第四十一話 「土肥のお祭り」

 窓の外から聞こえる喧騒に、紀州犬の獣人は耳を震わせる。

「神輿が通るのか…」

 湯屋通り近くのホテル、シングルベッドが面積の三分の一を占有した小さな客室内にも、祭り囃子は流れ込んだ。

 先触れの太鼓に賑やかな笛の音、一週間通す祭りの最中は、土肥のあちこちが煌びやかで騒がしく、常にも増して活気付く。

 土肥の大親分への面会申し込みは無事に通り、夕刻前には会える手筈が整った。緊張していない訳ではないが、使いの者が迎

えに来るまではする事もない。

 外観に気を使ってか、この辺りの宿泊施設は洋室であっても窓にはカーテンが無く、障子戸が嵌められている。紀州犬はその

縦長デザインの障子戸を半分開け、三階から通りを見下ろした。

 通りが提灯で飾り付けられた街並み、その車両の進入が規制された通りを、歴史ある神社の神輿と遜色ない、豪奢な飾りで煌

めく神輿を法被姿の男達が担ぎ上げ、練り歩く。

 沿道から声を注ぐ見物人に観光客。露店前で待つ人だかりも振り向き、神輿に視線が集まっている。紀州犬もその様子を見つ

めていたが、

「?」

 不意に、目の前で障子がタンッと閉じた。

 格子にかかった太い指。それに繋がる分厚い手。そこから伸びる太い手首、前腕、二の腕…。連なったそれらは紀州犬の顔の

横…右側から伸びて、障子を閉じていた。

 背後に立った何者かが障子を閉めた。その事を紀州犬が認識した瞬間に、障子から離れた手が翻り、正面から鼻先とマズルを

覆った。

「!!!」

 大きな手で鼻先から包むように握られ、声も出ない男の首に太い腕が回る。慌てて気管ごと首を圧迫するその腕を掴み、もが

く紀州犬だったが、その足は床から離れて浮き上がり、踏ん張りも利かない。

 声も出せず、呼吸もままならず、混乱の中で紀州犬は視線を横へ走らせた。

 客室の備品、縦に長い姿見の磨かれた鏡面に、羽交い絞めにされた自分と、後ろから持ち上げている侵入者の姿が映っている。

 紀州犬を背後から捕らえているのは、巨漢の鰐…イリエワニであった。

 薄くも丈夫な手袋を嵌め、コンクリートやセメントなどの建物の外壁に馴染むようなグレーのベストと長袖の作業着を纏い、

同色のズボンを穿いている。太い鼻梁に丸い大きなサングラスを乗せているので、その双眸は陰になって窺えない。

 紀州犬は必死になって暴れるが、後ろから捕らえた鰐が太鼓腹を突き出すようにして背を反らしているため、腹に乗せられて

浮かされる格好になり、床を蹴るどころかバタつかせる足に力が入らず、鰐の足を蹴る踵は軽い。

「………を、届けに来たぜ」

 ボソリと、低い声が紀州犬の耳に届くや否や、その体が鋭く横へ振られた。

 勢いと遠心力で体が浮き、首が絞めつけられながら直角に曲がり、ゴキュッ…と、嫌に軽くて心地悪い音が骨を伝って耳朶を

くすぐった瞬間を最後に、紀州犬の意識は永久に途絶える。

 ダラリと力を失った紀州犬の様子を、首を捉えたまま数秒窺った鰐は、ベッドの上にドサリと落としてから視線を走らせ、荷

物に目を止める。

 大股に、しかし足音を立てずに歩み寄った鰐の巨漢は、傍らに屈みこんで中身を引っ張り出し、周囲へ乱雑にばら撒いて散ら

かし始める。

 やがて、札入れから掴み出した十枚ほどの一万円札をポケットに突っ込んだ鰐は、空になったそれを目立つ場所…ベッドへと

放り捨てた。

 その札入れが死体の横でポスンと軽く弾み、枕の傍で止まったその時には、室内から巨漢の姿は消えている。

 部屋のドアは、一度も開閉しなかった。

 

