幕間 「夜伽」

 神代熊鬼は自他ともに認める「好きもの」である。

 好みと見れば成功率度外視でとりあえず口説きにかかるほど女好きで、衆道も嗜む両刀使いでもある。若い時分から「そち

ら側」は奔放にやって来ており、その事は他の神将や御庭番にも知れ渡っている。

 だが…。

「ふむ…」

 ユウキは顎を撫で、お猪口を取り上げ、口元に運び、クイッと煽って空にして、お猪口をテーブルに戻し、そしてすぐさま

酒を注ぎ直して…。

「…ふむ…」

 もう一度お猪口を取り上げ、同じ動作を繰り返す。

 それから左手を顔に寄せ、頬を摘み、思いっきり抓り…。

(「痛ぇ」…だと…!?)

 痛覚が正常に働いている事を確認してから、向き合う格好で座っている金髪碧眼の若い女性に目を向けた。真ん丸になった

目を。

 俯いているフレイアは、ミネラルウォーターのボトルを落ち着き無く弄っている。

 十数秒前、彼女の口から出た言葉をユウキは反芻した。

 

―私…、おじさんの事…、好きになっちゃった…かも…―

 

(いや…。いやいやいや…)

 苦笑いしてかぶりを振るユウキ。

(これっぽっちで酔うとは参ったのぉ…、歳を取ったもんじゃ)

 聞き間違いとして処理し、自分が酔っ払っているだけだと考え、「済まんな、よく聞こえんかったわい」と、聞き直したユ

ウキは…。

「だ…、だから…!私、おじさんの事、好きになっちゃった…、って…!」

 俯いたままボソボソと漏らしたフレイアの言葉を聞き、ユウキは眉間をキツく揉む。

(困ったのぉ。相当酔っとるなぁ…。そんなに飲んどらんはずじゃが…)

 耳を疑うレベルを通り越し、聞いた事を全く信じないユウキは、

「済まんのぉ。だいぶ酔っとるようじゃ、もう一回…」

 と、耳を倒してヘラヘラ笑い…。

「もう!意地悪しないでよ!」

 少し顔を上げ、怒ったように上目遣いで睨むフレイア。

 熱を帯びた眼差し。紅潮した頬。上気した吐息。それらを感じながらもユウキは…、

「まぁたまたぁ~!そうからかうもんじゃないわい!」

 冗談だと断じてカラカラ笑った。しかし…。

「からかってない!私は本気!」

 身を乗り出したフレイアは、恥じらいを堪えた懸命な表情で訴えた。

「!?!?!?!?!?」

 ズギューンッ!…と、ユウキの胸を何かが貫いた。

 神代熊鬼は自他ともに認める「好きもの」である。

 好みと見れば成功率度外視でとりあえず口説きにかかるほど女好きで、衆道も嗜む両刀使い。若い時分から「そちら側」は

奔放にやって来ており、その事は他の神将や御庭番にも知れ渡っている。

 だが、相手から言い寄られるのは初めての経験だった。

「本気の、本気だよ…?」

 フレイアの少し潤んだ瞳で、さらにズキュン!とユウキの胸を何かが突き抜ける。

「私、今までずっと…、男のひとに興味無かったし、例え恋愛する事があったとしても、まだまだ先だと思ってたけど…」

 目を伏せたフレイアが恥を忍んで打ち明ける、その言葉と声音がズギュンズギュン!とユウキを滅多打ちにする。

「私…、初恋しちゃったみたいだ…」

 仰け反ったユウキの胸から脳天までを何かがダキューン!と貫通する。

「こんな気持ち…。おじさんが、初めてなんだ…!」

 ドギューンッ!と胸の真ん中を貫かれて、物理的な衝撃を受けたように前のめりになり、口をあんぐりとあけたユウキは、

言うべき事を言い、恥かしさに顔を伏せて俯いたフレイアをまじまじと見つめた。

(お、おおうっ…!?ほ、本当の本気で現実で事実で真実かこりゃあ…!?何を間違うたら儂の何処をどう気に入ると…!?)

