンジが同室すると宣言している事もあり、センサー付きの窓を破られるか、明らかに異常な衝撃でも感知しない限りは、

二人が部屋に来る事は無いはずであった。

しかしキヌタはそんな事を全く知らされておらず、必死になって声を押し殺そうと努め、口を引き結んでいる。

硬いギブスで覆われた足で股間をグリグリと踏みにじられるキヌタは、実はしかし、その顔に浮かぶ苦悶の表情とは裏腹に、

苦痛以上に強い快感で呻いていた。

以前からそうキンジに接されて来たからなのか、あるいは元々そういうケがあるのか、キヌタは陵辱されると興奮するとい

う性質を持っている。

前と後ろから与えられる震動刺激。加えて、急所たる股間を踏みにじられているという屈辱と恐怖による興奮から、キヌタ

の贅肉太りした体は、小刻みに震えつつ脂汗を垂れ流す。

「おーおー、こんな硬くしちまってよー。嬉しいのかキヌタ?ん〜?」

「ひゅっ…!ふにゅぅうっ!」

「マラ棒踏みにじられて喜ぶなんて、ホントMなのな、おめぇ」

「ふ…、んぅっ!んん〜っ…!」

キンジの言葉に、しかしキヌタは喘ぐばかりで返事ができない。

丸く膨れた腹が荒い息で上下し、半勃ちの陰茎は大量の先走りでヌラヌラと濡れている。

そろそろ頃合いと見計らったキンジは、キヌタの股間から足を除けた。

「ふあぁ…!」

圧迫から解放されると同時に、求めるような声を上げたキヌタにニヤリと笑みを投げかけ、キンジはベルトに手を掛けた。

黄金色の手がバックルを外し、ボタンを外し、ジッパーが引き下ろしてゆくその過程を、涙を溜めた熱っぽい目でじっと見

つめるキヌタ。

ズボンを膝まで下ろし、股間が盛り上がったトランクスを目の当たりにし、そのハカハカと荒かった吐息が、高まる期待と

興奮でさらに乱れてゆく。

「欲しいのか?ん〜?」

「う…、んん…!」

相手の望みは重々承知しているにもかかわらず、意地の悪い問いを投げかけるキンジに、キヌタは呻きながら顎を引いて頷

いた。

「欲・し・い・か?」

「…う、うん…」

「えー?なにー?聞こえねーなー?」

本当はしっかり聞こえているのだが、キンジはあえて焦らしにかかった。

「ん…う…!ほ…、ほし…」

「もっとはっきり、でけー声で言って貰わねーと、欲しいかどうか判んねーなー?」

ゴクリと唾を飲み込み、前と後ろからの刺激に耐え、掠れた声を漏らすキヌタ。だがその弱々しい声は、キンジの上げた声

で遮られてしまう。

「き…、キンちゃんの…チンチン…、ちょ…、ちょうだい…」

キヌタが恥じらいながらもそう言うと、声を漏らしたキヌタに、キンジは耳の脇に手を当てつつ、大きく身を乗り出した。

「はぁ〜ん?聞こえんなぁ〜?」

「だ、だから…」

「はぁ〜ん?き・こ・え・ん・なぁ〜っ?」

「き、ききっ、キンちゃんのチンチン…!ちょうだいぃっ!」

目をぎゅっと瞑り、恥を堪えてキヌタが声を上げると、キンジは満足げに口の端を吊り上げ、

「よぉ〜し。そこまで言うならくれてやるか。嬉しいか?んんっ?」

「う、うぅ…んっ…!き、キンちゃ…、はや…く…!」

目を硬く瞑ったままブルブルと震え、声を絞り出すキヌタを見下ろしながら、トランクスを下ろし、嬉しそうに尻尾を振る

キンジ。

「お〜お〜淫乱狸が、盛っちまってまぁ…」

「ち、ちがっ…、そうじゃな…く…!も…もももぉ…、ぼくっ…!も、漏れちゃ…」

喘ぎが激しくなっているキヌタが、小刻みに体を震わせながら訴えると、キンジは慌ててキヌタの股間につけたバイブと、

尻に埋まっているバイブのスイッチを切った。

が、開放は一足遅かった。

なぶられ、焦らされ、弄られ、心身共に頂に達したキヌタは、屈み込んでバイブのスイッチを切ったキンジの顔が、自分の

股間と対面していたそのタイミングで、

「ひにゅぅうううううううううううううんっ!」

「わっぷ!?」

ドプッと、勢い良く射精した。

「ぶぇっ!ぺっぺっ!こ、この早漏野郎っ!いきなり出しやがってっ!」

偶然とはいえ顔射を決められ、ティッシュで顔を拭いながら悪態をつくキンジ。

が、疲れ果てたキヌタはハァハァと荒い息を吐くばかりで、弁解もできずにいる。

「…さっさと先にイっちまいやがって…。まぁいい。こっからは…」