「あれ何屋さんっス?メダカ?メダカ掬い?キンギョじゃないんス?」

 赤い提灯が連なって揺れる、夕暮れ近付く午後の街路。

 大柄なシロクマが並ぶ露店の一つ一つを興味深そうに覗き込んでゆき、ぽっちゃりした人間の少年がその後をチョコチョコつ

いて行く。

 街路灯から建物の壁、果ては長城外側まで飾り付けられ、土肥の街全体が祭り会場のようになっている秋の午後、熱海から訪

れた神代潜霧捜索所の少年達は、キジトラ猫の案内で喧騒を楽しんでいる。

 借りた浴衣でおめかしし、練り物にくじ引きにアクセサリー屋と、様々な店や街灯アトラクションなどを見物するタケミとア

ルは、前回来た時以上に賑やかな街を楽しむ。

 神代潜霧捜索所は、土肥の大親分に用事がある事もあり、祭りシーズンの街を訪れている。

 南エリアの遠征を終え、少年達は昇級に充分どころか余るほどの実績を積めた。基本的に厳しい所長も「あとはペーパーテス

ト対策だけだ」とアルを一睨みするに留め、土肥の祭りを楽しむよう言い渡している。

 そのユージンも「たまの羽伸ばし」と称していたので、個人的に楽しむ心積もりのようである。勿論、少年達が与り知らぬ所

でこっそりと。

 ヘイジは大親分と面会するユージンに付き添うが、用件が済んだ後は顔馴染みに予約を入れられて、酒飲みに誘われている。

面倒見が良い損な性分のせいで、かつての後輩達に強く出られない狸は、奢る約束までさせられていた。傍目には迷惑そうなヘ

イジだが、旧交を温めるのもまんざらではなく、嬉しさ半分と言った所。

 そんな訳で所長と副所長が別行動中の今、少年達は馴染みのキジトラ猫に世話されながら祭りを楽しんでいる。

(浴衣のタケミも良いっスね~!プニプニのお腹が浴衣の生地を丸く張らせて…、お尻も後ろにプリッと出て…、普段着浴衣!

推してみるっスか!ところで高いんスかね?ハウマッチ浴衣?)