 顔を真っ赤にして黙り込んでしまったフレイアを前に、ユウキは疑心暗鬼でどぎまぎおろおろする。口説く際にはかなりア

グレッシブに攻める割に、自分が攻められるとなったら障子紙並みの脆さである。

「…お…、おじさんは、どう…?」

 俯いたまま声を絞り出すフレイア。

「お、おうっふ…!?」

 変な声しか出ないユウキ。

「…わ、私みたいなの…、好みじゃ…ない…?」

 緊張を帯びて声が震えるフレイア。

「お、おふおっ!?」

 首をブンブン激しく横に振るユウキ。

 まともな返事が出てこない事でどんどん不安になるフレイアは、意を決してユウキの顔を上目遣いに窺い…、

「……………」

 胸やら首やらうなじやら、ボリボリ掻き毟る挙動不審な巨漢の姿を目撃する。

「そ、そんなに嫌なのっ!?」

「ちっ、ちちちち違うど!?そいなごってねぇでばな!」

 両手を前に突き出してブンブン首を振るユウキ。動揺のあまりお郷訛りが表面化している。

「お、お嬢ちゃんにそいなぐ言われっと、わ、悪ぃ気はしねぇな…!ぬふふっ!」

 平静を装おうとするユウキはしかし、お猪口に注ごうとした酒をタパタパ零す、判り易過ぎる動揺っぷり。浮かべた助平笑

いも心持ち引き攣っている。

「だ、だったら…!」

 一度声を詰まらせたフレイアは…。

「叶えて貰うお願いはっ!」

「お、おおうっ!何じゃろ!?」

「わ、私を…!…だ………」

 声が途切れ、ユウキは「…「だ」?」とフレイアを窺い…。

「抱いて下さいっ!」

 意を決して放たれたその言葉で、手を滑らせた。

 ゴッ…と音を立てて床に落ちた酒瓶が、トットットッ…と中身を吐き出してゆく。

「あ!?ちょ!?」

 慌てて瓶を拾い上げたフレイアは、テーブルに戻しながらユウキの顔を窺って…。

「……………」

 巨熊は汗だくになりながら、魂が抜けたような顔でポカンとしていた。

「べ、別に結婚して欲しいとかそういう事じゃなくて…!」

 弁解するように口を開いたフレイアは、ポツポツと語る。

 自分はおそらく、普通の家庭は持てない。

 結婚して、子供を産んで、幸せな家庭で毎朝キッチンに向き合う…。そんな生活を想像してみた事もあるが、その夢想には

自分というピースが全く嵌らない。

 普通の女性らしい幸せも生涯も、自分には縁遠いと実感している。

 子を産み、育み、送り出す人生も、夫を支え、愛し合い、共に歩む人生も、きっと自分には似合わない…。

 能力者であり、ハンターとして生きる事しか考えて来なかったし、実際、編み物よりも犯罪者の捕縛が、料理よりも危険生

物の解体が得意。

 交わされる銃火の下、切り結ぶ刃の下、硝煙と血飛沫に塗れてしか生きられない社会不適合者…。苛酷な環境下、命を獲り

に来る危険と隣り合わせでなければ生きている実感を味わえない自分が、平和な家庭や生活に馴染めるとは思えない。

 けれど、それでもこれは…。

「もしかしたら…、最初で最後の恋かもしれないから…」

 フレイアは押し黙る。ユウキはずっと黙っている。耐え難い沈黙が三十秒ほど過ぎて…。

「…や、やっぱり…、私みたいな娘は好きじゃないよね…」

 ふぅ、と息を漏らしたフレイアに、

「そ、そんな事ぁねぇっ!」

 我に返って反射的に応じたユウキは、途端に難しい顔になった。

(約束は…、約束じゃ…。指きりまでしとる…。反故にするのは沽券に関わるが…)

 考えたのは、フレイアが「嘘」を言ってはいないかという事だった。

「なぁ、お嬢ちゃん…」

 ユウキは気を静めて問う。

「「約束通り願いを叶えて貰う」…、そんな風を装って、儂を喜ばせたいって考えたんじゃったら、そりゃあ嬉しくはあるが

余計な気遣いじゃ。そこまで義理立てするこたぁねぇんじゃが…」

「それは…」

 フレイアは反論しかけ、一度言葉を飲み込んだ。

「確かにおじさんが喜んでくれたら、私もその方が嬉しいよ。返しきれないぐらいの恩がある…。でも、それが目的じゃない」

 一度、二度、深く頷いてフレイアはきっぱりと言った。

「私は…、「初めて」はおじさんがいいって、そう思ったんだ…」

 恥らいつつもそれを堪え、真っ直ぐな目と言葉で気持ちを伝えるフレイア。

 その視線を受けながらしばし考え込んだユウキは、葛藤の末…、

「ほ…、本当に…、儂みてぇなのに最初に抱かれても、後悔せんのか…?」

 まるで初心な若人のように、横に視線を逃がしながらボソボソと小声で確認した。

 

 シャワーを浴び直したフレイアは、白いガウンを纏ってベッドの縁に腰掛けて俯いていた。揃えた脚の上に置いた両手は握

り締められている。

 浴室から聞こえていた水音が止むと、その拳がピクリと震えた。

 間もなく、体を乾かしたユウキが戻ってくる。

 どうしてだろう?とフレイアは自問した。

 男の知り合いは多い。ハンターを目指して学ぶ間も、ハンターになってからも、周りは男だらけだった。才能に溢れた若い

男も居るし、経験豊富なベテランも居た。ハンサムだと思った男も少なくないし、好意をもって誘われた事もあった。

 だが、フレイアはそれらに興味が湧かなかった。ひととして、ハンターとして、尊敬したり好感を抱いたりした事はあって

も、異性として意識する事はなかった。

 それが、たった数日共に過ごしただけの、ハンサムとは言い難い年増の熊を相手に、恋に落ちてしまった。

 頼りになる相手であり、感謝もしている。仕事の上で好感を抱いた部分は確かにあるが、それ以上に…。

(甘えたかったのかな?私…)