キンジは目をギラギラさせて凶悪な笑みを浮かべると、余韻に浸っているキヌタを、体の下に横から手を入れて、ちゃぶ台

でもひっくり返すようにして乱暴に転がした。

「んぶぅっ!」

後ろ手に縛られたままのキヌタは、俯せに転がされると顔をベッドに埋める形になり、くぐもった呻き声を漏らした。

「き、キンちゃ…、ひんっ!」

息苦しくなり、顔を横に向けたキヌタは、キンジが何も言わずに尻にはまったままのバイブをグポッと引き抜くと、堪らず

に声をあげた。

その、バイブを抜いたばかりの尻の穴に、ゴールデンレトリーバーは人差し指と中指を揃えて突っ込む。

「んあぁっ!いたっ!痛ぁい!そんな乱暴に引っ張っちゃいやぁっ!」

「腰上げろキヌタ」

揃えて突っ込んだ指で尻を無理矢理上に引っ張られ、キヌタは悲鳴を上げつつもぞもぞと動き、苦労して尻を上げた。

手を背中側で縛られたままなので、ベッドについた両膝と、胸と頭で体を支える、尺取り虫のような恰好になっている。

肛門から指を抜き、そのムッチリとした尻を抱えるようにして腰を抱いたキンジは、そのままキヌタをずりずりと引っ張り、

体の向きを変えさせた。

強引にベッドの横側に尻を向け、縁に膝を乗せる体勢にさせられるキヌタ。

ギブスが邪魔で片足を曲げられないキンジは、そうする事でようやく具合の良い高さを確保すると、硬くいきり立った標準

以上のサイズを誇る見事な逸物を、物も言わずにキヌタの尻にあてがい、ぐいっと乱暴に腰を突き出した。

「いびゃあああああああああああああああああっ!」

尻に突如突っ込まれた、熱く脈打つ硬いソレの感触に、キヌタは堪らず悲鳴を上げた。

今し方バイブを抜かれたばかりのキヌタの尻は、既に受け入れ体勢が整っている。

とはいえ、それよりもやや大きいキンジの逸物を、一気に奥まで押し込まれたのでは堪らない。

顔を横に向けたキヌタは、「あっ!あっ!」と、断続的に声を上げながら、尻の痛みと堪えがたい圧迫感から出た涙をポロ

ポロと零す。

繋がったまま前屈みになり、キヌタの体に後ろから覆い被さって抱く恰好になると、体の脇から腕を回し、狸らしい太鼓腹

の下側をまさぐり始めた。

「ひ…、んぐっ…!ふ…!」

キンジが動く度に直結している部位から刺激が加わり、キヌタはブルルッと体を震わせる。

やがてキンジの手は、キヌタの肉棒に括り付けられたままだったバイブを乱暴に外した。

そして、刺激で再び硬くなり始めたソコをピンと指で弾き、キヌタの背に熱い吐息を吐きかける。

「まーた硬くなって来てるぜ?えぇおい?気持ち良いのか?ん〜?」

「う…、ふぅ…、ん…、んんっ…!」

目をギュッと閉じ、背中と縛られた腕にかかる吐息のこそばゆさに、切なげな呻き声をあげて身震いするキヌタ。

胸と肩、そして膝で体を支えるキヌタの、自重で下向きに張り出した腹を、キンジは下に潜り込ませた手で軽く揺すった。

分厚い脂肪に覆われた腹が、軽く押しただけでタプン、タプンと揺れ、ゴールデンレトリーバーは楽しげに口元を緩める。

「ほんとウォーターベッドだなおい?どこもかしこもやわっけーの」

「んにゅぅ…」

皮下脂肪と柔らかな被毛に覆われた腹を掴まれ、揉まれ、揺さぶられてくすぐられ、キヌタは甘えるような声を漏らした。

やがてキンジはゆっくりと、小刻みに腰を動かし始める。

尻の異物感と圧迫感も薄れたのか、キヌタの息は切なげに乱れ、感じているらしい鼻にかかった声が、よだれの零れる半開

きの口から漏れている。

キンジの手が胸に移って揉みしだき始め、腰使いが次第に激しくなるにつれ、キヌタの吐息に高い喘ぎ声が混じりだした。

「へっ…!へっ…!どーだキヌタ…?んー…?気持ちいーか?えぇ?」

「あっ…!あっ…!キン…ちゃ…!」

「気持ちいーのか?わりーのか?はぁ…!どっちだおい?答えねーと…、そら…!抜いちまうぞっ…!」

「あ!やぁっ…!ん…!気も…、ひんっ!いぃ…!気持ち…いぃよぉ…!もっと…、もっとぉ…!」

キヌタの言葉に満足し、気をよくしたキンジは一層激しく腰を振り立てた。

キンジの身を包む金色の長い被毛が、ひと繋がりの流れのようになって揺れる。

汗で湿った引き締まった尻が、ふっさりとした尻尾が、腰を動かす度、まるで本物の黄金のように光を反射した。

後ろ手に縛られている丸々と肥えた狸の体は、キンジの動きに合わせて前後にタプタプと揺れる。