 一緒に散策する少年の借り物浴衣姿をチラチラ窺い、股間が元気になるシロクマ。なお、生地の張りっぷりやムチムチ具合で

言えば、巨体のアルの方がよほど目立っている。

「聞いた事はあったけど…、これがたった一週間だけで片付けられちゃうんですか…?」

 ごった返す人ごみに飲まれないよう、小まめに立ち位置を変えて邪魔にならない振舞いを心掛けるタケミが問うと、引率役の

トラマルが「ええ」と苦笑した。

「最初はもっと小規模でしたし、小さな町の盆踊り大会のような規模だったんですよ。その頃は二日間でしたが…」

 ハヤタがここに拠点を定めた頃、潜霧士の慰労などを目的に始めたのが、土肥の祭りの起こりだったのだとトラマルは少年達

に説明する。

 当時は霧への恐怖や、根拠のない忌避感が今以上に強く、ひとの流れはすこぶる悪かった。そこでハヤタは潜霧に勤しむ関係

者の心身を癒しつつ、土肥の交流人口を増やし、安全性をアピールし、物流と人の流れを改善すべく、定期的に行なう祭りを企

画した。

 それが年々規模を大きくし、関係する団体や企業も増え続け、回数も増やし、二日では到底おさまらなくなった結果、今のよ

うになったのだとキジトラ猫は語る。

「この祭りの名残が沁みついて、年中通して露店が出たままになって、土肥の印象が定着して来たんです。悪くないなと皆は言

いますが…」

「何かまずいんスか?」

 トラマルの微妙な表情に気付いたアルが問うと、

「いいえ、賑やか過ぎはしないかと、時々思うだけです」

 キジトラ猫はそう言って濁した。賑やかさと金の流れに乗じて胡散臭い輩も入り込むのだという事は、祭りを純粋に楽しむ少

年達にわざわざ告げるべき話でもないな、と。

 事実、この時期には一家の若い衆や関係者が街を巡回し、「あこぎなしのぎ」をする輩に目を光らせている。

 今現在は主催者という訳ではないが、元はハヤタが発起人として始まった祭り。何かあっては大親分の顔に泥が塗られると、

不義詐欺ペテンに不当取引は許さない構えでの巡回は二十四時間体制で行なわれている。

 長年かけて虱潰しに不適切な店は物理的に撤去され、問題を起こした者は立ち入りを禁じられたため、近年ではもう不届き者

はあまり出なくなったがゼロにはなっていない。新規参入した店や、監視の目を掻い潜れると踏んだ者が何かしら問題を起こす

事もあるので、巡回する者は鋭く目を光らせており…。

「あ!ムラマツオニーサンっス!相変わらず目つき鋭いっス!」

 散策を思わせる格好で巡回している黒豚を発見するシロクマ。ムラマツの方も一行に気付いたようで、アルを目にして一度顔

を顰めたものの、歩み寄って足を止めた。

「ご苦労トラマル。客人も、祭りは楽しいか?」

「うっス!」

「は、はい。お陰様で…。案内までして頂いて、その…」

 元気に応じるアルと、対照的にモゴモゴ応じるタケミ。「そいつは結構」と応じた黒豚は、期間限定で車両規制が敷かれて歩

行者天国となった公道を眺める。

 普段から客が多い土肥の湯屋街だけでなく、メインストリートも商店街も観光客で埋まっている。田舎から出稼ぎで移って来

たばかりの頃はそうでもなかったが、今ではムラマツもこの賑わいと人ごみを眺めるのはまんざらでもない。

「祭りも明日で終わりじゃ、満喫してってくれや。…なんじゃ?」

 挨拶を済ませて立ち去ろうとしたムラマツは、自分に注がれるアルの熱い視線に気付く。

「ムラマツオニーサンも浴衣似合うっス…!」

 黒豚の浴衣はレンタルではなく自前の物で、鈍色の生地に黒の線が縦横に入った麻の葉柄。帯は鉄紺色で雪駄の鼻緒もこれに

色を合わせてある。派手ではないが洒落た取り合わせで、見るからに着慣れていた。

「祭りだからおめかししたんスね!」

「普段着じゃ」

「そうなんスか!ふだ…フダンギ!?」

 意外そうな顔と声のアルは、

「いつもダルダルの汚れたジャージとか着てそうなイメージがあっ…モゴ!」

 忌憚のない意見を述べる口を慌てたタケミに塞がれた。

 半分までしっかり聞いていたムラマツは不機嫌そうな顔をしたものの、ここで詰めても割って入ったタケミが困るだけだと文

句を飲み下し、トラマルに視線を向ける。

「騒ぎなんかは、今の所聞こえて来ない。客の案内は頼んだぞ」

「はい、お任せを。ムラマツさんの方もお気をつけて」

 互いに注意を促しつつ黒豚が人ごみの中へ消えてゆくと、「ムラマツオニーサン忙しいんスかね?」と、アルがやや名残惜し

そうな顔でトラマルに訊ねた。

「一応見回りも勤めの一つなので…。何事にも気を抜かず手を抜かないひとですから、巡回時間も長いです」

 そんなキジトラ猫の言葉を聞きながら、タケミは所長である金熊と、同行しているはずのヘイジの事を思う。土肥の大親分…

ハヤタへ挨拶に行ったふたりは、腰を据えて話せるのは夜半からだと告げられて、一度出直す事になったようだが…。

(大親分さんも、お祭りの期間は忙しいのかな?街の顔役だし、ここのお祭りの最初の発起人らしいし…)

 少年は時刻を確認し、「あの…」とおずおずキジトラ猫に話しかける。

「そろそろ、向かった方が良いでしょうか…」

「ああ、そうですね。道中混んでいるかもしれませんし、余裕があった方が安心です」

 トラマルも時刻を確認して頷くと、「ジュウゾウ君も心待ちにしていると思いますよ」と微笑んだ。

「それじゃあ、行って来ます。アル君、また後で」

「…うス」

 若干間がある返事をしてタケミを見送ったアルは、正直なところせっかくの祭りに少年と離れるのが不満なのだが…。

(たまには良いっス。オレは話が判る弟っス。わかビレオ…)

 と、少年が刀利きの河馬に会いに行くことを渋々ながら了承している。

 タケミは慣れない浴衣と帯が着崩れないか気を付けながら、賑やかな往来をスルスルと抜けてゆく。誰も気に留めないが少年

の足取りは流れるように流麗で、すれ違う誰かとぶつかりそうになっても、まるですり抜けるように避けてゆく。剣術の鍛錬と

実戦で磨かれた足捌きは、こんな場所でも活かされた。

(何か、お土産買って行った方が良いかな…)

 訪問するといつも茶と菓子を出してくれる河馬に、祭りの屋台でお返しを買って行こうかと、足を止めて思案したタケミは、

見渡した中からたい焼きの絵柄が記されたテントを見つける。

(たい焼きだったらお茶とも合うし、良いかな…)