 フレイアは腕も立ち、精神的にも強靭である。仲間達と協力する事はあっても、頼り切るまでは行かない。何せ仲間の中で

彼女が最も強いのだから。

 昔からそうだった。見下げていた訳ではないが、周囲の男達に頼る必要がなかった。

 前だけ見て突き進む彼女は、安らぎも癒しも求めず、それらを与えてくれる人物も必要として来なかった。

 ところが、プシュケーに事実上の敗北を喫し、死に瀕したフレイアは、自分を救い護ってくれた巨熊に慰められ、力付けら

れ、助力されて、初めて心地良い安らぎを感じた。包み込むような懐の深さに、頼もしくも優しい腕に…。

 浴室の空調の音が変わり、浴室のドアが開くと、フレイアは小さく喉を鳴らした。

「済まん済まん!待たせたのぉ!」

 のっそりと出てきたユウキは首にタオルをかけ、褌一丁の格好。しっかり洗って乾かした被毛は空気を孕んでフカフカに立

ち上がり、衣服を着用している時よりも体が大きく見えた。

「図体がでけぇ分だけ手間取っちまうんじゃ」

 おどけた調子で言いながらおもむろに冷蔵庫をあけ、ミネラルウォーターのボトルを掴み上げて一気飲みしたユウキは、フ

レイアに並んでベッドに座る。

 体重を受けて派手に軋んだベッドが大きくへこみ、フレイアの体は少し斜めになった。

「…あ~…。本当に…、良いんじゃな?」

 真っ直ぐ壁を見ながらユウキが問う。

「途中で止めるのは殺生じゃ。何せお嬢ちゃんはめんこいからのぉ、本気になっちまうわい…」

「…うん…。お願い…」

 短く応じたフレイアは、傾きに身を任せるようにユウキの腕に寄りかかる。

(相手から言い寄られるってぇのは、尻を追っかけ回すのと全然違うのぉ…)

 フレイアの細さと軽さを感じながら、ユウキはポッと顔を熱くさせ、視線を上に向けて鼻をコリコリ掻いた。

 その腕がそっと、フレイアの背に回る。

 自分の胸に頭を預けさせるように抱え、金色の髪に鼻を寄せたユウキはシャンプーの香りを嗅ぎ取った。背中から回ったそ

の大きな手は、くびれたラインを描く脇腹にガウン越しに触れて、そのままゆっくり上に移動し、たわわな胸に下から軽く添

えられる。

 ピクンと震えたフレイアは…。

「あの…」

「何じゃ?」

「こ、こういうの、初めてなんだ…。だから…、優しく教えてね…?」

 分厚い胸をズギュン!と射抜かれて軽く仰け反ったユウキは…。

「あっ!」

 グイッと抱き寄せられたフレイアの、口から漏れたその声は、すぐに途切れた。

 上を向く格好になったフレイアの口を、巨熊の顎が覆い隠す。顔を90度、互い違いに傾かせる形で、まるで食らいつくよ

うな深い接吻を交わすユウキ。口を漱いでなお喉に残る酒の香りが、フレイアの鼻腔をくすぐった。

 長くて深い口付けは、これがファーストキスになるフレイアには刺激的過ぎた。

 身を硬くし、震えるフレイアの口内を、ユウキの分厚い舌がまさぐる。バナナの房のような手がたわわな乳房を揉みしだく。

 フレイアが漏らす呻きすら飲み込み、貪るような口付けは一分近く続き…。

「…っぷはっ!」

 やっと口を離されたフレイアは、大きく息をつく。

「接吻も初めてじゃったか?」

 間近で顔を見つめながら、今の口付けを通して答えを知っているユウキが意地の悪い質問をする。が、このからかいが通じ

るどころか…。

「…そうだよ…。おじさんが初めて…」

 恥かしがりながら素直に小声で応じられ、またもハートを直撃された。

(まずいのぉ…。夢中になっちまう…!)