キヌタは顔を横に向けたまま、頬がベッドを擦る感触も縛られた腕の苦しさも忘れ、薄く開けた口の端からヨダレを流しつ

つ、眉間に皺を寄せていた。

しっかりと目を閉じ、一見すると苦悶しているようにも見える表情を浮かべているが、実際には深々と貫かれる感覚に酔い

しれ、快感を貪っている。

荒い吐息と、湿った音が部屋に響く中、二人は登り詰めていった。

「あっつ…い…!お腹…あっつい…!ふぁっ…!キンちゃん!キンちゃぁあああん!ぼく…ま、またっ…!出ちゃうぅっ!」

「なんだ…よ…!はぁ…!一回出したのに…、もうかぁ…!?」

下卑た笑みを浮かべるキンジは、しかし散々キヌタを弄って自らを昂ぶらせ、十分に助走をつけている上に、絶頂が近いキ

ヌタの肛門がぎゅぅっとすぼまり、締め付けが強くなって来た事で、口と態度ほどには余裕が無い。

「仕方ねぇ…なぁっ…!そら、もっと腰上げろ!」

「あひんっ!イく…!イっちゃうぅっ!」

「イくぞ?おれもイくぞぉ!思いっきりブチまけて、腹ん中…、種汁まみれにしてやるからなぁ!」

「はっ!はぁ…!き、キンちゃ…んっ…!キて…!一緒に、キてぇっ…!ひにゃああっ!」

「んぐぅうううっ!」

キヌタが一際高い声を上げて達したその瞬間、キンジもまた食い縛った歯の隙間から押し殺した声を上げつつ射精していた。

「あっ…!あっ…!ああぁ…!」

注ぎ込まれ、腹中を叩く熱い精液の感触に、キヌタはブルブルと身を震わせつつ、自らもシーツの上に体液を吐き散らす。

軽く仰け反り、身を強ばらせて歯を食い縛っていたキンジは、ビュクッ、ビュクッと、数度にわたった射精を済ませると、

キヌタにのし掛かるようにして後ろから覆い被さり、くたっと脱力した。

いまだに堅さを保っているキンジのソレが、本人の動きに合わせて腸壁を擦り、前立腺を刺激し、達したばかりのキヌタは

「ひぃ…」と、弱々しい声を漏らす。

「はぁ…、はぁ…、ど…どうだ…?良かったか…?」

いまだ繋がったまま後ろからかぶさり、うなじに荒い息を吹きかけて問うキンジに、キヌタは言葉を返す代わりに、「ひゅ

ん…」と、鼻にかかった、泣き声のようにも聞こえる返事をした。

「そーかそーか。良かったか」

キンジは気をよくして、疲労感と気怠さの浮いた顔に、満足げな笑みを浮かべる。

キヌタが、まともな返事もできない状態である事が、何よりはっきりした返事であった。

キンジはキヌタの尻から腰を離し、自慢の男根を引き抜くと、「ひんっ!」と声を上げたキヌタの腕から縛めを外す。

そして、力尽きてぐしゃっとベッドに突っ伏したキヌタの横へ、自らもドサリと、疲れ切った体を投げ出した。

俯せに潰れたキヌタは、とろんとした顔を横に向けてキンジを眺めながら、

「キンちゃん、足…、痛くない…?」

「全然平気」

即答したキンジだったが、これは強がりである。

キンジはそうと見られないよう振る舞っていたが、実は行為の最中にも、負傷した足が相当痛んでいた。

片足の踏ん張りがきかず、しかも痛みに耐えながらの行為は、彼の体力をかなり消耗させている。

が、キヌタはその答えをすっかり信じたらしく、ほっとしたように小さくため息を吐き出すと、もぞもぞと動いてキンジに

擦り寄り、恋人の胸に顔を埋めた。

「…脚…、気をつけるから…。一緒に寝てくれる?」

美しい金色の被毛に覆われている、鍛えられ、引き締まった恋人の胸に鼻面をすり寄せ、キヌタはおずおずと、甘えるよう

な声音で尋ねた。

そんな恋人の頭を眺めつつ、

(我慢できなくなってやっちまったが…、怪我は大した事ねーってアピールにもなったか…。…さっすがおれ…!狙ってねー

のに、一石二鳥か三鳥は行くもんだな)

キンジはほくそ笑みながら、言葉で返事をする代わりに、キヌタをギュッと抱き締めた。

願いを叶える為に歩まねばならないのは、茨ですら羽毛の感触に等しく思える程の、辛苦に満ちた険しい道。

前途に幾多の困難が待ち受ける二人は、しかし今は、束の間の幸福を噛み締めていた。

互いが傍に居れば、どんな苦難も乗り越えられる。

いつかきっと、静かに、平穏に、二人での暮らしを掴む事ができる。

そう信じてぴったりと寄り添い、抱き締めあうキンジとキヌタには、互いの温もりが、未来への確かな保証のように思えて

いた。