 ジュウゾウ本人からも甘味は好きだと聞いていたので、土産に丁度良いと考えたタケミは、たい焼きの露店に歩み寄り、ふと

気付いた。同じタイミングで店に近付いた、一際大きな通行人の姿に。

「あ」

「あ」

 少年が漏らした声に、一瞬遅れて同じようなトーンで声を重ねたのは、大きなボストンバッグを脇に抱えた、アロハシャツに

短パン姿、サンダル履きのクロコダイル種。開閉式のサングラス部分を上げて丸眼鏡になったグラスを、太い鼻梁に乗せる格好

でかけている。

 藍色の目をパチパチ瞬かせて、驚いたように少年を見返しているのは、最近事務所の配達担当になった配達人。入江出海(い

りえいずみ)という名を思い出したタケミが、「こ、こんにちは…!」と少しぎこちないはにかみ笑いを向けると、イズミもニ

パッと笑みを返した。

「どうも!偶然ですねー!え~と、クマシロさん!」

 届け先の苗字で記憶していたイリエワニに、そう言えば説明していなかったなと、タケミは自分の名前を告げて、住み込みで

働いている事を説明した。

「そーだったんですか。それじゃあまあ、改めてよろしくですタケミさん!」

 分厚い手を差し出し人懐っこく握手を求めたイズミに、タケミは厚みがある手を握り返しながら、恥ずかしそうな微笑で頷く。

 基本的に人見知りの気が強くて他者と距離を取りがちなタケミだが、相手が東北出身でイントネーションに馴染んだ訛りが混

じっているせいで、若干親近感を抱いている。

「お兄さんは観光…ですか?」

「ええまあ!シフトも丁度空いたし給料入ったし、行ってみるかーってな具合で、突発観光ですよ!」

 太い尾を揺らして答えた鰐は、「ところでここ、オススメの店だったりします?」と、たい焼きが並ぶ鉄板を見遣る。

「いえ、あの、ボク土肥のお祭りに来るの初めてで、詳しくないんです…」

 少年が申し訳なさそうに応じると、「おっとー!お仲間発見!」とイズミが太鼓腹を揺すって笑った。

「実はオレも初めてみたいなもんでしてねー!前にちょこっとだけ覗きに来た事はあったんですが、その時は長居できなかった

んですよー」

 そこまで言って一度言葉を切った鰐は、スンスン匂いを嗅いで「でもまあ」とニンマリ笑う。

「美味そうな匂いにつられてフラフラ~っと来たからにゃ、ここのたい焼きが美味い事は間違いねーかなーと!うはははは!」

「そ、そうですね。美味しそう…」

 空腹な訳では無いのだが、鉄板の上で熱を放つたい焼きは美味しそうに見えて、ここのたい焼きは手土産に良いだろうとタケ

ミは顎を引く。

「あ、あの、済みません…」

「ちょっと失礼。悪いんですがオレが先に」

 おずおずと注文しようとしたタケミを遮ったイズミは、台の上に並んでいるパックを指差して「ここからここまで全部下さい」

と大量に注文する。

 「まいど」と紙袋に詰める店主がテキパキと包装して手渡すと、イズミは「じゃ」と片手を挙げて少年に笑いかけた。

「あっと…、タケミさんはこの後どこを見物するんですか?浜の方は夕方から高潮上がるらしいんで、綺麗な浴衣が潮霧で濡れ

るかもしれませんよ」

「え?そうなんですか?…でも、街中だけ見て回る予定だったので…」

「なら心配要りませんね!そんじゃ良い夜を!」

 にこやかに笑いながら大きな手をハタハタ振り、巨体と長い尾をくねらせて泳ぐようにスイスイと、人ごみの中へ去る鰐を見

送った少年は、チョコとクリームと餡のたい焼きを二つずつ注文してから気が付いた。

(置いてあった分が全部はけたから、どれも焼き立てだ…)

 イズミが保温してあった品を十数個買って行った後なので、丁度焼き上がった物ばかりが自分の手元に来る事に。

 強引に気を遣った鰐にちょっと申し訳ない気持ちになりながら、熱いので二重包装されたたい焼きを大事に抱えたタケミが店

を後にすると…。

「あん!?」

 捩じり鉢巻きの店主が眉根を寄せて、店頭の募金箱を驚きながらまじまじと見つめた。

 小銭しか入っていなかったはずの霧害救援募金箱には、いつの間にか一万円札が十枚ほど入っていた。

 