 初々しさにすっかりのぼせて、ユウキはフレイアを抱え上げると、ベッドへ仰向けに、優しく押し倒した。

 太い指がガウンの紐を摘んで解く間、フレイアは反射的に抵抗しそうになる両手を意図して押さえつけた。

 白い布地が左右へ広げられると、あらわになったその肢体を映すユウキの目が細められる。戦士として鍛えられた体だが女

性特有の薄い脂肪を纏い、若い肌には張りがある。白く美しい肌はその腕前を物語るように、激戦を潜り抜けてなお目立つ傷

を負っていない。肩や肘などに微かに残った内出血の跡は雪崩に飲まれて負ったものだが、それもいずれは消えるのだろう。

(たまらんのぉ…)

 重力に引かれて横へ流れる、体格からすればやや大きい胸。その乳首に鼻面を寄せ舌を這わせるユウキ。仰向けに組み敷か

れる格好になったフレイアが鼻の奥で「んんっ…!」と呻く。チロチロと弄ぶように舌で転がされ、乳首がたちまち硬くなる。

(感度が良いのぉ…!)

 出来物な上に器量よし、そうそうお目にかかれない良い娘…。自分には勿体無い生娘だと頭の隅で感じるも、もう止める事

などできない。

 張りのある滑らかな肌を執拗に舌で舐め、声を上げさせるユウキは、縋るように伸ばされたフレイアの手が首の左を撫でる

と、その手首を咥えて甘く噛む。

 野生的な、獣が昂ぶりまぐわうような愛撫。舌が、牙が、白い肌に余さず触れる。

 首筋に舌を這わせるユウキの首にフレイアの細腕が回った。背中に伸びた手が指を這わせ、刺激に抗うように軽く爪を立て

る。その初々しい反応が愛らしくて、ユウキはますます熱を上げる。

 耳を甘噛みするユウキの鼻息に身震いし、鳥肌立つフレイア。こそばゆい。恥かしい。そして心地良い。初めて経験する男

の愛撫が、苦痛には慣れている彼女を容易く蕩かしてしまう。

 首から耳を貪るように味わう巨熊は、体重で潰してしまわないよう手足に重みを逃がしながらも、その胴でフレイアを軽く

圧迫している。呼吸が苦しくなるほどではない。密着して肌の触れ合いがしっかり判る程度の圧迫である。

 背に爪を立てるフレイアの手が、愛撫を返すように平手で撫でるように自分の体を探ってくると、ユウキは少しだけ体を動

かし、フレイアの腕が下に入るよう、自分が手をついている位置を彼女の頭の左右へ変えた。

 好きに触れて良い。そう態度で示したユウキの脇腹を、分厚い胸を、細指が撫でる。

「…おじさんの体…、毛も肉も、柔らかくて温かいね…」

「むふ…!こんな体格が好みじゃったか?」

 顔を寄せて耳元へ囁いた巨熊は、

「わかんない…。おじさんしか知らないから…」

 恥じらいながらも正直に語るフレイアの声で、嬉しそうに短い尾を立てる。

 感触を確かめるように表面を撫でるフレイアの手が、広い熊の胸の中から硬くなった乳首を探り当てた。初めてじっくり触

れる男の体は、柔らかく、暖かく、若くはないが…。

(ああ、これが「愛おしい」って気持ちなのかな…)

 フレイアの手は探りながら降りてゆく。四つん這いの状態にあるユウキの腹は弛んだ肉がボヨンと自重で下がり、滑らかな

曲面を描いていた。押せば簡単にへこみ、柔らかく手に密着する被毛と脂肪…。中身が詰まって重いそれは、揺すれば水袋の

ように弾み波打つ。

 曲面を撫でながらさらに下がったフレイアの手は、やがて下腹部の、曲面の終わりに達した。

 肉に段がついてくびれたそこに、食い込むようにして褌の紐が埋まっている。

「おっと、締めたままじゃったな」

 気付いて紐に手を伸ばしかけたユウキは、思い直してフレイアに囁く。

「ぬふふ…!お嬢ちゃんに解いて貰おうかのぉ」

「…え?」

「なぁに、紐が結んであるだけじゃ。簡単簡単」

 ユウキの手がフレイアの手首を掴み、腹下の段差に導く。股間が近い際どい位置へ生娘の手を引きこむ行為に、心地良い背

徳感があった。

(こ、こりゃあ堪らんのぉ…!)

 腰肉に食い込んでいる紐を探る不慣れな手。探られるこそばゆさがまた堪らない。

 ややあって、ようやく結び目を探し当てたフレイアは、土手肉ときつい結び目に苦労しながらも何とかこれを解く。途端に

紐がシュルルッと動き、締められていた褌が肉圧に負けて一気に緩んだ。

 あらわになって風通しが良くなった愚息とその周辺に開放感を覚えたユウキは、

「さて、お嬢ちゃんも脱がせんとな!」

 言うが早いかサッと身を起こし、フレイアの腰に手をかけて軽く浮かせた。

「あっ…!」

 赤面するフレイアの浅い臍下から、薄いパンティの生地が浮き上がる。肌と布地の間に潜り込んだ太い指は、毟るようにそ

れを捲り返しながら下げ、たちまち秘所をあらわにさせる。

 反射的にそこを両手で覆ったフレイアの格好を見て、ユウキは零れそうになったよだれをジュルッと飲み込んだ。反応が、

仕草が、いちいち愛らしくてそそられる。

「さて…、いよいよご開帳じゃ…!」

 堅く閉じられた太腿に手を沿え、ゆっくりと促すように力を込め、秘所を曝け出させるユウキ。未だ誰の侵入も許した事の

ないソコを、熱を帯びた熊親父の目がねっとりとした視線で観賞する。

「は、恥かしい…!」

 両手で顔を覆い、羞恥に上ずる声を漏らしたフレイアの態度で、

「ならそのままで良いぞ?初めてなんじゃ、無理せんで顔を隠しときな」

 恥かしがるその仕草までも愛おしんで、ユウキは舌なめずりしながら鼻息荒く笑う。

 太い指が秘所にそっと据えられると、フレイアの体は弾むほど大きく震えた。

 踏んだ場数は戦も情事も星の数。熟練の手つきで未開のソコを探る熊の指は、太く無骨な見た目に反して繊細な動きを見せ、

デリケートな割れ目を丁寧に優しく愛撫する。

 あ…、あ…、と声とも息ともつかぬ音を喉から漏らす生娘。秘所を弄る指が立てる卑猥に湿った音が、そのか細い喉鳴りに

重なり混じる。

 時間をかけて丁寧に愛撫するユウキの股座では、既に逸物が怒張して反り返っていた。平時は先端まで隠している厚皮は勃

起に伴って捲れてカリまで下がり、パンパンに張った亀頭が露出している。鈴口からは先走りが溢れ、タラタラとシーツへ滴っ

ている。

 ユウキのそれは、肥満体故に肉に埋って露出部分が少ないものの、熊族としては珍しい巨根である。堆積した皮下脂肪に根

元が埋まっている上に度を越して太く、なにより体が大きいので、バランス上は極端に短く見えるが、埋没していない部分の

長さは成人男性の標準レベル。ぶら下がった玉袋も大きく、ずっしりたっぷり重い。

 透明な汁で濡れそぼった陰茎は、フレイアの声や身じろぎで興奮するたびに、ひくんひくんと脈動するように揺れていた。

 充分な時間をかけて指でほぐした後、ユウキはフレイアの両脚の間に鼻面を入れる。

「あっ!」

 一際高い、鼻にかかった声が漏れ、フレイアの手が反射的にユウキの頭を押さえた。

「ダメ!そんなトコ…、な、舐めちゃ…、あ!き、汚いから…!」

「汚ぇモンかい。美味ぇのぉお嬢ちゃんのココは…!」

 ヒチャリ、ヒチャリ、音を立てて舐め上げる熊が、その舌先を割れ目に侵入させると、フレイアは声にならない喘ぎで喉を

震わせる。

 浅く体内に入った舌先が、入り口を内側まで綺麗に舐め尽くす。その未知の感覚におかしくされてしまいそうで、フレイア

は抵抗するように首を左右に繰り返し捻った。

 心ゆくまで味わった時には、フレイアの足の間は唾液と愛液でしとどに濡れそぼり、先走りが垂れ続けたユウキの股の下で

はシーツに大き目の色濃い染みが出来上がっていた。

「お嬢ちゃん、そろそろ良さそうじゃが…」

 初経験のフレイアでも、何が「そろそろ良い」のかは判った。ハァハァと喘ぐ処女は、愛撫の刺激だけで頭がどうにかなり

そうなほど。本番はこれからなのだが…。

「…止めるかの?こんなのは何も急ぐ事でもねぇ」

 股座から顔を放し、上体を上げてフレイアの顔を覗いたユウキは、優しげに微苦笑していた。

 途中で止めるのは殺生だ。と言ってはいたものの、ユウキは内心で初体験のフレイアを気遣っていた。

 充分良い目は見た。確かに生殺しだが、ここでやめても構わない。そんな気持ちで語りかけたユウキに、