「どう思う?」

「どうて言われても…」

 一方その頃、俵一家直営の湯屋で、ユージンとヘイジはテーブルを挟んで茶を啜っていた。

 そのまま宿泊もできる和風客室を多数備えたそこは表向きは湯屋なのだが、建物の中枢付近には、いずれの階でも専用の出入

り口からしか訪問できない内側向きの拵えになっている特別室を備えている。ふたりが通された部屋はそういった特別室の一つ

で、広々としていて快適、長期間の潜伏生活にも適した造りになっている。

 建物の中心部であるその区画は、俵一家の裏表を問わない重要な客を接待、あるいは保護する、厳重な警護体制が敷かれた要

塞でもあった。

 金熊は腕を組んで難しい顔。狸も困惑した表情でタブレットを見つめている。

 到着してすぐにハヤタへ挨拶に行ったふたりは、後で時間を作って欲しいと頼まれ、その場では早々に下がった。その時に、

案内役で少年達を接待しているトラマルに代わり、臨時秘書を務める黒猫の中年から渡されたのがこのタブレットなのだが…。

「この、「保護を求めて来た人物」…、こいつがどんなモンなのか判らへんと、何とも…」

 ヘイジはタブレットに入っていた俵一家のメッセージと、添付された映像を繰り返し確認する。

 俵一家は、保護を求めてきたある人物をこの施設に匿っている。本人は、訳あって表沙汰にできない重要な情報を抱えており、

命を狙われる危険があると訴えているため、とりあえず保護下に置いているのだが、この件について相談したいとハヤタは伝え

て来た。

 添付されている画像と動画に映っているのは、二十代後半と見られる人間男性。

 名は菅山録(すがやまろく)。四等潜霧士という本人の訴えが真実である事は、既に俵一家が確認している。

「親父殿が時間を取って内密に話す事を望む以上、その「重要な情報」とやらは相当なモンだろう。公表したら混乱が生じるよ

うなモンか、それとも厄ネタか…」

「ゾッとしまへんで…」

 ヘイジはポーンという呼び出し音に反応して返事を途中で切り、ユージンは顔と耳をドアの方へ向ける。出入口付近の壁に設

置されているパネルから、臨時秘書の黒猫の声が流れ出た。

『おくつろぎ中失礼致します。大親分より、約束の会談を二時間ほど前倒ししても宜しいか、伺うよう命じられました』

「前倒し?こっちは構わんが、面会予定がキャンセルにでもなったか?」

 ユージンの問いに、黒猫の声は『正式にキャンセルの申し出があったわけではございませんが、現実的に面会不能となりまし

たので』と答える。

「…どういう事だ?」

『先程、面会予約者が二名、死体で発見されました』

 淡々と応じる黒猫の返答で、ユージンとヘイジは顔を見合わせた。

 

「別件で来た先で、立て続けに二件とは…」

 顔を顰めたドーベルマンの刑事が、ホテルのコイン洗濯機に顔を突っ込んでいる死体を見つめて唸る。

 洗濯物を取り出す途中だった洗濯機に、折れた首を突っ込んで事切れていたのは、人間の中年。土肥の駅近くにあるホテルの

宿泊者である。

「防犯カメラの映像は?」

 振り向いたドーベルマンが天井の隅に設置されたカメラを見遣りながら問うと、傍に控えた太めの長毛猫種獣人の若手が首を

横に振った。

「駄目だそうです。ガイシャがここに入ったすぐ後で、死角からコードを引き千切られて、何も映っていないと。カメラの映像

が切れたのに気付いた警備員が、様子を見に来るまで一分半もかかっていないそうですが…」

「その間に、ホシはこんな無残なホトケを作って姿を消した訳か…。他のカメラは?」

「調査中ですが、…警部。ちょっと…」

 長毛のせいだけでなくフックラしている体型のソマリ…若手刑事は、先輩を小声で促して廊下に出る。

「あそこと、あそこ。見えますか?この廊下に入るためには、必ずどっちかのカメラに姿が映るはずですよね?」

「そうだな。…映っていない、と?」

「はい…。様子を見に来る警備員のおじさんが映るまで、どっちのカメラも何も映していないんです」

 ドーベルマンは左右どちらも丁字路になる廊下を見渡してから、天井を見上げる。空調の小さなパネルはあるが、ひとが通れ

る大きさではない。

「室内もそうだが、通風孔は利用できそうなサイズじゃあないな」

「ええ。ボクでなくても無理です」

 ワイシャツの生地を張らせている弛んだ腹をペチンと叩いて応じた若手は、「天井裏なんかの設備は、どこからメンテナンス

するんだ?」と問われると、通路先のカメラ近辺を指し示した。

「あっちのカメラのすぐ前が点検口の出入り口になっています。あそこから入れますが、まあこっちでは降りて来れませんし…」

「あそこから天井裏に侵入する映像も確認できていない、と」

「ええ、おっしゃる通りです」

 眉尻を下げて万歳し、お手上げのポーズを取る太ったソマリは…。

「…これもしかして、「インビジブル」じゃないですか?」

 一際潜められた声で囁かれたドーベルマンが、苦虫を噛み潰したような顔になる。

 インビジブル。四十年ほど前からネット上で囁かれるようになった、出所不明の都市伝説に登場する怪人。

 それは姿を見せない連続殺人鬼で、どんな密室に隠れていても侵入し、被害者を探し出して必ず殺す…とされている。

 動機が何なのが、どんな容姿なのか、確たる説もない曖昧な噂ではあるが、警察機関がこの単語を持ち出すのは意味が違う。

 その都市伝説の住人であるはずの存在が起こしたような不可解な殺人事件が、十年ほど前から幾度も発生している。彼らは都

市伝説に因んで、正体を掴めていない犯人の事を「インビジブル」と綽名していた。

「…本格的な検死はまだだが、死因は首の骨を粉砕された事。成人男性である事も、小銭入れから金が無くなっている事も、一

連の殺人と共通するのは確かだが…」

 「インビジブル」が行なったと目される一連の事件には特徴がある。本人は何の痕跡も残さないが、傾向とでもいうべき特徴が。

 まず、被害者は成人男性である事。「インビジブル」の犯行と目される事件の中で、子供や女性が被害に遭った件は現状一つ

も確認されていない。

 次に、首をへし折られて殺害される事。腕力に優れているのか、それともそういった技術があるのか、被害者はいずれも首を

折られて即死している。

 そして、金銭が持ち去られる事。そもそも殺害は金銭目的であるという推測も出てはいるが、断定はできない。持ち去られる

のは現金のみで、足がつくからかクレジットカードの類が無くなっていた事はない。が、それはともかく金持ちと思えない者も

狙われる点は不可解。

「もし「インビジブル」だとしたら…、二年ぶりじゃないですか?」

 ドーベルマンが唸る。肥ったソマリの指摘通り、「インビジブル」の犠牲者と目される遺体が確認されてからしばらく経って

いる。死亡説や海外逃亡説も囁かれるほど、事件はパッタリと途絶えていたのだが…。

「念頭に入れておいた方が良いかもしれないな。「インビジブルの現場復帰」を…」

 