「止めないでよ…。私は、「最初のひと」は、やっぱりおじさんがいい…」

 フレイアは潤んだ目と震える声でそう訴えた。

「…そうか…」

 顎を引いたユウキは、のしっと、フレイアの上に覆い被さった。

「じゃあ、最後までやらせて貰うかのぉ…」

 息を止めるフレイア。もぞもぞと位置を調整したユウキの胸が彼女の顔の上に来る。

 動かされたユウキの腰の下で、フレイアの秘所に熱い塊が据えられる。

 避妊具は使わない。そもそも双方とも用意してきていない。純粋であるが故に衝動的な性交である。

「入れるぞ。力を抜いて楽にしとくのがいいのぉ。最初はちっと我慢じゃ…」

 フレイアがコクンと頷いたのを、胸の感触で確かめたユウキは、グッと腰を出して…。

「あ…、んっ…!」

 口を引き結ぶフレイア。太くて堅くて熱い、恐怖すら感じさせる感触が、濡れたソコを押し、拡げ、中へ、中へ、中へ…。

「あああああうっ!」

 堪らず声が漏れた。怒張しきったユウキの肉棒がキツい。痛くて苦しくて辛くて熱くて、そして…。

「んっ、うううっ…!」

 苦痛にまさる満足感が、それ以上にあった。

 男に抱かれている。出逢ってからまだろくに時も経っていない、しかし生まれて初めて身を許したいと感じた男に。自分の

中に男の一部が入って、確かに自分達は繋がっていて…。不思議な感覚は、しかし自分を内から満たしてゆく。

「少しこのまま、慣れるまで待つかの…」

 堪えるフレイアに、一度動きを止めたユウキが囁く。顔を見て、耳元で囁く事ができない体格差がもどかしかった。

 しばらく待って、フレイアの呼吸が落ち着いてきてから、ユウキは「もう少し入れるが、大丈夫かの?」と囁いた。

 再び頷く感触があったと思うや否や、構えたフレイアの秘所がギュッと締まり、「おっほ!」と高い声が熊の口から漏れた。

「力を抜いとかんとキツいぞ?楽にするんじゃ、らく~にな」

 正直締め付けはヨダレが溢れるほど気持ち良いが、フレイアの身が優先である。

 最初の男になる光栄を享受する以上、癖になるほど楽しませてやれねば男が廃る。まかり間違ってトラウマにでもしてしまっ

たら、自分を選んでくれたフレイアに申し訳ない。…というのがユウキの考え。色事好きだからこそ、来る者拒まずの節操無

しだからこそ、相手と情事そのものには真摯。それが神代熊鬼という男である。

 フレイアが努めて脱力を心がけ、ユウキは少しずつ、少しずつ、気遣いながらゆっくりと、肉棒を彼女の奥へと進ませた。

かなり時間が経っているが、若くもないユウキの陰茎は萎える兆候もなく、本人に疲れも見られない。じっくり時間をかけた

末、ようやく、フレイアの股にユウキの腰が密着した。分厚く堆積した脂肪層が、被毛が、処女の園を完全に覆い隠している。

「頑張ったのぉ、お嬢ちゃん…」

 ユウキのその声を、フレイアは体で聞いた。

 細腕は太い熊の胴を抱えている。回りきらないほど太いので、掌は背骨の窪んだラインまで届いていない。顔は横を向き、

肉厚な胸に耳を押し当てている。胴にはユウキの腹が乗っているが、それも苦しくない程度に軽く。

 堪え難くなり、途中で縋る物を求めたフレイアへ応えるように、ユウキは体の高さを調整し、両手で縋れはしても重さで圧

迫してしまわない程度の高さに落ち着けた。

「全部入ったが、どうじゃ?」

 少し心配そうな気遣う声音に、フレイアは「不思議…」と答えた。

「おじさんのがお腹の中に入ってて…、苦しい感じもするんだけど、でも…。気持ちいいのと、幸せなのと、満足なのと…」

 嬉しい事を言ってくれる、とユウキの顔が緩んだ。

「繋がってるんだ…、これで…」

 初めて味わう感触を噛み締め、苦しさを超える喜びに、フレイアの目から涙が一筋尾を引いた。

「動いても平気かの?それとももうちっとこのままでおるか?なに、時間はたっぷりある。いつまででも…」

「いいよ。大丈夫…」

 熊の声を遮ってフレイアは照れ笑いした。

「ずっと気を遣わせっぱなしで、おじさんが疲れちゃうでしょ?私はもう、大丈夫だから…」

 気丈な科白を耳にして、ユウキはまた、体格差がもどかしくなった。

(接吻してやりてぇ気分なんじゃが、生憎と顔が遠過ぎるのぉ…)