 そのように、各所で穏やかではない事件が起きている事を知らないまま、タケミは刀利きの河馬の元を訪れて、剣術…先日セ

イウチの動作を見て閃いた新たな斬術について意見を聞いていた。

「そうです。その状態から気持ち膝を沈めて…」

 上下真っ二つに切断されて転がる藁束の横で、少年は河馬に後ろから抱えられる格好で、言われた通りに重心の調整を行なっ

ている。

「「置く」というイメージは、おそらくこの技法で最も重要な事と思います。刀身をそこに置き、重さを残し、先に踏み出した

自らが引っ張り込む…。それが加速性能の向上をもたらしている正体化と」

 借り物の打刀でタケミが「実演」した一閃を、一目で分析し、詳細に解析して語ったジュウゾウは、少年が身体感覚で放った

ソレのフォームを、より適した物へと改良すべくアドバイスを与えていた。

 手の平がマメだらけの分厚い河馬の手に、刀に沿えた手を包むように握られ、角度を微調整して後方に向けた刀身を水平に保

つ。太鼓腹が押し付けられた腰は言われた通りにもう少し落とし、膝の角度もより深くする。

 肩の角度、腕の曲がり、首の位置、その全てを微調整させてから河馬が身を離し…。

「どうぞ」

「ふっ!」

 吐息と共に少年が踏み込む。左肩を前に出す、半身に構えて滑るような動き出しで。

 ゆるやかに見えてすぐさま残像を引き摺る速度まで加速し、前進するその姿勢から、後ろに構えた刀身が引っ張り込まれて加

速し、まるで鞘から抜かれた居合の一刀のように前方へ剣閃を走らせた。

 目にも止まらぬ横薙ぎの一刀と、踏み込んだ足で制動をかける少年の足音から一瞬遅れて、バッと、断ち切られた藁束が宙に

浮き、そして散る。その一太刀は、巻き起こす剣風すらも、刃の遥か後ろに置き去りにしていた。

「…!剣速が上がった…!それに制動が楽になりました…!」

 南エリアで閃き、振るった「逆胴」。これについてのアドバイスを求めたタケミは、ジュウゾウの意見を取り入れた事で劇的

に変化した一刀の鋭さに感動すら覚えた。

「それは何よりです。驚かされるほど独特な技法に面食らいましたが、これは「斬る」という理に、実に適った技かと」

 喜ぶタケミに、ジュウゾウは微笑しながら顎を引く。

 戦闘行為にかけては少年の方が場数を踏んでおり、実戦慣れもしているが、斬る技術と理屈の思索に関しては、腕利きの試刀

師である河馬の方が理解度も深い。

 斬るという工程の術理に明るい刀利きの河馬は、少年が得た閃きをモーションの改善によってブラッシュアップ、補強し、向

上させた。最適の姿勢と動作が整えば、あとは反復練習して精度と切断力を上げてゆくだけ。ペコペコと頭を下げて感謝するタ

ケミに、「ではお茶にしましょう」とジュウゾウが提案する。

 差し入れのチョコとクリームのたい焼きは話を聞きながら平らげたが、中身が固くならない餡子のたい焼きはまだ残っており、

お茶のお代わりも充分にある。

 茶屋をモチーフにした椅子に並んで座り、熱い茶を淹れながら、ジュウゾウは太く穏やかな声でタケミに「祭りは如何でした

かな?」と訊ねた。

「はい!賑やかで、あの、とても…。とても良かったです…!」

 気の利いた言い回しができなくて、恥ずかしそうに苦笑いした少年に、河馬は微笑と頷きで応じる。二つしか違わないのだが、

ジュウゾウの方が未成年とはとても思えない風貌と落ち着き具合なので、傍目には年齢が近いように見えない組み合わせである。

「明日も滞在なさるのでしたら、今夜は海際で花火など見物なさっては如何でしょう?俵一家の皆様にお声がけなされば、きっ

と席を用意して下さいます」

「花火ですか…」

 祭り中は一際盛大な花火が上がると聞いていたタケミは、戻ったらトラマルに話を聞いてみようかと考え…、