 せめて座って抱えていればやり様もあるが、フレイアがひしっと抱きついているこの体勢で無理に顔を寄せようとすれば、

せっかく奥まで入った逸物が抜けてしまう。

「嬉しいのぉ。嬉しや嬉しや…。めんけぇのぉ。めんこやめんこや…。気持ちよくイかせてやらんといかんのぉ…」

 愛おしや。愛おしや。腰をゆっくり振りだして、急く気持ちは抑えに抑え、ユウキはゆったり巨体を揺する。

 その下で、触れているユウキの胴が肌をこすり上げる心地良くもこそばゆい感触と、自分の中に入った太い熱の塊が前後し、

奥まで貫くその感覚を、フレイアは呻きながら感受する。

 白い肌を玉の汗が伝う。

 身を重ねたユウキからも熱と汗が滴り落ちる。

 腰の振りは徐々に早く、激しくなり、それに応じてフレイアの声も高まる。

「あ…!あ、ん…!んっ!ふぅ!んぅっ…!」

 必死に声を抑えようとするフレイアがいじらしく、可愛らしく、ユウキの中で際限なく熱が高まってゆく。

 湿った音が、液体と気体が鬩ぎ合う音が、深いまぐわいの淫靡な音が、弾む息遣いに、呻きに混じる。

「ふぅ!はぁ!ふぅっ!ぬふぅ!」

 吐息に声が混じり出したユウキの下で、フレイアが「ああっ!」と背を反らす。弓なりにアーチを描く腹が、上からでっぷ

り密着した熊の腹に押さえられ、脂肪の中に沈んで密着する。

 最初は気遣いながら、慣らしながら徐々に動きを大きくしていったユウキは、やがて腰を激しく振り始めた。

 規格外の体重でベッドが立て続けに激しく軋む。腰を振るたびにユサッユサッと太鼓腹が揺れ、フレイアの締まった腹やた

わわな胸を擦り上げる。

 ビクンと、フレイアの身が一際大きく震えた。小刻みに痙攣し、呼吸が極端に浅く、早くなり、大きくあけた口からは声に

なり損ねた息が迸る。

 下腹部を内側から突き上げる熱が、ついに膣を突破したような感覚。

 内蔵を突き破られたのではないかと錯覚し、恐怖すら感じたが、それは物理的に貫かれた訳ではなく、刺激が身を貫いて脳

へ駆け上ってくる感覚だった。

 「達した」その瞬間、フレイアは停止した。

 動きも、呼吸も、瞬きも、鼓動すらも大きな一打ちに次いで一瞬止まり、見開かれた目で瞳孔が大きく開く。

 ほぼ同時に、下腹部の奥で疼きが限界に達し、ユウキも絶頂を迎えた。

「お、おうっ!んおおおおおおおおうっ!んごぉおおおおおっ!来るぅうううっ!」

 吼える熊の腹が大きく膨れ、尻に笑窪が刻まれる。力んで身震いする巨熊の陰茎から、組み敷かれた処女の膣へ子種が注ぎ

込まれる。

 ドブッ、ドブッ、と大量の白濁した液がフレイアの中に溢れ、接合部からダラダラと漏れ出した。

「…!!!」

 歯を食い縛り、背を逸らし、腰を押し付けるようにして精液を吐き出し尽くしたユウキは、しばらくしてから「ぶはぁっ!」

と大きく息をついた。

 その下で、フレイアも思い出したように激しく息をつく。

「はぁ…、はぁ…、はぁ…、けふっ!」

 肺が空気を求め、吸い込みすぎて咳き込んだフレイアの上で、

「ふぅ…!ふぅ…!…え、…えがった…!」

 ずいっと体をずらし、その下からフレイアの体も少し横へずらし、ユウキがドズンとベッドに身を横たえた。

 添い寝するように横臥したユウキは、もぞもぞと体の位置をずらして少し下に移動し、フレイアと顔の高さをあわせると、

腕枕するように太い腕を細い首の下へ。

「…どうじゃった?」

「ん…」

 ぼんやりした顔のまま、鼻で唸ったフレイアは…、

「気持ちよかった…!」

 疲労が滲む、汗に濡れた顔を綻ばせて、ユウキの尻尾を喜びでピンと立てさせた。

「ぬふふ…!お嬢ちゃんもめんけぇ声じゃった!良い具合じゃったぞ?」

 喜色満面のユウキは、金色の髪が乱れて貼り付いた額に、チュッ…、と、軽く口付けした。





「男のひとのって、こうなってるんだ…」

 交代でシャワーを浴びてすっきりした後、ベッドの上にあぐらをかいたユウキの前で、フレイアはその股座をしげしげと覗

き込んでいた。

 形状や機能は知っていたが、実物を至近距離でまじまじと見るのはこれが初めて。性交を経て吹っ切れたのか、フレイアは

全裸のままユウキと肢体を見せ合う事にも抵抗がなかった。

「ぬふふ…!珍しいもんじゃあないんじゃがな」

 物を知らない子供と同じ無垢な目で愚息を覗き込むフレイアの態度に、ユウキは新たな性癖に目覚めそうな興奮を覚えなが

ら、酒瓶片手にラッパ飲み。

「コレが中に入ってたんだね…。よく入ったモンだなぁ…」

「入れとった時はもっとデカくなっとったんじゃがな」

 物珍しげに手を伸ばしたフレイアが、厚皮を被った陰茎をチョンと人差し指でつつき、ユウキの口から「おうっふ!」と妙

な声が漏れる。

「あ、痛い?」

「痛くはねぇんじゃが、さかった後はしばらく敏感でのぉ」

「へぇ…」

「まぁ、まぐわいも初めてだったなら、野郎の体も珍しかろう。好きなように見て触って構わんぞ」

 言われたフレイアは遠慮せず、その手をユウキの胸に当ててみた。

「おっぱい出ないのに、男のひとも乳首があるって不思議だね」

 肉付きの良い豊満な胸は脂肪層が厚いだけでなく、内側から筋肉に押し上げられている。案外乳が出たりするんだろうかと、

自分の胸とサイズを目測で比較するフレイア。

「柔らかくて、あったかい…」

 胸からそっと手を下ろして、突き出た腹に触れ、広いその曲面を撫で擦る。腹側の毛は柔らかい上に密度が高く、皮下脂肪

の柔らかさもあって、手触りがいい。

 あぐらをかいた腿の付け根側からせり出し、上に乗る腹肉。それが股間に作った濃い影の中に、仕事を終えて萎えた陰茎が

沈んでいる。

 不恰好と言える肥え太り方の、若くもないしハンサムでもない熊親父。なのにフレイアは、その自分とはあまりにも違う巨

体が、落ち葉が舞う秋の道で嗅ぐような香りが、堪らなく愛おしい。

 小さく鼻を鳴らして息を吸ったフレイアを、ユウキは細腰に腕を回して抱き上げ、太腿の上に座らせた。

「んふ…!」

 照れ笑いを見せたフレイアが首に腕を回して抱きつくと、ユウキはその黄金を溶かし込んだような髪に頬ずりした。

 生まれて初めて、異性として好いた男。一晩限りの繋がりで、それっきり去って離れ離れになる…。

 笑顔しか見せないフレイアの、心に伏せたそんな切なさが、判らないユウキではない。

 ゆったりと胸を、腹を、肩を、腕を、頬を、首筋を、撫でてゆくフレイアの手が、その手触りを憶えようとしている。毛色

が薄い顎の下、肩と繋がった太い首の側面、張り出した胸の段差がある曲面、脇腹から球体のように膨れて太腿に乗る腹の土

手肉の下まで、あますところなく、感触を惜しむように…。

「暖かくて、柔らかいね」

「世の男が皆こんな体ってわけじゃあねぇんじゃぞ?若い男なら熱くて締まっとる」

 ユウキは愛を伝える言葉をあえて言わなかった。心底惚れた。欲しいと思った。だから言えなかった。

 愛しているなどと囁けば、一時の喜びと同時に永い呪いを与える事になる。だからこそ、旅立つフレイアにとって、未来あ

る若人にとって、甘くはあっても毒にしかならないだろう身勝手なその言葉を、堪えて口にしなかった。

 その代わりに、たっぷりと愛情を込めて柔肌を撫で、自分の体にも好きに触れさせた。しなやかな若い肢体を無骨で大きな

手が撫でる。あやすように、慰めるように、そして、慈しむように…。

 フレイアは先ほどああ言ってはいたが、幸せを諦めるにはまだまだ早い歳だとユウキは思っている。そう、いつかきっと素

晴らしい男性と出会い、幸せな家庭を築き、可愛い子供に恵まれる。自分には拘らなくていい。忘れていい。たまにでも、一

晩身を重ねた熊親父の事を苦笑混じりに思い出してくれたらそれだけで御の字。…だが…。

「でも私は…」

 フレイアは言う。

「この感触の方がいいな…!」

(経験も無かったくせに、嬉しい事を言ってくれるのぉ…)

 苦笑いが巨熊の顔を染め上げた。つくづく自分には勿体無い娘だと、胸がじんわり暖まると共に切なく締め付けられる。

「まだ疲れてはおらんかの?」

「うん?」

 囁きに疑問の声を返したフレイアへ、ユウキはニンマリと、いつもの悪戯っぽい顔で笑った。

「ひと勝負したら腹が減ってきちまった。幸いここらは飲み屋が多い、中華蕎麦屋も何軒か見かけたしのぉ、旅先で酒を啜り

ながら夜鳴き蕎麦を手繰るのもおつなもんじゃ。せっかくじゃからちっと外に出て頂こうかと思ってのぉ。元気があるならお

嬢ちゃんも一緒にどうじゃ?」

 夜の散歩に誘いつつ、ユウキはフレイアの耳元へ小声で吹き込む。

「…夜はまだまだこれからじゃ。食って飲んで戻ってからでも、元気があったらもう一度抱かせて貰おうかのぉ?」

「…ふふ…!」

 小さく笑ったフレイアは、ユウキの顎の下へ頭を擦り付け、厚い胸に頬をつけて頷いた。

 たった一夜の肌の触れ合い。

 だからこそふたりは、夜明けまでの短い時を、惜しみながら大切に送った。