―浜の方は夕方から高潮上がるらしいんで、綺麗な浴衣が潮霧で濡れるかもしれませんよ?―

 ふと思い出した。ばったり会った配達人のイリエワニが、そう言っていた事を。

「あ、でも…、今日は海が荒れるかもしれないらしいから…」

「ふむ?そうでしたか。それならば何かあっても困りますので、近付かない方が良いかもしれません」

 店から出ずに忙しく過ごしていたジュウゾウは、そんな予報が出ていたのかと瞬きした。

「天のなさる仕方無き事ですが、せっかくの祭りにも花火にも、折の悪い事です」

「ジュウゾウさんは、お祭りの間もずっとお仕事だったんですか?」

「ええ。特に休暇を取る予定もなく、お客様のお相手を務めさせて頂いております」

 河馬はそう応じたが、内情は少々複雑である。

 刀利きとして有能なジュウゾウは客の人気もあり、目利き役の指名予約がひっきりなしに入る。特に最近は、先の機械人形大

量発生に際した臨時出動以降、予備戦力である引退した潜霧士達からも武装の新調依頼が工房に舞い込んでいる。ジュウゾウも

その腕を見込まれ「瑕者」達から刀の目利き依頼を捻じ込まれており、多忙な日々が続いていた。

 それに加えて、ジュウゾウ本人の生い立ちも問題。大規模流出事故に巻き込まれ、家族を失い、一時は俵一家に引き取られて

育った河馬は、本人にその意思がなくとも「大親分の関係者」と見なされる。この街で生きる者はハヤタとジュウゾウの関係を

知っているので、祭りに繰り出せば何かと優遇されたりおまけされたりする。この扱いが河馬自身にとっては居心地が悪く、申

し訳ない気持ちにさせられてしまう。

 そして、土肥の大親分の関係者…親類に近い一般人となれば、よからぬ事を企む手合いにとっては恰好の標的。自分が無警戒

に出歩く事で一家に迷惑がかかりかねない事を、聡いジュウゾウは幼い頃から理解していた。自分が祭りに繰り出すとなれば、

間違いなく一家の関係者が密かに護衛として動く。そうして余計な仕事を増やし、人手を割かせてしまう、と…。

 だから河馬は来る日も来る日も、職場と自宅のどちらかに籠り、刃を見定めて過ごしていた。年に四度の祭りの間も、その暮

らしが変わる事はない。

「大変なんですね…」

 タケミは勿論そんな事情までは知らない。単純に、仕事が忙しいのだと捉えての感想だったが、

「お気遣い痛み入ります。しかし慣れるとこれが、そう大変でもありません」

 河馬は少年の言葉に会釈を返し、「それにこの通り、差し入れも頂きましたので」と優しく微笑して、たい焼きを取る。

「喧騒は遠くとも、お陰様で祭りを味わえました」

 などと、少年と、少年らしくない河馬が和やかな空気の中で、刀のアレコレについて語らい、タケミが南エリアでの土産話を

聞かせている間に…。

 

「お待たせ致しました。ご案内いたします」

 黒猫が迎えに上がり、ユージンとヘイジが腰を上げる。

「面会予定者が亡くなったって話だったが、どんな客だ?」

「初顔でした。面会内容は土肥での新事業について…起業家の方との事です」

「起業家?新事業ってのは何だ?」

「運送関係についての事業…、とだけ窺っております」

 黒猫に先導され、並んで歩くユージンとヘイジは視線を交わす。

「運送関係…」

「何やらこっちと要件被っとりまへん?…っと。鳴っとりますわ所長」

「おう」

 ユージンが携帯端末を取り出し、届いたメッセージを確認するのと同時に、

「失礼します。…はい。ただいまご案内する所で…、。はい?何と?」

 インカムに触れて通信を受けた黒猫が驚いた声を漏らす。

「花火は中止?はい、会場で?………何と!?」

 一方ユージンは、よく知った相手からのメッセージを読んで眉根を寄せていた。

(何が起きた?急な話じゃねぇか、ええ?自分も面会に捻じ込んでくれだと?)

 

 同時刻、沿岸へ向かう通りの一つ。

「通行規制のようですね。何か事故があったのかもしれません。…おや?」

 救急車のサイレンを聞きつけて急に立ち止まり、耳を立てたトラマルの後ろで、出っ腹をその背中に軽く触れさせるほどギリ

ギリで踏み止まったアルが「おっとっとっス!」と両手を軽く上げてバランスを取る。

「規制っスか?…ホワ~イ?何か穏やかじゃない感じっスね」

 歩行者天国と化している大通り…行く手で交差する道の辺りで、夕焼けに照らされる人ごみは一際密度が高くなり、ざわつい

ていた。

「死んでたって…」

「え~…?」

「首が直角に…」

「打ち上げ会場の…」

 穏やかではない言葉がざわめきの中から聞こえ、トラマルが「申し訳ありません。引き返しましょう」と提案したその時、行

く手の通りで人垣が端に寄り、音が近付いていた救急車が通ってゆく。

「事故っスか。車も入ってないのに起こるんスね~…」

「出し物関係での大道具トラブルや、荷物が崩れたりといった事故は、祭りでも起こります。それに、喧嘩の程度が過ぎて怪我

人が出る事も…。楽しいばかりではないというのが寂しい現実です。それはともかく、わざわざトラブルに近付く事はありませ

んので、花火会場の見学は諦めましょう」

「う~っス…」

 顔が利くトラマルの口利きで、関係者として打ち上げ花火の舞台裏準備を見学できるはずだったアルは、残念そうに口を尖ら

せた。

 そんなふたりの少し後ろの方を…、

「観光ワニ~♪観光ワニ~♪貴方の街にこんにちワニ~♪」

 アロハシャツを着た陽気そうな巨漢のクロコダイルが、フラッペのカップを片手に通り過ぎて行った。

 

「偶然…って考えるのは、ちょ~っと危険かもですぜ?」

 入った報告が纏められているタブレット片手に、画面を指でなぞってスクロールしながらビントロングが呟く。

 面会を求める客が途切れた休憩時間、控室にしている小さな和室にどっかと胡坐をかいた大猪は、あえてぬるく淹れた茶を大

ぶりな湯飲みでがぶ飲みし、一息ついてからナガオに目を向けた。

「花火の打ち上げ会場で見つかった死体、これ死亡事故じゃないです。どうやってかは判りませんけど、関係者しか入れないは

ずの花火打ち上げスペースで、たまたま係員の目が向いて無かったほんの十数秒の間に、入り込んだ観光客が転んで首の骨を折

るとかフツーは無いですよ。…これ単体なら起こり得るけど、「他と合わせて考えたら絶対にない」」

 断言したナガオがハヤタに向けたタブレットの画面には、首の骨が完全に分離する形で折れ、右耳を右肩につけた格好でうつ

伏せになっている若い男の死体が映されていた。打ち上げ花火会場の管轄担当をしている一家の関係者が送って寄越した、警察

が介入する前の第一報である。

 ビントロングもまたムラマツ同様、日替わりで各所を見て回る巡回を行なっていたのだが、異常事態と判断してハヤタの元に

参じていた。トラマルが客の案内に充てられているため、臨時の事務役だけでは手が足りないだろうと。

「ホテルで三人、路地裏の排水路で一人、花火会場で一人、…七時間足らずで五人も殺されて、しかも死体を隠すでもなく放置。

ガイシャに共通してる点は…」

「ウヂど何らかの接点がある、ってドゴだな」

 大猪が顎の下を撫でて考え込む。ここまでに死体で見つかった者は、ハヤタとの面会を希望していた者や、直営の湯宿に入る

事になっていた業者の作業員など。花火会場で見つかった死体だけはまだ判らないが、そちらも一家が手配し人手も割いた花火

会場での事件なので、無関係とは言い切れない。

「トラマル呼び戻しますか?」

 ナガオが同僚にして大親分の側役の名を上げる。偶然とは思えない事件がここまで続いたならば、一家への攻撃の一環である

事も視野に入れておかなければならない。霧の内外問わず、ハヤタ自身を除けば一家最強の腕利きを大親分の傍につけるのは、

最も確実な安全策だった。が…。

「まだ良い。狙いが読めねぇがらな」

 ハヤタはこれを採用しなかった。

 大猪は考える。一家の誰かや自分を狙うのであれば、警戒を強いるようなアクションを起こすのは不自然。逆に、失敗によっ

て死体が残ったような相手であれば取るに足りないのだが、殺しの手口の鮮やかさに鑑みて、それは無いと断言できる。

 相手の目的も判らない今、一ヵ所に集中するよりも手が分散している方が、不測の事態へ対応し易く思えた。

「大親分、言いたくはないですが…」

 ビントロングが困り顔になる。

「匿った「客人」が、厄ネタだったって事は?」

 大猪は難しい顔で唸るばかりで、返事ができなかった。

 

「入れるのはこの辺りまでですが…」

 歩行者天国となっている通りの前で、ハンドルを握るタクシー運転手が告げると、後部座席の人影は「結構、ここで降ろして

くれ」と応じた。

 進入規制が敷かれた通りの手前で路肩に寄せ、ウインカーを上げたタクシーが停まる。

 開いた後部ドアから降り立ったのは、若くない獣人。

 祭りの喧騒に場違いな、仕立ての好いダブルのスーツを着込んだ恰幅のいいアライグマは、険のある鋭い目で街路灯やフェン

スに飾り付けられた赤提灯類を一瞥し、軽くため息をついた。

(さて、大親分と直談判する羽目になったが…、果たしてあの遣り手が簡単に折れるかどうか)

 法律屋マミヤが土肥に入る。だが流石のアライグマも、全く関係のない件で土肥が大騒ぎになるタイミングで大親分との交渉

に出向いてしまった事は、この段階ではまだ察せていなかった。